原子力安全・保安部会報告

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カテゴリ: 解説記事
原子力安全・保安部会報告 神田 忠雄 昨年12月26日に、第25回総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会が開催され、新潟県中越沖地震を受けた原子力安全・保安院の対応や安全規制の制度整備及び最近の原子力安全・保安を巡る動向について報告が行われた。同委員会報告の概要を以下紹介する。
1.新潟県中越沖地震を受けた原子力安全・保安院の対応
 昨年7月16日10時13分頃、柏崎刈羽原子力発電所から約16km離れた地点で、M6.8の地震が発生した。今回観測された地震による最大加速度は、設計時の想定最大加速度を超えるものであったが、設計通り安全に自動停止。安全上重要な設備にこれまでのところ大きな損傷無し。しかし、自衛消防体制や情報連絡体制の不備といったものがあり、結果的に地域住民、国民の皆様に心配、不安を与える結果となった。中越沖地震が柏崎刈羽原子力発電所に及ぼした具体的影響の事実関係についての調査、国及び原子力事業者の取り組むべき対応策を専門家が検討することを目的に「中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会(委員長:班目東京大学大学院教授)」を設置し、検討を進めているところであり、各ワーキンググループ等でとりまとめた内容を(1)~(3)で紹介する。
 8月6~10日、IAEAによる調査が実施され8月18日に以下を内容とする調査報告書が公表されている。
? 運転中の炉は安全に自動停止し、すべての炉は地震中及び地震後安全であった
? 三つの基本安全性能(止める、冷やす、閉じこめる)は確保された
? 放射性物質の漏えいによる個人の被ばく量は規制限度を十分に下回ると評価 等
フォローアップ調査は、本年1月28日~2月1日に実施され、その調査報告書はIAEAにて(2月中旬)現在取りまとめ中である。
 
また、各原子力発電所等で柏崎刈羽原子力発電所において観測された地震と同様の地震を想定した影響評価を実施した結果が、9月20日に各事業者から報告された。すべての原子力発電所等で「止める」、「冷やす」、「閉じこめる」といった安全機能が維持されることを確認した
 さらに、各事業者は、平成18年9月に改訂された新耐震指針に基づき、耐震安全性評価(バックチェック)を実施中。新たに8施設において海上音波探査を追加実施し、詳細な断層調査を実施。本年度中に各発電所、1プラントについて安全性の評価を実施し、中間報告書を提出する。
 
(1)自衛消防及び情報連絡・提供に関するワーキンググループ
 中越沖地震における原子力施設に関する自衛消防及び情報連絡・提供に関するWG(主査:大橋東京大学大学院教授)は、12月7日にWGとして報告書案をとりまとめ、12月19日に調査・対策委員会に報告、12月21日から1月25日までパブリック・コメントにかけた。2月開催の中越沖地震における原子力施設に関する調査・対策委員会に報告し、報告書を承認した。報告書の要点を表1に示す。
(2)運営管理・設備健全性評価ワーキンググループ
 中越沖地震調査・対策委員会の下にある運営管理・設備健全性評価WG(主査:関村東京大学大学院教授)では、地震発生時の東京電力の運営管理が適切であったかどうかの評価、地震後の設備の点検、設備の健全性あるいは補修の適切性の評価作業を進めている。4回のWG審議を経て原子力安全・保安院がとりまとめた運営管理に係る評価結果の要点を以下に述べる。
Ⅰ.地震発生時の各安全機能等の確保状況の評価
<教訓と課題>
「止める」「冷やす」「閉じこめる」及び「電源」の機 能は確保されていたが、安全確保を更に万全なものとする観点から、以下の点を教訓として認識し、対応していくことが必要である。
? 運転員の訓練について、地震時の多重事象を想定し、シミュレータ訓練方法等を見直す必要がある。
? 非常時に運転操作と現場確認等を同時に実施できるように非常参集を含めて体制の整備・強化を行う必要がある。
? 非常用DGの作動確認試験等について電源の確保の観点から通常の定例試験の頻度によらず準備が整い次第速やかに行う必要がある。
Ⅱ.地震発生に伴い発生した不適合事象の評価
