九州電力(株)川内原子力発電所の火災防護設備の適合性確認検査について

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1.はじめに 九州電力(株)川内原子力発電所の 火災防護設備の適合性確認検査について 九州電力株式会社発電本部原子力設備グループ 笠毛 誉士 Takashi KASAMO 平成 27 年 9 月 10 日に、九州電力(株)川内原子力発 電所 1 号機が、営業運転を再開した。平成 25 年 7 月に 施行された新規制基準に適合するプラントとして国内で 最初の運転再開である。 川内原子力発電所 1、2 号機については、安全性を向 上するための設備の設置及び改造を実施し、新規制基準 に適合する設備であることを、適合性確認検査を実施し て確認した。本稿では、新規制基準への適合性を確認す るための適合性確認検査の概要について説明を実施し、 具体例として火災防護設備の適合性確認検査の例を紹介 する。 2.設計から検査までの流れ 新規制基準の設計から検査までのプロセスを、川内 1 号機工事計画変更認可申請資料の添付資料である「品質 保証に関する説明書」に記載している。実用発電用原子 炉及びその附属施設の技術基準に関する規則(以下、「技 術基準規則」という。)に適合するための設計、工事及 び検査と設備の対応について様式を用いて整理し、設備 単位での設計及び検査方法を整理したうえで、適合性確 認検査要領書を作成して検査を実施する流れとなってい る。(図 1) 以下に、「基本設計方針の策定」「設備リストの作成」 から「適合性確認検査要領書の作成」の概要を説明する。 2.1 基本設計方針の策定 技術基準規則の条文単位で、技術基準規則に適合する ための基本設計方針を策定する。基本設計方針は、設備 の要求事項(仕様、系統構成等)が明確に分かる文章と する。 図 1 設備リスト、基本設計方針の関係 2.2 設備リストの作成 技術基準規則において、要求が追加された項目に対応 するための設備を抽出し、リスト化する。リストの作成 に当たっては、技術基準規則のどの条文の要求で設置さ 2.2.1 設計基準対象施設 川内原子力発電所において、設計基準対象施設として 追加設置した主な設備は、津波対策にて設置した水密扉 等、火災防護対策にて設置した火災感知器、ハロン消火 保全学 Vol.15-1 (2016) れている設備かどうか分かるように整理する。 設備等、竜巻対策にて設置した竜巻防護ネット等がある。 これらの設備には、新設設備及び既設設備がある。技 術基準規則へ要求事項として追加された項目に対応する 設備であるため、既設設備を含めて網羅的にリスト化す る。 2.2.2 重大事故等対処設備 新規制基準として新たに追加要求機能を満足するため の重大事故等対策のための設備を網羅的にリスト化す る。リスト化する設備の主な機能は以下のとおり。 ・原子炉の炉心の損傷防止 ・原子炉格納容器の破損防止 ・放射性物質拡散抑制 2.3 基準適合性を確保するための設計結果と適合性確認 状況一覧表の作成 2.1 項及び 2.2 項にて整理した設備リストと基本設計 方針の対応を整理し、設備毎に基本設計に適合するため の設計を書き込んだ資料(「基準適合性を確保するため の設計結果と適合性確認状況一覧表」)を作成する。 また、設備毎にその設計を確認する検査方法を整理し、 「基準適合性を確保するための設計結果と適合性確認状 況一覧表」に記入する。 2.4 適合性確認検査要領書の作成 2.3 項にて作成した基準適合性を確保するための設計 結果と適合性確認状況一覧表から、設備を施設区分、系 統、検査方法などを考慮してグループ化し、適合性確認 検査要領書を作成する。 2.3 項にて整理した結果が漏れなく要領書に反映され るように確実に確認を実施して要領書を作成することが 重要である。 2.5 適合性確認検査の実施 2.4 項にて作成した適合性確認検査要領書により適合 性確認検査を実施する。 適合性確認検査は、材料記録(ミルシート)、工事記 録(寸法測定結果)などを用いる検査、ポンプの運転性 能確認、通水確認などによる機能確認検査を実施する。 3.火災防護設備の適合性確認検査 3.1 基本設計方針の策定 技術基準規則第 11 条、52 条及び実用発電用原子炉及 びその附属施設の火災防護に係る審査基準(以下「火災 防護審査基準」という。)に適合する基本設計方針を策 定した。具体的には、火災防護の基本的事項、火災の発 生防止、火災の感知及び消火、火災の影響軽減の対策に 関する基本設計方針を策定した。 