~保全における規格・基準への取り組み第2回~設備保全における活動と標準化

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2.設備保全における活動と標準化
1. はじめに
保全学の構築と体系化に向けて、これまで「保全科学」「保全工学」「保全社会学」さらには「保全最適化」などについて日本保全学会内で論じられ、それらの一部が学会誌に掲載されてきた [1]~[7] 。これらの議論を踏まえ、日本保全学会企画運営委員会では残された重要課題である「保全規格・基準」への取り組みについて検討を重ねるため、「規格・基準への取り組み」と題する特集を組むこととし、これまで「保全における規格・基準の意義」と「社会からの要求と規格・基準」と題する解説記事が掲載された。
今回は設備保全における活動と標準化について述べる。
2. 保全活動の内容と構造
一般にプラント設備は、製品を生産するために「運転」を行う一方で、設備の経年劣化に対応するため定期的に設備の「点検、整備」を行い、これを繰り返すことによって設備を運用している。ここで言う点検、整備とは、設備の健全性を確認し維持する目的で、設備の運転中、停止中を問わず実施している保全活動全般(点検・検査、補修・取替・改造など)を指している。
このような保全活動は「計画」「実施」「評価」「対応措置」というサイクルを構成している。すなわち、設備等の人工構造物が経年劣化することは必然との基本的認識に立ち、設備機器に対しその経年劣化状態を把握するために点検・検査などの保全行為を「計画」し、それを「実施」する。そして、その結果得られる設備機器の保全データ(点検結果など)を、設計データや運転データなども考慮して「評価(現状の健全性評価や将来予測)」し、その評価結果に応じて必要な「対応措置(運転継続するか、是正措置を施すかなどを決定、実行する行為)」を取るとともに、それらの結果を次の保全計画に反映する。このように、保全活動は、計画(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、対応措置(Act)の、いわゆる保全サイクル(PDCA)を繰り返すことによって成立っている [4] 。(図-1)
この保全サイクルPDCAをもう少し詳述すると、下記のようになる。
(1) 保全方針、目標の設定(P)
保全(点検・検査)を行う場合、対象設備をどのような方針で保全するか、また保全の結果としてどの程度の安全性や信頼性(運転成績)を期待するかなど、まず保全の方針、目標を設定する。
(2) 保全対象の選定(P)
上記の方針、目標に基づき、予防保全を行う対象と事後保全とする対象を選別する。
(3) 保全プログラムの策定(P)
予防保全を行う対象の機器をどのように保全するか、その保全内容、実施時期などを具体的に決める。
(4) 保全の実施(D)
保全プログラムに従って現場で保全作業(点検・検査、手入れなど)を実施する。
(5) 実施結果の評価(C)
保全を実施した結果として得られる経年劣化に関するデータ(非破壊検査結果、測定結果など)を評価し、機器の健全性を確認するとともに、経年劣化の進展予測を実施する。
(6) 対応措置の要否判断(C)
上記評価の結果に基づき、そのまま運転継続するのか、補修等の是正措置を講ずるのか判断する。
(7) 対応措置の検討/実施(A)
是正が必要と判断された場合は、その内容に応じてどのように是正するか具体的に検討し実施する。この際、実施する措置(補修等)の効果度、必要な労力、機器停止期間など、経済性を勘案するのは勿論のこと、ライフサイクルやその後の運転計画なども考慮する。
(8) 保全管理の定期的見直し(A)
保全活動内容を常に改善するため、以上に示した一連の保全活動で得られた情報を次の保全計画に反映し、保全計画の見直しを行う。
以上に述べた保全の流れを図示すると、図-2に示すようになる。
