国際原子力機関(IAEA)による女川原子力発電所耐震調査

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カテゴリ: 解説記事

1.はじめに
当社は、平成24年7月30日から8月9日にかけて、女川原子力発電所において国際原子力機関(以下、「IAEA」という。)による調査を受け入れた。調査直後の8月10日には、IAEA調査団より「驚くほど損傷を受けていない」との調査結果が速報として公表されていたが、平成25年4月には詳細な最終報告書がIAEAのホームページに公開され、「女川原子力発電所は、地震動の大きさ、震源からの距離、継続時間などの厳しい状況下でも、構造物、系統及び機器は大きな損傷を受けず、要求された機能を発揮した。この結果は、耐震設計された設備が過酷な地震の揺れに対しても頑健性があることを証明している。女川原子力発電所の施設は、地震の規模、揺れの大きさ、長い継続時間にかかわらず“驚くほど損傷を受けていない”」(当社参考訳。以下同様)との調査結果が示された。
そこで本稿では本調査の目的と実施概要および最終報告書の概要を紹介する。
2.調査目的
本調査は、東日本大震災で震源に最も近く非常に大きい揺れと津波に襲われながらも安全に停止した女川原子力発電所において、地震と津波が設備に及ぼした影響等を調査し、データベースを構築することを目的に、日本政府とIAEAの合意に基づき実施された。このデータベースはIAEA加盟各国の原子力発電所の安全を一層高めることに寄与するものである。
3.調査概要
3.1 日程
現地調査は平成24年7月30日から8月9日にかけて実施された。また、現地調査終了後の8月10日、IAEA調査団は東京にて記者会見を行い、調査結果の速報を公表した。
なお、調査3日目には女川町中心部の被災状況を視察すると共に女川町慰霊碑を訪れ、調査団一同で黙祷を捧げた。
3.2 対象
女川原子力発電所1、2、3号機、全3基を対象に、調査団が要望する施設、設備は全て現地調査の対象となった。具体的には各号機、各建屋の構造物、系統および機器に加え、固体廃棄物貯蔵所や排気筒、開閉所、屋外タンク、港湾施設、大容量電源装置、免震構造を有する事務所等についても詳細な調査が行われた(表1)。
表1 調査日程および調査対象
月 日 内容(調査対象)
7月30日 開始会議(図1)、概要説明
7月31日 1、2号中央制御室、2号原子炉建屋、港湾、運転員インタビュー
8月1日 大容量電源装置、1号原子炉建屋、運転員インタビュー、女川町中心部
8月2日 2号原子炉建屋、2号タービン建屋、2号取水路、3号原子炉建屋、被災者インタビュー
8月3日 2号原子炉建屋、3号原子炉建屋、2、3号排気筒
8月6日 1号原子炉建屋、1号タービン建屋、固体廃棄物貯蔵所、事務新館、ヤード、2号排気ダクト
8月7日 1号タービン建屋、2号原子炉建屋、2号タービン建屋、3号中央制御室、3号開閉所、被災者・前所長・所長インタビュー
8月8日 3号原子炉建屋、3号タービン建屋、港湾、訓練センター、運転員インタビュー
8月9日 終了会議
8月10日 記者会見(東京)

