社団法人日本機械学会の「事例規格」について
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1.はじめに
わが国の発電用設備に関する技術規格は、産業と技術の発展と平行して、産業災害から国民の安全を保護すると同時に産業の発展を促すとの立場から、国の指導・保護のもとに、技術規格は国の法体系の中に組み入れられ、規制基準としてその整備と高度化が進められてきた。一方、発電用設備をめぐる技術革新はめざましく、この技術革新の進捗にあわせ技術規格の内容も柔軟に対応できるよう社会的要請も高まってきた。さらに1996年の世界貿易機関の貿易に関する技術的障壁の撤廃に関する同意が締結されるなど規格・基準分野における国際性も、求められるようになってきた。これらの社会的動向を踏まえ、国の法体系の中の技術基準の性能規定化への流れが生じ、国も民間規格活用の方針を打ち出した。
この流れを受け、1997年10月、(社)日本機械学会に発電用設備規格委員会が火力発電、原子力発電の高度化と高信頼度化を推進する上で、その基盤となる発電用設備に関する技術規格の整備と高度化を担当する目的で設置された。ここでは、その後、発電用火力設備規格及び発電用原子力設備規格を整備してきており、発電用火力設備、さらにこれに引き続く2005年末の発電用原子力設備に関する国の技術基準の性能規定化に伴い、技術基準に適合する民間規格として機械学会規格の一部が認められるようになった。
機械学会発電用設備規格委員会では、発電用設備に関する技術規格の整備と高度化を継続的に行ってきているが、この中で技術規格使用者に対して規格の活用を助けるものとして整備されている事例規格について、以下にその概要を示す。
2.発電用原子力設備規格の体系と発行
(社)日本機械学会発電用設備規格委員会(以下「規格委員会」)では1997年の設立以来、発電用火力設備規格及び発電用原子力設備規格を中心に技術規格の策定を行ってきており、現在までに表-1に示す規格が発行されてきている。このうち、発電用火力設備規格[1]、発電用原子力設備規格維持規格[2]、発電用原子力設備規格溶接規格[3]、発電用原子力設備規格設計・建設規格[4]、発電用原子力設備規格コンクリート製原子炉格納容器規格[5]については2005年末までに国の技術基準に適合する技術規格として規制当局に認められた。さらに、機械学会規格委員会では使用済燃料貯蔵施設規格についても、これら施設に係わるキャスク等の設備の構造規格の整備を行ってきており、今後、社会的ニーズを受けた配管減肉関連の技術規格等の発電用設備の充実、あるいは核融合発電関連設備への展開がはかられる予定である。
表-1 日本機械学会発電用設備規格
規格コード 規格名称
JSME S TA1-1999 発電用火力設備規格
JSME S TA1-2002 発電用火力設備規格(2002年追補版)
JSME S TA1-2003 発電用火力設備規格(2003年版)-その1
JSME S TA2-2003 発電用火力設備規格(2003年版)-その2
JSME S NA1-2000 発電用原子力設備規格 維持規格
JSME S NA1-2002 発電用原子力設備規格 維持規格(2002年改訂版)
JSME S NA1-2004 発電用原子力設備規格 維持規格(2004年版)
JSME S NB1-2001 発電用原子力設備規格 溶接規格
JSME S NC1-2001 発電用原子力設備規格 設計・建設規格
JSME S NC1-2005 発電用原子力設備規格 設計・建設規格(2005年版)
JSME S ND1-2002 発電用原子力設備規格 配管破損防護設計規格
JSME S NE1-2003 発電用原子力設備規格 コンクリート製原子炉格納
容器規格
JSME S CA1-2005 発電用設備規格 配管減肉に関する規格(2005年版)
JSME S FA1-2001 使用済燃料貯蔵施設規格 金属キャスク構造規格
JSME S FB1-2003 使用済燃料貯蔵施設規格 コンクリートキャスク、
キャニスタ詰替装置およびキャニスタ輸送キャスク
構造規格
注:2005年末までに発行のもの。
現在規格委員会では技術的検討を行う場として、火力専門委員会、原子力専門委員会及び核融合専門委員会を設け、常に最適の技術規格を用意し、発電設備の信頼性の確保と関連産業の発展を促進することにより国民に貢献することを目標に活動しており、発電用設備規格(以下「学会規格」)の策定にあたって「中立」、「公正」、「公開」の原則に基づき、活動を行うため運営規約を定め、規約に忠実に従う委員会運営を行うこととしている。これにより国の技術基準の性能規定化に伴い、技術基準に適合する民間規格として学会規格が位置づけられる場合でも、国に代わって国民に責任を持ち、かつ、国民の信頼を得て真の国民合意に基づく規格策定を行うことが可能となる。
