科学的合理性と工学の判断 -リスク情報を活用した意思決定

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カテゴリ: 第17回
科学的合理性と工学の判断-リスク情報を活用した意思決定 Scientific Rationality and Engineering Decision Towards Risk-informed Decision Making 日本原子力研究開発機構 大阪大学 元法政大学 高田 毅士 Tsuyoshi TAKADA Member 堀池 寛 Hiroshi HORIIKEMember 宮野 廣 Hiroshi MIYANOMember 日本保全学会蛯沢 勝三 Katsumi EBISAWA Member Abstract: This paper covers the recent decisions made by Osaka and Saga district courts, respectively, for Nos. 3 and 4 reactors at the Ohi NPP and Nos. 3 and 4 reactors at the Genkai NPP, and discusses the disputed points in determination of design basis ground motions to be used for seismic safety checking, which are regulated in Nuclear Regulatory Authority (NRA) review guide. In the paper, the points in these decisions are clarified and the authors’ view regarding those points are presented, and finally the suggestions are made to keep scientific rationality and better accountability of engineering decisions for society. In conclusions, it is very important to show how decisions are made in clear logical manner against complex problem with large uncertainties in the current review process. The immediate use of annual exceedance probability of future ground motions is strongly recommended to improve accountability on treatment of uncertainty and robustness of engineering decision for society. Keywords: Uncertainty, scatter, conservatism, design basis ground motions, risk-informed decision making, regression model, review guide 1.序 最近の原子力発電所の安全性に関する裁判は、我々が専門分野とする外部事象に対する発電所の安全性に関す るものが多い。判決結果は発電所の再稼働計画に直接的に影響が生じる事業者にとっては死活問題である。しか しながら、その判決結果に至った審議過程の中で、外部事象、福島原発事故の教訓を踏まえた外部事象に対する対応、理学の知見と限界、不確かさへの対処、安全確保の工 学の考え方、社会への説明の適切性等々が、司法において、 どのように理解され扱われているのか、そして、どのような議論が展開され、我々工学に従事するものも含めて納得のゆく判決が導かれているのか、極めて興味深い。 判決内容において、工学側からの説明が不十分な部分、 工学から見ても論理が通らない、事実誤認や誤解が含まれている場合には、それを正すことが我々専門家としての責務である。社会が下した司法判断であっても、その司法判断に至った論理が不十分、不適切であるのであれば 高田毅士、〒319-11950 茨城県那珂郡東海村大字白方 2 番地 4、日本原子力研究開発機構・リスク情報活用推進室 E-mail: takada.tsuyoshi @jaea.go.jp それらを指摘し改善を促すことは当然である。 こうした立場で、本稿では、最近の原子力発電所裁判事 例(大飯3,4 号炉大阪地裁、玄海発電所佐賀地裁)を対象に、その多くの争点の中から発電所の基準地震動に係る争点に着目し、それらの判決内容の分析と、筆者らの見 解、今後の提案などを学術的かつ中立的な視点から取りまとめた。 基準地震動については、本学会のシリーズ発表の他稿でも様々な視点からの指摘がなされており併せて議論したと考えている。本稿では、判決内容に対する結論として、1)工学的判断に係る本質的な議論の重要性と、2)リスク情報活用の必要性をまとめている。 