福島事故対応における環境放射線モニタリングへの無人機の活用

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カテゴリ: 第16回
福島事故対応における環境放射線モニタリングヘの無人機の活用 Application example of unmanned vehicle to environmental radiation monitoring around Fukushima dai-ichi nuclear power plant accident 原子力機構 澳田幸尚 Yukihisa SANADA 非会員 原子力機構 越智康太郎 Kotaro OCHI 非会員 原子力機構 佐々木美雪 Miyuki SASAKI 非会員 原子力機構 田川明広 Akihiro TAGAWA 会員 Member Abstract After more than 8 years after the Fukushima dai-ichi nuclear power station (FDNPS) accident, the government and research institutes had carried out various environmental radiation monitoring. In order to apply the terrestrial and aquatic environmental radiation monitoring, Japan atomic energy agency (JAEA) developed the new method using unmanned vehicles. In this article, the experience of radiation monitoring using an unmanned vehicle around FDNPS was summarized. In addition, unmanned helicopter and remotely operation vehicle were introduced as an application example. Keywords: 無人機, 放射線計測, 東京電力福島第 1 原子力発電所事故, 放射性セシウム はじめに 東京電力ホールディングス株式会社福島第 1 原子力発電所 (1F) 事故から8 年経過した現在、環境中における放射線モニタリングは原子力規制庁が中心となり、様々な モニタリングが実施されている [1] 。残されている避難指示区域の解除は、被災地域における重要な政策の一つ であり、住民の帰還に資するきめ細かいモニタリングが求められている。 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (以下, 原子力機構) では、事故後から、環境モニタリングヘ様々な 無人機を適用してきている。それらの事故後に開発した技術は、モニタリングに利用するとともに、将来的な原子力防災のツールとしての適用も視野に入れており、様々な要素技術開発に取り組んでいる [2] 。 図 1 に福島で適用されている無人機の外観について示す。現在、技術革新の著しいドローンに代表されるUAV (Unmanned Aerial Vehicle) は空から広い陸上の範囲を迅速に測定できるツールである。Sanada et al, 2015 [3] は事故後いち早く農薬散布用に使用されていた無人ヘリコプ ターを1F 周辺のモニタリングに適用し、現在でも継続的にモニタリングを行っている。本技術の詳細については 図1 福島第1 原子力発電所事故後に適用されている無人機の概観 澳田幸尚, 〒975-0036 福島県南祖馬市原町区萱浜字巣掛場 45-169, 原子力機構, 福島環境安全センター, E-mail: sanada.yukihisa@jaea.go.jp 後述する。また、飛行時間の長い無人飛行機や操作が簡 便なドローンについても技術開発を行っている [4] 。一方、農業および漁業再開の観点から水底の土壌 (堆積物) 中における放射性セシウムの蓄積状況についても懸念さ れている。従来、堆積物の放射性物質測定にはサンプリングによる手法が用いられてきたが、福島の状況を考えると広域を迅速に評価できる手法が求められてきた。澳 田らは、農業用ため池を対象とし、ファイバー型検出器やスペクトロメーターを利用し、ダイレクトに堆積物中の放射性セシウム濃度を測定する手法を開発した [5] 。この技術を無人機に適用することによって、ため池より も広い範囲のモニタリング技術確立を目指している。適 Air dose rate (?Sv h-1) 10 5.0 1.0 0.1 図 無人ヘリコプターによる1 の 線 プ Mean Exponential fitting Lower confidence interval (5%) 用例としては、河口域等の海底に無人船を活用した例 [6] 及びダム湖ヘの潜水型ロボット (Remotely Operation Vehicle: ROV) の適用 [7] が挙げられる。ROV の適用例について後述する。 本稿では、著者らが事故後進めてきた環境モニタリングヘの無人機の適用例を示す。 100 10 Dose rate (?Sv h-1) 1 n=1758 Upper confidence interval (95%) Mea. data 陸域における無人機の活用 無人ヘリコプター 近年,マルチローターの小型ヘリコプター (ドローン) 0.1 y = 25.6 exp (-0.693 / 2.87 x) 02468 Elapsed time (y) を中心とした無人機に放射線検出器を組み合わせた空からの放射線分布測定のツールが開発されており、実際に、1F 周辺においても除染効果の確認やホットスポット探査を目的として使用されている。現在,1F 周辺の環境モニタリングで最も活用されているのが,YAMAHA 社製の自律型無人ヘリコプター (R-MAX G1, FAZER R G2) である [3] 。本ヘリコプターは、農薬散布用に広く使用されている機体に自律飛行の機能を付加したものであり、火山観測や物流等を目的として産業用に作られており、安全性の高い機体である。機体の大きさは約4 m、重量は約100 kg、最大積載重量は15 kg である。自己位置は RTK GPS により数 cm の精度で認識可能であり、複数の電波を用いて地上にデータをダウンリンクできる。原子力機構では、福島事故後の 2013 年から運用を行っているが、墜落事故は操縦者のミスによる2 回にとどまっている。 無人ヘリコプターによる測定例 原子力規制庁と原子力機構はこの無人ヘリコプターに放射線検出器を搭載し,1F から約 5 km の範囲について定期的にモニタリングを行っている。図 2 に 2013 年と 2018 年に実施した測定結果の例を示す。このように発電所周辺の空間線量率は減 する傾向にあることが分かる。 図3 無人ヘリコプターによる1 の 線 の変化傾向 過去10 回実施したモニタリング結果について発電所から3 km におけるデータを抽出し事故からの日数とともにプロットした結果について図 3 に示す。