長期停止後の高速増殖原型炉「もんじゅ」の試運転再開について
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1.はじめに
高速増殖原型炉「もんじゅ」は、平成7年12月の2次主冷却系ナトリウム漏えい事故以降、約14年半の長期にわたり停止状態であった。長期停止状態にある「もんじゅ」の試運転再開に向け、社会的な受容の確立、トラブル時の迅速な対応を含めた運転管理の向上、透明性の向上をはじめとした各種取り組みを行ってきた。保全の分野においては、ナトリウム漏えいに係る安全性の向上を目的とした改造工事、長期間停止しているプラントを再開するための設備の健全性確認、停止期間中の各種トラブル発生で顕在化した保守管理の問題を解決するための保全プログラムの導入などを行ってきた。
これらの活動により、平成22年5月6日には、14年半ぶりに試運転を再開し、再開後の第1段階の性能試験である炉心確認試験を7月22日までに、計画通り完了することができた。
2.高速増殖原型炉「もんじゅ」
2.1 「もんじゅ」とは
高速増殖原型炉「もんじゅ」(図1)は 、電気出力約28万kW、わが国初のナトリウム冷却の高速増殖炉発電プラントである。高速増殖炉は、燃料の増殖によるウラン利用効率の大幅な向上と放射性廃棄物中のマイナーアクチニドを燃料として再利用できることから、ウラン燃料を有効に利用できるとともに環境負荷を低減できる特長を有している。高速増殖炉開発において、「もんじゅ」は、高速増殖炉発電所の国内技術の確立のため、
1)起動・停止、連続運転による発電プラントとしての信頼性の実証
2)炉心特性、しゃへい特性、プラント特性などの設計手法の検証
3)運転・保守経験に基づくナトリウム取扱い技術や検査装置等の保全技術の確立
を主たる目的とし、設計、建設が行われた。
2.2 「もんじゅ」の経緯
「もんじゅ」は、昭和60年10月から福井県敦賀市に建設を開始、平成3年5月には機器据え付けを完了し、平成4年12月には性能試験を開始、平成6年4月に初臨界、平成7年8月に初送電を行った。性能試験期間中の平成7年12月、「もんじゅ」は、電気出力40%でのプラントトリップ試験を実施するために、熱出力を40%から45%へ出力上昇を行っていたところ、2次主冷却系Cループの中間熱交換器出口部の配管に設置されていた温度計のさやが破損し、2次主冷却系のナトリウムが漏えいする事故が発生した。
3.試運転再開への取り組み
3.1 事故対応における問題点
事故調査報告書[1]では、ナトリウム漏えい事故の原因、要因及び動力炉・核燃料開発事業団(当時)の事故対応における問題点として以下のようにまとめている。
・「発生」の段階においては、温度計の設計ミス及び関連する要因として「品質保証活動の不全」
・「拡大」の段階においては、漏えい規模の不適切な判断とその背景としての、「教育・訓練の問題」、「運転体制、技術支援体制の問題」及び「ナトリウム漏えい検知システム」の不備
・「対外対応」の段階においては、情報の不適切な取扱いと関連する要因として「事故時の情報の重要性に対する認識の欠如」
3.2 安全性向上の取り組み
ナトリウム漏えい事故の原因究明と対策、「もんじゅ」の安全性を再確認する安全性総点検[2]などを踏まえ、「もんじゅ」試運転再開に向け、数々の安全向上に取組んできた。
・安全性をより向上させるための取組として、改良型温度計への交換、ナトリウム漏えいの早期検知対策、漏えい量の抑制対策、漏えいの影響緩和対策などのナトリウム漏えい対策に対する設備改善及び機能確認、試運転経験等から摘出された設備改善工事等
・運転管理技術向上のための取組として、異常時運転手順書などの充実整備、「運転直に対するナトリウム漏えいに関する教育」や「階層別教育」などの充実・強化(図2)
・保守管理技術向上のための取組として、高速増殖炉の保全プログラムの策定(保全活動の実施体制や実施計画等を具体的に記載したプログラム)、他プラントトラブル事例の反映、蒸気発生器伝熱管等の健全性を確認する検査技術の開発
ここでは、以下に試運転再開に向けた保全活動について述べる。
4.試運転再開に向けての保全活動
4.1 ナトリウム漏えい対策工事
