JSME維持規格及び原技協炉内構造物点検評価ガイドラインの適用例と課題
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1.まえがき
東海第二発電所(1978年11月営業運転開始)は、第21回定期事業者検査中の2005年(平成17年)5月、図1に示すシュラウドサポートシリンダ軸方向溶接継手(以下「V8」という)3箇所に応力腐食割れ(SCC)と推定される割れが確認され、(社)日本機械学会(以下JSME)の維持規格、及び(社)日本原子力技術協会(以下原技協)の炉内構造物点検評価ガイドライン(以下ガイドライン)を適用した評価により一定期間内の構造健全性を示し、割れを補修することなく継続使用し、3年、7年、10年経過後の最初の定期事業者検査において継続的な検査を行うこととしていた[1]。
今回、最初の継続的な検査の機会である第24回定期事業者検査において検査を行い、維持規格及びガイドラインを用いて評価を実施した。
その結果、JSME維持規格及びガイドラインの適用性が確認されたが、いくつかの規格基準上の課題も明らかになった。以下に適用例の内容について示す。
2.前回(2005年)の検査及び評価の概要
2005年の第21回定期事業者検査時の検査及び評価の詳細については文献[1]で発表しておりここでは繰り返さないが、大まかに言って、3箇所の割れはいずれもV8のニッケル基合金溶接金属(インコネル182)内で外表面から円筒の軸方向に入っていたものであり、長さは最大で約120mm(シュラウドサポートシリンダの軸長は約600mm)、深さは最大で板厚のおよそ2/3まで達していた。検査結果から推定される3箇所の割れのプロファイルをまとめて図2に示す。
これに対して、割れのなかった1箇所を含めV8の4箇所全てを溶接金属の幅及び長さで板厚方向に貫通したとして(つまりシュラウドサポートシリンダの溶接金属部分を全てくりぬいて)モデル化しても、破壊評価における崩壊荷重は割れのない場合に比べてほとんど変わらなかった(高々1~2%の低下)。このことは、JSME維持規格で炉心シュラウド等のSCCに対する個別検査、及びその基となった原技協ガイドラインにおいて、軸方向溶接継手を検査対象から除外した理由として構造強度にほとんど影響を及ぼさないためとした[2][3]ことの妥当性を改めて裏付けている。このように、軸方向割れだけを考慮する限り、評価上は無限の時間が経過したとして考えられる最大限の進展を考慮しても構造健全性には問題が生じない。
しかし、シュラウドサポートシリンダの直上には炉心シュラウドがあり、両者は水平方向溶接継手(以下「H7」という)で接合されている。H7の溶接残留応力分布を解析により評価したところ、図3に運転中の応力を加えて示したとおり、周方向応力(図3(a))は板厚全体にわたって引張であり、軸方向応力(図3(b))は図中右側の外表面付近では圧縮またはゼロに近いが内表面付近では引張側となっていた。このため、V8外面に見つかった割れがH7に進展するとしても軸方向であり、直ちに周方向に進展することは考えにくいが、V8内で板厚方向に進展して内面付近からH7に進展した場合、または外面からH7軸方向に進展した割れがH7内を板厚方向に進展して内面付近に到達した場合を考慮すると、H7内を周方向に進展することを否定できないと考えた。
このことから、当時の評価では、V8に溶接金属の幅で全長に直上のH7と直下の水平方向溶接継手(以下H10という)の幅を加えた長さで板厚を貫通する欠陥を軸方向進展の極限として考えたほかに、V8溶接金属の幅を持つ4箇所のスリット状の貫通欠陥のH7周方向への進展をも考慮した。周方向への進展速度については、JSME維持規格で与えられたニッケル基合金溶接金属のSCCき裂進展速度線図における応力拡大係数に依存しない最大速度である63mm/年を用いた。このように相当に保守的と考えられる評価を行った結果、許容限界に達するまでの期間が22.4年と評価された。破壊評価の概要を図4に示す。
3.今回の検査及び評価について
3.1概要
2009年(平成21年)9月、第24回定期事業者検査期間中の炉内構造物検査において、V8(近傍のH7を含む)の継続的な検査を実施したところ、V8内面及びH7内面に新たな割れを確認したため、範囲を拡大して検査を行った結果、合計40箇所の割れが確認されSCCと推定した。このため、法令及び技術基準解釈(き裂の解釈)[4]に基づき、維持規格及びガイドラインを適用して評価を実施した[5]。
H7の超音波探傷検査を全周について実施していないこと、及びH7上側溶接熱影響部において残留応力の状態から周方向のひび割れが発生する可能性を否定できないことから、周方向のひび割れを仮定して維持規格に基づき進展評価及び破壊評価を実施した。この結果、技術基準に適合しなくなると見込まれる時期は、評価時から45年経過時点であると評価された。
以上の評価結果から、補修等の措置は実施せず継続使用することとした。今後、き裂の解釈に従い、き裂等が存在する状態で使用する場合の点検を行う予定である。以下に検査結果及びき裂進展、破壊評価の詳細について説明する。