規格委員会の構成を図―1に示す。規格策定にあたっては各専門委員会及びその分科会で技術的検討が行われるが、具体的な規格原案は主に当該分野の専門家で構成される分科会及びその下の作業会で策定される。規格委員会及び各専門委員会では、中立性の観点から一部の個人、企業、業界の利益に偏らないよう委員が選任されるようになっている。
図-1 日本機械学会発電用設備規格委員会の組織
適切な分科会で策定された規格原案は専門委員会で主に技術的観点から審議され、最終的に専門委員会全委員の投票により承認される。さらに規格委員会では、より幅広い見地からの検討が行われ規格委員会として最終的な規格原案が全ての規格委員会委員の投票により承認される。
さらに、公正、公開性を充足させるよう、最終原案は公衆審査の手続きをとられ、審査が完了されてから、正式に機械学会発電用設備規格として発行・出版される。
また、発行後、規格の追加、改訂が必要な場合でも、新規規格の策定と同様な手順により発行・出版される。現在までに発行された規格については表―1に示すとおり、不定期的ではあるが、適宜改訂されている実績がある。
3.ASME B&PV規格のCode Caseの発行
学会規格の整備を行う上で、参考になるのが米国機械学会(ASME)のBoiler and Pressure Vessel Code(以下「ASME Code」)である。ASMEでは機械学会と同様に、Working Group及びSubgroup で策定された原案(新規、追加、改訂とも)を分野ごとのSubcomitteeで検討し、最終的な原案としてまとめられる。さらに、Boiler and Pressure Vessel Standards Committee(以下「Main Committee」)で規格発行に関する審議が行われ、ここでの承認後、公衆審査(public review)を受けて、発行される手続きとなっている。
ASME Codeは定期的(3年)に改訂版(Edition)が発行・出版されるが、その間、部分的な追加、改訂を反映した追補版(Addenda)が1年毎に発行される。したがって、ASMEでは、実質的に規格の追加、改訂の規格への反映は毎年行われることになっている。
また、ASMEには、規格利用者が、規格の解釈が正しいかどうかを確認することができる制度ができており、規格利用者はASMEに対して、「Interpretation」として質問を提出し、正式に回答(ただし、原則として「Yes」又は「No」の形式)を得ることができる。「Interpretation」は規格の一部ではないが、規格利用者にとって規格の適用の説明に関する疑問の解決に有効な手段となっている。
さらにASMEでは、利用者が次のような特殊な状況に対して適用する規定を「Code Case」として公式に発行している。
① 規格の追加・改訂となる規定を早く実行させようとする場合。
② 既存の規格には規定されていない新たな材料、設計手法、工法等を緊急に適用しようとする場合。
③ 新しい材料、設計手法、工法等に関して規格の改訂に反映する前に、実績を得ようとする場合。
「Code Case」は特殊な状況に対応するための指針を示す規格であるが、必須の要求を規定した強制的(mandatory)な規格との位置づけではなく、非強制的(non-mandatory)な規格と位置づけられており、現実には既存の規格の延長に相当する規格と考えられている。「Code Case」はできるだけ、規格本体に組み入れられるべきとの考えから、通常発行後3年の経過後に組み入れられるか、無効とするかの審議を受ける。現在までに「Code Case」は原子力発電設備関係だけでも700以上発行されている。「Interpretation」及び「Code Case」はともに、もともと規格利用者からの規格の解釈を求める質問を扱う制度から整備されてきたものであり、そのため、現在でも両者はともに、質問「Inquiry」及び回答「Reply」の形式で策定されている。
「Interpretation」あるいは「Code Case」は、規格追加・改訂の場合と同様に、Main Committeeで発行に関する審議が行われる。しかし、これらはMain Committeeでの承認後直ちに発行される手続きとなっており、理論上はMain Committeeが開催される年4回の発行が可能となり、規格利用者に対して迅速性のある対応がとれることになっている。
4.機械学会事例規格
国の技術基準の性能規定化に伴い、技術基準に適合する民間規格として認められるようになった学会規格について、利用される機会が増加するのに伴い、学会規格利用者から学会規格の解釈に関する質問が機械学会に出されるようになってきた。
