原子力発電所に関する最近の規格基準動向
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原子力発電所に関する最近の規格基準動向 村上 弘良 原子力発電所に関する最近の規格基準動向
1.日本機械学会における発電用原子力設備規格の制定・改訂動向
社団法人日本機械学会における発電用原子力設備規格の主な制定及び改訂の状況について以下に示す。
(1)「材料規格」
主として「設計・建設規格」の対象とする材料規格および材料図表を独立させて制定を目指している。規格はPart 1に総則、Part2として適用材料表のほかに原子力発電用に設けられた材料規格及び原子力発電用として追加規定される特別要求事項、ならびにPart3として設計応力強さ、縦弾性係数などの表、さらに添付として規格に規定されていない材料を採用する際の指針となる「新規材料採用ガイドライン」から構成されている。Part2の適用材料については、細部で規定の見直しを行っているが、ほぼ「設計・建設規格」と同様のものとしている。Part3の設計応力強さ(Sm値)、許容引張応力(S値)、設計降伏点(Sy値)及び設計引張強さ(Su値)については、基本的にASME Boiler and Pressure Vessel Code(ASME Code), Section II Part D-2001年版をベースとするJIS B8266-2003と整合性を持たせて策定している。また、鉄鋼材料及び非鉄材料の各温度における許容引張応力についてはASME Code Section II Part D-2001年版をベースとするJIS B8267-2006と整合性を持たせており、ここでは発電用火力設備2003年版と同様に引張強さに対する設計係数として3.5を採用している。「設計・建設規格」では設計係数4を採用しているが、海外及び国内他規格の動向、設計において防止すべき破損モードへの影響の有無、ならびに国内の材料製造技術の進歩技術の各観点から設計係数3.5の採用の妥当性の検討を行い、この設計係数を採用することとしている。「材料規格」は現在、発電用規格委員会での最終検討段階であり、本年発行の見込みとなっている。
(2)「設計・建設規格」
利便性を高めるため、デジタル化した設計用疲労線図の採用等を行い2007年追補版として発行予定である。また、「有限要素解析を用いた応力評価の代替規定」を事例規格として制定検討中である。
(3)「溶接規格」
非破壊試験方法などJIS等国内他規格の改訂、制定状況を採り入れた2007年追補版を発行予定である。
(4)「維持規格」
検査章にBWR炉内構造物の「差圧検出/ほう酸水注入配管の個別検査規定」を追加、また、補修章にピーニング方法に係わる施工前検査方法として目視試験のほかに浸透探傷試験、渦流探傷試験なども代替試験とする規定を改訂する2007年追補版を発行予定である。
(三菱重工業 小山幸司)
2.日本電気協会 原子力規格委員会における規格基準動向
社団法人日本電気協会 原子力規格委員会では、原子力発電所の保守管理の充実を図るため、それに関連する規程指針類の改定・制定を進めている。また、品質保証についても、IAEAのコードの昨年の改訂版への対応検討、及び品質保証規格の普及、品質保証そのものの充実を図るため、それに関連する規格・指針類の改定・制定を進めている。
一方、国の審議会「検査の在り方に関する検討会」で提示されているように、平成20年度から新しい検査制度の導入が予定されているため、原子力規格委員会傘下の各分科会各検討会では、平成19年度中の規格指針類の改定・制定を目指している。また、同検討会では、事故・トラブルに対する根本原因分析の重要性についても提言されている。そこで、これら保守管理の在り方に関する規格指針類、事業者が保全のPDCAを円滑に回すための技術的拠り所となる指針類及び品質保証に関する規格指針類等の検討状況について以下に示す。
(1) 原子力発電所の保守管理規程((JEAC4209-2003の改定)及び同指針(新規制定)
原子力発電所を構成する構築物、系統及び機器の供用期間中の保守管理活動全般の基本的要件を規定するもので、保守管理の実施フロー、保守活動管理指標の設定及び監視に関する事項、保守の有効性評価の方法、リスク情報、高経年化技術評価の知見の取り込み、定期事業者検査の今後の取り扱い、等について検討している。
(2) 原子力発電所における安全のための品質保証規程(JEAC4111-2003の改定)及び同適用指針(JEAG4121-2005の改定)
