膜分離活性汚泥処理装置による 原子力プラント洗浄排水処理

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カテゴリ: 第9回
1. はじめに
原子力発電所において、管理区域内で着用した衣服等 の洗濯の際に発生する放射性廃液及び管理区域退出時に 使用した手洗い水やシャワー水は、洗浄排水(洗濯排水) 処理系統にて処理される。これらの廃液を処理する方式 として、これまで蒸発方式、膜ろ過方式(RO, UF)、活 性炭ろ過方式などが多くのプラントで使用されており実 績も多いが、ランニングコストが高い、二次廃棄物発生 量が多いなど、改善すべき課題を有している。そこでこ れら課題を解決する新しい洗浄排水処理方式として、一 一般産業排水処理や下水処理で実績を有する活性汚泥方式 の適用を着想した。更に膜による固液分離を行うことに より省スペース化を図る膜分離活性汚泥方式として設備 化を行った。更に、従来の方式を採用していた既存の設備について、 本方式を採用した膜分離活性汚泥処理装置への設備更新を行い、現在実運用中である。本装置への更新により、 従来の装置と比較して保守性の改善、作業環境・安全性 の向上、ランニングコスト及び二次廃棄物発生量の低減 において大きな改善効果が見込まれている。 - 本論文では、本装置の概要、及び原子力プラントへの 適用状況について報告する。
2. 処理方式の選定
2.1 廃液処理方式に関する検討 新しい処理方式を選定するに当たり、現在適用されて いる処理方式の抱えている問題点を抽出し、その問題を 解決できる方式について検討を行った。検討の範囲は、 現在原子力発電所に適用されている方式だけではなく、 一般産業の排水処理に用いられている方式についても対 象とした。2.2 原子力発電所における処理方式現在原子力発電所で使用されている放射性廃液処理設 備の代表例を Tablel に、各方式における課題を Table2 に示す。適用事例が多い処理方式として、蒸発方式、膜ろ過方 式、活性炭処理方式が挙げられる。蒸気を用いて廃液を325Table1 The typical examples of the liquid radiation waste disposal system in nuclear power plantPlantPWRBWRSystem classification Equipinent Drain Floor Drain Laundry, Hand and Shower Water? Evaporating and Concentrating System ? Evaporating and Concentrating System ? Reverse Osmosis System ? Evaporating and Concentrating System・ Hollow Fiber Membrane Filter ? Evaporating and Concentrating System ? Centrifugal De-watering System by the Help of Activated Carbon ? Evaporating and Concentrating SystemTable2 Disadvantages of preexisting liquid radiation waste disposal system SystemDisadvantage Evaporating and Concentrating System ・Alot of steam is required ⇒ High Running Cost? A corrosion-resistant material is used High Equipment Cost Reverse Osmosis System? Periodical exchange of the membrane is required by getting the membrane pore plugged → High Running Cost・ A lot of concentrated water is generated → A Large Amount of Secondary Waste Generating Activated Carbon De-watering System Using a lot of activated carbon→ A Large Amount of Secondary Waste Generating加熱・蒸発させ処理水を得る蒸発方式は、加熱源として、 の使用がとなるという問題を解決できる可能性のある処 多量の蒸気が必要となり、また、蒸発させることにより 理方法として、一般産業排水処理や下水処理にて多数実 廃液が濃縮されるため、耐食性材料を使用する必要があ 績のある“活性汚泥方式”を選定した。更に、その中で る。また、膜ろ過方式の一つである逆浸透方式では、膜 も膜によって固液分離を行うことにより沈降槽を省くこ の目詰まりが大きな問題であり、比較的短期間で膜交換 とができ、設置面積を低減できる“膜分離活性汚泥方式” が必要となり、ランニングコスト増の原因となっている。 を選定した。 更に、濃縮廃液の発生量の多さも課題となっている。活3. 膜分離活性汚泥方式 性炭処理方式では、処理後大量の使用済活性炭が発生し 廃棄物となるため、二次廃棄物処理費用の増加に繋がる。 活性汚泥は、主としてバクテリア (細菌類)、原生動物、後生動物などから構成されている微生物群集であり、活 2.3 一般産業排水処理における処理方式性汚泥法とはこれら微生物群集の代謝機能を利用して排 排水処理の方法として、生物処理と物理・化学処理の2 水を浄化する方法である(Fig.1 参照)。 