特集記事「AIと保全」(5) 原子力プラントにおけるサイバーフィジカルシステム実現の取組

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特集記事「AIと保全」(5)
原子力プラントにおけるサイバーフィジカルシステム実現の取組
東芝エネルギーシステムズ株式会社

古川 智昭 Tomoaki FURUKAWA
1.はじめに
東芝は 2018年 11月に 2019~ 23年度事業計画「東芝 NEXTプラン」を発表した。この中で、 CPS企業を目指し、サイバー技術とフィジカル技術の融合で社会課題の解決に貢献するとの経営方針を示した。この方針を受けた原子力事業領域での CPSの取組について紹介する。
2.サイバーフィジカルシステム(CPS)
サイバーフィジカルシステム (CPS:Cyber Physical System)の概念図を図 2.1に示す。

図2.1 サイバーフィジカルシステム(CPS)
サイバーフィジカルシステムでは、フィジカル:我々が住んでいる世界サイバー:クラウドや人間の脳1960年代から約 60年に渡って供給し、お客様の望む価値を実現してきた。これからは、フィジカル領域から収集したデータを、東芝ならではのディジタル・ AI技術、圧倒的性能のコア・コンポーネント技術によりソリューション、付加価値創出を行うサイバーフィジカルシステムを実現し、お客様へさらに価値を提供していく。
3.原子力への CPS適用
東芝ではフィジカル領域である原子力施設に、構造物、機器、監視制御装置の他、補修・検査技術を数多く提供してきた。このフィジカル領域の製品、技術に関する設計、製造、運用までのライフサイクルに渡る情報、ツールを多く保有している。これらの情報、ツールを活用して、再稼働支援、設備利用率向上、寿命延長、出力向上といった原子力施設の価値向上の他、事業者の保全・業務支援を優先的に取り組んでいく。

をイメージしている。
実世界であるフィジカルから様々なデータを吸い上げ、クラウド・人間の脳に相当するサイバーにより理解・分析を行い、実世界にソリューション、付加価値をフィードバックするものがサイバーフィジカルシステムである。
東芝はこれまで様々な製品を世の中に送り出してき
図3.1 原子力プラントで目指す姿
図 3.2に現状の状況を CPSのサイクルに重ねて示す。 CPSサイクルを構成する設計資産、ツールは一通り揃っているかの様に見える。
フィジカル領域である製品は、一部ディジタル化されているが、アナログのものが多く、情報もディジタルデー

た。原子力事業においても原子力施設関連の製品をタではなく、目視確認のみ、もしくは紙での記録のみの
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場合もある。センシングデータについては、事業者の資産であり、必要な際に必要なデータのみを入手しており、プラント価値向上のために自由に活用できていない。
サイバー領域については、紙、イメージで保管された設計情報、設備情報がまだ多い。

図3.2 原子力における CPSの現状

この様なツール、情報の活用方法を改善し、 CPSサイクルを更に効率的に運用する余地は十分あると考えている。
ンフラの再構築も行っていく。
ここまでで東芝原子力の CPSの取組について紹介した。次章にて、 2018年度保全セミナーのテーマである「AI導入による保全の高度化」について、 CPSに関連した事例をいくつか取組中事例も含め紹介する
4.AI技術の適用例
4.1 異常早期検出
異常早期検出の目的は、プラント機器の異常兆候を早期に検知し、オンライン保守を行うことによる計画外停止の抑制、機器状態に応じた点検による定検の短縮である。異常兆候を早期に検知し、東芝のプラント技術により処置を提案、実施することを目指している。プラント、機器データより異常兆候を早期に検知することは、既に東芝以外でも実施されている。
東芝では、異常兆候検知後の処置が重要と考えており、 AI技術を活用した異常の早期検知、原因特定、処置案の提供を目指している。
CPSで目指す姿と、現在の状況とのギャップを考慮し、課題、解決方針、進め方について図 3.3に整理した。

図3.3 CPS実現に向けた課題と取組み
課題として、・アナログ情報が膨大・ディジタルデータが上手く活用されていない・情報がサイロ化され有効活用されていない

と設定し、解決方針として・活用できるデータから優先的に整備
・AI,IoT技術を適用しデータを効率的に活用・社内で共同利用できるプラットフォームを構築と設定し取組みを開始した。
整備する情報、データの対象としては、軽水炉プラントの再稼働支援に必要な ROP(Reactor Oversight Process)関連、点検データ、保全データをとし、並行して社内イ

図4.1.1 異常早期検出


4.2 検査結果の評価への適用
東芝では、探傷結果を画像で得られるフェーズドアレイ UTをシュラウドの検査に適用してきた。これまでは検査画像を人間系で評価してきたが、評価に時間が掛かることから、 AI技術を適用し、検査員の負担低減、評価時間の短縮を目指し、研究を進めている。
シュラウドのフェーズドアレイ UTの検査結果への適用例について以下に示す。
図 4.2.2にシュラウドの探傷結果を示した B-SCOPE画像を示す。
図 4.2.2のように B-SCOPE画像にはノイズが多く、欠陥有無は専門家でないと正確な判定が難しい。そこで、欠陥を含む部分や含まない部分など特徴的な部分を AI技術 CNN(Convolution Neural Network)手法により学習さ

図4.2.1 検査結果評価支援

図4.2.2 シュラウド PAUT探傷結果(B-SCOPE画像)
せ、欠陥の有無や位置を自動判定できるシステムを開発している。本技術が確立すれば、検査員の負荷低減および検査データ評価時間の大幅な短縮が実現できる。