原子炉等規制法に基づき制定される、原子力発電所の保安活動における品質保証に関する要求事項を規定するもので、以下の4つの個別WGを立ち上げ活動中である。
① 普及WG:JEAC4111理解促進のための講習会の計画、実施
② 調達管理検討WG: 実際の不適合事例の分析等を基礎に追加指針を検討
③ IAEA基準検討WG: JEAC4111の解説におけるIAEAコードの記載変更
④ 根本原因分析WG: JEAC4111及びJEAG4121に根本原因分析の記載追加
(3) 原子力格納容器の漏えい率試験規程(JEAC4203-2004の改定)
放射性物質の外部への漏えいに対する障壁となる原子炉格納容器バウンダリの漏えい試験について、試験目的、判定基準、不適合時の措置、試験頻度等を規定すると共に試験標準方案を示すもので、PWRのA種試験のうち低圧試験、漏えい率増加のために見込む係数、A種試験における隔離弁の閉鎖方法、等について検討している。
(4) 原子力発電所運転中設備診断技術に関する指針(仮称:新規制定)
温度・振動・潤滑油診断や減肉傾向監視等の設備診断技術について個別の指針を規定するもので、各設備診断技術の適用状況に関する調査、原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)との整合性、等を検討している。
(5) 原子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201-2004の改定)
原子炉(圧力)容器が供用期間中に受ける中性子照射によって機械的性質に変化を受け、かつ、その変化によって運転に支障をきたすおそれのあるフェライト系部材の照射による変化を、定期的に調査・評価するための監視試験方法について規定するもので、電力中央研究所で開発された照射脆化メカニズムの知見に基づく精度の高い脆化予測式に改定する。また、再生試験片技術、高照射領域での補正式見直し(主としてPWR)、試験片取り出し時期の見直し、等についても検討している。
(6) 安全保護系に関する計器ドリフト評価方法の標準化に係る指針(仮称:新規制定)
保全プログラムに基づく、科学的・合理的な保全を実現する際に、計器のドリフト量の評価方法等に対する要求事項、考え方を規定するもので、米国における先行実績、統計的な計器ドリフト評価手法、等について検討している。
(社団法人日本電気協会 原子力規格委員会)
3.日本原子力学会における標準策定・改訂・廃止状況
社団法人日本原子力学会標準委員会が制定している標準の制定状況を報告する。今年度2月28日現在2006年として発行した標準は、下記
・「極めて放射能レベルの低い放射性廃棄物処分の安全性評価手法:2006(AESJ-SC-F007-2006)」、
・「收着分配係数の測定方法-深地層処分のバリア材を対象とした測定方法の基本手順;2006(AESJ-SC-F008:2006)」、
・「原子炉施設の廃止措置の計画と実施:2006(AESJ-SC-R003)」及び
・「原子力発電所の定期安全レビュー実施基準:2006(AESJ-SC-P004:2006)」
の4標準である。「原子炉施設の廃止措置の計画と実施」標準の対象は、商業炉のみならず研究炉も含むため、2003年に発行された「研究用原子炉の廃止措置に関する基本的考え方:2003」を2月9日付けで廃止した。また、技術レポート「收着分配係数の測定方法-浅地中処分のバリア材を対象としたバッチ法の基本手順及び深地層処分のバリア材を対象とした測定方法の基本手順」を11月10日に発行した。
2007年上半期までに発行を計画している標準は、以下の7件である。
・「原子力発電所の高経年化対策実施基準」
・「地震時確率論的安全評価手順(地震PSA標準)」
・「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル1PSA)」
・「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル2PSA)」
・「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル3PSA)」
・「BWRの安定性評価基準」
・「使用済燃料中間貯蔵施設用コンクリートキャスク及びキャニスタ詰替装置の安全設計及び検査基準」。