種類に大別することができる。生物処理は主に排水中のOrganic matterCarbon dioxide + water 有機物[BOD(生物化学的酸素要求量),COD(化学的酸(detergent, dirt)(Oxidative decomposition 素要求量)]を除去する際に用いられるが、物理・化学的of organic matter) な操作も必要となる。物理・化学的処理単独ではなく生 物処理と併せたプロセスは、比較的安価なため広く浄化 槽や下水処理などに適用されている。 物理・化学的処理方式としては、薬品やオゾンを添加OxigenMultiplication of して有機物を処理する促進酸化法、活性炭や樹脂を用い (air supply)activated sludge た吸着法などがある。これらの方法は、有機物や有害物Fig. 1 The drain purification principle of activated sludge 質を処理するための薬品等が多量に必要となり、ランニ 2.3 一般産業排水処理における処理方式排水処理の方法として、生物処理と物理・化学処理の2 種類に大別することができる。生物処理は主に排水中の 有機物[BOD(生物化学的酸素要求量),COD(化学的酸 素要求量)]を除去する際に用いられるが、物理・化学的 な操作も必要となる。物理・化学的処理単独ではなく生 物処理と併せたプロセスは、比較的安価なため広く浄化 槽や下水処理などに適用されている。物理・化学的処理方式としては、薬品やオゾンを添加 して有機物を処理する促進酸化法、活性炭や樹脂を用い た吸着法などがある。これらの方法は、有機物や有害物 質を処理するための薬品等が多量に必要となり、ランニ ングコストが高くなるため微量の有害物質を処理する場 合に用いられている。2.4 処理方式の決定 ・廃液処理方式について検討を行った結果、現在の問題 点であるランニングコストが高くなる、二次廃棄物の発 生量が多くなる、多量の蒸気が必要である、耐食性材料3.1 省スペース化の実現 一般的な標準活性汚泥法の処理フローを Fig.2 に示す。 この方式では、まず原水(排水)がばっ気槽へ導入され る。ばっ気槽は空気によるばっ気(空気を送り液中に酸 素を供給する事)を行っており、ここで有機物は微生物 により分解され、最終的には二酸化炭素と水になる。ば つ気処理の後、汚泥を含んだ処理水は沈降槽へ送られ、326汚泥と処理水は自然沈降によって固液分離される。処理 水は汚泥を含まない上澄み液として得られ、沈降した汚 泥は循環ポンプによりばっ気槽へ返送される。また、ば っ気槽での汚泥濃度を一定に保つため、また、有機物の 分解過程で増殖した汚泥のうち過剰分は余剰汚泥として 引き抜かれる。このような標準活性汚泥法では汚泥と処 理水の分離を自然沈降で行っているため、大きな沈降槽 が必要となる点がデメリットの一つとなる。このデメリ ットを解決する手段として、膜分離活性汚泥法が挙げら れる。 膜分離活性汚泥法のフロー図をFig.3 に示す。この 方式により装置のコンパクト化を図ることが可能となる と同時に、膜を通してろ過するためばっ気槽内の汚泥濃 度を高く維持することが可能であり、その分処理能力も 向上する(参考文献[2]参照)。更に、処理水中の浮遊系濁 物も膜ろ過により完全除去すると共に、連続処理するこ とが可能となる。Sedimentation Separation TankTreated WaterActivated Sludge(B)Treating TankSludge Discharge Fig.2 Standard activated sludge processSeparation MembraneTreated Water(B)・11-1Activated Sludge Membrane Separation Treating TankFig.3 Membrane bio reactor3.2 安全かつシンプルなシステム構成 膜分離活性汚泥法のシステム構成を Fig.4 に示す。 洗浄排水は膜分離浄化槽で活性汚泥の働きにより有機 物等が分解除去される。また、浄化槽内に設置された分Laudiy drain (organic substance tradioactive substance)iAeration tank(Treated water)Monitor tank_Release..iActivated sludgeTreated water pumpSeparation membrane(Excess sludge) Blower (air supply)H > IncinerationDehydrator | Replace range ....Sludge tank Sludge punp-.-.Fig.4 System Configuration of membrane bio reactor離膜により固液分離が行われ、膜ろ過水として処理水が 得られる。膜分離浄化槽では、洗浄排水中の有機物分解 に伴い汚泥が徐々に増加し、増加(余剰)分が汚泥タン クに抜き出される。汚泥タンクの汚泥(余剰汚泥)は汚 泥ポンプにより汚泥脱水機に供給され、減容化された後、 焼却炉に投入され焼却処理される。また、ばっ気により 汚泥に酸素を供給すると共に、気泡による膜表面の洗浄 を行い、膜の目詰まり防止を図っている。 -- 以上の通り、Fig.4 に示した本設備のシステム構成は非 常に簡素であり、加圧・昇温する設備もなく常温・常圧 での運転が可能であるため、設備点検・部品交換頻度が 少なくランニングコスト低減につながると同時に安全か つ運転の容易な設備である。