原子力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2)
公開日:
カテゴリ: 解説記事
1. はじめに 原子力発電所の敷地内破砕帯問題: 志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2) 北陸電力株式会社 片川 秀基 Katagawa HIDEKI 北陸電力株式会社 中嶋 光浩 Nakashima MITSUHIRO シーム S-1 はシーム S-2・S-6 との会合部から南東側 へ約 780m 追跡できる。中位段丘I面および高位段丘面 原子力発電所の敷地内破砕帯問題の一つに北陸電力(株) 志賀原子力発電所の敷地内シームの問題がある。「原子 力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地 内シームの評価(その1)」[1] では、シームが問題視さ れるに至った発端と経緯、実施した追加調査の考え方、 内容を述べ、構造地質学的に “ シームは活動性が問題と なるものでない ” ことを解説した。 この解説記事(その2)では、まず「2.古地震学的 調査の結果」として断層活動性の調査で一般的な変位地 形法、上載地層法のデータを用い、シームの活動性の有 無を解説する。次に「3.評価書案とピア・レビュー」 として 2015 年 11 月 20 日のピア・レビューで示された 評価書案 [2] の内容を概括し、レビューアーによる審議 の状況を概括する。「4.評価書案の問題点について」 として評価書案の内容、ピア・レビューでの担当有識者 とレビューアーとの議論を踏まえつつ、北陸電力(株)の追 加調査結果等の具体的データをもって [3]、評価書案の 問題点を解説する。最期に「5.まとめ」を述べる。 2.古地震学的調査の結果 2.1 シームの水平方向の追跡 シームの断層部分による地形や地層の変位、変形を調 べる変位地形法、上載地層法の古地震学的調査のために は、高い精度でシームの位置を知る必要がある。このた めのシームの追跡はシーム自体の存在や走向傾斜、産状、 性状はもとより、“ 帯状を呈する火山砕屑岩 ” との関連 性に留意し、トレンチ調査、法面掘削調査、ボーリング 調査を密に配置して行った [1]。 2.2 変位地形法 ● シーム S-1 分布域では、変動地形(断層活動を示す地形)はもとよ り線状地形も全く認められない(図 1)。 ● シーム S-2・S-6 シーム S-2・S-6 に線状地形は認められない。そこで、 あえて短い線状の模様を連ねて検討した。 図 1 シーム S-1、S-2・S-6 周辺の地形 北端部海側の高まりでは、見掛け上、海側の頂部から 山側のシームにむかって緩く傾斜する(図1の黒枠)。 しかし、シームは高まりの山側にある鞍部より北側には まりはない。 同様の規模の高まりは現在の波食台や砕波帯にも点在 保全学 Vol.15-1 (2016) 分布しない。また、このシームの他の区間にこうした高 するが、岩質の違いによる。シームの活動には関係しな い。こうした地形が離水してできた中位段丘I面では、 堆積層が概して薄いので、しばしば基盤の高まりの痕を 留めている。この高まりもそのひとつと考えられる。 2.3 上載地層法 ● シーム S-1 シーム S-1 では南東側の高位段丘I面分布域の 3 箇所 で、シーム S-2・S-6 は中位段丘I面分布域の北部3箇所、 南部 1 箇所でトレンチ・法面調査を実施した([1] の図 3 参照)。 シーム S-1 は、高位段丘I面堆積層ならびに同基底面 に変位、変形がない。高位段丘I面堆積層は約20 万年前( MIS 7)と考えられ、約 12・13 万年前( MIS 5e)以前 の高温期に形成された古赤色土(赤色土壌)、MIS 5e よ りも後の新期赤色土(赤褐色土壌)に覆われる [4]。従っ て、シーム S-1 は少なくとも 20 万年前以降の活動がな いことが分かる。なお、赤褐色土壌中にはK-Tz火山灰(約 9.5 万年前)が挟在する。 ● シーム S-2・S-6 シーム S-2・S-6 の 3 つのトレンチ([1] の図 3 参照。) で、No.1 トレンチに分布するのは活動性調査には使え ない新期の堆積物である。No.2 トレンチには約 12・13 万年前の中位段丘I面堆積層が残っており、堆積層およ び同基底面に変位、変形がない [5]。この堆積層は円磨 された玉石を混じる砂層で、海成層である。波食ででき た基盤面の凸凹に規制されて、様々な方向に緩く傾斜す る。No.3 トレンチは高まりの頂部付近にあるが、シー ムは出現しない。トレンチ間で消滅することをボーリン グ調査で確認した。 2.4 旧トレンチの再検討 旧 A、B トレンチの壁面にはシーム S-1 位置の基底面 に北東側が高くオーバーハングした段差がある。また B トレンチ北西壁では、見掛上、これを埋積する砂礫II 層、砂礫I層が、段差の落ち込む側に撓み下がって見え る。後述する評価書案で断層活動の可能性を指摘する根 拠は、この形態的特徴による。 しかし、指摘された可能性はスケッチ並びに写真を用 いて確認できる [6],[7]。それによれば、B トレンチ北西 壁の砂礫II層下部層は段差の左右で層厚が異なり、段差 を後で埋積している様子が見て取れる(図2)。 また、シーム S-1 が段差に見合う変位を生じたなら、 その痕跡がせん断や擾乱として堆積層中に見られるはず である。しかし、全く見られない(図3)。 礫層中でせん断や擾乱の痕跡を見出すのは難しいとの 指摘もある。しかし、砂礫層はいずれも基質支持で、礫 砂層を用いた断層実験によれば、基底面の変位が層厚 の 5% 程度で、せん断面は堆積層上面に達する [8]。また、 基底面に断層変位を生じた礫層、砂礫層などと断層との 関係が報告された 539 編(露頭データ数は 753)の文献 を調査した結果、基底面に断層変位があって堆積層への 影響が評価された事例(118 ケース)は、いずれも堆積 層にせん断や擾乱が認められている。これらは、基底面 が断層でズレると、粗粒堆積層でも直上では確実にせん 断や擾乱が生じることを示す [9]。それらが見えない以 上、基底面の形態的特徴のみでシームの断層部分の活動 をいうことに科学的合理性はない。 図 2 旧 B トレンチ北西壁砂礫II層下部層の堆積状況 図 3 B トレンチ北西壁基底面段差付近の堆積状況 解説記事「原子力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2)」 を含有する粗粒砂層である。礫層ではない。 保全学 Vol.15-1 (2016) 3.評価書案とピア・レビュー しかし、次の点からこの説明は妥当しない。 ・ 砂礫II層下部層は基質支持の礫混じり粗粒砂層であ 評価書案 [2] は、要約すれば、次の1~3の内容で構 成されている。 1 シーム S-1 は旧トレンチが位置する北西部で活動が 否定できない。 2 シーム S-2・S-6 は、No.2 トレンチ周辺の海側隆起 の高まり、同トレンチ(北壁)で中位段I面堆積層 の海側から山側への撓曲があり、活動が否定できな い。 3 シーム S-2・S-6 に長さ 15km、深さ 12km の断層の 伏在を想定し、破壊時の変位が地下 100m で止まり、 地表付近で岩盤が変形することでシーム S-1 の北西 部に条線方向のせん断応力増分が発生し、動く可能 性がある。 ピア・レビューではこれらの 3 つを論点として、順に 審議が行なわれた。レビューアーはいずれの論点につい ても、具体的根拠を示して評価書案とは全く異なる評価 の可能性を提示した。この 3 点以外にも、追加調査結果 を重視した評価の必要性、科学的合理性に基づく総合的 な検討の必要性が指摘された [10]。 4.評価書案の問題点 ピア・レビューの質疑・回答の状況も踏まえ、評価書 案の主要な問題点について解説する [3]。 4.1 旧トレンチの評価 ● 評価書案の主張は根拠が不十分である シーム S-1 の活動を評価したのは、主に、B トレンチ 北西壁の砂礫II層の層厚がシーム S-1 位置の段差の両側 で同じであるとみて、砂礫II層に変位に伴う撓曲構造を 認定したことによる。 