保全サイクルPDCAのうち、点検・検査等の「実施」は現場の実作業を伴い、「対応措置」も補修・取替等の是正措置が必要な場合は現場の実作業を伴う。「実施」段階における保全活動を行う場合、その具体的な現場作業を「計画」し、「実施」し、その結果を「評価」し、必要に応じて再検査などの「措置」を講じるという、もう1つの保全サブサイクルpdcaが形成されていることに気づく。同様に、「対応措置」段階についても、是正措置が必要な場合はどのような手法あるいは工法を採用して是正するのかなど、その具体的な現場作業を「計画」し、「実施」し、その結果を「評価」し、必要に応じて実施結果の手直しなどの「措置」を講じるという、やはり現場作業の保全サブサイクルpdcaが存在する。(図-3)
なお、これまで「予防保全」一般について述べてきたが、そのうちの特殊ケースとして「定期取替」や「定期整備」などは前述の「評価」というプロセスが省略されたケース、また「事後保全」の場合は、「計画」と「実施」というプロセスが省略されたケースと考えることができる。
以上、本節では保全活動が「計画」「実施」「評価」「対応措置」というサイクルを形成し、「実施」と「対応措置」にはサブサイクルが存在することを確認した。我々はこの保全サイクルの各ステップを適正化あるいは最適化する努力を継続的に行っていく必要がある。
3. 保全標準化の方向性
前節の議論を踏まえ、以下に保全サイクルPDCAに沿って保全の標準化あるいは規格化の方向性について検討する。
3-1「計画」段階の保全活動と標準化
3-1-1 保全対象の選定
予防保全では予め保全対象を特定しその対象に対して計画的に保全を実施する。したがって、保全を適正化するには、まず予防保全対象を適切に選定することが必要である。保全対象を選定する観点としては「安全性」と「信頼性(ここでは設備の運転継続、生産支障に関連する信頼性すなわち経済性のことを言う。)」がある。要するに、「安全上重要な機器」と「生産活動継続上重要な機器」があるが、これらの機器の抽出に当たっては一定の考え方に基づき体系的に行う必要がある。
我が国の原子力発電プラントで行われている保全は、伝統的に機器の分解点検を基本とした保全であり、これが発電所の機器全般にほぼ一律に適用されている。この方法は手間ひまをかけて機器を分解し、隅々まで点検、整備して復旧するという手厚い保全方法である反面、作業量が膨大となるだけでなく、その作業に起因した不適合の発生や重視すべき保全対象が全体の中に埋没し希薄化しがちになるなどの問題がある。
このような状況を改善するには、従来の経験主義を脱して、安全性/信頼性を確保する上で重要な機器を適切に抽出できる新しい手法を考案しそれを実践する必要がある。現時点でこれを可能にする方法として考えられるのは、機器の故障実績を踏まえて目標とする安全性のレベル(事故発生確率)と信頼性のレベル(生産支障確率)を定量化できる確率論的評価手法である。この手法を用いて対象プラントの安全性と信頼性に大きな影響を与える機器、重点的に保全を実施すべき機器を特定するとともに、目標とする安全性/信頼性のレベルを設定し、それを達成するために、それぞれの機器に要求される安全性/信頼性の程度が明確になるので、それを達成できる保全を実施すれば、その結果として目標を達成できることになる。
以上のような考え方は、従来の伝統的な考え方と大きく異なるため、それが社会に浸透し受け入れられるようにするには、利害関係から離れた第三者的目を持つ学協会等の場で制定される規格を活用する等の工夫が必要である。
3-1-2 保全プログラムの策定
前項で予防保全対象が選定されたら、次にその「保全対象」に対する保全プログラムを合理的かつ具体的に策定することが必要となる。保全プログラムの構成要素には、選定された「保全対象」毎に「保全項目(保全メニュー)」「保全方法」「保全時期」の3つがあるので[4]、保全を具体化するには、これらの各構成要素を具体的に決める必要がある。(図-4)
ここで保全の内容について、もう少し詳しく考えてみたい。たとえば、ポンプの例で考えてみると、ポンプを健全に機能させるためには、その構成部品に対し、寸法や隙間等の管理を適切に行う必要がある。経年劣化が顕在化する以前の段階ではこのような保全を繰り返せば機器の機能を維持できるが、経年劣化が有意に顕在化し、進展すると特定の症状が現われ、これに適切に対処しなければならなくなる。(図―5)すなわち、保全には、下記の2種類があることに気づく。
