原子力発電をめぐる国際動向プラント保全に関する最近の動き

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カテゴリ: 解説記事

1. はじめに
最近10年ほどの間に原子力発電をめぐる状況は大きく変わってきた。新興国でのエネルギー需要の増大、石油・天然ガス等の将来的価格高騰に対する懸念、環境問題等が引き金となり、世界的に原子力発電を見直す国が増えるとともに、新興国による原子力発電導入の動きも活発化してきた。また、米、仏、日等の原子力先進国では自国内の原子力発電プラントの信頼性向上、稼働率向上、供用期間の延長等を図るために、広範な技術検討、研究開発、管理面での改善および安全規制の高度化が進められてきた。他方国際的には、2008年7月のG8首脳会談で合意された「3S(Safeguards, Safety, Security)に立脚した原子力基盤の整備に関する国際イニシアティブ」に基づき、高いレベルの安全性を維持しさらに向上させるために、安全規制を含む国際的な協力・調和の推進が一層重要視されるようになった。それを受けて、原子力発電国はGNSSR(Global Nuclear Safety and Security Regime)の考えに基づき、新規炉(新型炉を含む)建設への準備、既存炉の安全確保・保全、安全規制の国際的調和を柱に、広範な協力活動が行われている。
 原子力先進国では、運転期間が30~40年に及ぶプラントが増える中で、既存プラントを経済的に可能な範囲で最大限活用(長期運転)しようという考えから、プラントの保全が既存プラントの最大の課題となってきた。保全に対する取組みもReactiveなものからProactiveなものへと変わってきた。そのような国際的動向については、既に本誌の2007年1月号に検査制度との関連で概説されているので、本稿ではそれ以降の動きを概観するとともに、トピックスとして運転中保全とプラントの長期運転に向けた検討課題について紹介する。
2. 海外における主な動き
原子力発電プラント(NPP)の保全に関する国際的な活動は非常に活発で、2007年以降2009年10月まで
に開催された比較的規模の大きな国際会議等の回数は20回を超えている。その主要なものを表1に掲げるが、その講演集等にはNPPの保全の分野における最近の動向が色濃く反映されている。
表1 NPPの保全に関する最近の主要な国際会議
“On-Line Diagnostics, Automated Testing, and Predictive Maintenance of Critical Components in Nuclear Power Plants”, Gatlinburg, USA, Aug. 2007
“The Second International Symposium on Plant Life Management in Nuclear Power Plant”, Shanghai, China, Oct. 2007
“Life Beyond 60 Workshop Summary Report”, NRC/DOE Workshop on Nuclear Plant Life Extension R&D, Feb. 2008
“ISaG2008 International Symposium of the Ageing Management and Maintenance of Nuclear Power Plants”, University of Tokyo, Japan, Jul. 2008
“International Workshop on Proactive Management of Materials Degradation (PMMD)”, Sep. 2008
“Prognostics and Health Management PHM-08”, Denver, U.S.A., Oct. 2008
IAEA Workshop on “Detection, research, management and monitoring of ageing factors”, Buenos Aires, Argentina, Dec. 2008
IAEA Workshop on Erosion-Corrosion including Flow Accelerated Corrosion and Environmentally Assisted Cracking Issues in Nuclear Power Plants, Moscow, Russian Federation, Apr. 2009