<教訓と課題>
 他の原子力発電所においては、東京電力により公表された安全上考慮が必要と考えられる81件の不適合事象から得られる教訓に加え、以下の点を教訓として認識し、対応していくことが必要である。
? 定期検査の際に使用する仮置き物品等については、地震により、安全重要度の高い機器等に損傷を与えないよう適切に固縛を行う等の対策を行う必要がある。
? 地震発生時に管理区域から作業員を退出させる場合の避難場所、避難後の作業員に対する表面汚染密度の測定等の緊急時の対応について検討し整備する必要がある。
? 原子炉内への燃料装荷に当たっては、燃料の着座位置(鉛直方向)を管理し、燃料が適切に着座していることを確認する必要がある。
Ⅲ.放射性物質放出に係る根本原因分析の評価
<教訓と課題>
? 建設時の設計プロセスにおいて、地震時に燃料プールのスロッシングによる漏水の影響を考慮するプロセスが設定されていなかった。今後、新規プラントだけでなく運転中プラントに対しても、想定される地震等に関する新たな知見が得られた都度、プラントの安全性を評価又は再評価するプロセスを構築する必要がある。その際、想定される事象により副次的に原子力安全に影響を及ぼす事象についても評価又は再評価するプロセスを構築する必要がある。
? 通常使用する設備、機能(自動操作機能等)が地震災害等により使用できない状況を想定した運転員の訓練カリキュラムが作成されるように訓練カリキュラム作成プロセスを改善する必要がある。
? 使用頻度の少ない非常時等に使用するマニュアルの周知プロセスは、通常時に使用されるマニュアルとは別に周知プロセスを構築する等、マニュアル周知プロセスを見直す必要がある。
? 管理区域に隣接する非管理区域における放射性物質を含む漏水のサンプリング手法を定める等、このような区域の非常時放射線管理プロセスを構築する必要がある。
Ⅳ.今後の対応
? 東京電力柏崎刈羽原子力発電所においては、これらの教訓と課題について、速やかに対策を実施することが必要である。
? 他の原子力発電所においては、各評価で明確にした教訓と課題について速やかに予防処置の要否の検討を行い、必要な対策を講ずることが必要である。
? これらの対策の実施状況については、平成19年度第4回保安検査等で確認を行う。
(3)耐震・構造設計小委員会
 耐震・構造設計小委員会(委員長:阿部東京大学名誉教授)においては、地質調査等による震源断層・地下構造・地震動に関するデータから観測値が設計を上回った要因分析等を行うこととしており、その検討を進めている。
 地質調査等の進捗状況は以下のとおり。
Ⅰ.地質調査スケジュール
東京電力は海域地質調査を11月上旬に終了し、12月5日、解析状況についての中間とりまとめを報告した。
? 陸域調査については、現在実施中であり、12月25日に中間とりまとめを報告した。
? 2月中旬頃に、政府による海底活断層調査を予定している。
Ⅱ.12月5日の東京電力による海域調査の中間とりまとめの概要
? 得られたデータ自体は設置許可時のものとほとんど変わらない。
? 設置許可時に活断層ではないとしていた断層が、現在の知見に基づくと活断層として評価される。
? 評価した活断層が地震を引き起こしたものかは不明であり、今後、詳細な検討が必要である。
Ⅲ.海底活断層と褶曲構造の評価に関する考え方の推移
? 柏崎刈羽原子力発電所の設置許可時の評価
 海上音波探査の結果、海域の断層が5万年前以降の新しい地層を変位させている(切れている)ものを活断層と認定し、新しい地層に褶曲構造があっても地層が連続していれば活断層ではないと判断した。
? 平成15年の再評価
 知見の集積を踏まえ、泊3号の審査(平成15年設置許可)において5万年前以降の新しい地層に変位がなくても、褶曲運動による変形があれば活断層の可能性があるとする新たな評価の考え方を導入した。検討の結果、東京電力は、長さ約20kmの活断層の可能性があるが、その影響は基準地震動を上回らないと判断している。
? 今回の評価
 中越沖地震の震源域で実施した今回の海上音波探査結果を踏まえると、長さ約23kmの活断層と評価される。
Ⅳ.他サイトのバックチェックに向けての対応
 3月の耐震バックチェックの中間報告に中越沖地震の知見を反映させるため、12月中に、活断層の評価を含め、現時点における反映すべき知見を中間的に取りまとめ、事業者に周知する。
