原子力発電所における核セキュリティと課題(1)核セキュリティの基礎

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カテゴリ: 解説記事

はじめに 2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平洋沖地震は 日本周辺における観測史上最大の地震となり [1]、この 地震に伴い発生した津波が東京電力福島第一原子力発電 所(以下、1F)を襲った。1F は全交流電源喪失状態に陥り、 原子炉内部や核燃料プールへの注水を行えず、原子炉を 冷却できなくなったことで炉心溶融に陥り、最終的には 大気中、土壌、溜まり水、立坑、海水、および地下水へ の広範囲に渡る放射性物質の放出事故に至った。この事 故は国際原子力事象評価尺度 (INES: International Nuclear Event Scale) において、1986 年のチェルノブイリ原子力 発電所事故と同レベル最悪のレベル 7(深刻な事故)に 分類され [2]、かつ 1999 年の東海村 JCO 臨界事故のレ ベル 4 を超える、日本史上最悪の原子力事故となった。 事故発生後、さまざまな新聞、テレビ、インターネッ トを通して、安全上の枢要設備等が図解付きで、かつア クセスルートも含めて複数の専門家らに解説され、1F 事故の詳細な内容が世界中に広く知れ渡ることとなっ た。その中には、外部電力供給施設などの重要な機器、 設備で周辺監視区域外に設置されているものが存在する ことや、電源装置や冷却装置を代表とする枢要設備を意 図的に破壊することで、同等の事故を引き起こせると連 想できる内容のものもあった。このことにより、敵対す る国に対してのテロリズムを狙うテロリスト集団や個人 にとって、原子力発電所は魅力的な攻撃ターゲットのひ とつと認識されてしまった可能性が否定できない。いま や、原子力発電所を含む原子力施設の枢要設備を狙った テロリズムに対するセキュリティの強化が急務であるこ とは世界共通の認識となっており、いかにそれを実現す るかが各国における重大な課題となっている。 そこで、原子力発電所に関する核セキュリティはどの ように考えれば良いのか?また、これまで想定されてい なかった課題は無いのか?またその課題の解決法は何が 8あるのか?などの点を整理することを目的に、本記事を 執筆することとした。本記事は下記の第 1 章~第 8 章に より構成され、計 4 回のシリーズとして執筆する予定で ある。第 1 章: 核セキュリティ関する重要な歴史と脅威の 高まり 第 2 章:核セキュリティの基礎 第 3 章:物理的防護システム 第 4 章:核セキュリティ技術 第 5 章:内部脅威者対策 第 6 章:福島第一発電所事故の教訓 第 7 章:安全とのインターフェイス 第 8 章:新たな核セキュリティ脅威 1. 核セキュリティに関する重要な歴史と 脅威の高まり 実は、核セキュリティ強化の早急な実施の必要性は、 1F 事故以前に起きた様々な事象により、徐々にではあ るが、すでに世界中で共通認識になりつつあった。 Fig. 1 に核セキュリティに関する重要な事象の年表を 示す。 1970 年代は、世界が東西に分かれて冷戦の真っ只中 にあり、またハイジャックなどの国際テロリズムが頻発 した時代であった。そのような状況の元、核テロ防止の ための核物質防護を目的とした取り決めを纏めようとい う動きが、国際原子力機関 (IAEA:International Atomic Energy Agency) を中心に始まった。その結果、核物質の 不法な取得・使用から守ることを目的とする条約であ る「核物質防護条約 (CPPNM: Convention on the Physical Protection for Nuclear Material)」が 1972 年に採択され、 さらに 3 年後の 1975 年 9 月には、核物質の防護を必要 とする施設および輸送中の核物質防護の要件を示す勧 告書である「核物質防護に関する勧告(Nuclear Security Recommendations on Physical Protection of Nuclear Material and Nuclear Facilities (INFCIRC/225)」 が 発 行 さ れ た。INFCIRC と は Information Circulars の略であり直訳すると「情報回 覧」であるが、IAEA が主要な論点をまとめて発行する 拘束力のないガイドラインという位置づけである。こ の INFCIRC/225 発行の前年にあたる 1974 年 5 月、イン ドが国連常任理事国以外の国で初めて核実験を成功さ せ、米・ソ・英・仏・中に続き世界で 6 番目の核兵器 保有国となった。