原子力安全・保安部会の動向
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カテゴリ: 解説記事
原子力安全・保安部会の動向 山田 知穂,Tomoho Yamada
すでにかなり時間が経過しておりますが、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会は、去る5月14日に第24回の部会が開催されています。また、最近の動向としては、7月16日に発生した平成19年新潟県中越沖地震において東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所に様々な影響が及んだことを受け、原子力安全・保安部会の下に新たに「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」が設置されています。本稿では、これらの委員会において報告された内容、審議の一部について、その概要を報告したいと思います。
1.第24回原子力安全・保安部会
議題としては、
「発電設備に係る総点検について」として、
(1) 発電設備に係る総点検
(2) 北陸電力(株)志賀1号機の臨界事故
「安全規制の制度整備について」として
(1) 低レベル放射性廃棄物の余裕震度処分に係る安全規制等について
(2) 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に係る安全規制について(原子炉等規正法の改正について)
「最近の原子力安全・保安を巡る動向について」として
(1) 原子力発電所の耐震安全性に関する最近の動向について
(2) 日本原燃(株)六ヶ所再処理施設の状況について
(3) 使用済み燃料貯蔵事業許可申請について
が取り上げられました。
これらのうち、発電設備に係る総点検と北陸電力(株)志賀原子力発電所1号機の臨界事故について、原子力安全・保安院から行った報告の概要を以下に示します。
1.1 発電設備の総点検
1.1.1 経緯
(1) 原子力安全・保安院では、平成15年に発生した電力会社の不正問題を受けて、原子力発電の検査制度の抜本的強化を図った。一方、昨年秋、電力会社において、データ改ざんが次々に明らかとなったことを受け、甘利経済産業大臣の指示に基づき、昨年11月30日、全電力会社に対し、すべての発電設備について、過去に遡りデータ改ざんや必要な手続きの不備、その他同様な問題がないかの総点検を行うよう指示した。
(2) これを受け、平成19年3月30日に各電力会社から総点検の結果について報告がなされ、また、同年4月6日には再発防止対策が報告された。
1.1.2 総点検のねらい
この総点検のねらいは、次の4つ。
(1) 過去の不正を前提に記録を改ざんし続けていくという悪循環を断ち切ること。正しい記録を残すため、過去に遡って不正を清算しておくことが必要である。
(2) 不正を許さない仕組みを構築すること。基準などから逸脱したことがあった場合でも、その事実を改ざんしたり隠したりすることなく、正確な情報を、逸脱した原因や評価結果とともに開示していくよう、仕組みを作り上げることが必要である。
(3) 事故やトラブルの情報を共有し、再発防止に活かすこと。個々の事故やトラブルについて原因を究明し、再発防止対策を講じ、かつ、その情報を他社も含めて共有することにより、安全性を一層向上させる。
(4) このような活動を着実に進めていくことにより、電力会社の体質を改善すること。電力会社の体質を改善し、公益事業者として、安全確保を大前提に、電力を安定的に供給していく基盤を強固なものにする。
1.1.3 総点検の結果に対する評価
(1) 今回の総点検の結果については、原子炉等規制法及び電気事業法への抵触の有無と同法が確保しようとする安全が損なわれたかどうかという観点から、以下のⅠ、Ⅱ、Ⅲ及びⅣの区分で評価を行った。
区分 評価区分
Ⅰ 原子炉等規制法又は電気事業法が安全を確保するために設けている規制に抵触し、同法が確保しようとする安全が損なわれたもの又は損なわれたおそれのあるもの
Ⅱ 原子炉等規制法又は電気事業法が安全を確保するために設けている規制に抵触したが、当該抵触によって直ちに安全が損なわれなかったこと又は損なわれるおそれがなかったことが4月20日までに確認又は評価されているものの、コンプライアンスの観点からは問題があったもの
Ⅲ
原子炉等規制法、電気事業法以外の法令等(電気事業法が電力の安定的・効率的な供給の観点から設けている規定を含む)に抵触したものであって、コンプライアンスの観点からは問題があったもの
Ⅳ その他(誤記等)
