地震PSAにおける安全裕度と不確かさ

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地震PSAにおける安全裕度と不確かさ 山口 彰,Akira YAMAGUCHI
1.はじめに
2007年7月の新潟県中越沖地震を受けて、新潟県の「設備健全性、耐震安全性に関する小委員会」(1)は、原子力発電所設備の設計は、地震だけでなくそれ以外の高い内圧や自重等を考慮して決められている結果、設備全体としての安全裕度が高くなり、それがこのたびの想定を越える地震に対し、十分な余裕として機能したという解釈がおおむね妥当なものと評価した。また、原子力発電所のアクシデントマネージメントに関する原子力安全委員会決定(2)は、設計基準事象を超え、炉心が大きく損傷する恐れのある事態が万一発生したとしても現在の設計に含まれる安全余裕や安全設計上想定した本来の機能以外にも期待し得る機能を有効に活用することによって、それがシビアアクシデントに拡大するのを防止すると述べている。双方に共通する考え方は、顕在化していない安全裕度が現行の設計には含まれており、それを適切に考慮し活用すれば、想定を超える深刻な事態においても公衆の安全の観点から重大な影響を及ぼすことのないように原子力施設の運用を行うことが可能であり、相当の確度で災害の発生を防止できるということである。
この安全裕度なるものは、偶々存在し幸運にも機能したのか、あるいは、定量的であれ定性的であれ認識されており、それが必然的に原子炉施設の安全確保に一役買ったのか。安全裕度とは何を指すのか、何に由来するのか、それを我々は定量化しているのか、それにより安全の深みがどの程度増しているのか。設計基準を超える時代における安全確保のあり方が議論される昨今、このような考察は意義あると考え、本稿では、原子力施設の耐震安全における安全裕度と不確かさについて私見を述べたい。
新潟県中越沖地震により東京電力の柏崎刈羽原子力発電所が被害を受けたがそれと相前後して、2006年9月に原子力安全委員会は耐震設計審査指針 (3)を改訂し
(以下、新指針と言う)、2007年9月に日本原子力学会
は「原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007」(4)(以下、学会標準と言う)を刊行した。この三つに共通するキーワードは設計基準を超える事象と安全裕度と不確かさである。耐震設計審査指針と学会標準は、長期間に及ぶ議論の末に偶然にもこの時機に制定されたものであるから中越沖地震の発生と直接関係するわけではないが、設計基準を上回る状況における安全裕度について重要な概念が示されている。
新指針は、施設の供用期間中に極めて稀であるが発生する可能性のある地震動(基準地震動Ss)による地震力に対して、安全機能が損なわれない設計であることを要求しているが、地震学的見地からは、それを上回る強さの地震動が生起する可能性は極めて低いものの否定できないことから、「残余のリスク」の概念を提起し、それを合理的に可能な限り小さくすることを求めた。すなわち、安全裕度をリスクという形で定量化することを促している。学会標準は、基準地震動を超える地震に対しその残余のリスクを定量化する手順を体系化したものである。新潟県中越沖地震において、設計基準地震動を大幅に上回る地震が発生したにも関わらず原子炉がその安全機能を確保したことはシステムに潜在的な安全裕度が存在することを示す証左であり、それが原子炉の安全確保に必要十分であったことは冒頭に述べたとおりである。
残余のリスクを合理的に可能な限り小さくするためには、資源をリスクの観点から重要な部分に重点的に配置し、そうでない部分は必要十分な範囲にとどめるなどの新しい考え方とアプローチが必要である。そのためには、リスク評価における不確かさの程度と本質を明示し、プラントの安全裕度を顕在化させるること、そしてリスク情報に基づく判断が求められる。
2.地震PSAの損傷モデル - フラジリティ
 
フラジリティは、地震動の強さあるいはそれによる荷重の関数として機器やシステムの脆弱性を確率で表
す概念である。フラジリティを、脆弱性を表現するに適切な量(モーメント、変位、エネルギーなど)の関数とすることは合理的であるが、その場合には地震動の強さとその量を関連付けるモデルを導入する必要がある。そこで、地震リスクを評価する便宜上、地震動の指標であるピーク基盤加速度(PGA)を横軸の変量とすることが一般的である。縦軸は脆弱性を表す損傷確率や機能喪失確率をとる。
図1 フラジリティの概念
