日本電気協会電気技術指針「原子力発電所の設備診断に関する技術指針-放射線肉厚診断技術(JEAG4224-2009)」の制定
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1.はじめに
日本電気協会「原子力発電所の設備診断に関する技術指針-放射線肉厚診断技術(JEAG4224)」は、原子力発電所の機器・設備の放射線ラジオグラフィ(IP*1、カラーI.I. *2)を用いた肉厚診断を規定している。特に、本指針は「減肉の兆候」をとらえようとするものである。
日本電気協会の設備診断指針には、本指針の他に、回転機械振動診断技術(JEAG4221)、潤滑油診断技術(JEAG4222)、赤外線サーモグラフィー診断技術(JEAG 4223)がある。これらは、一般産業界では広く活用されてきてはいるものの、原子力発電所における適用実績が少なく、その方法や施策等が必ずしも確立されていない診断技術について、原子力発電所の設備診断を円滑に行うための参考となるように取りまとめられている。
本解説では放射線肉厚診断技術(JEAG4224)について紹介する。
2.JEAG4224の構成
JEAG4224の構成は、今後新たな診断技術が指針化される場合でも、制定が容易なようにJEAG4221、JEAG4222、JEAG4223と同様の構成とし、共通的に記載すべき事項を本文、放射線肉厚診断を行う際の具体的な説明に関する部分を解説、例示として記載している。また、診断を実施する際、実務として役立つように具体的診断例を附属書としている。JEAG4224の構成を表1に、概要を以下に示す。
2.1 総則
放射線肉厚診断技術の診断フローを図1に示す。総
則では診断フローを明確にすると共に、劣化モードとして、設備の肉厚内外面に想定される減肉事象が考慮
されている。減肉の発生メカニズムからみた事象としては、腐食と流体流れに係る減肉とがあり、これらの減肉事象は局部的または全面的な減肉の形態をとるとされており、各減肉事象の説明が記載されている。
表1 放射線肉厚診断技術(JEAG4224)の構成
本文 1 総則
2 測定
3 評価及び対策立案
4 記録
5 力量要件
附属書
(参考) A 放射線肉厚診断における撮影例
B IP法の代表的な撮影手順の例
C カラーI.I.法の代表的な撮影手順の例
図1 放射線肉厚診断技術の診断フロー
2.2 測定
放射線肉厚診断における診断パラメータには、定性的なパラメータとして放射線透過画像に表示された測
*1 IP:イメージングプレート
*2 カラーI.I.:カラーイメージインテンシファイア
定対象設備の輪郭と濃淡、定量的なパラメータとして測定対象設備の肉厚がある。
放射線肉厚診断に必要な測定装置、測定器及び資機材は以下の通りである。
(1) 測定装置
・ 受像板(IPまたはカラーI.I.)
