公的国際標準化と日本の対応

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カテゴリ: 解説記事


1.はじめに
筆者は1986年に情報技術(IT:Information Technology)の国際標準化を扱うISO/IEC JTC1 (Joint Technical Committee 1) [1]に参加以来、約20年間、国際標準化活動に参画してきた。2001年からは、電気・電子の国際標準化を担当するIEC(国際電気標準会議:International Electrotechnical Committee)[2]の標準管理評議会(SMB:Standardization Management Board)の日本代表委員として4年間活動し、2005年初めからは、IECに新たに設立された環境配慮の専門委員会(TC111:Environmental Standardization for Electrical and Electronic Products and Systems [3])の国際議長に就任し現在に至っている。
グローバルの時代になり、標準化が大事と言われ始めている。本稿では、筆者のこれまでの経験等を踏まえ、公的標準を中心とした国際標準の状況と課題、日本の対応状況について述べる。
2.公的国際標準化機関
公的国際標準化機関であるISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization)[4]、IEC、ITU(国際電気通信連合:International Telecommunication Union)[4]の関係を、図1に示す。図では活動範囲が綺麗に分かれているが、現実には競合が生じる場合があり、その都度話し合いで解決している。
2-1)IECの概要
IECは、電気・電子技術及び関連技術に関する国際規格を開発し、発行する国際機関であり、1906年設立され100年近い歴史を持っている。電気及び電子の技術分野(電子、磁気及び電磁気、電気音響、マルチメディア、通信、発電及び送配電、電磁両立性、測定及び性能、信頼性、設計及び開発、安全及び環境など)における標準化の問題及び規格適合性評価のような関連事項を担当している。古くは、ボルトやアンペアの定義もIECが決めたものである。IECは非政府機関であり、スイス民法60条等に従った社団法人である。
IECの活動へ参加するためには、正会員(P-メンバ)または準会員(O-メンバ)としてIECに加盟する必要がある。加盟する国は、自国の電気関係(製造業者、使用者、政府官庁、学協会、工業会)を代表している国内委員会(National Committee:NC)を組織しなければならない。国際連合機構UNO(United Nations Organization:UNO)が公式に認めている国のNCがIECの会員になることができる(1カ国1NC)。この規則により台湾はIECのメンバになれない。日本は日本工業標準調査会(JISC)[6]がP-メンバになっている。
2-2)IECの組織
図2に組織を示す。
 総会はIECの最高意思決定機関であり、年に一回開催され、IECのメンバ(P-メンバ、O-メンバ)が参加できる。
評議会は、IEC総会の政策を実行し、政策の立案を行う意思決定機関であり、IEC役員および、総会で選出された15名のメンバで構成されたメンバは個人ベースで参加することが要求される。日本は米国、英国、フランス、ドイツ、イタリアとともに常任国として参加している。
標準管理評議会(SMB:Standardization Management Board)は、IECの、TC(Technical Committee:専門委員会)の設置及び改廃、TCの幹事国割当及び議長の任命、TC間の業務調整
ISOとの関係の調整等、業務管理を行い、その配下に以下の技術関係委員会を持つ、IECの中枢ともいえる委員会である。
? TCとSC(Subcommittee:分科委員会)(合計172)
? 安全、環境、電磁気両立性等の共通技術に関する諮問を行う技術諮問委員会(4委員会)
? 産業界の意見をIECの標準化作業に反映させるための、複数のTCを横断的にカバーするセクターボード(3委員会)
SMBのメンバは、総会が選出したSMB議長と15名のSMBのメンバ国の代表、及び事務総長で構成される。
現在のメンバは、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア(以上常任国)、オーストラリア、中国、韓国、オランダ、デンマーク、スペイン、スウェーデン、ブラジル、ハンガリーである。
ここで問題となるのは、15のメンバ国のうち9カ国が欧州に属していることである。2001年に非欧州国の数が8と過半数を数えたこともあったが、その後選挙のたびに、欧州勢がメンバを増やし現在に至っている。
日本は6カ国の常任国に入っているが、常任国はIECへの分担金の額と幹事国の引き受け数等による貢献度で決まる。近未来に中国はその経済発展から常任国のポジションを得ることが考えられるが、日本がSMBメンバの地位を将来に亘って維持することは日本の標準化政策上必要である。
2-3)IEC国際規格の開発プロセス
 図3にIEC国際規格の開発プロセスを示す。
規格開発は新業務項目提案(New Work Item Proposal:NP)が各国投票で承認されると、作業原案(Work Draft:WD)を作成し、作業グループ(WG)で合意(コンセンサス)が得られると、投票用委員会原案(Committee Draft for Vote:CDV)を各国投票にかける。承認されると、さらに最終国際規格案(Final Draft of International Standard:FDIS)の各国投票が行われ、承認されると、国際規格(International Standard:IS)として発行

される。 
NPの承認規定は、過半数以上の賛成と、そのプロジェクトに積極的に参加すると表明したNCが5以上(P-メンバが16以下の場合は4NC)いること、CDVとFDISの承認規定はTCのP-メンバの2/3以上の賛成と、反対が全IECメンバの1/4以下である。新技術(情報通信等)の場合、議論に参加できる国が少なく、参加NCが規定数に足りず、否決されるという問題がある。
規格開発期間は、CDVの投票まで24ヶ月以内、規格発行まで36ヶ月と規定されているが、この期間を満足できない場合がある。IECでは5年以内に規格発行ができない場合は、初期段階に差し戻すことにした。平均の規格開発期間は、現在、40ヶ月である。
2-4)ISOの概要
ISOもIECと類似な組織と規格開発プロセスで規格を開発している。ISOは146カ国の国家標準化機関が1カ国1団体の割合で参加して設立した世界的規模の連盟であり、1947年に設立された非政府組織である。
ISOは、"物質及びサービスの国際交換を容易にし、知的、科学的、技術的及び経済的活動分野における国際間の協力を助長するために、世界的な標準化およびその関連活動の発展開発をはかること"を目的としている。ISOの作業を通じて実を結んだ国際的な合意事項は国際規格として発行される。
対象範囲は、IECの責任分野である電気及び電子工学を除く全ての技術分野を対象としている。情報処理分野の業務はISO/IEC合同専門委員会(JTC1)が担当している。
ISOとIECは同一の作業指針(ISO/IEC Directives)[7]に基づき活動しているが、最近は協調しているとはいえ、お互いのやり方がだんだん離れているのが実情であり、気に掛かる。
2-5)ISOの組織
ISOの組織を図4に示す。
総会は年に1回開催され、ISO役員と正規会員団体の代表者で構成される。通信会員と購読会員はオブザーバとして出席できる。議事は、ISOの財政事項を含む年次報告、ISO戦略の方策、財政状況報告がある。
理事会はISO役員と18の選ばれた会員団体からなり、ISOの運営を担当する。日本は米国、英国、ドイツ、フランスとともに、常任国(5カ国)である。理事会の下に7つの委員会があるが、このうち注目すべき委員会について述べる。
? 消費者政策委員会 (Committee of Consumer Policy: COPOLCO)
