公開情報を用いた日本及び米国の原子力発電プラントのパフォーマンスの考察について
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1.緒言
我が国の定期検査は、間隔が短い一方で期間が長いため、保守が過剰となり、運転中のトラブルが初期故障型になっている懸念があった。そこで、インターネット上で公開されている我が国の原子力施設運転管理年報及び米国Nuclear Regulatory Commission (NRC)のPower Reactor Status Reportを用いて、取扱いが容易なワイブル解析を行い、定期検査終了後の出力運転では、日米ともに初期故障型との結論を得た[1]。しかし、この分析に用いたデータは時間稼働率や停止期間の分析にも用いることが可能で、統計手法を用いずに簡単な考察を行ってみることとした。米国と比較した結果、我が国の時間稼働率低迷に影響を与えている因子として、定期検査及び1年以上の長期停止が導出された。また、停止期間の観点からは、定期検査のみならず計画外停止も米国に比べて長かった。一方、定期検査の長さとその後の運転中の計画外停止率との間には明確な相関は見られなかった。さらに、それらの平均値を用い、我が国の電力会社別及びプラント・メーカ別の考察を行った。電力会社別では、BWR及びPWRの各々1社、計画外停止率が高い会社が見られた。一方、プラント・メーカ別で見ると、定期検査が短いほどプラントの計画外停止率は低く、メーカ毎に差異が見られた。
2.考察
2.1 データの概要
本評価で用いたデータは、以下のとおり。
-日本 原子力施設運転管理年報
-米国 NRC Power Reactor Status Report
2.1.1 我が国のデータ
原子力施設運転管理年報は、現在、(独)原子力安全基盤機構が毎年発行する図書で、原子力発電プラントのみならず、我が国の原子力施設の年度毎のトラブルや運営状況を記載したものである。原子力発電プラントに関しては、さらに、発電状況を記載したユニット別運転線図が載っており、既に発行された年報を見ると、営業運転開始以降の発電履歴が分かる。特に、発電開始及び停止については、その月日が記載されている。
しかし、発電開始或いは停止の月日、理由等が記載されていない箇所もあり、適宜、原子力施設情報公開ライブラリー(NUCIA)や新聞情報等を参考にしながら、考察用のデータベースを作成した。
なお、後述するように、日米比較のため、1999年1月以降に定期検査(米国はRefuel Outage)を終え、且つ2009年3月以前に停止した期間を、考察対象とした。
図1に、考察対象期間の考え方の概要を示す。
図1 考察対象期間の概要
2.1.2 米国のデータ
我が国の原子力施設運転管理年報に当たる米国の図書を発見することが出来なかった。
一方、Nuclear Regulatory Commission (NRC)のホームページには、1999年1月1日以降のプラントの原子炉出力(%)、停止年月日及びその理由等を記載したPower Reactor Status Reportが日報形式で掲載されている。
但し、本Reportには、停止理由が具体的に記載されていないmaintenance outageが多く見られた。そこで、Department of Energy (DOE)のEnergy Assurance Daily (EAD)や新聞情報で、機器のトラブルの有無等を確認しながら、考察用のデータベースを作成した[2]。
2.1.3 データの概要
日米ともに、炉型(BWR及びPWR)毎にデータを整理した。さらに、米国のPWRについては、Babcock & Wilcox タイプ(P-B&W), Combustion Engineeringタイプ(P-CE)及びWestinghouseタイプ(P-WH)の3タイプに分けた。
表 1 及び2に、分析に用いた日米のデータの概要を示す。
表1 日本の考察用データの概要
項目 BWR PWR 合計
延べ停止回数 380 218 598
延べ運転日数 6.0E+4 6.3E+4 1.2E+5
延べ停止日数 3.0E+4 1.5E+4 4.5E+4
表2 米国の考察用データの概要
項目 BWR PWR
-B&W PWR
-CE PWR
-WH 合計
延べ停止回数 665 90 260 722 1,737
延べ運転日数 1.1E+5 2.0E+4 4.1E+4 1.4E+5 3.0E+5
延べ停止日数 2.1E+4 2.8E3 6.8E+3 1.7E+3 4.8E+4
2.2 原子力発電プラントの分析
2.2.1 稼動率に影響を与えている因子
日米のデータを用いて、稼働率低下に影響を与えている因子の考察を行った。なお、
(1) 日米ともに、参考情報でも理由が判明しなかった停止については、その他とした。
(2) 1年を超える停止は、長期停止と分類した。
(3) 保守や外部事象のため停止した後、定期検査/Refuel Outageに入った停止は、定期検査による停止とした。