・ CR装置(IP画像取込装置、画像表示(モニタ)及び処理装置、画像出力装置、画像記録装置)、若しくは、制御装置(カラーI.I.制御/画像表示装置、画像出力装置、画像記録装置)
・ 放射線源(X線発生装置若しくはγ線照射装置等)
(2) 測定器
・ 寸法測定器(スケール、ノギス等)
・ 寸法標準試験片(階調計、タングステンピース等。また、鋼尺、階段試験片、模擬継手等)
(3) 資機材
・ フィルムマーク等
ここで、測定装置に係る一般事項は、NDIS 1403「デジタルラジオグラフィーシステムによる放射線透過試験方法」を、また、放射線源に係る一般事項は、JIS Z 4560「工業用γ線装置」、JIS Z 4606「工業用X線装置」を参考にすることとした。
配管を例とした放射線透過画像の撮影概要を図2
に示す。減肉の兆候は、放射線透過画像に断面部の
減肉箇所若しくは平面部の減肉箇所として撮影され、測定対象設備の輪郭の乱れ(不連続性)若しくは濃淡の変化となって表示される。さらに、放射線透過画像に表示された断面部の減肉箇所は、放射線透過画像上での既知の基準寸法との比較によって肉厚が測定される。
測定対象設備の撮影においては、放射線の照射方向に対して受像面が概ね直角になるように受像板を測定対象設備の背面に設置し、受像板は測定対象設備に可能な限り近づけることが望ましい。また、放射線源と測定対象設備及び受像板の距離は、放射線源の種類、強さ、測定対象設備の形状、寸法に応じて設定し、次回の測定における撮影配置の再現性の観点から、放射線源から受像板までの距離、線源から測定対象設備表面までの距離はスケールで測定して記録することが重要である。なお、測定の妨げとならない場合には、保温材等の覆いは設置したままで測定対象設備を撮影してもよいこととした。
2.3 評価及び対策立案
減肉の兆候の定性的な把握においては、断面部に対しては放射線透過画像に表示された肉厚内外面の輪郭の不連続性または画像の濃淡、平面部に対しては画像の濃淡によって、後述の力量要件を満足する者が減肉の兆候を評価することが重要である。一方、定量的な
把握においては、事業者は断面部の評価箇所に対する目標値を設定することが望ましい。目標値の設定例(模式図)を図3に示す。目標値は、過去の測定厚さに対して有意な変化があると判断するために設定する目安値(変化量または厚さ)であり、測定精度を勘案して設定することが重要である。また、目標値を超えた場合においても必要最小厚さに対して十分な裕度を有する値に設定することが重要である。なお、JSME S CA1 「配管減肉管理に関する規格」、 JSME S NH1-2006 「沸騰水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」及びJSME S NG1-2006 「加圧水型原子力発電所 配管減肉管理に関する技術規格」(以下、JSME配管減肉管理規格と総称する)で対象となる配管においては、同規格に規定されている「判定基準厚さ」が図3の「裕度を有する厚さ」に相当する。
減肉の兆候が確認された場合には、評価結果に応じて、設備診断頻度の強化、減肉管理、精密点検、補修取替えの実施等の対策を検討することで、対象設備の状態に応じた適切な保全を行うことが重要である。なお、JSME配管減肉管理規格等に則り減肉管理がなされている配管に減肉の兆候が認められた場合には、同規格に規定されている「詳細測定」の実施等の対策を検討することが重要である。
2.4 記録
測定及び評価の結果並びに対策立案の内容は、測定信頼性及び傾向管理の観点から記録し保存することとした。記録の項目は以下の通りである。
(1) 発電所名及び対象設備名
(2) 測定者名及び測定年月日
(3) 測定器及び測定装置
(4) 測定部位及びその仕様
(5) 測定時の状況
(6) 評価者名及び評価年月日
(7) 測定及び評価の結果
(8) 対策立案の内容
なお、測定器の校正及び測定装置の点検結果もあわせて記録することとした。
2.5 力量要件
測定及び評価は、原子力発電所の測定対象設備及び放射線肉厚測定に関する知識、経験等、適切な力量要件を満たす者が行うこととした。
具体的に、適切な力量要件を満たす者とは、事業者または調達先が定めた教育及び訓練を受講し、その認定を受けた者をいう。また、事業者または調達先が定めた測定経験年数を有する者は、経験年数に応じて教育及び訓練の受講に替えることができることとした。
