微小試験片による疲労寿命評価技術の開発

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カテゴリ: 第9回
1. 緒言
原子力機器材料に対しては、研究炉などを使った中性 子照射損傷の影響評価のため、微小試験片による強度・ 寿命評価試験技術が適用されることがある。また、ボイ ラーやタービンなどの高経年化機器に対しては、供用中 の実機部材から採取した微小試験片による余寿命評価な どが検討されている。微小試験片を用いた強度・寿命評価試験においては、 いわゆる標準試験片を用いた試験に比べ要求される精度 が高いため、試験片のサイズ効果や形状効果の理解に基 づく試験片最適設計や、ひずみ計測・制御技術などを中 心とした試験装置の最適化などが必要である。そこで本 研究では、標準試験片と同等の疲労寿命の評価が可能な 微小疲労試験技術の開発を目的とし、種々のサイズ・形 状を有する疲労試験片を用いて微小疲労き裂成長挙動や 疲労寿命を評価するとともに、微小試験片用の疲労試験 装置の開発を実施した。
2. 疲労寿命に及ぼす試験片サイズ・形状効果
標準試験片と同等の疲労寿命の評価が可能な微小疲労試験片の最適化を目的とし、疲労寿命に及ぼす試験片の サイズおよび形状の影響を調査した。供試材は、核融合炉用構造材料の低放射化フェライト/ マルテンサイト鋼(F82H、Fe-8Cr-2W、結晶粒径75 um) である。低サイクル疲労試験は、室温大気中において両 振引張圧縮のもと実施した。疲労試験片としては、標準 試験片として平行部の直径が4mm および7 mm の平滑丸 棒試験片(以下、それぞれ RB-4 および RB-7)、微小試験 片として平行部の直径が1mm の平滑丸棒試験片(以下、 RB-1(図1参照))と最小断面直径が 1.25 mm の砂時計型 試験片(以下、HG-1.25(図1参照))を使用した。新品で3.41| (8.7)24200+t25.4±0.052.62±0.051.25±0.02200481SO0710B90図1 RB-1(上)および HG-1. 25 試験片(下)の0.05200481//1.52±0.02| 1520me図1 RB-1(上)および HG-1. 25 試験片(下)の形状432 -F82H-IEA LCF at R.T. in airTotal strain range, A? [%]100HG-1.25 ●RB-1 A RB-4, -70.110010000001.E+03 1.E+04 1.E+05 | Number of cycles to failure, No図2 RB-4、RB-7、RB-1 および HG-1.25 試験片の疲労寿命RB-4 および RB-7 試験片に対する低サイクル疲労試験 は、30kN のロードセルを有する電気機械式試験装置(((株) 東伸工業製) を用いて実施した。試験は全ひずみ範囲 0.51.5%、ひずみ速度 0.1/s にて実施した。軸方向ひずみは、 ひずみゲージ型押し当て式伸び計にて計測・制御した。 - RB-1 試験片に対する低サイクル疲労試験は、1 RN のロ ードセルを有する電気機械式試験装置 (株)神戸工業試験 場製) を用いて実施した。試験は全ひずみ範囲 0.4-1.2%、 ひずみ速度 0.1%s にて実施した。軸方向ひずみは、ひず みゲージ型押し当て式伸び計にて計測・制御した。 - HG-1.25 試験片に対する低サイクル疲労試験は、2 kN のロードセルを有する電気機械式試験装置(株)インテス コ製) を用いて実施した。試験は全ひずみ範囲 0.4-3.0%、 ひずみ速度 0.04ws にて実施した。非接触のレーザー変位 計にて試験片最小断面の径方向変位を計測・制御し、軸 方向ひずみは、ASTM E606[1]のひずみ換算式を用いて導 出した。図2に、RB4、RB-7、RB-1 および HG-1.25 試験片の 疲労寿命を示す「2,31。図中の実線は、標準試験片(RB4 および RB-7 試験片)の結果に対して Manson-Coffin則に 基づき導出した構成曲線である。また、図中の点線は、 その寿命の倍半分(Factor of 2)の範囲を示す。HG-1.25 試験片は、ひずみ範囲の高い条件では標準試験片よりも わずかに長寿命の傾向を示し、ひずみ範囲の低い条件で は標準試験片よりも明らかに短寿命の傾向を示した。一 方。 RB-1 試験片は、標準試験片(平滑丸棒型試験片)とF82H-EA LCF at RT in airSurface crack length, 2a [mm]Hermoreakeshnal1| ■ RB-1, Act%3D1.0% DHG-1.25, Act=1.0%● RB-1, Act=0.8% OHG-1.25, Aet=0.8%| RB-1, Act%3D0.5% AHG-1.25, Act=0.5% 10.01 - 0 _ 5000 10000 15000 20000 25000Number of cycles, N 図3 RB-1 および HG-1. 25 試験片におけるき裂表面長と繰返し数の関係の試験片サイズの違いによる疲労寿命の違いは見られな かった。 1微小試験片の低サイクル疲労下における微小き裂成長 挙動の観察のため、RB-1 およびHG-1.25 試験片について、 疲労寿命の 10~30%毎に試験を中断し、最小断面付近表面 のレプリカを採取し、き裂表面長を測定した。図 3 に、 き裂表面長と繰返し数の関係を示す[4, 53. 塑性ひずみが 比較的小さい全ひずみ範囲 0.5%および 0.8%において、約 0.1 mm の微小き裂の発生が認められた繰返し数(以下、 微小き裂発生寿命)は、HG-1.25 試験片に比べRB-1 試験 片の方が長かった。これは、試験片形状効果によるもの であると考えられ、HG-1.25 試験片では、特に塑性ひずみ の小さい全ひずみ範囲 0.5%および 0.8%の条件では応力 集中の影響が顕著に表れ微小き裂発生寿命が短くなり、 塑性ひずみが比較的大きい条件である全ひずみ範囲 1.0% ではその影響が比較的小さかったと考えられる。一方で、 き裂進展速度の指標となる図中の近似曲線の傾きは、試 験片形状に関わらず顕著な違いが見られなかった。した がって、試験片形状に関わらず、各試験条件でのき裂進 展過程における試験片形状の影響は小さいと考えられる。