連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置の開発
公開日:
カテゴリ: 第17回
連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置の開発
Development of large flow rate micro differential pressure intake type volcanic ash removal device capable of continuous operation
北海道電力㈱
伊藤康隆
YasutakaITO
Member
北海道電力㈱
田口優
SatoruTAGUCHI
Non-member
北海道電力㈱
伊藤健太郎
KentarouITO
Non-member
北海道電力㈱
今村瑞
MitsuruIMAMURA
Non-member
北海道電力㈱
砂川雅志
MasashiSUNAGAWA
Non-member
HK テクノロジー㈱HK テクノロジー㈱東 北 大 学
東 北 大 学
高木祐
長澤裕之
伊藤克美
庄子哲雄
HiroshiTAKAGI HiroyukiNAGASAWA KatsumiITO
TetsuoSHOJI
Member Non-member Non-member Member
Abstract:
At nuclear power plants, measures are required for emergency power supply equipment under the condition that high-concentration volcanic ash will continue to fall on the order of several g / m3 for 24 hours. A pre-filter is installed as the main countermeasure, but a lot of manpower is required in anticipation of clogging. Therefore, it is desired to develop a device with a capability to stably remove a large amount of high-concentration volcanic ash from intake air for a long period.
In this work, a volcanic ash removal device is designed and fabricated, and its long period stable operational performance is demonstrated in terms of high ash removal efficiency, semi-maintenance free and small pressure drop with a large volumetric air intake capability.
Keywords:
volcanic ash removal device, small differential pressure air intake, large volumetric flow rate, semi-maintenance free, cold region specifications, high ash removal efficiency
1.緒言
平成25 年7 月に福島第一原子力発電所の事故の教訓や世界の最新知見を踏まえて原子力規制委員会が策定した
「新規制基準」が施行された。原子力発電所の再稼働に あたっては、「新規制基準」に従って、テロ対策、過酷事故対策、耐震・耐津波性能の強化、自然現象に対する 考慮の新設、電源の信頼性の強化等、幾重にも安全性を 確保、維持するためのハードとソフトの対策が要求されている。その対策のひとつが近隣火山の噴火が発生した 場合においても炉心の著しい損傷を防止する準備であ る。泊発電所においては、火山現象時においても炉心損 傷防止に必要となる電力供給を安定的にできるよう外気 の取入れが必須である大容量の電源設備に対して火山灰
連絡先:砂川 雅志、〒060-8677 北海道札幌市中央区大通東 1 丁目 2 番地、北海道電力(株) 原子力事業統括部 原子力リスク管理グループ、
E-mail:H2004007@epmail.hepco.co.jp
除去が可能か検討してきた。本稿では、これまで検討し てきた省人化に向けた連続運転可能な火山灰除去装置の 概念設計及び原型試験装置の開発経緯と成果並びにその 実用化に向けた大流量実用化適正試験装置を用いた性能 評価試験結果について報告し、連続運転可能な大流量微 小差圧吸気型火山灰除去装置の実用可能性について述べ る。
2.火山現象に対する要求事項
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規制[1]の第八十三条 1 号ロにおいて、火山現象による影響への対策について要求事項が示されている。表1 にその抜粋を示す。
表1 要求事項抜粋
又、原子力発電所の火山影響評価ガイド[2]において、気中降下火砕物濃度が新たに定義され、気中降下火砕物 濃度の推定手法とその計算方法が示されている。ここで気中降下火砕物濃度は、火山影響評価ガイドに規定され た降灰継続時間を仮定して降灰量から推定する手法によ り算出した。具体的には、原子力発電所の敷地において 運用期間中に想定される降下火砕物がある期間(降灰継 続時間)に堆積したと仮定して、降下火砕物の粒径の割 合から求める粒径ごとの堆積速度と粒径ごとの終端速度 から算出される粒径ごとの気中濃度の総和を、気中降下 火砕物濃度として求め、火山現象による影響評価に供し た。火山現象時に対策が必要となる設備として、外部電 源喪失時または全交流電源喪失時においても炉心の著し い損傷を防止するための必要となる設備の一つである大 型ディーゼル発電機を対象とした。本設備は、非常用電源の主力として設置されているものであり、運転時には 大量の大気の吸い込みが不可避であることから対策設備 として選定した。火山現象による影響としては、高濃度 の火山灰を含む大量の大気吸い込みによる吸気フィルタ ーの目詰まりによる発電機の動作不良が想定され、非常 用電源の喪失に至るリスクを有する。従って、このよう な状況に適切に対応できる火山灰除去装置の設置が不可 欠であり、そのような非常事態を想定すれば、可能な限 り省人化を図り、必要とされる時間、連続的に運転が可 能であることが望まれる。また、火山現象時には外部電 源を期待しないことから、装置動作の駆動力としては、 電源を必要とせずにディーゼルエンジンの吸気力を利用 することとした。また、吸気力に影響を及ぼしてディー ゼルエンジン本来の性能に影響を及ぼす事の無いよう に、駆動差圧は、出来るだけ小さい事が望ましい。この ような環境条件の下で安定に動作する装置として具備す べき性能を表現したものが、「連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置」であり、今般、実用化に向けての一定の見通しが得られたので報告する。