消費者の立場からの委員会である。ISOもIECも規格開発は、産業界(+学会)からの参加者が主体で行っているが、最終ユーザである消費者の意見が的確に反映されているとは言いが たい。この問題の対応として消費者政策委員会が組織された。
最近は組織の社会的責任(SR:Social Responsibility)に関する国際規格開発を提案し、産業界、政府、消費者、労働者、NGO等を含めて大議論の末、SR文書開発が合意され、関係者すべてが参加した合同メンバで開発が行われている。
? 技術管理評議会 (Technical Management Board: TMB)
理事会で指定された議長及び12名のメンバ(常任4名、選挙選出8名)で構成され、ISOの組織、調整、戦略規格、専門業務の計画に関する事項、ISOの専門活動に対する提案の審議、TCの設置等、ISOの重要な役目を担当している。
表1 標準・規格の分類
De jure標準(公的標準) Non-de jure 標準(非公的標準)
例 ・国家レベル:ISO, IEC, ITU
・地域レベル:CEN, CENELEC, ETSI
・国家レベル:JIS, ANSI, DIN, BSI ・フォーラム/コンソーシアム:IETF, IEEE, ASME, ASTM,3GPP, 3GPP2, W3C
・独自仕様:Microsoft Windows
長所 ・透明性がありオープンである
・規格批准手続きが確定している
・IPR(特許規定)が規定されている ・規格開発機関が短い
・規格開発と製品開発が同時に進行
短所 ・規格開発期間が長い
・規格完成時に市場要求に合致しないことがある ・保守プロセスは時として不明確
・メンバシップがオープンでないことあり
・情報公開が時としてオープンでない
技術管理評議会のメンバは、フランス、米国、英国、ドイツ(以上常任国)、デンマ-ク、マレーシア、コロンビア、日本、オランダ、中国、ニュージーランド、イタリアである。日本は常任国ではなく、3年ごとの選挙で選ばれている。もし、選挙に敗れてTMBの座を失うことになると、日本の国際標準化に対する影響力は激減することが予想されるので、なんとしても避けねばならない。
2-6)公的国際標準化機関の問題点
 以上のように、公的国際標準化機関は、長い歴史と権威を持って国際規格を開発してきているが、規格開発期間が長い、規格が開発されたときは陳腐化している等の不満が産業界を中心に出てきている。
一例を挙げると、情報技術の標準化で、コンピュータの相互接続を目指したOSI(Open Systems Interconnection)の標準化がISO/IEC JTC1で行われたことがある。今では当たり前になっている異機種コンピュータの相互接続は、当時可能ではなかったのである。各国政府の情報システム/機器の調達者も含めた世界中の関係者を巻き込み、異機種コンピュータの接続という規格開発を推進した。政府もこれを支援するために、OSI準拠のシステム/製品の政府調達仕様(米国:Government OSI Profile:GOSIP、欧州:European Procurement Handbook for Open Systems:EPHOS)も策定した。
しかし、規格開発にあまりにも時間がかかり過ぎ、GOSIP、EPHOSに基づく製品もあまり開発されなかったこともあり、ネットワークの世界はインターネット中心になり、忘れられた存在になってしまった。このOSI開発の失敗は、結果として公的標準に対する評価を落としたことになった。
3.標準開発機関(SDO:Standards Development Organization)
標準には、ISO, IEC, ITU等のような公的国際規格の他に、有力企業が集まった規格作成組織で共通な仕様(規格)を作成する、あるいはオープンな組織で参加者を集め規格を作成するフォーラム規格/コンソーシアム規格、Microsoft社のWindowsのように1社の独自仕様が事実上の標準(de facto standards)となっているものなどもある。
いわゆるSDOと言われるものは、日本では学会、産業界等をあわせると150位、米国では400位が存在していると言われる。標準や規格の分類は統一された見解はないが、筆者はこれを公的標準(de jure standards)と非公的標準(non-de jure standards)に分けて、表1のようにまとめている。
公的標準には、前述のISO、IEC、ITUの国際レベルの他、地域レベルでは、欧州のISOに対応するCEN(European Committee for Standardization:欧州標準化委員会)[8]、IECに対応するCENELEC(European Committee for Electrotechnical Standardization:欧州電気標準委員会)[9]、ITUに対応するETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州通信規格協会)[10]が開発する規格、国家レベルでは日本のJIS、アメリカのANSI、ドイツのDIN、英国のBSIなどがある。
非公的標準には、フォーラム/コンソーシアム標準として、インターネットの事実上の標準を決めているIETF (Internet Engineering Task Force)[11]、IEEE (International Electrical and Electronic Engineering)[12]、ASTM (American Society of Testing and Materials[13]、ASME (American Society of Mechanical Engineers)[14]、次世代移動通信標準化を行う欧州主体の機関である3GPP (3rd Generation Partnership Project)[15]、上記に対応した米国主体の3GPP2 (3rd Generation Partnership Project 2)[16]、ブラウザの世界での相互運用性技術を開発しているW3C (The World Wide Web Consortium)[17]等があり、活発に活動している。
一般には、公的標準はその規格開発期間が長いとの不満が産業界にあるのに対して、フォーラムやコンソーシアム規格は開発期間が短い。IETFの場合は、ISO/IEC JTC1によるOSI規格の開発が、規格開発後に製品開発を行うという順次開発プロセスに対して、IETFは規格開発と製品化を同時進行というプロセスも行い、市場の要求に対応してきた。
しかし、国際的な認知度が高くないとか、規格作成や知的財産権の規定がオープンでない、あるいは規格の保守が明確でない等の問題もあることも確かである。フォーラムを新設したときは目的のテーマに向かって参加メンバ(企業等)が熱心に活動するが、7年も経つとフォーラム活動が停滞する"フォーラム7年説"という言葉もあり、この点から規格の保守に問題があるかもしれない。
4.公的標準化機関の価値の見直し
近年、技術の進歩が、特に情報技術(IT)、移動電話、通信システムでは早くなり、これまでの公的標準化では規格開発期間が長すぎるとの理由で、市場の要求に合わないことが問題となり、産業界はフォーラムやコンソーシアム標準にシフトする傾向がある。しかし、公的標準は以下の観点から、その重要性が見直され、ビジネス上重要になってきた。
① WTO/TBTによる、各国規制や任意標準には、国際規格(international standards)の採用の義務付け
② 国際調達に、特にアジアにおいて国際規格採用の傾向
以下にこの問題を述べる。
4-1)WTO/TBTによる、国際規格の採用の義務付け
WTOのTBT協定(Technical Barriere to rade)[18]とは、1979年4月に国際協定として合意されたGATTスタンダードコードが1994年5月にTBT協定として改訂合意され、1995年1月にWTO協定に包含されたものである。TBT協定は、強制規格、任意規格や適合性評価手続きの策定における透明性を確保し、また、国際規格や国際的ガイドを基礎とすることにより国際的な調和を進めることにより、貿易障害としての基準・認証制度を可能な限り低減することが目的である。
4-2)では、何が国際規格(international standard)か?
