原子力規制を巡る最近の動向について

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カテゴリ: 解説記事


 平成22年2月9日、経済産業省の審議会である総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会において、同部会のもとに設置された基本政策小委員会(委員長:村上陽一郎 東京理科大学大学院科学教育研究科研究科長)でとりまとめられた「原子力安全規制に関する課題の整理」等に基づき、取組を進めていますので、今回は関連する事項を中心に紹介します。
1.規格基準の体系的整備の促進について
(1) 課題の検討について
 前述の課題の整理において、規格基準の体系的整備を促進するため、保安院とその支援機関である原子力安全基盤機構(JNES)、学協会等の関係者のコンセンサスの下で、研究ロードマップを活用しつつ、今後の整備計画の明確化を行うとともに、規格基準整備におけるJNESの役割についても検討することが適当であると指摘されています。
 このため、整備計画等を策定するとともに、学協会企画の技術評価の計画的に実施できる体制を構築しました。
(2) 整備計画等の策定
 規制に活用する規制基準の体系的整備に当たっては、規制基準全体を俯瞰し、学協会が策定している規格基準(学協会規格)の策定計画を踏まえ、技術評価及びエンドースの計画を明らかにした上で、効率的に進める必要があります。このため、保安院とJNESが協力し、整備計画及び年度計画を策定し、原子力安全・保安部会原子力安全基盤小委員会等に報告することとしました。
①整備計画の策定
 規制基準に関する規制側のニーズを整理し、関係する学協会との調整・連携を強化するため、今後3年間に重点的に整備すべき規制基準を体系的に整理した「整備計画」を策定し、第12回原子力安全基盤小委員会に報告しました。
②年度計画の策定
 上記整備計画に基づき、年度ごとに技術評価及びエンドースを行う予定の学協会規格等を定めた「年度計画」を策定し、整備計画と同様に報告しました。
(3) 学協会規格の技術評価の計画的実施
①技術評価の体制強化
 学協会規格の技術評価については、これまで保安院とJNESが共同で行い、原子力安全・保安部会の下の関連する小委員会、ワーキンググループにおいて審議してきました。今後は、技術評価を適時的確に行うため、JNESが単独で技術評価を行う体制としました。
 JNESでは、技術評価を行うために必要な技術評価実施要領等の規程類を整備し、「規格基準評価委員会」を新たに設け、公開のもとで審議することとしています。
 JNESの技術評価については、技術基準省令の解釈案等を含め、原子炉小委員会等の関連する小委員会に報告の後、パブリックコメントを経ることとしています。
② 学協会との連携強化
 技術評価を効率的かつ効果的に実施するため、整備計画及び年度計画で技術評価を予定している学協会規格については、技術評価を行うことを念頭に置き、学協会での審議の過程で法令要件の適合性についても早い段階から確認することにします。また、技術評価の開始について、学協会規格が公衆審査を開始した段階から行い、規格発刊後すみやかに技術評価が終了できるようにしていく予定です。
(4) 学協会規格の技術評価の状況
 JNESでは、本年8月30日に第1回規格基準評価委員会を開催し、新しい体制での技術評価を開始しました。
 これまで日本電気協会「原子力発電所放射線遮へい規定(JEAC4615-2008)」の技術評価を行い、その結果については、12月3日に開催された原子炉安全小委員会に報告されています。今後、パブリックコメントを行う予定となっています。
2.原子力安全規制情報会議の開催結果について
 原子力安全規制をめぐる変化や一般社会の関心の高まりを踏まえ、規制活動の不断の見直しと、一般社会の理解と信頼感の醸成を図るため、公開の場で多様なステークホルダーと集中的に議論することを目的として、「原子力安全規制情報会議」を10月7日、8日に経済産業省で開催しました。
 松下忠洋経済産業副大臣の開会挨拶、班目春樹原子力安全委員長、Kristine L. Svinicki米国原子力規制委員会委員の基調講演等の後、プレナリーセッション、テクニカルセッション等が行われた会議には、2日間で、のべ1,665名の参加がありました。
 プレナリーセッションでは、これまでの保安院の取組状況を振り返るとともに、今後の保安院の進むべき方向を明らかにするための議論が行われました。
 テクニカルセッションとしては、安全規制活動に関する課題10テーマ(表1)について議論しました。パネリスト等として、原子力行政関係機関、地方自治体、国際機関、大学、電気事業者、メーカー、報道関係者などから51名が参加しました。
 また、保安院及びJNESの紹介を行うポスターセッション、保安院「緊急時対応センター(ERC)」の見学も行われました。
 今回の会議では、すべてのセッション等で配布された説明資料や採録映像及び議事録等について、「原子力安全・保安院ホームページ(http://www.nisa.meti.go.jp/koho/symposium/nisakaigi/index.html)」にて掲載しています。
表1 原子力安全規制情報会議テクニカルセッション