3.火山灰対策設備の基本構想
「連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置」において具備すべき性能要件についてはすでに概説 したが、多くの要件を高い信頼性を持って満足できる装置として幾つかの既存技術、ここでは流通形式として重力集塵、遠心力集塵そして電気集塵を、障害物形式として 慣性力集塵、洗浄集塵、エアフィルター及び粒子充填層を、そして隔壁形式としてバグフィルター及びセラミックフィルターについて性能要件の達成可能性を検討した結果、 小さな差圧損失を制御でき、目詰まりの無い装置として 水フィルター(管群スクラバー)を基本概念として構想し、 検討を進めた。具体的には、今回の要求性能では大量の大気と大気に含まれる多量の火山灰を処理する必要があるために、管群スクラバーは、分離・回収した火山灰を管群 スクラバー内部の液体に堆積させるため、大量の火山灰を長時間にわたって処理した場合には、管群スクラバー内部に大量の火山灰が蓄積し、液面の変動をもたらす事となる。あるいは大きな貯留水槽が必要となり、既存発電
設備への付設に制約が生ずる。このような状況を回避するために、管群スクラバー前段に慣性衝突を利用したルーバー型の前置セパレーターを設置し、比較的大きな粒径を前段で除去し、小粒径の火山灰を管群スクラバーで除去するシステムを基本構想とした。具体的な検討を進めるにあたって、最終的な実用化を見越した設計要件を 設定し、単一要素試験により動作並びに火山灰除去性能 について予備的検討を経て、原型試験装置並びに実用化の可能性の目途を得るための大流量実証試験装置の製作 と性能評価を行った。単一要素試験の模式図を図 1 に示す。単一の管先端が所定の深さの液面下に位置づけられ、水面側から吸気減圧され、管内空気が水溶液内にて発泡 し、空気と水溶液の混合が行われ、空気側に含まれる火山灰を想定した無機粒子群が水側に移行する仕組みである。
図1 管群スクラバーの基本要素と原理
また、前置セパレーターと管群スクラバーの組み合わ せによる基本構成図を図 2 に示す。以降の装置設計及び製作に当たっては、この基本構成を維持している。
図2 2 段式火山灰除去装置の基本構成
火山灰対策設備の設計要件について表 2 に示す。気中降下火砕物濃度、粒径分布、降灰継続時間、電源設備の吸 気量、許容吸気圧力損失、火山灰除去率、省人化等につい ての要件を示している。 表 2 に示している実用化に向けての設計要件を満たす装置の開発については、開発を段階的に進め、図 1、図 2 に示す基本構想/基本構成に基づいた中間的性能を目指した原型試験装置の設計と製作 並びに設計要件を満足する大流量実用化適正試験装置の 設計と製作である。以下にそれぞれについての装置の概要とその性能について述べる。
表2 火山灰対策設備の実用化検討設計要件
※ 濃度、粒径分布については、再評価中
4.基本構想に基づいた原型試験装置の製作と評価
原型試験装置の構成
設計・試作した原型試験装置の概略図並びに実際の装 置の外観を図 3 及び図 4 に示す。図 3 には平面図並びに側面図を示してあり、セパレーター及び管群スクラバー の位置関係と空気の流れを示している。現地における付 設を想定し、装置としての長さ、幅及び高さが考慮されて おり、長さを制限するために空気の入りと出の方向が反転している。
図3 原型試験装置の概略図
図4 原型試験装置の外観
主要な設計パラメータである吸気流量は、吸引ファンの選択により最大2,000m3/h 程度まで可能であるが、ここでは 1,500 m 3/h 程度で、以下に示す種々の性能要件達成度を試験した。
捕集率評価試験粉体の検討(模擬火山灰)
火山灰(粉体)捕集性を評価するに当たっては、大量の試験粉体を使用するため、実火山灰の大量入手、粒径分布の 調整等に工期及び費用が高額になる事などから、代替模 擬火山灰として粒度分布が知られている市販の硅砂を採用し、実火山灰と共に評価用小型管群スクラバーを製作 し捕集性確認試験に供した。それぞれの粉体の捕集性比較を行い、模擬火山灰使用の妥当性若しくは保守性を検 討した。比重、粒度分布ともに実火山灰よりも小さい硅砂 6号と実火山灰との比較試験結果は、同じ流量条件にお いてミニチュア管群スクラバーにそれぞれ 1,000g の粉体を投入したところ、実火山灰の捕集率は99.99%(0.1g 未満未捕集)であるのに対して、硅砂の捕集率は99.82%(1.8g 未捕集)となり、硅砂6 号の方が捕集率が低く、捕集率としては厳しい結果となった。この結果を踏まえ、以降の試験 においては、捕集率を厳しく評価できる硅砂6号を試験 粉体とした。
原型試験装置の性能評価
原型試験装置の性能評価を行うため、模擬火山灰を用 いて流量1,500 ?/h において6 時間の試験を実施した。性能評価に必要な各諸量の計測を行った。図 5 に、圧力、温度、湿度並びに流速測定位置を示す。
図5 原型試験装置と性能評価のための諸量測定位置
時間の連続運転による粉体除去性能を評価した。投入 粉体量は、吸気中の粉体濃度を想定粉体濃度値の3.74g/m3 の2 倍の7.48g/m3 とし、流量と時間より算出し
67.32kg とした。粉体捕集率は、バックアップフィルターの試験前後の質量増加量と投入粉体量より、次式にて 算出した。なお、バックアップフィルターは粒子径0.3μm で99.99%の捕集率が得られるものを使用した。
捕集率(%)=1 ? (フィルター増加質量÷投入粉体量)
性能評価の結果を表3 に示す。2 回の6 時間連続運転により得られた捕集率は共に99.99%以上の性能を示しており、高い粉体除去効率を有している事が分かる。
表3 6 時間連続運転による粉体捕集率の結果