3.2検査結果
VTを行った結果、V8及びH7に17箇所の欠陥指示を確認した。指示はほとんどが溶接金属部に、H7では一部溶接金属部から溶接熱影響部にかけて観察された。欠陥指示の形状は、16箇所が軸方向、1箇所(ほう酸水注入配管サポート上部)が軸及び周方向であった。ここで、V8外面(180o)に確認された1箇所とH7内面(179.9o)に確認された1箇所のひび割れはつながっており合計で1箇所とした。
次にUTにより欠陥指示の深さ測定を実施した。その結果、新たに21箇所の欠陥指示が見つかり、第21回定検で見つかっていた3箇所を加え、合計40箇所の欠陥指示を確認した。
UT検査結果を表1に、またVT検査結果の代表例を図5に示す。V8の割れは長さ、深さともに大きくなり、一部は貫通していると見られるが、依然として軸方向の割れであるとともに、2005年当時の評価モデルで十分に包絡されている。
検査
部位 深さ 板厚 長さ
平均値 最大値 平均値 最大値
V8外面 45.3 63
(貫通) 63 105.7 171
V8内面 16.4 23.2 63 53.5 112
H7内面 15.2 50
(貫通) 50 29.3 171
H7の割れは今回新たに見つかったものであるが、ほとんど全てが概ね軸方向といってよく、2005年当時の評価で想定した周方向への進展は見られなかった。
3.3 進展評価
V8及びH7のひび割れの主方向は軸方向であるため、溶接残留応力の分布を考慮すると、ひび割れの進展はV8の溶接金属部及び熱影響部、並びにH7の溶接金属部及び熱影響部の範囲内に留まり、かつH7の溶接金属部においては周方向への進展は考えにくいと予測された。
一方、図6に軸方向応力分布を示すように、H7上側溶接止端部から上方に20mm離れた位置より上側においては、相対的に軸方向引張応力が支配的となることから、H7上側溶接止端部から上方に20mm離れた位置の応力分布(図7)を用いて、H7上側溶接熱影響部における周方向ひび割れがあると仮定して進展を予測した。初期欠陥の形状は、維持規格に基づき、深さ1mm、長さ10mmの半楕円形状とした。
図6 H7及びその近傍の軸方向残留応力分布
図7 進展評価位置における軸方向応力分布計算結果
図7の応力分布に基づき算出された応力拡大係数の分布を図8に示す。これと維持規格の低炭素ステンレス鋼に対するSCC進展速度線図を用いて進展解析を行った結果を図9に示す。これによれば、例えば今後30年間程度では進展は著しくなく、30年後に深さ6mm、長さ17mmに進展する程度であると評価された。
3.4 破壊評価
3.4.1 ひび割れのモデル化
炉心シュラウド及びシュラウドサポートの健全性評価を行うため、ひび割れのモデル化を行った。
V8には、全4本の継手に軸方向貫通のひび割れを想定した。ひび割れの上端はH7開先上端に溶接熱影響部(10mm)を加えた位置、下端はH10開先下端に溶接熱影響部(10mm)を加えた位置とし、ひび割れの幅はV8内面における開先幅とした。
H7には、確認されたひび割れの数から、ガイドラインの方法に従い算出した全周に想定されるひび割れの数(126個)を包絡するように全周1°ピッチで軸方向板厚貫通のスリット状にひび割れを想定した。
想定の貫通ひび割れ上端はH7開先上端に溶接熱影響部(10mm)を加えた位置、下端はシュラウドサポートシリンダ内面(インコネル82)肉盛下端に溶接熱影響部分(10mm)を加えた位置とした。
図10 破壊評価解析モデル
ほう酸注入配管サポートすみ肉溶接継手上側には、周方向すみ肉溶接長に溶接熱影響部(10mm)を加えた長さの周方向貫通のひび割れを想定した。
また、H7上側溶接熱影響部の周方向に仮定したひび割れについては、深さは3.3の進展評価結果に基づき想定年数によりパラメトリックに変化させることとし、周方向には保守的に全周としたリング状の欠陥としてモデル化した。
以上の考え方に従いひび割れをモデル化した解析モデルを図10に示す。
3.4.2. 破壊評価
破壊評価法については、維持規格に従い、3.4.1で述べた構造解析モデルを用いてシュラウドサポートの荷重-変位特性を有限要素法により解析し、得られた荷重変位曲線と弾性勾配の2倍の傾きの直線との交点を崩壊荷重とみなすいわゆる二倍勾配法を用いた。構造健全性の判断は、二倍勾配法によって得られた崩壊荷重がS2地震荷重の1.5倍以上(ただし、S2地震荷重がS1地震荷重以下となる場合は、S1地震荷重に基づき評価する)であれば健全性は確保されるとの判断基準による。
荷重条件を表2に示す。解析は、S1地震荷重、S2地震荷重の両方について実施し、より厳しい結果となるS2地震荷重に基づき評価を行った。
評価時から30年後の条件における二倍勾配法による評価結果を図11に示す。十分な裕度を有していることから、確認されたひび割れ及び仮定した周方向のひび割れが30年後の時点でも構造健全性に影響を及ぼすものではないことを確認した。
