原子力機構による廃止措置と環境回復への取り組み-福島研究開発部門成果報告会から-

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カテゴリ: 解説記事
1. はじめに 2011 年 3 月の東京電力福島第一原子力発電所の事故に 対し、 我が国で唯一の原子力に関する総合的な研究開発機 関である国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (以 下、 「原子力機構」 という。) は、 事故対応の取組みを強化・ 推進するため、 理事長を本部長とする福島技術本部を設置 し、 原子力機構の総力を結集して、 事故対応や放射性物質 による環境汚染対策のための活動を進めてまいりました。 平 成 26 年度からは、 機構改革の一環として福島研究開発部 門に改組し、 廃止措置や環境回復のための研究開発などを 一元的に管理する組織としました。 また、 原子力機構では、 事故から 3 年半余りが過ぎ、 福 島における現実の課題を適確に把握し、 その解決に向け て、 具体的に貢献できる研究開発を、 原子力機構の総力を あげて取り組むために、 部門の活動方針を示したグランドデ ザイン (総合戦略) を策定しました。 このグランドデザイン は、 状況の変化等を踏まえ柔軟に見直していくこととしており ます。さらに、 原子力機構が福島地区で行う諸活動のより効果的 な推進を図るとともに、 茨城地区及び今後整備される各施設 との連携の利便性等を勘案し、 今年 4 月に福島研究開発部 門の事務機能をいわき市に移転しました。 これを機会に、 今年 2 月 12 日、 福島県いわき市内で、 原子力機構が取り組んでいる東京電力福島第一原子力発電 所の廃止措置と福島県内の環境回復に向けた研究開発につ いて紹介するための成果報告会を開催しました。 ここでは本 会合のあらましを紹介します。 2. 招待講演 「期待される JAEA の挑戦」 原子力損害賠償 ・ 廃炉等支援機構副理事長 山名 元 国家的プロジェクトとしての東京電力福島第一原子力発電 所 (1F) 廃炉への取り組みは、 新たな段階に進みつつあり ます。 廃炉戦略を強化するために原子力損害賠償 ・ 廃炉等 支援機構 (NDF) が設立され、 戦略プランと中長期ロード マップ改訂のための作業が進んでいます。 NDF には廃炉戦 略や研究開発のコーディネータとしての役割が期待されてお り、研究開発分野においては国際廃炉研究開発機構 (IRID) や日本原子力研究開発機構 (JAEA) の役割はきわめて重 要です。 なお、 1F の廃炉に関わる組織の全体は下記のようになっ ています。 また、 政府の中長期ロードマップの技術的根拠となる戦略 プランでは ・ 廃炉および研究開発についての PDCA ・ リスク本位での廃炉戦略を策定する ・ 複数のデブリ取り出し工法 ・ 廃棄物戦略検討に着手 ・ 廃炉研究開発計画を策定する ・ 国際的な連携の拡大 ・ 技術的調整と討議の機会の拡大 を重視し、 燃料デブリ取り出し工法の方針を決定する予定 です。私たちがめざす当面の目標は、 1F のリスクを下げることと 被災地を復興させることです。 このため戦略プランでは、 1F のリスクプロフィールを明らかにした上で、 何を優先して取り 組むべきかを常に考慮したリスクマネジメントを実施していま す。 同時に、 より合理的に問題の解決を図るために、 さまざ まなアプローチを検討しています。 これらの取り組みにおいて、 基礎から応用に至る広い範囲 における専門家集団である原子力機構の役割はきわめて重 原子力機構による廃止措置と環境回復への取り組み -福島研究開発部門成果報告会から- 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 解説記事「原子力機構による廃止措置と環境回復への取り組み」 要です。 