原子力安全・保安部会報告

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カテゴリ: 解説記事
原子力安全・保安部会報告 神田 忠雄 6月25日に、第27回原子力安全・保安部会が開催され、新潟県中越沖地震を受けた原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)の対応その他最近の原子力安全・保安を巡る動向について報告が行われた。その概要を以下に紹介したい。
1.新潟県中越沖地震を受けた保安院の対応
柏崎刈羽原子力発電所の安全確認作業は、スケジュールありきではなく、地元の方々への説明もしつつ、しっかり粛々と安全確認を行うこととしている。
(1)柏崎刈羽原子力発電所に係る設備健全性評価の検討状況
(イ)保安院の最近の動き
地震発生直後から、柏崎刈羽原子力発電所の各号機について、原子力安全・保安院の検査官立会のもと、目視による外観点検を実施したが、原子炉の内部も含めて、安全上重要な設備に目立った損傷は確認されなかった。また、今年1月以降は、7号機を中心に、作動試験や漏えい試験も含めた詳細な点検を実施しているが、安全上重要な設備のうちこれまでに点検を終了したものについては、設備の健全性は維持されていた。さらに、コンピュータを使って7号機の安全上重要な設備にかかった力を計算したところ、約100設備の結果全てにおいて、地震による力は、塑性変形が生じる値を下回っていた。
保安院は、4月17日、原子力安全委員会に対し、7号機の健全性確認状況の中間報告を行うとともに、東京電力(株)に対して、より確実に健全性を確認するため、解析の結果、評価が厳しかった設備に対する非破壊試験等の追加作業を指示した。現在、東京電力(株)において、作業が行われている。
保安院としては、7号機の残りの設備や他の号機について、引き続き厳格に健全性を確認していく。
(ロ)各号機に対する保安院の確認状況(立入検査の実施状況)
点検・評価計画書の提出日 立入検査実施日 立入検査対象
1号機 平成20年2月6日 平成20年3月5日から実施中 主蒸気系配管、残留熱除去系配管、再循環配管、炉心シュラウド等
2号機 平成20年5月16日 平成20年6月25日から実施中 炉心シュラウド
3号機 平成20年4月14日 平成20年4月22日から実施中 原子炉再循環系配管、炉心シュラウド
4号機 平成20年5月16日 平成20年6月24日から実施中 燃料集合体
5号機 平成20年3月7日(共有設備)
平成20年4月14日(その他設備) 東京電力の設備点検状況に応じて今後実施 -
6号機 平成20年3月7日 平成20年4月22日から実施中 中央制御室送風機、ほう酸注入系
7号機 平成20年11月27日 平成20年1月22日から実施中 主蒸気系配管、原子炉格納容器、気体廃棄物処理系配管等
(ハ)7号機の健全性評価に係る保安院の中間報告の概要
中間報告は、東京電力から平成20年4月10日付けで提出された「柏崎刈羽原子力発電所7号機 新潟県中越沖地震後の設備健全性に係る点検・評価に関する中間取りまとめ(報告書)」に示されている現時点での設備の健全性評価のプロセスや結果の妥当性、今後の対応等について、設備健全性評価サブWG等の委員に意見を求めつつ、保安院の見解を中間的に取りまとめたものである。(なお、今後設定される柏崎刈羽原子力発電所の新たな基準地震動に対する耐震安全評価は、別途行われるものである。)
東京電力からの中間とりまとめでは、これまでに約1,140機器に対する目視点検、約740機器に対する作動試験及び約210機器に対する漏えい確認等が行われ、重要度は高くないものの一部の機器に異常が確認され、地震による影響の有無を含めて原因調査等の対応を実施していることが報告されている。また、これまでに約100設備について解析が行われており、すべて技術基準を満たす範囲内に収まっていることが報告されている。保安院は、点検実施状況についての保安院自身による確認結果とJNESによる解析検証結果が符合していることから、7号機の安全上重要な設備のうち、現時点で評価が終了している設備の健全性が維持されているとする東京電力の報告は妥当なものであると評価。今後、引き続き東京電力による設備の点検状況や、地震応答解析の実施状況等について確認を行っていくとともに、追加指示に対する検討結果等を踏まえ、保安院として最終的な評価を取りまとめることとしている。
(2)柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性の確認状況
耐震安全性を確保するための検討項目は以下のとおり。
① 今回の地震で柏崎刈羽原子力発電所の耐震安全性は確保されているか?
② 今回の地震による揺れが設計で想定した揺れを大きく上回った要因は何か?
③ 柏崎刈羽原子力発電所の今後の耐震安全性を確認するための基準地震動はどのように設定するのか?