3.3 二次廃棄物量の低減 本設備の主な二次廃棄物発生源としては、有機物を分 解することによる活性汚泥の増殖分のみであり、従来の 設備と比較して二次廃棄物発生量の低減を実現した設備 である。各原子力発電所における実廃液試験、及び社内試験の 結果を基に、活性汚泥方式において発生する二次廃棄物 量の算出を行った。また、併せて既存方式である蒸発方 式、活性炭ろ過方式についても二次廃棄物量を算出し比 較を行った。結果を Fig.5 に示す。10,000m~年の洗浄排水 を処理すると仮定した場合、本方式の二次廃棄物発生量 は、焼却処理前の比較(ドラム缶換算)で蒸発方式の約 1/8、活性炭ろ過方式の約 1/20、逆浸透力式の約1/25 とな り、本方式は既存方式と比較して二次廃棄物を大幅に低 減できる見通しを得た。これによって、廃棄物処理費の 低減につながりランニングコストの低減にも寄与する。Appxox. 556 cans/yApprox.472 cars/yApprox. 167 cans/yAprox. 20 canszy Corretrated WaterActivated CarbonConcentrated WaterActivated ShigeActivated ShigeProcessEvaporatingProcessActivated Carbon De-watering ProcessReverse OsmosisProcessFig.5 Comparison of the amount of secondary waste generation(Conversion to Drum can)32713.4 放射性物質除去性能 洗浄排水中の放射性物質についてはそのほとんど (90%以上)が粒子状であるため、浄化槽内に設置され た膜により除去可能である。従って、洗浄排水中の放射 性物質をほぼ除去可能であり、安定した放射性物質除去 性能を発揮することができる。実際に原子力発電所の洗 浄排水を用いて放射性物質除去性能を確認した結果を Fig.6に示す。各種放射性物質濃度の洗浄排水(Run1~8) に対し本方 式にて処理を行った結果、処理水の放射性物質濃度は全 て検出限界以下となり、上述の原理にて放射性物質を除 去可能であることが確認された。なお、洗浄排水(Runl ~8) については、本方式による放射性物質除去性能を確 認する目的で高放射性物質濃度の廃液を作成したもので あり、通常の廃液放射性物質濃度は 10~Bq/cm' (N.D.) レ ベルである。1902/09/26Untreated waterRadioactive Concentration[×10Bq/cn'AILN.D.Treated water1 2 3 4 5-1526_78Run No. Fig.6 Result of radioactive material removal performance4. 原子力プラントへの適用関西電力(株)大飯発電所では、これまで従来の方式に て洗浄排水の処理を実施してきたが、設備の更新に合わ せ、安全性、保守性、経済性及び運用性に優れた装置の 導入について検討し、国内原子力発電所で初めて膜分離 活性汚泥方式を用いた洗浄排水処理設備を導入した。 2009年10月以降、本装置は実運用を開始しており、洗浄 排水浄化性能、放射性物質除去性能とも計画通り達成さ れ、処理水中濃度は十分に低く良好な水質を維持してい る。また、関西電力(株)では、その他原子力プラントへ も本装置の導入を計画(Table3 参照)しており、計画的 な保全を実施中である。本装置の導入により、これまでのランニングコスト、 二次廃棄物発生といった課題が解決されると共に、従来 の装置と比較して、保守性の改善、作業・安全性の向上Table3 Introduce plan to Nuclear Power Plant of MBRPlant/Unit Operation start note Ohi 3/42009.10 Ohi 1/22011.5 Takahama 1/2 |2012.6 Takahama 3/42013.9 | ongoingにおいて大きな改善効果が見込まれており、今後の原子 カプラントの洗浄排水処理設備の保全に大きく寄与する と考えられる。また、2011年11月に、日本原子力技術協会による関西 電力(株)大飯発電所のピアレビュー(原子力発電所の安 全性及び信頼性の向上を図ることを目的として実施され る。併せて、レビューを受ける原子力発電所が有する長 所を原子力産業界に紹介し、他の発電所を支援すること を目的とする。)が実施され、保修関連の長所として本装 置の採用が取り上げられており、上記同様、保守性・作 業性等各面において、本装置の導入による改善効果が見 込まれると紹介されている。参考文献 [1] 小華和治、室垣健太、小川尚樹、金森俊貴、井上照夫、福田直規、田邉哲也“原子力発電所放射性廃液 処理への生物処理技術(膜分離活性汚泥処理方式) の適用”、日本原子力学会「2010 年秋の大会」、北海道、2010、pp.776. [2] 井出哲夫、“水処理工学”、技報堂、 2001、pp.268.(平成24年6月15日)328“ “膜分離活性汚泥処理装置による 原子力プラント洗浄排水処理“ “塚本 雅昭,Masaaki TSUKAMOTO,小華 和治,Osamu KOHANAWA,衣笠 敦志,Atsushi KINUGASA,小川 尚樹,Naoki OGAWA,室垣 健太,Kenta MUROGAKI
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