図1に示すとおり、フラジリティは、PGAが小さいとき損傷確率は小さく、大きくなるにつれて損傷確率が増加する特性を示す。 をPGA、 を機器の耐力をPGAで表した量とすれば、損傷確率 は が を上回る確率として次式で表される。
(1)
ここでは累積標準正規分布関数である。 が小さいとき曲線の傾きが大きく(図1の点線)、損傷の閾値が明確に現れる特性を示す。 が大きいときは曲線の傾きが小さく、小さな地震動でも損傷が発生したり大きな地震動においても損傷しなかったりと、予測が困難なランダムな特性を示す。すなわち、損傷の特性が、横軸に選んだ量では適切に表現されないため、損傷の閾値が明確でない。このように が大きいときには損傷はランダムに起きているようであり、randomnessのRをとって とする。これを低減するためには、損傷というあいまいな現象を記述できる物理量を見出す必要がある。
耐力 の中央値を と記し、耐力中央値と呼ぶ。耐力は本来、定数であるが損傷するまでその値を知る由もない。そこで対数正規分布を仮定して確率変数
を表す。図1に確率密度関数(PDF)を示す。分布の広がりをUncertaintyのUをとって で表す。
(2)
は標準正規分布関数である。(1)式と(2)式から
(3)
ここで、 である。 は耐力に関する信頼水準で、5%の時には図1の下限曲線を、95%のときは上限曲線を表す。
フラジリティの概念は、応答(Response)-強度(Strength)モデルからも説明できる。図2に示すように、ある地震動に対する機器・システムの地震応答(荷重) と強度(耐力) はそれぞれの確率分布 と を持つ確率変数で表され、応答が強度を上回ったときに損傷が発生するというものである。応答-強度モデルでは、PGAではなく、応力などの脆弱性をあらわす量を用いて応答と強度を表す。例えば、応答は地震による負荷応力、強度は許容応力と考えればよい。従って、両者の直接比較が可能である。地震ハザードは地震動の指標であるPGAで表現されるので、リスク評価には応答や強度と地震動(PGA)を関連付けるモデルが必要となる。
が中央値 、対数標準偏差 の、 が中央値 、対数標準偏差 の対数正規分布に従うとき、 は中央値が 、対数標準偏差が の対数正規分布に従う。
(4)
損傷条件は であり、損傷確率は次式となる。
(5)
機器の応答は地震動の強さに依存するので線形モデル と考える。強度は耐力 と関係するので、これも線形モデル を想定する。ここで導入した と は確率変数であるが、一般には地震動強さと損傷の指標を関連付ける確率モデルである。なお、 は応答と強度の比であり安全係数の定義そのものである。すると であるから損傷確率は次式で与えられる。
(6)
(6)式と(3)式と比較すれば、 が に、 が に相当している。従って は地震応答と強度のばらつき(図2の分布の広がり)を表すことが分かる。
図2 応答―強度モデルの概念
一方、 の不確かさは である。すなわち地震動強さと機器の応答や強度を関連づけるモデルの不確かを表すことが理解される。もし、 (モデル)が確定的であり応答を正確に予測できれば、また機器の強度を地震動に対応付けられるならば、モデルの不確かさは0で のみが残り、図1の中央値曲線( 、 )を表す。
 ここに述べたように、フラジリティは応答-強度モデルと等価である。 と の意味も明確となった。 は、観測される応答と強度の曖昧さ(図2の分布)であり損傷という物理現象(脆弱性)をひとつの指標で測ることの不適切さと限界を表現するものである。損傷を表す適切な量が定義できれば は低減する。 は、地震動を用いて応答と強度を予測するモデル、その基となる理論や解析技術、データに関するわれわれの知識の不十分さを表現すると解釈できる。予測モデルの精度が向上すれば は低減できる。
3.不確かさ(AleatoryとEpistemic)
地震PSAの学会標準は、不確かさを二種類に分類し、 を偶然的不確かさ、 を認識論的不確かさとしている。前者は偶然に支配される物理量の変動を表し、後者は知識や情報の不十分さを表し、新しい理論や新しいデータ(情報)が追加されると低減すると考える。
 USNRC RG1.174(5)は、不確かさはその性質により二種類あり、複雑システムのモデル化ではそれぞれ別個に考慮されなければならないとする。二種類の不確かさを偶然的不確かさと認識論的不確かさと呼んでいる。前者はモデル化する事象や現象がランダムにあるいは統計的に生起する性質であり、その発生を確率論的モデルにより記述するPSAを"確率論的_というのはこの不確かさを考慮するからである。後者は、PSAモデルによる予測に関する解析者の確信であり、PSAモデルが実際のシステムをどの程度良く表現できるかに関する解析者の評価を反映する。これは現有知見に関する不確かさと呼ばれる。認識論的不確かさは、さらにパラメータの不確かさ、モデルの不確かさ、完全性に関する不確かさに分類される。
