軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波深傷試験に係わる日本電気協会技術規定(JEAC4207)の改定

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カテゴリ: 解説記事
軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波深傷試験に係わる日本電気協会技術規定(JEAC4207)の改定 石沢 順一,Junichi ISHIZAWA,野村 友典,Tomonori NOMURA,笹原 利彦,Toshihiko SASAHARA _

1.はじめに
国内の軽水型原子力発電所の定期検査における供用期間中検査(以下、ISIと略す)の規程として、1974年に社団法人日本電気協会から主にASME Boiler & Pressure Vessel Code-Section XI(以下、ASME Sec. XIと略す)を参考として、「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査(JEAC4205)」が発行された。その後技術の進歩及びASME Sec.XIの改定を参考に、JEAC4205-2000年版まで数回の改定が行われた。
 一方2002年以降、経済産業省原子力安全・保安院において、原子力発電設備の検査制度の見直し、規制・基準の性能規定化と民間規格の活用提言、電気事業法等法規制の改正など一連の制度変更が行われた結果、設備の健全性評価の義務化及び原子力発電設備のISIの方法として、日本機械学会JSME S NA1-2002「発電用原子力設備 維持規格」の活用が導入された。
上述の維持規格またはJEAC4205に基づく供用期間中検査で要求される超音波探傷試験の欠陥の検出に関する具体的事項については、1986年にJEAG4207「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中における超音波探傷試験指針」が制定され、最新の知見を取り込みながら改定が行われてきた。JEAG4207-2004年版改定では実運用を考慮した指針内容の適正化と合わせて欠陥サイジング手法、試験員及び試験評価員の資格、教育訓練の要求事項を追加している。
 今回は、新知見、ISI関係者意見等の反映及び指針から規程への変更を目的にJEAC4207-2008の改定を行った。2.以降に主要改定点を示す。
2.JEAC4207-2008の主要改定点
JEAG4207は、2004年版が発行されたが、その後供用期間中検査における超音波探傷試験を取り巻く状況に、以下のような動きが見られた。
・NDIS0603:2005(日本非破壊検査協会規格;超音波深傷試験システムの性能実証における技術者の資格及び認証)が制定され、軽水型原子力発電所用機器のオーステナイト系ステンレス鋼配管突合せ溶接継手に発生した、き裂の高さ(深さ)測定に関するPD制度(Performance Demonstration制度:検査員の技能認証制度)が2006年3月に開始された。
・原子力安全基盤機構から発行される研究レポートである、JNES-SS-0404 (SGF/UTS:2005年3月)、JNES-SS-0604 (NNW:2006年5月) 及びJNES-SS-0620 (NSA:2007年3月) が発行され、超音波探傷試験に関する新たな知見が示された。
UTS:超音波探傷試験による欠陥検出性及び
サイジング精度に関する確証試験
NNW:高ニッケル合金溶接部の非破壊検査技術実証
NSA:低炭素ステンレス鋼の非破壊検査技術
実証
・ISIに従事している関係者から、JEAG4207の改定に向け要望が示された等。
このような背景から、PD制度及びJNES-SSレポート等の反映を行うと共に、ISI関係者にアンケートを実施し幅広い意見を収集した。また、上位の技術規程であったJEAC4205が、維持規格に取り込まれ、超音波探傷試験要領として信頼性の高い技術水準であるJEAG4207が、実質的に「規程」の位置付けで運用されていることから、指針から規程(JEAGからJEAC)への改定を行なった。
なお、JEAC4207は表1に示すように、本文4章と付属書から構成されている。
本  文 第1章 総則
第2章 一般事項