原子力機構には、 すでに持つ知見をふまえて研究 開発を進め、 さらには IRID などと密接にコミュニケーションを 図りながら、 知見を統合して応用へと展開していく取り組みが 期待されます。 3. 福島研究開発部門の活動概要 福島研究開発部門 企画調整室長 船坂英之 原子力機構は、 1F 事故が発生して以降、 自らが持つ知 見を活用して、 この 1F 事故に対応に総力をあげて取り組む ことを最優先事項としています。 その取り組みは大きく廃止措 置と環境回復からなります。 ここではそのあらましを、 当機構 の取り組みの例をあげながら紹介します。 3.1 放射線を測定し除染を進める 環境回復を進めるためには、 放射性物質がどこにどの程 度あるのかを調べる必要があります。 このため私たちは、 空 から調べるために有人ヘリコプターや無人ヘリコプターを使 用し、地上では車両による走行サーベイや、ガンマプロッター を用いた歩行サーベイにより、 放射性物質や放射線の分布 状況を明らかにしてきました。 また、 内閣府からの委託により 除染モデル実証事業を実施し、 除染から除去物の仮置まで の一連の作業手順を確立しました。 さらに今後は放射性物 質の移行挙動を解明することで将来を予測するとともに、 そ こでの知見を除染対策に反映していきます。 走行サーベイによって 得られた放射線の分布状況 これらの取り組みと同時に、 私たちは事故直後から学校や 幼稚園のプール水の浄化や、 福島県の住民の方々約 8 万 人を対象にホールボディカウンタによる放射線測定を実施し てきています。 また、 放射線に関するさまざまな質問や不安 に答えるために、 約 2 万人を対象に 「放射線に関するご質 問に答える会」 を実施しています。 3.2 廃炉に向けた研究開発を進める 一方、 1F の廃炉に向けては政府や東電などが官民一体と なって取り組んでいるところです。 このうち原子力機構では、 廃炉を進めるためにロードマップの中核をなす研究開発や汚 染水対策に取り組んでいます。 その一環として 1F 港湾へ流 れ込む地下水の流動や湾内の海水循環を解析し、 取水口 近辺に遮水壁を設置することで、 地下水が護岸から湾内へ 流入することを防ぐことができることを明らかにしました。 この ほか、 中長期的な取組みに必要な基礎基盤的な研究開発 にも取り組んでいます。 これらのタスクを果たすために廃炉国際共同研究センター を設置し、 国内外の研究者を結集して、 研究開発と人材育 成を推進する国際的な拠点を構築する準備を進めています。 これらの詳しい内容については、 次に紹介いたします。 福島廃止措置技術開発センター長 武田 誠一郎 1F の廃止措置は、 原子炉建屋にある使用済み燃料を取 り出すこと、 次に溶けて固まった燃料を取り出すこと、 そして 原子炉等を解体し処分することからなります。 これらの作業は 40 年にも及びます。 さらに 1F の場合には通常の廃止措置 で想定されていたことと異なり、 燃料デブリの線量がきわめて 高いことや、 汚染水をはじめ大量の放射性廃棄物が発生す るなどの特徴があり、 それぞれの作業においては事前に十 分な準備と技術開発とが必要になります。 ここではそれを、 時系列で整理して紹介します。 廃止措置を進めるためにはまず、 炉心の中で何が起こっ ながら炉心は線量が高いために、 私たちは、 遠隔で操作で きる機器を開発しています。 それらの機器が現場でうまく機 ついてはのちほど、 紹介します。 一方、 廃止措置に伴って、 大量の放射性廃棄物が発生し ます。 その量は汚染水処理水が 60 万立方メートル、 水処理二次 廃棄物 1,575 本 (H27.1.15 時点)、 ガレキ 13 万立方メートル、 伐 採木 8 万立方メートル (H26.11.30 時点) と推定されています。 これらの廃棄物についてはまず、 どのような放射性核種が ます。 このため私たちは、 溶けた燃料については米国スリー マイル島原子力発電所事故で発生した燃料デブリなどを参 考に、 模擬の燃料デブリを作成して基礎物性を調べ、 切り 4. 廃止措置への取り組み たのか、 今はどうなっているかを調べる必要があります。 