この核実験をきっかけに INFCIRC/225 は 発行 か らわ ずか 2 年 後の 1977 年に 第 1 回の 改訂 (INFCIRC/225/Rev.1) を行い、核物質の防護を必要とす る施設および輸送中の核物質防護の要件を示す世界初の 文書となった。一方で、1979 年 3 月には米国でスリー マイル島原子力発電所事故が発生し、世界初の原子力事 故となった。また、米ソ冷戦の緊張をさらに高めるきっ かけとなったソ連によるアフガニスタンに侵攻が始まっ たのも 1979 年である。このように 1970 年代とは、東西 冷戦の副産物として核セキュリティ脅威の種(たね)が 生み落とされ、かつその東西冷戦自体も膨れ上がって いった時代であった。 米ソ冷戦の緊張がまだ収まる気配を見せない 1980 年 代の半ば、1986 年に発生したのがソ連(現ウクライナ) でのチェルノブイリ原子力発電所事故である。この事故 が遠因でソ連は崩壊したとも言われており、原子力は歴 史さえも左右し得る、ということを痛感する。一方、事 故から 1 年後の 1987 年 2 月に、核物質防護条約 (CPPNM) が採択から 15 年の年月を経て発効された。その 1 年後 の 1988 年には日本もこの条約に加入し、核物質防護規 定および核物質防護管理者等を追加する原子炉等規制法 の一部改正と関連法令の整備を行った。1989 年 12 月、 チェルノブイリ事故から 3 年後に当たるこの年に、地中 海のマルタ島で米ソ両首脳により開催されたマルタ会談 にて「東西冷戦の終結」が宣言されるという、まさに世 界平和が大転換する事件が起きた。このように 1980 年 代は、核セキュリティに関する基本文書が成立し始める とともに、長く続いた東西冷戦にようやく幕が下りた時 代でもあった。しかし、「東西冷戦の終結」は新たな脅 解説記事「原子力発電所における核セキュリティと課題 (1)核セキュリティの基礎」 Figure 1: 核セキュリティに関する重要な事象と年表 9保全学 Vol.16-3 (2017) 威をも産み出した。 1540 を、2004 年 4 月に採択した。また、核物質防護条 「東西冷戦の終結」宣言から 2 年後 1991 年、政治的権 威が著しく失墜していたソビエト連邦が、ついに崩壊し た。これには、チェルノブイリ原子力発電所事故がソ連 の技術力・社会組織に対する信頼性を大きく損ねたこと も深く関わっているはずである。一方、ソ連崩壊は、管 理が甘くなった原子力施設・核関連施設からの、核兵器 や核物質の海外への不法移転を誘発した。すなわち、「国 などが管理しない」核物質が、大量に世に放たれてしまっ たのである。国際原子力機関 (IAEA) が提供する不法取 引データベース (ITDB: Incident and Trafficking Database) の Fact Sheet 2016 [3] によると、1993 年から 2015 年ま でに 131 の加盟国から報告された「核セキュリティに関 する不法行為」の件数は 2889 件であった。実に、3 日 に 1 件の割合で発生しているという驚くべき頻度で、世 界のどこかで核セキュリティの不法行為が発生している のである。その端緒は紛れもなくソ連の崩壊であった。 このように、1990 年代は、核戦争の脅威に代わって新 たに核テロの脅威が頭を擡げた時期であった。そしてこ の時代に同時に頭を擡げ始めたのが、イスラム原理主義 者によるテロ事件である。テロ事件自体は 1970 年代か ら起き始めていたが、その件数が急増したのが 1990 年 代後半であった。 一方、INFCIRC/225 は、1993 年 9 月と 1999 年 6 月に それぞれ 3 回目と 4 回目の改訂版である Rev.3 と Rev.4 を発行している。日本ではこの Rev.4 を取り入れて 2005 年に原子炉等規制法及び関係省令を改正し、防護体制の 充実(核物質防護検査の実施・設計基礎脅威の策定・秘 密保持精度の導入)を図った。 そ し て 2001 年 9 月 11 日、 冷 戦 の 勝 者 と し て Pax Americana (アメリカによる平和)を謳歌していたアメ リカで、米国本土への初の攻撃となる同時多発テロ事件 が発生し、3,000 人を超える犠牲者を生んだ。この事件 が証明したのは、「テロは国境を越えてやってくる」、「核 テロも起こり得ないという保証はない」という厳しい現 実であった。さらに 3 年後の 2004 年、パキスタンの「核 開発の父」と言われたアブドゥル・カディール・カーン 博士を中心とした核の闇市場「カーンネットワーク」の 存在が明らかにされるとともに、リビア、イラン、北朝 鮮に核技術の提供があったことが発覚したことで、核テ ロ脅威とは決して夢物語ではなく現実の脅威であるとい うことを世界に知らしめたのである。