IAEA Technical Meeting on “Activities Related to International Generic Ageing Lessons Learned Database”, IAEA, Vienna, Austria, May 2009
“Technical meeting on Methods and Experiences of Heavy Component Replacements in NPP”, Lynchburg, U.S.A., May 2009
 国際原子力機関(IAEA)は、NPPの長期運転を目指した寿命管理の観点から、設備、機器等の経年劣化問題に取り組んでおり、その範囲は、機器や部位ごとの劣化事象の抽出と対策のまとめ(国際Generic Aging Lessons Learned:GALL)や現象解明等の技術面から、規制面、人材管理面等広範にわたっている。IAEAは今後さらに重要となる事項として、格納容器と電線の経年劣化、浸食・腐食問題、原子炉容器の加圧熱衝撃(PTS)等の技術課題だけでなく、技術者の高齢化と技術継承、劣化評価の手法と判断基準の整備等を挙げている。また、種々の調査・検討の結果をガイダンス文書の形で発行して広く使用に供している[1]?[7]。
 経済協力開発機構の原子力機関(OECD/NEA)では、原子力施設安全委員会(CSNI)の下の機器・構築物の健全性に関する作業グループ(IAGE)が経年劣化と保全の課題について技術検討を進めるとともに、Databaseプロジェクトとして応力腐食割れ・電線経年劣化プロジェクト(SCAP)および国際共通要因故障データ交換プロジェクト(ICDE)を実施している。IAGEは既にコンクリート格納容器の健全性に関する詳細な報告書とRisk-informed ISIの手法に関する現状報告書の作成を終了し、現在はPWRの原子炉容器に関する確率論的構造健全性評価手法のベンチマークを検討中であり、原子炉容器上蓋等に使われているNi基合金の1次側応力腐食割れ(PWSCC)に関する情報を集めた報告書およびプラントの経年劣化と寿命管理に関する調査報告書を作成中である。また、コンクリート構築物に関する課題の摘出と重要度付けを行っている。
米国は合理的かつ有効な安全規制を目指して、世界に先駆けて確率論的な手法を取り入れており、後述するように、停止期間の短縮等を目的に、その線に沿った予防保全としての運転中保守が実施されている。また、そのための事前リスク評価手法、リスク緩和策、設備の安全上の分類、作業管理ガイダンス、13 週ローリングサイクル工程等が整備され、規制面の整備も進んでいる。その一方、運転期間が法令に基づく初期寿命40年に達するプラントの増加に備え、早い時期から米国原子力規制委員会(NRC)により運転認可更新プロセスが検討されてきた。運転認可更新に関する最大の課題は設備の経年劣化に関する評価とそれに基づく保全であり、経年劣化については20年ほど前から電力研究所(EPRI)を中心とする電力業界とNRCによって広範な技術検討が行われてきた。NRCによる検討結果は、2001年のGALL報告書[8]としてまとめられており、現在もNRCは材料面での予防保全に関するPMMDプログラムやPWSCCに関するPINCプロジェクトを進めている。また、EPRIの材料信頼性プログラム(MRP)は問題解決型の研究として大きな成果を挙げてきた。2009年10月現在、29プラントについて運転認可更新申請が完了しており、14プラントが申請書のレビュー中であるが、その申請と技術審査にはこれらの成果が活用されている。
 フランスでは、フランス電力公社(EDF)が保全を機能維持と設備利用率の向上のための「通常保全(予防保全と事後保全)」、プラント寿命の延長を主目的として共通問題に対処する「特別運転保全」および経年劣化現象を予想して安全上・プラント性能上重要な機器の補修・取替を行う「特別予知保全」に分けて、Proactiveな保全計画に基づく保全活動を展開しており、そのための研究開発も国際協力を含めて活発に行っている。フランスでは許認可上プラント寿命は既定されておらず、10年ごとの定期安全レビューの際に総合的な評価を行っており、特に30年目の定期安全レビュー(主として60万kWクラス)に際してはその後の保全計画で広範な経年劣化評価を行っている。この評価では確率論的評価やリスクインフォームドな方法も採用されており、その内容は米国の方式と似通ったものである。規制側では、放射線・原子力安全研究所(IRSN)が事業者による経年劣化評価と保全計画の妥当性を判断する立場から、必要な研究開発を実施している。
 米、仏以外の国でも、ドイツ、カナダ、韓国等多くの国で保全に関連する技術検討がなされているが、それについてはまたの機会に譲る。