(2) この区分を用いて対象とした316事案(電気事業連合会の集計では309事案)を評価した結果、評価区分Ⅰが50事案、Ⅱが104事案、Ⅲが149事案、Ⅳが13事案となった。
評価区分 原子力 火力 水力 計
Ⅰ 11 21 18 50
Ⅱ 38 22 44 104
Ⅲ 40 45 64 149
Ⅳ 9 0 4 13
計 98 88 130 316
(3) 評価区分Ⅰ、すなわち、法令に抵触し安全に影響があったものは、原子力では、北陸電力(株)志賀原子力発電所1号機の臨界事故の隠ぺい、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所1号機のポンプ起動の不正表示など合計11事案であった。
(4) なお、原子力について、平成15年10月の新たな検査制度の適用開始以降に、法令に抵触するデータ改ざんは報告されなかった。
1.1.4 今後の対応
今回の総点検の結果を踏まえた今後の対応については、総点検の4つのねらいを踏まえ、過去の不正を遺憾とするにとどまらず、今後の発電設備の安全確保の向上に具体的につながる対応として30項目が抽出された。そのうち、原子力分野におけるものは以下となっている。
1.1.4.1 行政処分と総点検の踏まえた特別な対応
評価区分Ⅰとされた7原子力発電所(9プラント)について、再発防止の観点から、重大事故が経営責任者に直ちに報告がなされる体制を構築するなどの保安規定の変更を、原子炉等規制法第37条第3項に基づく行政処分として命令する。(表1(1))
また、これらの原子力発電施設については、定期検査に加えて特別な検査を実施し、追加的な時間をかけて厳格に安全を確認する。(表1(6))
さらに、これらの原子力施設に対しては、原子力安全・保安院の特別原子力施設監督官が当該原子力発電所の特別な監視・監督を行う。(表1(7))
1.1.4.2 電力会社及びメーカーに対する要求
(1) 各電力会社が、再発防止対策を具体的に実現していくために、時間軸の入った行動計画等を策定するよう求める。(表1(4))
(2) 原子力の各主要メーカーが、原子力の安全水準の向上のための情報共有の仕組みを含めた行動計画を策定するよう求める。(表1(5))
1.1.4.3 その他の対応
(1) 原子力保安検査官の施設へのフリーアクセスの徹底(表1(9))
(2) 原子炉主任技術者の独立性が担保された体制の整備(表1(12))
(3) 制御棒引き抜け等の報告義務化(表1(13))
(4) 原子力発電施設の保安検査の結果の公開(表1(14))
等
表1 今後の対応(30項目)
1.2 志賀原子力発電所1号機の臨界事故
1.2.1 事故の概要
(1) 北陸電力志賀1号機第5回定期検査期間(平成11年4月~7月)に実施していた原子炉停止機能強化工事において、同年6月18日、機能確認試験の準備として制御棒の操作に関係する弁を操作していた。その際、3本の制御棒が部分的に引き抜け状態となり、原子炉が臨界状態になった。
(2) 原子炉が臨界状態になったので、原子炉自動停止信号が発せられ、制御棒の引き抜けは止まったが、緊急挿入されなかった。
作業のため閉めた弁を戻すことにより、3本の制御棒が全挿入となったが、それまでに約15分を要した。
1.2.2 事故の原因
(1) 定められた手順書に沿って作業を実施しなかったため、制御棒の引き抜け側に水圧がかかり、制御棒が引き抜けた。
(2) 作業ミスの原因としては、試験全体の監督をすべき発電課が作業手順を把握しておらず、責任体制が曖昧なまま作業が進められたことがあげられる。
(3) また、初めての試験に対する準備不足や手順書承認プロセスの問題もあった。
1.2.3 事故後の対応
(1) 事故が収束した後、所長以下が集まって対応策の検討を行い、所長が、本事故について社外に報告しないことを決断した後、本店等との間でテレビ会議が行われ、ノイズである旨の報告がなされた。
(2) 事故を隠ぺいするため、引継日誌に本事故を記載せず、また事故を隠すため中性子の記録チャートに点検と記載した。
(3) 隠ぺいを行った背景としては、事故を公表した場合に志賀2号機の工程に遅れが出ることを懸念していたことが考えられる。
1.2.4 法令上の問題
(1) 臨界事故について国へ報告しなかったこと、臨界事故について記録せず、また、データを改ざんしたこと、事故の原因究明と再発防止に取り組まなかったことなどが原子炉等規制法に抵触する。
(2) また、原子炉主任技術者が誠実に職務を遂行しなかったことも原子炉等規制法に抵触するものである。
1.2.5 再発防止策
(1) 北陸電力は、技術的な再発防止対策として、制御棒の引き抜けにつながる弁への施錠や注意書きの表示などの対策を既に実施した。