また、学会規格は通常、標準的な構造物を念頭において規定が作成されているが、学会規格の利用者が具体的な構造物に対して、学会規格を適用とする場合、必ずしも必要十分な規定が学会規格に備わっているとは限らない。また、発電用設備に係わる技術の進捗も大きく、新しい技術を学会規格の利用者が採り入れようとする場合、必ずしも必要十分な規定が学会規格に備わっていないこともありうる。このような場合、学会規格利用者は、機械学会に対して質問することにより利用者の解釈が正しいかどうかを確認することができる制度になっている。
しかし、場合によっては、解釈の確認だけで十分ではない場合もあり、このような場合は規格の追加又は改訂の要求が生じる。規格の追加又は改訂の場合は、上述のように新規策定と同様な手順がとられることになるが、追加又は改訂内容によっては規格の体系として、組み入れることが困難な場合、不適当な場合などもある。さらに、このような場合には、迅速性が求められる場合も多く、通常の規格の追加又は改訂の手順では、規格利用者が望む時期に規格への反映が行われなくなることもありうる。
このような問題に対処するために、ASMEの「Code Case」を参考に、学会規格に設けられたのが「事例規格」を策定する制度である。「事例規格」とは次のような規格と定義づけられている。
① 適用対象設備等に限定的な制限を付けることにより、本文に規定されるものとは別の方法を適用する場合の規格。
② 規格には含まれていない新規の材料、設計、施工又は検査等の適用実績を、ある期間にわたって得ようとする場合の規格。
機械学会「事例規格」の策定・発行は、現在では、既存の規格と同様の手続きにて行われることになっており、現在までに「事例規格」は2件発行されており、また、近く4件の「事例規格」が発行予定である(表―2参照)。
表-2 発行済・予定の事例規格
事例規格名称 制定日 親規格
高ニッケル合金のPWR一次系水質
環境中のSCCき裂進展速度(NA-CC-001) 2004.12.07 維持規格
(2002年版)
周方向欠陥に対する許容欠陥角度
制限の代替規定(NA-CC-002) 2005.12.12 維持規格
(2002年版)
蒸気発生器伝熱管の体積試験
(渦流探傷試験)の判定基準 2006(予定) 維持規格
(2002年版)
過圧防護に関する規定 2006(予定) 設計・建設規格
(2001、2005年版)
応力腐食割れ発生の抑制
に関する考慮 2006(予定) 設計・建設規格
(2001、2005年版)
BWR配管における混合ガス蓄積防止に関する考慮 (策定中) 設計・建設規格
(2001、2005年版)
この「事例規格」を発行する制度も制定されてからの時間がまだ短く、現時点ではASMEと比べても発行数はきわめて少数であるが、今後、学会規格の利用機会が増加するのに伴い、「事例規格」が発行される機会も増加するものと思われる。
5.事例規格の概要
現在発行済、又は近く発行予定である機械学会「事例規格」は、いずれも発電用原子力設備規格に関するものであり、その概要を以下に示す。
5-1)高ニッケル合金のPWR一次系水質環境中のSCCき裂進展速度
国内外の加圧水型原子炉(PWR)一次系水質環境中高ニッケル合金部材で、応力腐食割れ(SCC)によるき裂の発生、あるいは発生・進展にともなう漏えいの経験から、国内ではき裂発生の予防保全策はとられている。しかしながら、万一新たなき裂が発生した場合を考慮して、発電用原子力設備規格「維持規格」の欠陥評価における評価期間末期の欠陥寸法を決定するためのき裂進展評価に必要な、高ニッケル合金のPWR一次系水質環境中のSCCき裂進展速度を「維持規格」関連の「事例規格」として規定したものである。
海外ではすでにPWR一次系水質環境中のSCCき裂進展速度評価式が策定されており、米国では規制当局が、高ニッケル合金のPWR一次系水質環境中のSCCき裂進展速度評価式を含むPWRのSCC評価指針を発行している。しかし、国内ではPWR一次系水質環境中のSCCき裂進展速度については、国の関係機関等でデータ取得中でもあり、その成果を踏まえたSCCき裂進展速度評価式についてはまだ策定されていない。
このため、機械学会規格委員会で、この米国の評価式のベースとなったデータの国内の高ニッケル合金のPWR一次系水質環境中の評価への適用可能性を検討し、国内データが取得され、進展速度評価式が整備されるまで適用可能とするためのSCCき裂進展速度評価式を「事例規格」として規定したものである。今後、高ニッケル合金溶接金属に対するSCCき裂進展速度評価式についても、SCCき裂進展速度データが蓄積された段階で、規格として整備する予定である。
