タイ国における近年の原子力技術開発動向

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カテゴリ: 解説記事
0.本原稿に関して 1 利用が進められてきた。しかしながら、原子力発電に関 しては、その重要性はながらく 3 認識されているものの、 この度、タイ国原子力関係者の御厚意により、タイ国 における原子力事情に関する記事を日本保全学会に御寄 稿頂いた。英文で御作成いただいた原文は既に日本保全 学会英文誌である E-Journal of Advanced Maintenance Vol. 8-1 の GA20 として発表されているが、本稿は保全学会 会員の利便性向上のために原文を和文に翻訳したもので ある。翻訳は基本的には原文に忠実となるように心掛け たが、一部より自然な日本語となるように説明の順序を 入れ替えた部位や重複を削除した部位、著者からの説明 を踏まえてより適切と思われる表現に変更した部位もあ るため、完全には原文と一致してはいない。また、著者 からの追加説明やタイ国における原子力の経緯などの、 本稿を理解するために必要と思われる情報を脚注として 追加している。脚注も含め日本語化に伴う問題は全て翻 訳者(遊佐 1)の責であることをお断りさせていただき たい。 1.はじめに タイ国の原子力利用は古く、米国大統領アイゼンハウ ワーの国連総会での原子力技術の平和的利用促進に関す る提言に基づいてタイ国にも派遣された米国使節団と の原子力利用に関する議論にまでさかのぼる。その後 1961 年に原子力平和利用法が制定され 2、医療、農業、工 業、及び研究教育分野などの様々な分野における原子力 1 連絡先 : 遊佐訓孝、〒 980-8579 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-6-01-2, 東北 大学量子エネルギー工学専攻東アジア人材育成推進室 E-mail: noritaka.yusa@qse.tohoku.ac.jp 2 原文では Thailand has started the peaceful utilization of nuclear program in 1961 であるが、脚注 40 に述べるように 1961 年の開始とは法律の制定及び 2.3 節の OAP( 当時は OAEP) の設立を指すものと考えられる。著者に確認をとったところ、 full range of nuclear technology program in Thailand の始まりは Thai Atomic Energy Commission の体制が確立した 1957 年とみなされているとのこと。 導入は遅れているのが現状である 4,5。 2.タイ国における主たる原子力関連組織 タイ国における 4 つの主たる原子力関連組織、即ち ? 原 子 力 委 員 会 に 相 当 す る Thai Atomic Energy Commission6 ? 非政府組織 7 である Nuclear Society of Thailand ? 規制当局である Office of Atoms for Peace ? 原 子 力 研 究 所 で あ る Thailand Institute of Nuclear Technology について 8、本節において説明する。 2.1 The Thai Atomic Energy Commission9 1954 年 11 月 17 日に、アメリカ原子力委員会のタイ 国公式訪問に際して、タイ国政府は科学に関連する様々 な分野の専門家からなる「Committee on Atomic Energy」 と名付けられた委員会(1956 年に現在の Atomic Energy 3 原文における several years back はかなり以前からの意味。タイ国は 1970 年ご ろに原子力発電導入が具体化したが、タイ湾における天然ガス田発見等により計 画が中断された。その後現在に至るまで原子力発電導入に関して政府レベルでの 検討はされているものの、具体的な建設計画には至っていない。ただし、計画自 体は中止(terminated)されたということでは無く、長く棚上げ(shelved)され た状態とのこと。 4 タイ国は現在原子力発電所を有しておらず、2012 年における電力需給バラ ンスは、水力 8,431 GWh、火力 155,315 GWh、再生エネルギー 2,700 GWh、輸入 10,527 GWh であり、火力はタイ湾及びアンダマン海にて産出される天然ガスを 5 2007 年の国家電力開発計画では 2020 年頃に 500 万 kW の原子力発電所を運 転開始する予定となっていたが、福島第一原子力発電所事故を受けて延期された という経緯がある。 7 non-governmental organization, NGO 8 日本語化に伴う混乱を避けるために組織名は英語のままとしている。また、 以後も対応する和名が明らかであるものを除いては、基本的に組織名は英語のま まとしている。 9 日本語名はタイ原子力委員会もしくは原子力エネルギー平和利用委員会。 用いたコンバインドサイクルによるものが主である。 6 後述のように Thai Atomic Energy Commission for Peace が現状の正式名。 