国内原子力プラントの継続的な安全性向上に向けた取組み

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カテゴリ: 第17回
国内原子力プラントの継続的な安全性向上に向けた取組み Efforts to Continuous Safety Improvement of Nuclear Power Plants in Japan 三菱重工業株式会社 田中 太 Futoshi TANAKA Member 三菱重工業株式会社 宮﨑 雅人 Masato MIYAZAKI Member 三菱重工業株式会社 永田 靖 Yasushi NAGATA Non-member 三菱重工業株式会社 中野 正信 Masanobu NAKANO Non-member 三菱重工業株式会社 髙山 尉志 Yasushi TAKAYAMA Non-member 三菱重工業株式会社 竹内 惠子 Ayako TAKEUCHI Non-member 三菱重工業株式会社 山上 真広 Mahiro YAMAGAMI Non-member Abstract To continuously improve the safety of Japanese nuclear power plants that were restarted after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station accident, Mitsubishi Heavy Industries Ltd. (MHI) has been continuously working on the voluntary improvement of the safety of nuclear power plants together with electric power companies. MHI has been performing Probabilistic Risk Assessment and Stress Test for nuclear power plants, extracting measures for further safety improvement while developing technologies for new facilities to realize these measures. MHI will continue to make a unified effort together with the electric companies to continuously improve the safety of nuclear power plants. Keywords: Probabilistic Risk Assessment,Stress Test,Safety Improvement Assessment,Seismic,Tsunami, RCP shutdown Seal 1.はじめに 原子力プラントでは、福島第一原子力発電所事故(以下、福一事故)以前より自主的安全対策を実施してきている。福一事故以降は、事故を踏まえた緊急安全対策、新規制基 準に基づく重大事故等対策他により安全性向上を図って きた結果、国内の原子力プラントは現在16 基(2021 年4 月末時点)が再稼働のための設置変更許可を受けた。さら に、再稼働後も、海外知見の取込み等による更なる安全性 向上に向けた取組みを継続的に進めてきた。この事業者 の自主的な活動を支援するための当社の取組みの一例を 紹介する。 2.継続的安全性向上の取組み 継続的安全性向上に向けた取組み 原子力プラントでは、新規制基準に基づく重大事故等対策他により安全性向上を図ってきており、それに引続 き、特定重大事故等対処施設の設置等による更なる安全性向上を図ってきている。 本稿で紹介する原子力プラントの安全性向上のための評価(以下、安全性向上評価)は、再稼働した原子力プラントに対して、法令に基づき、事業者自らが原子力プラント全体に係る安全性について、総合的な評価を定期的に行う制度である。事業者は、原子炉ごとに施設定期検査終了後、安全性向上評価を実施し、その結果等を原子力規制委員会へ届出し、公表することが求められている。 