PWR炉内構造物点検評価ガイドラインの概要[原子炉容器炉内計装筒及びクラス1容器管台セーフエンド異材継手部]

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カテゴリ: 解説記事

1.緒言
平成21年8月に日本原子力技術協会よりPWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒]及び[クラス1容器 管台セーフエンド異材継手部]が発行された[1],[2]。それぞれのガイドラインの概要を紹介する。
原子炉容器炉内計装筒においては、同様の構造である原子炉容器蓋用管台において損傷が国内外で報告されている。また、クラス1容器の管台セーフエンド異材継手部においては、近年国内外で損傷事例が散見されている。そのため、それぞれ今後の発生が否定できない状況にあり、技術的合理性に基づいた点検手法の確立、損傷が認められた場合の健全性評価手法の確立が急務となっている。
本ガイドラインは、点検時期の制約が大きい当該部に対して、従来の点検技術の向上に加え、実施時期、頻度、検査方法、許容レベル、及び予防保全措置等について検討したものである。
なお、それぞれの部位の経年変化事象としては、国内外のプラントにおける損傷を参考にPWR一次系環境下に曝される箇所(原子炉容器炉内計装筒では、下部鏡との溶接部近傍の炉内計装筒内面及び下部鏡との溶接金属部(J溶接部)、クラス1容器の管台セーフエンド異材継手部では、異材継手部内面)に発生する応力腐食割れ(PWSCC)を想定している。材料としては、PWSCC感受性を有している600系Ni基溶接金属使用部位を対象としている。
2.ガイドラインの概要
2.1 原子炉容器炉内計装筒 
原子炉容器炉内計装筒のガイドラインの概要を纏めた点検・評価フローを図1、2に示す。


J溶接部(図2)は、現時点でき裂のサイジング技術が確立されていないことから、き裂が確認された場合の次回点検時期の設定ができないため、供用期間中検査のみ実施し、漏えいが検出された場合には、補修を行うこととする。予防保全(応力改善)の施工前確認で欠陥が検出された場合も同様の扱いとすることとしている。以下では、図1原子炉容器炉内計装筒母材内面の点検・評価フローの詳細を紹介する。
2.1.1点検
2.1.1.1点検手法
 点検手法としては、目視試験(VT)、渦流探傷試験(ECT)、超音波探傷試験(UT)としている。
2.1.1.2初回点検時期の考え方
 炉内計装筒母材内面においては、軸方向き裂が発生すると予測される時期(例えば、原子炉容器炉内計装筒ガイドラインの付録A-6評価例では約19万時間)を目処に初回点検を実施することとしている。
2.1.2欠陥検出
2.1.2.1き裂が検出されなかった場合
 軸方向き裂が発生したものと仮定し、そのSCCき裂進展予測を行い、き裂深さが板厚の75%に至ると予測される期間または構造健全性が確保できる期間のいずれか短い期間の1/2の期間を経過後の直近の定期検査にて次回点検を実施する。次回点検によりき裂が検出されなかった場合は、同じ点検間隔にて点検を継続する。図3に点検時期の考え方を示す。
2.1.2.2き裂が検出された場合
(1)継続運転可能な場合
 検出されたき裂に対してき裂進展予測を行い、き裂深さが板厚の75%に至ると予測される期間又は構造健全性が確保できる期間のいずれか短い期間の1/4の期間を経過後の直近の定期検査にて次回点検を実施する。図4に点検時期の考え方を示す。


(2)継続運転が不可能な場合
 SCCき裂進展予測及び破壊評価により構造健全性が確保されない場合は、補修または取替を行わなければならない。なお、補修または取替後はその仕様に基づき次回点検時期を決定することができることとしている。
2.2 クラス1容器管台セーフエンド異材継手部 
 クラス1容器 管台セーフエンド異材継手部のガイドラインの概要を纏めた点検・評価フローを図5に示す。以下に詳細を紹介する。
2.2.1点検
2.2.1.1点検手法
 点検手法としては、原則として、目視試験(VT)、渦流探傷試験(ECT)、または超音波探傷試験(UT)としている。
2.2.1.2初回点検時期の考え方
 初回点検時期の設定方法については、2.2.2.1項と同様に設定する。
2.2.2欠陥検出
2.2.2.1き裂が検出されなかった場合
 き裂が検出されなかった場合は、2.1.2.1項と同様に対応する。
2.2.2.2き裂が検出された場合
 き裂が検出された場合は、2.1.2.2項と同様に対応する。