次に原型試験装置の空気の流れに伴う圧力損失について評価した。図5 に示した各圧力測定点での圧力を、流れの流路と共に示したのが図6 である。セパレーター吸気口の吸気圧力を基準に、流路に沿った吸気圧力を示し ており、フィルター部までの流路距離4m での圧力損失は500Pa 以下であり、設備側の差圧の要件を満足した。
図6 流路に沿った圧力損失
管群スクラバーにおける激しい気液混合により、下流側 の湿度変化が想定されるため、湿度の経時変化について 調査した。結果を図7 に示す。
図7 管群スクラバー下流湿度の経時変化
時間の連続運転中でも湿度はほぼ変わらず 50~60%で安定的に推移した。上記試験結果により、本原型試験装置は、要求性能を満足する事が示されたが、粉体捕集の中身 を吟味するために、セパレーター部並びに管群スクラバー部において捕集された粉体の採取と粒子径分布測定を行った。粉体採取位置は、3 か所であり、1 段目セパレーター粉体回収部、2 段目セパレーター粉体回収部並びに管群スクラバー液中底部であり、それぞれ試料①、②及び③ とする。採取位置を図8 に示す。
図8 粒子の採取位置
粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置
(LA-950V2 堀場製作所製)により測定した。結果を図9 に示す。粒度分布のメジアン径、粒度分布並びに光学顕微 鏡像が示されており、慣性衝突による捕集部には、0.5 ㎜程度の粒径の大きな粒子が捕集されており、管群スクラバー部は、より細粒の粒子が捕集されている。
図9 セパレーター部及び管群スクラバー部で捕集された粒子の粒径分布計測結果
長時間安定稼働性能評価
管群スクラバーの粉体堆積環境における性能確認
24 時間運転により、管群スクラバー内部に火山灰が堆積したことを想定し、原型試験装置の管群スクラバー内部に事前に粉体を入れた状態での捕集率を確認する。試験条件は、吸気流量これまでと同じで、1,500m3/h であるが、試験時間は10 分とし、セパレーターの捕集率を90% と想定し、24 時間の稼働により管群スクラバー部に相応の粉体が堆積した状態での管群スクラバーの捕集率を評価する。又、セパレーターで捕集できない細粒径粉体を想定してここでは硅砂 6 号ではなく硅石紛特粉を用いた。投入粉体量は 500g である。得られた結果を表 4 に示す。
表4 長期運転後の管群スクラバー捕集率
管群スクラバー内部に保守的に大量の粉体が堆積した状 態を想定した条件下においても十分な粒子捕集性能を有 する事が確認できた。
低温環境下における動作確認
冬季の特殊な状況として冬季設計外気温度である-19℃ 環境下においてもスクラバー液が凍結することなく長時 間安定に作動する事が要求性能の一つとなる。環境等への影響も考慮し、ここでは、最低気温を-19℃と想定して、低温環境下における管群スクラバー液を塩化カルシウム 水溶液とした。本試験を目的として小型管群スクラバー を作製し、28.6wt%塩化カルシウム水溶液を動作流体として、-19℃の低温室において安定稼働性能評価試験を行っ た。図10 に試験装置を示す。動作確認のために、外気温度、管外表面温度及び水溶液の温度測定を行った。
図10 -19℃における管群スクラバー動作試験
得られた結果を図11 及び図12 に示す。図11 は、-19℃の大気を吸気して作動している小型管群スクラバーの動作 状態を示す写真である。塩化カルシウム水溶液中に吸気 された空気が管先端で激しく発泡している様子が分かる。
図11 外気温度-19℃における小型管群スクラバーの作動状況(発泡部が白く見える)
図12 は、その時の周囲温度、管外表面温度並びに塩化カルシウム水溶液温度の経時変化を示す。試験は周囲温度 とスクラバー液が同一温度となるまで継続し、試験開始 後、約45 分で周囲温度とスクラバー液温が等しくなったが、スクラバー液は凍結する事なく、作動を継続した。
図12 -19℃外気環境下における小型管群スクラバーの動作中の管外表面温度並びに水溶液温度の経時変化
管群スクラバー内部溶液揮発量の確認
管群スクラバーは、大気中粉体の除去のために作動に伴い激しく気液混合が生じる。それに伴い湿分や飛沫として管群スクラバー液が減少する。ここでは、長時間安定 稼働性能評価試験の一環として、小型管群スクラバー試験装置を作製し、揮発量データを取得し、補充の必要性と その対応策に資する事とした。管群スクラバー液として は、低温環境に対応できることが分かっている塩化カルシウム水溶液とし、動作時間と共に揮発量を計測・評価し た。図13 に(a)小型管群スクラバーの概略図並びに(b)一部拡大図を示す。
(a)
(b)
図13 (a)小型管群スクラバーの概略図並びに(b)一部拡大図
得られた結果を図 14 に示す。揮発量の評価においては、ノズル先端がスクラバー液に浸漬している事が必須であり、今回の評価においては、スクラバー先端の浸漬深さがノズル先端から 10mm を下回るまでの時間を試験時間とした。
図14 動作時間に伴う単位面積当たりの揮発量の増加
試験結果に基づく試算では、178 分後にノズル先端の浸漬深さが10mm を下回る事となる。ここで性能評価用に使用している装置においては、スクラバー液の飛沫等をシステムの流路内において捕捉し、還流させることが出来るので、ここでの時間は、極めて保守的な時間と考えて良い。
5.大流量実証試験装置の構成
大流量試験装置
これまで述べてきた小型管群スクラバー並びに原型試 験装置を用いて要求性能の達成可能性を検討してきたが、 今後さらなる詳細検討が必要な課題もあるが、概ね想定 気中降下火砕物濃度に対応可能な微小差圧吸気型火山灰 除去装置の基本構成の妥当性が示された。この基本構成を実機への適用可能性を評価するためには、実機相当の大流量条件を想定した大流量試験装置の設計と製作が必 要である。設計要件としての実機適用流量としては、適用対象の一つある非常用発電設備の吸気量が、100,000m3/h 程度あるいはそれ以上である事を勘案し、加えてそれを 付設する空間的制限より10 台程度の大流量試験装置で対応するとすれば 1 台の大流量試験装置として 10,000 ?/h の空気を処理できる試験装置が必要となる。原型試験装置を基本として大流量試験装置の設計と製作を行った。
図 15 に大流量実用化適正試験装置の概略図を、図 16
にその製作後の試験装置の外観を示す。
図15 大流量実用化適正試験装置の概略図
図16 大流量実用化適正試験装置の外観
(内部を可視化するため装置は透明塩ビ板製)
