新たな仕組みの危機管理

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カテゴリ: 第17回
新たな仕組みの危機管理 New Crisis management on Nuclear Accident 保全学会 宮野廣 Hiroshi MIYANO Member 保全学会 鈴木孝寛 Takahiro Suzuki Member 日本原燃 田中治邦 Harukuni Tanaka MRA 松本昌昭 Masaaki Matsumoto Abstract:1F accident left various lessons & learn for "nuclear power generation." Lessons from safety assurance in the design and operation of power plants were immediately addressed, and new regulatory standards set requirements and criteria that are said to be "the strictest in the world." In nuclear disaster prevention, we propose the following efforts. Take countermeasures based on "indoor evacuation" in principle. The prefecture governor has the responsibility and authority for crisis management, and operates in cooperation with the national government and municipalities. Take advance measures such as training to operate nuclear disaster prevention and general disaster prevention in cooperation. Keywords: Nuclear Disaster Prevention, Crisis Management, Indoor Evacuation, 1.はじめに 1F 事故は、様々な教訓をもたらした。既に、多くは運転プラントの設備の改造や運用の見直しに反映されており、各運転プラントの安全性向上に大きく寄与している。深層防護の第5 層と言われる防災、すなわち、一旦事故が顕在化した段階での被災する側の安全確保策である「原子力防災」においては、十分な議論はなされてはいなかった。 本報告は、前報告に引き続き、議論の結果としてとりまとめた提言について報告する。 2.背景 ”起きない“とされてきた原子力発電所の事故に対する防災においては、2011 年に発生した1Fからの教訓を基に、「原子力災害対策指針」が策定されて、取り組みは改善された。しかし、例えば、国と地方公共団体との役割分担に曖昧な部分が残されており、事前にプラントでの原子力事故の発生時の対応を踏まえた取り組みとしては十分なものではない。 原子力災害の発生は一般災害に比べ遙かに少ないことから、こうした原子力防災の実効性の検証は十分にできていないように感じられる。 連絡先: 宮野 廣 保全学会(元法政大学) 〒212-0013 川崎市幸区堀川町72-21、R1309 miyanohiroshi33@gmail.com 本研究は、毎年のように頻繁に発生する自然災害への対応と、ほぼ発生することが考えられないほどに発生の可能性の低い原子力災害への対応(1F事故をモデルとして)について、発生の状況とその仕組みを分析し、災害対応の諸施策の内、特に、災害発生時の取り組み、すなわち発災時の対応としての 「危機管理」のあり方について検討を行い、安全の根幹である死亡被害を低減するためには、どのような施策、「危機管理のあり方」が有効かを検討した。 3.分析 1F 事故の反省から 原子力防災では、1F事故時の反省から弱者については移動避難を強要することなく屋内退避の方針が明確にされた。しかしながら、PAZ内においては、なお弱者以外は「即時移動避難が原則」とされている。 調査・分析の結果、予測可能な一般災害において移動避難中の死亡者の占める割合が高いこと、1F 事故において放射能による直接的な死亡は無かったものの病院患者等の弱者の方々が移動避難中に少なからず死亡したことがわかった。 このことから災害における移動避難に着目し、その改善策について検討した。 原子力防災における避難指示は放射性物質の放出以前の段階で出される(1F事故の際にもベント による放射性物質の放出の前に、それに備えるために避難指示は出された)。つまり、一般災害のような災害発生のリスクの高い(既に発生した)時点ではなく、原子力防災では、災害のリスクのまだ十分に低い段階での移動避難の指示である。弱者には屋内退避を認めているが、一般には「即時避難」としており、1F の事故では移動中に移動方向によっては放射性物質の放出による被災(被曝)が発生している。被ばくの恐れがある場合には、「屋内退避」が遙かに安全であることからすると、現状の移動避難の原則はリスクの観点からは疑問があることが分かった。なお、1F事故においては、長期の避難生活や住み慣れた故郷を喪失したことから事故直後でなく暫くしてから関連する死亡が発生しているのも事実である。 一般防災との連携 一般災害の場合、予測可能な台風等の水害においては、移動経路におけるリスクがゼロの内に、近隣に設けられる退避施設に避難すれば、被災は避けられる。また、予測不可能な災害、噴火事象についても、沖永良部島のように個人がバラバラに当該に避難するのではなく、一時待避所へ避難してから、状況の判断により集団避難移動する方策が採られていることが分かった。これも一旦は屋内退避をとる有効性を示す証左と考える。一時退避施設を設けることが死亡被害の減少へと繋がると考えられている。沖永良部島の他、木曽御岳(2014 年9月噴火災害)においても対策として一時退避施設(シェルター)が増設されている。 一方、土砂災害においては、発生の予測は難しく、降雨水害のリスクに加重してリスクを考えることが望ましいとして、土砂災害の危険性のある地域の危険マップを整備して、予防避難などの災害リスクへの対応をうながしている。 原子力事故の大きさと避難 「1F事故においては、長期の避難生活や住み慣 れた故郷を喪失したこと」が大きな問題であった。