国際連合はこの事 態に対処するため、加盟国に大量破壊兵器拡散抑止のた めの具体的な国内法整備を求める安全保障理事会決議 約 (CPPNM) も、国内輸送・使用・貯蔵中の核物質およ び原子力施設への適用範囲の拡大、および防護措置の強 化、条約上の犯罪の拡大等を骨子として 2005 年 7 月に 改正された。このように 2000 年代は、核テロ脅威が現 実に起こり得る脅威になるまで成長し、世界が核セキュ リティ強化のための対策に本格的に取り組み始めた時代 であった。 この流れを受けて、米・オバマ大統領が提唱し、2010 年 4 月にワシントンで開催されたのが第 1 回核セキュリ ティサミットである。サミットには各国の首脳および 国際機関が集い、核テロ対策のための基本姿勢や取り 組み状況、国際協力の在り方が議論された。また 2011 年 2 月には、INFCIRC/225 の第 5 回目の改訂版である Rev.5 が発行されている。そして同年 3 月、日本では悲 劇的な災害が起こった。3 月 11 日の東北地方太平洋沖 地震とこれに伴う津波によってもたらされた 1F 事故で ある。事故の詳細についてはここでは改めて述べないが、 1F 事故の教訓、および INFCIRC/225/Rev5 を取り入れ、 2012 年 3 月に原子炉等規制法関係省令が後述のように 改正されている。なお、第 2 回サミットは 2012 年 3 月 に韓国・ソウルにて開催された。 その後、第 3回サミットは 2014年 3 月にオランダ・ハー グにて開催された。第 3 回で採択された成果文書である コミュニケでは、核セキュリティと安全とのインター フェースの重要性が初めて盛り込まれた。そして最終回 である第 4 回サミットは 2016 年 4 月に再び米国・ワシ ントンで開催された。第 4 回コミュニケでは、全ての核 物質及びその他の放射性物質並びに各国の管理下にある 原子力関連施設のセキュリティを、あらゆる段階におい て効果的に維持することの国家の基本的責任が再確認さ れるとともに、国際協力のための IAEA の責任と重要性 も再確認された。 2.核セキュリティの基礎 ここでは基礎としてまず、核セキュリティとは何か? を、IAEA による核セキュリティ脅威の定義に基づい て説明し、かつ IAEA が構築しようとしている対策を、 IAEA 文書体系から説明することを試みる。 2.1 核セキュリティの定義 核テロリズム脅威とは核セキュリティが相対する脅威 のことであり、盗難、放射線物質の散布、水や空気の汚 染、妨害破壊行為の 4 種類が国際原子力機関 (IAEA) に 10よって想定されている [4]。具体的には,以下の 4 つの 脅威が現実のものとならないよう取られる措置のことを 核セキュリティと呼ぶ (Fig.2)。 1 軍用核兵器の盗取 2 核物質の盗取と核兵器製造 3 放射性物質の発散装置の製造 4 原子力発電所や再処理工場に対する妨害破壊行為 1の脅威では、核兵器製造・保管施設等の軍事施設か ら核兵器を盗取し、これをテロに使うことを目的とする。 2の脅威では、核燃料製造・貯蔵・再処理施設等から核 燃料物質を盗取し、これを用いて核兵器を製造すること が目的である。3は放射性物質取扱施設や病院等から 盗取した放射性物質を爆弾に混ぜ公衆で爆発させること で放射性物質を散布する放射能兵器(RDD: Radiological Dispersal Device) や、散布装置を用いて公衆を被ばくさ せる放射線散布装置(RED: Radiological Emission Device) など、いわゆる「汚い爆弾(=ダーティボム)」の製造 を目的としている。さらに4は、破壊行為によって安全 機能を喪失させ、重大過酷事故を引き起こすことが、そ 上記の 4 つの脅威の内、原子力施設への主要な脅威は 妨害破壊行為であると考えられている。なぜならば、原 子力施設はそもそも放射線物質を内部で扱っている都合 上、放射性物質による汚染への耐性を十分に持っている 響を与えることはないと考えられるためである。また、 原子力発電等で保管する使用済み核燃料が盗難にあう可 能性も存在するが、この脅威も施設そのものの機能へ甚 大な影響を与えることはない。一方で、妨害破壊行為は 原子力施設の枢要設備に直接的な被害を与えることを目 的としており、これにより安全機能を喪失させ得る。喪 失する機能によっては、1F 事故のような重大事故に至 る可能性もある。このため、妨害破壊行為への対応が原 子力施設では最重要視されている。 解説記事「原子力発電所における核セキュリティと課題 (1)核セキュリティの基礎」 の目的である。 