装置寸法は、実機適用を想定し、吸気口からバックアップ フィルター直前までの装置寸法を高さ2m、幅1m そして長さ 2m とし、単一ユニットで10,000 m3/h 以上の処理を想定して製作を行った。セパレーターが設置されている 吸気口から吸引された大気は、中心部の垂直ダクト部を下降し、スクラバー管群口より管内を下降し水中に浸漬している管出口より水中に発泡して水溶液と混合され、気中の粒子は水中に移行し除去される。その後、管群スク ラバー部を出て、上部通路に流れ、吸気ファンによりバッ クアップフィルターを通過して出口配管を経て大気に放出されている。
本装置を用いた性能試験条件を表5 に示す。試験条件は2 条件であり、①規定流量10,000 m3/h で試験時間60 分並びにそれに相応する粉体の投入量と②最大流量(許 容吸気抵抗圧力2.5kPa 時)11,899m3/h で試験時間18 分並びにそれに相応する粉体投入量である。管群スクラバ ー先端は15 ㎜水中に没している。
表5 大流量実用化適正試験装置による試験条件
粉体の捕集率評価には、バックアップフィルターの試験 前後の重量増加量並びに内部での圧力損失は、流路内の 圧力測定により求めた。圧力測定点を図17 に示す。
図17 圧損評価用圧力測定点
スクラバー内の流動圧損は、セパレーター出口とスクラ バー出口の圧力差で評価した。
大流量実用化適正試験装置での評価試験結果
得られた試験結果を表6 に示す。いずれの試験条件においても粉体捕集率99.9%以上であり、圧力損失は①条件で1,950Pa、②条件で2,500Pa である。
表6大流量実用化適正試験装置を用いた捕集率及び圧損の評価試験結果
いずれの条件においても、捕集率及び圧力損失共に実用 化適性について一定の目途が得られた。
6.結言
1)セパレーターと管群スクラバーの2段階プロセスを 用いた原型試験設備を用いた性能調査試験により、吸気 流量1,500 ?/h で6 時間の連続運転において99.9%以上の捕集率が得られた。また、圧力損失は、500Pa 程度と低圧損であり、湿度においても、50~60%で安定していること を確認した。
2)スクラバーの24 時間運転を想定した性能評価試験により、スクラバー液内に大量に堆積した条件下において も捕集性能が維持できることを確認した。また、-19℃の 低温環境下においても塩化カルシウム水溶液がスクラバー液として凍結せずに作動することを確認し、おおよそ の揮発量についても確認した。
3)原型試験装置の成果を踏まえて設計・製作された大流量実用化適正試験装置により実機適用を見据えた試験条 件においても要求性能を満足する結果を得ることが出来、 実用化に向けて目途を得た。
4)大流量実用化適正試験装置を用いた性能調査試験に より、10,000 ?/h で60 分の連続運転において99.9%以上の捕集率が得られた。また、圧力損失は、1,950Pa 程度と低圧損で安定していることを確認した。
5)今後は、24 時間運転における実証を進めるとともに、運転中に必要となるスクラバーの液面制御、セパレータ ーからの除灰機能について更なる検討を進め、実用化段 階への移行を目指す。
6)今回は、大容量かつ高い捕集率の実現のために2段階 のプロセスを用いた火山灰除去装置としたが、捕集率には裕度があるが、圧力損失の許容範囲が小さい場合には前段のセパレーターだけを用いた対策も条件によっては有用であることも確認した。今後、セパレーター単体での 火山灰除去についても検討を進める。
参考文献
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規制https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=353M50000400077
原子力発電所の火山影響評価ガイドpp.28-31. https://www.nsr.go.jp/data/000294814.pdf
連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置の開発
Development of large flow rate micro differential pressure intake type volcanic ash removal device capable of continuous operation
北海道電力㈱
伊藤康隆
YasutakaITO
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田口優
SatoruTAGUCHI
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伊藤健太郎
KentarouITO
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北海道電力㈱
今村瑞
MitsuruIMAMURA
Non-member
北海道電力㈱
砂川雅志
MasashiSUNAGAWA
Non-member
HK テクノロジー㈱HK テクノロジー㈱東 北 大 学
東 北 大 学
高木祐
長澤裕之
伊藤克美
庄子哲雄
HiroshiTAKAGI HiroyukiNAGASAWA KatsumiITO
TetsuoSHOJI
Member Non-member Non-member Member
Abstract:
At nuclear power plants, measures are required for emergency power supply equipment under the condition that high-concentration volcanic ash will continue to fall on the order of several g / m3 for 24 hours. A pre-filter is installed as the main countermeasure, but a lot of manpower is required in anticipation of clogging. Therefore, it is desired to develop a device with a capability to stably remove a large amount of high-concentration volcanic ash from intake air for a long period.