図1 開始会議
3.3 調査団
調査団はスジット・サマダーIAEA耐震安全センター長を団長に、IAEA、米国原子力規制委員会(NRC)、フランス放射線防護原子力安全研究所(IRSN)を始めとする官民の専門家総勢20名で構成された。
3.4 調査方法
調査初日、当社より震災時および震災後の発電所状況に関するブリーフィングを実施した。この情報を元に調査団はストラクチャーチーム(土木建築関係)、システムチーム(機械電気関係)、インタビューチーム(主に運転関係)に分けられ、地震観測記録や被害状況、建屋健全性評価結果、震災後の点検状況、津波に係る検討・評価等について、現地調査、技術情報打合せおよび発電所員へのインタビューを実施した。
震災直後、津波により住居を失った近隣住民ら360人以上が、安全な場所を求めて発電所へ向かった。調査団は、人道的な見地から避難住民の受け入れを決断した当時の女川原子力発電所長や、発電所へ避難した地元の区長に対してもインタビューを実施した。
4.最終報告書の概要
4.1 構造物の評価
ストラクチャーチームは、構造物の性能を評価するため、現地調査と技術情報確認を行った。主に支持構造物の取り付けられている埋込金物と埋め込まれている躯体、アンカー部、特に構造要素との接続部を観察し、荷重方向に沿った損傷の有無を確認することに焦点が当てられた。また、防潮堤についても調査を行った。ストラクチャーチームの所見は次のとおり。
? 安全に関わる建物(Sクラス)の構造物は、女川の全3基で非常に良い性能を示した。施設の中では壁に小さなクラックが観察されたが、全体の構造健全性を損なうものは一つもなかった。チームによる安全に関わる全ての建物の調査において、構造上の性能劣化につながる重大な損傷は全く見られなかった。
? 安全に関わる建物に比べてより低い構造性能要求のもとに設計されたタービン建屋(Bクラス)の上層階の壁に、鉄骨トラス構造の変形に伴うクラックが見られた。非安全系構造物としての設計であることに加えて、地震による地盤と建屋の揺れが非常に大きかったことを考慮すると、こうした観察結果は構造要素の性能として想定範囲内である。2、3号機のタービン建屋において、建設工事用に設置したトラス構造の最下部を接合していたボルトがせん断したが(当該トラスは建設工事中の荷重を支えるために設置されたものであるため)、運転開始後の構造安定性を損なうものではなかった。
? 1号機計画当時、過去の記録等から想定津波高さを約3mとしたが、専門家による議論を踏まえ敷地高さは余裕を考慮し14.8mとした。2号機計画時には、日本で初めて869年貞観津波に関する古地震学的調査を実施し、その知見を踏まえた数値シミュレーションの結果、津波高さを9.1mと評価するとともに敷地前面の法面を補強した。2002年、土木学会手法に基づき想定津波高さを13.6mと評価し、敷地の安全性を確認した。この値は、東日本大震災時に(震災1年前に設置した潮位計により)観測された津波高さ13.0mと同程度の高さであった。ストラクチャーチームは敷地海側の法面とその補強構造での損傷や沈下、機能不全が無いことを確認した(図2)。
? ストラクチャーチームは、今回の大地震における地震動の大きさと長さにも関わらず、発電所の構造物は驚くほど損傷がなかったと結論付けた。

図2 防潮堤調査

4.2 発電所員へのインタビュー
運転員に対するインタビューにより、地震時および地震後のプラント状態、運転操作がレビューされ、地震後、全3基が冷温停止に至る過程がまとめられた(図3)。また、耐震設計担当者に対するインタビューにより、建設時の設計基準、耐震バックチェック、耐震裕度向上工事の内容について調査が行われた。
地震時及び地震後の状況については、以下のとおり報告されている。
? 地震は全号機の安全な停止に影響を与えたり、重要な安全系統に損傷を発生させたりすることはなかった。必要とされた安全系統は設計どおり動作し、非常用ディーゼル発電機は炉心冷却と冷温停止状態到達に必要な電力をプラントに供給した。1号機だけが非常用ディーゼル発電機を必要とした。2、3号機では外部電源1回線が利用可能であった。
? プラント自体が海抜約15mにあったため、プラントの主要な影響は、津波によって直接引き起こされたわけではなかったが、津波による海水ピットの浸水に伴い、幾つかのプラント系統が影響を受けた。
? 浸水は2号機原子炉建屋補助エリア地下階のRCW(原子炉補機冷却水系)熱交換器室、HPCW(高圧炉心スプレイ補機冷却水系)熱交換器室で発生した。浸水によりRCW/RSW(原子炉補機冷却海水系)のB系、HPCS/HPSW(高圧炉心スプレイ補機冷却海水系)でポンプが停止した。
? 津波で2号機RCW(B)系およびHPCWが喪失したことにより、待機状態で起動していた非常用ディーゼル発電機3台中2台への冷却水が断たれた。2号機は外部送電網より電源供給を受け続けていたので、非常用ディーゼル発電機2台の喪失で原子炉停止が遅れることはなかった。
? 海水取水口の超音波水位計からの浸水が、2、3号機の主復水器循環水ポンプの停止用センサーを地絡させた。タービン補機冷却海水系ポンプ3台が設置されている3号機海水ピットでも浸水した。1号機起動変圧器の停止により、1号機主復水器循環水ポンプが停止した。それゆえ主復水器の運転は喪失したが、主復水器は地震の様な事象後の停止には使用されない。
? 高圧電源盤で短絡が発生し、1号機への外部電源供給停止となる過電流サージが発生した。しかし1号機の2基の非常用ディーゼル発電機が、タービン発電機トリップで自動起動し、非常用交流電源を供給した。

