伊方発電所1,2号機中央制御盤等の更新工事について

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カテゴリ: 解説記事
1.はじめに
伊方1号機および2号機において、中央制御盤および主要制御盤等の総合デジタル式への更新工事(以下CBR(Control Boards Replacement)工事という)を実施した。このような一括更新工事は世界で初めてのものであり、伊方発電所で初めてとなる1,2号機同時定検のもと、平成21年8月に計画通りに完了した。(図-1)
2.工事目的 
伊方1号機は昭和52年9月、伊方2号機は昭和57年3月から、それぞれ運転を開始して以来、アナログ式の中央制御盤で運転し、これまで装置を部分的に取り替えて機能向上等に対応してきた。アナログ式計器の製造中止等により取替部品調達が困難になってきたこと、近年はデジタル式の制御装置が主流になってきたこと、また部分的な取替は、接続装置が複雑になってかえって費用が嵩むこと、中央制御盤と制御保護
設備間にあるケーブル処理室内で、これまでの改造工事などでケーブル配線の追加余裕がほとんどないことなどから、今後30年以上の安全安定運転を可能とするとともに、操作機能の向上を図るべく中央制御盤、安全保護設備、原子炉制御設備等の制御装置、並びに、装置間などのケーブルを一括して最新の技術を取り入れた総合デジタル式に取り替えることとした。CBR工事対象設備の全体構成図を図-2に示す。
3.設備概要
(1)デジタル式新型中央制御盤
新型中央制御盤は、従来の中央制御盤の配置を変更し、運転コンソールおよび大型表示装置盤で構成している。(図-3,4)
a.運転コンソール
運転コンソールは、1次系設備用と2次系・電気設備用に2分割し、それぞれに監視操作用VDU(Visual Display Unitの略)3台と警報表示用VDU1台を設置した。VDU画面に触れることにより操作を行うタッチパネル式を採用し、補機の操作スイッチや制御器と操作に必要な系統状態や運転パラメーターなどの情報を1つの画面に表示している。操作対象機器は、送電盤で操作する18万Vの屋内開閉所機器を除く、1次系、2次系・電気機器の操作が実施できる。
なお、原子炉非常停止操作スイッチ、制御棒挿入・引抜スイッチのように操作の迅速性や、操作性が要求されるものは、従来通りのハードスイッチとしている。
警報表示用VDUは、警報の重要度に応じ、分かり易く色別(赤,黄,緑)した表示を行うことにより、警報が一度に多数発信した事故時でも、重要警報を識別し、プラントの状態を的確に把握できるようにして、事故時対応の容易化を図った。
本運転コンソールにより、通常運転員は監視操作に必要な情報を集約した系統画面等を座位により確認できるようになり、監視・操作性が向上した。
b.大型表示装置盤
大型表示装置盤は、100インチの大型画面4面を設けて左より3面に主要なプラント運転パラメーターや警報発信状態およびプラント全体系統を常時表示し、運転員全体の情報共有化が図られるようにした。また右1面には、任意のVDU画面等を表示することにより、サーべランスや試験状況の確認などにも利用可能としている。なお、3面の固定画面は、プラント定期検査時にプラント管理に適した画面への切り替えを可能としている。
また、事故時対応操作等のために必要な安全系の操作については、大型表示盤机部に設置した、ハードウェアの操作スイッチでも可能としている。
デジタル式新型中央制御盤の設計・製作にあたっては、メーカーが保有する標準仕様の実機環境模擬設備や発電所構内に設置した実物大模型を用いて、発電所全運転員により、1,2号機の対面配置や盤形状・配置、運転コンソールの2分割化、盤面器具配置設計やVDU画面レイアウトや表示パラメーターの妥当性などの運転検証を実施し、実機設計に反映した。
(2)デジタル式安全保護装置
安全保護装置は、安全保護計装盤、原子炉保護系補助リレー盤、安全防護系シーケンス盤などで構成している。(図-5)
a.安全保護計装盤
