溶接変形と残留応力の基礎残留応力と保全-第1回-

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残留応力と保全(その1 溶接変形と残留応力の基礎)大阪大学 大学院工学研究科望 月 正 人1.はじめに 保全を考えるとき,対象の長期にわたる信頼性を確保するため,初期の製作に配慮するとともに時間経過にともなう保全活動が重要となる.ここで,圧力容器や配管など気密性を要求される構造物の場合,その製作に溶接が用いられることが多いが,直接目には見えない製作時の残留応力が劣化や損傷に影響を及ぼすことに気をつけなければならない. さて,溶接によって「もの」を「つなぐ」とき,要求通りの形状・寸法を満たすとともに,使用中に問題が生じないようにするために種々の配慮が必要となる.ここで,溶接部の品質を確保するためには,溶接欠陥を防止するのみならず強度や靭性などの機械的特性にも注目する必要があるが,これらの性質は溶接入熱による材料のミクロ組織の変化に依存することが多い.さらに,溶接などの熱を局所的に投入する加工を行うと材質が変化すると同時に,熱変形・残留応力が生じる.溶接変形は工作精度を著しく低下させるのみならず,目違いなどが引張強度・疲労強度に影響を及ぼしたり,座屈強度を低下させたりする場合がある.また,残留応力の存在は脆性破壊,座屈,疲労,応力腐食割れなどに大きく影響を及ぼすことが広く知られている.これらの現象を的確に把握し,必要に応じた方策を講じることにより,適正な溶接構造物を製作することが可能になる. 溶接構造物の残留応力と溶接変形は表裏一体の関係にあり,本質を理解するためには双方を理解していることが大切である.本稿では,溶接変形と残留応力の発生メカニズムを基本的なモデルを用いて解説するとともに,基本的な溶接継手における評価例や対策例などを簡単に紹介する.2.溶接残留応力2.1 残留応力の発生原因と支配因子 現在用いられている溶接・接合法の多くは熱を与える方法であり,加熱のためにはいろいろな溶接熱源が用いられている.この接合部近傍のみの局部的な加熱および冷却過程が溶接残留応力や溶接変形をもたらすことになる. 通常,物体の一部分が加熱されると,その部分は膨張しようとする.しかし,加熱が局部的である場合,周りの部分は温度上昇しないために熱膨張が生じることなく,加熱される部分の膨張変形を妨げることになる.この熱変形拘束によってもたらされる応力を「熱応力」という. この変形が弾性的である場合は,冷却後は元の状態に戻り,何ら変形や残留応力が残ることはない.しかし,一般の金属材料では,降伏応力は温度とともに小さくなる傾向にあり,熱変形拘束が大きな場合には,加熱部に生じる熱応力(一般には加熱部では圧縮応力が生じる)によって容易に圧縮の塑性変形が生じるため,冷却された後では,加熱部にその圧縮塑1性ひずみによる応力が残留することになる.これが溶接残留応力であり,残留応力をもたらす残留塑性ひずみは「固有ひずみ」とも呼ばれる. 突合せ溶接継手を例にとり,三本棒モデルに置き換えて,溶接変形と残留応力の発生機構をモデル化したものを図1に示す.突合せ継手を,(a)図のような両側を剛性板で拘束された三本棒モデルに置き換え,溶接部に対応する中央の部分が加熱・冷却されることを考える.すると,加熱時には,拘束がなければもっと膨張したい溶接部を母材が遮るようになるため,(b)図のように溶接部に圧縮の応力が生じる.この度合いが大きくなれば溶接部は降伏することになり,最高加熱温度に応じて圧縮の塑性ひずみが生じる.溶接部がひとたび降伏すると,最高加熱温度時に拘束を切り離して放冷した場合,溶接部の寸法は(c)図のように短くなる.したがって,通常の溶接の場合のように周りの剛性板に固着されたまま冷却されるとすると,(d)図のように溶接継手全体としては長手方向に収縮変形が残留することになる.