第3章 容器の超音波深傷試験要領
第4章 配管の超音波深傷試験要領
付属書A A-1000総則
A-2000モード変換法による欠陥深さ測定要領
A-3000タンデム法による欠陥深さ測定要領
A-4000端部エコー法による欠陥深さ寸法測定要領
A-5000TOFD法による欠陥深さ寸法測定要領
A-6000フェーズドアレイ法による欠陥深さ寸法測定要領
表1 JEAC4207-2008の構成
2.1 事前確認
本規程を適用する場合、予め欠陥検出精度及び欠陥寸法測定誤差を確認したうえで、欠陥評価を行う必要があることを規定している。確認の方法として、適用する手法と試験対象部位との組合せで、「UTS」又は「PLR 配管サイジング精度確性試験」での成果と同等の精度が得られるものと判断された場合は、これらの成果を活用することができる。また、今回の改定により、米国ASME 等のPD 資格試験だけでなく、我国のPD規格NDIS0603に合格したものであれば、PD 合格基準の値を活用することができることとした。
2.2 異種金属溶接継手及びSUS鋳鋼溶接継手の
追加
容器管台(ノズル)とセーフエンドとの異種金属突合せ溶接継手及びオーステナイト系ステンレス鋳鋼配管突合せ溶接継手に関する探傷要領を追加するとともに、斜角探傷における超音波モードの選択に関する原則的な考え方として、表2を追加した。
表2 斜角探傷における超音波モードの選択
対象箇所 超音波
モード
低合金鋼、炭素鋼等の超音波の伝ぱ性の良いもの 横波
ステンレス鋼溶接継手等の減衰の大きいもので溶接継手の両側から探傷可能な場合 横波
ステンレス鋼溶接継手等の減衰の大きいもので、片側からのみ探傷可能で、探傷不可範囲を低減するために溶接線を透過した探傷を行う場合 通常の
探傷範囲 横波
溶接線を透過した探傷を行う範囲 縦波(但し、内表面近傍のみを検出対象とする)
ステンレス鋳鋼等の超音波の減衰の大きい材料の探傷を行う場合*1 縦波
高ニッケル合金溶接継手の探傷を行う場合*1 周方向
探傷 縦波
軸方向
探傷 横波(縦波を用いてもよい)
*1 UTS、NNW で検出性が確認されているのは、ステンレス鋳鋼管(遠鋳材、静鋳材)および高ニッケル合金溶接継手である。
2.3 探傷不可範囲及び走査不可範囲の考え方の統一
要求されている試験範囲に対して十分な走査ができない場合には、探傷不可範囲図あるいは走査不可範囲図を作成して、記録の一部とする。ここで探傷不可範囲と走査不可範囲の考え方について統一を図るため、改定版では具体例を示し解説部分を追加した。
・探傷不可範囲:試験範囲に対して、各方向からの走査(軸方向/周方向)で超音波ビームの中心軸がまったく透過しない部分を示す。
・走査不可範囲:規定の走査範囲に対して十分な探触子走査はできないが、試験範囲に対して垂直探傷および各方向(軸方向/周方向、+方向/-方向)からの斜角探傷で超音波が通過しているもの。
・ここで探傷不可範囲および走査不可範囲の記録は、対象部位の実測寸法あるいは設計寸法によって作成する。
2.4 校正用反射体の形状
対比試験片に設ける校正用反射体は、原則として探傷面に平行に加工した横穴とする。ただし、縦波斜角探傷の場合には、横穴に加えてノッチとする。これは、縦波斜角探傷の場合にはノッチあるいはノッチを模擬した段差を有する対比試験片を用いることが有効であるとの、UTS、NSA 及びNNW(平成16 年度まで)の成果を反映させたものである。
2.5 配管の突合せ溶接継手
2.5.1 垂直探傷の最適化(配管探傷)
これまで、「配管の突合せ溶接継手の試験は、垂直法及び斜角法により実施しなければならない」としていたが、今回の改定で「ただし、垂直法については、過去に、現在の校正方法・記録レベルが同一の条件で探傷したISI等の客観的記録があり、要記録エコーが記録されていない部位については斜角法のみとする。」と追記した。
この理由として、垂直法では、運転に伴って発生が予想されるき裂状の反射源についての検出能力は非常に低く、探傷の位置付けとして斜角探傷の妨害となる大きなラミネーション状の反射源の有無を確認するものである。このため現在の規定に照合して同等と考えられる探傷記録がある場合には垂直探傷を要求しないものとした。このときの記録については、ISIのように探傷実施者の他にその実施内容・手順等を客観的に確認していることが必要である。実際にISIやそれに準ずる試験として実施している場合の他、PSI(供用前検査)であっても第三者確認等を実施している場合はこれに含むものとする。なお、この場合であっても要記録エコーの記録されている部位(継手ではなく検出された反射源)については追跡監視を行う必要がある。