保全学 Vol.15-2 (2016) Commission for Peace に改名)を設けることを承認し た 10。同委員会は 1957 年 12 月 7 日に内閣に対して、米国 の支援を受けて最初の研究炉建設も含むタイ国における 原子力技術導入を提言 11 し、内閣は後日これを承認した 上で同委員会を原子力導入計画推進のためのものと位置 付けた。当時の事務局は暫定的に Department of Science Service12 内に設置されており、原子力工学もしくは原子 力理学に関する教育訓練を受けた政府関係者により運営 されていた。本委員会の議長は首相が務めることとなっ ている。 2.2 The Nuclear Society of Thailand (NST) [2] The Nuclear Society of Thailand ( 以下 NST) はタイ国内 の原子力分野の専門家からなる非政府組織である。NST は原子力科学に関する政策の実現を支援すること、また 医学、農業、工業、環境、教育そしてエネルギー生産に おける原子力の利用について公衆教育を行うことを目的 としている。また放射線従事者及び一般公衆に対する適 切な防護措置の促進も目的の一つである。NST の主た る業務は会員及び一般市民に対して原子力に関する知識 及び各種情報、そして情報交換の場を提供することであ る。情報の提供は、技術文書、論文誌、ウェブサイト、 セミナー、ワークショップ、技術体験等の様々な手段で 行われている(Fig. 1, 2 参照)。また NST は国内外の機 関の交流の促進も行っており、近年では学会長と数名の メンバーが将来の原子力研究及び教育分野における協力 の可能性の議論のため東北大学を訪問している (Fig. 3)。 2.3 The Office of Atoms for Peace (OAP)13 [1] The Office of Atoms for Peace ( 以下 OAP) は 1961 年の タイ原子力平和利用法を受けて 1961 年に設立された 14、 現在は科学技術省に所属する政府機関である。OAP は 原子力及び放射線安全規制を行う公的機関であると同時 に作業員及び公衆の安全のために原子力技術 15 の利用が 国際標準に従ったものとなるような提言も行っている。 10 1954 年の設立時点では委員の専門は全ての原子力分野を網羅してはいな かったため、1956 年に委員を追加し、更にその後委員会の下に sub-committees が 設けられた。 11 原文には無いが、著者からの追加情報に基づく。 12 現在の Department of Science Service (Ministry of Science and Technology 下に ある15 の組織の 1 つ)。現在の事務局は2.3 の Office of Atoms for Peace である。尚、 Thai Atomic Energy Commission for Peace は首相直下であるが、Office of Atoms for Peace は科学技術省(Ministry of Science and Technology)の下の組織。 13 日本語名はタイ原子力庁もしくはタイ原子力平和利用事務局。 14 設立当時の名称は Office of Atomic Energy for Peace (OAEP) 15 原文では nuclear energy となっているが、実際には原子力発電は行われてい ないため、原子力技術とした。 国の規制当局である OAP は公衆の教育及び原子力技術 の利用に対する規制により、使用者及び公衆の安全を確 保 16 するという責任を有している 17。さらに加えて、タイ 国は原子力の平和利用を誓約しているため、OAP はま た IAEA 等の国際協定及び国内の協定に対する署名に関 する手続きにも責任を有している。OAP の主たる目標 はタイ国における原子力の平和利用が先進国と同等のも のとなることである。OAP の事務局 (Fig. 4) はバンコク Chatuchak の Vibhavadee Rangsit Road に位置する。 Fig. 1. International seminar to exchange knowledge on nuclear technology Fig. 2. Technology visit to the hydropower plant in the south of Thailand 16 タイにおいては 2000 年にもともとは放射線治療用に用いられていた 60Co 線 源を所有者が適切に管理しなかったため、廃棄物処理場作業員及びその家族 10 名が大量被ばくし、うち 3 名が死亡するという事故が起きている。 17 2.4 に述べるように研究及び原子力サービス部門が TINT として分離された ため、現在の OAP は regulating, planning and policy making in nuclear activities of the country とのこと。 Fig. 3. The president and committee members of the Nuclear Society of Thailand visit Tohoku University to generate international collaboration on nuclear research and education. Fig. 4. The Office of Atoms for Peace in Bangkok, Thailand. 