なお、安全性向上評価の内容は継続的に充実させることが必要とされており、“実用発電用原子炉の安全性向上評価に関する運用ガイド”[1](以下、運用ガイド)で規定された届出内容のうち、“安全性向上に係る活動の実施状況の評価”(確率論的リスク評価(Probabilistic Risk Assessment、以下PRA)、安全裕度評価等)は原則5年ごとに、“安全性向上に係る活動の実施状況に関する中長期的な評価”は10 年ごとに改訂を行うことが規定されている。 また、届出書では、原子炉施設の安全性に関して長所、及び短所を明らかにした上で、短期的及び中長期的な安全性向上に向けた取組方針、及び安全性向上のための具 体的な措置に係る計画を記載することが規定されている。事業者は、短期的、及び中長期的な安全性向上のための具 体的な措置に係る計画に基づき、継続的安全性向上に取 り組んでいる。 安全性向上評価は、このような定期的な届出制度により、継続的な安全性向上のスパイラルアップを達成する仕組みになっている(Fig.1)。 Fig.1 Image of continuous safety improvement 当社の取組み 当社は、原子力プラントメーカーとして、原子力プラントを構成する設備の基本設計から施工・試運転、稼働後の保守・点検を網羅的に担っており、さらに、国内外の原子力プラントの運転や故障に関する膨大な事例データを蓄積している。これらを活用して、事業者自らが行う安全性向上評価のうち、PRA 及び安全裕度評価に関する様々な技術的支援を実施している。 また、評価結果を踏まえた対策の検討、工事実施に際しての必要な設備の供給や改造工事を実施することによって、事業者とともに、原子力プラントにおける安全性向上のスパイラルアップに寄与するための取組みを続けている。さらに、安全評価手法に関しては、不確かさを含む自然事象(地震、津波等)の影響を体系的に考慮する手法の開発や、海外の最新PRA 知見の導入等、継続的な評価手法の高度化及び開発に努めている。安全性向上評価で対象とする事象については、PRA 評価手法の成熟状況に応じ段階的に評価対象事象を拡張していくものと運用ガイドに示されている。また、同ガイドには、国内外の最新の知見をPRAに反映することが規定されている。すなわち、安全性向上評価では、PRA に関連する最新知見を継続的に調査し、実施手法が確立したものからPRA への反映または評価対象事象の拡張を実施することが求められている。 このため、事業者はPRA への最新知見の反映に向けた活動として、パイロットプラントに対し、海外から招聘した専門家によるレビュー会を開催し、レビュー会で得られた最新知見をPRA に反映することでPRA を高度化す る活動を実施している。本活動は2017 年に開始し、これまでにPRAについて述べ5回のレビュー会議が開催されている。 当社は事業者と協業し、海外専門家への説明(Fig.2)、そこで得られた知見の分析、取込みによりPRA 手法の高度化を進めている。この活動を通じて、海外専門家から現行PRA の改善点の指摘を受けるとともに、米国及び欧州のPRA 良好事例に係わる情報を入手しており、そこで得られた最新知見に基づき、当社は世界水準のPRA の国内整備に向けたPRA 関連技術の開発を継続している。 Fig.2 Review meeting with overseas experts 3.安全性向上評価で実施する安全評価手法 確率論的リスク評価(PRA) 安全性向上評価のPRA では、原子力プラントで発生する可能性のある事故を対象として、炉心損傷、または格納容器機能喪失に至るまでの事象の進展(事故シーケンス) を網羅的に抽出し、その発生頻度を定量的に評価する。本評価は、事故シーケンスとその発生頻度に係わる情報だけでなく、設備や操作の信頼性が事故シーケンスの発生頻度に与える影響の分析を通じて、原子力プラントの相対的な脆弱点の抽出、安全対策の効果の定量化等の原子炉施設の安全性向上に有用な情報を提供する。 運用ガイドには、内部事象及び外部事象に係わるPRA を実施することが求められている。当社は、原子力プラントごとの届出時期に合わせて、次に示す評価を実施している。 内部事象PRA 内部事象PRA では、原子力プラントの機器の偶発的な故障、運転・保守要員による人的過誤等の内部の原因によって引き起こされる事象を対象とする。本評価では、原子力プラントの通常運転を阻害する事象(起因事象)を網羅的に選定し、それら起因事象が発生した条件下で重大事故に?