「空気雰囲気に設置されている設備からのナトリウム漏えいを早期に検出すること」、「ナトリウム漏えい量の抑制」、「空気供給の遮断、確実な消火により事故の拡大防止及び影響の緩和を図ること」を基本方針として改善を行った。
1) ナトリウム漏えいの早期検知
ナトリウム漏えいの早期検知に係る改善としては、空気雰囲気室における機器・配管の保温材の外へのナトリウム漏えいを早期かつ確実に検知するために、煙感知器と熱感知器を組み合わせたナトリウム漏えい検知システムを設置すると共に、同信号により換気空調設備を自動停止する。また、中央制御室内に火災情報、漏えい情報、プロセス情報、視覚情報を集約して表示できるように、総合漏えい監視システムを設置した。(図3)
2) ナトリウム漏えい量の抑制
ナトリウム漏えい量の抑制に係る改善としては、ナトリウムの漏えいを確認した場合、機器・配管に保有しているナトリウムの早期ドレンが行えるように、充填ドレン系配管の大口径化、ドレン弁の多重化、緊急ドレン一括スイッチの設置等を行った。
3) ナトリウム漏えいの影響緩和
ナトリウム漏えいの影響緩和に係る改善としては、2次主冷却系設備等エリアの区画化、窒素ガス注入設備の設置、壁・天井への断熱材の設置等を行った。
ナトリウム漏えい対策の設備改善については、平成17年3月3日から準備工事を開始し、平成19年5月23日に工事が完了した。改造設備が設計仕様を満足していることを確認するため、工事が完了した設備から順次「工事確認試験」行い、平成19年8月30日にすべて終了し、仕様を満足していることを確認した。
4.2 長期停止設備の健全性確認[3]
4.2.1 設備の状態
「もんじゅ」は、長期停止状態でも、全ての設備が運転を停止しているわけではなく、運転を継続している設備と停止している設備がある。「運転中設備」は、原子炉に燃料が装荷されていることから、原子炉の安全を確保する上で必要な設備であり、1次主冷却系設備、原子炉補機冷却水設備、常用/非常用電源設備、換気空調設備などが挙げられる。停止している設備には、「休止中設備」と「保管中設備」があり、「休止中設備」は、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス環境下にあり、プラント長期停止状態において劣化の進行が小さいと考えられる機器・設備である。「保管中設備」は、長期停止状態において設備維持のため、保管対策をしている設備である。水・蒸気系設備は、原子力及び火力プラントでの長期保管の実績を参考にして、分解保
管、乾燥空気保管、窒素ガス封入保管等、長期停止期間中の劣化防止対策を講じた。(表1)
4.2.2設備健全性確認計画
試運転再開に向け、長期間停止していたプラントを安全に試運転ができる状態とするため、設備の健全性確認を行った。設備健全性確認を実施するにあたり、設備健全性確認計画を策定した。同計画は、設備の状態に応じて、経年的な影響、ナトリウム系機器の特徴、プラント経験情報の反映及び設備の重要度を考慮している。また、設備点検による機器・設備レベルの健全性確認と改造工事確認試験、プラント確認試験による系統・プラントレベルの健全性確認に分けて計画を策定した。(表2)
計画策定時に考慮した劣化事象は、高速炉(FBR)の事例として、「常陽」高経年化評価[4]及び海外FBRの不具合事例、国内軽水炉のトラブル事例、「もんじゅ」安全総点検にて確認した事例である。
これらの知見を反映して、考慮すべき劣化事象を整理し、劣化事象毎に対象となる設備、その影響度、点検方針を策定した。
設備点検として、安全機能の重要度、保守管理上の重要度が高い設備については、分解点検などの点検を行う計画としている。ただし、ナトリウム系機器は、「常陽」の実績からも、使用環境が不活性ガスで覆われ、純度管理(酸素濃度を低く抑える)がなされたナトリウムでは、腐食はほとんど無視できることが確認されている。したがって、ナトリウム系機器は、バウンダリを開放しての点検は不要であり、外観点検、漏えい確認を主体とした点検計画とした。
4.2.3 機器・設備レベルの健全性確認
1) 停止中設備(休止中設備、保管中設備)
「休止中設備」は、据付が完了した時点と同様の状態、又は、燃料取扱設備のように燃料装荷後に点検、手入れ、組立てを行った上で管理された状態で停止している設備であり、本格点検あるいは動作確認により機器・設備単体の健全性を確認した。