2.4 Thailand Institute of Nuclear Technology (TINT)18 [3] Thailand Institute of Nuclear Technology ( 以下 TINT) は、 2006 年 4 月 21 日発布法令及び 2006 年 11 月 21 日の閣 議決定により、上述の OAP から原子力研究部門が分離 され、原子力の研究開発の推進のために新たに科学技 術省の下に設けられた研究機関である 19。研究に加えて、 TINT は原子力技術を用いたサービスの提供も行ってい る。研究項目及び提供サービスは、RI 生産、ガンマ線 撮影、放射化分析、中性子ラジオグラフィー、宝石に対 する放射線照射 20、放射線照射による材料及び農産物の 特性改善などがある。 TINT は 3 つの事務所 / 研究所を有しているが、本部 は Fig. 5 に示すバンコクの東北約 70km の距離にある Ongkharak Research Center である。TINT は原子力技術の 利用に関する一般向けの教育サービスも提供しており、 18 正式名称は Thailand Institute of Nuclear Technology (Public Organization) と括 弧書きがつく。これは科学技術省の下ではあるが、完全に政府機関である OAP 等とは異なった法規制に従うものであることを示している。 19 International regulation に整合させるためとのこと。 20 宝石に放射線を照射することで色を変化させることが出来る。 Research Reactor 1/Modification 1 (TRR-1/M1) を有してい る。TRR-1/M1 は TRIGA Mark III 型の炉であり、当初は 熱出力 1 MW の Plate-type の燃料を用いる TRR-1 とし Fig. 5. The Thailand Institute of Nuclear Technology (Public 21 本段落の一部は著者からの追加説明に基づく。 解説記事「タイ国における近年の原子力技術会発動向」 2MW の研究炉、食品及び農産物に対する半商用照射施 設である 450,000 キューリーのコバルト 60 ガンマ線源、 宝石に対する放射線照射処理サービスのための電子ビー ムライン、植物の品種改良のための照射装置などのいく つかの原子力施設を有している。加えて、農産物照射の ための工業スケールの電子ビームライン及び RI 生産の ためのサイクロトロンの建設を準備中である。 TINT は ま た、 熱 出 力 2MW の 研 究 炉 で あ る Thai て設計、建設が行われた。TRR-1 の建設は 1961 年に開 始され、1962 年に臨界を達成したが、その後、研究及 び応用に対する需要の高まり及びより多くの医療用 RI を生産する必要性を受け、1975 年から 1977 年にかけて Rod-type の燃料を用い出力が 2 MW である現状の TRR- 1/M1 へと改造が行われた。TRR-1/M1 は 1977 年に臨界 を達成しており 21、現時点では TRR-1/M1がタイ国が保有 する唯一の原子炉である。 保全学 Vol.15-2 (2016) Organization), Ongkharak, Nakhon Nayok れているものである。タイ東北部 25 のスラナリー工科大 3.研究及び教育活動 [3-5] タイ国における原子力技術に関する研究の大半は前述 の TINT において行われている。TINT の研究分野は医 療応用及び公衆衛生、農業応用、材料及び工業応用、環 境関連、さらには中性子散乱や核融合などの先端技術に まで広がっているが、その詳細は TINT のホームページ (www.tint.or.th)を参照のこと。 核融合に関する研究は 2004 年以降タイ国における主 たる研究の一つである 22。それらのうちの大半は理論及 び数値シミュレーションを用いたものであり、実験計画、 理論と実験結果の検証、プラズマ制御技術開発、そし てITER等の次世代炉の設計に資することを目的として、 トカマクプラズマの温度及び密度の時間的な変化の評価 が行われている。また、近年フランス CEAの協力により、 ASEAN School on Plasma and Nuclear Fusion が開催され た 23。これはタイ国およびASEAN諸国の大学院生及び若 手研究者にプラズマ及び核融合に関する基礎と関連する 近年の研究動向に関する知識を提供することを目的とし たものである。 タイ国内には原子力に関して学部から博士レベルの教 育を行っている教育機関がいくつか存在している。最 も古いものは 1975 年に設立されたチュラロンコーン 大 学 の Department of Nuclear Technology で ある。 