④ 新たに設定した基準地震動による耐震安全性は確保されるのか?
現在、①から③を中心に検討中。
(イ)活断層の評価状況
・F-B褶曲群については、耐震安全性を評価するための基準地震動を検討するに当たって、約36kmを活断層評価の不確かさを考慮する範囲としている。また、F-B褶曲群北方については、念のため、今後保安院が海上音波探査を実施し確認を行う。
・長岡平野西縁断層帯については、角田・弥彦断層、気比ノ宮断層、片貝断層の3つの断層が長さ約90kmの区間にわたって同時に活動することも考慮すべきであることを確認。また、震源断層の傾斜角については、さらに検討するよう事業者に求めており、今後、その結果を踏まえた検討を行う。
・西山丘陵の褶曲構造及び真殿坂断層については、敷地及び敷地近傍の地質調査の結果、西山丘陵における褶曲構造の活発な成長や真殿坂断層の活動性はないことが概ね確認されている。
(ロ)中越沖地震における大きな揺れの要因
今回の地震では、同じ規模の地震(マグニチュード6.8)と比べて、約1.5倍程度大きな揺れが発生した。JNESの報告によると、大きな揺れの原因は、今回の地震の震源の特性と震源から柏崎刈羽原子力発電所につづく地下構造の特性であると分析。  
柏崎刈羽原子力発電所周辺の地価構造は、堆積層が厚く、褶曲(しゅうきょく)した構造を持ち、この中を伝わる地震波が重なり合う特性があり、さらに地震波が1号機側に大きく集まるような構造と分析。
(ハ)基準地震動の検討状況
保安院は、5月22日に東京電力から報告された新たな基準地震動(水平方向最大加速度:[従前450ガル→]2280ガル※(1~4号機)、[従前450ガル→]1156※ガル(5~7号機))が、平成18年9月に改定された耐震設計審査指針を踏まえて策定されているかどうかを以下の点を中心に厳格に確認する。
※東京電力は、F-B断層が36Kmと再評価されたことを受け、今後基準地震動を見直す方針。
① 敷地周辺で発生する地震に関する調査を適切に実施しているか。
② 適切な検討用地震が選定されているか。
③ 適切な地震動評価がなされているか。
④ 不確かさの考慮は適切か。
(ニ)原子炉建屋の健全性確認状況
今回の地震により構造部位に発生したことが否定できないひび割れを11本確認したが、ひび割れ幅は0.3mm以下であり、剥離・剥奪も生じていないことから構造上の問題はないことを確認した。
今後、原子炉建屋等の地震応答解析結果と点検結果との照合を行うとともに、解析ではひび割れ発生の目安値を超えないものの耐震壁に地震で発生したと考えられるひび割れが存在することについて引き続き検討を行う。
(3)耐震安全性に関するIAEA国際ワークショップ
平成20年6月19日(木)から21日(土)まで新潟県柏崎市において、耐震安全に関する各国における最新の情報及び知見の交換を行いIAEAの耐震安全基準見直しに反映することを目的として、IAEA国際ワークショップが開催された。日本を含む28カ国及び2国際機関から計335名が参加、活発な意見交換が行われた。
結果、主として以下の点がとりまとめられた。
① 日本における最近の地震事象
・柏崎刈羽原子力発電所は新潟県中越沖地震においても良好な耐震性を示し安全が確保されたが、他の発電所が同様の耐震性を有するとは限らないことを各国は認識すべき。したがって、既存の発電所の定期安全レビューにおいて、耐震安全向上のためのデータや最新技術の適用などを考慮すべき。
・大地震時、公衆への正しく速やかな情報提供の必要性を各国は認識すべき。
② IAEAメンバー国による地震動評価の方法と最近の適用
・正しい地震動評価は耐震安全を確保する上で極めて重要であるが、その手法は各国において異なっている。
・耐震評価において、サイト調査の際の確率論的な手法に関する追加的なガイダンスが必要。
・複数国における確率論的な地震評価についての事例が紹介されたが、不確実性克服のための更なる検討が必要とされた。
③ 原子力発電所の耐震設計
・原子力発電所の耐震設計については、日本では十分な安全裕度を持った設計をすることが非常に重要であると考えられている。また、カナダや韓国、ロシアの炉においても一定の考慮がなされている。他方、耐震設計とコストとの関係や、安全裕度の定量化などが明確でない。
④ 既存の原子力発電所の耐震安全性
・既存の原子力発電所の耐震に関するIAEA 安全基準は、最終の策定段階にあるが、柏崎刈羽原発を含む各国の経験・教訓を引き続き反映していく。
・地震防災の重要性及び地震と火災・洪水などの複合事象を考慮すべき。