私 たちは事故進展解析コードなどを使って、 原子炉内ではどの ようなことが起こったのかを解析するとともに、 炉心の中にあ る燃料デブリの性状や成分や量を推定しています。 また、 高 い放射線にも耐える光ファイバを開発して、 実際に炉心の中 を観察できるような装置も開発しています。 次が、 炉心の中の燃料デブリ取り出しになります。 しかし 能するかどうかを確かめる実証試験も行う予定です。 これに どのような状態でどの程度含まれているかを調べる必要があり 保全学 Vol.14-1 (2015) 出し方法や保管、 処理方策についての検討を始めています。 また、 汚染水を処理した後に発生する二次廃棄物について はセシウムを固定化した焼成処理の検討を進めています。 小石状 塊状切株状 コンクリートとの反応物 燃料デブリのイメージ 5. 環境回復への取り組み 福島環境安全センター長 油井 三和 これまでは主として 1F を中心としたオンサイトでの取り組み について述べてきました。 ここからはその周辺地域であるオ フサイトでの取り組みについて述べます。 原子力機構はオフサイトでの環境回復のために、 環境モ ニタリングや放射性セシウムの移行挙動研究、 そして除染や 減容化のための技術開発を進めています。 このうち環境モニタリングでは、 文部科学省や原子力規制 庁の委託を受け、 福島県内を中心とした環境放射線のモニ タリングを行い、 空間線量率や放射性セシウムの沈着量の状 況を把握し、 マッピング化してきました。 これらの調査内容に ついてもデータベースとして整備し、 公開しております。 私た ちはさらにその変化についても継続して調査しています。 な お、 森林内にある放射性セシウムの大部分は地表かその近 くの土壌にとどまっており、 森林から外への流出率は年平均 で 0.2%程度であることがわかっています。 一方、 除染事業については、 環境省からの委託による除 染技術実証事業において、 国の技術選定の支援を行うととも に、 これまでに得られた除染に関する情報、 データを整備し、 データベースとして公開しています。 なお路面での高圧洗浄 や表面剥ぎ取り、 田畑での表土の剥ぎ取りなどについては、 原子力機構が国内では初めて、 技術を実証したものです。 また、 ここで得られた成果は除染技術のガイドラインへ反映さ れています。 さらに原子力機構では除染効果評価システムを開発して 公開し、 これをもとに、 環境省や市町村が行う除染効果の評 価などにも支援を行っています。 また、 除染にともなって大量の土壌が発生します。 これに ついては土壌の種類や放射能の濃度を調べた上で、 減容や 再利用のための研究開発に取り組んでいます。 放射線に関するご質問に答える会のもよう 次に、 コミュニケーション活動について紹介します。 19,800 人にのぼります。 また、 国際ワークショップを 2 回開 催し、 海外の専門家とも知見を共有し、 今後の課題につい て意見を交換しています。 一方、 福島県の環境創造センターでは、 オフサイトの環 境回復についての研究開発ロードマップを作るための検討が 進められています。 このセンターでは、 三春町と南相馬市に 施設を建設します。 このうち三春町の施設では環境動態の 研究を、 南相馬市の施設では遠隔の計測技術やモニタリン グ技術の開発を中心に進めることとしており、 原子力機構は、 このセンターの中で中心的な役割を果たしていきたいと考え ています。 6. 研究開発拠点の整備と利用-研究基盤の創生 福島廃炉技術安全研究所長 河村 弘 これまでに述べてきたオンサイトとオフサイトの取組を円滑 に進めるためには、 それらの技術開発を下支えする研究基 盤の整備が不可欠です。 ここからはそれについて述べます。 東電 1F の廃止措置を進めるためには、 高い放射線環境 の中で作業を安全に行うために遠隔で操作できる機器や装 置を開発する必要があります。 楢葉遠隔技術開発センター では、 研究開発を進める機器や装置の性能を実証するため の試験施設です。 