がりうるシナリオ(事故シナリオ)を分析し、重大事故に至る頻度を算出する。 また、安全機能の信頼性は、その機能の喪失に至る要因の組合せを網羅的に展開できるフォールトツリー法を用い、機器の偶発的な故障や、運転・保守要員等による人的過誤を考慮する。 機器故障については、国内の原子力プラントの運転実績から推定される故障率に対して、ベイズ統計手法を用いて、評価対象原子力プラントの運転実績を反映させる(ベイズ更新)ことにより評価対象原子力プラント固有の故障率を算出する。人的過誤については、評価対象原子力プラントの運転手順書や、運転員へのインタビューから得られた情報、並びに評価対象原子力プラントを模擬した熱水力解析等から得られた操作余裕時間等を用いて、評価対象原子力プラント固有の人的過誤確率を評価する。 これらを反映した体系的なモデルを構築し,内部事象を起因とした炉心損傷頻度または格納容器機能喪失頻度を評価する。 地震PRA(外部事象) 地震PRA では、設計想定を超える地震にわたり、地震による構築物、系統及び機器(SSCs:Structures, Systems and Components)の損傷によって引起こされる事故シナリオを対象とする。 地震による原子力プラントの設備の広範囲な同時損傷といった内部事象 PRA では評価対象外とする事故シナリオも検討範囲とし、評価に関連する情報収集のために、机上による情報だけでなく、PRA 評価者、及び設備設計の専門家による現地調査を行い、評価対象設備の設置状況、及び管理状況等の確認も実施する。 炉心損傷頻度、または格納容器機能喪失頻度の算出のためには、原子力プラント設置場所固有の地震ハザード情報、地震加速度に応じたSSCs の損傷確率(地震フラジリティ)、及び地震特有の事故シナリオを考慮したPRA モデル(地震PRA モデル)を用いる。 原子力プラント設置場所固有の地震ハザード情報は事業者が評価し、当社に提供される。様々な機器に対する地震フラジリティは、耐震設計の知見を活用して、現実的な耐力・応答分布を評価することにより、地震加速度に応じたSSCs の損傷確率を算出する。 津波PRA(外部事象) 津波PRA では、設計想定を超える津波にわたり、津波による SSCs の損傷によって引き起こされる事故シナリオを対象とする。 津波を起因とする原子力プラントの設備の広範囲な 同時損傷といった内部事象PRAでは評価対象外とする事故シナリオも検討範囲とし、地震PRA 同様,評価に関連する情報収集のために、机上による情報だけでなく、現地調査も実施する。 炉心損傷頻度、または格納容器機能喪失頻度の算出のためには、原子力プラント設置場所固有の津波ハザード情報,津波高さに応じたSSCs の損傷確率(津波フラジリティ)、津波特有の事故シナリオを考慮したPRA モデル(津波PRA モデル)を用いる。特に津波フラジリティ評価としては、被水・没水、波力等の津波による影響要素ごとに、現実的耐力、及び現実的応答に係る不確実さ要因を考慮し、津波高さに応じて損傷確率を与える手法の新規開発を主導し[2]、世界に先駆けて実機評価に適用している。 安全裕度評価 安全裕度評価は、設計上の想定を超える外部事象(地震、津波等)の発生を仮定し、評価対象の原子力プラントがど こまで炉心及び使用済燃料の著しい損傷を発生させるこ となく、また、格納容器機能喪失及び放射性物質の異常放 出をさせることなく耐えることができるか、安全裕度を 評価するとともに、クリフエッジ(限界点)を特定して、 設備の潜在的な相対的脆弱性を明らかにするものである。 このクリフエッジを特定する手法として、まず地震及 び津波PRA の結果を基に、燃料体等の損傷を引起こす可能性のある起因事象(外部電源喪失、補機冷却水系喪失等) を選定する。各起因事象に対して、事象の影響緩和に必要 な機能を抽出し、イベントツリーを作成の上、事象の進展 を収束させる収束シナリオを特定する。次に、選定した各 起因事象に関連する設備、影響緩和機能に関連する設備 等を抽出し、各設備の地震や津波に対する裕度(“地震加 速度”、“津波高さ”をパラメータとしたもの)を評価し、 最終的にクリフエッジを求める。 本評価は、原子力安全・保安院が指示した“東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の原子炉施設の安全性に関する総合的評価に関する評価手法及び実施計画”[3]、欧州におけるストレステスト (Stress Test)等を参考として,国内原子炉施設に適用可能な評価手法を確立したものである。