3.2 設備リストの作成 火災防護設備に関しては、技術基準規則第 11 条、52 条に、火災防護に関する基準が定められており、それぞ れの基準に該当する設備を、火災防護の 3 方策に対応す る設備、設計基準対象施設を防護するための設備、重大 事故等対処施設を防護するための設備と整理してリスト 化した。 ◆設備リスト中の代表的な設備 (火災の発生防止) ・ オイルパン、ドレンリム、堰 ・ 換気設備 ・ 水素濃度検知器 ・ 保護継電器、遮断器 ・ 機器の主要な構成材料 ・ 難燃性ケーブル ・ 難燃性フィルタ、建屋内装材 (火災の感知及び消火) ・ 煙感知器、熱感知器、光ファイバケーブル感知器、 炎感知器 ・ 火災受信機盤 ・ 全域ハロン消火設備 ・ 二酸化炭素自動消火設備 ・ 水噴霧消火設備、泡消火設備 ・ 消火ポンプ、消火用水配管 ・ 消火器 ・ 消火用照明器具 (火災の影響軽減) ・ 耐火壁 ・ 貫通部シール、防火扉、防火ダンパ ・ 鉄板+断熱材によるケーブルトレイの分離 ・ 可搬式排煙設備 3.3 基準適合性を確保するための設計結果と適合性確認 状況一覧表の作成 3.1 項及び 3.2 項にて整理した設備リストと基本設計 解説記事「九州電力(株)川内原子力発電所の火災防護設備の適合性確認検査について」 ・ 避雷設備 ・ 動式消火設備(消防自動車) ・ 高感度煙感知器、サーモグラフィカメラ 保全学 Vol.15-1 (2016) 方針の対応を図 1 に示す様式に整理した。 まず、基本設計方針を、文章のパラグラフ単位で分割 し、その設計が、「設置要求」「機能要求」「評価要求」「運 一号検査: 要目表対象設備に対し、材料、寸法、 外観・据付、耐圧・漏えい等を確認す る検査 用要求」のどれに当てはまるかを整理した。次に、パラ グラフ単位で分割した基本設計方針に当てはまる設備の 箇所に、基本設計方針に基づく具体的設計結果となる図 面などの名称を記入した。これを実施することにより、 例えば、煙感知器を、基本設計の要求で詳細設計した、 煙感知器設置図が紐付くこととなる。 この整理作業を全ての基本設計方針に対して実施し た。結果的に全ての設備に基本設計方針が紐付き、基本 設計方針に基づいた具体的設計結果が整理される結果と なる。具体的設計結果を記載した箇所について、その設計結 果を確認するための検査方法を記載する。これが、適合 性確認検査要領書のベースとなる。 3.4 適合性確認検査要領書の作成 3.3 項にて作成した基準適合性を確保するための設計 結果と適合性確認状況一覧表から、火災防護設備につい て検査方法などを考慮してグループ化し、適合性確認検 査要領書を作成した。 火災防護設備の適合性確認検査要領書は、以下の種類 に分割した。この分割は、工事計画の要目表記載設備と 要目表の記載が要求されない、基本設計方針のみが記載 される設備とに分割し、さらに、基本設計方針のみが記 載される設備については、火災防護の 3 原則、設備所管 箇所を考慮して分割したものである。適合性確認検査要 領書の分割は、検査実施箇所が確実かつ効率的な検査を 行う観点から、自由に分割できる。 ◆火災防護設備の要領書種類 【要目表対象設備】 1 水消火設備一号検査要領書 2 水消火設備三号検査要領書 3 火災区域区画構造物一号検査要領書 4 火災区域区画構造物三号検査要領書 【基本設計方針対象設備】 1 火災の発生防止に関する要領書 2 火災の感知及び消火に関する要領書 3 火災の影響軽減に関する要領書 4 火災防護計画に関する要領書 5 土木建築部門に関する要領書 三号検査: 原子炉に燃料を装荷することができる 状態になった時に、機能又は性能を確 認する検査 適合性確認検査要領書作成において、最も重要なポイ ントは、2.4 項でも述べたが、基準適合性を確保するた めの設計結果と適合性確認状況一覧表にて整理した結果 が漏れなくいずれかの要領書に確実に反映されることで ある。 3.5 適合性確認検査の実施 3.4 項にて作成した適合性確認検査要領書により適合 性確認検査を実施した。火災防護設備 * の検査として特 徴的な例をいくつか紹介する。 * 火災防護対象の設備と感知・消火設備などの火災から 火災防護対象設備を防護するための設備の両方がある。 3.5.1 火災防護対象設備の材料確認検査 火災防護対象設備の主要な構造材は金属等の不燃材料 とする設計としている。その設計を満足することの確認 として、以下の方法で検査を実施した。 