減肉配管の耐震安全性評価に関する研究
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カテゴリ: 解説記事
1. はじめに
株式会社三菱総合研究所は、経済産業省原子力安全・保安院から、高経年化対策強化基盤整備事業(技術情報基盤の整備等)を受託している。本事業において、弊社は、減肉配管の耐震安全性評価に関する研究を日立GEニュークリア・エナジー株式会社及び株式会社東芝と共同で実施した。本研究は、合理的な評価手法の構築及び設計評価指針の作成からはじまり、平成18年度から平成20年まで3年間実施された。本研究の最終成果は、評価手法・設計評価指針の草案としてとりまとめられた。以下に3年間の成果の紹介を行いたい。
2. 目的と実施内容
現在、配管減肉の実績データの蓄積や減肉構造物に対する解析的アプローチが進められている一方、減肉した配管系に対する耐震性の検討については、配管系全体として評価体系がまとめられた例はない。そのため、標準的で信頼性のある減肉配管の耐震評価手法の整備が望まれている。
本事業においては、減肉実績データや解析による減肉形状等を把握することにより、これの影響を耐震評価に反映させ、減肉部位を有する配管系についての耐震評価手法を提案するとともに、配管系設計時において耐震性の観点から安全性に影響を及ぼすおそれのある減肉部位を想定し、その後の配管系の有効な保全対策に資するような設計評価基準へ貢献することを目的とした。平成18年度には、合理的な評価手法の構築及び設計評価指針の策定を目標に研究を開始した。平成19年度には、評価手法及び設計評価指針の草案作成を目標に研究を進め、あわせて高度化を目指した課題の抽出を行った。平成20年度には、過年度までの成果を取りまとめて、評価手法・設計評価指針の草案を確定し、高度化を目指した課題の整理を行った。具体的な実施内容については、以下のとおりである。
・ 減肉配管耐震評価標準手法の提案と課題抽出
減肉配管の耐震安全性評価手法を構築するにあたり、評価手法の基本的な考え方の整理、現状課題の抽出を行った。さらに、減肉配管の耐震安全性評価に当たっての基本的な考え方について、評価手順、減肉モデル化方法を考慮し整理するとともに、標準評価手法立案のための課題を抽出した。
・ 標準評価手法の妥当性検証
抽出された検討課題を考慮し、評価手法の妥当性検証方法を検討した上で具体的な検証を行った。具体的には、減肉に伴う断面形状の変化による影響を確認するとともに、減肉範囲及び減肉厚さにより算出される固有振動数・応力を確認した。
・ 評価手法の高度化・合理化検討
標準評価手法を含めた全体評価フローを提案し、今後の高度化・合理化提案を行った。
次章以降において、それぞれの実施内容についての詳細を記述する。
3. 減肉配管耐震評価標準手法の提案
減肉評価手法を構築するにあたり、標準的な評価手法を提案しその妥当性を解析結果により検証した。本章では以下に標準評価手法の提案内容の記載及びその課題について抽出を行った。
(1) 耐震評価標準手法の提案
a. 基本方針
減肉耐震評価手法の全体構成を図 1示す。保守性を考慮した「標準評価手法」にて評価し問題なければ、評価終了となるが、評価上満足しなければ、必要に応じて「高度化評価手法」にて評価する。また、標準評価手法の応力算出方法・評価基準はJEAG46011)に準拠する。
b. 標準評価手法の評価手順
図 1中に示した標準評価手法に関して、その評価手順を図 2に示す。減肉配管の耐震評価として、配管の構造条件のうち、管の厚さとその厚さを反映する範囲のみを変更して評価を実施する。
図 1 減肉配管耐震評価手法の全体フロー
図 2 標準評価手法の評価手順
図 3 標準評価手法の減肉モデル化範囲
c. 標準評価手法の「減肉モデル化」について
・ 減肉モデル化範囲
標準評価手法での「減肉モデル化」の考え方を図 3に示す。通常の耐震評価との違いは、梁モデルにおけるビーム要素の減肉モデル化のみである。
減肉を想定する範囲は、JSME減肉管理規格2)の減肉想定範囲とし、この範囲について「厚さ」と「単位長さあたりの質量」を変更する。解析モデルはビーム要素であることから、減肉は全周均一の条件として評価を実施する。
・ 減肉モデル化ケース
減肉モデル化に関しては、「減肉想定範囲」、「評価厚さ」や「減肉箇所」を設定することが必要である。そのモデル化のケースを図 4に示す。