a) 定例保全
* 寸法や隙間等の管理
* 機器各部が健全であることを確認するための点検・検査等
* 経年劣化が想定される部品の定期取替(消耗品取替)
b) 特別保全
* 機器の特定部位に経年劣化が発生、顕在化すると想定される場合、それを発見、把握するための点検・検査あるいはモニタリング等の実施
* 機器の特定部位に発生、顕在化した経年劣化が発見される場合、それが機器の健全性に与える影響の評価の実施
* 評価の結果、是正措置が必要と判定された場合の補修(取替、改造を含む。)の実施
以上の内容を念頭に置いて保全標準化のための規格体系を考えてみたい。前述の定例保全に対応する規格は内容が一定した保全を定期的に繰り返す保全であり、産業界の好事例(Good Practice, Best Practice)を将来、集約することを想定し、また米国ASMEのO&M Code[8]や(社)日本電気協会の「軽水型原子力発電所の運転保守指針(JEAG4803) [10]」を参考に、「運転保全(OM)指針」と名付けてはどうだろうか。特別保全に対応する規格は経年劣化事象を発見、把握するための検査規格、検査により経年劣化が発見された場合の評価規格、評価結果により是正措置が必要と判定され補修を実施する場合の補修規格であり、これは(社)日本機械学会の維持規格[9]が既にあるので「維持規格」としたらどうだろうか。これら2つの規格の総称をここでは「保全標準」としたい。(図-6)
図-5に示したように、機器の各部位に想定される経年劣化が発生、進展すると、き裂や漏洩、あるいは振動が発生し、最終的には機器の破壊、漏洩あるいは停止に至る。したがって、これら全ての事象を想定し、それらを防止できるように維持規格を体系的に整備することも重要である。そのためには、プラント等を構成する全ての機器を網羅した保全標準を体系的に整備すべきであり、それを実現するために、まず、保全標準の体系を明確にした上で検討を進めることが重要であると思われる。
前述の「保全指針」は定例保全を対象としており、正に保全の構成要素である「保全対象」「保全項目」「保全方法」「保全時期」から構成されるものである。このうち、保全項目(機器各部と経年劣化事象)と保全方法(現時点で利用可能な検査手法)を勘案して機器各部の点検・検査に最も適した保全方式、すなわち時間計画保全、状態基準保全、試験、事後保全のいずれかを選定し、それらのベストミックスを追求して保全内容を決め、保全を適正化していくことは極めて重要である。(図-7)ポンプの場合の検査プログラム例を表-1に示すが、顕在化した経年劣化の発見を想定して表-2に示すような補修プログラムを策定しておくことも重要である。これらの体系的標準化が望まれる。
以上、保全プログラムの標準化について述べてきたが、この節の最後に2~3の具体的な個別課題について述べておきたい。
(1) 保全対象の重点化
予防保全の対象の中には、ⅰ)特定の経年劣化が発生・進展する可能性のある箇所と、ⅱ)特定の経年劣化が発生することが想定されていない、すなわち発生の可能性が低い箇所がある。この2つを同一のものとして扱うのは、技術的に合理的ではないと考えられる。なぜなら、これまでの運転保守実績から、後者の箇所には供用期間中検査で経年劣化が発見されるのは稀であり、むしろ検査対象外の箇所にトラブルが発生する傾向にあるからである。我々が期待する効果的な検査プログラムとは、そのプログラムに従って検査対象箇所を特定し、検査した箇所に経年劣化が発見され、事故故障の未然防止に役立っている、という結果に導いてくれるプログラムである。