3.予防保全または補修を行った場合の点検時期
3.1 原子炉容器炉内計装筒
 原子炉容器炉内計装筒の機能維持を確保するため、予防保全または補修を行う際に、PWR一次系環境下の600系Ni基合金使用部位が除去された場合(下記の(1)項)、または予防保全として工法の妥当性が確認された予防保全措置が施工された場合(下記の(2)、(3)、(4)項)には、耐PWSCC性が向上するため、個別点検(特定の構造物の特定の経年変化に対する評価を含めた点検)は不要となる。
 具体的な予防保全措置、補修として、以下を挙げている。
(1)原子炉容器炉内計装筒の取替
 健全性評価期間内に一部もしくは全数の原子炉容器炉内計装筒を取り替えることができる。
(2)内面切削補修工法
 原子炉容器炉内計装筒内面のき裂に対して、構造健全性の確保可能な深さまで内面を切削し、き裂を除去することができる。き裂除去後は、ウォータジェットピーニング等の応力改善工法を施工する。
(3)キャップ補修工法
 原子炉容器炉内計装筒内面のき裂に対して、原子炉容器下部外面に、SUS316製キャップを耐PWSCC性に優れた690系Ni基合金で取り付けることができる。
(4)ウォータジェットピーニング(WJP)またはレーザピーニング(LP)
 原子炉容器炉内計装筒の引張応力発生箇所にウォータジェットピーニングまたはレーザピーニング等を実施し、PWSCCの発生原因である引張応力を圧縮応力に改善することによってき裂発生を抑制することができる。
3.2クラス1容器 管台セーフエンド異材継手部 
管台セーフエンド異材継手部の機能維持を確保するため、予防保全措置もしくは補修を行う際に、PWR一次環境下の600系Ni基合金使用部位が除去された場合(下記の(1)、(2)項)、または、予防保全として工法の妥当性が確認された応力改善工法を施工した場合(下記の(3)、(4)項)には、耐PWSCC性が向上するため、個別点検(特定の構造物の特定の経年変化事象に対する評価を含めた点検)は不要となる。
具体的な予防保全措置としては、以下を挙げている。
(1)スプールピース取替
 管台の異材継手部を含むセーフエンド部を、耐PWSCC性に優れた690系Ni基溶接金属を使用したスプールピースと取り替えることができる。
(2)クラッディング
 管台セーフエンド異材継手部の内面に、耐PWSCC性に優れた690系Ni基溶接金属をクラッディング施工し、表面改質を図ることにより、き裂発生を抑制することができる。
(3)内面切削補修工法
 管台セーフエンド異材継手部内面のき裂に対して、構造健全性の確保可能な深さまで内面を切削し、き裂を除去することができる。き裂除去後は、ウォータジェットピーニング等の応力改善工法を施工する。
(4)応力改善工法
管台セーフエンド異材継手部に、ウォータジェットピーニング(WJP)、レーザピーニング(LP)、超音波ショットピーニング(USP)、レーザ外面照射応力改善工法(L-SIP)等を実施し、PWSCCの発生原因である引張応力を圧縮応力に改善することによってき裂発生を抑制することができる。
4.結言
本ガイドラインでは、原子炉容器炉内計装筒及びクラス1容器 管台セーフエンド異材継手部共に以下の考え方に基づき制定されている。
1)き裂に対して進展予測を行い、評価期間内にて継続運転可能とする。
2)予防保全または補修を行った場合は、個別点検は不要とする。
謝辞
 原子炉容器炉内計装筒及びクラス1容器 管台セーフエンド異材継手部のガイドライン検討会の委員の皆様、制定に携わった全ての関係者の皆様に深く感謝の意を表します。
参考文献
[1] 一般社団法人 日本原子力技術協会 PWR炉内構造物点検評価ガイドライン[原子炉容器炉内計装筒]
[2] 一般社団法人 日本原子力技術協会 PWR炉内構造物点検評価ガイドライン[クラス1容器 管台セーフエンド異材継手部]
(平成22年10月15日)
PWR炉内構造物点検評価ガイドラインの概要[原子炉容器炉内計装筒及びクラス1容器管台セーフエンド異材継手部] 吉田 有佑,Yusuke YOSHIDA
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