2.5.2 欠陥確認へのフェーズドアレイ法適用
「斜角法の公称屈折角は、原則として45°とするが、試験部の厚さなどの幾何学的形状のため45°が適さない場合には、他の屈折角を用いてもよい。また、斜角探傷で検出した指示が、欠陥であるかどうか疑わしい場合は、他の屈折角や振動モード、あるいは周波数、周波数帯域、焦点の有無、2 次クリーピング波法による試験、フェーズドアレイ法、板厚方向に深さのある反射源か否かを確認するための深さ測定等を追加して行うことができる。なお、他の屈折角等による追加の確認探傷は、欠陥かどうか疑わしいか否かにかかわらず実施してもよい。」とし、従来は、き裂の深さ(高さ)測定にのみ採用していたフェーズドアレイ法を、今回初めて欠陥確認への適用に取り入れた。以下にその要点を記す。
(1)フェーズドアレイ法による探傷方法
フェーズドアレイ法は、配管内表面開口あるいは内面近傍の欠陥の確認のため使用できる。また、その実施に当たっては、フェーズドアレイ探傷装置を用い、画像表示等が可能なものとする。なお、使用機材等については、従来の手法と異なる部分が多いため、独自に設定してもよいとしている。
(2)基準感度の設定(図3)
a.セクタ走査の場合
対比試験片の1mm ノッチからのエコー[(4 / 8)S]高さを記録する。記録する範囲は評価に使用する最大屈折角、最小屈折角および5 度毎に記録するものとし、使用する装置の表示可能範囲で適切に設定する。
b.リニア走査の場合
対比試験片の1mm ノッチからのエコー[(4 / 8)S]高さを記録する。記録する範囲は評価に使用するエレメント範囲のいずれかとする。また別途エレメント範囲によるエコー高さの差異が±2dB の範囲内にあることを確認するか、補正する方法
を定めて、補正する。
(3)探触子の走査範囲
探触子の走査範囲は、斜角探傷で検出された指示の範囲(DAC20%を超える指示範囲)にわたって走査する。
(4)記録
記録は要領に準じて必要事項を記録する。探傷画像(採取したデータを合成処理したデータ等)によりエコー高さ等がある程度記録されている場合には、数値による記録を要しない。
なお、指示長さについては、以下による。
a. 最大エコー高さが基準ノッチのエコー高さの80%以上の場合、基準ノッチからのエコーの20%の指示長さとする。
b. 最大エコー高さが基準ノッチのエコー高さの80%未満の場合、最大エコー高さの-12dBの指示範囲とする。
(5)評価
フェーズドアレイ法は、現状では欠陥かどうか疑わしい指示が検出された場合に確認のため用いる手法であるため、他の検査手法と組み合わせて総合的に評価を行う。
また、欠陥長さについては斜角法のDAC20%指示長さ及び2 次クリーピング波法の表示器の全目盛りの10%を超える指示長さのいずれか長い方とすることを原則としているが、フェーズドアレイ法も実施した場合は、これらの手法の結果のうち、最も長い長さとする。
2.6 試験結果に基づく反射源の位置及び種類の解析
ビーム路程、屈折角、試験部の厚さ等から、反射源の位置の解析を行うが、従前の記載に以下のような文章追記を行なった。
(1)反射源の位置の解析
反射源位置の作図において、その後行う反射源の種類の分類に支障をきたすと判断される場合は、以下の手順に従うことが望ましい。
a. 表面形状が反射源の種類の分類に影響を与えると判断される場合は、くし型ゲージ(シェイプゲージ)等により表面形状を考慮した上で、反射源位置の解析を行うことが望ましい。
b. 溶接継手中心が不明確で反射源の種類の分類に影響を与えると判断される場合は、斜角法または垂直法を用いて溶接継手中心を求めることが望ましい。
c. 内面形状変化がある場合で、反射源の種類の分類に影響を与えると判断される場合は、詳細板厚測定を実施することが望ましい。このとき、オーステナイト系ステンレス鋼の詳細板厚測定を行う場合は、反射源の分類に必要な範囲にわたり、概ね2.5mm 間隔での測定が望ましい。
(2) 反射源の種類の解析
超音波探傷試験で検出されたエコーについて、その反射源が欠陥に基づくものか、試験部の金属組織的変化又は形状に起因するものかを判断するために、解析を行う。規程の表に記載されている以外のエコー名称を用いる場合には、その定義を明確にしておく。
