非定常乱流モデルLESによる地形性乱流診断と風車安全管理への応用

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カテゴリ: 第15回
非定常乱流モデル LES による地形性乱流診断と風車安全管理への応用 Large-eddy simulation of airflow over complex terrain and application to the wind turbine safety management 西日本技術開発株式会社 川島泰史 YasushiKAWASHIMA 非会員 九州大学応用力学研究所 内田孝紀 TakanoriUCHIDA 非会員 SUMMARY: This research was conducted in cooperation with Kyudenko New Energy Co., Ltd., to measure deformation on wind turbine blades and gather actual data on wind conditions for Wind Turbine #10 of the Kushikino Reimei Wind Farm (in operation since Nov. 2012), in Kushikino, Kagoshima Prefecture. Based on the gathered measurement data, the wind direction that most impacted the structural strength of the turbine was identified, and the data was analyzed in detail. To examine into the failure analysis method based on numerical wind loads, numerical wind simulation based on large-eddy simulation (numerical wind diagnosis) was conducted for the wind directions that have been identified. The research focused especially on the 3D air flow structure and wind load characteristics of east wind, which showed the largest impact from terrain-induced turbulence and north wind that showed the least impact and studied the correlation with actual measurement data. Lastly, a proposal is presented on application on wind turbine safety management based on numerical wind simulation with attention to the requirements in the structural strength of the wind turbine. 1.緒言 近年の風力発電設備の増加に伴い、山岳部などの複雑地形上に建設された風力発電所において、風車ブレードの破損等の事故が増加傾向にある。こうした近年の風車事故の増加傾向を受けて、国は事故防止対策の検討を行い、平成29 年4 月1 日より、単機出力500kW 以上の風力発電設備を設置する発電所にも定期安全管理審査制度を導入する電気事業法の改正を実施した。 この様に国の風力発電設備に対する安全規制が強化される中、著者らの最近の研究から、風車の事故に対して、地形性乱流が強く関係していることが指摘されている1)- 3)。今後、日本国内の山岳部などの複雑地形に設置された風車の事故や故障を低減するため、保守や運用のための安全管理に寄与する高精度な数値風況面からの故障分析手法の確立が必要である。 このような状況を受け、我々の研究グループでは、「実地形版RIAM-COMPACT ソフトウエアによる精密な数値風況シミュレーション(数値風況診断)」を実施している 1)。本研究では九電工新エネルギー㈱協力の下、鹿児島県串木野れいめい風力発電所の風車10 号機を対象として、風車ブレードの歪みや実風況データを計測し、得られた計測データに基づいて詳細な風車ブレードDEL(疲労等価荷重)データ解析を実施し、風車構造強度へ最も影響を与える風向を特定した4)。次に、実測データから特定された風向を対象に、ラージ・エディ・シミュレーショ ン(LES)に基づいた数値風況シミュレーション(数値風況診断)を行い風況特性と、風車ブレードDEL(疲労等価荷重)データとの相関性を考察した。