このように空間線量率は指数関数による近似が可能であり、その傾きは半減期に換算可能である。この結果から、半減期は2.87 年 (95%信頼区間: 2.78 ? 2.96 年) と評価でき、変化傾向の定量化を可能とする。無人ヘリコプターによる最大の利点は、地上からアプローチできない部分も含めて全体的なデータが取得できることにあり、意思決定者が政策を考慮する上で有効な情報を提供可能である。 水域における無人機の活用 測定・解析手法の概要 前述のように、水底の放射性物質濃度の 測定技術が事故後、開発されており、その精度評価も進んできている。Ochi et al., 2018 は、水中型のスペクトロメータによる 測定とサンプリングによる表 の堆積物中の放射性セシウム濃度を比較し、よい祖関関係を得ている [8]。そのような 測定技術を潜水型ロボットである ROV サイズ(cm) W60 x L89 x H105 (kg) 140 水 (m) 100 (水 ) ケーブル長 (m) 200 検出器 LaBr3 ン ー ョン検出器 (3’’ 3’’) Maximum payload 8 kg 図4 潜水型ロボ トの諸元及び概観 に適用した例について紹介する。ROV には、仏国 ECA Hytec 社製のH300-CBRN を選定した。潜水型ロボットの諸元及び外観について図 4 に示す。本ロボットは有線給 電型のロボットであり、重量は約 140 kg、最大積載量(Maximun payload) で100 m の水深まで耐えられるように 設計されている。水中では通常時浮くように設計されており、水底に沈む際には上部についているスラスターの推力を用いる。操作方法は簡便で、PC に 続したコントローラで れでも操作できる。ロボットの水中での位置は、米国Link quest 社製のソナーを応用したTrackLink シス ムにより操作船との祖 的な位置測定と操作船上に配置したGPS の位置により特定できる。 による測定例 図4 に示したROV にLaBr 検出器を 用した放射線検出器を搭載し、福島県 のダム湖で実 を行っている。本測定は50 m メッシュごとに1 点ROV を沈めて堆 積物表 の測定を行っており、測定時間は 120 として いる。測定結果については、あらかじめ、モン カルロ計算や 泥によるサンプリング結果と比較して求めた換算係数を用いて濃度換算を行った。また、本ダム湖では、2015 年から継続的にモニタリングを実施しており、2015 年と2018 年の実施結果を図5 に示す。この結果をみると、濃度は大きく変化していないように見える。 実際に変化傾向を定量化するために、無人ヘリコプターの結果で実施したように、過去から同一地点を測定しているメッシュ けを抽出し、散布図としてプロットした結果を図6 に示す。このように半減期は106年 ーダーと評価され、有意な減 傾向にないことが分かった。本原因については、鉛 方向の分布測定やセディメントトラップ等を用いた粒子状放射性セシウムの環境動態調査の結果と合わせて考察する必要があるが、従来の土壌サンプリングでは得ることの難しい結果を提供している。このような測定例を見ても簡便に広い範囲を測定できる 50000 40000 Radiocesium conc. (Bq kg-1) 30000 20000 10000 0 02468 Elapsed time (y) 図 における による水 の放射の測定例 図 による の放射 (Cs-134+137) 変化傾向 無人機のモニタリングヘの適用は有効な情報を提供でき ることが分かる。 まとめ 福島事故以来、無人機を用いた環境中の放射線測定技 術は発展しつつある。これらの測定手法は、従来の人手による陸上の空間線量率測定や海底土のサンプリングによるサンプリングによる評価手法と比べると 1 点における精度は劣るものの、短時間で場所を選ばず大量のデータが取得できることから、全体像の把握に利点がある。精度についても様々な新手法が提案されており、Sasaki et al., 2019 は複数方向の空間線量率を測定したデータに、医療放射線計測分野で用いられている逆間題解析手法を応用した解析手法を適用し、地上値ヘの換算精度を向上す ることに成功している [9] 。このような取り組みは、これまでの無人機による測定の組み合わせとの祖乗効果が期待できる。 また、これらの技術は、今後の原子力防災に生かしていくべきである。福島の経 を元に、技術をブラッシュアップしてくとともに、運用体制や予算措置等を含めた総合的な取り組みが求められる。 参考文献 原子力規制委員会ホームページ, 放射線モニタリング情報, https://radioactivity.nsr.go.jp/ja/ (2019年6 月閲覧). 澳田幸尚ら, 平成 29 年度無人飛行機を用いた放射性プルーム測定技術の確立 (受託研究), JAEA-research 2018-009, pp. 48, 2019. Sanada, Y., et al., Aerial radiation monitoring around the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant using an unmanned helicopter., J. Environ. Radioact., 139, 294-299, 2015 Sanada, Y., et al., Temporal variation of dose rate distribution around the Fukushima Daiichi nuclear power station using unmanned helicopter., 118, 208-316, 2016. 澳田ら, 水底の in-situ 放射線分布測定手法の開発 JAEA-Research 2014-005, pp. 67, 2014. 澳田ら, USV を用いた海底の放射能分布測定シス ムの開発 ? 福島沿岸域での海底放射性物質濃度の経年変化の測定例 -, 海洋理工学会誌, 24, 9-18, 2018. 澳田ら, 潜水型ロボットを利用した水底の放射能分布測定手法の開発, 第 34 回日本ロボット学会学術講演会論文集, RSJ2016 AC3 B3-03, 2016. Ochi et al., Development of an analytical method for estimating three-dimensional distribution of sediment-associated radiocesium at a Reservoir Bottom., Anal. Chem., 90, 10795-10802, 2018. Sasaki et al., Application of the forest shielding factor to the maximum-likelihood expectation maximization method for airborne radiation monitoring., Rad. Rot. Dsim., doi:10.1093/rpd/ncz095, 2019., in print.
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