稼働率に影響を与えている日米の因子を、図2及び3にそれぞれ示す。
図2 日本の稼働率影響因子
図3 米国の稼働率影響因子
この結果から、日本の稼働率に影響を与えているのは、主に定期検査と1年を超える長期停止であることが分かる。
日本及び米国で、1年を超えて停止した事例の概要を、表 3及び4に示す。
なお、地震や事故の発生以降、考察期間内に発電を開始しなかった浜岡1号機や柏崎刈羽発電所の停止は、本表には含まれていない。
表3 日本の長期停止の概要
プラント 停止年月 停止
日数 主な停止理由*
福島第一-1 02年10月 991 原子炉格納容器漏えい率検査のための中間停止→定期検査
美浜-3 04年 8月 778 2次系配管破損事故→定期検査
福島第二-4 02年10月 739 シュラウド等点検のための中間停止→定期検査
福島第二-2 02年 9月 726 主排気筒放射能モニタ指示の上昇に伴う原子炉手動停止→定期検査
女川-1 05年 8月 689 地震による原子炉自動停止→定期検査
柏崎刈羽-2 02年 9月 651 原子炉再循環系配管等点検のための中間停止→定期検査
志賀-2 06年 7月 636 蒸気タービン点検→定期検査
柏崎刈羽-3 02年 8月 617 定期検査
柏崎刈羽-1 02年 9月 583 定期検査
福島第一-4 02年 9月 553 シュラウド等点検のための中間停止→定期検査
敦賀-1 99年 8月 548 定期検査
福島第二-3 02年 9月 537 シュラウド等点検のための中間停止→定期検査
柏崎刈羽-5 03年 3月 426 定期検査
浜岡-2 01年11月 404 設備点検
福島第一-6 03年 9月 403 定期検査
浜岡-3 02年 9月 403 原子炉再循環系配管調査に伴う原子炉停止→定期検査
女川-1 08年 2月 402 定期検査
福島第一-3 02年 7月 394 定期検査
福島第二-3 04年12月 379 定期検査
美浜-2 07年7月 376 定期検査
福島第一-2 03年 3月 372 定期検査
*:原子力施設運転管理年報による。
表4 米国の長期停止概要
プラント 停止年月 停止日数 主な停止理由*
Browns Feery-1 85年 3月 8116 Defueled
Cook-1 97年 9月 1200 Refuel Outage
Millstone-2 96年 2月 1185 Refuel Outage
Lasa1le-2 96年 2日 1145 Refuel Outage
Cook-2 97年 9月 1018 Refuel Outage
Clinton-1 96年 9月 973 Refuel Outage
Davis Besse-1 02年 2月 759 Refuel Outage
*: NRC Power Reactor Status Reportによる。
表3によると、殆どがBWRで、さらに今回の評価に含まれてない浜岡発電所や柏崎刈羽発電所の状況を加味すると、地震やシュラウド/再循環系配管の点検・保修が、長期停止の主な理由と思われる。
地震に限らず、計画外停止に対しては、停止期間の不必要な長期化を避けるため、運転再開手順を明確にし、事業者の努力のみならず規制当局側の科学的な判断及び手順実施を期待したい。
また、シュラウド/再循環系配管の点検・保修については、事象の進展予測に基づく維持基準の合理的な適用及び実施を期待したい。
2.2.2 停止日数の分布
1年を超える長期停止については既述のとおりだが、1年以内の停止に関して、どうだろうか。
停止中の主な作業及び期間の関係について、考察を行った。
我が国のBWR及びPWRについては図4 及び5に、米国のBWR及びPWR(WHタイプ)については、図 6及び7に示す。
なお、原子力施設運転管理年報には、BWRの仮並列と推定される発電開始及び停止に関して、その旨の記載がないため、”その他”に分類した。さらに、この影響を除外しPWRと比較しやすいように、図4の縦軸のスケールを図5に合わせた。
一方、EDAや新聞情報で機器の故障の有無が確認できなかった米国のmaintenance outageについても、”その他”に分類した。
これらのグラフによると、我が国は、故障停止や定期検査の期間が長く、特に、BWRはその傾向の強いと思われる。
保全プログラムの導入により、今後、検査頻度の最適化がなされ、初期故障の低減のみならず、定期検査期間の適正化が現実のものとなることを期待したい。
図4 日本BWRの停止期間の分布
図5 日本PWRの停止期間の分布
図6 米国BWRの停止期間の分布
図7 米国PWR(WHタイプ)の停止期間の分布
2.2.3 定期検査と計画外停止
我が国の原子力発電プラントは定期検査期間が長い一方で、運転中のパフォーマンスは非常に良い(計画外停止率が低い)[1]。
ところで、定期検査期間を長くすれば、運転中のパフォーマンスは良くなるのであろうか。