また、H7熱影響部に仮定した周方向リング状の欠陥の深さをパラメータとする解析結果を図12に示す。図中の小さい点のプロットが解析結果を、折れ線は解析結果の点を直線で結んだ結果を示す。これから、評価時から45年後に許容限界に達すると評価された。
4.今後の点検について
き裂の解釈の「き裂等が存在する状態で使用する場合」には、維持規格IA-2340(継続検査のプログラム)によらず、「原則として毎回の定期事業者検査時にき裂等が検出された箇所の点検を行うこと。ただし、3回の点検の結果、進展が観察されなかったき裂等については、隔回毎の定期事業者検査時の点検に移行して差し支えない。また、健全性評価の結果将来は進展が止まると予想されたき裂等については、至近の定期事業者検査において点検した後は、隔回毎の定期事業者検査時の点検に移行して差し支えない。」とある。
一方、今回V8及びH7で確認されたひび割れのほとんどは、軸方向のひび割れであり、構造強度上問題はなく、H7上側溶接熱影響部に仮定した周方向のひび割れが進展しても、今後45年間に亘り技術基準に適合することが確認できたことから、定期事業者検査毎の監視が必要なひび割れでないと判断できる。従って、き裂の解釈の点検に関する規定の後段に該当すると考え、これに基づき継続点検を設定した。
すなわち、V8及びH7について至近の定期事業者検査において点検した後は、隔回毎の定期事業者検査時の点検を行うこととした。
5.規格基準上の課題
今回のき裂解釈、維持規格及びガイドラインの適用を踏まえると、次のような規格基準上の課題が残されていると考える。
(1) 周方向溶接継手に生じた軸方向き裂の扱いの明確化
今回の事例を含めニッケル基合金溶接金属で生じたSCC事例では、溶接ビード方向に垂直な向きに割れが生じる場合がほとんどである[7]。これは溶接ビード方向の溶接残留応力が相対的に大きいためであると考えられる。V8のケースは例外であるが、これについてはシュラウドサポートシリンダの製造過程で加工による残留応力を生じたことで周方向応力が相対的に大きくなったためと推定している[1]。
維持規格、ガイドラインにおいては、軸方向溶接継手にき裂が生じても強度に及ぼす影響がごく小さいことから検査対象外としており扱いが明確であるが、今回のように周方向溶接継手に軸方向き裂が生じ、将来も周方向への進展が考えにくい場合の扱いについては特に定められていない。従って、次のような点を明確化できれば評価法の高度化の観点で利点があると考えられる。特に一様でない多軸応力場における軸方向き裂の進展挙動については、明確化のニーズが高いと考えられる。
・ き裂のモデル化における「軸方向」の判断基準
・ 周方向き裂進展への発展可能性の判断基準
(2) き裂解釈における継続点検規定の見直し
き裂解釈における継続点検規定は、き裂を残して継続使用する場合の知見が我が国であまり多くないことを踏まえ知見を拡充する意味で維持規格とは別に定められたと解される。ガイドラインの策定・改訂活動を行っている原技協の炉内構造物等点検評価ガイドライン検討会では、炉心シュラウドに割れを残したまま運転しているプラントのその後の割れの検査結果とガイドラインに基づく評価結果を比較する作業が行われている[6]。こうした活動を継続することは極めて重要である。今後、今回報告した本事例を含め継続使用の知見を反映するとともに、上記(1)で述べた研究開発的な検討の成果も反映して十分な根拠を示し、き裂解釈における継続点検規定の見直しを行うことも重要な課題であると考えられる。
参考文献
[1] Y. Arita, K. Dozaki, F. Manabe, S. Kanno, ICONE14-89345, July 2006, Miami, Florida, USA
[2] (社)日本機械学会 発電用原子力設備規格 維持規格2008年版, JSME S NA1-2008, 解説2-2-37
[3] 一般社団法人日本原子力技術協会 BWR炉内構造物等点検評価ガイドライン[シュラウドサポート](第3版), 平成20年6月, JANTI-VIP-04, p17解説2-3, 付録D及び付録E
[4] 発電用原子力設備における破壊を引き起こすき裂その他の欠陥の解釈について, 原子力安全・保安院,平成21・02・18原院第2号
[5] 堂崎浩二、山本幸司、山本祥司、片岡武司、伊東敬、東海第二発電所シュラウドサポート溶接部のひび割れへの維持規格及び炉内構造物等点検評価ガイドラインの適用について、日本保全学会第7回学術講演会要旨集 (平成22年7月), p33-38
[6] 末園暢一、島晃洋、伊東敬、炉内構造物等点検評価ガイドラインの適用実績について、日本保全学会第5回学術講演会要旨集 (平成20年7月), p540-543
[7] 独立行政法人 原子力安全基盤機構 平成17年度ニッケル基合金溶接金属の破壊評価手法に関する調査報告書p4-8
(平成22年11月10日)
JSME維持規格及び原技協炉内構造物点検評価ガイドラインの適用例と課題 堂﨑 浩二,Koji DOZAKI,山本 祥司,Shoji YAMAMOTO,山本 幸司,Koji YAMAMOTO,片岡 武司,Takeshi KATAOKA