3. 運転中保全の国際動向
海外では、原子炉の運転中に予防保全として運転中保全(On-line maintenance: OLM)が広く実施されている。
運転中保全は、非安全系設備についてはプラントの運転継続に支障がないため、アクセス可能な箇所であれば、特に制限なく実施できるが、安全系に関しては、保全中にその設備の機能喪失の可能性を考慮し、安全確保上何らかの制限を受けるのが通常である。この扱いについては各国で差異があるため、以下に安全系の運転中保全に着目してその動向を紹介する。
原子炉の安全系に関しては、深層防護や多重障壁の設計思想に加え、単一故障を仮定して設計が行われるが、安全系の運転中保全を考える際には、このうち単一故障の要件が深く関連してくる。
単一故障とは、単一の原因によって一つの機器が所定の機能を失うことであり、安全上重要な系統の設計に当たっては、機器の単一故障時にもそれらの安全機能が損なわれないことが設計要件となっている。
このため、安全上重要な系統は、多重性や多様性の冗長性を持たせた設計となっている。多重性とは同じ系統を複数持つことで単一故障の要件を満足させ、多様性とは安全機能を他の系統を使用して要件を満足させるものである。この冗長性の考え方には大きく「(N+1)方式」と「(N+2)方式」がある。Nは安全確保に必要な機器(または系統)数、+1、+2は冗長な機器(または系統)の数である。
米国のプラントでは、N=1で(N+1)方式の設計が多い。即ち100%容量の系統を2系統持たせた設計である。米国技術を導入したわが国では米国と同様の設計となっている。(N+1)方式の場合、運転中保全等で1系統が除外されその安全機能が使えない場合、100%の容量は残るものの単一故障の要件が満足できず、その除外時間を制限する等の安全確保策が必要となる。それに対して、欧州の設計では、N=2で(N+2)方式の設計、即ち50%容量の系統を4つ持たせた設計が多い。この場合、1系統の安全系を運転中保全等でその安全機能を除外した場合でも単一故障の要件が満足され、運転中保全を意識した設計となっている。
3.1 各国の運転中保全の状況
各国の状況については、2001年8月にOECD/NEAの検査実務作業グループ(WGIP)が出した参加15ヶ国の運転中保全の状況と関連する規制検査に関する調査報告書に記されている [9]。この調査結果の一部を表2にまとめ、以下にその概要を記す。
表2 各国の運転中保全の状況
国 冗長性
(主流) AOT内OLM実施 検査の実施
(事業者活動の確認)
ベルギー N+2 × 〇
カナダ N+2 〇 〇
チェコ N+2 〇 〇
フィンランド N+1/N+2 △ 〇
フランス N+1 〇 〇
ドイツ N+2 〇 〇
ハンガリー N+2 〇 〇
日本 N+1 × 〇
メキシコ N+1 〇 -
オランダ N+2 〇 〇
スペイン N+1 〇 〇
スウェーデン N+2 〇 〇
スイス N+1/N+2 〇 〇
イギリス N+2 〇 〇
米国 N+1 〇 〇
1. 殆どの国では、運転中保全は、規制当局により承認された発電所ごとのTechnical Specifications(TS)に従って実施されている。即ち、TSが定める1系統待機除外発生時の許容待機除外時間(Allowed Outage Time:AOT)内に運転中保全が実施されている。
2. フィンランド、ドイツ、スペインおよび米国の規制期間は、運転中保全に関する規則を持っている。
3. いずれの国でも、系統および機器に対するAOTがTSに規定されている。
4. AOTを決定する上で、殆どの国では決定論的および確率論的解析を行なっている。
5. 殆どの国の規制機関では、運転中保全の結果を、ルーチン的に実施している基本的な検査で確認している。
6. 殆どの国では、電力自由化のもとで、事業者は停止期間を短縮するために運転中保全の拡大を動機付けられている。
米国では現在、安全系の運転中保全をほぼ毎週のように行っており、事業者はその範囲をさらに広げようとしている。NRCは保守規則の一環として保全前のリスク評価を義務付けており、保全によるリスクが十分小さいことを確認して保全を実施することとしている。それを受けて原子力エネルギー協会(NEI)等は事業者が従うべきリスク評価のガイダンスを作成し、NRCがそれを承認している。運転中保全の計画は実施の12週間前から計画を開始し、入念な準備の上で運転中保全が行われている。安全管理上の措置のレベルは、リスクの増分に応じて決められる。米国の運転中保全の安全管理については、保全学2009年1月号の特集記事に詳しい紹介があるので参照願いたい [10]。
3.2 IAEAの安全基準
IAEAは原子力発電プラントの運転や保守に関する安全基準をいくつか発行しているが、その中で運転中保全に係わる部分としては以下の基準がある。