TBTの第2回の見直し[19]で、国際規格作成に関し、諸原則(透明性、開放性、公平性、適合性、一貫性、途上国への配慮等)が決定されたが、具体的な規格については触れられておらず、欧州と米国では考えが違っている。
欧州は、各国の参加による規格策定であるべきとして、IEC、ISO、ITUが国際規格であるとしているのに対し、米国は上記諸原則を満たしており、世界に広く使われているASME、ASTM、IEEEのような規格も国際規格に含まれるとしている。
いずれにしろ、ISO、IEC、ITU規格が国際規格と認知されていることは誰もが認めるところである。
4-3)国際調達への国際規格の採用
2001年6月のNHKクローズアップ現代で、『洗濯機が輸出できない―規格に合わない日本家電』が放送された。
IECの関連規格では、洗濯槽の回転中は蓋の開閉を禁止しているが、日本製で広く普及している2槽型洗濯機は、脱水槽の回転中に蓋を明けることができる。しかし、蓋は二重になっており、内部の蓋を開けるまでには、脱水層は完全に停止する。この動作はIEC規格を満足していないとして、シンガポールが輸入禁止にした。
日本メーカはこれまでJISをベースに製品を製造してきが、アジアの国々はWTO/TBT協定による国際規格採用に対し、ISOやIECを選んだのである。日本メーカはIECの関連規格の改正を目指しているがまだ解決していない。
現在、JRで普及しているSuica(非接触ICカード)の採用時も、米国のメーカから国際規格ではないとクレームもあった。開発したS社はこのため、あわてて国際標準化を策定した。
このように、独自規格の基づく調達に対しは、他国からクレームがつけられ、国際問題になる時代になってきた。
5.国際標準化活動の現状
 これまでの公的国際標準化は欧州中心で進められてきたといっても過言ではない。これに対して米国は自国の規格は採用されないことに苛立ちを持っており、いろいろな対応策を取ってきているというのが、国際標準化の現状の一面と感じている。以下に、各国、地域の国際標準化活動を述べる。
5-1)欧州
国際標準化は歴史的に欧州指導であったが、特に近年は、欧州統合の流れの中で、域内の規格の統合を進め、更にこれを国際規格として推進する傾向が顕著になってきた。域内標準化を担っているのが、ISOに対応するCENとIECに対応するCENELECであり、各々ISO、IECと協定を結び[20][21]、国際規格策定プロセスの相互乗り入れをやっている。欧州の標準化政策には、欧州産業の国際競争力強化がある。
最近は、sustainabilityが世界的に大きな課題となっている。企業、社会、ひいては世界が持続可能になるためにはどうするかという課題である。そのひとつに環境の問題がある。
欧州委員会(EC:European Committee)は、環境関連に関して各種の指令を策定している。RoHS指令(特定有害物質使用禁止指令)[22]、WEEE指令(廃電気電子機器指令)[22]、EuP指令(エネルギー使用製品に対するエコデザイン要求設定枠組み指令案)[23]等の規制が発行され、REACH規制(化学品の登録、評価、認可規則)[24 ] も発行されようとしており、特に電気・電子製品はこれらの規制への準拠が求められている。
これらの規制はフレームワーク規制と呼ばれ、ECは規制の枠組みだけを決め、詳細は欧州の標準化機関(CEN、CENELEC、ETSI)と契約し、これらの標準化機関に詳細規格策定をまかせる方針をとっている。IECはこれらの規格を欧州独自ではなく、国際規格にすべきとして標準化活動をしている。
5-2)米国
米国は、2005年に米国標準戦略(United States Standards Strategy)[25]を策定(改訂)した。この中で、任意のコンセンサスによる標準 自発的な集まりで形成された総意に基づく標準すなわち任意の標準(voluntary consensus standards)という、これが米国経済の基礎であるとしており、分野別標準の推進、政府のによる標準化への参加の後押し、標準化に関する教育などを打ち出している。
米国は、これまでも国際標準化にも参画してきたが、最近はさらに国際協調の必要性をより認識し始めてきたと感じている。
その理由の一つは、ISO、IEC、ITUだけがWTO/TBTのいう国際規格ではないく、その他の広く世界で使われているもの(ASME、ASTM、IEEE等の規格)も国際規格であると主張しているものの、最近はのアジア各国の国際規格採用の動きがはISO、IEC、ITUのみを取り上げ、米国の主張する規格(ASME、ASTM、IEEE等)は国際規格として認識されることは少ないからでということがある。
もうひとつは中国の動きである。中国はWTO加盟以来、TBT遵守の義務を負い、国際規格としてISO、IEC、ITUを採用することから始まり、最近は積極的にこれらの標準化機関の活動に参画し始めた。中国の思うとおりにこれらの機関で規格を策定されては、米国にとって大きな問題になる。このような動きに対応し、米国は国際標準化活動に積極的に参画し始めた。
 ところで、米国では長さと重さの単位として、ヤード・ポンドが広く使われている。国際標準はSI単位[26]であり、米国は10年以上前にメトリックシステムへの移行を決定しているが、現実には十分には対応できていない業界が多い。一方、EUはメトリックシステム以外の単位の使用禁止を打ち出しているがおり、米国との交渉で複数回その適用を猶予している。2010年にこの合意が切れるが、米国は対応ができないとして再度延長を期待し、日本にも同意を求めてきている。次回交渉では、ヤード・ポンドシステムのが事実上の国際標準にならぬように我々も見守りたい。
国際規格開発では、幹事国になると大きな影響力を発揮できる。米国は標準化戦略の一環として、国際標準化機関の幹事国の引き受け数を増大させており、ISOとIECを合わせた幹事国数は1990年に95から、2002年には167と増加させて、世界一になったことが、米国の公的国際標準化の重視を表している。
5-3)アジア
 アジアの各国はISO、IEC活動に参加しているものの、これまでは国際規格の開発に参加するのではなく、出来上がった規格を使用するだけという対応が多かったが、最近は変わってきた。
中国は2001年12月のWTO加盟によるTBT協定の適用を皮切りに、標準化機関の組織改編(中国国家標準化管理委員会/国家質量監督検験検疫総局:AQSIQ-SAC/CNCA[27,28、29]や、中国国家標準化法の見直しが行われ、国際標準の規格作成段階に積極的に参加することが多くなってきた。筆者が議長をしているIECの環境委員会(TC111)の第一回会議はミラノで開催されたが、中国は8名という参加国中最大の代表団で会議に臨み(全参加者58名)、積極的な発言もあった。また、TC/SCの幹事国になろうという意思表示も多々ある。中国は国際標準化に積極的に対応し始めたということを、我々は十分認識した上で戦略を立てることが必要である。
 韓国も、IECのTC111(環境関係)では、サムソン電子からの参加者がかなり見受けられし、タイからの積極的参加も見られる。アジアの各国も、一部とはいえ、標準化に積極的になってきた。
6.日本の対応
欧米各国ではが政府民間が一体となってと共同で国際標準化を進めているのに対して、日本の対応は遅れがちというのが現状である。
6-1)JISC(経済産業省の主管)の対応
 JISCの2005年3月の国際部会では以下のような問題が指摘された。
? 標準を担う人材の不足/企業における国際標準化担当部門の未整備
? ISO/IEC幹事国業務の引受数は全体の約6%と少ない
ISO: 734委員会中45、 IEC: 172委員会中13
? 我が国からの国際規格提案数は全体の約9%と多くない
29('1997) → 71('2003)
ISOとIECにおける2005年1月現在の幹事国引き受け数は図5の通りで、日本はともに第5位である。実際に規格を開発するTC/SCを管理しているのがISOはTMB(12カ国)、IECはSMB(15カ国)であり、ISOやIECの標準政策に大きな影響を持っている。日本はともにメンバであるが、IECは常任国 であるものの、ISOは拠出金の負担は常任国(米英独仏)と同じであるにも関わらず、3年毎に選ばれる被選挙国である。TMBの地位の維持を目指し、JISCは日本の幹事国の引き受け数を増加する方針を出し、微増はしているものの、日本の経済力、国際競争力に見合っている水準とは言いがたい。加えて、産業界などからの人材不足のため、現在は頭打ちである。 