しかし、2.4 に既述した本来観察すべき事柄が検討さ れていない以上、変位の同定、認定は出来ないはずであ り、レビューアーも同様の指摘をしている。 ● 担当有識者等による補足説明の妥当性 i) 担当有識者は B トレンチ北西壁の砂礫層を海成層 とし、段差の低下側の基底面に玉石や礫がないこと を断層変位の根拠とした。 る。土石流堆積物のように、様々な粒径が混在して もたらされ、短時間に堆積したものである。こうし た堆積物では、基底面上に必ず礫が溜まることが期 待できないのは当然である。 ii) 担当有識者は砂礫II層中に段差上方で縦方向の筋が 見えるとし、A トレンチ北西壁も含めて断層による せん断痕の存在を指摘した。 しかし、次の点からこの指摘は妥当しない。 ・ そもそもは数十 cm に及ぶ基底面段差が断層変位で あれば、段差直上には明瞭なせん断が生じなければ ならない。筋程度の曖昧なものではありえない。 ・ 指摘された筋を横断して層相が連続して見える箇所 iii) 担当有識者は S-1 の B トレンチ北西壁面のスケッチ や写真で、堆積層基底面の段差に沿う “凝灰質な細 粒部”を断層ガウジとした。そして、段差の成因に ついて、断層ガウジは軟質であるから浸食で削られ るので段差を作り得ない、段差があるのは堆積後の トレンチ南東壁面についてもなされた。 しかし、この主張は次の点から妥当しない。 ・ 担当有識者はシームや “凝灰質な細粒部”を断層ガ 灰質な細粒部”の形成自体には断層破砕が関わって いない明確な証拠がある旨 [1]、現地確認調査等で 説明している。 補足説明i)、ii)への反論と同様の指摘は、レビュー アーからもなされている。iii)についても、シームの断 層部分は火砕岩脈中の小断層で新期の活動はない、との コメントが寄せられている [10]。 場を岩盤面が平滑な砕波帯とした。そして、4 壁面 いずれも基底面に段差があるから断層変位の想定は 当然であるとして、担当有識者の評価を支持した。 があることからせん断変位を言うことはできない。 断層変位を示すものであるとした。同様の補足は A ウジと断定しているが、北陸電力(株)は、シームや“凝 iv) レビューアーの一人は、旧トレンチの砂礫層の堆積 しかし、この指摘は次の点から妥当しない。 ・ 北陸電力 ( 株 ) は潜水調査を実施しており、砕波帯 では岩盤が平滑になるのではなく、波による下刻が 進んだ凹地があって、海成層や陸域から流入した と見られる堆積物に埋積された様子を報告している [11]。 4.2 旧トレンチでの断層変位想定の諸矛盾 ● 追加調査結果による評価との矛盾 シーム S-1 の追加調査結果等について、評価書案では、 例えば「駐車場南側法面」は堆積層が斜面堆積物である から活動性評価に使えないとしている。しかし、少なく とも古期赤色土に相当する赤色土壌以下は 12・13 万年 前よりも古い堆積層であるから [4]、使うことに支障は ないはずである。 また1号機の原子炉建屋基礎底面では、シーム S-1 を 分断する “ 帯状を呈する火山砕屑岩 ” 中の岩石に変位が ないとする写真とスケッチがある [12]。しかし、評価に は使えないとされている。理由はこのデータが現在確認 できないこと、かつ有識者のコメントを顧慮すると、岩 盤調査坑で、シーム S-1 が同種岩石と断層で接すること である。 レビューアーによれば、断層は、岩盤調査坑の同種岩 石が「定置・固結し流動を失った後の変形であると評価 することは出来ない。」 [10] 古い構造である。 また、“ 帯状を呈する火山砕屑岩 ” には形成時期が異 なる様々な岩石が貫入被貫入関係で分布するから [1]、 岩盤調査坑と一号原子炉建屋基礎底面の岩石が同じ時期 のものとは限らない。“ 帯状を呈する火山砕屑岩 ” にお いて後者が前者より後に形成された岩石でありうる以 上、担当有識者の理由は妥当しない。 