関西電力大飯発電所3号機における安全性に関する総合評価について
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カテゴリ: 解説記事
1. ストレステスト導入の経緯と実施状況
1.1 ストレステスト導入の経緯
政府から、平成23年7月11日に、「我が国原子力発電所の安全性の確認について(ストレステストを参考にした安全評価の導入等)」が公表され、それを受け、原子力安全・保安院から7月22日に電力事業者に対し、福島第一原子力発電所事故を踏まえた、安全性に関する総合評価(ストレステスト)を指示された。
1.2 ストレステストの内容
ストレステストでは、原子力発電所が想定を超える地震や津波等に襲われた場合を想定し、安全上重要な施設や機器等がどの程度まで耐えられるのかを調べた上で発電所として総合的に安全裕度を評価することとされている。
評価には一次評価と二次評価があり、一次評価は、定期検査で止まっている発電所の運転再開の可否を、二次評価は、運転中の発電所も含め全ての発電所の運転継続の判断のために実施することとされている。
1.3 ストレステストの実施状況
関西電力においては、10月28日に大飯発電所3号機のストレステストの一次評価報告書を原子力安全・保安院に提出した。
本稿では大飯発電所3号機において実施した安全確保対策とストレステストの評価が安全確保対策によりどのように改善されたかを概説する。
2.安全確保対策
2.1 福島第一原子力発電所事故から得られた知見
福島第一原子力発電所では表1に示す事象が同時に発生し、全交流電源と最終的な熱の逃がし場(最終ヒートシンク)が長期にわたり喪失し、燃料の重大な損傷、格納容器の破損など深刻な事態に陥った。
このことから、全交流電源喪失の対策、最終ヒートシンク喪失の対応、重要機器への被水防止が安全確保対策として必要であると考えられる。
2.2 原子力発電所で実施した安全確保対策の例
加圧水型原子炉においては、全交流電源が喪失しても、タービン動補助給水ポンプにより蒸気発生器2次側に給水し、発生した蒸気を大気放出することで蒸気発生器1次側の除熱を行い、自然循環により原子炉を冷却するよう設計されているが、継続的に冷却を行うために給水する水源の確保、タービン動補助給水ポンプの浸水対策、監視のための電源の確保が必要になる。(図1参照)
図1 加圧水型原子炉の安全確保対策の例
また使用済燃料ピットの燃料を冷却するために、ピットへの給水等の対策が必要である。
大飯発電所3号機においては、福島第一原子力発電所の事故直後から緊急安全対策としてハード対策における設備の増強で冷却方法の多様化を図るとともに、ソフト対策として、配備した設備を速やかに使用することができるよう訓練を実施し、万一の場合に備えている。
3.ストレステストの評価対象と評価結果
安全確保対策によりプラントの安全性がどの程度向上したかを、ストレステストにより確認した。ストレステストの一次評価では、地震、津波、地震と津波の重畳、全交流電源喪失、最終ヒートシンクの喪失について、炉心の冷却手段が確認できなくなるクリフエッジを求めるとともに、その他のシビアアクシデント・マネジメントの有効性を確認した。
例えば地震に関する評価では、地震で損傷する設備に起因して燃料損傷に至る可能性のある事象(起因事象)を特定すると共に、燃料損傷に進展しないよう緩和機能を用いて収束させるシナリオをイベントツリーを用いて特定する。これらの起因事象・緩和機能に関連する設備の耐震裕度を求めることで、全ての緩和シナリオが成立しなくなるレベルをクリフエッジとして特定する。
以下に、地震、津波等の評価対象について、炉心の冷却に関する評価結果を示す。なお、使用済燃料ピットの冷却についても同様に評価している。
3.1 地震に関する評価
地震は断層の同時活動を想定するなど保守的な条件で設定した基準地震動Ss(700gal)を指標とし、機器毎に確認されている耐震裕度から設置位置等を考慮し、指標の何倍の地震まで冷却設備が利用可能であるかを確認した。
安全確保対策以前は1.75Ssまで海水に熱を逃がすための冷却設備が利用可能であったが、対策後は消防ポンプによる水源確保、非常用発電装置による電源確保等により1.80Ssまで冷却が可能であることを確認した。
なお、1.80Ssは高電圧用開閉器の耐震裕度により決まった値であるが、裕度の算出に用いた許容値は加震試験で健全性が確認された値であり、機能喪失の限界値でないことから、実際には更に裕度があるものと見込まれる。
3.2 津波に関する評価
発電所付近の断層の同時活動や日本海東縁部の断層を考慮した保守的な条件で評価した想定津波高さ(2.85m)を指標とし、機器の設置位置や浸水防止対策の状況から指標の何倍の高さの津波まで冷却設備が利用可能であるかを確認した。
安全確保対策以前は約1.6倍(4.65m)の高さまで海水に熱を逃がすための冷却設備が利用可能であったが、対策後は浸水防止対策、消防ポンプによる水源確保等により約4倍(11.4m)の津波高さまで冷却が可能であることを確認した。
3.3 地震と津波との重畳に関する評価
地震と津波が同時に発生することを想定して評価するもので、耐震裕度と許容津波高さの両方を考慮して評価した結果、1.80Ssの地震と、約4倍(11.4m)の津波までの範囲であれば冷却が可能であることを確認した。
3.4 全交流電源喪失に関する評価
安全確保対策以前は蓄電池が使用可能な約5時間原子炉の冷却が可能であったが、対策後は消防ポンプ等による水源確保や非常用電源装置による電源確保等により冷却が可能となり、発電所内に保有しているガソリン等で約16日間の冷却が可能であることを確認した。
3.5 最終ヒートシンクの喪失に関する評価
安全確保対策以前は蒸気発生器に供給できる水源が利用できる約6日間給水が可能であったが、対策後は消防ポンプよる水源確保や非常用電源装置による電源確保等により冷却設備が利用可能になり、発電所内に保有しているガソリン等で約16日間の冷却が可能であることを確認した。
なお、ヘリコプターによりガソリン等を発電所に空輸する準備も整えており、外部支援も考慮に入れると更に長期の冷却が可能である。
3.6 シビアアクシデント・マネジメントに関する評価
過去に整備したものや安全確保対策で整備することとした防護措置について、イベントツリーを用いたシナリオ分析等を行い、その有効性を確認した。
4.今後の予定
大飯発電所3号機について報告した一次評価の結果は、原子力安全・保安院において意見聴取会で専門家の意見や海外専門家から各国のストレステストの状況等を聴取したうえで、保安院としての評価を確定された後、原子力安全委員会に報告されることになっている。
関西電力大飯発電所3号機における安全性に関する総合評価について 浦田 茂,Shigeru URATA,西川 嘉人,Yoshito NISHIKAWA 関西電力大飯発電所3号機における安全性に関する総合評価について 浦田 茂,Shigeru URATA,西川 嘉人,Yoshito NISHIKAWA