2.安全規制の制度整備及び最近の原子力安全・保安を巡る動向
(1)発電設備の総点検に係る安全規制の強化
 国は、平成15年に電力会社の不正問題を受けて原子力発電の検査制度の抜本的強化を図った。一方、平成18年秋、電力会社においてデータ改ざんが次々に明らかとなってきたことを受け、甘利経済産業大臣の指示に基づき経済産業省は、全電力会社に総点検を指示した。平成19年3月及び4月に各電力会社から総点検の結果及び再発防止対策が報告され、5月に原子力安全・保安院は今後の対応30項目の具体化のための行動計画を公表した。その主要な実施状況は以下のとおり。
? 重大なトラブルの経営者への報告等を義務化(4電力会社、7原子力発電所に対し、平成19年5月に保安規定変更を命令、9月までに全て認可)
? 制御棒引き抜けの報告義務化(実用炉則第19条の17及び研究開発段階炉則第43条の14を平成19年6月15日に改正、同日施行)
? 原子炉の起動・停止に対する保安検査実施、運転上の制限からの逸脱が発生した場合の通報や事故・トラブルの根本原因分析等の義務化(実用炉則を平成19年8月9日改正公布、9月30日施行)
(2)検査制度の改善に向けた取組み
 平成18年9月に「検査のあり方検討会」(主査:班目東京大学大学院教授)で取りまとめた検査制度の改善の基本方針にそって作業中である。
? リスク情報を活用して、運転中の安全確保を重視する制度に改善する
 事業者が、原子炉の起動操作、停止操作等の安全上重要な行為を行う時点で、国が立ち会い安全性を確認する(平成19年8月9日改正省令公布、9月30日施行済)。
? 事故・トラブルの未然防止の徹底を求める制度に改善する
 事業者が安全文化の劣化などの根本原因分析を行うために、国は、根本原因分析の実施を省令上義務付け(平成19年8月9日改正省令公布、12月14日施行済)。学協会に必要なガイドラインの整備を求め整備済。プラントの安全確保状況についての総合評価の仕組みについては、試行を含めて検討実施中である。
? 個々のプラントごとの特性に応じた個別の検査を実施する方向に改善する
 事業者が、個々のプラントの特性に応じて保守管理の計画(「保全計画」)を策定し、国は、事業者によるこの計画の実施状況を踏まえて検査を実施する。8月末に、定期検査間隔変更の場合のカテゴリー設定(現行の13ヶ月以内に18ヶ月以内、24ヶ月以内の追加)をする必要があるという法令上の要求について議論した際に、地元自治体から少し丁寧な説明を求める強い要望が出され、地元自治体等へ説明を進めている。
 原子力発電所における検査制度の充実の要点を表2に示す。







(3)放射性廃棄物処分に関する安全規制の動向
 平成19年6月の原子炉等規制法の改正を受け、12月19日に改正政令を公布した。改正政令は、第一種廃棄物埋設(地層処分)と第二種廃棄物埋設(余裕深度処分、浅地中処分)とを区分する放射性物質及びその放射能濃度の基準について、原子力安全委員会の推奨値を踏まえて定めたものである。廃棄物埋設施設において核物質防護措置が必要な場合を定め、ガラス固化体等に含まれる核燃料物質を防護措置の対象としている。
 現在、平成20年4月1日施行に向け技術基準等を規定する第一種廃棄物埋設に係る規則(省令)を策定中である。また、第二種廃棄物埋設についても従来の埋設規則を第二種埋設に係る規則(省令)として改正中。いずれの規則も4月以前に公布されている見込みである。
(4)六ヶ所再処理施設の状況
 日本原燃の六ヶ所再処理施設については、使用済燃料を用いて環境への放出放射能量等の確認を行う目的で、平成18年3月から5つのステップを設けたアクティブ試験を実施中であり、平成20年2月から、最終段階の第5ステップの試験を開始する予定である。
保安院としては、引き続き原子炉等規制法に基づく使用前検査を厳正に実施中である。
(5)もんじゅの最近の状況
 日本原子力研究開発機構(JAEA)の「もんじゅ」については、ナトリウム漏えい事故以降、運転再開に向けて、ナトリウム漏えい対策のための改造工事等を実施してきており、現在、平成20年10月の再起動に向けて個別設備に性能等に関するプラント確認試験を実施中である。    
(平成20年2月19日)
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