リスク情報に関係する標準として「リスク情報活用ガイドラインの標準化」及び「確率論的安全評価の信頼性データベースに関する標準化」の2標準は、次年度中の発行を計画している。
(日本原子力学会 標準委員会 村上 弘良)
1.日本機械学会における発電用原子力設備規格の制定・改訂動向
社団法人日本機械学会における発電用原子力設備規格の主な制定及び改訂の状況について以下に示す。
(1)「材料規格」
主として「設計・建設規格」の対象とする材料規格および材料図表を独立させて制定を目指している。規格はPart 1に総則、Part2として適用材料表のほかに原子力発電用に設けられた材料規格及び原子力発電用として追加規定される特別要求事項、ならびにPart3として設計応力強さ、縦弾性係数などの表、さらに添付として規格に規定されていない材料を採用する際の指針となる「新規材料採用ガイドライン」から構成されている。Part2の適用材料については、細部で規定の見直しを行っているが、ほぼ「設計・建設規格」と同様のものとしている。Part3の設計応力強さ(Sm値)、許容引張応力(S値)、設計降伏点(Sy値)及び設計引張強さ(Su値)については、基本的にASME Boiler and Pressure Vessel Code(ASME Code), Section II Part D-2001年版をベースとするJIS B8266-2003と整合性を持たせて策定している。また、鉄鋼材料及び非鉄材料の各温度における許容引張応力についてはASME Code Section II Part D-2001年版をベースとするJIS B8267-2006と整合性を持たせており、ここでは発電用火力設備2003年版と同様に引張強さに対する設計係数として3.5を採用している。「設計・建設規格」では設計係数4を採用しているが、海外及び国内他規格の動向、設計において防止すべき破損モードへの影響の有無、ならびに国内の材料製造技術の進歩技術の各観点から設計係数3.5の採用の妥当性の検討を行い、この設計係数を採用することとしている。「材料規格」は現在、発電用規格委員会での最終検討段階であり、本年発行の見込みとなっている。
(2)「設計・建設規格」
利便性を高めるため、デジタル化した設計用疲労線図の採用等を行い2007年追補版として発行予定である。また、「有限要素解析を用いた応力評価の代替規定」を事例規格として制定検討中である。
(3)「溶接規格」
非破壊試験方法などJIS等国内他規格の改訂、制定状況を採り入れた2007年追補版を発行予定である。
(4)「維持規格」
検査章にBWR炉内構造物の「差圧検出/ほう酸水注入配管の個別検査規定」を追加、また、補修章にピーニング方法に係わる施工前検査方法として目視試験のほかに浸透探傷試験、渦流探傷試験なども代替試験とする規定を改訂する2007年追補版を発行予定である。
(三菱重工業 小山幸司)
2.日本電気協会 原子力規格委員会における規格基準動向
社団法人日本電気協会 原子力規格委員会では、原子力発電所の保守管理の充実を図るため、それに関連する規程指針類の改定・制定を進めている。また、品質保証についても、IAEAのコードの昨年の改訂版への対応検討、及び品質保証規格の普及、品質保証そのものの充実を図るため、それに関連する規格・指針類の改定・制定を進めている。
一方、国の審議会「検査の在り方に関する検討会」で提示されているように、平成20年度から新しい検査制度の導入が予定されているため、原子力規格委員会傘下の各分科会各検討会では、平成19年度中の規格指針類の改定・制定を目指している。また、同検討会では、事故・トラブルに対する根本原因分析の重要性についても提言されている。そこで、これら保守管理の在り方に関する規格指針類、事業者が保全のPDCAを円滑に回すための技術的拠り所となる指針類及び品質保証に関する規格指針類等の検討状況について以下に示す。
(1) 原子力発電所の保守管理規程((JEAC4209-2003の改定)及び同指針(新規制定)
原子力発電所を構成する構築物、系統及び機器の供用期間中の保守管理活動全般の基本的要件を規定するもので、保守管理の実施フロー、保守活動管理指標の設定及び監視に関する事項、保守の有効性評価の方法、リスク情報、高経年化技術評価の知見の取り込み、定期事業者検査の今後の取り扱い、等について検討している。
(2) 原子力発電所における安全のための品質保証規程(JEAC4111-2003の改定)及び同適用指針(JEAG4121-2005の改定)