また、ナノテクノロジーやセキュリティなど新規プロジェクトに積極的に対応する方針を出している。
6-2)日本経団連の提言
日本経団連は2004年1月に、戦略的な国際標準化の推進に関する提言[29]を発表した。
近年、企業にとって国際標準化は事業戦略の非常に重要な要素になっており、欧米諸国は、自国の規制や企業の技術を含んだ国際標準の制定に、民主導・官支援の官民一体となって、戦略的に取り組んでいる。日本も、わが国技術の積極的な国際標準化や、他国が進める国際標準化への対応の双方において、官民一体となった取り組みが急務であるとして、以下を提言している。
? 国際標準化活動の統括部署組織の設置が重要である。
? 国際標準化に携わる人を積極的に評価すべきである。
? 国際標準化提案への戦略的取り組みを行う必要がある。
? わが国全体としての国際標準化活動に産業界は協調して取り組むべきである。
 国際標準化に関わる人を積極的に評価すべきとの提言は、標準に関係するものとして、今後の対応に期待したい。
7.標準と知的財産権
 標準化にからみ、知的財産権の問題がある。特許を含む知的財産権が企業の基本戦略として意識されるに従い,標準化の世界でも知的財産権、特に特許対応は重大な課題になってきた。
ISO/IECの特許に関する規定では、提案者は特許権の所有者に対し,その権利の世界的ライセンスについて,妥当,かつ非差別的(Reasonable and Non-discriminatory:RAND)な条件で,世界中の申込者との交渉に応ずるとの声明を求め、もし声明が得られない場合は,その特許に該当する事項を国際規格に含めてはならないとしている。
一方、W3C(World Wide Web)などインターネット世界では、ネットワーク標準に絡む特許は無償とすべきとの動きもあるが、前述の米国標準化戦略(2005年)では、標準化プロセスが知的産権保有者の権利を尊重すべとしている。
 前述の日本経団連の戦略的な国際標準化の推進に関する提言の中では、国際標準化にあたっての知的財産権の活用を謳っており、"国際標準化団体のパテントポリシーの見直しが必要"、"RAND条件の明確化とパテントプールがスムーズに運用される環境の整備"等を提言している。
 このように、標準における特許は重要になってきた。
8.おわりに
公的な国際標準化を中心に、WTO/TBT協定からその重要性を述べてきた。グローバル化の進展で、ビジネス界では、独自製品を開発しても売れないことが生じてきた。相互運用性を必要とする機器やシステム、特にネットワーク関連機器(例、携帯電話)は、公的、非公的標準に関わらず国際標準に準拠していなければ市場獲得は望めない。しかし、国際標準ができてから製品を開発したのでは、市場を逸してしまう。自社の規格を国際標準にすることが望ましいと考えがちだが、1社では難しい。く、このために、フォーラムやコンソーシアムを作り、共同で規格開発がなされることが多々ある。すなわち企業の開発戦略は、国際標準化への適切な対応なしには成り立たなくなってきたということである。
加えて、知的財産権問題があり、国際標準に採用された技術に自社特許が入っていれば、競合者に有利に戦略を立てられる。
今後のこれからのビジネスの国際戦略には、研究・開発、知的財産権戦略、標準化戦略が三位一体になって進める時代になってきたことを強調して、本稿のまとめとしたい。
参考資料
[1] ISO/IEC JTC1:
http://isotc.iso.org/livelink/livelink/fetch/2000/2122/327993/customview.html?func=ll&objId=327993
[2] IEC:http://www.iec.ch/
[3] TC111:
http://www.iec.ch/cgi-bin/procgi.pl/www/iecwww.p?wwwlang=E&wwwprog=TCboard.p&committee=SC&TC=111&Submit=OK
[4] ISO:http://www.iso.ch/iso/en/ISOOnline.frontpage
[5] ITU:http://mmm.itu.int/home/index.html
[6] JISC:http://www.jisc.go.jp/
[7] ISO/IEC Directives:http://www.iec.ch/tiss/directives.htm
[8] CEN:http://www.cenorm.be/cenorm/index.htm
[9] CENELEC:http://www.cenelec.org/Cenelec/Homepage.htm
[10] ETSI:http://www.etsi.org/
[11] IETF:http://www.ietf.org/
[12] IEEE:http://www.ieee.org/
[13] ASTM:http://www.astm.org
[14] ASME:http://www.asme.org
[15] 3GPP:http://www.3goo.org/
[16] 3GPP2:http://eee/3gpp2.org/
[17] W3C:http://www.w3c.org
[18] WTO/TBT:
http://www.jisc.go.jp/cooperation/wto-tbt-guide.html
[19] WTO/TBT 第2回3年レビュー:
http://www.jisc.go.jp/cooperation/pdf/3nen_02.pdf
[20] ISO-CEN Agreement (Vienna Agreement):
http://www.jisc.go.jp/international/pdf/01__Agreement_on_Technical_Cooperation_between_ISO_and_CEN_(Vienna_Agreement).pdf
[21] IEC-CENELEC Agreement:
http://www.iec.ch/about/partners/agreements/cenelec-e.htm
[22]  RoHS/WEEE Directives:
http://europa.eu.int/comm/environment/waste/weee_index.htm
[23]  EuP:
http://europa.eu.int/comm/enterprise/eco_design/index.htm
[24] REACH:
http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/reach.htm
[25] United States Standards Strategy:
http://public.ansi.org/ansionline/Documents/Standards%20Activities/NSSC/04-15-05%20-%20Public%20Forum.pdf
[26] SI units:ISO 1000, SI units and recommendations for the use of their multiples and of certain other units
[27] AQSIQ:http://www.aqsiq.gov.cn/cms/template/index.html
[28] SAC: http://www.sac.gov.cn/english/home.asp
[29] CNCA:http://www.cnca.gov.cn/20040420/column/227.htm
[30] 日本経団連 戦略的な国際標準化の推進に関する提言:http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/007.html

国際電気標準会議(IEC)における国際標準化と日本の対応