「減肉想定範囲」は、JSME減肉管理規格による肉厚測定範囲とする。
「評価厚さ」は、最初に、各事業者が減肉管理上設定している必要最小厚さとして設定している技術基準に定められた必要最小厚さ(ケース1)、または、耐震を考慮した管理上設定した必要最小厚さ(ケース2)とする。次に、この評価で許容限界を満足しない場合は、許容限界を満足する厚さとなるところの配管肉厚測定実測結果から推定される評価年度の最小必要厚さ(ケース3)とする。
「減肉箇所」は、技術評価において有意な箇所とされた全ての減肉管理箇所に対して一律設定することとする。ただし、配管肉厚測定実測結果を使用する場合は、このデータを用いることとなるため、個別に設定することになる。
これらの評価厚さを設定する際の評価手順を図 5に示す。
上記評価は、減肉部位のもっとも減肉している部位の厚さをその配管の減肉想定範囲の厚さとしているため、過度に安全側であると考えられる。このため、詳細評価として、NUPEC減肉耐震研究で提案されている測定結果を考慮した等価剛性厚さ(断面二次モーメントを等価とする厚さ)を用いた評価についても、その妥当性を説明することで適用することができることとしておく。
(2) 標準評価手法の課題
標準評価手法の課題については、「減肉モデル化」に関する課題として、「断面形状の変化による影響」及び「固有振動数の変化による影響」が抽出された。
「断面形状の変化による影響」については、厚さが小さくなると、応力係数および断面係数が大きくなることから、過度に保守的となると考えられる。
「固有振動数の変化による影響」については、ビーム要素の剛性低下の影響により、配管系モデルの固有周期が柔側にシフトすることから、この固有振動数から求まる地震応答加速度が変化することになる。この変化による影響は、必ずしも保守的とは言えない。
これらの影響を確認するにあたり、減肉範囲・評価厚さ・減肉箇所について検討した。
図 4 標準評価手法の減肉モデル化ケース
図 5 減肉モデル(評価厚さ)の評価手順
図 6 減肉モデル化の妥当性検証(応力算出式の確認)
4. 標準評価手法の妥当性検証
(1) 減肉モデル化の妥当性検証
減肉耐震評価上、配管の厚さが変化することによって、図 6に示す応力算出式の関係から、応力係数、管の断面係数およびモーメントが応力値へ影響する。モーメントは、図 7に示す式より求められることから、系の固有振動数に対する応答加速度が影響することがわかる。
以上の結果から、減肉配管の応力は「断面形状の変化による影響」及び「固有振動数の変化による影響」によることから以下にその確認方法を示す。
図 7 減肉モデル化の妥当性検証(モーメントの求め方)
図 8 断面形状の変化による影響(モデル化)
(2) 断面形状の変化による影響
標準評価手法として提案するモデル化は減肉想定範囲の中の最小厚さをその範囲の厚さとし、ビーム要素の梁モデルで解析を実施し、応力算出式により応力を算出する。この評価の断面形状の変化による影響についての妥当性検証内容として、以下の比較を実施し、検証する。
・ 3次元ソリッドモデルによる配管厚さの範囲(全周,局部)により算出される応力の比較
・ 梁モデルによるモーメント算出およびこのモーメントを用いた応力式により算出した応力と3次元ソリッドモデルによる解析で求めた応力の比較
3次元ソリッドモデルの局部減肉と全周減肉のイメージ図を図 8に示す。
【 検証1-1 】3次元ソリッドモデル(配管要素)による比較
減肉想定範囲における最小厚さ(Tmin)が局部の場合と全周の場合の最大応力(トレスカ応力)を比較し、全周の方が厳しい結果となることを確認する。
【 検証1-2 】梁モデル(配管要素)と3次元ソリッドモデル(配管要素)による比較
減肉を考慮しない健全な厚さ(Tnom)の場合と減肉を考慮した最小厚さ(Tmin)の条件において、それぞれ梁モデルと3次元ソリッドモデルの応力を比較し、梁モデルの方が厳しい結果となることを確認する。
各検証に対する詳細な検討結果は割愛するが、得られた評価結果は以下の通りである。
・ エルボ・ティーに対する応力比較を実施し、全周減肉の応力 > 局部減肉の応力となり、安全側評価であった。
・ 梁モデルと3次元ソリッドモデルの比較を実施し、応力比が(梁/ソリッド) ? 1かつ(梁/ソリッド)min ? (梁/ソリッド)nomであり、安全側評価であった。