4.3 電気系アイソレーション計画の作成支援
定期検査の点検や改造工事等において、安全処置のたそのためアイソレーション計画作成においては、・図書の確認、経路探索、評価に多くの時間が必要・専門知識と経験を有した技術者のスキルに依存の 2つの課題がある。この 2つの課題を解決するために、経路探索に AI技
術を適用し、電気系アイソレーション計画作成の効率化に取り組んでいる。電気系アイソレーション計画は以下のプロセスで作成する。①プラント内の電気回路図を読み込み、通電経路、及びその ON/OFFパターンを学習②経路の学習結果から、隔離箇所、隔離ノウハウ(条件)に合致した経路を探索・抽出③隔離を行う場所の抽出を行い、アイソレ計画作成

めに電気を遮断するためのアイソレーション(隔離)を行
う。このアイソレーション計画は①関連する電気回路図やソフトウェア図を収集②対象となる回路を人間系で識別③遮断する箇所を人間系で選定、処置を決定④その結果を安全処置リストで手順化⑤電気回路図やソフトウェア上で最終確認の手順で作成している。

図4.3.1 電気系アイソレーション計画作成支援の目的
図4.3.2 AI技術によるアイソレーション計画作成
数千枚の図面、多くの経路モデルから最適な経路を抽出することになるので、 AI技術の適用により作成時間を大幅に短縮することが可能である。


4.4 紙図面のデータ化
エンジニアリングツールとして、 CAD、データベースの導入が進んできているが、紙の図書、図面はまだ多く存在する。特に電気回路図は数千枚と物量も多く必要な情報を検索するのに多くの時間を要している。
東芝では図面情報を有効に活用するために、紙の図書、図面の情報化を進めている。
紙の図書、図面の情報化に、 AI技術により読取り精度を向上させた OCR技術を活用している。 OCRを活用した商品は数多くあり、適用を試みたが、読み取り精度に影響を及ぼす下記のような課題があった。
・紙の図書、図面の汚れ、文字潰れ等、不鮮明
・書式(手書き、機械文字)が不統一
・読み取り位置の図書発行時期による相違

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これらの課題を解決するために、 AI技術を適用した OCRを活用することとした。図 4.4.1に情報読み取りの流れを示す。

図4.4.1 AI技術を適用した情報読み取りの流れ

図書、図面上の文字を、学習済みモデルを使った OCRにて文字認識を行う。認識した結果を確認し、正しく読み取れていればそのままデータ登録。間違って読み取っていた場合は、その場で修正しデータ登録。並行して修正した内容を学習し、学習済みモデルに反映する。この様に読み取り精度の向上を図り、古い図面、手書き図面の情報化の効率を向上させる。

4.5 不適合の分析
新検査制度の開始に伴い、 CAP(Corrective Action Program)プロセスを構築し、適切に運用し不適合の未然防止を図ることが求められている。

図4.5.1 CAPプロセス

CAPプロセスの運用においては、従来の設備、運用の不適合情報に加え、監査やインタビューでの所見、協力会社からの問題点情報も対象となり、これらは、コンディションレポート (CR: Condition Report)として収集され、情報量が大幅に増加する。収集した不適合情報は、速やかに是正処置が行えるように、スクリーニングを行
うことが必要になる。また、さまざまな状況で収集され
た CRは、未然防止に活用するために、影響度の評価や、
パフォーマンス分類等を内容に応じた分析を行う。なお、
不適合はスクリーニングの結果、「事象を調査し状態と
原因を是正」、「判明している原因を記録し状態を是正」、「問題の調査は行わず状態を是正」など重要度に応じた対応をしていく。情報収集の対象が拡大され、 CRの物量が多くなることにより、

CR起草負荷が増大する


CRの分類に時間が掛かる・類似過去事象の検索に時間がかかる


CR措置の進捗、事象の進展状況管理が困難

等の課題発生が予想される。これらの課題に対して、 AI技術を活用して、
・CRの起票サポート・重要度分類の推定・過去の類似不適合の自動検索・処置の状況や進捗の見える化などの CAP運用の支援を行う。上記の機能を含む CAP支援システムを構築し、事業

者の CAP活動を支援し、そして、保全活動への展開も取り組んでいく。

4.6 ナレッジマネジメント
東日本大震災以降、プラント建設や定期検査において

現場技術を活用する機会が減ってきており、ベテランか
ら若手技術者への技術継承の機会が減少している。
ベテランから技術継承の機会が得られない若手エンジ

ニアは、自分で社内外データベースから下記のような関
連情報を検索している。
・作業に関連する教育資料
・参考となる過去の不適合事例
・類似の工事の写真
・過去に設計と共に検討した資料
しかしながら、意図通りの資料が探せず、必要な情報

が得られない場合や、情報収集に時間を要する。
このような若手エンジニアの悩みの解決のために、ナ

レッジマネジメントシステムの構築を開始した。ナレッ
ジは設計から製造、現場作業まで幅広くあるが、特に技
術継承の機会が減少している現場作業、その中でも作業
に起因して発生し得る不適合情報の検索を優先的に進め
ている。図 4.6.1にナレッジマネジメントシステムの概要を示抽出した結果として、
す。・予定作業に直感的に関連する不適合情報・予定作業への関連が類推される過去の不適合事例・キーワードの基づく検索履歴・閲覧情報等の表示を可能とし、若手技術者の情報収集の支援を行う。このナレッジマネジメントシステムを活用し、・類似不適合情報の共有による作業計画の品質向上・作業前のトラブル情報共有による不適合発生防止・若手技術者の能力向上に取り組んでいく。
(2019年 4月 19日)
著者紹介 
技術者が、探したいキーワードを登録。 AI技術を適
著者:古川 智昭
用した検索エンジンがキーワードの組み合わせ、頻度等

からナレッジ DBから関連情報を抽出する。
所属:東芝エネルギーシステムズ株式会原子力電気システム設計部
専門分野:監視制御

図4.6.1 ナレッジマネジメントシステム

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