一般災害と原子力災害の比較による危機管理の課題

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カテゴリ: 第17回
一般災害と原子力災害の比較による危機管理の課題 Crisis Management Issues by Comparing Natural Disasters and Nuclear Disasters MRA 松本 昌昭 Masaaki MATSUMOTO Non-member 保全学会 宮野 廣 Hiroshi MIYANO Member 日本原燃 田中 治邦 Harukuni TANAKA Member 保全学会 鈴木 孝寛 Takahiro SUZUKI Member Abstract: In the event of a general disaster or a nuclear disaster, the government will make announcements such as evacuation advisories and evacuation orders when there is a possibility that a crisis will occur to the general public. They take evacuation action to avoid damage based on the instructions. The issue here is that the significance of evacuation instructions applied to general disasters and nuclear disasters in terms of crisis management may be different for each disaster. Therefore, in this paper, the issues in crisis management by comparing general disasters and nuclear disasters would be described. Keywords: Natural Disaster, Nuclear Disaster, Crisis Management 1.背景と問題意識 一般災害であれ、原子力災害であれ、一般市民に危険 が生じる可能性が生じる場合には、行政機関から避難勧 告や避難指示などのアナウンスがなされる。住民は、これに基づき避難を行う。過去の大規模災害の事例であれ ば、例えば福島第一原子力発電所事故(以下1F 事故という。)時には、ベント実施の際の被ばくの恐れから避難指示が出された。あるいは、台風や集中豪雨の際、河 川の氾濫等が予測される場合には、水位の状況に応じて 避難勧告等の指示がなされることはニュース等で見かけることである。また、地震や火山噴火等の突発的な災害 時においても同様に避難指示がなされ、その指示に従っ た行動が求められる。 ここでの課題は、原子力災害や一般災害において用いられる避難指示の危機管理上の意味合いが、それぞれの 災害において異なっているのではないかということである。そのためまず本講演では、一般災害と原子力災害の 比較による危機管理上の課題について言及したい。 連絡先: 松本昌昭 〒100-6105 東京都千代田区永田町 2-11-1 山王パー クタワー 5 階 エム・アール・アイ リサーチアソシエイツ株式会社 E-mail: matsumot@mri.co.jp 2.一般災害と原子力災害の比較 被害のレベル 1F 事故に代表される原子力災害における避難指示での危険レベルと一般災害における「避難勧告」と「避難 指示」の危険レベルの差は何であろうか。 一般災害においては、災害対策基本法が令和3 年に改正されたことを受け、「避難情報に関するガイドライ ン」が公表されたばかりである。これによれば、「避難勧告」と「避難指示」は一本化され、「避難指示」となっている。これは警戒レベル4に相当するものであり、 災害の恐れが高い状態を表す。警戒レベル5になると、 「緊急安全確保」となり、これは、災害が既に発生して いる又は切迫している状況を表す。例えば、台風豪雨災 害の場合、警戒レベル4に相当するのは、河川氾濫には 至らないが各自治体が定義した氾濫危険水位に到達した 段階であり、また、警戒レベル5は、氾濫が発生した時 に発表される。すなわち、一般災害においては、レベル 4の「避難指示」の段階で、生命の危険性が高い状況で あると言える。「避難指示」の段階では、避難経路も危険である。家屋も水没する可能性があり、平屋建てでは、死亡する可能性が大きくなる。 一方、原子力災害においてはどうだろうか。1F 事故 における避難指示は、一般災害の避難指示とは異なり、 居住者等における差し迫った危険に対するリスクという よりは、ベント実施の際の被ばくの恐れから出されたも のであった。すなわち、一般災害における「避難指示」 のように、逃げなければ死亡する確率が高いというほど のリスクのものではなかった。このことが正しく認識さ れないで「避難指示」という語感のみが一人歩きしてい たように感じられる。 避難の状況 2.1 で述べたように、水害を含む多くの自然災害においては、自宅にいること自体が危険である。水位によっ ては、家屋も水没する可能性があり、その場合、平屋で は死亡する可能性が高い。このような場合には、一次退 避施設へ移動避難を選択することが合理的である。但 し、その場合でも遠方への避難移動ではなく、近隣の退 避施設への避難であることが多いものと考えられる。さ らに移動経路上における水没の危険性も考えた場合に は、自宅2 階へ上層避難する屋内退避もリスク判断としてはあり得る。 一方、原子力災害における避難指示は、現状では「予防避難」に近いものがあると考えられる。(1F 事故における避難指示は、ベント対策が前提であり、放射能放出前の状況での指示であった。)即ち、自宅に留まることによる危険性のレベルは一般災害のレベルに比較して小さい。それにもかかわらず移動避難を原則とすることに矛盾があるのではないか?つまり、原子力災害の場合、すぐに避難移動しなかった場合(自宅屋内退避)であっても死亡の危険性、すなわちリスクは極めて小さい。屋外にて移動中に被ばくするよりも、家の中で自宅待機した方が被ばくレベルが小さい可能性がある。しかも死亡 リスクは極めて小さい。 避難指示のあり方 一般災害では、避難指示があったとしても、具体的な 避難行動は住民の判断に委ねられている場合が多い。多 くは自らの判断で自宅に待機する場合が多い。それは、 状況を住民自らの目で判断ができるとの意思があるもの ではないかと考えられる。 一方、原子力災害においては、その危険性のレベルに ついては、住民自身が自ら判断できない。したがって、 避難準備や避難の実施は、国の判断及び国の緊急事態の 宣言や地方自治体への「避難の指示」の発令どおり行わ れる可能性が高いものと考えられる。その意味で、国の 指示等が明確に住民に伝えられる必要がある。 前述のように、時間的に余裕が十分であることから、 現在の原子力防災における避難指示の段階では、遠距離 移動避難をすぐに開始するのではなく、集合場所や一時 避難所に避難することで対応は十分ではないか。 3.まとめ 一般災害においても原子力災害においても避難指示が 行われるが、その位置づけは一般災害と原子力災害では異なる。講演においては、2.で示した比較等に基づ き、一般防災と原子力災害の違いを述べ、その危機管理上の課題についての詳細を言及したい。 参考文献 [1] 避難情報に関するガイドライン、内閣府(防災担当)、令和3 年5 月. http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinanjouhou/r3_hinanjouh ou_guideline/pdf/hinan_guideline.pdf
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