最後に、数値風況シミュレーションによる風車ブレード寿命評価への応用についても提案を行う。 2.串木野れいめい風力発電所の概要 九電工新エネルギー㈱の協力の下、串木野れいめい風力発電所(平成24 年11 月より運転開始)において、東側にある弁財天山(標高519m)を通過する際に発生する風の乱れ(地形性乱流)の影響が懸念される10 号機を研究対象風車とした(図1、図2、図3、表1 参照)。 連絡先:川島泰史、〒810-0004 福岡市中央区渡辺通 2-1-82 電気ビル共創館7F、西日本技術開発㈱、E-mail: y-kawashima@wjec.co.jp 3.風力発電所疲労荷重データ解析4) (実測データ解析) 図1 串木野れいめい風力発電所周辺の位置 (Google Earth による) 10 号機の概要定格出力:2,000kW 風車の高さ:60m (地面~ハブ中心) 翼(ブレード)の 直径:80m IEC 乱れ強度 カテゴリー:A 図2 現場の写真 (著者が2015年10月28日撮影) 図3 弁財天山(標高519m)と10 号機の位置関係 (Google Earth による) 表1 弁財天山(標高519m)と10 号機の位置関係 風車はブレードを通して風エネルギーが入力されることから、ブレード根元の強度評価(ブレードの曲げ荷重評価)は、風車構造強度の評価上、極めて重要である。そのため、本研究では風車10 号機のブレード〔ブレード3 本の根元(ルート部:ハブ接合面から約1.3m)〕に電気式歪センサーを設置した(図4 参照)。 2015 年11 月3 日0 時~2016 年3 月17 日7 時において、風車メーカの協力の下、風車10 号機のブレード歪み実測データに基づきDEL〔疲労等価荷重(ブレード曲げ)〕を解析した結果、東風の際に、風速約6~10m/s の場合、設計値を超えていることが分った。一方で、計測期間で最も出現率の高かった北風(図5、表2 参照)の場合は、風速4m/s 以上の全風速階級で設計値を下回り、東風と比較してブレード歪みデータに基づくDEL に明確な差異があることが確認された(図6 参照)。 12 方位別の風車ブレードDEL(疲労等価荷重)解析結果などは、文献4)を参照して頂きたい。 ブレード先端高さ : 図4 風車10 号機のブレード歪計測位置 4.ナセル風速・風向計による気流場解析 風車No. 標高 ブレード先端高度 離隔距離 10号機 418m 518m 約300m (実測データ解析) 次に、実測データによる風車ブレードDEL 解析結果と3 次元的な気流性状の関係を評価するため、風車10 号機のデータ収録期間2015 年11 月3 日0 時~2016 年3 月17 日7 時に対して、12 方位別に10 分間の風速・風向・風速標準偏差・乱流強度データを解析した。 表2 出現率および方位別平均風速、ハブ高さ60m (解析対象期間:2015 年11 月13 日0 時~2016 年3 月17 日7 時) 地上高 項 目 N NNE NE ENE E ESE SE SSE S SSW SW WSW W WNW NW NNW 計 60m 出現率(%) 22.5 13.8 5.6 4.0 4.4 3.6 7.5 4.3 3.0 2.2 1.2 0.9 1.3 1.8 12.6 11.2 100.0 平均風速(m/s) 6.1 5.8 4.8 4.1 4.5 4.7 6.7 6.0 5.1 5.0 5.0 3.0 4.6 5.0 9.2 6.6 6.1 NW WNW W WSW 〔%〕 N NNW 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 0.0 NNE NE ENE E ESE NW WNW W WSW 〔m/s〕 N NNW 10.0 8.0 6.0 4.0 2.0 0.0 NNE NE ENE E ESE SW SSW S SE SSE SW SSW S SE SSE 図5 出現率(%)〔左〕・方位別平均風速(m/s)〔右〕、ハブ高さ60m (解析対象期間:2015 年11 月13 日0 時~2016 年3 月17 日7 時) (b) 北風 図6 方位別DEL(疲労等価荷重)〔ブレードフラップ曲げMYS〕比較4) (解析対象期間:2015 年11 月3 日0 時~2016 年3 月17 日7 時) 表3 風向の設定範囲およびデータサンプリング数 風向の設定範囲 データサンプリング数 10分間 北風 345°~ 15° 4,036 東風 75°~ 105° 496 注)対象データ:発電開始風速4m/s 以上 なお、本研究では発電開始風速を考慮し、風速4m/s 以上に対応する各種データを解析対象とした。 図7 には、図6 に示す風車ブレードDEL と同時刻の風速・風向・風速標準偏差のデータを用いて解析した結果を示す。解析の結果、風速-風速標準偏差の関係は、風速が大きくなる程、風速標準偏差も大きくなる重回帰直線で示 されることが分った。