ため、汚染によって施設自身への機能損失には直接の影 Figure 2: IAEA が提唱する4種の核セキュリティ脅威と対象施設等 [4] 11保全学 Vol.16-3 (2017) 2.2 IAEA 核セキュリティ文書 が盗取された場合等、それがテロに使用される前に、回 IAEA は、核セキュリティ計画を立ち上げ、加盟国が 自国の核セキュリティ体制を確立、実施、維持するのに 使うことができるように勧告及び手引きを提供するため の文書シリーズを策定した。 Figure 3 に、IAEA が 発 行 す る 核 セ キ ュ リ テ ィ に 関 す る 文 書、Nuclear Security Series (NSS) の 体 系 を 示 す。NSS は 基 本 文 書 (Fundamentals)、 勧 告 文 書 (Recommendations)、実施方針 (Implementing Guides)、技 術手引き(Technical Guidance)の4つの階層構造から成 る。最上層に位置するのが基本文書に相当する NSS No. 12, " Objective and Essential Elements of a States Nuclear Security Regime" であり、核セキュリティの目的・概念 および原則を含み、第 2 層である勧告文書の基礎となる。 第 2 層に位置するのは「What: なにをすべきか」を定 義する3つの勧告文書 NSS No. 13, 14 および 15 であり、 対策として不可欠な要素を詳細化し、基本文書を適用し ようとする加盟国によって実施されるべき勧告要件とし ての最良事例(ベストプラクティス)を示している。こ れら3つの勧告文書は互いに補完的で整合性のあるもの であり、包括的な国の核セキュリティ体制を確立するた めには3つの文書のすべての勧告が実施されるべきであ るとされている。 ■ NSS No. 13, " Nuclear Security Recommendations on Physical Protection of Nuclear Material and Nuclear Facilities" ( 核物質および原子力施設の物理的防護 に関する勧告 ) ■ NSS No. 14, " Nuclear Security Recommendations on Radioactive Material and Associated Facilities" ( 放射性 物質および関連施設に関する勧告 ) ■ NSS No. 15, " Nuclear Security Recommendations on Nuclear and Other Radioactive Material out of Regulatory Control" ( 規制上の管理を外れた核物質 およびその他の放射性物質に関する核セキュリティ 勧告 ) この中で NSS No. 13 は「核爆発装置」のための盗取 や妨害破壊行為に対抗するための防護措置に関する勧告 を、NSS No. 14 は RDD や RED などの「汚い爆弾(=ダー ティボム)」のための核燃料物質や放射性物質の盗取に 対抗するための防護措置に関する勧告を、それぞれ提供 している。そして NSS No.15 は、核物質や放射性物質 収し、安全な状態にするための体制や対応計画等に関す る勧告を提供している。 NSS No.13 はまた、INFCIRC/225/Rev.5 を兼ねてもい る。Rev.5 の新たな強調点は以下の 16 点であった。 1 基本原則(改正核物質防護条約及び基本文書との関 係) 2 段階的手法と深層防護の深化 3 対抗部隊との協力と演習の実施 4 性能基準に基づく物理的防護システムの設計、評価 及び改善 5 セキュリティ計画及び危機管理計画の作成 6 放射線影響に基づく妨害破壊行為に対する防護レベ ル区分 7 核セキュリティのための計量及び管理 8 内部脅威者の脅威に対する防護 9 スタンドオフ攻撃に対する防護 10 コンピューターセキュリティ 11 立入制限区域の設定(深層防護の徹底) 12 慣行による慎重な管理の要件を定義 13 中央警報ステーションの非常時における基本機能継 続のための冗長性確保 14 行方不明の核物質の発見及び回収 15 妨害破壊行為の影響の緩和及び最小化 16 安全とセキュリティのインターフェースの明確化と 協力推進の必要性 このうち16にもあるように、NSS No. 16 (INFCIRC/225/ Rev.5) には原子力の安全に関する勧告も多く含まれてい る。第 7 章でもとりあげるつもりでいるが、ここで、核 セキュリティと原子力安全とのインターフェースが重要 であることがしっかりと提唱されていることは、原子力 発電所の核セキュリティを考える上で、着目すべき重要 な点の1つである。 