セッション1「原子力安全・保安院の更なる国際化と国際貢献について」
 原子力安全規制の国際活動に対するこれまでの保安院の取り組みを俯瞰するとともに、今後の協力のあり方、進め方について議論を行いました。
セッション2「リスク情報を活用した原子力安全規制について」
 リスク情報活用に係る保安院のこれまでの取組状況等を紹介した上で、今後の取組や国民の理解を深めるために留意すべき事項等について議論を行いました。
3.リスク情報活用検討会の再開について
 原子力の安全確保に係る「リスク情報」の活用については、平成16年にリスク情報活用検討会が原子力安全・保安部会の下に設置されて以来検討を行い、平成17年5月に「原子力安全規制への「リスク情報」活用の基本的考え方」として、原子力安全規制へのリスク情報活用の位置付け、リスク情報の特徴と活用の意義、さらにリスク情報活用に向けた取組みについてとりまとめています。
 これまでの原子力安全への「リスク情報」の活用事例としては、保安院では、JNESの支援を受け、安全重要度評価(SDP評価)において、検査指摘事項等についてリスクへの影響を考慮した安全重要度を評価(平成21年度試行中)しています。また、電気事業者の自主的な取組みとして、定期安全レビュー(PSR)において、運転開始以来行ってきた保安活動について、「リスク情報」を活用し、約10年ごとに定量的に評価するなどの取組みを進めています。さらに、日本原子力技術協会(JANTI)では、PSAパラメータの整備のため、原子力施設情報公開ライブラリー(NUCIA)のデータを活用して、国内一般故障率を公表する等の取組みを進めています。
 一方、基本政策小委員会が平成22年2月にとりまとめた「原子力安全規制に関する課題の整理」において、リスク情報の活用法策に関して、安全性又は規制の実効性の向上の観点から、諸外国の最新事例も参考にしつつ、リスク情報の活用法策について更なる検討を行うことが適当であるとしています。
 このような状況を踏まえ、「リスク情報活用検討会」(主査:山口彰大阪大学大学院教授)を本年9月に再開し、リスク情報の活用に関して、関係機関の取組状況を整理しています。今後は、「原子力安全規制への「リスク情報」活用の実施計画をとりまとめるとともに、リスク情報の更なる活用策について検討を行う予定としています。
4.その他
(1) IAEA安全基準の策定状況について
 IAEAでは、安全基準を策定していますが、本年9月30日~10月1日に第28回安全基準委員会(CSS)会合が開催され、5件の安全基準案(表3)の審議が行われ、発行が承認されました。
表2 当面の審議事項
表3 IAEA安全基準案の審議について
安全基準 概要
安全指針(DS396)「研究炉の安全評価と安全解析書の作成」 研究炉の許認可プロセスにかかわる組織の責任と役割、安全評価及び許認可の発行への段階並びに施設と活動の安全評価要件に関する推奨事項を提供するもの。
安全指針(DS410)「身元不明線源の管理回復と悪用されやすい線源の管理改善のための国の戦略」 身元不明線源の管理の回復と放射線源の管理の改善のための手順の確立を加盟国に推奨するもの。
安全指針(DS411)「金属リサイクル産業及び製造産業における身元不明線源と他の放射性物質 リサイクル金属及び金属製品に入り込んだ放射性物質に関連して、政府、国の規制機関、規制当局にIAEA安全原則と安全要件の適用について指針を提供するもの。
安全指針(DS417)「原子炉等施設の立地評価における水理学的及び気象学的災害」 最近得られた加盟国の洪水関連の知識と、IAEA安全レビューミッションでの経験を考慮して、立地選定及び立地評価の過程で考慮すべき水文学的・気象学的事象への対応について、設計ベースの決め方やそれらの外部事象への防護対策に関する推奨事項を提供するもの。
安全指針(DS424)「原子力発電計画のための安全基盤の確立」 原子力発電新規参入国に向け、国の原子力発電計画を開始するための準備において、IAEA安全基準に従って安全基盤を確立するための手引きを提供するもの。
また、新たに「原子力発電所の補助系の設計」、「原子力発電所の試運転」など6件の安全基準作成計画が審議され、承認されました。
(2) 原子力耐震・構造センターについて
 新潟工科大学、東京電力(株)、JNESは、平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震を契機に、産学官が連携した研究拠点として平成21年12月に、新潟工科大学に「原子力耐震・構造研究センター」を設置しました。 
同研究センターでは、原子力安全に係る耐震・構造分野の研究を実施するとともに、新規立地国等を対象とした耐震安全研修を行うなど、国際的な情報発信も進めているところです。
同研修センターの竣工を記念し、本年11月24日に竣工式、24日~26日にかけてJNESと国際原子力機関(IAEA)の主催により「第1回柏崎国際原子力耐震安全シンポジウム」が開催されました。また、地元市民を対象に市民公開講座も開催されました。
(平成22年12月9日)

原子力規制を巡る最近の動向について 大島 俊之,Toshiyuki OSHIMA
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