既に(社)日本機械学会の維持規格(検査章)でも前者を対象とする「個別検査」プログラムと、後者を対象とする「標準検査」プログラムが規定されつつある。前者の個別検査プログラムはこれまでの研究成果や運転保守実績等の最新知見に基づき特定の経年劣化事象の発生、進展を予測し、それをベースとして規定されているので、極めて技術的、合理的な規定と言える。しかしながら、現状は決定論的な手法に基づき、評価プロセスの処々に大きな保守性を持たせるような規格となっており、結果として適用範囲の狭い規格となっている。この点については確率論的なリスク評価手法などを取り入れる方向で今後とも合理化、高度化されることが望まれる。後者は前者を補完する、所謂「念のための検査」であると考えられるので、経年劣化の発生実績(不適合発生頻度)をデータベースとした確率論的リスク評価手法を適用し、経年劣化の発生する可能性が比較的高い箇所を特定できる、実態に合った検査規格とすることが望まれる。このような規格が是非ともほしいところである。なお、米国ASMEでは、前述のように、検査対象外の箇所に経年劣化が発生する頻度が高いことを認識し、確率論的リスク評価手法を適用した供用期間中検査(In-Service Inspection:ISI)プログラム(Risk Informed ISI:RI-ISI)[11]などを開発、これが既に実機に適用され成功を収めている。日本でも(社)日本機械学会においてリスクベースの検査手法が検討されている[12]。
これまでの長年に亘る研究調査と運転保守経験の積み重ねで経年劣化に対する知見が豊富に蓄積されている。今後は、前述のように、個別検査の充実強化、高度化を推進し、標準検査を合理化する方向へ検討を進めて、その成果を規格へ反映できるようにすべきではないだろうか。
(2) 補修規格の重要性
"補修"は多くの可能性を有する保全行為である。逆に言うと、まだ十分に確立、整備されていない分野と言うこともできる。なぜなら、これまでは経年劣化が発見された場合、当該部を完全に取替えて元の状態に復旧するか、あるいは当該部を改造しそれまで以上の性能を有する状態にすることが通常であったため、当該部を大きく変更せずに補修あるいは暫定補修する技術が発展して来なかったからである。したがって、補修の規格化もあまり進んでいないのが現状である。
しかしながら、補修という保全行為は下記に示す点で大きな可能性を有している。補修の規格化が強く望まれる所以である。
① 従来は、ひとたびき裂等の経年劣化が発見されると、当該部の詳細な検査と欠陥評価等が実施され、その上で当該部の対策工事が実施される。特に対策工事は完璧と言ってよいほどの手厚い方法が採用され、莫大なリソースと長い工事期間が費やされてきた。これに対し、下記のような特徴を備えた補修工法が開発され、規格化されるようになれば、これまでのやり方を大幅に改善し、多くの無駄を排除できる可能性がある。
* 諸準備が容易な補修工法
材料、装置、作業員等の手配が容易
* 施工が容易な補修工法
特別高度な技術やトレーニングが不要で、労力(工事量)が少なく、工期が短い工法
* 効果が高い補修工法
経年劣化が再発したり、他の経年劣化を誘発したりする可能性が低い工法、補修後の点検・検査頻度が低くてよい工法
*汎用性が高い補修工法
特定の箇所にしか適用できないのではなく、広く類似箇所に適用できる工法
② 「点検・検査」や「評価」が困難な事例でも、技術的妥当性が確認された補修工法を用いて「補修」すれば、経年劣化が除去あるいは進展防止されるので、当該機器の機能を回復あるいは維持することが可能である。すなわち、「点検・検査」や「評価」という保全活動が十分でない場合でもそれらを補完する能力を有するので、極めて有力なツールである。
③ 補修という保全行為は発生した経年劣化の除去あるいは進展の防止を実現し、当該機器の機能の回復あるいは維持を可能とする。そのような補修工法が開発され、技術的な妥当性を確認した上で規格化されれば、補修工法に対する社会の理解が得られやすくなり、徐々に社会的に受け入れられるようになると考えられる。また、経年劣化が顕在化した部位にこのような補修工法を適用し機能を回復させることにより、社会へ安心感を与えることが可能となる。
上記のような特徴を備えた補修工法の開発と規格化が強く望まれる。
3-2「実施」段階の保全活動とその標準化
前節の「計画」に従って保全を「実施」するステップである。ここでは予め計画された保全を計画通り正確に、しかも効率的に実施することが求められる。
