一般災害の危機管理

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カテゴリ: 第17回
一般災害の危機管理 Crisis Management Issues on Natural Disasters 保全学会 鈴木 孝寛 Takahiro SUZUKI Member 保全学会日本原燃 MRA 宮野 廣 Hiroshi MIYANO Member 田中 治邦 Harukuni TANAKA Member 松本 昌昭 Masaaki MATSUMOTO Non-member Abstract: In Japan many people suffer from the event of natural disasters (typhoon,earthquake,tsunami,eruption,etc). There are two types in natural disasters, predictable disaster and unpredictable disaster. Typhoon is predictable disaster. On the other hand, earthquake is unpredictable disaster. In the predictable disaster cases like typhoon, the best choice is to go to the evacuation facility quickly. But many people don’t go to the evacuation facility, stay in their house. This is the reason why many people die in predictable disasters. Therefore, in this paper, the reason why many people don’t choice to evacuate would be described. Keywords: Natural Disaster, Evacuatin Orders 1. はじめに 日本は、太平洋プレートを初めとするプレートの重層的な境目に位置することからプレート相互の動きに起因する地震が多発しており、地震災害が多い。また、大陸との西端に位置する日本は太平洋に面していることから、赤道付近で発生した多くの台風が日本列島を襲っており毎年のように台風災害がどこかで発生している。特に近年の地球温暖化を起因とする異常気象と言われる状況から、台風の大型化や台風以外にも異常降雨が列島のあちこちで発生し、風水害、土砂災害が多く発生している。 これら自然災害について、令和元年には「防災基本計画」が策定され、防災への意識が高まっており、昨年(2020 年)の台風10 号の際には大規模な事前避難が功を奏し大規模な台風の割には犠牲者が少なかったとされている。しかし、その一方で、台風のように事前予測ができない線上降雨帯等による予測不可能な集中豪雨が地球温暖化の影響のためか日本列島のあちこちで見られるようになり、熊本での災害のように大きな被害が発生している。本稿は、毎年のように頻繁に発生する自然災害への対応を分析することで、発生の可能性が極めて低い原子力災害における被害の極小化に資する条件を提示することを目的とする。 2.一般防災での避難 一般災害は、発生の予測が不可能な地震・火山噴火のような災害と、発生の予測がほぼ可能な台風のような災害に大別できる(中間に、津波、土砂崩れ等がある。)。 予測不可能な災害については近場の安全な施設に 直ちに退避することである。例えば、木曽御岳(2014 年9月噴火災害)では災害後一時退避施設(シェルター;大きなコンクリの升である)が増設されている。噴火災害がある沖永良部島では住民全員の分のシェルターが設けられ、そこに一時避難してから状況を判断して島外への移動の可否を検討するとのことである。 一方、瞬時に発生する地震では避難する間もないので現在いる建物の耐震性が地震への直接的な防災対策であり、移動避難はありえない。 予測可能な災害では、台風が典型であるように、災害が到着する前に安全な地点(退避施設)に避難することが最良の方策である。ところが前述の2020 年台風10 号のような事例は異例であり、多くの台風・豪雨災害では、移動の契機の遅れが移動避難時での死亡の増加に結びついている。 3.避難遅れの原因 予測可能な災害であるにもかかわらず、何故、移動が遅れるのか?その遅れの原因としては、正常化バイアスによる被災者自身による移動忌避の他、次のような原因があることが分かった。 一つには、警報への理解不足である。例えば、同じ警戒レベル4(危険な区域から避難)でもあるにもかかわらず、「避難勧告」「避難指示」に警報が区分されていたことである。2019 年の台風19 号の被災者3000 人に対する国の意識調査では約25%の方が誤解してい たとのことである(住民 は「勧告」、すなわち直ちに避難移動をする必要がないと誤解;日経2020 年7 月 26 日)。この問題は本年4 月の災害対策基本法の改正により5 月より「避難指示」に警報が一本化されたことで改善がなされた。 また、警戒レベル3(高齢者等の弱者の避難開始)についても理解が進んでいない。2020 年7 月の熊本県の養護施設で14 人の方が亡くなっているが、この施設では前日17 時の高齢者避難開始の警報には対応せずに避難行動を開始したのは当日午前3 時。ところが移動中の午前7 時に浸水が始まったため移動の遅れで亡くなられたとのことである。2016 年台風10 号で岩手県岩泉の養護施設で高齢者の移動避難が遅れて多数の方が亡くなられたことにより、当時「避難準備」という名称だった警報を「避難準備・高齢者等避難開始」という名称に変えたにもかかわらず、警報への理解が進んでいない。 次に、事前の災害予測情報への認識不足である。前述の熊本県養護施設の立地場所は洪水の際には10m 程度の浸水予想がある地点であるとこのことである。また、2019 年台風19 号で被災した長野県の北陸新幹線の車両基地も同様に数mの浸水予想のある地点であるとのことである。 このようなことを避けるため、2020 年都市計画法が改正され、自然災害の恐れがある地点における立地規制が設けられた(但し、2022 年4 月改正法施行)。 しかしながら、既存の施設には強制的に撤去されるわけではない。個々人が情報を理解し最善の措置を採ることが必須である。例えば、水害の際、自宅2 階を避難場所とする場合には、自宅2 階までの浸水予想がないかどうかを十分検討すべきである。2018 年の岡山 県倉敷市真備町の水害では36 年ぶりということもあったが自宅待機したところ浸水で亡くなられた方が多いとのことである。 最後に、避難施設への移動経路における危険の問題である。「避難勧告」の発令時点が移動避難の観点から遅いのではないかとの問題があることである。河川水位を警報発令の基準にしている市町村が多いが、降雨量によっては「避難勧告」発令時点では、移動経路(特にガード下等)が水没して移動リスクが高いのである。 2020 年10 月の台風21 号の際、千葉県の学校で生徒を自宅に返したが、一部の生徒は帰宅経路が水没していることから学校に戻り学校待機となった例があったとのことである このような問題への対処は個々人が移動経路につ いてどのようなリスクがあるかを認識しなければならないことを意味する。例えば移動経路にガード下や大きな排水路がある場合には、「避難指示」より前に避難施設へ移動するか、ハザードマップ上2 階への浸水の恐れがない場合には自宅2 階への待機を選択するかということである。警報は当該地区を対象とするものではあるが個々の避難経路までの危険性を示すものではないことを認識する必要がある。 4.まとめ 一般災害の場合、原子力災害と異なり、移動避難をしないことが問題である。しかし、移動避難といっても離島の場合を除き、近くの避難施設へ(ハザードマップの水害リスクが少ないと考えられる場合には自宅2 階へ)避難することが最良の方策である。予測不可能な噴火でも同様に近くのシェルターに逃げ込むことである(地震では、現在地点の耐震性が重要である。)。特に、台風等の水害においては、移動経路におけるリスクが問題である。2020 年台風19 号では亡くなられた方の内、2~3 割は移動中の死亡であったとされている。 このことから、近隣の施設又は自宅への「屋内退避」が「危機管理」の初動の原則であり、最初から長距離移動避難することのリスクが高いことがわかる。 以上
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