また,溶接部には引張応力,母材部には圧縮応力が残留することになる. 通常,溶接部近傍には降伏ひずみ(=降伏点/縦弾性係数)に比べて大きな圧縮ひずみが残留するため,溶接部近傍の溶接線方向の残留応力は,その材料の室温の引張降伏応力の大きさにほぼ等しい大きさとなる. 溶接残留応力・溶接変形は, (1) 溶接熱履歴の過程で溶接部近傍に生じる塑性ひずみ (2) 溶接金属の凝固時における母板(母材)の熱変形によって生じる食い違い (3) 溶接金属に生じる収縮と塑性ひずみなども関係する.通常の溶接残留応力・変形は,(1)の原因が主たるものであるが,後述する溶接横収縮などでは(2)の果たす役割が大きい場合もある.このように溶接残留応力・変形は,溶接部に存在する塑性ひずみの大きさと広がりに大きく依存するため,熱履歴過程で塑性ひずみをもたらす因子が,残留応力・変形の支配因子となる.その主な支配因子は, (1) 溶接入熱に関係する因子  (溶接法,溶接条件,溶接棒の種類,溶接層数・積層法,初期温度など) (2) 継手の拘束状態に関係する因子  (溶接継手形状・寸法,溶接線の位置,溶接順序,など) (3) 材料に関係する因子  (機械的性質,線膨張係数,力学的溶融温度,相変態特性,など)などが挙げられる. また,金属とセラミックス,あるいは異種金属同士が接合されるような場合には,接合体がたとえ一様に加熱・冷却されてもそれぞれの材料の線膨張係数の差に起因する熱応力が発生する.図2は異材接合体の熱応力発生機構を模式的に示したものである.二つの異なる材料が接合されているとき,材料間の自由膨張・収縮の差を埋めるために界面にせん断応力が生じ,さらに非対称に配置されている場合には曲がり変形も生じる.また,これらの変形が塑性域に達した場合には,当然冷却後にも残留応力と変形が存在することになる.2.2 溶接残留応力分布の特徴(a) 平板突合せ溶接継手の残留応力分布 比較的厚くない平板のアーク溶接などによる突合せ継手における残留応力の定性的な分布傾向を図3に示す.溶接線方向の残留応力は,(a)図に示すように,溶接部近傍ではその材料2の室温の降伏応力程度の大きな引張応力が残留し,それに釣り合うようにその両側に圧縮残留応力が生じる.溶接線に直角な方向の残留応力は,(b)図に示すように,溶接部近傍では多少の引張応力となるが,その値は通常それほど大きくない. このような特性から,突合せ継手の残留応力では一般に図4に示すような溶接線方向の応力が問題となる場合が多い.溶接による入熱に比べて十分に大きな板幅の突合せ溶接の場合(例えば,溶接による平均温度上昇が50℃以下のような場合),残留応力分布は図4中に示したような略算式で求めることができ,その特徴は次のようになる. (1) 残留応力の値は,その材料の室温での降伏強さにのみ依存し,溶接入熱には無関係である. (2) 溶接部近傍の残留応力は,必ずその材料の室温の降伏応力レベルの引張残留応力となる. (3) 引張残留応力となる範囲の大きさなどは,(溶接入熱)/[(板厚)×(材料の降伏応力)] に比例する. 以上の残留応力分布は,鉄鋼材料などでその変態温度が比較的高い場合や冷却中に相変態を生じない金属材料の場合であり,調質型の高張力鋼や9%Ni鋼,マルテンサイト系ステンレス鋼のような冷却過程の比較的低温度域で相変態が生じるものでは,溶接部近傍のAC1温度以上に加熱される領域では冷却過程で変態膨張が生じるため,図4に示した残留応力の値より小さくなる.すなわち,この変態膨張を活用することによって,溶接部近傍の残留応力や溶接変形を低減することも可能である.(b) すみ肉継手の残留応力分布 二枚の平板をすみ肉溶接する場合,基本的には突合せ継手の残留応力分布と同じ傾向が三方向に分布することになる.