OECD(6)によれば偶然的不確かさも認識論的不確かさも確率で表されるが、「前者は独立な多数回の試行における相対頻度」であり「何がどのような確率で生起するのか」に答えるものである;後者は「ある仮説が真であることに対する信念もしくは確信の程度」であり、「どの値が正しく、それをどの程度の確信度で知りうるか」に答えるものであると述べる。そして、認識論的不確かさは「解析モデルのパラメータに関する知識が不完全であることに起因し、そのパラメータは本質的に確定値であり定数であるが正確にはその値はわからない」としている。
 計測における不確かさについて、国際標準化機構(ISO)(7)は、不確かさは測定値に関する正確な知識が不足している状態を反映するものであり、その結果、測定には誤差が生じると定義する。誤差とは真値と測定値の差であり、理想化された概念で、誤差を知ることはできない。不確かさの評価方法について、一連の観測結果をその頻度分布に基づいて統計的解析によるタイプA不確かさ評価、判断により決定され先験的分布に基づくタイプB不確かさ評価と呼ぶ。いずれの場合にも、確率分布は現状知見を表すために用いるモデルである。二つのタイプを考慮する理由は、不確かさを評価する方法が異なることを示すのみであり、議論するときの便宜上の問題に過ぎない。二つの方法により評価された成分の特質に違いがあることを意味するわけではない。両者は全く区別することなく、確率分布に基づき分散により特性づけられる。
 ここで述べた不確実さに関する三つの定義と学会標準の考え方を比較・考察する。学会標準とRG1.174、OECDの考え方はほぼ同様である。偶然的不確かさの解釈について説明を加える。地震PSAでは損傷確率はPGAの関数であり、偶然的不確かさはPGAで表現したときの損傷の閾値の曖昧さという意味を持つ。例えば損傷のメカニズムが解明され、損傷モードを詳細に分類できるようになれば、損傷の閾値はより正確に定義でき、従って は小さくなる。この点は、ISOが、「不確実さをランダム効果と非ランダム効果(系統的効果)に分類し、計測科学や計測装置が進歩すれば物理測定におけるランダム効果は減少する」と述べていることと対応する。OECDの認識論的不確かさに関する記述は、耐力 を不確実な量と考え、その対数標準偏差を とする学会標準の考え方と同一であることが分かる。
ISOの定義は計測に関する不確実さを扱う。モデルという用語は計測の数学モデルとして確率分布が使用され、確率分布が我々の知見を表現するモデルであるとしている。一方、地震PSAにおいては現象のモデルによる応答の予測という概念が重要である。試験や計測においては多くのデータが取得され、その結果図2のような応答や強度の観測値の統計的分布を得る。理論や解析によってデータを取得することを考える。我々の知見を駆使して評価式やモデルを作成しそれが正しいとして応答や強度のデータを得る。評価式やモデルに含まれる統計的な特性により、得られたデータは確率分布に従う。ISOでは、前者をタイプAによる不確かさ評価とし、後者をタイプB不確かさ評価と呼んでいる。これは学会標準でいう偶然的不確実さのことである。もし、我々がモデル化のための理論や技術を持ち合わせていなければ、(6)式のように や を定義することができないので、観測された と のみが得られる情報であり、必然的に(5)式によらざるを得ず、偶然的不確かさのみが現れる。ISOは、知識が増え誤差の原因が全て明らかになってもなお、結果の正しさに関する不確かさ、すなわち被測定量の値を十分に測定が表現しているのかという疑念は残ると述べている。不確かさの定義は"疑念:Doubt_である。
4.地震PSAにおけるフラジリティ評価
フラジリティは、機器レベル、系統レベル、プラントレベルで定義される。炉心損傷を頂上事象としそれに至る確率を評価するために、フラジリティを定量化する必要がある。ここでは、地震PSAにおける関連する建屋・構築物や機器・配管系のフラジリティ評価を学会標準を引用しつつ解説する。