これらの 16 の強調点を取り入れて 2012 年 3 月に行わ れた原子炉等規制法関係省令の改正では、下記1~10が 1 立入制限区域の設定 2 核物質の計量及び管理システムの活用等 3 見張人詰所 ( 中央警報ステーション ) の強化 4 見張人詰所 ( 中央警報ステーション ) の機能の冗長 化 導入された。 125 不正傍受対策等 6 無停電対策 7 情報システムの防護 ( サイバーセキュリティ対策 ) 8 事業所内運搬における核物質防護 9 2人ルールの適用 10 車両の駐車区域の設定 国際原子力機関 (IAEA) の文書体系の第 3 層の実施指 針は、「How: どのように実施すべきか」を勧告する文書 であり、勧告文書のさらなる詳細を提供し、その実施手 段を提供している。実施指針に該当する文書は、Fig. 3 に示す 14 の核セキュリティ文書シリーズが該当する。 国際原子力機関 (IAEA) の核セキュリティ文書体系の 第 4 層の技術手引きは、実施指針を具体的に実現するた めガイドラインであり、その内容は以下の通りである。 ● 参考マニュアル: 特定の分野もしくは行動につい て実施指針を適用するための詳細な手段と指針 ● 訓練ガイド: IAEA トレーニングコースの概要と マニュアル ● サービスガイド: IAEA の核セキュリティ助言派 遣団の行為と範囲についてのガイダンス 以上のように、IAEA 文書は、基礎文書-勧告文書- り、IAEA に加盟する国は、これらに基づいて自国の体 制を確立することが望まれている。すなわち、IAEA 文 書は核セキュリティ対策のために世界各国が共有する指 南書のようなものである。我が国も例外ではなく、すべ ての対策は IAEA 文書に則って構築されている。もちろ ん、これらの文書を守ってさえいれば対策は万全である、 ということはあり得ず、各国はさらなる努力をしなけれ ばならない。しかしながら、IAEA 文書は、国が共有す 解説記事「原子力発電所における核セキュリティと課題 (1)核セキュリティの基礎」 実施方針―技術方針の 4 つの階層構造から成り立ってお べき基礎中の基礎なのである。 Fig. 3: IAEA が発行する核セキュリティ文書シリーズ (NSS) の体系 13保全学 Vol.16-3 (2017) おわりに 参考文献 冒頭で 1F 事故による原子力発電所への核セキュリ ティ脅威の高まりを述べ、第 1 章では 1F 事故以前から 始まっていた核テロの脅威増大の経緯について説明し た。また第 2 章では、核セキュリティ脅威と IAEA 文書 (NSS) について説明した。 次号では、核セキュリティのための防護システムはど うあるべきか、また、そのための技術にはどのようなも のがあるのか、について、述べさせていただきたい。 (平成 29 年 8 月 30 日) [1] 気象庁ホームページ , http://www.data.jma.go.jp/svd/ eqev/data/2011_03_11_tohoku [2] 電気事業連合会ホームページ , http://www.fepc.or.jp/ nuclear/safety/past/sw_index_03/ [3] Incident and Trafficking Database, Fact Sheet 2016 by IAEA, https://www-ns.iaea.org/downloads/security/itdb- fact-sheet.pdf [4] 外務省ホームページ , http://www.mofa.go.jp/mofaj/ dns/n_s_ne/page22_000968.html 著 者 紹 介 著者 : 出町 和之 所属 : 東京大学大学院工学系研究科原子力 専攻 准教授 専門分野 : 核セキュリティ工学、医用画像工学、 原子力保全工学 日本保全学会誌『保全学』 論文・研究ノート投稿のお願い 日本保全学会では、『保全学』誌への投稿論文・研究ノートを随時募集しております。 ご投稿の際には本学会ウェブサイトもしくは本誌巻末にて、 「投稿規定」ならびに「執筆要項」をご確認の上、ご投稿ください。 日本保全学会ホームページ 投稿論文について http://jsm.or.jp/jsm/paper.html 皆様からのご投稿を心よりお待ちしております。 14 原子力発電所における核セキュリティと課題(1)核セキュリティの基礎 出町 和之,Kazuyuki DEMACHI 原子力発電所における核セキュリティと課題(1)核セキュリティの基礎 出町 和之,Kazuyuki DEMACHI

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