(1) 安全要求NS-R-2「運転安全要求」[11]
この基準は運転に対する要件を示した最上位のものであるが、関連部分は表3に示す第6章「安全上重要な構築物・系統および機器(Structures, Systems and Components:SSC)に対する保守、試験、サーベイランスおよび検査(MTSI)」である。
表3 NS-R-2 第6章
そこでは、運転制限と運転条件を考慮して保守等のプログラムを定めることが要求され、予防保全や予知保全の頻度は対象とするSSCの安全上の重要度と信頼性を考慮して決定すべきとされている。これは一般的な規定であり、運転中保全、停止中の保全にかかわらず適用されるものである。
(2) 安全指針NS-G-2.2「原子力発電所の運転制限と条件および運転手順」[12]
この安全指針には、TSで規定されている運転上の制限値や運転条件、サーベイランス要件、運転手順書等についてそれらの設定や作成の考え方が示されている。関連部分は表4に示す第6章「通常運転時に対する制限および条件」の中の6.1~6.3項の通常運転に対する制限や条件および6.6~6.8項である。
表4 NS-G-2.2 6.1~6.3、6.6~6.8項
特に6.2項には、通常運転時の制限と条件を逸脱した際には、運転員が取るべき予め決められた処置および措置が完了するまでの許容時間を要求しており、TSで規定される時間(リスクの増加が容認可能なレベル以内の時間)であれば、安全系機器を供用外とすることが認められている。また、6.6~6.8項には安全系の機器を供用外にする時の注意事項、許容時間の考え方が示されている。
(3) 安全指針NS-G-2.6「原子力発電所における保守、サーベイランスおよびISI」[13]
この安全指針は標題が示す通りの事項に対するものであるが、関連部分は表5に示す2.2項および5.12項である。
表5 NS-G-2.6 2.2及び5.12項
2.2 「保守」については様々な概念的なアプローチがあるが、保守に関する活動は、予防保全と事後保全に分けることができる。
‥‥
5.12 保守・サーベイランスおよびISIによっては安全上重要な系統もしくは機器を供用外とすることが必要な場合もあるため、そのような系統や機器を供用外をとする場合の前提条件および確実かつ適切に供用に戻すための特別の指示について記載し、通常運転に対する制限や条件が逸脱されないようにすべきである。
この規定には、直接運転中保全を認める記載はないが、特に5.12項に見られるように運転中保全を実施することを前提として認めており、運転制限条件から逸脱しない範囲での運転中の安全系の予防保全を認めているものと理解できる。
以上のように、IAEA安全基準の中での運転中保全の取り扱いは、運転中保全の実施を前提として認めており、運転制限条件を逸脱しない範囲での運転中の安全系の予防保全を認めていると考えられる。
4. 長期運転に向けた検討課題
米国では運転期間の延長に係る認可更新を得るには、連邦規則10 CFR Part 51, 54が定める環境影響評価とプラント経年化に関する技術・管理面での要件を満たすことを示す評価が必要である。そのために、2008年、NRCと米国エネルギー省(DOE)は産業界、研究機関および公衆をまじえて“60年を超える運転:原子力プラントの寿命延長研究開発に関するワークショップ”を開催し、既存炉の静的SSCの経年化と信頼性確保に関する研究開発課題を摘出した。その結果を表6にまとめる。ここでは、動的機器の経年劣化は運転認可更新特有の課題ではなく、また静的機器に比べて検知、補修および交換も容易だとして対象にはしていない。
表6 米国NRC/DOEが摘出した今後の経年化技術課題
(1) 10 CFR Part 54の規制対象となる安全上重要な静的なシステム・構築物・機器に関する研究開発課題
経年劣化に関する研究開発分野 ・オーステナイト鋳鋼および溶接部に対する熱・照射相乗効果の解明
・溶接方法の改良と補修判断基準の確立
・ステンレス鋼のSCCに対する中性子照射の影響評価
・SCC過程における核形成の解明と防止
・高サイクル疲労の長期的重要性の解明
・Ni基合金製炉内構築物のPWSCC
・材料に適合した水化学管理プログラム
・環境効果に因る金属疲労・進行性強度劣化に関する研究
・ボイドスウェリング・応力緩和の重要性解明
・2次側材料の流動誘起摩耗・高サイクル疲労の評価
・Ni合金製炉内構築物に対する照射効果の評価
検査に関する研究開発分野 ・検査・評価ガイドラインの標準化
・レーザ・改良型変換器の利用を含む新検査技術の開発と実証
・NDE/測定マトリックスの作成
・NDEボイドスウェリング検知法と制御棒案内管ピンの検査の改良