・ NUPEC提案の等価剛性を用いた評価(局部4/8 tに対する全周7/8 t)の結果、概ね同等の結果であったが、局部減肉部位が健全管の最大応力発生部位の場合は、等価剛性による評価は非安全側となった。
さらに、解析結果をまとめると以下のようになる。
・ 要素単体の3次元ソリッドモデルによる全周減肉モデル(4/8 t)と局部減肉モデル(4/8 t)について単位荷重での発生応力を比較した結果、全周減肉モデルの応力が大きくなった。
・ 単体要素の3次元モデルと梁モデルについて単位荷重での発生応力を比較した結果、梁モデルの方が応力は大きくなった。
以上の結果から、減肉のモデル化として評価用最小厚さを適用した全周減肉モデルによる評価は安全側の評価であることが確認できた。
(3) 固有振動数の変化による影響
減肉による配管系の剛性の低下により固有振動数は柔側にシフトする。このため、床応答スペクトル(FRS : Floor Response Spectrum)から求まる応答加速度(当該固有振動数のモードの入力加速度)は変化する。通常、応答加速度のピークとなる固有振動数を避けて設計するため、固有振動数の変化が小さい場合は応答加速度の変化の小さく柔側のシフトに対しては、大概応答加速度は大きくなる。しかし、変化が大きい場合はこのピークを越して応答加速度が低くなる場合があり得る。イメージを図 9に示す。この固有振動数の変化による影響についての妥当性検証内容として、以下の比較を実施し、検証する。
・ 配管厚さおよび範囲(偏流部+下流直管,全範囲)により算出される固有振動数,応力の比較
図 9 固有振動数の変化による影響
【 検証2-1 】梁モデル(配管系)による比較
厚さおよび範囲の変化による固有振動数への影響程度を確認し、標準手法である偏流部 + 下流直管の範囲であれば健全管との差異は小さいことを確認する。
また、同様に応力は全周減肉モデルが健全管に比べて安全側の評価であることを確認する。
解析プロセスの詳細は割愛するが、得られた結果は、固有振動数、振動モード及び応力に関して以下に示すとおりである。
・ 固有振動数:固有振動数の比較ではケース3以外はほぼ同程度となった。(図 10)
図 10 固有振動数の解析結果
・ 振動モード:固有振動数の変化により、振動モードの次数は変化するが、振動モードの形状は同形状である。また、振動モードは支持点間で現れるため、異なる支持点間の減肉による影響は受けない。
・ 応力:応力は応力係数を考慮するエルボ部と変位が最大となる直管部中央付近が大きくなっている。エルボ部は応力係数の影響でケース4が最大となり、直管部の最大は、直管部の減肉させたケース3が最大となった。ケース4の最大応力発生点では、応力係数比が2程度に対し、応力は約5倍になった。(図 11)
図 11 応力の解析結果
以上の解析結果から、以下のとおり、まとめられる。
・ 梁モデル(配管系)による固有振動数の比較を行った結果、全体を減肉させたモデルを除き、健全管のケースとJSME減肉管理規格による減肉範囲(偏流部 + 直管)はほぼ同等(10 %以内)であった。しかし、6次モードは支持点間に2つの減肉要素を持つスパンのモードであるが、このケースでは、健全管(ケース1)に対して厚さ1/3のケース4が厚さ2/3の全体減肉のケース3より固有振動数が柔側となった。
・ 振動モード図(未記載)から、振動モードは支持点スパン間で現れるため、異なる支持点間の減肉による影響は受けないことを確認した。
・ 応力は応力係数を考慮するエルボ部と変位が最大となる直管部中央付近が大きくなり、エルボ部は応力係数の影響でケース4が最大となり、直管部の最大は、直管部の減肉させたケース3が最大となった。また、ケース4の最大応力発生点では、応力係数比が2程度であるのに対して応力は5倍程度となった。
(4) 妥当性検証のまとめ
以下に妥当性検証結果についてのまとめを記載する。
・ 配管要素の3次元ソリッドモデルと梁モデルによる比較評価の結果:減肉のモデル化として評価用最小厚さを厚さとした全周減肉モデルによる評価は安全側の評価であることを確認した。
・ 梁モデルによる比較評価の結果:支持点間に複数の減肉想定部位を持つ場合、固有振動数の変化が大きいことがわかった。また、支持点間に減肉想定部位が1箇所しかない場合は、健全管との差異は10 %以内であることがわかった。固有振動数が柔側にシフトする割合が大きい場合、変形しやすくなる傾向があり、健全管との応力比は応力係数比よりも大きくなることがわかった。
以上より、提案した標準化モデルによる評価は概ね安全側となることがわかった。