この重回帰直線により、東風の風速標準偏差の傾きは、北風に対して大きいことが示された。次に乱流強度は、乱流強度=風速標準偏差/風速で定義されることから、乱流強度の傾向を確認した結果、東風時は0.19、北風時は0.11 となり、東風の値は北風の値に比べて大きいことが示された(図7 参照)。また、風速 -DEL の関係は、東風時の重回帰直線の傾き0.20、北風時の傾き0.10 と実測されている(図6 参照)。これら、一連の解析結果から、風速標準偏差の傾きと乱流強度が大きい場合に、風速と風車ブレードDEL の傾きも大きくなることが分った。 4.5 4.0 3.5 Standard Deviation〔m/s〕 Turbulent Intensity〔-〕Standard Deviation〔m/s〕 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.0〔deg〕 05101520 Wind Speed〔m/s〕 (b) 北風 0.4 0.3 Turbulent Intensity〔-〕 0.2 0.1 0.0 図7 方位別風速標準偏差比較 (解析対象期間:2015 年11 月13 日0 時~2016 年3 月17 日7 時) 本解析結果を踏まえ、風車ブレード疲労蓄積の評価を行う上で、まずは、乱流評価指標〔=σu(風速標準偏差) /U(流入境界面風速=10m/s)〕を確認することが重要であると考えられる(表4 参照)。 風車10 号機を対象とした2 方位(北および東)のDEL および風速標準偏差の差異については、図2 および図3 に示す10 号機東側(78deg 方向)約300m に位置する弁財天山(標高519m)の影響と推察された。 5.数値風況シミュレーション条件の概要 本研究では、耐久性(ブレード曲げ)に影響を与える風況特性を定量的に評価するため、地形性乱流の影響が大きいと推察された東風と、第3 章および第4 章で差異が確認された北風の計2 方位を対象に数値風況シミュレーションを実施した。 数値風況シミュレーションでは、実地形版RIAM- COMPACT を用いた1-3)。 図8 に示すように、東風の場合の風況シミュレーション条件を設定した。地形標高データは、国土地理院の ・メッシュ数:2,401×401×101点(約9,700万点) ・風速:平成12年建設省告示1454号で与えられる粗度区分Ⅲの風速プロファイル ・水平方向の最小メッシュ幅:5m(等間隔) ・鉛直方向の最小メッシュ幅:約1.5m(不等間隔) 図8 風況シミュレーション条件の概要(東風の場合) 空間解像度10m の標高データを用いた。なお、北風の場合のシミュレーション条件についても、東風の場合と同じである。 6.計算結果の考察 ここでは、東風の場合に地形性乱流の影響を大きく受けていると推測された風車10 号機に主眼を置いて考察を行う。併せて、東風と比較してDEL と風速標準偏差が小さかった北風との比較についても考察する。 図9 には風車10 号機に進入する主流方向風速の分布 (瞬間場)を示す。この図を観察すると、東風が吹いた場合、10 号機の上流に位置する弁財天山から剥離流(地形性乱流)が形成され、10 号機風車はこの影響を強く受けていることが視覚的に明らかになった。 図10 には、東風が発生している際の風車10 号機地点における速度ベクトルの鉛直分布(瞬間場)を示す。 図11 には、図10 の時刻に対応した主流方向風速の鉛直分布(瞬間場)を示す。同図には、10 分間(実時間)の平均風速(紫線)と、それからの変動振幅(青線)も示す。この図を詳細に吟味すると、風車10 号機の東風の場合、ブレード受風面内では大きな風速の変動幅が発生していることが明確に確認される。 表4 に、数値風況シミュレーション結果より算出された乱流評価指標〔=σu(風車ハブ高さ風速標準偏差)/U (流入境界面風速=10m/s)〕を示す。表4 に着目すると、第3 章および第4 章で得られたDEL と風速標準偏差との強い相関性が、数値風況シミュレーション結果からも同様に確認される。これらの風況シミュレーションデータ (図9、図10、図11 参照)解析結果から、乱流評価指標を確認すれば、その場の乱流影響と風車ブレードDEL の 図9 東風時、10 号機風車の受ける主流方向(x)の風速分布(瞬間場) 大小を確認出来ることが分った。 図10 東風時、10 号機風車地点における主流方向(x)の風速成分〈u〉の速度ベクトル鉛直分布(瞬間場) 図11 東風時、10 号機風車の受ける鉛直断面内の主流方向(x)の風速成分〈u〉の変動 表4 風車10 号機地点におけるハブ中心(地上高60m)の乱流評価指標とDEL の関係 注)乱流評価指標=σu(風車ハブ高さ風速標準偏差)/ U(流入境界面風速=10m/s) 風向 乱流評価指標σu 風速とDEL(等価疲労荷重)の傾き(a) 主流方向(x)の(u)成分 東風 0.24 0.20 北風 0.10 0.10 7.