(2) また、抜本的な再発防止対策については、「安全文化の構築」や「隠さない企業風土づくり」を目指し、21項目の対策が掲げられている。
(3) 原子力安全・保安院は、北陸電力がこの再発防止対策を全社的に的確かつ確実に実施していくために、実現可能性を十分に考慮した行動計画を策定することを求める。
1.3 その他の原子炉停止中の想定外の制御棒引き抜け事象
(1) これまで志賀1号機以外に9件の制御棒引き抜け事象が明らかになっており、うち7件は志賀のケースと同様に制御棒駆動水圧系の不適切な操作により起こったものである。このうち、昭和53年に発生した福島第一3号機の事象では臨界が発生していた。
また、残り2件は、不適切な電源操作により起こったものである。
(2) これら類似事象が継続的に発生した原因としては、電力会社やメーカーの間で情報が共有されておらず、十分な予防処置が講じられていなかったことがあげられる。
(3) このため、「原子力施設情報公開ライブラリー(ニューシア)」による情報共有の強化や電力会社とメーカーがともに参画するBWR事業者協議会における情報共有活動の取組みが必要である。
1.4 今後の対応
(1) 北陸電力に対しては、安全対策の総点検の確実な実施と再発防止対策の具体化を求める。原子力安全・保安院としては、これらについて厳格に確認する。
(2) メーカーに対しては、原子力安全にかかる情報を積極的に公開し、運転管理も含めた全体的な状況の把握と、発生した事象への十分な対応を求める。
(3) 志賀1号機の臨界事故等の制御棒引き抜け事象に関する対応については、全電力会社からの総点検の結果も踏まえた原子力安全・保安院の対応として、「発電設備の総点検に関する評価と今後の対応について」に含めており、今後、これらを確実に進めていく。
2. 中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会
7月16日に発生した新潟県中越沖地震では、多くの方々が被災され、また、家屋等に多くの被害が生じました。震源近くに立地する東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所においても、設計時の想定を上回る大きな地震動が観測され、本原稿を作成している現時点においても、まだ原子炉内の詳細な点検等は行われていない状況にありますが、すでにいくつかの設備における損傷が明らかになっています。
これらの状況を踏まえて、原子力安全・保安部会に、新たに「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」が設置され、今回の地震が柏崎刈羽原子力発電所に及ぼした具体的な影響についての事実関係の調査、当該地震を踏まえた国及び原子力事業者の今後の課題と対応についての検討が始まりました。委員長には、村上原子力安全・保安部会長より斑目春樹東京大学大学院教授が指名され、柏崎刈羽原子力発電所の地元である新潟県、柏崎市、刈羽村からの委員を含む総計20名からなる委員会となっています。
7月31日に第1回の委員会が開催されましたが、そこでは、それまでに明らかになっていた初期における火災対応、放射性物質の漏洩に係る連絡通報体制、今回の地震における地震動、設備の損傷状況等が報告され、この委員会における今後の検討項目についてフリーディスカッションが行われました。さらに、その場でこの委員会については、以下の3つの課題に対応する2つのWGの設置及び原子力安全・保安部会の下に設けられた既設の小委員会(耐震・構造設計小委員会)において技術的な検討を行い、その結果の報告を受けるという進め方とすることが承認されました。
・ 地震発生時の原子力事業者による自衛消防体制、情報連絡体制及び地元に対する情報提供のあり方について:中越沖地震における原子力施設に関する自衛消防及び情報連絡・提供に関するWG(主査:大橋弘忠東京大学大学院教授)
・ 平成19年新潟県中越沖地震から得られる知見を踏まえた耐震安全性の評価について:耐震・構造設計小委員会(小委員長:阿部勝征東京大学名誉教授)
・ 平成19年度新潟県中越沖地震発生時における原子炉の運営管理の状況と設備の健全性及び今後の対応について:運営管理・設備健全性評価WG(主査:関村直人東京大学大学院教授)
さらに、8月8日に開催された第2回委員会では、柏崎刈羽原子力発電所の現地視察として、火災が発生した2号機の所内変圧器、スロッシングによりあふれた使用済み燃料プールの水が非管理区域に漏洩したルート等々の今回の地震において課題として明らかになった事象が生じた現場や格納容器内の一部の機器の状況の確認が行われました。また、その後の委員会において、小委員会、WGでの検討項目についての議論が行われました。