富士通株式会社 政策推進本部 専任部長 森紘一
1.はじめに
筆者は1986年に情報技術(IT:Information Technology)の国際標準化を扱うISO/IEC JTC1 (Joint Technical Committee 1) [1]に参加以来、約20年間、国際標準化活動に参画してきた。2001年からは、電気・電子の国際標準化を担当するIEC(国際電気標準会議:International Electrotechnical Committee)[2]の標準管理評議会(SMB:Standardization Management Board)の日本代表委員として4年間活動し、2005年初めからは、IECに新たに設立された環境配慮の専門委員会(TC111:Environmental Standardization for Electrical and Electronic Products and Systems [3])の国際議長に就任し現在に至っている。
グローバルの時代になり、標準化が大事と言われ始めている。本稿では、筆者のこれまでの経験等を踏まえ、公的標準を中心とした国際標準の状況と課題、日本の対応状況について述べる。
2.公的国際標準化機関
公的国際標準化機関であるISO(国際標準化機構:International Organization for Standardization)[4]、IEC、ITU(国際電気通信連合:International Telecommunication Union)[4]の関係を、図1に示す。図では活動範囲が綺麗に分かれているが、現実には競合が生じる場合があり、その都度話し合いで解決している。
2-1)IECの概要
IECは、電気・電子技術及び関連技術に関する国際規格を開発し、発行する国際機関であり、1906年設立され100年近い歴史を持っている。電気及び電子の技術分野(電子、磁気及び電磁気、電気音響、マルチメディア、通信、発電及び送配電、電磁両立性、測定及び性能、信頼性、設計及び開発、安全及び環境など)における標準化の問題及び規格適合性評価のような関連事項を担当している。古くは、ボルトやアンペアの定義もIECが決めたものである。IECは非政府機関であり、スイス民法60条等に従った社団法人である。
IECの活動へ参加するためには、正会員(P-メンバ)または準会員(O-メンバ)としてIECに加盟する必要がある。加盟する国は、自国の電気関係(製造業者、使用者、政府官庁、学協会、工業会)を代表している国内委員会(National Committee:NC)を組織しなければならない。国際連合機構UNO(United Nations Organization:UNO)が公式に認めている国のNCがIECの会員になることができる(1カ国1NC)。この規則により台湾はIECのメンバになれない。日本は日本工業標準調査会(JISC)[6]がP-メンバになっている。
2-2)IECの組織
図2に組織を示す。
 総会はIECの最高意思決定機関であり、年に一回開催され、IECのメンバ(P-メンバ、O-メンバ)が参加できる。
評議会は、IEC総会の政策を実行し、政策の立案を行う意思決定機関であり、IEC役員および、総会で選出された15名のメンバで構成されたメンバは個人ベースで参加することが要求される。日本は米国、英国、フランス、ドイツ、イタリアとともに常任国として参加している。
標準管理評議会(SMB:Standardization Management Board)は、IECの、TC(Technical Committee:専門委員会)の設置及び改廃、TCの幹事国割当及び議長の任命、TC間の業務調整
ISOとの関係の調整等、業務管理を行い、その配下に以下の技術関係委員会を持つ、IECの中枢ともいえる委員会である。
? TCとSC(Subcommittee:分科委員会)(合計172)
? 安全、環境、電磁気両立性等の共通技術に関する諮問を行う技術諮問委員会(4委員会)
? 産業界の意見をIECの標準化作業に反映させるための、複数のTCを横断的にカバーするセクターボード(3委員会)
SMBのメンバは、総会が選出したSMB議長と15名のSMBのメンバ国の代表、及び事務総長で構成される。
現在のメンバは、米国、英国、フランス、ドイツ、日本、イタリア(以上常任国)、オーストラリア、中国、韓国、オランダ、デンマーク、スペイン、スウェーデン、ブラジル、ハンガリーである。
ここで問題となるのは、15のメンバ国のうち9カ国が欧州に属していることである。2001年に非欧州国の数が8と過半数を数えたこともあったが、その後選挙のたびに、欧州勢がメンバを増やし現在に至っている。
日本は6カ国の常任国に入っているが、常任国はIECへの分担金の額と幹事国の引き受け数等による貢献度で決まる。近未来に中国はその経済発展から常任国のポジションを得ることが考えられるが、日本がSMBメンバの地位を将来に亘って維持することは日本の標準化政策上必要である。
2-3)IEC国際規格の開発プロセス
 図3にIEC国際規格の開発プロセスを示す。
規格開発は新業務項目提案(New Work Item Proposal:NP)が各国投票で承認されると、作業原案(Work Draft:WD)を作成し、作業グループ(WG)で合意(コンセンサス)が得られると、投票用委員会原案(Committee Draft for Vote:CDV)を各国投票にかける。承認されると、さらに最終国際規格案(Final Draft of International Standard:FDIS)の各国投票が行われ、承認されると、国際規格(International Standard:IS)として発行

される。 
NPの承認規定は、過半数以上の賛成と、そのプロジェクトに積極的に参加すると表明したNCが5以上(P-メンバが16以下の場合は4NC)いること、CDVとFDISの承認規定はTCのP-メンバの2/3以上の賛成と、反対が全IECメンバの1/4以下である。新技術(情報通信等)の場合、議論に参加できる国が少なく、参加NCが規定数に足りず、否決されるという問題がある。
規格開発期間は、CDVの投票まで24ヶ月以内、規格発行まで36ヶ月と規定されているが、この期間を満足できない場合がある。IECでは5年以内に規格発行ができない場合は、初期段階に差し戻すことにした。平均の規格開発期間は、現在、40ヶ月である。
2-4)ISOの概要
ISOもIECと類似な組織と規格開発プロセスで規格を開発している。ISOは146カ国の国家標準化機関が1カ国1団体の割合で参加して設立した世界的規模の連盟であり、1947年に設立された非政府組織である。
ISOは、"物質及びサービスの国際交換を容易にし、知的、科学的、技術的及び経済的活動分野における国際間の協力を助長するために、世界的な標準化およびその関連活動の発展開発をはかること"を目的としている。ISOの作業を通じて実を結んだ国際的な合意事項は国際規格として発行される。
対象範囲は、IECの責任分野である電気及び電子工学を除く全ての技術分野を対象としている。情報処理分野の業務はISO/IEC合同専門委員会(JTC1)が担当している。
ISOとIECは同一の作業指針(ISO/IEC Directives)[7]に基づき活動しているが、最近は協調しているとはいえ、お互いのやり方がだんだん離れているのが実情であり、気に掛かる。
2-5)ISOの組織
ISOの組織を図4に示す。
総会は年に1回開催され、ISO役員と正規会員団体の代表者で構成される。通信会員と購読会員はオブザーバとして出席できる。議事は、ISOの財政事項を含む年次報告、ISO戦略の方策、財政状況報告がある。
理事会はISO役員と18の選ばれた会員団体からなり、ISOの運営を担当する。日本は米国、英国、ドイツ、フランスとともに、常任国(5カ国)である。理事会の下に7つの委員会があるが、このうち注目すべき委員会について述べる。
? 消費者政策委員会 (Committee of Consumer Policy: COPOLCO)
消費者の立場からの委員会である。ISOもIECも規格開発は、産業界(+学会)からの参加者が主体で行っているが、最終ユーザである消費者の意見が的確に反映されているとは言いが たい。この問題の対応として消費者政策委員会が組織された。