「保管中設備」は、長期保管措置をしている水・蒸気系設備のようにポンプ、弁などは点検実施後に分解して保管しており、熱交換器、タンクなどは窒素ガス、乾燥空気などにより雰囲気管理を行い保管している。
分解保管機器・設備は、手入れを行った後組立・復旧を行なっている。
雰囲気管理を行っている機器・設備は、長期保管経験を有する原子力プラント、火力プラントの実績を参考にテストピースを設置し、テストピースの腐食状況を確認することで、保管中の経年的影響(腐食)の小さいことを定期的に確認した。
2) 運転中設備
運転中設備については、定期的な点検を実施してきており、停止中の設備と異なり、過去の点検データを比較の対象として使用できることから、点検を継続して実施し、機能・性能が維持されていることを確認した。また、更新時期に達している計算機等の設備については、更新を行った。
運転中設備の代表的な設備としては、非常用ディーゼル発電機設備、1次主冷却系循環ポンプなどが挙げられ、これら設備は、定期的な点検により性能を維持している。
3) 長期停止期間中における補修事例
経年的な影響による劣化の主たる事象は、配管の減肉及び計器の精度外れであり、それぞれ以下の措置を実施した。
① 減肉
・屋外環境の排気ダクト、原子炉補機冷却海水系配管及び屋外水・蒸気系配管の外面腐食減肉部位の交換
・原子炉補機冷却水熱交換器伝熱管の内面減肉伝熱管の施栓
・液体廃液処理設備のうち洗濯廃液処理系の配管(炭素鋼)において、減肉が認められた炭素鋼配管をステンレス鋼配管へ交換
② 計器の精度外れ
計器の校正を実施した結果、1次、2次ナトリウム系伝送器等の計器において計器単体の誤差が許容精度を外れていた。これら計器精度外となった計器(単体)については、計器精度内に調整しており、所定の機能を満足することを確認している。また、精度の維持できる期間が短い計器については、更新を進めている。
設備健全性確認計画に基づき、機器・設備レベルの健全性確認を行うため点検を実施し、一部補修を実施することにより、炉心確認試験に必要な全ての設備が健全であることを確認した。
なお、水・蒸気系設備、タービン・発電気設備等については、現在点検を進めており、40%プラント出力確認試験までに健全性を確認する。
4.2.4 系統・プラントレベルの健全性確認
プラント確認試験は、機器・設備単体での点検等を実施した後に、系統レベル又は複数の系統にまたがるプラントレベルの機能・性能について確認する試験である。原子炉を起動しない状態で、主にナトリウムを循環させた状態で試験を行った。
プラント確認試験では、以下の7つの安全機能に着目し、その機能を確認した。
① 制御棒駆動系機能確認試験など原子炉を安全・安定に制御する機能の確認
②1次主循環ポンプ運転試験、2次主循環ポンプ運転試験、運転中設備の性能確認など原子炉を冷却する機能の確認
③ 原子炉格納容器全体漏えい率試験など放射性物質の閉じ込め機能の確認
④ 燃料取扱設備運転試験など、燃料を安全に取り扱う機能の確認
⑤ 蒸気発生器伝熱管健全性確認試験など蒸気発生器の安全性及び安全を監視する機能の確認
⑥ ディーゼル発電機自動負荷確認試験など非常用電源設備の電源供給機能の確認
⑦ 放射線監視装置機能確認試験など放射線監視及び管理する機能の確認
なお、水・蒸気系設備の主要な機能確認試験は、試運転(40%出力プラント確認試験)が行えるプラント状態であることを確認するため、40%出力プラント確認試験前までに水・蒸気系設備を運転して系統レベル及びプラントの機能・性能を確認する。
4.3 保全プログラムに基づく保全活動
4.3.1 保全プログラムの策定と実施
設備健全性確認の実施途上において不適切な保守管理に起因する屋外排気ダクトの腐食孔やナトリウム漏えい検出器の誤警報が発生した。このため、同様なトラブルが生じないよう、確実な保守管理を行うため、「予防保全」を基本として、設備毎に点検頻度、内容を定めた点検計画に基づく保守管理を、平成21年1月から開始した。