In this work, a volcanic ash removal device is designed and fabricated, and its long period stable operational performance is demonstrated in terms of high ash removal efficiency, semi-maintenance free and small pressure drop with a large volumetric air intake capability.
Keywords:
volcanic ash removal device, small differential pressure air intake, large volumetric flow rate, semi-maintenance free, cold region specifications, high ash removal efficiency
1.緒言
平成25 年7 月に福島第一原子力発電所の事故の教訓や世界の最新知見を踏まえて原子力規制委員会が策定した
「新規制基準」が施行された。原子力発電所の再稼働に あたっては、「新規制基準」に従って、テロ対策、過酷事故対策、耐震・耐津波性能の強化、自然現象に対する 考慮の新設、電源の信頼性の強化等、幾重にも安全性を 確保、維持するためのハードとソフトの対策が要求されている。その対策のひとつが近隣火山の噴火が発生した 場合においても炉心の著しい損傷を防止する準備であ る。泊発電所においては、火山現象時においても炉心損 傷防止に必要となる電力供給を安定的にできるよう外気 の取入れが必須である大容量の電源設備に対して火山灰
連絡先:砂川 雅志、〒060-8677 北海道札幌市中央区大通東 1 丁目 2 番地、北海道電力(株) 原子力事業統括部 原子力リスク管理グループ、
E-mail:H2004007@epmail.hepco.co.jp
除去が可能か検討してきた。本稿では、これまで検討し てきた省人化に向けた連続運転可能な火山灰除去装置の 概念設計及び原型試験装置の開発経緯と成果並びにその 実用化に向けた大流量実用化適正試験装置を用いた性能 評価試験結果について報告し、連続運転可能な大流量微 小差圧吸気型火山灰除去装置の実用可能性について述べ る。
2.火山現象に対する要求事項
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規制[1]の第八十三条 1 号ロにおいて、火山現象による影響への対策について要求事項が示されている。表1 にその抜粋を示す。
表1 要求事項抜粋
又、原子力発電所の火山影響評価ガイド[2]において、気中降下火砕物濃度が新たに定義され、気中降下火砕物 濃度の推定手法とその計算方法が示されている。ここで気中降下火砕物濃度は、火山影響評価ガイドに規定され た降灰継続時間を仮定して降灰量から推定する手法によ り算出した。具体的には、原子力発電所の敷地において 運用期間中に想定される降下火砕物がある期間(降灰継 続時間)に堆積したと仮定して、降下火砕物の粒径の割 合から求める粒径ごとの堆積速度と粒径ごとの終端速度 から算出される粒径ごとの気中濃度の総和を、気中降下 火砕物濃度として求め、火山現象による影響評価に供し た。火山現象時に対策が必要となる設備として、外部電 源喪失時または全交流電源喪失時においても炉心の著し い損傷を防止するための必要となる設備の一つである大 型ディーゼル発電機を対象とした。本設備は、非常用電源の主力として設置されているものであり、運転時には 大量の大気の吸い込みが不可避であることから対策設備 として選定した。火山現象による影響としては、高濃度 の火山灰を含む大量の大気吸い込みによる吸気フィルタ ーの目詰まりによる発電機の動作不良が想定され、非常 用電源の喪失に至るリスクを有する。従って、このよう な状況に適切に対応できる火山灰除去装置の設置が不可 欠であり、そのような非常事態を想定すれば、可能な限 り省人化を図り、必要とされる時間、連続的に運転が可 能であることが望まれる。また、火山現象時には外部電 源を期待しないことから、装置動作の駆動力としては、 電源を必要とせずにディーゼルエンジンの吸気力を利用 することとした。また、吸気力に影響を及ぼしてディー ゼルエンジン本来の性能に影響を及ぼす事の無いよう に、駆動差圧は、出来るだけ小さい事が望ましい。この ような環境条件の下で安定に動作する装置として具備す べき性能を表現したものが、「連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置」であり、今般、実用化に向けての一定の見通しが得られたので報告する。
3.火山灰対策設備の基本構想