最近は組織の社会的責任(SR:Social Responsibility)に関する国際規格開発を提案し、産業界、政府、消費者、労働者、NGO等を含めて大議論の末、SR文書開発が合意され、関係者すべてが参加した合同メンバで開発が行われている。
? 技術管理評議会 (Technical Management Board: TMB)
理事会で指定された議長及び12名のメンバ(常任4名、選挙選出8名)で構成され、ISOの組織、調整、戦略規格、専門業務の計画に関する事項、ISOの専門活動に対する提案の審議、TCの設置等、ISOの重要な役目を担当している。
表1 標準・規格の分類
De jure標準(公的標準) Non-de jure 標準(非公的標準)
例 ・国家レベル:ISO, IEC, ITU
・地域レベル:CEN, CENELEC, ETSI
・国家レベル:JIS, ANSI, DIN, BSI ・フォーラム/コンソーシアム:IETF, IEEE, ASME, ASTM,3GPP, 3GPP2, W3C
・独自仕様:Microsoft Windows
長所 ・透明性がありオープンである
・規格批准手続きが確定している
・IPR(特許規定)が規定されている ・規格開発機関が短い
・規格開発と製品開発が同時に進行
短所 ・規格開発期間が長い
・規格完成時に市場要求に合致しないことがある ・保守プロセスは時として不明確
・メンバシップがオープンでないことあり
・情報公開が時としてオープンでない
技術管理評議会のメンバは、フランス、米国、英国、ドイツ(以上常任国)、デンマ-ク、マレーシア、コロンビア、日本、オランダ、中国、ニュージーランド、イタリアである。日本は常任国ではなく、3年ごとの選挙で選ばれている。もし、選挙に敗れてTMBの座を失うことになると、日本の国際標準化に対する影響力は激減することが予想されるので、なんとしても避けねばならない。
2-6)公的国際標準化機関の問題点
 以上のように、公的国際標準化機関は、長い歴史と権威を持って国際規格を開発してきているが、規格開発期間が長い、規格が開発されたときは陳腐化している等の不満が産業界を中心に出てきている。
一例を挙げると、情報技術の標準化で、コンピュータの相互接続を目指したOSI(Open Systems Interconnection)の標準化がISO/IEC JTC1で行われたことがある。今では当たり前になっている異機種コンピュータの相互接続は、当時可能ではなかったのである。各国政府の情報システム/機器の調達者も含めた世界中の関係者を巻き込み、異機種コンピュータの接続という規格開発を推進した。政府もこれを支援するために、OSI準拠のシステム/製品の政府調達仕様(米国:Government OSI Profile:GOSIP、欧州:European Procurement Handbook for Open Systems:EPHOS)も策定した。
しかし、規格開発にあまりにも時間がかかり過ぎ、GOSIP、EPHOSに基づく製品もあまり開発されなかったこともあり、ネットワークの世界はインターネット中心になり、忘れられた存在になってしまった。このOSI開発の失敗は、結果として公的標準に対する評価を落としたことになった。
3.標準開発機関(SDO:Standards Development Organization)
標準には、ISO, IEC, ITU等のような公的国際規格の他に、有力企業が集まった規格作成組織で共通な仕様(規格)を作成する、あるいはオープンな組織で参加者を集め規格を作成するフォーラム規格/コンソーシアム規格、Microsoft社のWindowsのように1社の独自仕様が事実上の標準(de facto standards)となっているものなどもある。
いわゆるSDOと言われるものは、日本では学会、産業界等をあわせると150位、米国では400位が存在していると言われる。標準や規格の分類は統一された見解はないが、筆者はこれを公的標準(de jure standards)と非公的標準(non-de jure standards)に分けて、表1のようにまとめている。
公的標準には、前述のISO、IEC、ITUの国際レベルの他、地域レベルでは、欧州のISOに対応するCEN(European Committee for Standardization:欧州標準化委員会)[8]、IECに対応するCENELEC(European Committee for Electrotechnical Standardization:欧州電気標準委員会)[9]、ITUに対応するETSI(European Telecommunications Standards Institute:欧州通信規格協会)[10]が開発する規格、国家レベルでは日本のJIS、アメリカのANSI、ドイツのDIN、英国のBSIなどがある。
非公的標準には、フォーラム/コンソーシアム標準として、インターネットの事実上の標準を決めているIETF (Internet Engineering Task Force)[11]、IEEE (International Electrical and Electronic Engineering)[12]、ASTM (American Society of Testing and Materials[13]、ASME (American Society of Mechanical Engineers)[14]、次世代移動通信標準化を行う欧州主体の機関である3GPP (3rd Generation Partnership Project)[15]、上記に対応した米国主体の3GPP2 (3rd Generation Partnership Project 2)[16]、ブラウザの世界での相互運用性技術を開発しているW3C (The World Wide Web Consortium)[17]等があり、活発に活動している。
一般には、公的標準はその規格開発期間が長いとの不満が産業界にあるのに対して、フォーラムやコンソーシアム規格は開発期間が短い。IETFの場合は、ISO/IEC JTC1によるOSI規格の開発が、規格開発後に製品開発を行うという順次開発プロセスに対して、IETFは規格開発と製品化を同時進行というプロセスも行い、市場の要求に対応してきた。
しかし、国際的な認知度が高くないとか、規格作成や知的財産権の規定がオープンでない、あるいは規格の保守が明確でない等の問題もあることも確かである。フォーラムを新設したときは目的のテーマに向かって参加メンバ(企業等)が熱心に活動するが、7年も経つとフォーラム活動が停滞する"フォーラム7年説"という言葉もあり、この点から規格の保守に問題があるかもしれない。
4.公的標準化機関の価値の見直し
近年、技術の進歩が、特に情報技術(IT)、移動電話、通信システムでは早くなり、これまでの公的標準化では規格開発期間が長すぎるとの理由で、市場の要求に合わないことが問題となり、産業界はフォーラムやコンソーシアム標準にシフトする傾向がある。しかし、公的標準は以下の観点から、その重要性が見直され、ビジネス上重要になってきた。
③ WTO/TBTによる、各国規制や任意標準には、国際規格(international standards)の採用の義務付け
④ 国際調達に、特にアジアにおいて国際規格採用の傾向
以下にこの問題を述べる。
4-1)WTO/TBTによる、国際規格の採用の義務付け
WTOのTBT協定(Technical Barriere to rade)[18]とは、1979年4月に国際協定として合意されたGATTスタンダードコードが1994年5月にTBT協定として改訂合意され、1995年1月にWTO協定に包含されたものである。TBT協定は、強制規格、任意規格や適合性評価手続きの策定における透明性を確保し、また、国際規格や国際的ガイドを基礎とすることにより国際的な調和を進めることにより、貿易障害としての基準・認証制度を可能な限り低減することが目的である。
4-2)では、何が国際規格(international standard)か?