5-2)周方向欠陥に対する許容欠陥角度制限の代替規定
発電用原子力設備規格「維持規格」のクラス1配管の欠陥評価における破壊評価法はオーステナイト系ステンレス鋼管及びフェライト鋼管に対して規定され、適用すべき具体的な評価法が「維持規格」の添付に規定されている。これらの添付では、周方向欠陥に対する評価用許容欠陥の長さ(管断面での周方向の角度)を工学的判断として60°以下に制限している。
しかしながら、実際に欠陥角度が60°を超える場合でも、欠陥深さを適切に制限することにより、構造強度が確保できることから、評価用周方向欠陥の角度が60°を超える場合に、これらの添付の方法に替わり許容欠陥の角度制限を代替することが可能な評価手法を「維持規格」関連の「事例規格」として規定したものである。
適用条件は、補修を行わず継続使用する管と、ウェルドオーバーレイ補修を行う管に分けて設定している。補修を行わず継続使用する管に対しては、非破壊検査による欠陥寸法測定誤差及び検出限界を考慮し、配管の周方向欠陥角度が60°を超えた場合の破壊強度を「設計・建設規格」の構造設計基準における配管系の崩壊強度以上に確保するように周方向欠陥角度に対する許容欠陥深さを暫定的に設け、適用条件とした。また、ウェルドオーバーレイ補修を行う管については、原配管及び応力腐食割れに有効とはならないオーバーレイによる補強部分の厚さを考慮せず、かつ、評価期間中の疲労き裂進展も考慮した有効補強部分の厚さのみで健全性を確保することができ、さらに残存する有効補強部の厚さが全厚さの25 %以上あることを要求している。
5-3)蒸気発生器伝熱管の体積試験(渦流探傷試験)の判定基準
発電用原子力設備規格「維持規格」において、PWRの蒸気発生器伝熱管の判定基準は、過流探傷試験の検出精度をもとに設定されているが、局部減肉した伝熱管は実証試験結果等により現在の判定基準(伝熱管の厚さの20 %の減肉)より深い減肉に対しても十分健全性が確保できることが確認されている。
伝熱管の非破壊検査で判定基準以上の減肉信号が検出された場合には「維持規格」では施栓による補修または取替を行うこととなり、施栓に伴う事故時の除熱性能の低下及び施栓施工時の被ばくの増加につながることになる。
過去にいくつかのプラントにおいて2次側流体による流体振動により伝熱管の振止め金具支持位置で局部摩耗減肉が発生したため、改良型振止め金具への取替えが行われた。この対策がとられた後では旧振止め金具支持位置において減肉の進展はないことが確認されている。
したがって、当該部の減肉が今後の運転に係る伝熱管の健全性に問題ないものであれば、使用を継続することが可能であるため、機械学会規格委員会では、この考え方のベースとなった、伝熱管の実証試験結果等を検討し旧振止め金具支持位置での新型過流探傷試験による減肉信号について、代替として適用しうる合理的な判定基準(伝熱管の厚さの40 %の減肉)を「維持規格」関連の「事例規格」として規定したものである。
5-4)過圧防護に関する規定
国の技術基準の性能規定化に伴い、従来の技術基準で具体的に規定していた詳細要求が削除されることに伴い、学会規格として具体的な詳細規定を整備することになったもので、発電用原子力設備を構成する原子炉施設の過圧を防護するために設置する安全弁、破壊板、真空破壊弁等に関する要求事項を発電用原子力設備規格「設計・建設規格」関連の「事例規格」として独立して規定したものであり、将来、「設計・建設規格」に取り込むことを検討する予定である。
本「事例規格」の策定に当たっては、従来の技術基準での規定内容をもとに、発電用原子力設備規格として、主として安全弁、破壊板、真空破壊弁等に関する構造的な要求事項を体系的に規定している。
5-5) 応力腐食割れ発生の抑制に関する考慮
国の技術基準の体系的整備に伴い、応力腐食割れ発生の抑制に関する指針となる規定を発電用原子力設備規格として整備することになったもので、ASME Codeの規定(Section III "Rules for Construction of Nuclear Facility Components", Non-mandatory Appendix W, "Environmental Effects on Components", paragraph W-2100 "Stress Corrosion Cracking")を参考に、国内での研究等の知見を反映して「設計・建設規格」関連の「事例規格」として規定したものである。