図3 運転員インタビュー
4.3 設備の評価
システムチームにより、地震と津波の発生時およびその後の安全上重要な機能を維持するシステムの健全性に関する情報が収集され、臨界制御、炉心の熱除去、二次的な熱除去、そして格納容器の健全性に係る重要な安全機能に分類される安全系についてレビューが行われた。また、非安全系についても、B、Cクラスの耐震能力をより理解するために、更にはSクラスの性能との比較のために、レビューが行われた。システムチームによる所見は、以下のとおり報告されている(表2)。
? 地震の際、制御棒は要求どおり挿入され、3基すべてが臨界制御の安全機能を満足しながら停止した。地震発生時、2号機はちょうど再起動を開始したところであった(訳注1参照)。1号機および3号機の炉心冷却は、原子炉隔離時冷却系および主蒸気逃がし安全弁による減圧によってなされ、残留熱除去系により冷温停止に至った。それゆえ、炉心冷却と二次的な熱除去の重要な安全機能は1、3号機で確保された。格納容器の健全性に影響はなかった。これまでの格納容器の点検では、構造上の損傷は確認されていない。このうち、2、3号機ベローズシールの外観点検においても損傷は確認されていない(図4)。
[訳注1]炉水温度は約78℃であり速やかに冷温停止を確認した。
? いずれの号機においても地震によって冷却材喪失事故は起こらなかったため、非常用炉心冷却系は必要とされなかった。高圧および低圧炉心注水系の地震後機能試験は、冷温停止状態のプラント状況において可能な範囲で実施され、具体的には要求どおりポンプの起動とバルブの開閉が可能であり、機能喪失は報告されなかった。

図4 現地調査(2号原子炉格納容器)

図 5 浸水調査(2号原子炉補機冷却水系熱交換器室)
? 1・2号と3号の中央制御室とそこに設置してある計測制御設備の耐震性能についても確認した。全号機において安全に関する計測制御機能の喪失はなかった旨の報告を受けた。それぞれの制御室において、いくつかの照明カバーが天井から落ちたことが報告された。中央制御盤の確認が行われ、内部の機器が確実に取り付けられ、制御盤もきちんと設置されていたとの総合的な結果を得た。
? Bクラスのタービン建屋に設置されている主蒸気止め弁はタービンバイパス弁と同様に、必要な機能を果たした。確認の結果、タービン停止に必要な機器は、構造上厳しい条件にはならず、操作性を維持していた。2、3号のタービンでは、動翼と中間軸受の支持構造物、ベースプレートに地震による損傷が確認された。1号タービンは未点検であるため、これまでのところ損傷は報告されていない。
? 発電所員により確認された61項目の機器損傷や機能低下についても確認した。最も重要な事象は、地震によって1号機で発生した電源盤の火災と、津波によって2号機で発生した原子炉補機冷却水系B系での浸水であった(図5)。浸水は、水密扉からの漏えいと他の浸水経路の存在によって、当該の部屋から隣接したエリアに浸水が広がったことにより、高圧炉心スプレイ補機冷却水系の機能喪失を引き起こし、さらに原子炉補機冷却水系A系も脅かした。これにより、発電所の最終ヒートシンク機能を危うくした。津波は非安全系である3号機のタービン補機冷却海水系の浸水も引き起こした。
? 発電所の電気設備についても確認を行った。地震または津波により外部電源5回線のうち4回線が喪失した。発電所では、号機間のタイラインが相互に接続されており、地震直後から外部電源は喪失しなかった。しかし、高圧電源盤の短絡に伴う過電流により1号機の起動変圧器が停止したため、1号機では直接的な外部電源が喪失した。全ての非常用ディーゼル発電機が起動または待機状態となり、うち1号機だけが非常用電源の供給を必要とした。地震があったにも関わらず全ての非常用ディーゼル発電機が起動したという事実は非常にポジティブな発見である。水タンク、軽油タンク、およびこれらタンクに関連する配管(訳注2参照)に損傷はなかった。
[訳注2]水あるいは軽油を移送するための配管。
? Cクラスの消火設備についても確認した。1号機軽油タンクにつながる埋設消火配管の部分で唯一の損傷(訳注3参照)が確認された。他の全ての地下の配管・ケーブルは、コンクリート製のトレンチの中に設置されていた。全ての安全系の配管とケーブル用トレンチに、損傷や破損は発生していなかった。いくつかの非安全系のケーブルトレンチで変位が確認された。このように、非常冷却用の水源は必要があれば使用することができた。
[訳注3]建屋周りの埋戻し土の地震に伴う沈下による配管破断。消火系の圧力は維持されており、仮に消火活動が必要になっても支障無し。
? 使用済燃料プール冷却系についても確認を実施した。プール水の揺動によりリミットスイッチまたはポンプの圧力センサーの動作によって使用済燃料冷却ポンプが全号機で停止した。全てのプールで揺動により数リットルのプール水が限定的に喪失した。使用済燃料プールの健全性は維持された。3号機でプールのゲート留め具が傾いたが、機能は維持された。
? 1号機の原子炉開放を妨げた、1号機の原子炉建屋天井クレーンの軸受損傷が報告された。燃料交換機には軽微な損傷があった(計測制御装置の損傷であり、システムリセットとレールに沿ったスライドによって復旧した)。3号機の燃料交換機ではケーブルキャタピラの部分的な移動が報告されたが、電気接続部の損傷はなかった。
? 3号機炉心から取り出された燃料チャンネルの部分的な欠けが報告され確認した。正確な原因は確定していないが、地震に起因するものではない。いずれの原子炉においても、地震による燃料リークはないことを確認している。
? プラントの安全系が地震時も地震後も機能維持に成功したと総括的に評価した。プラントの非安全系および耐震クラスの低い系統についても、設計に十分な裕度があることが示され、通常のプラント停止のために機能した。チームの所見では、地震よりも津波がプラントへ大きなダメージを与え、2号機の標準的な停止時冷却系の機能低下を引き起こした。地震による最も顕著な損傷は2、3号機のタービンで確認されたが、それらは非安全系の設備であり、より低い耐震基準で設計されている。