その後、原子炉施設ごとの安全性向上評価の届出時期に合わせて、PRA と同様の地震、津波の単独事象に関する評価や安全裕度評価特有の地震と津波の重畳、地震及び津波随伴事象に関する評価を実施している。 4.継続的安全性向上のための対策 安全性向上のための対策 安全性向上評価に基づく、設備や操作の信頼性が事故シーケンスの発生頻度にどのように影響するかの分析、クリフエッジの特定から、設備の潜在的な相対的脆弱性を明らかにすることができる。これにより、その相対的脆弱性の解消に?がる対策の案が抽出された場合、それら対策案の効果の度合いを評価し、事業者による更なる安全性向上に向けた原子力プラントの保安活動の改善や設備改造の対策工事等に繋げている。 PRA 及び安全裕度評価から抽出される対策は原子力プラントによっても異なり、また、短期的なものから中長期的なものまでその規模も様々である。これらの対策工事については、原子力プラントを運営する事業者の“更なる安全性向上”を目指すための判断によって実施を検討されるもので、当社は、これらの対策工事実施に際して必要な設備の供給や、改造工事を行っていくものである。上記の対策工事のうち、ここでは、1次冷却材ポンプ(Reactor Coolant Pump、以下RCP)シャットダウンシールについて紹介する。 RCP シャットダウンシールについて 原子力プラントは、原子炉冷却材で炉心を冷却しているため,原子炉冷却材を保持する必要がある。加圧水型軽水炉(PWR:Pressurized Water Reactor)では、原子炉冷却材を保持するための圧力バウンダリを構成する設備の1 つにRCP がある。RCP の軸シール部は、通常運転時は冷却され、低温条件下に保つことにより健全性を維持しているが、全交流電源喪失(SBO:Station Blackout)等が発生した場合は、シール冷却機能が喪失し、シール部は高温 /高圧条件下に晒されることとなる。この状態が長時間継続した場合には、シール性能を維持できなくなり、RCP シールLOCA に至る可能性がある。 RCP シャットダウンシールは、このような状況において作動し、RCP シールLOCA を長時間防止する機構である。RCP シール部に設置され、シール部と駆動源で構成される。シール部が高温/高圧条件下に晒された場合に作動し、シール部がRCP 主軸に接触することで、1次冷却材の漏えいを制限する仕組みである(Fig.3)。 本設備の適用により、SBO 等の事象発生時においても原子炉冷却材を確保できることから、原子力プラントの安全確保において重要な“冷やす”機能及び“閉じ込める” 機能の強化が図れ、原子力プラントの更なる安全性向上 に?がるものである。 Fig.3 Outline of RCP shutdown seal 5.まとめ 当社のこれまで培ってきた技術に基づくPRA及び安全裕度評価を活用した原子力プラントの相対的な脆弱性の把握と重大事故リスクの低減効果を念頭においた対策の提案や開発により、引き続き国内原子力プラントの安全性向上に貢献していく。また、PRA の評価対象範囲の拡大や専門家レビュー、及び国内外の良好事例を考慮したPRA の精緻化等、更なる技術の高度化を進めていく。さらに、安全性向上のための対策を検討し、対策実現のために必要な技術・設備の開発を進め、事業者に適時提案し、反映いただくことで、原子力プラントの安全性向上を強力に支援していく[4]。 参考文献 原子力規制委員会,実用発電用原子炉の安全性向上評価に関する運用ガイド,(2017) R.Haraguchi, et al., Development of a fragility evaluation methodology for the Tsunami PRA, ASRAM2017, No.1052, 2017 原子力安全・保安院,東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原子力施設の安全性に関する総合的評価に関する評価手法及び実施計画,(2011) 永田靖、田中太、髙山尉志、中野正信、他、“国内PWR プラントの継続的な安全性向上に向けた取組み”、三菱重工技報 Vol.57 No.4(2020)原子力特集
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