今後は、月1回程度の頻度で委員会を開催し、小委員会及びWGにおける検討状況について報告を受けることになる予定です。 (平成19年8月9日)
すでにかなり時間が経過しておりますが、総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会は、去る5月14日に第24回の部会が開催されています。また、最近の動向としては、7月16日に発生した平成19年新潟県中越沖地震において東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所に様々な影響が及んだことを受け、原子力安全・保安部会の下に新たに「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」が設置されています。本稿では、これらの委員会において報告された内容、審議の一部について、その概要を報告したいと思います。
1.第24回原子力安全・保安部会
議題としては、
「発電設備に係る総点検について」として、
(1) 発電設備に係る総点検
(2) 北陸電力(株)志賀1号機の臨界事故
「安全規制の制度整備について」として
(1) 低レベル放射性廃棄物の余裕震度処分に係る安全規制等について
(2) 高レベル放射性廃棄物等の地層処分に係る安全規制について(原子炉等規正法の改正について)
「最近の原子力安全・保安を巡る動向について」として
(1) 原子力発電所の耐震安全性に関する最近の動向について
(2) 日本原燃(株)六ヶ所再処理施設の状況について
(3) 使用済み燃料貯蔵事業許可申請について
が取り上げられました。
これらのうち、発電設備に係る総点検と北陸電力(株)志賀原子力発電所1号機の臨界事故について、原子力安全・保安院から行った報告の概要を以下に示します。
1.1 発電設備の総点検
1.1.1 経緯
(1) 原子力安全・保安院では、平成15年に発生した電力会社の不正問題を受けて、原子力発電の検査制度の抜本的強化を図った。一方、昨年秋、電力会社において、データ改ざんが次々に明らかとなったことを受け、甘利経済産業大臣の指示に基づき、昨年11月30日、全電力会社に対し、すべての発電設備について、過去に遡りデータ改ざんや必要な手続きの不備、その他同様な問題がないかの総点検を行うよう指示した。
(2) これを受け、平成19年3月30日に各電力会社から総点検の結果について報告がなされ、また、同年4月6日には再発防止対策が報告された。
1.1.2 総点検のねらい
この総点検のねらいは、次の4つ。
(1) 過去の不正を前提に記録を改ざんし続けていくという悪循環を断ち切ること。正しい記録を残すため、過去に遡って不正を清算しておくことが必要である。
(2) 不正を許さない仕組みを構築すること。基準などから逸脱したことがあった場合でも、その事実を改ざんしたり隠したりすることなく、正確な情報を、逸脱した原因や評価結果とともに開示していくよう、仕組みを作り上げることが必要である。
(3) 事故やトラブルの情報を共有し、再発防止に活かすこと。個々の事故やトラブルについて原因を究明し、再発防止対策を講じ、かつ、その情報を他社も含めて共有することにより、安全性を一層向上させる。
(4) このような活動を着実に進めていくことにより、電力会社の体質を改善すること。電力会社の体質を改善し、公益事業者として、安全確保を大前提に、電力を安定的に供給していく基盤を強固なものにする。
1.1.3 総点検の結果に対する評価
(1) 今回の総点検の結果については、原子炉等規制法及び電気事業法への抵触の有無と同法が確保しようとする安全が損なわれたかどうかという観点から、以下のⅠ、Ⅱ、Ⅲ及びⅣの区分で評価を行った。
区分 評価区分
Ⅰ 原子炉等規制法又は電気事業法が安全を確保するために設けている規制に抵触し、同法が確保しようとする安全が損なわれたもの又は損なわれたおそれのあるもの
Ⅱ 原子炉等規制法又は電気事業法が安全を確保するために設けている規制に抵触したが、当該抵触によって直ちに安全が損なわれなかったこと又は損なわれるおそれがなかったことが4月20日までに確認又は評価されているものの、コンプライアンスの観点からは問題があったもの
Ⅲ
原子炉等規制法、電気事業法以外の法令等(電気事業法が電力の安定的・効率的な供給の観点から設けている規定を含む)に抵触したものであって、コンプライアンスの観点からは問題があったもの
Ⅳ その他(誤記等)
(2) この区分を用いて対象とした316事案(電気事業連合会の集計では309事案)を評価した結果、評価区分Ⅰが50事案、Ⅱが104事案、Ⅲが149事案、Ⅳが13事案となった。
評価区分 原子力 火力 水力 計