図6 現地調査(1号原子炉建屋)
表2 損傷・機能喪失事例(地震によるもの)
損傷や機能喪失の原因 事象数 耐震
クラス IAEAコメント
主蒸気逃がし安全弁位置スイッチのずれ 1 S 地震動によると思われる位置スイッチのずれにより、1号制御室で閉表示であるべきところ、中間開度表示。排気配管温度、原子炉圧力容器圧力から弁の閉状態を確認。
ゲート留め具*の傾き 2 S 3号原子炉建屋使用済燃料プールでゲート留め具に傾き。漏えいや留め具の損傷無し。
* :ウェル水張り、水抜き時などプールゲート前後の水位差が少ない時期のゲートシール漏えい量を抑える為の留め具。使用済燃料プール満水・ウェル水抜き状態では、必要なし。
地絡(直流125V回路) 8 S 津波による海水接触、または1号火災の二次的な影響によるケーブル絶縁の焼損が原因。
翼摩耗、中間軸受損傷(2、3号蒸気タービン) 5 B 動翼とノズル・ダイアフラムの摩耗、タービン中間軸受(スラスト軸受)、ソールプレート、ボルトの塑性変形。
シャフト軸受、運転席フレーム損傷(天井クレーン) 3 B 1、2号原子炉建屋天井クレーン運転席鋼製フレームひび割れ。補強策を検討中。
1号原子炉建屋天井クレーン駆動シャフト軸受で損傷確認。
ケーブル収納キャタピラ移動(燃料交換機) 1 B 3号燃料交換機のケーブル保持キャタピラの移動は地震による。
避圧弁動作(主変圧器) 3* C 全3基の変圧器で、変圧器タンク内絶縁油の揺動によって避圧弁が設計どおりに動作した。
* :3.11地震
**:4.7余震
3**
同(起動変圧器) 2*
1**
同(所内変圧器) 1*
3**
同(補助ボイラー用変圧器) 1*
同(励磁電源変圧器) 1**
変圧器放熱器のリーク(起動変圧器) 1 C 地震時の変圧器放熱器からのリークは一般的。これまでも放熱器重量を支えるフランジ部で発生することが知られている。
部分的な焼損(避雷器) 2 C 275kV超高圧送電線牡鹿幹線開閉所の2つの避雷器で揺れにより部分的に焼損。(震災翌日、使用に耐えることを確認し復電)
過電流焼損(懸垂型高圧しゃ断器損傷) 1 C 地震により同型の高圧しゃ断器での発生が懸念されていた事象。次回定検での交換を計画中。
ヒューズ焼損
(120V交流回路) 1 C 1号常用制御盤で、120ボルト交流電源回路ヒューズ焼損。火災の影響の可能性有り。
設備の転倒(CRT、地上操作装置) 2 C 固定されていない設備の転倒は2例のみ。
指示不良(燃料交換フロア放射線監視システム) 1 C 3号主制御盤記録計指示不良。制御系への直接的な揺れによる唯一の損傷事例。(監視機能は正常)
ラッチの曲がり、プラグの移動 5 C (2、3号原子炉熱遮へい壁点検扉および2号格納容器生体遮へいプラグの)ロックおよびラッチ機構の曲がりは強い揺れの証し。
埋設配管損傷(消火配管) 1 C 1号埋設消火配管の一部で配管損傷を確認。(消火系の圧力は維持されており、消火活動に支障無し)
(制御棒駆動機構落下)事故時に落下量を制限する支持装置のずれ 3 C 地震により制御棒駆動機構下の支持装置にずれ。機能は維持。
揺動によるトリップ 3 B 揺動で燃料プール冷却浄化系ポンプがトリップ。運転員は温度監視により十分時間余裕を持ってポンプを再起動。
その他 7 C (港湾部および構外の)幾つかの放射線モニターが(津波による浸水あるいは設備の流失により)信号を失った。
※ 括弧内は訳注
4.4 結論
今回の調査の目的は地震経験に関するデータ収集であったため、結論を出すことは調査団にとって必須ではないものの、調査団メンバーの報告を踏まえ、以下の結論が導き出された。
? 「女川原子力発電所は、地震動の大きさ、震源からの距離、継続時間などの厳しい状況下でも、構造物、系統及び機器は大きな損傷を受けず、要求された機能を発揮した。この結果は、耐震設計された設備が過酷な地震の揺れに対しても頑健性があることを証明している。女川原子力発電所の施設は、地震の規模、揺れの大きさ、長い継続時間にかかわらず“驚くほど損傷を受けていない”」と結論づけた。
? 女川原子力発電所の全3基の原子炉建屋で集められた計器データによれば、2011年3月11日時点の耐震設計基準をわずかに、あるいはある程度超過したことを示している。発電所設備に加えられた動的なエネルギーを指標として用いると、計器記録から、相当量のエネルギーを持つ揺れが発電所設備に加えられたことが分かる。しかし、残留熱除去系の1系統を使用不能にした津波による幾つかの事象にも関わらず、全3基を(冷温)停止させることに成功した。
? 耐震Sクラスの建屋で観察された損傷は、原子炉建屋で記録されたように、耐震設計基準をある程度超過したことと符合する。すなわち現在の設計基準は、少なくともマグニチュード(地震のエネルギー)に関して、東日本大震災と同程度の潜在的な地震と整合している。しかしながら、この地域での予測される津波は、より小さなマグニチュードの、同じ沈み込み帯に沿った地震により検討されてきた。
? この頑健さが日本における耐震設計手法の結果として得られたものであったか、先の地震の後に東北電力が積み重ねてきた設備の耐震性向上によって得られたものであったか、もともとの設計基準であったかどうかについて検証することは、価値があるだろう。この情報が検証された際は、日本の他の原子力発電所の頑健性向上にあたって非常に有益なものになるであろう。