a. 表面形状(例えば溶接裏波部形状)によるエコーであると判断された場合には形状エコーと、材料の金属組織的変化(例えば溶接金属と母材との境界部)によるエコーであると判断された場合には、金属組織エコーと評価する。
b. 形状エコー又は金属組織エコーと判断する手段は次のとおり。
(a) 通常の試験要領によって反射源が存在する範囲を評価する。
(b) 反射源の座標をプロットし位置関係を確認する。反射源の位置及び裏波部やテーパ移行部等表面の不連続位置を図示した断面図を用意する。
(c) 製作図又は溶接開先図と照合して確認する。
c. これらの代わりに他の非破壊試験手法を用いて、指示が形状又は金属組織によるものであることを判断してもよい。(例えば他の屈折角、放射線透過試験、内面又は外面の形状計測)
2.7 欠陥深さ寸法測定
従来、本附属書は、「超音波探傷試験による欠陥深さ寸法測定に適用可能な要領を示す。ただし、これ以外の方法であって、欠陥評価の保守性を考慮して十分な精度を有すると認められた方法により、欠陥深さ寸法測定を行ってもよい。」と記載されていたが、PD制度導入により、NDIS0603附属書によって認証された範囲において超音波探傷試験技術者、探傷装置および手順書を用いた欠陥深さ寸法測定を行う場合には「欠陥評価の保守性を考慮して十分な精度を有すると認められた方法」と見なしてよいこととした。
 また、き裂の深さは、浅いものから深いものまで想定して、き裂先端を厚さ方向全体にわたり確認する。このために複数の手法の組合せ又は複数の測定条件で、総合評価することが不可欠であることから、「欠陥深さ寸法測定は、複数の手法又は複数の測定条件で行い、総合的に評価する。」と追記した。
適用する手法の組合せ等については、適用部位、想定される欠陥等に応じて個別に定めることとなるが、「UTS」 及び 「PLR 配管サイジング精度確性試験」においては、次のような手法の組合せが用いられており、これらを参考にしてもよいとした。なお、個別の測定要領は、各章に分けて記載されている。
[適用する手法の組合せの例]
① モード変換波法、タンデム法及び端部エコー法又はTOFD 法との組合せ
② 端部エコー法(縦波/横波、複数の屈折角の組合せ)
③ フェーズドアレイ法と端部エコー法の組合せ
④ TOFD 法(複数の交軸の組合せ)
⑤ フェーズドアレイ法
(焦点、屈折角等に関する任意の複数条件)
適用部位は、「UTS」及び「PLR 配管サイジング精度確性試験」の適用範囲に超音波特性を考慮して、手法別に定めた。
(1)モード変換波法は、フェライト鋼系配管とオーステナイト系ステンレス鋼配管ともに試験部の厚さ50 mm まで適用性が確認されており、同じ適用性が得られると判断されるフェライト鋼系容器(クラッドなし)の突合せ溶接継手も適用部位に含めた。なお、試験部の厚さの上限値は、本文の規定と整合を図り、51mm とした。
(2)タンデム法は、オーステナイト系ステンレス鋼配管の試験部(厚さ35mm)の深いSCC に対する欠陥深さの予備判定手法に有効であることが確認されており、UTS 成果を反映し、適用部位は、モード変換波法と同様、試験部の厚さが10mm以上51mm以下のオーステナイト系ステンレス鋼配管及びこれとほぼ同等の結果が得られると判断される厚さ51mm 以下の容器(クラッドなし)を含めた。
3.おわりに
今回、JEAG4207-2004の改定を行うに当たり、PD制度及びJNES-SSレポート等の反映を行うと共に、ISI関係者にアンケートを実施し幅広い意見を収集し、2008年版としてまとめた。さらに、JEAG4207が実質的に「規程」の位置付けで運用されていることから、指針(JEAG)から規程(JEAC)への改定を行ない、「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査における超音波探傷試験規程JEAC4207-2008」とした。この中で、きず検出結果の確認へのフェーズドアレイ法の適用を新たに取り入れたので、その点を含めて主な改定点を解説した。UT関係者の参考にして頂ければ幸いである。
(平成20年8月21日)
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