ブレード寿命評価への応用 図12 に、図6 の実測で得られた東風と北風の風速-DEL の値を重回帰直線で近似した疲労荷重を示す。同図の2 本の線は、東風(乱流強度0.19)の際、風速6~10m/s の場合で設計値を超えている。北風(乱流強度0.11)の際、全風速階級で設計値を下回っている。 次に、表5 に実測データ解析により得られた疲労荷重と乱流評価指標の関係を提案する。 本研究では、実測データの解析結果に基づき、ストレス(疲労蓄積)の影響を評価するため、乱流評価指標を用いて、0.2 を超える領域を乱流大、0.1 未満の領域を乱流小、それ以外の0.1~0.2 の領域を乱流中と定義する。これは、乱流と風車運用管理(保守・運転)意識を結 びつける数値と考えられる。 図12 に示す2 本の疲労荷重式と、風車10 号機のナセル風速・風向データ10 分間値〔2015 年4 月~2016 年3 月(1 年間)〕を用いて、北風時と東風時のブレード(曲げ)のDEL を積算し、ストレス(疲労蓄積)割合を試算した結果、設計DEL に対する実測DEL の割合は、東風時は0.86、北風時は0.56 となり、設計を満足する結果となった(表6 参照)。 また、東風時の疲労割合は0.86 となり、北風と比べて大きな結果となった。 2.0 1.5 1.0 DEL 0.5 0.0 4681012141618 風速(m/s) 図12 疲労荷重(風速-DEL)〔実測〕 表5 疲労荷重と乱流評価指標 疲労荷重 乱流評価指標 疲労蓄積 大 0.2 小 0.1 表6 ブレードストレス(疲労蓄積)割合試算結果 ①実測DEL ②設計DEL ストレス(疲労蓄積) 割合(①/②) 東風 891 1,031 0.86 北風 1,974 3,517 0.56 8.結 言 鹿児島県いちき串木野市羽島地区に位置する九電工新エネルギー(株)の串木野れいめい風力発電所10 号機(平成24 年11 月より運転を開始)を対象に実測データの解析および実地形版RIAM-COMPACT ソフトウエアを用いて高解像度の風況シミュレーションを実施した。 その結果、東風が発生した場合、10 号機の風車上流(東方位)に位置する弁財天山(標高519m)が要因となり、そこから風の乱れ(地形性乱流)が発生し、風車10 号機はその影響を強く受けていることが示された(図9 参照)。 次に、ブレード歪み実測データに基づく風速-DEL(ブレード曲げ)データにより得られた乱流強度0.19 および 0.11 の疲労荷重式を使用して、寿命評価を行った結果、東風時は、北風時と比べて乱流強度が大きく、寿命に悪影響を及ぼすことが明確に示された。また、風況シミュレーションでも図9、図10、図11 に示される様に、東風時は、乱流傾向にあることが示された。 以上の結果から、乱流評価数値が0.2 を超える場合は、保守・運転に乱流が大きな影響を与える領域、0.2~0.1 の場合は、風速によって、保守・運転を考慮する必要がある領域、0.1 未満の場合は、保守・運転に問題のない領域として提案する。 一連の定性的かつ定量的な考察を通じて、本研究で実 施した寿命予測方法は、疲労蓄積の大きい風向や、寿命 の大小の傾向を把握するために有意であると考えられる。しかしながら、実際の風況と風況シミュレーション結果 には、まだ若干の差異がある。このため実測データと風 況シミュレーション結果の関係性を明らかにし、高度な 風車ブレード寿命予測評価手法の確立を目指す予定であ る。 謝 辞 本研究で対象とした串木野れいめい風力発電所地点において、九電工新エネルギー㈱で取得された実測データを使用させて頂きました。ここに記して感謝の意を表します。 参考文献 内田孝紀、大屋裕二、LES 技術を用いたウィンドファーム風況診断―熊本県阿蘇車帰風力発電所を例として―、土木学会論文集A2(応用力学、Vol.67、特集号 (2011) T.Uchida and Y.Ohya, Latest Developments in Numerical Wind Synopsis Prediction Using the RIAM-COMPACT? CFD Model-Design Wind Speed Evaluation and Wind Risk (Terrain-Induced Turbulence) Diagnostics in Japan, Energies, 4(3), pp.458-474 (2011) 川島泰史、内田孝紀:地形性乱流が風車構造強度に 与える影響に関する研究(非定常乱流モデルLES による地形性乱流診断)、日本風力エネルギー学会論文集、Vol.41、No.2、pp.17-24、2017 清木荘一郎、内田孝紀他3 名:地形乱流が風車構造強度に与える影響に関する研究(その3:複雑地形での疲労荷重に対する実測評価および予測技術開 発)、日本風力エネルギー学会主催、第38 回風力エネルギー利用シンポジウム、pp.459-462、2016
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