平成21年1月、「常陽」の運転・保守経験、海外FBR・国内軽水炉の運転経験及びトラブル事例等の知見を基に「もんじゅ」の運転・保守実績を考慮し、社内基準及びメーカ基準に基づき、予防保全を基本とした建設段階における保全プログラム(第1段階として炉心確認試験終了までの保全プログラム)を策定した。「もんじゅ」の保全プログラムは軽水炉と同様に「原子力発電所の保守管理規定」(JEAC 4209-2007)[5]の要求事項に基づき、「原子力発電所の保守管理指針」(JEAG 4210-2007)[6]を参考に策定した。
平成21年1月に策定した「もんじゅ」保全プログラムに基づく保全計画の策定、保全の実施、保守管理指標の監視、保全及び保守管理の有効性評価等の保全活動のPDCAを実施し、保守管理の継続的改善を図っている。(図6)
4.3.2 保全プログラムの今後の展開
「もんじゅ」は、性能試験途上の建設段階であること、またわが国初のナトリウム冷却高速増殖発電プラントであることから、国内に多数の運転・保守経験を有する軽水炉と異なり、これまでの保守に関する知見が乏しく、また、高経年化評価に基づく経年劣化メカニズムをまとめた原子力学会標準の、「原子力発電所の高経年化対策実施基準」[7]も原子炉、ナトリウム系、燃料取扱設備などの「もんじゅ」特有設備についてそのまま適用することは困難である。
今後実施する40%出力プラント確認試験、定格出力でのプラント特性を確認する出力上昇試験までの保全及び運転経験を反映し、継続的な保守管理の改善を図る。また、軽水炉と同様に信頼性重視の保守管理手法を確立するため、冷却材に沸点の高いナトリウムを使用し、低圧での運転を行っていること、構造材料に高温特性・延性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼を用いていることから、破断前漏えい(Leak Before Break、LBB)が成立する特徴を生かし、「もんじゅ」特有設備について、設備毎に要求される機能、劣化事象、その保全手法についてまとめていく。
5.終わりに
「もんじゅ」は14年5ヶ月間の長期停止後、平成22年5月6日に試運転を再開し、試運転再開後の性能試験の第1ステップである炉心確認試験を計画通り、7月22日に完了した。炉心確認試験においては、原子炉及びナトリウム系統設備を安全に起動・運転し、14年前の燃料と新しく製造した燃料で、予測通り原子炉を臨界にすることができた。
炉心確認試験中にも不具合が発生したが、これらはプラントを運転することにより発生した不具合、停止時とは異なる状態で発生した不具合や警報の発報、経年劣化に起因する不具合等である。 いずれも原子炉施設の安全確保の観点から問題となる事象ではなかった。現在、保守管理を一層向上する観点から、炉心確認試験で使用した原子炉及びナトリウム系等の設備の点検、40%出力確認試験に向け健全性確認を進めている水・蒸気及びタービン系の点検及び機能確認により不具合を確実に摘出し対応するとともに、経年劣化にも留意し、確実な保全の実施に向けて取り組んでいる。
今後実施する、性能試験、本格運転を通じ、ナトリウム冷却高速増殖発電プラントの信頼性を実証するとともに、運転経験を通じたナトリウム取扱技術、プラント保全技術を確立する。
参考文献
[1] 例えば 、経済産業省原子力安全・保安院「高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えい事故の報告について」(平成8年5月23日)
[2] 例えば、日本原子力研究開発機構「「もんじゅ」の安全総点検報告」(平成10年5月)
[3] 仲井他「もんじゅ」の運転再開に向けた設備健全性確認と保全プログラム ?第6回保全学会学術講演会-
[4] 礒崎他「高速実験炉「常陽」の定期的な評価-高経年化に関する評価-」日本原子力研究開発機構 公開資料
[5] 日本電気協会「原子力発電所の保守管理規定」(JEAC 4209-2007)
[6] 日本電気協会「原子力発電所の保守管理指針」(JEAG 4210-2007)
[7] 日本原子力学会標準「原子力発電所の高経年化対策実施基準2008」
(平成22年11月8日)
長期停止後の高速増殖原型炉「もんじゅ」の試運転再開について 仲井 悟,Satoru NAKAI,金子 義久,Yoshihisa KANEKO,向 和夫,Kazuo MUKAI