安全保護計装盤は、現場検出器、炉外核計装盤のプロセス信号をマイクロプロセッサにより演算処理し、原子炉保護系補助リレー盤、安全防護系シーケンス盤へトリップ信号等の出力を行う。また、警報・プロセス値をVDU等へユニットバス経由で出力する。
安全保護計装盤は、4チャンネル構成とし、各チャンネルはマイクロプロセッサを2分散(1重化)としている。チャンネル故障に対しては、チャンネル単位でのバイパスを可能とするため、一部検出器の追加(4チャンネル化)を行い、各安全保護計装盤に入力している。
安全保護計装盤は、1重化のためマイクロプロセッサの故障時、当該チャンネルはトリップ状態とする。
b.原子炉保護系補助リレー盤
原子炉保護系補助リレー盤は、ハードのリレーで構成し、原子炉トリップしゃ断器にトリップ信号を出力する。原子炉トリップ信号は、4チャンネル構成の安全保護計装盤で行った2out of4等のロジック演算結果を入力し、原子炉保護系補助リレー盤で再度2out of4のリレー演算回路を経て、原子炉トリップしゃ断器を開放する。
c.安全防護系シーケンス盤
安全防護系シーケンス盤は、4チャンネルの安全保護計装盤からの工学的安全施設作動信号および運転コ
ンソールあるいは、大型表示装置盤デスク部等に設けたハードスイッチからの手動操作信号を受けて、マイクロプロセッサで安全注入作動演算等を行い、安全系補機を起動する。 
工学的安全施設作動信号は、原子炉トリップ信号と同じく、安全保護計装盤で2out of4等のロジック演算を行い、安全防護系シーケンス盤で再度2out of4のロジック演算を行い、補機をシーケンシャル作動させる信号や各補機の制御ロジック演算を経て各補機を駆動するしゃ断器等に出力する。
安全防護系シーケンス盤は、2トレン構成であり、マイクロプロセッサを2重化(並列冗長)としたため、単一故障が発生したとしても安全動作に影響はない。
(3)デジタル式制御装置
常用系の制御装置は、原子炉制御系計器ラック、2次系計器ラック,電気系制御監視盤、1次系シーケンス盤、および2次系シーケンス盤で構成される。
これらの制御装置は、マイクロプロセッサを2重化(待機冗長)し、自己診断機能を持たせたことで、制御装置が故障した場合にも故障箇所を容易に特定できるため、保修時間を短縮するとともに、オンラインの故障修理を可能として、信頼性を向上させている。
(4)光ケーブルによる多重データ伝送
監視操作VDUからの操作信号、および制御保護装置間のインターフェイスは、ユニットバス(光2重ループ化)で実施している。なお、安全系や、操作性/応答性の観点から、一部の操作器・指示計はハードウェアでも設置している。
現場の機器からのケーブルは流用して、制御建家外に設置した中継端子盤(以下FTCという)を経由し、新制御装置に接続した。制御盤室の盤設置スペース確保と配線物量の削減のために、電気室の空きスペースに壁掛けの現場入出力盤(以下RIOという)を設け、FTC~RIO間は多芯ケーブル、RIO~制御盤間は光ケーブルで配線するなど、効率的な工事を実施した。
4.許認可関係
取替工事に伴い、以下の安全保護回路の変更について、原子炉設置変更許可および工事計画認可申請を行った。
・安全保護回路変更の4チャンネル化
3チャンネル構成であった加圧器水位、蒸気発生器水位、1次冷却材流量、主蒸気ライン圧力の検出器を追加し、4チャンネル構成とし運用性の向上を図った。  
また、原子炉非常停止信号や工学的安全施設作動信号の一部を変更し、信号の種類について最新プラントと統一した。
・デジタル式安全保護装置の採用
安全保護装置について、最新プラントと同様にマイクロプロセッサを用いたデジタル式制御装置を採用し、保守性の向上を図った。
・設定値の変更
デジタル式安全保護装置の採用に合わせて、原子炉非常停止信号等の設定値について、最新プラントと同様な設定値の考え方とした。
5.CBR工事
工事については、取替工事の信頼性、電源系統運用面、経済性について総合的に評価し、平成21年2月から、伊方1,2号機を同時停止して、一括して取替工事を実施した。