ただし、支持点間に複数の減肉割合の高い減肉想定部位を設定する場合には、応力は大きめとなる傾向ではあるが、固有振動数の変化も大きくなることによる影響も考慮が必要である。確実な安全側評価とする場合には、必要に応じて、床応答スペクトルの拡幅等の配慮が考えられる。
しかし、今回提案するモデル化を標準化する案は、配管要素の3次元ソリッドモデルと梁モデルの応力比較における梁モデルの裕度や減肉管理を実施している現状を考慮すると、技術基準に定められた必要最小厚さを厚さとするモデルによる評価は、過度に厳しい結果となる傾向にあることがわかった。
図 12 全体評価フロー案
5. 評価手法の高度化・合理化検討
(1) 全体評価フロー提案
標準評価手法を含めた全体評価フロー案を図 12に示す。標準的な評価手法の前段階で合理化手法を入れており、その内容としては「評価対象範囲の絞込み」「簡易評価」を挙げた。また、標準的な評価手法で評価上問題あるものについては、詳細手法として高度化手法での検討も視野に入れた。
(2) 合理化評価手法検討
合理化評価手法の検討項目である「評価対象範囲の絞込み」についての検討結果を以下に示す。JSME減肉管理規格においては、減肉抑制範囲や局部減肉形態である液滴衝撃エロージョン範囲が規定されており、減肉耐震評価上、対象範囲の絞込みとその範囲について適用可能性を検討した。
・ FAC - 1除外検討
JSME減肉管理規格(BWRプラント)では、酸素注入により減肉抑制範囲としてFAC - 1が規定されている。4章のFEM解析結果を用いてFAC - 1の評価対象除外検討した結果を以下に示す。ここでは健全管と全周減肉7/8 tの応力比較を行い、その結果を図 13に示す。エルボ・ティとも全周減肉が約2割程度の増加が確認された。
この結果から、FAC - 1については設計ベースに対して2割程度の増加であれば、実耐力としては、十分問題ないものと考えられることから、FAC - 1の除外は特に問題ないものと考えられる。
図 13 FAC - 1除外における応力比較結果
図 14 LDI除外における応力比較結果
・ LDI除外検討
JSME減肉管理規格(BWRプラント)では、液滴衝撃エロージョンの範囲をLDIとして、規定されている。液滴衝撃エロージョンでの減肉形態は局部減肉の形態であることから、健全管と局部減肉を比較することとした。ここではエルボ背側の局部減肉と健全管との応力比較結果を図 14に示す。その結果、健全管と局部減肉はほぼ同様の結果であった。
この結果から、LDIによる局部減肉についても、エルボ背側の局所的な減肉であれば除外は特に問題ないと考えられる。
6. まとめ
本事業においては、減肉した配管系に対する耐震性の検討については、配管系全体として評価体系がまとめられた例はないことから、標準的で信頼性のある減肉配管の耐震評価手法の整備を目的として作業を実施した。評価手法及び設計評価指針の草案作成を目標に研究を進め、以下の結果が得られた。
・ 標準的な評価手法の提案:実機における配管減肉を安全側に包絡できる標準的な耐震安全性評価手法を策定した。
・ 評価手法の妥当性検証:減肉が想定される部位、減肉量、減肉形状をパラメータにして耐震性の観点から安全性に影響を及ぼすおそれのある条件の検討を行い、評価手法の妥当性を検証した。
・ 評価手法の高度化・合理化検討:科学的・合理的に評価するための地震時応答特性に対する影響の検討及び配管減肉形状、減肉部位の組み合わせ等について検討した。
・ 減肉耐震評価の標準手法の提案:耐震安全性評価の実施方法は、「原子力発電所の高経年化対策実施基準(案)付属書D 耐震安全性評価の実施方法」に従う。
上記のうち評価条件の「評価モデル」について標準化の提案を行うとともに、評価手順もあわせた評価手法の提案を行った。
謝辞
本記事は、経済産業省原子力安全・保安院から受託した高経年化対策強化基盤整備事業(技術情報基盤の整備等)の成果に基づくものである。研究遂行にあたり、日立GEニュークリア・エナジー株式会社、株式会社東芝、東京電力株式会社に協力いただいた。ここに記して謝意を表する。
参考文献
1) 電気協会:原子力発電所耐震設計技術指針JEAG4601
2) 日本機械学会:発電用設備規格配管減肉管理に関する規格JSME S CA1-2005
(平成21年8月24日)
減肉配管の耐震安全性評価に関する研究 松本 昌昭,Masaaki MATSUMOTO