2.最近の判決について 基準地震動の策定フロー ① 基準地震動とは? 原子力規制委員会の基準地震動及び耐震設計方針に係 る審査ガイド([1]、以下、審査ガイド)には、原子炉施設の耐震設計に用いる基準地震動(Ss地震動)の策定方法が記されている。図1 には本ガイドに掲載されている審査フローを掲載した。基準地震動は、施設の地震 安全性が適切に確保されていることを確認する目的で策 定され、発電所の敷地条件を反映して策定されるものと、発電所敷地に依らず全国一律に策定されるものからなる。前者では、施設に影響を与える地震(震源と呼ぶ)を選定して、そこから生じる敷地における地震動 (揺れの大きさ)を設定することにある。従って、敷地 及び敷地周辺において将来生じる地震の震源(あるいは 地震の源である断層)を複数評価して基準地震動を策定する。震源が選ばれた後の敷地における地震動の評価に おいては、経験式を用いた応答スペクトルによる方法と、震源と地震波の伝播する領域を詳細にモデル化する断層モデルによる地震動評価方法がある。後者は日本独 自のものであり、我が国の最新研究成果に基づくもので ある。 一方、敷地及び敷地周辺を対象とした断層調査が完全 でない(敷地調査の結果、活断層がないと判断された地 域で一定以上の大きさの地震が生じた事実がある)こと を補完するために、震源を特定せず策定する地震動も別 途用意して基準地震動を策定する。したがって、基準地 震動は発電所敷地において複数の地震動が策定されるこ とになる。 図1 に戻って、上記の条件で策定された地震動の大きさが妥当なものである(一定の保守性を有する)ことを 確認するために、図中の下の箱の確率論的地震ハザード 評価を実施して得られる一様ハザードスペクトルを「参 照する」ことが義務付けられている。 ② 残余のリスク このフローにおいて、確率論的評価結果を用いること になった背景としては2006 年の原子力施設の耐震設計審査指針[2]の改定時にまで遡る。それ以前には、旧耐震設計審査指針に基づく基準地震動の大きさを超える地震動 が何度か複数の発電所の敷地で観測されたことに鑑み、 「残余のリスク」という考え方を導入して将来敷地に生じる地震動が指針で定めた基準地震動を超える確率をゼ ロにはできないが、できるだけ低く抑えるべきとし、その 年超過確率がある目安値(10-4~10-5 程度)以下となることを確認するという規程が入った。この年超過確率の 導入は、欧米諸国では長年の利用実績のある、原子力発電所の事故に対する確率論的安全性評価への、我が国が踏み出した第一歩という原子力界の認識であった。 ただし、図中にも記されているように、現行審査で は、超過確率を「参照」するという記載に留まってお Fig.1 Review flow of determination of design basis ground motions [1] り、本来、策定した基準地震動の保守性を表す重要な指 標であるにもかかわらず、超過確率の利用は極めて消極 的である。確率論的地震動ハザード評価は震源の発生、 地震動、等々の地震現象の不確かさと全評価過程におけ る不確かさを考慮して、考えられる全てのケースを網羅 した評価手法であり、限定的なケースしか対象としない 決定論的手法を補完するものと認識されている。これらを踏まえて、地震動ハザード評価結果の一部である一様 ハザードスペクトルを参照するだけでは極めて不十分で ある。これについては後述する。 ③ 保守性の付与 判決内容に戻って、大飯及び玄海発電所の判決において基準地震動関係で争点となったのは、図中の中央の断 層モデルによる基準地震動の策定フローの部分であり、 基準地震動の策定段階で不確かさに対する保守性の確保 の方法についての論議が展開されている。 基準地震動の策定ガイドに示された基本方針では、図1 の審査フローに基づき、不確かさの考慮(保守的取り扱い) の必要性が記されているが定量的な記載はない。従って、以前より審査過程の中で決まってきており、最新の地震 学の知見を反映して基準地震動が設定されている。不確かさが低減できるものはできるだけ減らす努力をした上 で不確かさを適切に考慮することが基本であり、これら は事業者に任せられ一定の保守性が確保されている。 ④ 「不確かさ」と「ばらつき」 これらは極めて類似する用語で、その定義iを原子力学会の文献[3]を用いて文末に加えた。基準地震動に関する 審査ガイドにおいては、これらの用語は比較的注意を払って使用されている。3.3.3 不確かさの考慮の条項においては、例えば、(2)では「地震動の評価過程に伴う不確か さ」、「震源特性の不確かさ」、「震源モデルの不確かさ」の ように、「〇〇の不確かさ」という表現が用いられており 誤解を招きにくい。 しかしながら、審査ガイド中において「ばらつき」とい う用語は、3.2.3(2)の個所、「… その際、経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」の個 所のみである。この文意からすると、「経験式が有するば らつき」とは経験式の平均値からの偏り(乖離?)を指す ものであり、なんらかの数量的な配慮が必要なことを要 求しているものとも解釈できる。