地震PSAでは、炉心損傷につながる可能性のある全てのシナリオに対してイベンツツリー(ET)/フォールトツリー(FT)によりプラントをモデル化する。安全機能を担う系統は、直列系や並列系などに個々の機器を組み合わせて構成される。各系統の成否を分岐確率で与えたETにより事象の進展を定義することにより、原子炉安全を確保する"止める_"冷やす_"閉じ込める_の一連の安全機能を評価し、炉心損傷確率を定量化する。炉心損傷の条件付確率を図1の縦軸に表すとき、プラントレベルのフラジリティという。個々の系統の機能失敗あるいは損傷確率を縦軸にとるとき、系統レベルのフラジリティとする。機器レベルのフラジリティは、個別の機器に関するものである。系統レベルとプラントレベルのフラジリティは、その構成に応じて和事象や積事象の組み合わせとなり、ブール代数により定量化し、モンテカルロ法などにより不確かさを評価できる。
フラジリティの評価手順を図1に示す。評価の対象は炉心損傷に直接・間接に関係する全ての建屋・構築物、機器・配管系である。建屋としては、原子炉建屋、制御建屋を始め、安全上重要な機器が設置されている建屋の全てが考慮される。さらに、屋外構築物として、取水ピット、海水管ダクト、開閉所内変電機器(起動変圧器)等が挙げられる。機器系は、静的機器と動的機器に分類される。静的機器とは建屋内に設置される
タンク,熱交換器,原子炉圧力容器,配管系(配管本体、サポート類)、原子炉格納容器等、また屋外に設置されるタンクなどである。動的機器には建屋内のポンプ、電気品、弁などがある。静的機器と動的機器では
その損傷モードが異なるため、フラジリティの評価方法も違ったものとなる。機器によっては静的機器と動的機器の両方の機能を要求されるものがある。例えばポンプは、給水という動的機器としての機能と冷却材バウンダリを構成する静的機器としての機能の双方がある。さらに、地震による二次的影響により安全機能に損傷を与える可能性のある要因としてクレーンや周辺斜面、送電網鉄塔等も考慮する。これら全てのフラジリティを、FTとETへの入力としてシステム解析で使用する。
フラジリティの定量化は、現実的応答と現実的耐力を評価し両者を比較することによる(図3)。現実的耐力と設計耐力を比較してその安全係数を耐力係数 、現実的応答と設計応答を比較しその安全係数を応答係数 とする。このように表せば図4にように応答と耐力の安全係数 が定義され、安全裕度は現実的応答と現実的耐力を比較してM1とM2、M3に分析される。 は、強度係数 と塑性エネルギー吸収係数 の積として評価する。さらに、構造物が弾性限界を超えた後、塑性変形することによるエネルギー吸収や応力再配分効果などがある。

図4 安全係数の分解(学会標準より引用)
応答係数は、開放基盤表面への地震動評価に関する係数 、建物・構築物への入力地震動評価に関する係数 、建物・構築物の地震応答評価に関する係数 、機器・配管系の地震応答評価に関する係数 に分解される。それらの係数はさらに詳細な要因に分解されるがその要因と手順は学会標準を参照いただきたい。結果として安全係数は次式のように各係数の積で表される。
(7)
 
一方、安全係数を用いるのではなく、建屋・構築物や機器・配管系の解析モデルを作成し地震動を入力して応答解析を行ってフラジリティを求めることができる。入力データや解析モデルには現実的な最確値を用いることが原則であり、かつ不確かさがある物理量やパラメータは確率変数としてみなす。解析結果を設計応答と比較すれば、不確かさを含めて損傷確率を求めることができる。この場合は図5のようにさまざまな入力地震動レベルに対し、損傷確率を評価できるので、これを近似してフラジリティ曲線を求める。

図5 応答解析によりフラジリティを求める方法
(学会標準より引用)
安全係数の定量化において不確かさ評価を行う。不確かさ要因は、機器・配管系および建物に共通して表1のように分類される。さらに各要因が認識論的な不確かさか、偶然的不確かさに分類する。学会標準には、建屋や地盤などについて不確かさ要因をその分類とともに一覧している。機器のフラジリティの分類を表2に示す。
表1 不確かさ要因の分類(学会標準より引用)
図3に示すように、損傷の相関評価と免震型原子力発電施設のフラジリティ評価について節を設けている。地震影響の特徴は、地震動の影響が複数の機器や安全機能に同時に及ぶ点にある。地震動の周波数や強度などの特性も同一である。機器の支持構造などが特定の方向に脆弱な場合には、地震動の方向や機器の設置されている場所に応答は依存する。学会標準にはこれら