「連続運転可能な大流量微小差圧吸気型火山灰除去装置」において具備すべき性能要件についてはすでに概説 したが、多くの要件を高い信頼性を持って満足できる装置として幾つかの既存技術、ここでは流通形式として重力集塵、遠心力集塵そして電気集塵を、障害物形式として 慣性力集塵、洗浄集塵、エアフィルター及び粒子充填層を、そして隔壁形式としてバグフィルター及びセラミックフィルターについて性能要件の達成可能性を検討した結果、 小さな差圧損失を制御でき、目詰まりの無い装置として 水フィルター(管群スクラバー)を基本概念として構想し、 検討を進めた。具体的には、今回の要求性能では大量の大気と大気に含まれる多量の火山灰を処理する必要があるために、管群スクラバーは、分離・回収した火山灰を管群 スクラバー内部の液体に堆積させるため、大量の火山灰を長時間にわたって処理した場合には、管群スクラバー内部に大量の火山灰が蓄積し、液面の変動をもたらす事となる。あるいは大きな貯留水槽が必要となり、既存発電
設備への付設に制約が生ずる。このような状況を回避するために、管群スクラバー前段に慣性衝突を利用したルーバー型の前置セパレーターを設置し、比較的大きな粒径を前段で除去し、小粒径の火山灰を管群スクラバーで除去するシステムを基本構想とした。具体的な検討を進めるにあたって、最終的な実用化を見越した設計要件を 設定し、単一要素試験により動作並びに火山灰除去性能 について予備的検討を経て、原型試験装置並びに実用化の可能性の目途を得るための大流量実証試験装置の製作 と性能評価を行った。単一要素試験の模式図を図 1 に示す。単一の管先端が所定の深さの液面下に位置づけられ、水面側から吸気減圧され、管内空気が水溶液内にて発泡 し、空気と水溶液の混合が行われ、空気側に含まれる火山灰を想定した無機粒子群が水側に移行する仕組みである。
図1 管群スクラバーの基本要素と原理
また、前置セパレーターと管群スクラバーの組み合わ せによる基本構成図を図 2 に示す。以降の装置設計及び製作に当たっては、この基本構成を維持している。
図2 2 段式火山灰除去装置の基本構成
火山灰対策設備の設計要件について表 2 に示す。気中降下火砕物濃度、粒径分布、降灰継続時間、電源設備の吸 気量、許容吸気圧力損失、火山灰除去率、省人化等につい ての要件を示している。 表 2 に示している実用化に向けての設計要件を満たす装置の開発については、開発を段階的に進め、図 1、図 2 に示す基本構想/基本構成に基づいた中間的性能を目指した原型試験装置の設計と製作 並びに設計要件を満足する大流量実用化適正試験装置の 設計と製作である。以下にそれぞれについての装置の概要とその性能について述べる。
表2 火山灰対策設備の実用化検討設計要件
※ 濃度、粒径分布については、再評価中
4.基本構想に基づいた原型試験装置の製作と評価
原型試験装置の構成
設計・試作した原型試験装置の概略図並びに実際の装 置の外観を図 3 及び図 4 に示す。図 3 には平面図並びに側面図を示してあり、セパレーター及び管群スクラバー の位置関係と空気の流れを示している。現地における付 設を想定し、装置としての長さ、幅及び高さが考慮されて おり、長さを制限するために空気の入りと出の方向が反転している。
図3 原型試験装置の概略図
図4 原型試験装置の外観
主要な設計パラメータである吸気流量は、吸引ファンの選択により最大2,000m3/h 程度まで可能であるが、ここでは 1,500 m 3/h 程度で、以下に示す種々の性能要件達成度を試験した。
捕集率評価試験粉体の検討(模擬火山灰)
火山灰(粉体)捕集性を評価するに当たっては、大量の試験粉体を使用するため、実火山灰の大量入手、粒径分布の 調整等に工期及び費用が高額になる事などから、代替模 擬火山灰として粒度分布が知られている市販の硅砂を採用し、実火山灰と共に評価用小型管群スクラバーを製作 し捕集性確認試験に供した。それぞれの粉体の捕集性比較を行い、模擬火山灰使用の妥当性若しくは保守性を検 討した。比重、粒度分布ともに実火山灰よりも小さい硅砂 6号と実火山灰との比較試験結果は、同じ流量条件にお いてミニチュア管群スクラバーにそれぞれ 1,000g の粉体を投入したところ、実火山灰の捕集率は99.99%(0.1g 未満未捕集)であるのに対して、硅砂の捕集率は99.82%(1.8g 未捕集)となり、硅砂6 号の方が捕集率が低く、捕集率としては厳しい結果となった。この結果を踏まえ、以降の試験 においては、捕集率を厳しく評価できる硅砂6号を試験 粉体とした。
原型試験装置の性能評価
原型試験装置の性能評価を行うため、模擬火山灰を用 いて流量1,500 ?/h において6 時間の試験を実施した。性能評価に必要な各諸量の計測を行った。図 5 に、圧力、温度、湿度並びに流速測定位置を示す。
図5 原型試験装置と性能評価のための諸量測定位置
時間の連続運転による粉体除去性能を評価した。投入 粉体量は、吸気中の粉体濃度を想定粉体濃度値の3.74g/m3 の2 倍の7.48g/m3 とし、流量と時間より算出し
67.32kg とした。粉体捕集率は、バックアップフィルターの試験前後の質量増加量と投入粉体量より、次式にて 算出した。なお、バックアップフィルターは粒子径0.3μm で99.99%の捕集率が得られるものを使用した。
捕集率(%)=1 ? (フィルター増加質量÷投入粉体量)
性能評価の結果を表3 に示す。2 回の6 時間連続運転により得られた捕集率は共に99.99%以上の性能を示しており、高い粉体除去効率を有している事が分かる。
表3 6 時間連続運転による粉体捕集率の結果