その他IAEAから、IAEA国際耐震安全センターの設立が表明された。原子力関連施設への地震の影響についての国際的な関心の高まりを受け、IAEAの調査検討を集約して実施する観点で、IAEA技術安全課の活動の一部として設立することとしたもの。具体的な活動としては、原発の耐震安全性に関連する地震や原子力分野の各国専門家とのネットワーク作りや、知見の集約・共有を行うこととなる模様。日本もIAEAが行う基準づくりに貢献していきたいと考えており、IAEAに対する資金提供や専門知識を有する職員の派遣などを行っているところ。
2.最近の原子力安全・保安を巡る動向
(1)原子力発電所における検査制度
保安院は、平成15年10月に現行の検査制度を導入して以降、その定着を図るとともに、原子力発電所の高経年化が進んでいること等を踏まえ、平成17年11月から「検査のあり方検討会」において検討を重ね、平成18年9月に報告書「原子力発電施設に対する検査制度の改善について」をとりまとめ、「『保全プログラム』に基づく保全活動に対する検査制度の導入」、「安全確保上重要な行為に着目した検査制度の導入」、「根本原因分析のためのガイドラインの整備等」を柱とする検査制度の改善の方向性を示した。
これら3つの柱のうち「安全確保上重要な行為に着目した検査制度の導入」については、定期検査に伴う起動・停止時の保安検査及び運転上の制限を逸脱した場合の検査が平成19年9月から、「根本原因分析のためのガイドラインの整備等」については、根本原因分析の要求が平成19年12月から先行導入されている。
今回、残る柱の一つである保全プログラムを基礎とする検査の導入について、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」、「研究開発段階にある発電の用に供する原子炉の設置、運転等に関する規則」及び「電気事業法施行規則」の一部を改正し、原子力発電施設の保守管理について一層充実させることとしており、おり、来年1月初旬に施行することとなっている。今回の制度改正は、あくまで安全の向上を図るためのものであり、具体的には、運転中のポンプの振動測定等による追加的な検査を義務付け、機器の分解点検時の部品の劣化状態に関するデータを科学的に取得・蓄積し、以降の点検方法・頻度に反映させることを求めるなど、事業者による保全の充実を促すとともに、その実施計画や実施状況を国が厳格に確認する仕組みを導入するものである。
省令の主な改正点は以下の通り。
・保全を充実させるための保安規定記載要求事項を拡充
・予防保全の徹底として、事業者は手入れ前データの蓄積等を踏まえ、一定の期間(13月以上)を設定し、その期間中技術基準に適合している状態を維持するかどうかを判定する方法で定期事業者検査を実施
・定期検査の時期について、これまでの画一的(13月以内)であった規定から、設備の保守管理の観点を踏まえて、13月以内、18月以内及び24月以内の3分類を設定。ただし、段階的かつ慎重に運用を開始
・高経年化対策の確実な実施のため、「長期保守管理方針」を保安規定記載事項として国がその内容を審査した上で認可
・運転中の定期事業者検査の追加      等。
(2)日本原燃(株)六ヶ所再処理施設の状況
日本原燃(株)は、平成20年2月からアクティブ試験第5ステップを実施中。保安院としては、引き続き、事業者の試験実施状況を現地の原子力保安検査官等を通じて適宜注視していくとともに、使用前検査を行い、再処理施設全体の安全性を厳格に確認していく。
(3)「もんじゅ」の最近の状況
(独)日本原子力研究開発機構は、高速増殖原型炉「もんじゅ」の運転再開に向け、ナトリウム漏えい対策等の改造工事を終了し、平成19年8月末よりプラント確認試験として、長期停止に伴う設備・機器を含めプラント全体としての健全性確認等を進めている。 
また、取替燃料を初装荷燃料として使用(現装荷燃料に加え、製造済及び製造予定の燃料を使用)すること等に伴う原子炉設置変更許可申請を平成18年10月に原子力機構は保安院に提出し、平成20年2月に許可を受けた。これを受け、5月9日付けで、同機構は引き続き当該許可に係る設工認等の申請を行い本年7月に許可を受けた。プラントの性能試験は、0%出力、40%出力、100%出力と段階的に実施し、2年半程度の時間を要する見込み。
(4)産業保安関係事故の低減に向けた取り組み
高圧ガス、都市ガス及びLPガスの各分野では、事故の報告件数が、ここ数年で急増している。今後、ガス安全小委員会、高圧ガス部会及び液化石油ガス部会の下に、「産業事故分析・対策共同WG」を設置し、検討状況について原子力安全・保安部会に適宜報告する。
(2008年8月12日)
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