TBTの第2回の見直し[19]で、国際規格作成に関し、諸原則(透明性、開放性、公平性、適合性、一貫性、途上国への配慮等)が決定されたが、具体的な規格については触れられておらず、欧州と米国では考えが違っている。
欧州は、各国の参加による規格策定であるべきとして、IEC、ISO、ITUが国際規格であるとしているのに対し、米国は上記諸原則を満たしており、世界に広く使われているASME、ASTM、IEEEのような規格も国際規格に含まれるとしている。
いずれにしろ、ISO、IEC、ITU規格が国際規格と認知されていることは誰もが認めるところである。
4-3)国際調達への国際規格の採用
2001年6月のNHKクローズアップ現代で、『洗濯機が輸出できない―規格に合わない日本家電』が放送された。
IECの関連規格では、洗濯槽の回転中は蓋の開閉を禁止しているが、日本製で広く普及している2槽型洗濯機は、脱水槽の回転中に蓋を明けることができる。しかし、蓋は二重になっており、内部の蓋を開けるまでには、脱水層は完全に停止する。この動作はIEC規格を満足していないとして、シンガポールが輸入禁止にした。
日本メーカはこれまでJISをベースに製品を製造してきが、アジアの国々はWTO/TBT協定による国際規格採用に対し、ISOやIECを選んだのである。日本メーカはIECの関連規格の改正を目指しているがまだ解決していない。
現在、JRで普及しているSuica(非接触ICカード)の採用時も、米国のメーカから国際規格ではないとクレームもあった。開発したS社はこのため、あわてて国際標準化を策定した。
このように、独自規格の基づく調達に対しは、他国からクレームがつけられ、国際問題になる時代になってきた。
5.国際標準化活動の現状
 これまでの公的国際標準化は欧州中心で進められてきたといっても過言ではない。これに対して米国は自国の規格は採用されないことに苛立ちを持っており、いろいろな対応策を取ってきているというのが、国際標準化の現状の一面と感じている。以下に、各国、地域の国際標準化活動を述べる。
5-1)欧州
国際標準化は歴史的に欧州指導であったが、特に近年は、欧州統合の流れの中で、域内の規格の統合を進め、更にこれを国際規格として推進する傾向が顕著になってきた。域内標準化を担っているのが、ISOに対応するCENとIECに対応するCENELECであり、各々ISO、IECと協定を結び[20][21]、国際規格策定プロセスの相互乗り入れをやっている。欧州の標準化政策には、欧州産業の国際競争力強化がある。
最近は、sustainabilityが世界的に大きな課題となっている。企業、社会、ひいては世界が持続可能になるためにはどうするかという課題である。そのひとつに環境の問題がある。
欧州委員会(EC:European Committee)は、環境関連に関して各種の指令を策定している。RoHS指令(特定有害物質使用禁止指令)[22]、WEEE指令(廃電気電子機器指令)[22]、EuP指令(エネルギー使用製品に対するエコデザイン要求設定枠組み指令案)[23]等の規制が発行され、REACH規制(化学品の登録、評価、認可規則)[24 ] も発行されようとしており、特に電気・電子製品はこれらの規制への準拠が求められている。
これらの規制はフレームワーク規制と呼ばれ、ECは規制の枠組みだけを決め、詳細は欧州の標準化機関(CEN、CENELEC、ETSI)と契約し、これらの標準化機関に詳細規格策定をまかせる方針をとっている。IECはこれらの規格を欧州独自ではなく、国際規格にすべきとして標準化活動をしている。
5-2)米国
米国は、2005年に米国標準戦略(United States Standards Strategy)[25]を策定(改訂)した。この中で、自発的な集まりで形成された総意に基づく標準すなわち任意の標準(voluntary consensus standards)という、これが米国経済の基礎であるとしており、分野別標準の推進、政府による標準化の後押し、標準化に関する教育などを打ち出している。
米国は、これまでも国際標準化にも参画してきたが、最近はさらに国際協調の必要性をより認識し始めてきたと感じる。
その理由の一つは、ISO、IEC、ITUだけがWTO/TBTのいう国際規格ではなく、その他の広く世界で使われているもの(ASME、ASTM、IEEE等の規格)も国際規格であると主張しているものの、最近はのアジア各国の国際規格採用の動きはISO、IEC、ITUのみを取り上げ、米国の主張する規格(ASME、ASTM、IEEE等)は国際規格として認識されることは少ないということがある。
もうひとつは中国の動きである。中国はWTO加盟以来、TBT遵守の義務を負い、国際規格としてISO、IEC、ITUを採用することから始まり、最近は積極的にこれらの標準化機関の活動に参画し始めた。中国の思うとおりにこれらの機関で規格を策定されては、米国にとって大きな問題になる。このような動きに対応し、米国は国際標準化活動に積極的に参画し始めた。
 ところで、米国では長さと重さの単位として、ヤード・ポンドが広く使われている。国際標準はSI単位[26]であり、米国は10年以上前にメトリックシステムへの移行を決定しているが、現実は十分には対応できていない業界が多い。一方、EUはメトリックシステム以外の単位の使用禁止を打ち出しており、米国との交渉で複数回その適用を猶予している。2010年にこの合意が切れるが、米国は対応ができないとして再度延長を期待し、日本にも同意を求めてきている。次回交渉では、ヤード・ポンドシステムが事実上の国際標準にならぬように我々も見守りたい。
国際規格開発では、幹事国になると大きな影響力を発揮できる。米国は標準化戦略の一環として、国際標準化機関の幹事国の引き受け数を増大させており、ISOとIECを合わせた幹事国数は1990年に95から、2002年には167と増加させて、世界一になったことが、米国の公的国際標準化の重視を表している。
5-3)アジア
 アジアの各国はISO、IEC活動に参加しているものの、これまでは国際規格の開発に参加するのではなく、出来上がった規格を使用するだけという対応が多かったが、最近は変わってきた。
中国は2001年12月のWTO加盟によるTBT協定の適用を皮切りに、標準化機関の組織改編(中国国家標準化管理委員会/国家質量監督検験検疫総局:AQSIQ-SAC/CNCA[27,28、29]や、中国国家標準化法の見直しが行われ、国際標準の規格作成段階に積極的に参加することが多くなってきた。筆者が議長をしているIECの環境委員会(TC111)の第一回会議はミラノで開催されたが、中国は8名という参加国中最大の代表団で会議に臨み(全参加者58名)、積極的な発言もあった。また、TC/SCの幹事国になろうという意思表示も多々ある。中国は国際標準化に積極的に対応し始めたということを、我々は十分認識した上で戦略を立てることが必要である。
 韓国も、IECのTC111(環境関係)では、サムソン電子からの参加者がかなり見受けられし、タイからの積極的参加も見られる。アジアの各国も、一部とはいえ、標準化に積極的になってきた。
6.日本の対応
欧米各国ではが政府民間が一体となってと共同で国際標準化を進めているのに対して、日本の対応は遅れがちというのが現状である。
6-1)JISC(経済産業省の主管)の対応
 JISCの2005年3月の国際部会では以下のような問題が指摘された。
? 標準を担う人材の不足/企業における国際標準化担当部門の未整備
? ISO/IEC幹事国業務の引受数は全体の約6%と少ない
ISO: 734委員会中45、 IEC: 172委員会中13
? 我が国からの国際規格提案数は全体の約9%と多くない
29('1997) → 71('2003)
ISOとIECにおける2005年1月現在の幹事国引き受け数は図5の通りで、日本はともに第5位である。実際に規格を開発するTC/SCを管理しているのがISOはTMB(12カ国)、IECはSMB(15カ国)であり、ISOやIECの標準政策に大きな影響を持っている。日本はともにメンバであるが、IECは常任国 であるものの、ISOは拠出金の負担は常任国(米英独仏)と同じであるにも関わらず、3年毎に選ばれる被選挙国である。TMBの地位の維持を目指し、JISCは日本の幹事国の引き受け数を増加する方針を出し、微増はしているものの、日本の経済力、国際競争力に見合っている水準とは言いがたい。加えて、産業界などからの人材不足のため、現在は頭打ちである。 