チ ュ ラロンコーン大学における原子力教育は、タイ国の他 の原子力機関同様、国際的な支援、特にカナダ、フラ ンス、日本からのものを受けてきており、現在修士号 (Master of Science in Nuclear Technology) と博士号 (Doctor of Engineering in Nuclear Engineering) が取得可能な大学 院レベルでの教育が行われている。一方、プログラム自 体は策定済みではあるものの、現状原子力工学に関する 学士号 (Bachelor of Engineering in Nuclear Engineering) の ための学部教育は行われていない 24。 チュラロンコーン大学以外においても、タイ国内の多 くの大学において原子力工学は工学を学ぶ学生の選択科 目となっている。さらに、核物理及び放射線科学は複数 の大学において理学を学ぶ学生に対して一般的に教えら 22 タイ国におけるすべての研究分野においてという意味ではなく、タイ国に おける原子力研究の中でという意味と思われる。 23 2016 年 2 月に第 2 回が開催されており、関係者によると今後毎年開催する 予定であるとのこと。 24 関係者によると近く学部学生も受け入れる予定であるとのこと。 学は原子力工学の修士及び博士カリキュラムを策定し、 近い将来学生募集を始める予定となっている。 核物理学においては、カセサート大学の Department of Applied Radiation and Isotopes が教育及び研究におい て 30 年以上重要な役割を果たしてきている。当該専 攻では原子力に関連して Bachelor of Science in Radiation Bioscience、 Bachelor of Science in Nuclear Science、そして Master of Science in Applied Radiation and Isotopes の 3 つ の学位が現在取得可能である。さらに加えて、原子力利 用の拡大に対応するため、Nuclear Science26 に関する国 際的な修士及び博士課程が数年のうちに開講する予定 となっている。また、当該専攻はタイ王国発電公社 27 や OAP 等と共同で教員及び所属学生が Nuclear Camp とい う原子力啓蒙活動を毎年行っている。この Nuclear Camp はタイ国の中学生及びタイ国民を対象として行われてお り、放射線及び原子力技術に関する基礎知識を提供する ことで、放射線関連分野に対する正しい態度を形成する ことを目的としたものである。 チェンマイ大学、タマサート大学シリントーン国際工 学部 28 等の他の大学においても原子力に関連する研究が 活発に行われている 29。また、タイ国の複数の大学の物 理学科において原子力に関連した科目が提供されてい る。4.パブリックアクセプタンス 30 2012 年タイ国エネルギー省 NPP program Development Office は IAEA に 対 し て “Public communication program before and after Fukushima accident”との報告書を提出し た [4]。当該報告書は . 原子力発電所に対するパブリッ クアクセプタンスは福島第一原子力発電所事故と公衆の 原子力(特に原子力発電所 31)に対する知識の欠如によっ て揺らいだと感じられると強調している。しかしながら、 バンコク内の 3 つの高校における計 638 名の高校 2 年生 を対象とした調査の結果、調査対象者の原子力発電に関 25 タイ国には中央部、東北、北部、南部の 4 つの地域があり、チュラロンコー ン大学が位置するバンコクはタイ国の中央部である。 26 Nuclear Physics を指す。 カセサート大学のように学科もしくは専攻としてというものではない様子であ る。また、チェンマイ大学は Department of Radiology の存在を指していると考え られる。 30 原文の Public Acceptance は全てパブリックアクセプタンスと訳している。 31 NPP は全て原子力発電所と訳している。 27 Electricity Generating Authority of Thailand(通常 EGAT と略される)の和名。 28 タイの著名大学であるタマサート大学内に経団連の支援も受けて設立され た特別な学部であり、タマサート大学とは人事、財政が完全に独立している。 29 ただし、シリントーン国際工学部での研究活動はチュラロンコーン大学や する政策に対する支持及び原子力発電に対する受容の度 合いは福島第一原子力発電所事故によって低下している ということはないこともまた示されている [5]。 さらに、7 つの FNCA(Forum for Nuclear Cooperation in Asia, 2011) 参加国における公衆意見調査 [6] では、タイ 国の高校生は、原子力発電所について、環境への影響、 生体への影響、そして運転における安全性に関する知識 を特に重要視していることが明らかとなった。 近年、タイ国の社会心理学及び行動科学に関する研究 者が原子力研究者と共同で原子力発電所に対するパブ リックアクセプタンスの前件に関する研究を行った。原 子力発電所に関する知識がタイ国における原子力発電所 の受容性において最も重要な前件であることが明らかと なった [7,8]。先端的な科学技術、安全性、そして社会 の利益が 3 つの重要な事柄である 32[9]。