(1)ケーブル特定工事
CBR工事については、更新設備以外(現場の補機など)はケーブルを含めて既設流用であり、既設ケーブルについては、制御建家に入る直前ですべて切断・接続する必要がある。このため、平成15年から各号機の3回定検にわたり、現場からのケーブルを特定して、切断予定箇所近傍にケーブルインデックスを貼り付けた。この、18,000本に上るケーブル特定作業は、現場放置や図面の残っていない簡易設備のケーブルなどにより困難を極めたが、工事開始前に全てのケーブルを特定し、データベース化することができた。
(2)先行工事
CBR工事の1つ前の定検時に、CBR工事期間中に必要な電源系統や管理区域の空調設備などの監視操作機能を確保する仮設中央制御盤(以下仮設盤という)を設置し、仮設盤へ補機を接続して動作確認後、再び本設中央盤へ再接続した。これにより、CBR工事での仮設盤への切替時間の短縮と、接続不具合の未然防止を図った。また、現場設置のFTCを先行設置した。さらに、RIOについては、CBR工事直前のプラント運転中に搬入据付を実施し定検工事との錯綜を防止した。
(3)シミュレーター設置および訓練
新しい中央制御盤と同じ外観・機能を持っている運転訓練用シミュレーターをCBR工事開始の1年前に、当社原子力保安研修所(松山市)に設置した。運転員は、プラントの運転に必要な知識、技量はすでに有しているものの、プラントの監視・運転操作を的確に行うためには、早く新型制御盤に慣れることが、重要であることから、1,2号機の運転員全員を対象にCBR工事開始までの約1年間の期間をかけて、盤慣れ訓練、プラント起動・停止などの通常操作訓練、プラントトリップなどの故障・事故対応操作訓練を計画的に実施した。また、CBR工事に伴い、大幅に改訂する運転手順書の妥当性確認にも本シミュレータを活用した。さらに、系統試験などの定期事業者検査要領書の確認にも活用し、操作・確認場所などの事前確認やプラント制御状況の妥当性確認にも活用した。
(4)CBR工事の設備対応
CBR工事物量や工程確保の信頼性をあげるために下記のような設備対応を実施した。
a.インターフェース確認
更新対象設備以外は既設設備流用であるため、現場接続時の不具合防止のために、更新対象設備と既設設備のインターフェースに問題ないことを調査・評価を実施して、一部のしゃ断器や電磁弁については、工場で組合せ試験を実施した。
b.ケーブル工事方法
今回の工事目的には、ケーブル処理室のケーブル配線の余裕確保があった。このため、現場からのケーブルを制御建家外で切断し、ケーブル処理室内のケーブルを全て撤去した。現場からのケーブルは切断箇所近傍に設置した、FTCにて多芯ケーブル化し、更新設備に接続した。また、シーケンス制御盤と現場機器とのインターフェースはRIOを現場に設置し光ケーブルで多重伝送している。(図-6)
c.RIO盤のスリム化
制御盤を設置するリレーラック室のスペースの関係からも、制御設備のRIOを制御建家外に設置する必要が生じたため、RIOの設置を可能とするために、現場の空きスペースに合わせた薄型形状の盤をメーカーが開発し壁際のわずかなスペースに設置できた。
d.総合組合せ試験
現地工事期間短縮のためには、現地での確認・検証をできるだけ少なくすることと、現場での不適合発生を未然に防止することが求められた。このため、メーカー工場で更新設備のほとんどを接続して機能確認する総合組合せ試験を実施した。ここで、各装置の性能、機能確認、ロジック試験、シーケンス試験、ループ試験など、中央制御盤での操作および表示確認を含めて全回路の確認試験を実施した。
e.インターフェース試験
更新設備の内、現場に設置するFTCとRIOは、更新対象盤と別のエリアに設置するため、制御装置が復元されるまでに、制御装置と同一のソフトウェア機能を持った試験用制御装置を設置して、新盤据付工事と並行してRIOインターフェース試験を実施した。これらにより復元試験・インターフェース試験の短縮が可能となった。(図-7)
f.搬入据付要領