また、ナノテクノロジーやセキュリティなど新規プロジェクトに積極的に対応する方針を出している。
6-2)日本経団連の提言
日本経団連は2004年1月に、戦略的な国際標準化の推進に関する提言[29]を発表した。
近年、企業にとって国際標準化は事業戦略の非常に重要な要素になっており、欧米諸国は、自国の規制や企業の技術を含んだ国際標準の制定に、民主導・官支援の官民一体となって、戦略的に取り組んでいる。日本も、わが国技術の積極的な国際標準化や、他国が進める国際標準化への対応の双方において、官民一体となった取り組みが急務であるとして、以下を提言している。
? 国際標準化活動の統括組織の設置が重要である。
? 国際標準化に携わる人を積極的に評価すべきである。
? 国際標準化提案への戦略的取り組みを行う必要がある。
? わが国全体としての国際標準化活動に産業界は協調して取り組むべきである。
 国際標準化に関わる人を積極的に評価すべきとの提言は、標準に関係するものとして、今後の対応に期待したい。
7.標準と知的財産権
 標準化にからみ、知的財産権の問題がある。特許を含む知的財産権が企業の基本戦略として意識されるに従い,標準化の世界でも知的財産権、特に特許対応は重大な課題になってきた。
ISO/IECの特許に関する規定では、提案者は特許権の所有者に対し,その権利の世界的ライセンスについて,妥当,かつ非差別的(Reasonable and Non-discriminatory:RAND)な条件で,世界中の申込者との交渉に応ずるとの声明を求め、もし声明が得られない場合は,その特許に該当する事項を国際規格に含めてはならないとしている。
一方、W3C(World Wide Web)などインターネット世界では、ネットワーク標準に絡む特許は無償とすべきとの動きもあるが、前述の米国標準化戦略(2005年)では、標準化プロセスが知的産権保有者の権利を尊重すべとしている。
 前述の日本経団連の戦略的な国際標準化の推進に関する提言の中では、国際標準化にあたっての知的財産権の活用を謳っており、"国際標準化団体のパテントポリシーの見直しが必要"、"RAND条件の明確化とパテントプールがスムーズに運用される環境の整備"等を提言している。
 このように、標準における特許は重要になってきた。
8.おわりに
公的な国際標準化を中心に、WTO/TBT協定からその重要性を述べてきた。グローバル化の進展で、ビジネス界では、独自製品を開発しても売れないことが生じてきた。相互運用性を必要とする機器やシステム、特にネットワーク関連機器(例、携帯電話)は、公的、非公的標準に関わらず国際標準に準拠していなければ市場獲得は望めない。しかし、国際標準ができてから製品を開発したのでは、市場を逸してしまう。自社の規格を国際標準にすることが望ましいと考えがちだが、1社では難しく、フォーラムやコンソーシアムを作り、共同で規格開発がなされることが多々ある。すなわち企業の開発戦略は、国際標準化への適切な対応なしには成り立たなくなってきたということである。
加えて、知的財産権問題があり、国際標準に採用された技術に自社特許が入っていれば、競合者に有利に戦略を立てられる。
これからのビジネスの国際戦略は、研究・開発、知的財産権戦略、標準化戦略が三位一体になって進める時代になってきたことを強調して、本稿のまとめとしたい。
参考資料
[1] ISO/IEC JTC1:
http://isotc.iso.org/livelink/livelink/fetch/2000/2122/327993/customview.html?func=ll&objId=327993
[2] IEC:http://www.iec.ch/
[3] TC111:
http://www.iec.ch/cgi-bin/procgi.pl/www/iecwww.p?wwwlang=E&wwwprog=TCboard.p&committee=SC&TC=111&Submit=OK
[4] ISO:http://www.iso.ch/iso/en/ISOOnline.frontpage
[5] ITU:http://mmm.itu.int/home/index.html
[6] JISC:http://www.jisc.go.jp/
[7] ISO/IEC Directives:http://www.iec.ch/tiss/directives.htm
[8] CEN:http://www.cenorm.be/cenorm/index.htm
[9] CENELEC:http://www.cenelec.org/Cenelec/Homepage.htm
[10] ETSI:http://www.etsi.org/
[11] IETF:http://www.ietf.org/
[12] IEEE:http://www.ieee.org/
[13] ASTM:http://www.astm.org
[14] ASME:http://www.asme.org
[15] 3GPP:http://www.3goo.org/
[16] 3GPP2:http://eee/3gpp2.org/
[17] W3C:http://www.w3c.org
[18] WTO/TBT:
http://www.jisc.go.jp/cooperation/wto-tbt-guide.html
[19] WTO/TBT 第2回3年レビュー:
http://www.jisc.go.jp/cooperation/pdf/3nen_02.pdf
[20] ISO-CEN Agreement (Vienna Agreement):
http://www.jisc.go.jp/international/pdf/01__Agreement_on_Technical_Cooperation_between_ISO_and_CEN_(Vienna_Agreement).pdf
[21] IEC-CENELEC Agreement:
http://www.iec.ch/about/partners/agreements/cenelec-e.htm
[22]  RoHS/WEEE Directives:
http://europa.eu.int/comm/environment/waste/weee_index.htm
[23]  EuP:
http://europa.eu.int/comm/enterprise/eco_design/index.htm
[24] REACH:
http://europa.eu.int/comm/environment/chemicals/reach.htm
[25] United States Standards Strategy:
http://public.ansi.org/ansionline/Documents/Standards%20Activities/NSSC/04-15-05%20-%20Public%20Forum.pdf
[26] SI units:ISO 1000, SI units and recommendations for the use of their multiples and of certain other units
[27] AQSIQ:http://www.aqsiq.gov.cn/cms/template/index.html
[28] SAC: http://www.sac.gov.cn/english/home.asp
[29] CNCA:http://www.cnca.gov.cn/20040420/column/227.htm
[30] 日本経団連 戦略的な国際標準化の推進に関する提言:http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/007.html
公的国際標準化と日本の対応 森 紘一,Kouichi MORI

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