点検・検査などに対してこれを実現するためには
*合理的な検査要領書
*目的を達成できる性能を有する検査装置
*一定以上の知識、技量を持った検査員
が必要である。これら3要素の組合せで点検・検査などの能力、性能が決まるので、最近、我が国でもこの事を踏まえたPD(Performance Demonstration)制度が発足しようとしている。[13]これに関する標準的ルール作りあるいは規格化が必要である。
また、点検・検査等を実施するために必要となる現場工事に対しては、同様に
*合理的な工事(作業)要領書
*使い易く効率的な装置や道工具類
*一定以上の技量を持った作業員
が必要である。ただし、この工事については、点検・検査などと性格が異なるため、強制的な規格というよりはむしろ産業界の好事例(Good Practice, Best Practice)を集約し、誰もが自由に活用できるような標準化や指針の制定などが望まれる。この標準化や指針策定に当たっては、現場工事を正確に、しかも効率的に実施することを競い合い、常に改善努力が為されるような環境を創り出すような工夫が必要である。たとえば、現場作業を他者(他の作業グループや他社の作業グループ)のやり方と直接比較できるように一連の現場作業を分割して作業の最小単位(タスク)を定義するのである。こうすれば、作業手順ややり方が他と異なってもタスク単位で作業の正確さや効率性を定量的に比較できるようになる。これは、いわゆるベンチマーキング活動であり、米国原子力産業界では既に導入されている。
図-3に示したように、「実施」段階には保全サブサイクルpdcaがある。これを念頭に、これまで述べてきた現場工事の標準化、指針化がなされれば、関連情報を共有できる仕組み、好事例に関する情報を交換するワークショップ、共通のトレーニング施設、作業員の技量認定制度などが全国レベルで機能するようになり、現場作業の高品質化、高効率化が実現され、社会貢献へつながるものと思われる。
3-3「評価」段階の保全活動とその標準化
保全を実施した結果の「評価」を行うステップである。ここでは、検査などで得られたデータを正確に評価することが求められる。その上でそのまま運転を継続するのか、何らかの是正措置を講じる必要があるのか、などについて間違いない判断をすることが求められる。これを実現するためには、保全工学などに基づき科学的合理性をもって機器に発生・進展する経年劣化を評価できる手法が必要である。このような手法は安全に係わるので、単に開発に留まらず、その社会的な認知が得られるよう、第三者性、客観性のある規格として制定しておく必要がある。
これまで規格として制定されている評価手法は、(社)日本機械学会の維持規格に見るように、き裂、減肉に対するものに留まっている。経年劣化を評価する手法の規格化を検討する場合、まず初めにプラント等を構成している機器に発生する各種の経年劣化を視野に入れ、図-8に示すような保全標準(規格指針類)の全体体系を明確にすることから始める必要がある。その上で不足している規格を明確にし、優先順位を付けて規格制定に取り組むべきである。
3-4「対応措置」段階の保全活動とその標準化
前節の「評価」を実施した結果に基づき対応措置を実施するステップである。ここでは特に補修等の是正措置が必要と判断された場合が重要である。その場合、どのような手法あるいは工法を採用するのかについて検討するとともに、その是正措置を具体的に「計画」し、「実施」する必要がある。この活動が適切に行われないと、その後の運転中に不適合が発生する可能性が高くなるので、安全性と経済性の観点から極めて重要な活動であると言える。
補修等の是正措置を講じる場合、採用できる選択肢が多くあることが望ましい。採用できる選択肢、すなわち補修工法(補修、取替、改造を含む。)が出来るだけ多く開発され、規格化されていることが重要である。今後必要となるであろう補修工法を開発し、規格化する前に、現時点でプラントを構成している全ての機器を視野に入れ、想定される経年劣化に対応できる補修工法が既に開発されているか、あるいは規格化されているか、体系的に調べてみる必要がある。