我が国のBWR及びPWRの定期検査期間とその直後の運転サイクルの計画外停止率との関係を、設計改良世代毎に図 8及び9に示す。
なお、本考察では、
(1) 1年を超えた停止は、除外した。
(2) 定期検査とその後の運転サイクルの関係を考察するため、次の定期検査が考察期間に入っていない運転サイクルのデータは除外した。
図8 日本のBWRの定期検査期間と計画外停止率
図9 日本のPWRの定期検査期間と計画外停止率
何れのグラフを見ても、相関は見られそうもない。
そこで、定期検査日数と計画外停止率の平均値の関係を見ることとした。なお、平均計画外停止率は、次式で算出した。
平均値のグラフを図10に示す。
図10 日本の平均定期検査期間と平均計画外停止率
このグラフを見ると、第3世代のBWR(A-BWR)を除き、設計改良の効果(左下向き)が現れているようである。一方、A-BWRは、定期検査が短いが、計画外停止率が大きくなっている。これは、タービンや気体廃棄物処理系(水素ガス)のトラブルが影響しているものと推定する。
参考として、米国の平均値のグラフを図 11に示す。図10の縦軸/横軸のスケールとの違いを考慮すると、我が国に比べ、米国は計画外停止率が高いが、定期検査(Refuel Outage)は短いことが分かる。なお、米国では運転中の保全(On Line Maintenance)が行われており、日本に比べ定期検査(Refuel Outage)中の作業量が少ないことに注意を要する。
また、米国で運転中のパフォーマンスが良い(計画外停止率が低い)プラントを見ると、定期検査が日本に比べて短いプラントもある。その例を表5に示す。
既に運転期間延長が行われている米国で、定期検査期間が短いにも係わらず、長期間(約10年)に亘り、運転中のパフォーマンスの良いこれらのプラントについて、我々は学ぶものがあるのかも知れない。
表 5 米国のパフォーマンスの良いプラント例
*:停止後Refuel Outageに入ったものを除く。
2.2.4 日本の電力会社毎の考察
最近、一部の電力会社では保安規定違反/不十分な管理体制が新聞で取り沙汰されることがある。
しかし、計画外発電停止の観点で、特定の電力のパフォ-マンス低下が見受けられるのであろうか。
2.2.3章で用いた我が国のデータより求めた、電力会社別の平均値を図12に示す。
図12 電力会社別の定期検査期間と計画外停止率
このグラフによると、BWRに比べ、PWRは定期検査が短いが、計画外停止率は低い(小さい)ことが分かる。また、BWR及びPWRともに、計画外停止率の悪い(大きい)社が各々1社あるようである。
しかし、保安規定違反/不十分な管理体制と非難された電力会社が、特に悪いという傾向は見受けられないようだ。
2.2.5 日本のメーカ毎の考察
電力会社による差異は前章で述べたが、プラント・メーカによる差異はあるのであろうか。
前章と同様、2.2.3章のデータをプラント・メーカ別に纏めたグラフを図13に示す。
なお、PWRではWHが供給したプラントもあるが、その後の保守等は三菱重工業㈱がサポートしているため、三菱重工業㈱のプラントとした。
図13 メーカ別の定期検査期間と計画外停止率
この結果を見ると、定期検査の短いプラントほど、計画外停止率が低く、プラント・メーカ間で差異のあるように見える。
3.結言
インターネットで公開されている、我が国及び米国の原子力発電プラントの起動/停止情報に基づき、日本及び米国のパフォーマンスの考察を行った。
我が国の稼働率低迷の観点からは、定期検査及び1年以上の長期停止が因子として導出された。また、停止期間の分布を見ると、定期検査だけでなく計画外停止も米国に比べて長かった。一方、定期検査とその後の計画外停止率の関係について、我が国の電力会社別及びプラント・メーカ別の考察を行った。電力会社別では、BWR及びPWRの各々1社で、計画外停止率が高い会社が見られた。一方、プラント・メーカ毎に見ると、定期検査が短いほど、プラントの計画外停止率は低く、メーカ毎に差異が見られた。
今回の考察は、簡易に行ったもので、さらに詳細に踏み込んだ検討が必要であろう。本書が、科学的/合理的なプラントの運転に役立てば、幸いである。
参考文献
[1] T. Nagata, K. Sugiyama, ICONE-18 2010, Performance Evaluation of Japanese Nuclear Power Plant based on Open Data and Information (3) p5
[2] T. Nagata, K. Sugiyama, ICONE-18 2010, Performance Evaluation of Japanese Nuclear Power Plant based on Open Data and Information (3) p4-5
(平成22年4月27日)
公開情報を用いた日本及び米国の原子力発電プラントのパフォーマンスの考察について 永田 匡尚, Tadahisa NAGATA