この部分が大阪地裁の 原告が着目した争点であり次節に解説する。 大阪地裁判決について ① 判決要旨 大飯3,4 号原子力発電所の耐震設計で用いる判決要旨[4]に記載されている論点は以下のものである。 大飯3,4 号原子力発電所の耐震設計で用いる基準地震動Ss を策定する際に、地震規模を規定する地震モーメントの設定に際し、原子力規制委員会の審査ガイド [1] 3.2.3 には、『震源モデルの長さ又は面積、あるいは1回の活動による変位量と地震規模を関連づける経験式を用いて地震規模を設定する場合には、経験式の適用範囲が十分に検討されていることを確認する。その際、経験式は 平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。 (下線は筆者)』としているものの、大飯発電所を対象に した規制委員会の審査では経験式に基づいて算出された地震モーメントの値に、経験式が有するばらつきを考慮して、(過小評価の可能性を考慮して)何らかの上乗せを する必要があるかどうかについて、何ら検討することを せず、本申請が設置許可規則に適合し審査ガイドを踏まえているとした。そのため、このような規制委員会の審査及び判断の過程には、看過しがたい過誤、欠落がある。ここで、震源モデルの長さ又は面積と地震規模を関連付 ける経験式を次に説明する。図2は敷地周辺の断層調査により評価される断層の面積と、地震の大きさ(図では地 震モーメントM0)の経験的な関係を表したものである。本件の論点は、地震モーメントの評価に用いられる入 倉・三宅式[6](地震モーメントと断層面積等の関係式)の 不確かさや観測記録のばらつきに対する保守性の付与の Fig. 2 Example of empirical relationship between earthquake moment and rupture area [6] 方法に関するものである。この経験式は原子力学会標準 にも反映され、多くの原子力発電所の基準地震動の策定に用いられていることから、他の発電所施設の基準地震 動設定にも波及することもあり得る。 ② 規制委員会の見解 更田委員長は令和2 年12 月9日の規制委員会の記者会見において、基準地震動策定の全体を通して十分な保守性を有することを審査の中で確認済とし、審査に何らの過誤も欠落もなく、判断に自信を持っていると発言した。 その1 週間後の12 月16 日の規制委員会では、資料[7] を用いて、「入倉・三宅式を用いて地震モーメントを計算 する際、式の基となった観測データのばらつきを反映して計算結果に数値を上乗せする方法は用いていない。こ のような方法は、強震動予測レシピで示された方法では なく、かつこのような方法の科学的根拠を承知していな いからである。(下線は筆者)」として、上乗せすることの 科学的不合理性を指摘している。そして、大飯発電所の基 準地震動の設定にあたっては、「地震学及び地震工学的見 地に基づく総合的な観点から不確かさを十分に考慮して 策定されていることを確認し妥当なものであると判断している。(下線は筆者)」という見解を示している。 ③ 筆者の見解 両者は別の内容を主張し明らかにすれ違っている。 原告は、規制委員会の審査ガイド通り(震源特性パラメ ータの設定においては経験式が有するばらつきを考慮さ れている必要がある)に審査がなされていないとして審査側の対応の不適切さを指摘している。加えて、原告の採用した根拠「審査ガイドに従って、平均値で評価するべきではなく、平均値+αのような保守性を加味した評価と すべき」は、多くの人が受け入れられる明快なものと見え る。すなわち、この部分のみを見る限り、想定する地震の大きさの推定に、平均値の関係式しか採用しておらず結 果の過小評価の印象を裁判官に与えたものと推察できる。 上の根拠はある程度は理解できるものの、審査ガイド 中の記載内容の粗探しをしている印象もある。記載の不明瞭さに着目しているのみで、最終の基準地震動を妥当 ではないと結論するのは飛躍とも言える。重要なことは 最終的に設定した基準地震動が適切な保守性を有してい るかどうかであり、その考察が欠如している。 一方、原子力規制委員会の見解によると、争点に対して 「地震規模の推定には数値を上乗せする方法は用いていない」と断言し、このような保守性確保の部分的な対応を 施す代わりに、「総合的な観点から不確かさを十分に考慮 して策定されていることを確認し、妥当なものであるとした上で、採用した基準地震動が十分に保守的なものと なっている。」と結論している。 これらの両者の見解を鑑み、大飯発電所の審査過程において審査ガイドの記載に沿った直接的な対応となっていないことが指摘できるものの、最終的に設定された基 準地震動の保守性については、震源断層長さの不確かさ や複数断層の連動ケースも考慮した検討がなされており、 結果的には一定の保守性を有するものと考えられる。ただし、一定の保守性についてはわかりづらい。規制委員会 は確保した保守性を別の方法で定量的に説明すべきであったと考える。 佐賀地裁判決について ① 判決要旨 本裁判でも多くの争点があるが基準地震動関係に着目する。