・マルチスケールモデル、検出器/信号処理、予測を取り込んだ総合設備保全計画の実証
その他の研究開発分野 ・アロイ690の強度劣化の可能性検討
・原子炉容器の焼鈍の影響検討
・肉盛り、誘導加熱応力改善等による補修のプラント延命効果の確認
・原子炉材料の複合効果試験による相互依存性の解明
・複合経年化の基礎現象(後期ブルーミングフェーズ、ミクロ組織等)の検討
・安全系ケーブルの経年劣化機構の検討
(2) 10 CFR Part 54の規制対象ではないが、長期運転を経済性の観点か支えるための静的なシステム・構築物・機器に関する研究開発課題
検査に関する研究開発分野 ・検査・評価ガイドラインの標準化
・レーザ・改良型変換器の利用を含む新検査技術の開発と実証
・NDE/測定マトリックスの作成
・NDEボイドスウェリング検知法と制御棒案内管ピンの検査の改良
・マルチスケールモデル、検出器/信号処理、予測を取り込んだ総合設備保全計画の実証
ケーブルの経年劣化 ・ゼロハロゲン被覆材に対する経年効果の検討
・中電圧ケーブルに適用する低侵襲性試験方法の開発
・非破壊試験の判定基準の標準化と改善
・非遮蔽ケーブルに対する標準試験法の開発
・ケーブルの長期耐環境性の再評価
・赤外線技術およびナノコーティング検査用NDE装置を取り入れたNDE技術の改良
埋設配管 ・埋設配管の基本的劣化モデルの開発
・より広域な検査方法(導波法、超音波法等)の開発
・改良型計器搭載遠隔車両の開発
・埋設配管の現場補修・交換方法の開発
・新しい代替材・コーティング材の評価
・地下水に対する埋設機器の保護方法の改善
コンクリート ・基本的な照射損傷モデル、環境要因損傷モデルと劣化緩和技術の開発
・標準化劣化判定基準の作成
・コンクリート劣化に関するベンチマーク・データベースの構築
・放射線・熱・環境に対する長期的被ばく効果の評価
・格納容器構築物の耐環境基準および劣化基本モデルの作成
・鉄筋の多い厚いコンクリートを対象とするNDE法の改良・試験
その他の研究分野 ・既存プラントへの乾式冷却技術の将来的な適用に関する評価(水源、環境の問題への対処)
・構造材・コンクリート・配管の保護する強固なコーティングの開発(ナノテクノロジー応用の可能性)
(3) 分野横断的な研究開発課題
・時間限定的経年変化解析(TLAA)の計算ベースの改良
・材料・機器経年化データベースの整備・活用
・機器故障識別特性および判定基準の作成、故障前兆現象の基本理解のための基本モデリング技術の活用
・廃棄設備・機器および“監視試料の試験目的での活用拡大
・許容欠陥の特徴付けと適用基準への組込み
・非破壊試験・評価技術の開発(既存検出器・信号処理の改良、新試験方法の開発、新材料に対する試験方法の開発)
・予測モデルとオンライン監視装置の開発と確証
・安全性向上と運転上の複雑さ低減のためのディジタルI&Cへの移行推進
・安全面・経済面の利得を考えたリスク情報に基づく優先度付け方法の開発
 NRCとDOEは、上表に示す課題については、直ちにそれに対する解決策を議論するのではなく、それを今後原子力発電プラントの劣化要因となり得る事項として、今後の技術的および管理面での議論や検討の出発点とすることに意義があるとしている。すなわち、これらの課題についてさらに議論を重ね、国際協力も含めた研究開発プログラムを策定することに注力したいとしている。わが国にもこの点での協力が求められている。
フランスにおいても米国とほぼ同様な事項を長期運転に対処する課題として取り上げているが、EDFはさらに定量化が必要な劣化現象として表7に示す現象を挙げている[15]。
表7 EDFが摘出したさらに定量化を要する劣化現象
原子炉容器 照射脆化、貫通部のPWSCC、溶接部の熱時効
炉内構築物 バッフルの照射脆化、バッフルボルトのIASCC・疲労・クリープ・
蒸気発生器 管束の腐食・摩耗、仕切板の付着物/スラッジ/ PWSCC、給水ノズルの熱疲労・熱成層化
1次冷却材ポンプ インペラのキャビテーション・浸食
加圧器 熱時効、ヒータ・サーマルスリーブの疲労
1次冷却材配管 鋳造ステンレス二重管等の熱時効
連結配管 ノズル・サージ配管の熱時効
格納容器 テンドンのクリープ・張力低下
格納容器貫通部 高分子化合物の経年劣化
ケーブル ホットポイントの経年劣化
コンクリート構築物 コンクリート-アルカリ反応
計測制御設備 交換頻度、定期試験、陳腐化
5. おわりに
 以上、原子力発電プラントの保全に関する国際的な動向を概観したが、それらの活動には国際プロジェクト、国際会議等を通じてわが国も多大な貢献をしてきた。