なお、以下に示す関連規格及び基準のいずれか、またはそのいずれかの内容を満足する資格認定要領に従って認定されたRTレベル1以上の資格を保有する者は測定者として、RTレベル2以上の資格を保有する者は評価者として適切な力量要件を満たす者とみなしてよいこととした。
力量要件に関連する規格及び基準を以下に示す。
a.JIS Z 2305「非破壊試験-技術者の資格及び認証」
b.NDIS0601「非破壊検査技術者技量認定規程」
c.ANSI/ASNT CP-189「Standard for Qualification and Certification on Nondestructive Testing Personnel」
d.ASNT SNT-TC-1A「Recommended Practice for Personnel Qualification and Certification in Nondestructive Testing」
2.6 附属書(参考)
診断を実施する際、実務として役立つように具体的診断例を附属書とした。附属書は、放射線肉厚診断における一般的な撮影例、IP法とカラーI.I.法の代表的な撮影手順の例からなり、今後の診断技術の進歩を鑑み、新技術の導入が容易なように参考とした。
IP法の代表的な撮影手順として配管を例に示す。
(1) 配管及び管継手の代表寸法の測定
(2) 代表寸法測定位置のマーキング
(3) 識別子の設置
(4) 放射線源とIPの設置
(5) IP撮影
(6) 画像の取込み
(7) 画像処理
(8) 画像の出力及び記録
(9) 測定(配管及び管継手の肉厚等)
(10) 測定装置の使用前点検
模擬減肉部を有する口径25A Sch.80 SUS304鋼製差込み式エルボのIP法による撮影状況及び撮影例を図4、
(a) 撮影状況
(b) 撮影画像
図4 IP撮影例(保温材無し)
図5に示す。線源にはγ線源(192Ir)を用いた。保温材
の有無に係らず同質の放射線透過画像が得られている。なお、保温材は厚さ約50mmの二酸化ケイ素と厚さ0.7mmのアルミ保護板からからなる。
(a) 撮影状況
(b) 撮影画像
図5 IP撮影例(保温材有り)
カラーI.I.法の代表的な撮影手順として配管を例に以下に示す。
(1) 配管及び管継手の代表寸法の測定
(2) 代表寸法測定位置のマーキング
(3) 識別子の設置
(4) 放射線源とカラーI.I.の設置
(5) 照射及び画像の読み取り
(6) 画像処理
(7) 画像の記録及び出力
(8) 測定(拡大率)
(9) 測定(配管及び管継手の肉厚等)
(10) 測定装置の使用前点検
カラーI.I.撮影の概要及び撮影例について、保温材無しのケースを図6に、保温材が有るケースを図7に示す。ここで、カラーI.I.法のラインプロファイル機能とは、肉厚計測線上での位置に応じた放射線透過量の変化をシンチレータの発光強度値としてグラフ表示し、グラフの傾きが変位する位置を確認することで外表面および内表面の位置の差から肉厚を計測することができる機能である。また、カラーI.I.法ではシンチレータが放射線透過量に応じて三原色(低い方で赤、中位で緑、高い方で青)で発光し、ひとつの放射線透過量の変化に対して3本のラインプロファイルを得ることができる。
3.おわりに
放射線ラジオグラフィ技術、例えばIP法は、既に原子力発電所に適用されており、適用実績を積み重ねつつある。しかしながら、設備診断を念頭として「減肉の兆候」を捉えるという方法や施策等は必ずしも確立されてはいないと思われる。そのため、現場の実務者が放射線ラジオグラフィ(IP法及びカラーI.I.法)を用いた設備診断を実施する上で、この放射線肉厚診断技術指針(JEAG 4224)が役立つことを願っている。
本指針は、原子力発電設備全般に適用できるように
策定したものである。一方、エロージョン等の減肉が想定される配管に対しては、超音波(UT)による肉厚測定を主体とした前述のJSME配管減肉管理規格が制定されている。したがって、このような減肉管理対象配管においては、JSME規格体系の中で技術評価がなされるものの、肉厚測定に関する事前調査や代替手法として、本指針が参考となることを期待する。
今後、本指針の運用実績等を踏まえ、また、診断技術の進歩に応じて本指針の利便性の向上や評価精度の高度化を図っていきたいと考える。
(平成21年7月13日)
日本電気協会電気技術指針「原子力発電所の設備診断に関する技術指針-放射線肉厚診断技術(JEAG4224-2009)」の制定 菅野 智,Satoshi KANNO,清水 俊一,Shunichi SHIMIZU