次に原型試験装置の空気の流れに伴う圧力損失について評価した。図5 に示した各圧力測定点での圧力を、流れの流路と共に示したのが図6 である。セパレーター吸気口の吸気圧力を基準に、流路に沿った吸気圧力を示し ており、フィルター部までの流路距離4m での圧力損失は500Pa 以下であり、設備側の差圧の要件を満足した。
図6 流路に沿った圧力損失
管群スクラバーにおける激しい気液混合により、下流側 の湿度変化が想定されるため、湿度の経時変化について 調査した。結果を図7 に示す。
図7 管群スクラバー下流湿度の経時変化
時間の連続運転中でも湿度はほぼ変わらず 50~60%で安定的に推移した。上記試験結果により、本原型試験装置は、要求性能を満足する事が示されたが、粉体捕集の中身 を吟味するために、セパレーター部並びに管群スクラバー部において捕集された粉体の採取と粒子径分布測定を行った。粉体採取位置は、3 か所であり、1 段目セパレーター粉体回収部、2 段目セパレーター粉体回収部並びに管群スクラバー液中底部であり、それぞれ試料①、②及び③ とする。採取位置を図8 に示す。
図8 粒子の採取位置
粒度分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置
(LA-950V2 堀場製作所製)により測定した。結果を図9 に示す。粒度分布のメジアン径、粒度分布並びに光学顕微 鏡像が示されており、慣性衝突による捕集部には、0.5 ㎜程度の粒径の大きな粒子が捕集されており、管群スクラバー部は、より細粒の粒子が捕集されている。
図9 セパレーター部及び管群スクラバー部で捕集された粒子の粒径分布計測結果
長時間安定稼働性能評価
管群スクラバーの粉体堆積環境における性能確認
24 時間運転により、管群スクラバー内部に火山灰が堆積したことを想定し、原型試験装置の管群スクラバー内部に事前に粉体を入れた状態での捕集率を確認する。試験条件は、吸気流量これまでと同じで、1,500m3/h であるが、試験時間は10 分とし、セパレーターの捕集率を90% と想定し、24 時間の稼働により管群スクラバー部に相応の粉体が堆積した状態での管群スクラバーの捕集率を評価する。又、セパレーターで捕集できない細粒径粉体を想定してここでは硅砂 6 号ではなく硅石紛特粉を用いた。投入粉体量は 500g である。得られた結果を表 4 に示す。
表4 長期運転後の管群スクラバー捕集率
管群スクラバー内部に保守的に大量の粉体が堆積した状 態を想定した条件下においても十分な粒子捕集性能を有 する事が確認できた。
低温環境下における動作確認
冬季の特殊な状況として冬季設計外気温度である-19℃ 環境下においてもスクラバー液が凍結することなく長時 間安定に作動する事が要求性能の一つとなる。環境等への影響も考慮し、ここでは、最低気温を-19℃と想定して、低温環境下における管群スクラバー液を塩化カルシウム 水溶液とした。本試験を目的として小型管群スクラバー を作製し、28.6wt%塩化カルシウム水溶液を動作流体として、-19℃の低温室において安定稼働性能評価試験を行っ た。図10 に試験装置を示す。動作確認のために、外気温度、管外表面温度及び水溶液の温度測定を行った。
図10 -19℃における管群スクラバー動作試験
得られた結果を図11 及び図12 に示す。図11 は、-19℃の大気を吸気して作動している小型管群スクラバーの動作 状態を示す写真である。塩化カルシウム水溶液中に吸気 された空気が管先端で激しく発泡している様子が分かる。
図11 外気温度-19℃における小型管群スクラバーの作動状況(発泡部が白く見える)
図12 は、その時の周囲温度、管外表面温度並びに塩化カルシウム水溶液温度の経時変化を示す。試験は周囲温度 とスクラバー液が同一温度となるまで継続し、試験開始 後、約45 分で周囲温度とスクラバー液温が等しくなったが、スクラバー液は凍結する事なく、作動を継続した。
図12 -19℃外気環境下における小型管群スクラバーの動作中の管外表面温度並びに水溶液温度の経時変化
管群スクラバー内部溶液揮発量の確認
管群スクラバーは、大気中粉体の除去のために作動に伴い激しく気液混合が生じる。それに伴い湿分や飛沫として管群スクラバー液が減少する。ここでは、長時間安定 稼働性能評価試験の一環として、小型管群スクラバー試験装置を作製し、揮発量データを取得し、補充の必要性と その対応策に資する事とした。管群スクラバー液として は、低温環境に対応できることが分かっている塩化カルシウム水溶液とし、動作時間と共に揮発量を計測・評価し た。図13 に(a)小型管群スクラバーの概略図並びに(b)一部拡大図を示す。
(a)
(b)
図13 (a)小型管群スクラバーの概略図並びに(b)一部拡大図
得られた結果を図 14 に示す。揮発量の評価においては、ノズル先端がスクラバー液に浸漬している事が必須であり、今回の評価においては、スクラバー先端の浸漬深さがノズル先端から 10mm を下回るまでの時間を試験時間とした。
図14 動作時間に伴う単位面積当たりの揮発量の増加
試験結果に基づく試算では、178 分後にノズル先端の浸漬深さが10mm を下回る事となる。ここで性能評価用に使用している装置においては、スクラバー液の飛沫等をシステムの流路内において捕捉し、還流させることが出来るので、ここでの時間は、極めて保守的な時間と考えて良い。