4.5 推奨事項
報告書では、以下の3点を推奨事項として示している。
? 東北電力は既にひび割れ位置図作成を構造物に対して実施している。大きな地震と同様に、余震は相当な期間起こり続ける。今後の地震に伴うひび割れの進展が、構造要素の構造健全性を損なっていくものでないことを「IAEA安全報告66:地震への準備と対応」で言及されているような、ひび割れ位置図作成により確認するため、東北電力がその計画を継続的に実行していくことを推奨する。
? 構造物、系統および機器への損傷が耐震Sクラス建屋よりも多い耐震B、Cクラスの建屋に対し、これらの建屋に設置された設備の地震性能を確認するために、構造物の応答スペクトルを評価することは有益となろう。
? IAEAのデータベースを完成させ、女川原子力発電所が成功事例となった根拠を証明するためにも、フォローアップ調査が必要である。
5.おわりに
女川原子力発電所では、現在、震災後の設備復旧工事のほか、耐震裕度向上工事やさらなる安全性向上対策に取り組んでいるところである。今回、IAEAのデータベース構築に寄与し、さらにはIAEA加盟国の安全向上に貢献できたことは、原子力発電所を保有する当社にとっても意義があったと考えている。今後も継続して安全性向上対策に取り組んで参りたい。
参考文献
[1] IAEA, “IAEA mission to Onagawa nuclear power station to examine the performance of systems, structures and components following the great east Japanese earthquake and tsunami”, Vienna, 2012.
(平成25年5月27日)
 著者紹介 
国際原子力機関(IAEA)による女川原子力発電所耐震調査 若林 利明,Toshiaki WAKABAYASHI 国際原子力機関(IAEA)による女川原子力発電所耐震調査 若林 利明,Toshiaki WAKABAYASHI
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