そこで、原子力規制の原則を“避難をさせない基準”、すなわち環境の維持として、事故時においても放射 性廃棄物を生活できる基準-福島の事故と同様の事故が起きても、福島の事故時の放出量の百分の一 以下とする-と設定し、多くの対応策を原子力発電 所に課した。それが、「100TBqの放出が、10 のマイナス6 乗以下」となるリスク基準である。こ れを安全確保の基準として設定することで、事故が 起きても避難を求めなくすることができる、とした。 これは、世界共通の原子力発電の安全策の要求である。このように設定することで、万一、事故となり基準を超える放出があったとしても、実態を見極めて対応する策がとれるようになった、と言える。 これを前提として、一旦屋内退避を行い、事態を見極めたうえで、遠方避難や長期避難の必要性の判断を行うことができる。 従って、一般防災と同様に「屋内退避」を基準とすることで、危機管理の一元化ができ、原子力災害発生時には、状況を捉えて適切な対応策を取る“危機管理”の仕組みを取ればよいことになる。 4.考察 原子力防災においても、一般防災においても「屋内退避」を原則とする共通項がある。また、原子力防災では、極めて小さいもののリスク評価を原則とし、それを元としたリスク低減策が取られる。一般防災では、毎年のように災害が発生しており、対策は高いリスクを抱えたままでの策となっている。リスク評価を実施し適切なリスク低減策を取ることが有効な防災となるものと考える。ここに、原子力防災と一般防災の連携を考えた。 原子力災害については、弱者について屋内退避を認めたこと、移動退避中の放射性物質の汚染事故のリスクがあることに勘案すると、現在の「原子力災害対策指針」が示す「即時移動退避の原則」を修正することが望ましいと考える。 すなわち、弱者を含めて屋内退避を原則として、事故の状況が見極められた時点での移動退避を判断すべきではないか、ということである。こうすることで、1F事故時の際にあった放射性物質の汚染がある方向へ移動避難が避けられる他、個々人の移動による渋滞の回避にもなり、一時退避施設からの集団移動避難とすれば地域コミュニケーションの維持も期待できる。このことが、原子力災害における関連死亡リスクを低減させることも期待される。 この屋内退避を可能とするために、弱者が保護される病院等の施設、一時退避施設、場合によっては個人の住宅について放射性物質汚染対策(換気対策他)を充実することが有効と考える。 原子力防災での一時退避施設を一般防災の対応施設と共用することで、全ての災害において最初の“安全な”「屋内退避」のための退避施設が共通化することになり、避難行動様式の統一化・定型化が期待でき、危機管理の効果が上がるものと考える。 さらには、一般防災での避難訓練は、避難施設の共通化により、原子力防災の「屋内避難」訓練とも重なり、有効な避難訓練となることが期待される。 5.新たな仕組みの危機管理-原子力防災の提言 第一は、「屋内退避」を原則とする。 PAZ(予防的防護措置区域)、UPZ(緊急防護措置準備区域)のいずれの区域においても、基本は「屋内退避」を行うこととする。「屋内退避」で十分にリスクを低減させる方策を取る。 PAZ地区においては、全ての住民がそれぞれの居住地区の避難所へ徒歩で避難できる避難所を準備する。その避難所は、放射性物質の飛来においても安全に居住できるように設備する。避難期間を約2週間として生活に必要な備蓄を準備する。また、医療機関を避難所とする場合には、その期間を越して必要な医療を提供できるように準備しておく。移動が難しい住民に対しては、居住宅を避難所と同程度の対応を可能とするように準備する。 UPZ地区においては、PAZ地区と同様に避難所等を準備するものとする。この地域では、原則全員、避難所に移動し避難する。避難所の設備は通常の避難日数程度の備蓄とする。 PAZ、UPZいずれも、これらの避難施設への 避難の後、事故の進展を把握し放射性物質の放出を 計測、監視する。極めて発生の確率は小さいが、監 視する放射性物質の放出が確認された場合は、環境 の放射線量を監視して、一定量の放射能の飛散が確 認された地域においては、手順に従い避難を準備し、計画に基づく避難を実行する。 第二は、避難の実施の責任者を知事として運用する。 原子力防災は、国としての取り組みであり、発電所での原子力安全の確保を含めて、国民の原子力安全の確保の責任は国にある。防災の仕組みに おいても、国が第一に責任を持ち取り組むものである。従って、避難の準備、避難の必要性も国が発出 することとなっている。しかし、実際の避難 行動は、発電所の近隣の住民の問題であることから、避難行動は、自治体の責任で実行することとなる。避難準備、発災の発信は、国が行うが自治 体で伝達し、具体的行動は自治体の責任で行うことが妥当である。避難は、市町村長の下で実施されるが、原子力発電所の立地からは対象は広域とならざるを得ない。従って、避難実施の責任と権限を知事に持たせることは適切であると考える。知事が防災の実施の責任者として運用を行うこととする。 第三に、原子力防災を一般防災に組み込み、避難所、訓練など一体として運用する。 原子力事故は、ほぼ発生しない事故との認識であり、様々な事前の訓練などの準備は形骸化してしまうことが危惧される。従って、避難の行動を有効に保つためには、日ごろから実施される一般防災の仕組みに組み込み、訓練の実施や避難所の準備などを行うことは有用と考えるものである。 一般防災と原子力防災の連携についての補足として、2020 年に定められ気象庁より発表された一般防災の警戒レベルの基準では、原子力防災の避難準備、避難所への屋内退避は、レベル3に相当する「注意報」レベルと考えられる。その後、放射性物質の放出の可能性があると判断される事態は、このレベルではレベル4「避難指示」に相当し、環境の放射能レベルの測定監視を行い、広域避難の準備を進める段階、ある地域で放射能レベルが一定以上となった事態は、レベル5「災害発生」の領域となり、速やかな避難の実施となる。この考え方を共有することが必要である。 6.まとめ 原子力事故は、めったにおきるものではない。事故から時間が経てば、事故への対応は、難しくなる。防災をいかに有効にするか、工夫が必要となる。本提案を参考にしていただければ幸いである。 (参考文献) [1]「原子力政策への提言(第一分冊) 原子力発電所が二度と過酷事故を起こさないために-国、原子力界は何をなすべきか -」科学技術国際交流センター(JISTEC)、2016 年1 月20 日他第二分冊、第三分冊
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