様々な観点にお ける知識のインターベンションの有効性、即ち政府に対 する信頼、原子力発電所に関する知識、そして原子力発 電所の受容性は、国の経済成長政策に沿ってタイ国にお ける原子力発電所の建設と運転の未来に対する強い希望 をもたらすために、早急に、ただし注意深く形作られね ばならない。 5.工業及び農業応用 [1,3] タイ国においては原子力技術は工業及び農業分野にお いて活用されている。Nuclear gauge33 は石油化学分野を 含む多くの工業分野において用いられている。TINT に おいてはまた透過撮影及び品質保証のための様々な X 線活用技術サービスを提供している。宝石に対する放 射線照射処理サービスは TINT にとって大きな収入源と なっている。 タイ国においては農業が主たる産業であるため、農産 物の品質向上のために原子力技術は長く活用されてき た。米の品種改良や fruits fly34 の駆除は主たる成功例で ある。TINT 及び民間部門は国内及び輸出向けの食糧品 及び果物に対する放射線照射も行っている。農作物の品 種改良は主として放射線照射によっている。 6.核医学 タイ国における医療診断及び治療分野での原子力技術 32 本文以降原文には文法の誤りもあり、意味が不明瞭である。 33 放射線の透過を利用した対象の厚みや密度、水位などの測定技術。 34 様々な種を指す用語であるため、混乱を避けるため原文のままとしている。 の歴史は古い 35。131I は甲状腺治療のために用いられてき ており、現在まで、TINT が何種類かの医療用 RI 及び標 識化合物の生産を行っている [11]。RI 全体の用途別割 合は、87% が遠隔放射線治療用、3% が品質管理用、1.2% が放射線治療用、0.1% が小線源治療用、そして 8.3% が ガンマ線照射用である 36[12]。タイ国において用いられ ている主たる RI は、60Co、137Cs、131I、124I、90Sr、99mTc、 11C、18F、68Ga、153Sm である。加えて、国内にはいくつ かの核医学用医療用施設が存在しており、国内大小さま ざまな医療機関で用いられている X 線照射設備は数千 に上る。サイクロトロンや線形加速器、60Co を用いたガ ンマナイフ等も核医学専門家による高度治療に活用され ている。 7. OAP 規制下での原子力安全及び 核セキュリティ 原子力技術の平和・安全利用及びタイ国一般国民の安 全のため、OAP は複数の法、規制、告示を策定してきた。 目的が輸出入、単なる使用、研究であっても、原子力施 設もしくは放射性物質を有する組織はこれらに従うこと が義務付けられており、また OAP に対する状況の定期 的な報告及び OAP による査察を受け入れなければなら ない。OAP はまたタイ国内における原子力インシデン ト及び原子力事故対策のための原子力非常事態対策室を 有している。しかしながら、原子力発電を開始するにあ たっての法と規制の策定は進んでいない。 8.タイ国の原子力エネルギー政策 現時点で、タイ国が有する原子炉は多目的研究炉 1 基 のみであり、原子力発電所はタイ国国内には存在しない。 しかしながら、原子力発電の重要性については長く 37 認 識されてきた。 タイ国の 2010-2030 年国家電力開発計画 (PDP2010) は 2010 年 3 月にタイ国の National Energy Policy Council 及 び内閣によって承認された 38。エネルギー省の政策枠組 に基づき、PDP2010 はエネルギー安全保障及び国内の エネルギー需要のみを考慮したものではなく、温室効果 35 原 文 は several years back。 タ イ 核 医 学 学 会 (Nuclear Medicine Society of Thailand) の設立は 1977 年であるが、原子力技術の医療応用はそのはるか前にま Policy Office によって策定され、National Energy Policy Council による承認の後、 内閣に提出される。具体的な体制は http://www.eppo.go.th/doc/doc-manage.html が 詳しい。 解説記事「タイ国における近年の原子力技術会発動向」 でさかのぼるとのこと。 36 多少不明瞭であるが、原文に沿った。 37 原文は several years back。 38 タイ国の国家電力開発計画 (PDP) は、エネルギー省下の National Energy 保全学 Vol.15-2 (2016) ガス排出量の削減とコジェネレーションによる発電量増 加、エネルギー利用効率の向上、そして政府の 15 年再 生可能エネルギー開発計画 (2008-2022) に沿った再生可 能エネルギーの利用推進も含んだ「グリーンな国家電力 開発計画」となっていた。 しかしながら、電力需要の急増と独立系発電事業者の 各種プロジェクトの遅れにより、電力供給予備力が危 険なレベルにまで低下するリスクが生じてしまったた め、政府はタイ王国発電公社による 3 つのコンバインド サイクル建設計画を前倒しし、また小規模事業者からの 電力買い上げを 2019 年までに 3,500MW と上方修正し た PDP2010:Revision 1 の公布に踏み切った。この修正は National Energy Policy Council 及び内閣により 2010 年 11 月に承認 39 されている。 