CBR工事が円滑に進捗するように、工事開始の約1年前から、関係者で工事ワーキングを組織して各工事エリア毎に、工程表を作成し関係者間で工事内容の情報共有化を図った。また、旧盤や新盤の搬出入に当たっては、クレーン、搬入ルートや仮置場所の時間調整など実施した。新盤については、メーカー工場から200面以上の盤を、50台以上の大型トラックで安全にかつジャストインタイムで輸送する必要があり、輸送経路、輸送方法や積載順序などについても関係者と調整し無事搬入据付を実施した。
(5)工事工程管理
CBR工事は、主要工程は、撤去する旧中央制御盤等に代わって、前述の仮設中央制御盤へ接続切替を行った後、旧盤搬出→新盤設置→配線工事→試験を約3ヶ月間で実施した。(図-8)
工事について、30年以上の長期に渡って安全・安定に運転してきた中央制御盤の感謝式で労をねぎらい、本格的に工事を開始した。工事工程は計画どおりに進捗していたが、現場からのケーブルを切断しFTCに接続する工事が、切断ケーブルの引き戻しが困難なこと、引き戻すケーブル長が足らず直ジョイントケーブルの割合が増加したこと、FTCの設置場所が、作業員が一人しか入れないような狭隘部分が多いこと等から、ケーブル配線工事が遅延していることがわかった。
このため、2シフトで作業する作業員を増強するとともに、ケーブル敷設順序を一括管理方法から、一括管理と、工程遅延が許容できない優先ケーブルとの二元管理ができるように、ケーブル管理者を増員して対策した。
(6)工事体制
CBR工事は、四国電力(以下四電という)グループの元請け範囲拡大と技術力向上を目指し、三菱グループと四電グループとの密接な協力体制のもと、四電は、CBR工事全体の取り纏め、設計・工事管理を行った。
また、四国計測工業では、2次系制御装置等の工事に必要な設計を装置メーカーと共同で実施し2次系制御装置等を取替えた。四電エンジニアリングでは、送電系統や保護リレー関係の技術を有する四電からの入
向者を加えて、設計業務を実施し、送電盤、発電機/変圧器保護リレー等の設置を実施した。さらに四電、四計から装置メーカーに派遣し設計・工場試験に、四Eからは、工場試験にそれぞれ参画し、今後の装置保守に必要な技術の習得を進めた。
6.効果
伊方1,2号機中央制御盤および主要制御盤等の総合デジタル制御装置への更新工事を実施したことにより、以下の効果が認められた。
・重要な運転情報を大型画面で表示することで、運転員が一目でプラント運転状況の把握が可能
・タッチパネル式の制御盤の採用による運転操作性の向上(ヒューマンエラーの防止など)
・警報をわかりやすく分類して表示が可能
・制御装置の多重化や自己診断機能による保守性の向上
・デジタル制御装置や光ファイバーケーブルによる設備拡張の容易化
7.おわりに
今回の工事にあたっては、三菱グループおよび四電グループの協力のもと完了することができた。これにより、今後の中央制御盤等の長期安全安定運転確保および、四電グループの技術力向上が図られた。
CBR工事後の保守・改造工事を四電グループで実施することが期待できるとともに、今後の主要制御装置等の取替について、CBR工事経験を生かしていくこととしている。
参考文献
(1)ICONE17 Proceedings of the17th International Conference on Nuclear Engineering July 12-16,2009
「Modernization project of Ikata unit 1/2 main control room using full digital control board」
(2)「電気評論」 平成22年新年号 四国電力の研究開発「1,2号機中央制御盤取替工事の概要」
(平成21年10月23日)
伊方発電所1,2号機中央制御盤等の更新工事について 森川 宏,Hiroshi MORIKAWA,渡辺 浩,Hiroshi WATANABE
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