また、補修工法は前述のように、「準備が容易」などの条件を具備していることが望ましく、さらに確立された補修工法は特定の部位にのみ適用できるのではなく、出来るだけ広範囲に適用できることが望ましい。近年開発された各種の工法は特定の部位にしか適用できないとの条件が付されている場合が多く、効率的でない。今後は技術的根拠を明確にした上でこれらの条件を緩和できるような規格作りも望まれる。
図-3に示したように、「実施」段階と同様、「対応措置」段階にも保全サブサイクルpdcaがある。これを念頭に、是正措置に関する現場工事の標準化、規格化を進める必要があるが、その際、3-2節の「実施」段階で述べたように、ベンチマーキング活動ができるような配慮と環境整備が、また関連情報を共有できる仕組み、好事例に関する情報を交換するワークショップ、共通のトレーニング施設、作業員の技量認定制度などに関する検討も必要である。
4. まとめ
今回は、保全サイクルに沿ってステップ毎に保全活動の内容とその標準化、規格化の必要性について考えてみた。その結果、保全活動を標準化、規格化を実施する場合、まず保全活動を概観し保全標準の全体体系を、またプラントを構成する機器とそれに発生する可能性のある経年劣化を視野に入れて維持規格の体系を明確にすることが重要であるとの認識を持つに至った。今後は、個々の保全標準を策定する活動と並行して、このような保全標準の体系を明確にし、今後策定する必要のある規格や指針の全貌を知るとともに、それらに優先順位を付け、その順位に従って保全標準の策定に取り組むべきである。
長年に亘る研究調査と運転保守経験の積み重ねで経年劣化に対する知見が豊富に蓄積されている。これらを踏まえて、新たな規格指針類の整備と、既存の規格指針類の充実と合理化が望まれる。
参考文献
[1] 織田;「保全学の必要性」
日本保全学会誌「保全学」Vol.2,No.1(2003)
[2] 青木、正森;「保全の構造と体系に関する検討」
日本保全学会誌「保全学」Vol.2,No.2(2004)
[3] 青木;「保全科学および保全工学の構造と体系」
日本保全学会誌「保全学」Vol.3,No.1(2004)
[4] 正森、三牧;「医学から類推される保全学の構造と体系」
日本保全学会誌「保全学」Vol.3,No.1(2004)
[5] 青木、三牧、織田;「保全活動の最適化と保全工学(1)」
日本保全学会誌「保全学」Vol.3,No.2(2004)
[6] 青木、三牧、織田;「保全活動の最適化と保全工学(2)」
日本保全学会誌「保全学」Vol.3,No.3(2004)
[7] 織田、青木、三牧、蓮沼;「保全社会学の枠組みとアプローチ」
日本保全学会誌「保全学」Vol.3,No.4(2005)
[8] ASME O&M Code;OM-2001 Code for the Operation and Maintenance of Nuclear Power Plants
[9] 発電用原子力設備規格 維持規格(2004改訂版)
(社)日本機械学会(http://www.jsme.or.jp/na12004.htm)
[10] 軽水型原子力発電所の運転保守指針(JEAG 4803-1999)
(社)日本電気協会(http://www.denki.or.jp/pub/jeacjeag.html)
[11] Risk Based Inspection ? Development of Guidelines Series: 4 Volumes (CRTD201-204)
[12] (社)日本機械学会 リスクベース検査作業会(http://www.jsme.or.jp/std/pgc/)
[13] 山口;「PD制度の動向について」
日本保全学会誌「保全学」Vol.4,No.1(2005)
~保全における規格・基準への取り組み第2回~設備保全における活動と標準化 青木 孝行,Takayuki AOKI

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