原子力発電所の保守管理規程/指針(JEAC4209/JEAG4210)の改定
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1.はじめに 日 本 電 気 協 会「 原 子 力 発 電 所 の 保 守 管 理 規 程 」 (JEAC4209)は、「検査の在り方に関する検討会」で示 された保守管理の基本的理念を受け、平成 15 年に規 定化し、平成 19 年及び平成 26 年に改定を行った。ま た「原子力発電所の保守管理指針」(JEAG4210)は、 JEAC4209 の改定に合わせ、平成 19 年に制定し、平成 26 年に改定を行った。 平成 19 年の制改定では、「検査の在り方に関する検討 会」の議論を踏まえた「新保全プログラム」を取込んだ。 平成 26 年の改定では、新規制基準における要求事項の 反映、他の保全活動との連携、保全活動管理指標の更な る活用、状態監視の更なる活用の観点から改定を行った。 今回 ( 平成 28 年 ) の改定は、新規制基準の適用により 重大事故等対処設備(SA設備)が導入されたことに伴い、 保全に係る基本的なルールの反映、海外文献調査を踏ま え、保全活動におけるリスク情報の活用を積極的に活用 する観点から改定を行った。 なお、本規程・指針においては、リスク情報とは確率 論的リスク評価 (PRA) から得られる原子力発電施設の リスクの程度について定量的な情報だけではなく、PRA の途中経過から得られる情報を含めた様々な情報の総称 と定義した。 2.改定のポイント 2.1 SA 設備の保全に係るルール策定 1保全対象範囲の明確化 可搬設備、汎用品、消耗品等からなる SA 設備も含め て、保全対象設備の範囲を明確化した。 2保全重要度 事故収束に必須となる SA 設備は原則、保全重要度 「高」とするが、リスク情報、運転経験等を考慮して、 要求される機能を確保する上で保守管理の果たす役割の 程度を検討して保全重要度を設定できるよう考慮した。 3 SA 設備の留意点 これまでに運転経験が少ない SA 設備については、保 全情報の蓄積・共有が必要であること及び保全の有効性 評価の結果は保全計画等への反映だけでなく、設計や配 置計画にも反映し、重大事故対応時の当該設備の信頼性 をより向上させることに努めることが重要であることを 考慮した。 2.2 海外文献調査 平成 19 年改定時に参考とした米国規格等に加え、保守 管理に係る IAEA の安全基準[1][2][3]についても 調査を行った。 その結果、原子力安全を向上させる観点から保守管理 に必要なプロセスは既に規定されていることを確認し た。 一方で、「保全活動に伴うリスク管理」に関する具体 的な記載が充実していることから、これを参考に記載の 充実を図ることとした。 2.3 リスク情報の積極的な活用 リスク情報の更なる活用を追加した保全プログラムを 図1に示す。記載を追加した概要は、以下のとおり。 1 各種保全活動に対するリスク影響評価 設備の改造工事等において PRA によるリスク情報を 考慮して実施要否や優先度を検討することを推奨した。 2プラント安全管理 (a)PRA による情報を活用した停止工程の策定 保安規定に定める措置に加え、PRA による情報を活 用し原子力安全が確保された状態での各設備の停止工程 を策定することを推奨した。 (b) 停止期間中の変動するリスク増減の把握及び対策 リスクモニタ等で停止期間中のリスクの時間的変化 ( 炉心損傷頻度の変化量 ( Δ CDF) や運転上の制限 (LCO) 解説記事「原子力発電所の保守管理規程 / 指針(JEAC4209/JEAG4210)の改定」 図1 リスク情報の積極的な活用 図2 JEAC4209/JEAG4210 の継続的な改善 保全学 Vol.16-1 (2017) 逸脱可能性 ) を評価し、関係者に周知すること及びリス ク増加の要因となる作業、リスク上重要度が高くなる設 備に対してリスク低減対策を検討することを推奨した。 3リスク情報を用いた保全プログラムの最適化 現行規程でもリスク重要度 ( リスク増加価値 (RAW)、 ファッセルベズレイ (FV) 重要度 ) 等を用いて保全重要 度を設定することとしているが、実情は安全重要度分類 指針に示される安全重要度を重視した保守的な保全重要 度の設定をしている。事業者が積極的にリスク情報を活 用して適切なリソース配分を図る検討をすることを推奨 した。 4 PRA への保全結果の反映 PRA の影響が見込まれる改造工事については PRA モ デルへの反映を実施すること及び設備故障に係る情報を 積極的に蓄積することで PRA モデル高度化に寄与させ ることを推奨した。 3.おわりに 日本電気協会保守管理検討会では、発電用原子炉施設 の安全性、電力の供給信頼性を確保するための保守管理 の基本要件を規定する JEAC4209/JEAG4210 の継続的な 改善に向け、更なる改定の検討を行っている。 平成 28 年度から原子力規制委員会において、米国の 原子炉監督プロセス (ROP) 等の海外事例を踏まえ、事 業者自らがより高い安全確保の水準を目指し、継続的な 改善を促す仕組みとするために検査制度の見直しが開始 された。本検討状況を的確に把握して、平成 32 年度に 予定されている新たな検査制度への移行に向けて、今後 も必要な改定を行っていく。( 図 2 参考 ) 参考文献 [1] NEI NUMARC93-01 (Rev.4A/2011.4) Industry Guideline for Monitoring the Effectiveness of Maintenance at Nuclear Power Plants [2] IAEA SSR-2/2 (2011) Safety of Nuclear Power Plants: Commissioning and Operation [3] IAEA NS-G-2.6 (2002) Maintenance, Surveillance and In-service Inspection in Nuclear Power Plants (平成○年○月○日) 著 者 紹 介 著者 : 笠毛 誉士 ご所属 : 九州電力株式会社 発電本部 原子力設備グループ 専門分野 : 保全全般 著者 : 梅岡 貴志 所属 : 電源開発株式会社 原子力技術部 設備技術室 専門分野 : 設備設計 著者 : 堀水 靖 所属 : (財) 原子力安全推進協会 著者 : 鈴木 直浩 所属 : 中部電力株式会社 原子力部 運営グループ 専門分野 : 保全全般 施設運営本部技術運営部 保全グループ 専門分野 : 保全技術、 技術基盤 原子力発電所の保守管理規程/指針(JEAC4209/JEAG4210)の改定 鈴木 直浩,Naohiro SUZUKI,笠毛 誉士,Takashi KASAMO,梅岡 貴志,Takashi UMEOKA,堀水 靖,Yasushi HORIMIZU 原子力発電所の保守管理規程/指針(JEAC4209/JEAG4210)の改定 鈴木 直浩,Naohiro SUZUKI,笠毛 誉士,Takashi KASAMO,梅岡 貴志,Takashi UMEOKA,堀水 靖,Yasushi HORIMIZU