応力腐食割れの発生原因は、種々の要素が複雑に絡み合い、一義的な防止の規定を設けることは難しいため、本「事例規格」では、利用者が設備の設計等に際して応力腐食割れの対応を考慮する場合の基本的考え方の指針として、オーステナイト系ステンレス鋼、高ニッケル合金等の材料面、構造設計、溶接、加工等における応力低減の面、材料表面の応力改善の面、及び温度、水質等の環境の面で考慮する点を示している。また規格利用者の理解の便宜のために、この「事例規格」の規定のフローチャートを示すとともに、記載する参考文献を充実し、規格利用者に対する指針の規定内容の背景等への手がかりを与えるものとしている。さらに、国内での応力腐食割れによる損傷事例も参考として付している。
5-6) BWR配管における混合ガス蓄積防止に関する考慮
国の技術基準の体系的整備に伴い、国内での沸騰水型原子炉(BWR)配管での損傷事例を踏まえBWR配管における混合ガス蓄積防止に関する指針となる規定を発電用原子力設備規格として整備することになったもので、国内外での試験、研究により得られた知見をもとに「設計・建設規格」関連の「事例規格」として策定中のものである。
6.事例規格の今後の展開
日本機械学会発電用設備規格「事例規格」を発行する制度も制定されてからの時間がまだ短く、発行数はきわめて少数である。ASME Codeにおける最近の例では、新材料の適用、解析技術の進捗を取り入れた設計手法の高度化、設計、検査等へのリスクベースなど新しい概念の導入、非破壊検査技術の高度化、溶接等の製造技術の高度化等を反映した要求の規定、あるいは高経年化に伴う経年変化事象に関する知見に対応する規定などがCode Caseとして策定されている。わが国でも、米国と同様の状況にあることから、今後、学会規格の利用機会が増加するのに伴い、このような観点での規格策定の要求も出てくるものと考えられ、状況によっては「事例規格」として発行の検討が必要である。
例えば、以下のような規定の策定が考えられる。
? 使用済燃料貯蔵施設用キャスク等への新材料の適用
? 弾塑性設計手法の導入
? 有限要素法の適用による応力分類によらない応力評価手法の導入
? リスク概念による部分安全係数を用いた設計手法の適用
? システム化規格の導入
? リスクベース検査規定の導入
? 非破壊試験における超音波試験の適用拡大
? 応力腐食割れ評価手法の高度化
? 局部減肉規格の策定
? 高経年化対応の予防保全工法の適用
? ウエルドオーバーレイ等の新しい概念の補修工法の適用
また、「事例規格」の規格体系の中での特徴から、策定においては、迅速性、機動性が必要となることもありうる。現在では、既存の規格と同様の手続きにて発行が行われることになっており、必ずしも迅速性、機動性の点で十分ではなく、ASMEの 「Code Case」での例も参考に、学会規格策定の「中立」、「公正」、「公開」の原則のもとでの、より迅速性、機動性のある「事例規格」の適用が可能となる運用も検討する必要がある。
7.おわりに
本報告では、日本機械学会発電用設備規格の中で整備される「事例規格」について、その規格体系の中での特徴、具体的な「事例規格」の概要等についてまとめた。
国の技術基準の性能規定化に伴い、技術基準に適合する民間規格として学会規格が認められるようになり、利用される機会が増加するのに伴い、学会規格の規定を迅速に追加又は改訂し、適用可能とする必要性が高くなるものと考えられる。このため、今後、日本機械学会発電用設備規格本体の追加又は改訂の迅速性を高めるのと同時に、「事例規格」を活用し、学会規格の充実を図って行くことが必要である。
参考文献
[1](社)日本機械学会:発電用火力設備規格(1999年版)、JSME S TA1-1999、1999年
[2](社)日本機械学会:発電用原子力設備規格維持規格(2000年版)、JSME S NA1-2000、2000年
[3](社)日本機械学会:発電用原子力設備規格溶接規格、JSME S NB1-2001、2001年
[4](社)日本機械学会:発電用原子力設備規格設計・建設規格(2001年版)、JSME S NC1-2001、2001年
[5](社)日本機械学会:発電用原子力設備規格コンクリート製原子炉格納容器規格、JSME S NE1-2003、2003年
[6](社)日本機械学会:発電用原子力設備規格維持規格(2002年版)、JSME S NA1-2000、事例規格 高ニッケル合金のPWR一次系水質環境中のSCCき裂進展速度、CC-001、2004年
[7](社)日本機械学会:発電用原子力設備規格維持規格(2002年版)、JSME S NA1-2000、事例規格、周方向欠陥に対する許容欠陥角度制限の代替規定、CC-001、2005年
[8]K. R. Rao、 Editor、 "Companion Guide to the ASME Boiler and Pressure Vessel Code、 Vol. 1"、 ASME Press、 2002
社団法人日本機械学会の「事例規格」について 小山 幸司,Koji KOYAMA