Ⅰ 11 21 18 50
Ⅱ 38 22 44 104
Ⅲ 40 45 64 149
Ⅳ 9 0 4 13
計 98 88 130 316
(3) 評価区分Ⅰ、すなわち、法令に抵触し安全に影響があったものは、原子力では、北陸電力(株)志賀原子力発電所1号機の臨界事故の隠ぺい、東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所1号機のポンプ起動の不正表示など合計11事案であった。
(4) なお、原子力について、平成15年10月の新たな検査制度の適用開始以降に、法令に抵触するデータ改ざんは報告されなかった。
1.1.4 今後の対応
今回の総点検の結果を踏まえた今後の対応については、総点検の4つのねらいを踏まえ、過去の不正を遺憾とするにとどまらず、今後の発電設備の安全確保の向上に具体的につながる対応として30項目が抽出された。そのうち、原子力分野におけるものは以下となっている。
1.1.4.1 行政処分と総点検の踏まえた特別な対応
評価区分Ⅰとされた7原子力発電所(9プラント)について、再発防止の観点から、重大事故が経営責任者に直ちに報告がなされる体制を構築するなどの保安規定の変更を、原子炉等規制法第37条第3項に基づく行政処分として命令する。(表1(1))
また、これらの原子力発電施設については、定期検査に加えて特別な検査を実施し、追加的な時間をかけて厳格に安全を確認する。(表1(6))
さらに、これらの原子力施設に対しては、原子力安全・保安院の特別原子力施設監督官が当該原子力発電所の特別な監視・監督を行う。(表1(7))
1.1.4.2 電力会社及びメーカーに対する要求
(1) 各電力会社が、再発防止対策を具体的に実現していくために、時間軸の入った行動計画等を策定するよう求める。(表1(4))
(2) 原子力の各主要メーカーが、原子力の安全水準の向上のための情報共有の仕組みを含めた行動計画を策定するよう求める。(表1(5))
1.1.4.3 その他の対応
(1) 原子力保安検査官の施設へのフリーアクセスの徹底(表1(9))
(2) 原子炉主任技術者の独立性が担保された体制の整備(表1(12))
(3) 制御棒引き抜け等の報告義務化(表1(13))
(4) 原子力発電施設の保安検査の結果の公開(表1(14))
等
表1 今後の対応(30項目)
1.2 志賀原子力発電所1号機の臨界事故
1.2.1 事故の概要
(1) 北陸電力志賀1号機第5回定期検査期間(平成11年4月~7月)に実施していた原子炉停止機能強化工事において、同年6月18日、機能確認試験の準備として制御棒の操作に関係する弁を操作していた。その際、3本の制御棒が部分的に引き抜け状態となり、原子炉が臨界状態になった。
(2) 原子炉が臨界状態になったので、原子炉自動停止信号が発せられ、制御棒の引き抜けは止まったが、緊急挿入されなかった。
作業のため閉めた弁を戻すことにより、3本の制御棒が全挿入となったが、それまでに約15分を要した。
1.2.2 事故の原因
(1) 定められた手順書に沿って作業を実施しなかったため、制御棒の引き抜け側に水圧がかかり、制御棒が引き抜けた。
(2) 作業ミスの原因としては、試験全体の監督をすべき発電課が作業手順を把握しておらず、責任体制が曖昧なまま作業が進められたことがあげられる。
(3) また、初めての試験に対する準備不足や手順書承認プロセスの問題もあった。
1.2.3 事故後の対応
(1) 事故が収束した後、所長以下が集まって対応策の検討を行い、所長が、本事故について社外に報告しないことを決断した後、本店等との間でテレビ会議が行われ、ノイズである旨の報告がなされた。
(2) 事故を隠ぺいするため、引継日誌に本事故を記載せず、また事故を隠すため中性子の記録チャートに点検と記載した。
(3) 隠ぺいを行った背景としては、事故を公表した場合に志賀2号機の工程に遅れが出ることを懸念していたことが考えられる。
1.2.4 法令上の問題
(1) 臨界事故について国へ報告しなかったこと、臨界事故について記録せず、また、データを改ざんしたこと、事故の原因究明と再発防止に取り組まなかったことなどが原子炉等規制法に抵触する。
(2) また、原子炉主任技術者が誠実に職務を遂行しなかったことも原子炉等規制法に抵触するものである。
1.2.5 再発防止策
(1) 北陸電力は、技術的な再発防止対策として、制御棒の引き抜けにつながる弁への施錠や注意書きの表示などの対策を既に実施した。
(2) また、抜本的な再発防止対策については、「安全文化の構築」や「隠さない企業風土づくり」を目指し、21項目の対策が掲げられている。