従って、一号原子炉建屋基礎底面でこの岩石に分断さ れるシーム S-1 の断層部分に、この岩石が形成されて以 降の活動を想定する事は出来ない。 ● シーム S-1 の活動が招来する矛盾 3.に既述したように、旧トレンチのスケッチや写真 の堆積層中に断層変位は想定できない。そこで、あえて シーム S-1 の活動を仮定する。すると重要な矛盾点が浮 かび上がる。 旧トレンチを含む活動区間は、全長約 780m に対し 1 号機原子炉建屋基礎底面の北西端からシーム S-2・S-6 までの長さ 80m ほどに過ぎない。シームは地下 200m よ り深く分布しないから、表層付近で 80m × 200m の断層 面が周辺の新鮮堅硬な穴水累層内で上下方向、水平方向 にそれぞれ数十 cm の大変位を生じたことになる。この 変位量は、断層規模と変位量との関係に照らし、物理的 に考え難い値である。 また、周辺断層に最大規模の活動を想定して解析的検 討を行なった結果、いずれのケースもシーム S-1 北西端 る [13]。 なお、シーム S-1 がシーム S-2・S-6 を切ることに関 わる矛盾については 4.4 に後述する。 4.3 シーム S-2・S-6 の活動性評価 ● No.2 トレンチ周辺の地変は認定できない 中位段丘I面堆積層および同基底面に破断や変位が認 められないことは、担当有識者間も認めている。ところ が評価書案は次の理由をあげて、シーム S-2・S-6 の活 動性が否定できないとした。 1 No.2 トレンチ周辺にシーム S-2・S-6 の活動時の撓 曲で説明できる地形の高まりがある(図1の黒枠)。 2 No.2 トレンチの中位段丘I面堆積層は全体に海側 から山側へ緩く撓曲するとみることで、地形の高ま りを説明できる。 しかし、以下に述べるとおり撓曲を想定する根拠にし ては甚だ希薄と言わざるを得ない。 ・ No.2 トレンチの北面では、見かけ上海側から山側 へ傾斜するが、局所的で壁面全体には認められな い。また、南面では山側から海側へ逆の傾斜が目立 つ。堆積層は海食による基盤面の凸凹に規制されて、 様々な方向に緩く傾斜するものであるから、トレン チ北面の堆積層の一部の傾斜のみで撓曲を想定する ことに科学的合理性はない。 ・ シーム S-2・S-6 の断層はほぼ純粋な逆断層である。 には存在せず、かつ同シームは高まりの頂部から北 には分布しない。もし撓曲であれば、同シームの中 央部など他区間に存在してもおかしくない。しかも 同様の地形は基底面下の岩質の違い等によるもの で、シームの分布に関わりなく存在する。従って、 指摘された高まりが撓曲によるとする根拠は希薄と 言わざるを得ない。 ・ 穴水累層は新鮮堅硬で、シーム S-2・S-6 の活動を 仮定し浅所を撓曲させようとすると、変形する前に シームに沿って地表面まで一気に破断すると考え 解説記事「原子力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2)」 の剪断応力増分は条線方向の動きを抑制する側に作用す しかし、同様の高まりはシーム S-2・S-6 の他区間 保全学 Vol.15-1 (2016) られる。これについてレ ビューアーも同じ指摘をし た。 4.4 シーム S-2・S-6 の伏在断層 評価書案では、シーム S-2・ S-6 の活動で、旧トレンチを含 むシーム S-1 北西部が動き得る ケースを数値解析結果で示し、 シーム S-1 の活動が否定できな い根拠に加えている。 想定したのはシーム S-2・S-6 に長さ 15km、深さ 12km の断 層が伏在するモデルである(図 4の下図)。この断層の変位が 地表から 100m で止まって、地 表付近が撓曲する。それによ り地表付近に応力集中を生じ、 シーム S-1 北西部を動かす方向 の剪断応力増分が発生するとい うのである [2]。しかし、北陸 電力 ( 株 ) の調査結果(図 4 の 図 4 シーム S-2・S-6 の分布規模と地下構造 上図)とは全く異なる。 このモデルの根拠は、No.2 トレンチ周辺の撓曲の存 在である。