2011 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災により引き 起こされた福島第一原子力発電所事故は世界中の原子力 開発計画に衝撃を与えたが、それはタイ国の原子力計画 に対しても同様であった。タイ国エネルギー省は原子力 安全基準の審査と国内の法及び規制の枠組みを策定す るために、国内第1号原子力発電所建設計画を国家電 力開発計画から 3 年間延期することを提案した。これ を受けてさらに修正が加えられた国家電力開発計画で ある PDP2010:Revision 2 はタイ国 National Energy Policy Council 及び内閣によってそれぞれ 2011 年 4 月 27 日及 び 5 月 3 日に承認された。この PDP2010:Revision 2 にお いては、タイ国における最初の原子力発電所の商業運転 の開始は当初の 2020 年から 2023 年に延期され、天然ガ スを用いた発電がその代替とされている。 2011 年末時点において長期的な国家電力開発計画に 沿った原子力導入計画は進行中ではあるものの、遅れが 生じている。にもかかわらず、最新の国家電力開発計画 (PDP2015) は 2036 年における原子力発電の割合を 5% としている [13]。 9.国際関係 1957 年 10 月 15 日、タイ国政府は IAEA 憲章を批准し、 IAEA の 58 番目の加盟国となった。加えて、タイ国は 世界のいくつかの機関と活発な交流を続けている。日本 が主導し 12 の国が加盟する Forum of Nuclear Cooperation in Asia はその一例である。加えて、タイ国政府及び研 究機関はいくつかの国際協力や合意、MOU 等を有して いる。 39 原文は endorse だが、混乱を避けるため全て「承認」とした。 10.結言 タイ国における原子力に関する各種取り組みは 1957 年の原子力技術導入 40 にまでさかのぼる。すべての現状 の原子力応用技術は一般国民の高い理解と共に取り入れ られてきているとはいえるが、タイ国民はまだ原子力発 電の導入には慎重である。タイ国の研究者は原子力分野 においても精力的に活動しており、また原子力関連の研 究者は政府系研究所から高等教育機関まで広く在籍して いる。一方、原子力技術を用いたサービスを提供してい る民間企業は限定的であり、それがタイ国における原子 力技術の増加を拒んでいる一因でもある。原子力技術の 利用に際しての公衆の安全確保のため、法及び規制の整 備が進められている。しかしながら、特に原子力発電を 導入するための法規制の整備は不十分 41 である。 参考文献 [1] http://www.oaep.go.th/ (retrieved on January 20th, 2016). [2] http://www.nst.or.th/ (retrieved on January 20th, 2016). [3] http://www.tint.or.th/ (retrieved on January 20th, 2016). [4] P. Karasuddhi: “Public communication program before and after Fukushima accident.” Nuclear power plant program development office (NPPDO), Ministry of Energy, Thailand (2012). [5] D. Bhanthumnavin, V. Bhanthumnavin: “Fukushima impacts on NPP acceptance of high school students in Thailand”. ANS (2013). [6] FNCA 2010 project: “Public opinion survey on nuclear energy in seven FNCA countries” Forum for nuclear cooperation in Asia (FNCA), Public information leaders meeting, Hanoi, Vietnam. (February, 2011). [7] D. Bhanthumnavin, V. Bhanthumnavin: “Trust in the government, gender, and technical knowledge in college students as correlates of the three dimensions of attitude towards NPP establishment in Thailand.” paper presented at GLOBAL, Chiba, Japan (December 11-15, 2011). [8] D. Bhanthumnavin, V. Bhanthumnavin: “Post Fukushima research evidence on public acceptance of SMR in Thai youths.” Powerpoint presented in Technical Meeting 40 複数の著者が分担しているためか、「タイ国における原子力の始まり」につ いては、やや混乱を招くものとなっている。