を考慮してフラジリティを定量化する方法と適用のガイドラインを記している。地震による共通要因を定量化する方法には、三次元の地震動を入力して複数機器の応答を直接計算し、各機器の応答の相関から共通要因を評価する方法と、各機器の特性や設置場所の類似点や相違点を分析し類似度に応じて共通要因による割合を工学的判断により評価する方法がある。
さて、地震PSAにより建屋・構築物や機器・配管系のフラジリティを評価し、地震リスクが定量化され、不確かさも分析される。設計基準地震動を超える事態では、応答や耐力の評価、あるいは共通要因による損傷、動的機器の損傷モードなどは適切に評価されているのであろうか。これらの問題に対する専門家の判断や主観的確率に基づく評価は重要な役割を果たしている。それと同時に、フラジリティ評価を検証することの重要性も指摘しておきたい。それは実データであり、地震リスクの評価の精度あるいは我々の評価に対する確信度を一段と向上させる。新潟県中越沖地震では、設計基準地震動の2倍以上の地震力に対して全ての安全系は健全であったので、設計基準地震動に対する安全裕度は少なくとも2以上であろうと判断するのは自然である。振動台試験により基準地震動を上回る加速度で健全性が確認されている。例えば、縦型ポンプでは10,000ガル(10g)、ディーゼル発電機は1,100ガル(1.1g)など(学会標準の解説86)である。従って、耐力は、この数字よりも大きいことが確認されたことになる。さらに、最近では機器の終局挙動を把握する
ために損傷限界まで加震する実験も行われている(8)。
実データを取得する努力は不確実さを低減するという観点から、また地震PSAを検証するために重要であり、それは、地震安全に関する知見の蓄積と認識論的不確かさの低減を意味する。PSAの信頼度が高まるにつれ、地震PSAはより多くの役割を担うことができる。
5.まとめ
 
安全裕度とは何か、不確かさとは何か、それはどのように定量化されるのか、なぜ、設計基準条件を上回っても原子力発電所は安全なのか、このような問に答えるのは確率論的安全評価である。新潟県中越沖地震にて過大な地震動に対して安全機能が健全であったことを受け、原子炉の耐震設計には潜在的な裕度があったということを述べた。新指針は残余のリスクの評価とそれを合理的に低減することを求め、学会標準は地震リスクの評価方法を提示した。原子力発電所の地震に関する安全裕度を可視化し、それを検証することにより、必要十分な安全裕度を適切に定めるとともに深みのある安全確保が可能となる。そこで、地震PSAの役割は大切であり、その信頼性を高める努力が求められる。

参考文献
1) http://www.pref.niigata.lg.jp/HTML_Article/080911syoui-syusei.pdf (新潟県ホームページ)
2) 原子力安全委員会:発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて、平成4年5月
3) 原子力安全委員会:発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(新指針)、2006年9月
4) 日本原子力学会、日本原子力学会標準 原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準:2007、2007年9月
5) USNRC, Regulatory Guide 1.174 - An Approach for Using Probabilistic Risk Assessment in Risk-Informed Decisions on Plant-Specific Changes to the Licensing Basis, Revision 1, November 2002.
6) "Task Group on Safety Margin Action Plan (SMAP)-Final Report,_ NEA/CSNI/R(2007)93, Aug. 2005.
7) ISO, Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement 2nd edn (Geneva: International Organization for Standardization) 1995 ISBN 92-67-10188-9.
8) 北村ほか、大型震動台によるFBR 水平免震プラントの終局挙動把握試験、日本原子力学会2008年秋の大会、A08-A14シリーズ発表、2008
(平成20年11月10日)

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