しかし 4.3 に既述のとおり、シーム S-2・S-6 の地表付近に撓曲の事実はない。さらに、以下の理由か らもこのモデルに根拠はない。シーム S-1 北西部を動か すために仮想されたものに過ぎない。 ・ S-2・S-6 をはじめシームは深度 200 メートル前後よ り深所に分布しない [1]。 ・ あえて伏在断層を仮想しても、既述のようにシーム S-2・S-6 に沿って一気に地表まで破断して、シーム S-1 を動かすような応力集中は生じ得ない。 ・ 仮に、シーム S-1 北西部やシーム S-2・S-6 の地表 付近での応力集中を計算してみると、せん断応力増 分の最大値はシーム S-1 北西部で 17 MPa、シーム S-2・S-6 の浅部で 2,713 MPa とシーム S-1 北西部の 100 倍以上となる [3]。シーム S-1 で変位を生じると するなら、その一方、シーム S-2・S-6 では変形の みが現れるとすることには無理がある。 なお、二点目について担当有識者は、志賀の岩盤は『熱 水変質して亀裂が多くガサガサしており、それらの亀裂 に沿って個々に微細なズレが生じることで撓曲ができ る。その結果、トレンチでは変形して見える。』とした。 しかし、これは以下のことから科学的合理性を欠く。 ・ 志賀原子力発電所の岩盤は新鮮堅硬で、担当有識者 の指摘はあたらない(安全審査で評価済み)。 ・ 仮に評価書案の主張のように、撓曲が多くの亀裂で 個々に微細に変位してできるのなら、歪みは解放さ れて応力が集中することはない。そもそもシーム S-1を動かす方向の剪断ひずみを生じることはない。 ・ 数値解析を用いて変位、変形を説明するなら、応力 増分の方向を示すのみでは説明したことにならな い。同時に変位量や変形量の説明が必要である。仮 に旧トレンチの段差を変位によるズレとすると、上 下方向、水平方向とも数十センチメートルの変位を 説明する必要がある。しかし、その提示はない。 ・ シーム S-1 が活動を繰り返してきたなら、シーム S-2・S-6 が活動するたびにシーム S-1 が動いてシー ム S-2・S-6 を切ることになる。実際、シーム S-1 しているから、評価書案のモデルは大きな矛盾を招 来することになる(図 5)。 の北西端がシーム S-2・S-6 に画されることを確認 図 5 シーム S-1 とシーム S-2・S-6 との会合状況 4.5 評価書案の問題点への総括 ピア・レビューおよび本年 3 月 3 日の有識者会合で、 評価書案ならびに担当有識者のコメントは概査段階の可 能性の指摘にとどまる。追加調査では精査レベルの十分 なデータが得られているから、評価は、それらの総合的 な検討を通してなされるべきである。 5.まとめ 志賀原子力発電所の敷地内シームの活動性に係る評価 書案には、レビューアーの指摘やコメントのように多く の矛盾や問題点が含まれている。 一方、本年1月6日、原子力規制委員会はピア・レビュー で重要なコメントがあったとして、「評価が分かれる部 分があれば、その旨を明記した上で評価書をまとめてい く」[14]とした。3 月 3日に再度有識者会合が行われたが、 結論は変わらなかった [1]。 この解説記事が公表される時点で、評価書がまとめら れるかは分からない。いずれにしても北陸電力 ( 株 ) と しては、有識者会合での評価書の確定の後に始まるとさ れる適合性審査に向け、この解説記事にあげた問題点等 について、具体的根拠の提示とそれらによる“科学的合 理性に基づく総合的な検討”をとおして整理し、一層の 説明性の向上に努めていく。 追加調査の実施ならびに結果の取りまとめにあたり、 多くの専門家、研究機関からご助言を頂戴した。ここに 深謝する。 陸電力株式会社 コメント回答 I.シーム S-2・S-6 の活動性につ いて」,志賀・現調 6,平成 27 年 2 月 27 日 原子 力規制委員会志賀原子力発電所敷地内破砕帯の調査 に関する有識者会合 [6] 「志賀原子力発電所敷地内破砕帯に関する追加調査 コメント回答 I.2.