時系列を整理すると、1954 年に米 国との原子力の平和利用検討のため Thai Atomic Energy Commission を設立、1957 年に IAEA に加盟、1961 年に原子力平和利用法を制定し OAP( 当時は Office of のこと。 Atomic Energy for Peace (OAEP)) を設立、研究炉の建設開始となっている。 41 原文では crucially needed。著者に確認をとったところ not sufficient の意味と on Technology Assessment of Small and Medium-sized Reactors (SMRs) For Near Term Deployment, CNNC/ NPIC, Chengdu, China, 2-4 September, (2013). [9] V. Bhanthumnavin, D. Bhanthumnavin: “Knowledge dimensions and NPP sites acceptance in Thai university students: Implications for knowledge management”, Proc. the 1st International Conference on Technical Education (ICTE2009), Bangkok, Thailand. January 21- 22, (2010). [10] D. Bhanthumnavin, V. Bhanthumnavin: “The predictors of behavioral tendency to support nuclear power plant in Thai university students with different academic major”. Paper presented at the International Conference, Shinawatra University, Prathumtanee, Thailand. (2013). [11] Private communication, Bureau of Radiation Safety Regulation, Office of Atoms for Peace, (December 2015). [12] Radioisotope Production Center, http://www.tint.or.th (retrieved on January 20, 2016). [13] http://www.eppo.go.th/power/ (retrieved on January 20, 2016). (平成 28 年 4 月 20 日) 著 者 紹 介 著者:Sirinart LAOHAROJANAPHAND, Ph.D 所属: Vice Precsident the Nuclear Society of Thailand 専門分野: Nuclear Analytical Techniques, Isotope Hydrology and Applications of nuclear technolgy in various fields 著者:Chainarong CHERDCHU 所属:The Nuclear Society of Thailand 著者:Tatchai SUMITRA 所属:The Nuclear Society of Thailand 所属:Kasetsart University 解説記事「タイ国における近年の原子力技術会発動向」 著者:Wanwisa SUDPRASERT 著者:Nares CHANKOW 所属:Chulalongkorn University 著者:Kanokrat TIYAPAN 所属: Thailand Institute of Nuclear Technology 著者:Thawatchai ONJUN 所属: Sirindhorn International Institute of Technology 著者:Duangduen BHANTHUMNAVIN 所属: National Institute of Development Administration タイ国における近年の原子力技術開発動向 Sirinart LAOHAROJANAPHAND,Chainarong CHERDCHU,Tatchai SUMITRA,Wanwisa SUDPRASERT,Nares CHANKOW,Kanokrat TIYAPAN,Thawatchai ONJUN,Duangduen BHANTHUMNAVIN タイ国における近年の原子力技術開発動向 Sirinart LAOHAROJANAPHAND,Chainarong CHERDCHU,Tatchai SUMITRA,Wanwisa SUDPRASERT,Nares CHANKOW,Kanokrat TIYAPAN,Thawatchai ONJUN,Duangduen BHANTHUMNAVIN
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