5.大流量実証試験装置の構成
大流量試験装置
これまで述べてきた小型管群スクラバー並びに原型試 験装置を用いて要求性能の達成可能性を検討してきたが、 今後さらなる詳細検討が必要な課題もあるが、概ね想定 気中降下火砕物濃度に対応可能な微小差圧吸気型火山灰 除去装置の基本構成の妥当性が示された。この基本構成を実機への適用可能性を評価するためには、実機相当の大流量条件を想定した大流量試験装置の設計と製作が必 要である。設計要件としての実機適用流量としては、適用対象の一つある非常用発電設備の吸気量が、100,000m3/h 程度あるいはそれ以上である事を勘案し、加えてそれを 付設する空間的制限より10 台程度の大流量試験装置で対応するとすれば 1 台の大流量試験装置として 10,000 ?/h の空気を処理できる試験装置が必要となる。原型試験装置を基本として大流量試験装置の設計と製作を行った。
図 15 に大流量実用化適正試験装置の概略図を、図 16
にその製作後の試験装置の外観を示す。
図15 大流量実用化適正試験装置の概略図
図16 大流量実用化適正試験装置の外観
(内部を可視化するため装置は透明塩ビ板製)
装置寸法は、実機適用を想定し、吸気口からバックアップ フィルター直前までの装置寸法を高さ2m、幅1m そして長さ 2m とし、単一ユニットで10,000 m3/h 以上の処理を想定して製作を行った。セパレーターが設置されている 吸気口から吸引された大気は、中心部の垂直ダクト部を下降し、スクラバー管群口より管内を下降し水中に浸漬している管出口より水中に発泡して水溶液と混合され、気中の粒子は水中に移行し除去される。その後、管群スク ラバー部を出て、上部通路に流れ、吸気ファンによりバッ クアップフィルターを通過して出口配管を経て大気に放出されている。
本装置を用いた性能試験条件を表5 に示す。試験条件は2 条件であり、①規定流量10,000 m3/h で試験時間60 分並びにそれに相応する粉体の投入量と②最大流量(許 容吸気抵抗圧力2.5kPa 時)11,899m3/h で試験時間18 分並びにそれに相応する粉体投入量である。管群スクラバ ー先端は15 ㎜水中に没している。
表5 大流量実用化適正試験装置による試験条件
粉体の捕集率評価には、バックアップフィルターの試験 前後の重量増加量並びに内部での圧力損失は、流路内の 圧力測定により求めた。圧力測定点を図17 に示す。
図17 圧損評価用圧力測定点
スクラバー内の流動圧損は、セパレーター出口とスクラ バー出口の圧力差で評価した。
大流量実用化適正試験装置での評価試験結果
得られた試験結果を表6 に示す。いずれの試験条件においても粉体捕集率99.9%以上であり、圧力損失は①条件で1,950Pa、②条件で2,500Pa である。
表6大流量実用化適正試験装置を用いた捕集率及び圧損の評価試験結果
いずれの条件においても、捕集率及び圧力損失共に実用 化適性について一定の目途が得られた。
6.結言
1)セパレーターと管群スクラバーの2段階プロセスを 用いた原型試験設備を用いた性能調査試験により、吸気 流量1,500 ?/h で6 時間の連続運転において99.9%以上の捕集率が得られた。また、圧力損失は、500Pa 程度と低圧損であり、湿度においても、50~60%で安定していること を確認した。
2)スクラバーの24 時間運転を想定した性能評価試験により、スクラバー液内に大量に堆積した条件下において も捕集性能が維持できることを確認した。また、-19℃の 低温環境下においても塩化カルシウム水溶液がスクラバー液として凍結せずに作動することを確認し、おおよそ の揮発量についても確認した。
3)原型試験装置の成果を踏まえて設計・製作された大流量実用化適正試験装置により実機適用を見据えた試験条 件においても要求性能を満足する結果を得ることが出来、 実用化に向けて目途を得た。
4)大流量実用化適正試験装置を用いた性能調査試験に より、10,000 ?/h で60 分の連続運転において99.9%以上の捕集率が得られた。また、圧力損失は、1,950Pa 程度と低圧損で安定していることを確認した。
5)今後は、24 時間運転における実証を進めるとともに、運転中に必要となるスクラバーの液面制御、セパレータ ーからの除灰機能について更なる検討を進め、実用化段 階への移行を目指す。
6)今回は、大容量かつ高い捕集率の実現のために2段階 のプロセスを用いた火山灰除去装置としたが、捕集率には裕度があるが、圧力損失の許容範囲が小さい場合には前段のセパレーターだけを用いた対策も条件によっては有用であることも確認した。今後、セパレーター単体での 火山灰除去についても検討を進める。
参考文献
実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規制https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=353M50000400077
原子力発電所の火山影響評価ガイドpp.28-31. https://www.nsr.go.jp/data/000294814.pdf