このセンターには、 原子炉格納容器から の漏えいを補修する技術や災害対応ロボットの技術などをそ れぞれ確認するエリアを持っています。 また、 このセンター では、 作業者の訓練や遠隔操作されるロボットの性能やその 操作を確認するバーチャルリアリティシステムやロボットシミュ 福島県内の小中学校 ・ 幼稚園 ・ 保育園の保護者、 教職 員を主な対象に、 「放射線に関するご質問に答える会」 を実 施してきました。 これまでに 241 ヶ所で開催し、 参加者は約 解説記事「原子力機構による廃止措置と環境回復への取り組み」 レータの開発も手がけています。 バーチャルリアリティシステ ムというのは、 自分があたかもその場所にいるような感覚が体 験できるものです。 これによって作業者は、 現場で行う前に 短時間で効率よく作業を計画することができます。 また、 作 業時の被ばくを減らせ、 工期の短縮もできるかもしれません。 次に、 ロボットシミュレータでは、 コンピュータ上で災害対応 ロボットの性能を事前に確認し、 その結果を見てロボット製作 を進めたり、 ロボット操作の訓練も可能です。 これらの研究 基盤技術を備えるこの施設は平成 27 年夏から一部の運用を 始めます。 バーチャルリアリティシステム また、 東電 1F の廃止措置にともなって発生するガレキや 汚染水処理二次廃棄物、 燃料デブリなどの放射性廃棄物の 処理 ・ 処分に必要な技術も開発する必要があります。 大熊 分析 ・ 研究センターは、 これら放射性廃棄物の性状の分析 や安全性評価、 廃棄体化のための試験などを行う施設で、 平成 26 年度から詳細設計を始めます。 次に大きなテーマの一つである遠隔技術開発について紹 介します。 東電 1F 関連で手がけている遠隔技術は大きくロ ボット技術、 レーザ実装技術、 放射線計測 ・ 制御技術から なります。 このうちロボット技術は原子力緊急支援ロボットの改良、 ロ ボットシミュレータの開発、パワードスーツの開発からなります。 例えば、 パワードスーツは作業者の被ばく低減と作業効率の 向上のために、 今後期待されています。 レーザ実装技術では、 レーザを燃料デブリの溶断や破砕 に応用したり、 放射線計測 ・ 制御技術では、 廃棄物が発す るガンマ線を利用して、 壊さずに中身を見たりできる研究開 発を進めています。 最後に、 これらの研究を進める上で、 大学や産業界、 あ るいは海外との連携を進めることで、 施設の利用機会を増や すとともに、 そこで得られた知見を積極的に国内外に発信す ることで、 福島浜通りが世界に誇ることができる研究開発拠 ニーズの変化を的確に把握し、 活動を常に見直すなど、 今 ご協力をいただきながら、 廃止措置の推進や事故により被災 した地域の一日も早い復旧 ・ 復興に貢献できるよう努めてま いります。 なお、 本報告会について原子力機構 福島研究開発部門 HP からご覧いただけます。 http://fukushima.jaea.go.jp/initiatives/cat01/index201502.html ※この原稿は、 日本原子力研究開発機構が HP に掲載して いる 「トピックス福島」 No. 65 を加筆修正したものです。 (平成 27 年 3 月 19 日) 点となることをめざします。 7. おわりに 当日は約 300 人の来場をいただき、 参加者からは常に最 新技術を取り入れつつ研究を進めることや研究のための研究 に陥ることなく進めて欲しいといった意見が出されました。 原子力機構では、 今後とも廃止措置や環境回復に係る 後とも、 関係府省庁、 自治体、 住民の方々より、 ご指導、 原子力機構による廃止措置と環境回復への取り組み-福島研究開発部門成果報告会から- 日本原子力研究開発機構 原子力機構による廃止措置と環境回復への取り組み-福島研究開発部門成果報告会から- 日本原子力研究開発機構
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