発電所の設備図書である構造図を収集し、構造図に記 載されている材料が不燃材料であることを全数確認し た。火災防護対象設備の大部分は、新規制基準施行前に 設置されている設備であることから、このように QMS にて管理されている図書を用いた確認を実施している。 3.5.2 難燃ケーブルの確認検査 火災防護対象設備に使用しているケーブルが難燃ケー ブルであることの確認として、以下の方法で検査を実施 した。まず、火災防護対象設備に使用しているケーブル を、火災防護対象設備毎の展開接続図等の図書により特 定した。次に、特定したケーブルの具体的な線種を、配 線図により特定し、線種毎の難燃性確認試験結果と紐付 けた。上記の整理を全ての火災防護対象設備に対し実施し、 火災防護対象設備に使用しているケーブルが難燃ケーブ ルであることを確認した。 3.5.2 ハロンガス消火設備配管の材料・寸法検査 消火設備として新規設置したハロン消火設備のうち、 配管については、技術基準規則に定めるクラス 3 管に要 求される材料・寸法に適合することの確認を実施した。 具体的には、ハロン消火設備は要目表対象設備ではない が、要目表対象設備に要求される一号検査と同等の検査 を以下の方法にて実施した。 材料検査については、ハロン配管の材料記録(ミルシー ト)と配管図とを照合し、ハロン配管に使用されている 材料が具体的設計結果のとおりであることを確認した。 また、寸法検査については、配管の主要寸法(外径及 び厚さ)が具体的設計結果のとおりであり、公差等を考 慮した許容寸法内であることを確認した。 上記検査を実施することで、ハロン消火設備の材料・ 寸法が技術基準規則に適合することを確認した。 3.5.3 貫通部シールの確認検査 火災の影響軽減対策として、貫通部シールや防火扉、 防火ダンパにより分離する設計としている。そのうち、 貫通部シールが設計要求を満足していることを、以下の 方法で検査を実施した。 まず、具体的設計結果に記載している火災伝播評価結 果等に基づき、耐火能力を有する貫通部シールの施工が 必要な箇所である火災区域及び火災区画境界を明確に し、検査範囲として整理した。次に、上記境界に存在す る貫通部に施工されているシールの仕様を図書又は現場 にて確認し、実証試験にて耐火性能を確認したシール仕 様と照らし合わせることで、必要な耐火性能を有する仕 様であることを全数確認した。 上記確認を実施することで、貫通部シールが設計要求 を満足していることを確認した。 4.まとめ 本稿では、適合性確認検査の実施プロセスという、川 内原子力発電所の再稼働対応の一部を紹介した。 新規制基準への適合性を確認する対象設備は、発電所 建設時に設置された既設設備が含まれることから、建設 当時から現在までの保全の実施内容を含めての確認とな る。設備の保全を確実に実施し、その結果を記録として 残す活動が重要であることを再認識することとなった。 今後、川内原子力発電所においては、新規制基準に適 合した設備や人的資源などを最大限に活用して、発電所 の安全・安定運転の継続に向けた取り組みを行っていく ことになる。そのベースとなるのは、日々の保安活動の 確実な実施である。その中で、発電所員一人ひとりが、 法令要求を満たすことだけに留まらず、時に立ち止まり、 現状を問い直す姿勢をもって、更に上を目指した継続的 な改善に自主的に(自ら考え行動し、)取り組んでいく ことが重要だと考えている。 特に、継続的な改善への取組みとしては、設備(ハー 能力を最大限に発揮させるための教育・訓練など、運用 管理(ソフト)面の更なる強化・充実が必要である。 今後も、各種訓練を計画的に、かつ継続して実施し、 事故時対応能力の維持・向上を図るとともに、新規制基 準に適合するために新たに設置した設備(可搬型設備を 含む)に対する保全を適切に実施し、その機能を維持し ていく必要がある。 (平成 28 年 3 月 7 日) 著 者 紹 介 所属 : 九州電力株式会社 発電本部 原子力 設備グループ 専門分野 : 保全業務 解説記事「九州電力(株)川内原子力発電所の火災防護設備の適合性確認検査について」 ド)面への新たな対策と併せて、発電所にある各設備の 著者 : 笠毛 誉士 九州電力(株)川内原子力発電所の火災防護設備の適合性確認検査について 笠毛 誉士,Takashi KASAMO 九州電力(株)川内原子力発電所の火災防護設備の適合性確認検査について 笠毛 誉士,Takashi KASAMO
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