原子力安全に関するわが国の国際活動のあり方については、その重要性の高まりを受けて、2008年6月総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会原子力安全基盤小委員会に国際原子力安全ワーキンググループが設置され、主として発電炉の安全規制に係る分野を中心に、今後のわが国が国際原子力安全活動に関する基本的方針と具体的取組みが検討された。その結果、政府・産業界・学協会が連携してわが国の国際原子力安全活動を積極的に展開していくことの必要性が改めて認識され、特に高経年化対策のようにわが国が優位性と実績を持つ分野については、国際的なデータベース作り等にも加わるなど、個々のデータだけでなく、そこから情報・知識を抽出していく国際的な仕組みを通じてより積極的に国際協力を進めことでわが国での検討を効率的・効果的に進めることが確認された[16]。原子力安全の確保のため、保全の分野での国際協力が一層発展することを期待したい。
参考文献
[1] IAEA Safety Series, “Ageing Management for Nuclear Power Plants”, Safety Guide No. NS-G-2.12
[2] IAEA Nuclear Energy Series, “No. NT-P-1.1, “On-line Monitoring for Improving Performance of Nuclear Power Plants Part 1 and 2”
[3] Technical Reports Series No. 448, “Plant Lifetime Management for Long Term Operation of Light Water Reactors”
[4] IAEA Safety Reports Series No. 57, “Safe Long Term Operation of Nuclear Power Plants”
[5] IAEA-TECDOC-1551, “Implementation Strategies and Tools for Condition Based Maintenance at Nuclear Power Plants”
[6] IAEA-TECDOC-1383, “Guidance for optimizing nuclear power plant maintenance programmes”
[7] IAEA-TECDOC-1590, “Guidelines on Application of Reliability Centred Maintenance to Optimize Operation and Maintenance in Nuclear Power Plants”
[8] Generic Aging Lessons Learned (GALL) Report, Initial Report, USNRC, 2001
[9] NEA/CNRA/R(2001)6, “Inspection of Maintenance on Safety systems during NPP operation”
[10] 伊藤邦雄, “米国原子力発電所の保全とその安全管理- (2) オンライン保守とその安全管理”, 保全学Vol.7,No.4(2009年1月)
[11] IAEA Safety Requirement NS-R-2, “運転安全要求”
[12] IAEA Safety Guide NS-G-2.2, “原子力発電所の運転制限と条件および運転手順”
[13] IAEA Safety Guide NS-G-2.6, “原子力発電所における保守、サーベイランスおよびISI”
[14] “Life Beyond 60 Workshop Summary Report”, NRC/DOE Workshop on Nuclear Plant Life Extension R&D, Feb. 2008
[15] Claude Faidy, “Aging Management of EDF NPPs, Status, lessons learned and consequences”, ISaG2008, University of Tokyo, Japan, Jul. 2008
[16] 国際原子力安全ワーキンググループ報告書, 総合資源エネルギー調査会 原子力安全・保安部会 原子力安全基盤小委員会, 2009年2月
(平成21年10月21日)
原子力発電をめぐる国際動向プラント保全に関する最近の動き 横山 勉,Tsutomu YOKOYAMA,小林 正英,Masahide KOBAYASHI
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