玄海判決本文[8]の 315~318 ページにかけて地震動審査ガイドにおけるばらつきの考慮に関して、裁判官の意見がまとめられている。317 ページの3 行目からを引用すると、「...審査ガイド3.2.3(2)が、地震規模を設定するにあたり経験式を用いるとしながら、他方で、経験式そのものないし経験式から得られる数値(平均値)を修正して地震規模を設定するという、一旦採用した経験式を無視した恣意的な操作が可能となるような考慮をすることを求めていると解することができない。実際、「入倉・三宅式」等の経験式が体系的に組み込まれている地震動予測レシピにおいて、原告らが主張するような方法で、経験式が有するばらつきを考慮することを求める旨の記載は見当たらない。」と審査ガイドの内容を解釈している。 続いて318 ページ5 行目より「、...審査ガイド3.2.3(2) の第 2 文について、原告らが主張するような意味に解する必要があるとは言えない。原告らの主張する方法と異 なる方法で、基準地震動に係る具体的審査基準が、経験式 の適用範囲の検討やその他の地震動の評価の過程において、上記のばらつきや不確かさを考慮することを求めているとは、上記の経緯に取らしても、不合理であるとは言 えない。」として原告らの主張を退けている。 ② 筆者の見解 ここで対象とする地震規模を推定する経験式は平均値 と、そのばらつき(ここでは推定された平均値のばらつき) も含めたものと理解すべきである。一般に、観測データの回帰分析より得られる平均値を予測する経験式を用いる際に、保守性を付与するため、あるいは、より信頼のおけ る推定結果を得る目的に対して、平均値+αの経験式を 評価することは工学では極めて一般的であるので、最初 の根拠には賛同できない。 「入倉・三宅式」等の経験式が組み込まれている地震動予測レシピにおいては、ばらつきの考慮を求めていない 記載があるが、そのことが「ばらつき」を考慮してはいけ ない、あるいはする必要がないというわけではない。本来、 レシピは誰がやっても同じ結果を出すことを目的に、平均的特性を評価しその評価精度も提示するものであり、これらのレシピに基づいて、平均的特性に上乗せするような配慮は利用者の要求する保守性の程度に依存するものと考えられる。 後半の根拠に対して、審査ガイド3.2.3(2)の第2 文において、地震規模推定の経験式を用いる場合は、式のばらつきを考慮せよという規定は、用いた経験式の適用範囲、 精度も含めて判断せよということであり、本来、基準地震動策定のすべての段階において考えるべきものである。この部分のみ特別な配慮をすることは不合理とも考えられることから、後半の根拠はある程度受け入れられる。ただし、このような争点が生じたのは、審査ガイドの記載が不明瞭であったことが原因とも言え何らかの補足が必要と考える。 3.今後に向けて 3.1 もっと本質的な議論の必要性 審査ガイドの表現の不明瞭さということであれば、直 ちに何らかの補足を追加することにより一応の対応はできると考える。しかしながら、規制委員会の言い分「十分 保守性がある」ということについては、責任をもって作成 された基準地震動の保守性の程度についてその適切性を 示すべきと考える。基準地震動を設定する際に保守性の担保の仕方はいろいろと考えられる。しかし、重要なこと は発電所の地震安全性を確保するために用いる最終的な基準地震動の大きさが何に対してどれぐらい保守性が確保されているのかを定量的に示すことが必要である。そ れには、海外で広く用いられているリスク情報が有効と考える。 ① 科学的合理性と意思決定について 科学的合理性が十分確保できない領域あるいは不確か さが大きく、科学の合理が保証できないような領域にお いては、最新の科学の知見に頼らざるを得ない。その不確 かさの存在を認知し、できる限りその定量化(できないも のあるが専門家の判断も含めて)して、その結果に基づい て判断することが基本である。その際、科学的事実の部分と、判断を施した部分を明確に区別する必要がある。現行 の審査ガイドは、最確評価と保守的判断の部分が混在し ており、何が現実(事実)の部分で、どこが工学的余裕を 意図的に付加した部分か明白でなく混沌としている。 まず、基準地震動評価においては、敷地毎に歴史地震の 情報、断層情報、すなわち理学的事実や知見に基づいて地 震を選定し、それらの地震から生じる地震動を経験的手法により評価し実現象にできるだけ近い姿を把握する。この段階では、科学的知見として、選定された地震や地震動の平均的特性や評価に係る不確かさも含めて科学的知見と理解している。そして次の段階、すなわち、工学的判 断の段階において、これらの科学的情報を総合的に判断 して最終的な基準地震動を策定する。ところが、この「総 合的」という用語はよく用いられるが総合的の中には、社 会が取り決めた程度の要求水準に見合うという条件も含まれ、それを反映した保守性を付与することが論理的に説明しやすい。 このように、基準地震動の策定には科学的事実の評価 段階と工学的判断をする部分があることが分かる。発電所の安全確保のために用いられる基準地震動を理学のみに委ねるのではなく、社会の要求に合った安全水準を確 保するのは工学であるという認識が必要である。 ② 超過確率の活用 現行基準に従って策定された基準地震動がどの程度の保守性を有しているのか確率論的地震ハザード評価結果 を用いて定量的に説明可能である。フローあるように、どの原子力発電所も許認可申請時に策定した基準地震動の年超過確率を一様ハザードスペクトルと比較することが義務付けられている。この方法は既に欧米では規制に利用され実績があり、この評価結果を併せて提示すれば、基準地震動策定の個別箇所での取り扱い方の是非の議論で はなく、発電所の地震時安全性検討のために要求される 地震動の保守性の議論が容易である。なぜ、規制委員会が 裁判でこれを持ち出さなかったのかはよくわからないが、 確率論的ハザード評価結果を審査対象にしていないこと (事業者の報告義務のみ)、確率やリスク論の議論をでき るだけ避けたかったことなどが考えられ、依然、安全審査が「絶対安全」の思想から抜け切れていないことが指摘できる。 ③ リスク概念の導入 原子力規制委員会は、内的事象に関しては PRA(Probabilistic Risk Assessment)を実施し、また、新検 査制度においてもリスク情報活用することを進めている ものの、外的事象についてはPRA の利用には消極的である。しかしながら、耐震安全性に関しては、原子力学 会において既に地震PRA 標準[9]が策定され長年利用されていること、将来的には欧米のように地震安全性確保 においても安全目標、性能目標の議論を復活させること が必要となる。 まずは、現行の審査ガイド「6.超過確率」を用いたわかりやすい説明と審査を実施することが最善である。確率論が司法に受け入れられるかどうか挑戦課題かもしれないが、不確定状況下での社会の意思決定の根拠づけとしては、現時点でおそらくこれ以外の方法はない。米国においては、スリーマイル島事故以降、規制側がたどり着いたのがリスク論の導入であり、長年の経験を踏まえて米国原子力規制委員会(NRC)では、不確かな問題 に対する解決方法に対し社会に堂々と説明できる状況である[10]。我が国の司法においてもリスク論を前面に出した説明が最良とされている提言もあり[11]、このことは、福島原発事故後であっても変わるものではないし、寧ろ一層重要と考える。 5.結 最後に、筆者としては、今後の裁判の行方を見守ること になるが、今後の裁判において関係当事者が有意義な議 論を展開してもらいたいと願っている。それには、我々の工学の立場からの見解も多少なりとも有用であろうと考 え本稿を作成した。原子力発電所の安全性に関しては他 にも多様な意見が存在するので、読者のご批判、ご意見等、 頂ければ筆者としては幸いである。 参考文献 原子力規制委員会(2013 制定、2020 改正):基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド、規制庁HP 原子力保安院:耐震設計審査指針、2006 原子力学会:原子力施設のリスク評価標準で共通に使用される用語の定義、AESJ-SC-RK003(2018) [4] 大阪地裁:判決要旨、2020.12.4 [5] 大阪地裁:判決文、2020.12.4 [6] 入倉・三宅: 2020.12.4 [7] 原子力規制委員会:基準地震動の策定に係る審査について(案)、令和2 年12 月16 日、規制庁HP [8] 佐賀地裁:判決文、2021.3.12 日本原子力学会:原子力発電所に対す地震を起因とした確率論的リスク評価に関する実施基準、201 5、AESJ-SC-P006:2015 T.R. Wellock: A History of Nuclear Power and Accident Risk: Safe Enough? UC Press, 2021.3 都甲泰正:原子力発電と安全性、ジュリストNO.580, 1975.2.1 i 2.2 「不確かさ」と「ばらつき」 一般に、「不確かさ」は、対象が不確定であるために、対象ないしは、その程度を定性的に表す場合に用いられ、対象には物理量も解釈の違いなども含められる。一方、「ばらつき」は、対象が定量化されたもの、物理的な量に対して用いることが多く、関連する用語として、「平均値」と「ばらつき」といった用い方がよく使われる。したがって、学術界では、「ばらつき」という場合には、平均値からの数量的な偏りに関して議論をする場合が多い。ただし、ばらつきも対象が一意に定まらない場合にも用いられることがある。例えば、意見のばらつ きなど。原子力学会の原子力施設のリスク評価標準で共通に使用される用語の定義によれば、「不確かさ」と同義の「不確実さ」の定義が以下のように記されている。「ばらつき」の定義はなく、以下の説明の注記における、偶然的不確実さに対応するものと考えられる。 不確実さ(Uncertainty):リスク評価の過程及び結果に含まれる物理量、モデル、専門家判断などにおける確実さの度合いの定量値。 注記 PRA では不確実さをもたらす要因を、物理現象のランダム性に関わる偶然的不確実さ(aleatory uncertainty)と知識および認識の不足に関わる認識論的不確実さ(epistemic uncertainty)を扱う。
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