(1) トレンチ壁面の詳細観 力規制委員会志賀原子力発電所敷地内破砕帯の調査 に関する有識者会合 [7] 石川和男・小島圭二:志賀原子力発電所の「シー ム問題」を検証する,エネルギーフォーラム, No.734, pp.76-81 (2016) [8] 上田圭一・谷和男:基盤の断層変位に伴う第四紀層 及び地表の変形状況の検討(その 2)? 正断層,逆 断層模型実験 ?,電力中央研究所報告 U98048 (1999) [9] 「志賀原子力発電所敷地内破砕帯に関する追加調査 コメント回答 I.2.(2) 断層変位を受けた堆積 物の変位 , 変形の出現形態」,志賀・現調 5-2,平成 26 年 12 月 26 日 原子力規制委員会志賀原子力発電 所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合 [10] 「レビューアーからのコメントについて」,平成 27 年 11 月 20 日 志賀原子力発電所敷地内破砕帯の評 価に関する有識者会合ピア・レビュー会合 [11] 「志賀原子力発電所敷地内破砕帯に関する追加調査 査結果」,平成 24 年 12 月 7 日 北陸電力株式会社 [12] 「志賀原子力発電所敷地内破砕帯に関する追加調査 コメント回答 資料 -3 1.(3) 1号機原子炉建屋 解説記事「原子力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2)」 参考文献 [1] 片川秀基・中嶋光浩 : 原子力発電所に敷地内破砕帯 問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(そ の1),保全学,pp. (2016) [2] 「北陸電力株式会社志賀原子力発電所の敷地内破砕 帯の評価について<案>」,平成 27 年 11 月 20 日 原子力規制委員会志賀原子力発電所敷地内破砕帯の 調査に関する有識者会合 [3] 「北陸電力株式会社志賀原子力発電所の敷地内破砕 帯の評価について<案>」に対する意見書」,平成 27 年 8 月 10 日 北陸電力株式会社 [4] 「志賀原子力発電所 敷地内破砕帯に関する追加調 査 調査報告所(最終) 2.2.3 上載地層法による活 動性に関する調査結果」,平成 25 年 12 月 19 日 北 [5] 「志賀原子力発電所敷地内破砕帯に関する追加調査 察」,志賀・現調 5-2,平成 26 年 12 月 26 日 原子 中間報告書 1.発電所建設以前の地形に関する調 保全学 Vol.15-1 (2016) 底盤におけるシーム S-1 の状況」,志賀・現調 3-1, 平成 26 年 7 月 11 日 原子力規制委員会志賀原子力 発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合 [13] 「志賀原子力発電所敷地内破砕帯に関する追加調査 コメント回答 I.3.シーム S-1 の北西部(旧ト レンチ付近)に関する応力解析」,志賀・現調 5-2, 平成 26 年 12 月 26 日 原子力規制委員会志賀原子 力発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合 [14] 「敷地内破砕帯調査に関する有識者会合の進捗状況 について(報告)」,平成 28 年 1 月 6 日 原子力規 制庁 (平成 28 年 2 月 12 日) 保全学会からのお知らせ 著 者 紹 介 著者 : 片川 秀基 所属 : 北陸電力株式会社 土木部 専門分野 : 地質、 地盤、 耐震 著者 : 中嶋 光浩 所属 : 北陸電力株式会社 土木部 専門分野 : 土木耐震、 品質保証 原子力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2) 片川 秀基,Katagawa HIDEKI,中嶋 光浩,Nakashima MITSUHIRO 原子力発電所の敷地内破砕帯問題:志賀原子力発電所の敷地内シームの評価(その2) 片川 秀基,Katagawa HIDEKI,中嶋 光浩,Nakashima MITSUHIRO