以上の結果より、弾性ひずみが支配的な比較的ひずみ 範囲の小さい条件において、砂時計型試験片が標準試験 片に比べ疲労寿命が短かった主たる要因としては、応力 集中による微小き裂発生の促進が考えられる。したがっ て、試験片サイズ・形状の影響が少なく、標準試験片と 同等の疲労寿命を評価するには、平滑丸棒型の形状を有433(b)Sensomete Sing strain gattatoExtensometer using ALO. rod and asemdisplacement gaugeSmall SpecimenLaser ExtensometerExtensom using micro lugar displacemen gauges図4 微小疲労試験装置用変位計測システム (a)ひずみゲージ式(接触式)、(b) レーザー式(接触式)、(C) レーザー式(接触式)、(d) レーザー式(非接触式)する RB-1 のような試験片が有効であることが確認され た。3. 微小試験片用疲労試験装置の要素技術開発微小試験片用疲労試験装置の開発の一環として、種々 の微小試験片用の変位計測システムを開発した。図4に、 それらの外観写真を示す。図4(a)は、ひずみゲージを付した治具を平滑丸腰 試験片の平行部に直接固定し、軸方向変位を測定するも のである。ひずみゲージを利用しているため、精度や計 測安定性は比較的高いものの、高温試験への拡張性に技 術的課題を有する。図4(b)は、平滑丸棒型試験片の高 温大気中試験への適用を想定し開発したもので、試験片 の平行部にアルミナ製の細径長尺ロッドを押し当て、口 ッドの先端の変位をレーザー変位計で測定することによ り試験片の軸方向変位を測定するものである。前述のひ ずみゲージ式に比べ若干精度は低いものの、室温試験と 同等の精度が高温試験においても得られる特徴を有する。 図4(c) は、近年開発された I mm の測定精度を有するレ ーザー変位計を適用したものである[6]。平滑丸棒型試験 片の平行部に治具を固定し、その治具の変位をレーザー変位計で測定する。室温試験における精度は非常に高い ものの、(a)と同様に高温試験への拡張性に技術的課題 を有する。図4 (d)は、砂時計型試験片の高温大気中試 験への適用を想定し開発したもので、レーザー変位計に より、砂時計型試験片の最小断面直径の変化を測定する ものである。非接触式であるため、例えば真空チャンバ 一外部から変形を測定できることから、高温真空中試験 が可能である。測定した径方向変位は ASTM E606[1]に従 い軸方向変位に換算して評価するが、その換算式の妥当 性については議論の余地が残されている(例えば、7。 1. 本研究では、主に原子炉本体やその周辺機器など、高 温機器の疲労寿命評価を想定しているため、高温試験の 実施が必要である。また、微小試験片は表面酸化などの 影響が標準サイズの試験片に比べ大きいと考えられるた め、真空中での試験が望まれる。それに対し、現状開発 した変位計測システムには前述のとおりそれぞれ技術的 課題を有するため、今後さらなる改善が必要である。参考文献[1] ASTM E112-85, Standard Methods for Determining theAverage Grain Size, Annual Book of ASTM, 1986, pp.434[2][3]227-290.S. Nogami, Y. Sato, A. Tanaka, A. Hasegawa, A. Nishimura, H. Tanigawa, “Effect of specimen shape on the low cycle fatigue life of reduced activation ferritic/martensitic steel,” J. Nucl. Sci. Tech., Vol. 47, No. 1, 2010, pp.47-52. S. Nogami, T. Itoh, H. Sakasegawa, H. Tanigawa, E. Wakai, A. Nishimura, A. Hasegawa, “Study on fatigue life evaluation using small specimen for testing neutron irradiated materials,” J. Nucl. Sci. Tech., Vol. 48, No. 1, 2011,pp. 60 64. S. Nogami, Y. Sato, A. Hasegawa, “Fatigue life assessment based on crack growth behavior in reduced activation ferritic/martensitic steel,” J. Nucl. Sci. Tech., Vol. 47, No. 5, 2010, pp. 457-461.[4][5]S. Nogami, Y. Sato, A. Hasegawa, H. Tanigawa, M. Yamazaki, M. Narui, “Effect of specimen shape on micro-crack growth behavior under fatigue in reduced activation ferritic/martensitic steel,” J. Nucl. Mater., Vol. 417, 2011, pp. 131-134. A. Nishimura, S. Nogami, E. Wakai, “A new fatigue test device with micro laser displacement gages for miniature specimens,” J. Nucl. Mater., to be published. 森野数博、西谷弘信、西村太志、別府忠、“引張圧縮 低サイクル疲労試験片形状の問題点とその対策”、日 本機械学会論文集(A編)、Vol. 60, No.571, 1994-3, pp. 92-99.(平成24年6月21日)435,“ “微小試験片による疲労寿命評価技術の開発“ “野上 修平,Shuhei NOGAMI,西村 新,Arata NISHIMURA,藤原 昌晴,Masaharu FUJIWARA,日坂 知明,Tomoaki HISAKA
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