(3) 原子力安全・保安院は、北陸電力がこの再発防止対策を全社的に的確かつ確実に実施していくために、実現可能性を十分に考慮した行動計画を策定することを求める。
1.3 その他の原子炉停止中の想定外の制御棒引き抜け事象
(1) これまで志賀1号機以外に9件の制御棒引き抜け事象が明らかになっており、うち7件は志賀のケースと同様に制御棒駆動水圧系の不適切な操作により起こったものである。このうち、昭和53年に発生した福島第一3号機の事象では臨界が発生していた。
また、残り2件は、不適切な電源操作により起こったものである。
(2) これら類似事象が継続的に発生した原因としては、電力会社やメーカーの間で情報が共有されておらず、十分な予防処置が講じられていなかったことがあげられる。
(3) このため、「原子力施設情報公開ライブラリー(ニューシア)」による情報共有の強化や電力会社とメーカーがともに参画するBWR事業者協議会における情報共有活動の取組みが必要である。
1.4 今後の対応
(1) 北陸電力に対しては、安全対策の総点検の確実な実施と再発防止対策の具体化を求める。原子力安全・保安院としては、これらについて厳格に確認する。
(2) メーカーに対しては、原子力安全にかかる情報を積極的に公開し、運転管理も含めた全体的な状況の把握と、発生した事象への十分な対応を求める。
(3) 志賀1号機の臨界事故等の制御棒引き抜け事象に関する対応については、全電力会社からの総点検の結果も踏まえた原子力安全・保安院の対応として、「発電設備の総点検に関する評価と今後の対応について」に含めており、今後、これらを確実に進めていく。
2. 中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会
7月16日に発生した新潟県中越沖地震では、多くの方々が被災され、また、家屋等に多くの被害が生じました。震源近くに立地する東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所においても、設計時の想定を上回る大きな地震動が観測され、本原稿を作成している現時点においても、まだ原子炉内の詳細な点検等は行われていない状況にありますが、すでにいくつかの設備における損傷が明らかになっています。
これらの状況を踏まえて、原子力安全・保安部会に、新たに「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会」が設置され、今回の地震が柏崎刈羽原子力発電所に及ぼした具体的な影響についての事実関係の調査、当該地震を踏まえた国及び原子力事業者の今後の課題と対応についての検討が始まりました。委員長には、村上原子力安全・保安部会長より斑目春樹東京大学大学院教授が指名され、柏崎刈羽原子力発電所の地元である新潟県、柏崎市、刈羽村からの委員を含む総計20名からなる委員会となっています。
7月31日に第1回の委員会が開催されましたが、そこでは、それまでに明らかになっていた初期における火災対応、放射性物質の漏洩に係る連絡通報体制、今回の地震における地震動、設備の損傷状況等が報告され、この委員会における今後の検討項目についてフリーディスカッションが行われました。さらに、その場でこの委員会については、以下の3つの課題に対応する2つのWGの設置及び原子力安全・保安部会の下に設けられた既設の小委員会(耐震・構造設計小委員会)において技術的な検討を行い、その結果の報告を受けるという進め方とすることが承認されました。
・ 地震発生時の原子力事業者による自衛消防体制、情報連絡体制及び地元に対する情報提供のあり方について:中越沖地震における原子力施設に関する自衛消防及び情報連絡・提供に関するWG(主査:大橋弘忠東京大学大学院教授)
・ 平成19年新潟県中越沖地震から得られる知見を踏まえた耐震安全性の評価について:耐震・構造設計小委員会(小委員長:阿部勝征東京大学名誉教授)
・ 平成19年度新潟県中越沖地震発生時における原子炉の運営管理の状況と設備の健全性及び今後の対応について:運営管理・設備健全性評価WG(主査:関村直人東京大学大学院教授)
さらに、8月8日に開催された第2回委員会では、柏崎刈羽原子力発電所の現地視察として、火災が発生した2号機の所内変圧器、スロッシングによりあふれた使用済み燃料プールの水が非管理区域に漏洩したルート等々の今回の地震において課題として明らかになった事象が生じた現場や格納容器内の一部の機器の状況の確認が行われました。また、その後の委員会において、小委員会、WGでの検討項目についての議論が行われました。
今後は、月1回程度の頻度で委員会を開催し、小委員会及びWGにおける検討状況について報告を受けることになる予定です。 (平成19年8月9日)