原子炉等規制法に基づき制定される、原子力発電所の保安活動における品質保証に関する要求事項を規定するもので、以下の4つの個別WGを立ち上げ活動中である。
① 普及WG:JEAC4111理解促進のための講習会の計画、実施
② 調達管理検討WG: 実際の不適合事例の分析等を基礎に追加指針を検討
③ IAEA基準検討WG: JEAC4111の解説におけるIAEAコードの記載変更
④ 根本原因分析WG: JEAC4111及びJEAG4121に根本原因分析の記載追加
(3) 原子力格納容器の漏えい率試験規程(JEAC4203-2004の改定)
放射性物質の外部への漏えいに対する障壁となる原子炉格納容器バウンダリの漏えい試験について、試験目的、判定基準、不適合時の措置、試験頻度等を規定すると共に試験標準方案を示すもので、PWRのA種試験のうち低圧試験、漏えい率増加のために見込む係数、A種試験における隔離弁の閉鎖方法、等について検討している。
(4) 原子力発電所運転中設備診断技術に関する指針(仮称:新規制定)
温度・振動・潤滑油診断や減肉傾向監視等の設備診断技術について個別の指針を規定するもので、各設備診断技術の適用状況に関する調査、原子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)との整合性、等を検討している。
(5) 原子炉構造材の監視試験方法(JEAC4201-2004の改定)
原子炉(圧力)容器が供用期間中に受ける中性子照射によって機械的性質に変化を受け、かつ、その変化によって運転に支障をきたすおそれのあるフェライト系部材の照射による変化を、定期的に調査・評価するための監視試験方法について規定するもので、電力中央研究所で開発された照射脆化メカニズムの知見に基づく精度の高い脆化予測式に改定する。また、再生試験片技術、高照射領域での補正式見直し(主としてPWR)、試験片取り出し時期の見直し、等についても検討している。
(6) 安全保護系に関する計器ドリフト評価方法の標準化に係る指針(仮称:新規制定)
保全プログラムに基づく、科学的・合理的な保全を実現する際に、計器のドリフト量の評価方法等に対する要求事項、考え方を規定するもので、米国における先行実績、統計的な計器ドリフト評価手法、等について検討している。
(社団法人日本電気協会 原子力規格委員会)
3.日本原子力学会における標準策定・改訂・廃止状況
社団法人日本原子力学会標準委員会が制定している標準の制定状況を報告する。今年度2月28日現在2006年として発行した標準は、下記
・「極めて放射能レベルの低い放射性廃棄物処分の安全性評価手法:2006(AESJ-SC-F007-2006)」、
・「收着分配係数の測定方法-深地層処分のバリア材を対象とした測定方法の基本手順;2006(AESJ-SC-F008:2006)」、
・「原子炉施設の廃止措置の計画と実施:2006(AESJ-SC-R003)」及び
・「原子力発電所の定期安全レビュー実施基準:2006(AESJ-SC-P004:2006)」
の4標準である。「原子炉施設の廃止措置の計画と実施」標準の対象は、商業炉のみならず研究炉も含むため、2003年に発行された「研究用原子炉の廃止措置に関する基本的考え方:2003」を2月9日付けで廃止した。また、技術レポート「收着分配係数の測定方法-浅地中処分のバリア材を対象としたバッチ法の基本手順及び深地層処分のバリア材を対象とした測定方法の基本手順」を11月10日に発行した。
2007年上半期までに発行を計画している標準は、以下の7件である。
・「原子力発電所の高経年化対策実施基準」
・「地震時確率論的安全評価手順(地震PSA標準)」
・「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル1PSA)」
・「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル2PSA)」
・「原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル3PSA)」
・「BWRの安定性評価基準」
・「使用済燃料中間貯蔵施設用コンクリートキャスク及びキャニスタ詰替装置の安全設計及び検査基準」。
リスク情報に関係する標準として「リスク情報活用ガイドラインの標準化」及び「確率論的安全評価の信頼性データベースに関する標準化」の2標準は、次年度中の発行を計画している。
(日本原子力学会 標準委員会 村上 弘良)