ただし,図5に示すように,下板側のフランジの平板の残留応力分布は突合せ継手と同様であるが,立板側のウェブ内での残留応力は後述の縦曲り変形の影響を受けることにより端部付近で引張残留応力が分布することになる.(c) 厚板の残留応力分布 溶接される板厚が厚くなると,かなり多くの層を重ねた多層溶接が行われるが,その場合,先行しておかれた溶接金属がその後の変形を拘束することになり,比較的薄板の場合の図4に示した残留応力分布とは異なり複雑な分布となる.一般に,多層溶接継手の残留応力は,最終層直下付近で最大となり,しかも溶接線方向のみならず溶接線直角方向の残留応力の値も無視できないレベルの大きさとなることに注意が必要である.図6に厚板平板継手の板厚内部残留応力分布の一例を示す.(d) 円筒殻(配管)・球殻の残留応力分布 配管や圧力容器などの 円筒殻や球殻の残留応力分布も,その発生機構は基本的には平板と同じである.しかし,その形状的特徴から,溶接部が収縮して円の中心に向かって落ち込む「俵絞り」のような変形が生じるために,図7に示すように,比較的薄板の円周継手では溶接部近傍の内面に溶接線方向および直角方向ともに大きな引張りの残留応力が生じる.円筒殻の内面に生じる引張りの残留応力の制御は,応力腐食割れなどの防止にとって重要であり, 水冷溶接などの残留応力低減溶接法やI H S I ( I n d u c t i o n H e a t i n g S t r e s s3Improvement(高周波誘導加熱による溶接後の残留応力改善法)など,いくつかの具体的な方法も提案されている.2.3 残留応力が継手性能に及ぼす影響 溶接残留応力は,注目する溶接部の性能によっては大きな影響を与えることがある.残留応力も溶接変形も局部的な膨張,収縮に伴う熱応力の発生と,それによる変形が原因で生じるわけであり,その原因が取り除かれるような,すなわち部材全体が塑性降伏するような大きな荷重を受けると残留応力は除去される.したがって,部材が全断面降伏するような状態に対する強さ,継手の降伏強度,引張強度,最終的な延性破断強度(これらを総称して一般に静的強度と呼ぶ)には溶接残留応力はほとんど影響を及ぼさない.ただし,引張残留応力を持つ継手では,変形時に同じ荷重に対してひずみが少し大きくなり,いわゆる鋼性の低下が生じる.しかし,その程度は部材の全面降伏するときでも残留応力のない場合に比べて降伏ひずみ程度大きくなるのみで,それほどは大きくない. 一方,静的な荷重を受けても,溶接継手が脆性破壊を生じるような場合には,残留応力の影響が顕著となる.溶接欠陥やき裂などを持ちその近傍に引張りの残留応力が存在すると,破壊応力が降伏応力以下 の低応力脆性破壊域では残留応力の存在によって破壊遷移温度曲線が高温側に移行し,溶接線に直交するき裂の場合には,50~60℃も高温側に移行する.すなわち,脆性破壊の発生が懸念される個所に高い引張残留応力が存在する場合には,残留応力の除去処理を行うことが望ましい.圧力容器などでは規格によりある板厚(一般に30~40mm)以上では,残留応力除去を要求している. 残留応力は応力腐食割れに対する性能への影響も顕著であり,腐食環境にある溶接継手に存在する引張残留応力は,オーステナイト系ステンレス鋼の応力腐食割れ,軟鋼などの苛性脆化,高張力鋼などの硫化水素割れなどを大きく助長させることがある.3.溶接変形 溶接残留応力と同じように,溶接による不均一な膨張と冷却による収縮の結果として,溶接継手は図8に示すような各種の変形を生じる.実際の溶接変形は,これらの変形が組み合わされた複雑な形で発生することになる. 溶接変形の大きさは,溶接入熟などの溶接条件,溶接部材の寸法・形状および外的拘束条件などの諸因子の影響を受ける.以下に,代表的な溶接変形についての特徴を示す.(1) 横収縮と角変形 溶接部近傍は基本的に溶接終了後に収縮する特性を有しており,この収縮がもたらす溶接変形のうち,特に,横収縮と角変形が構造精度確保の上で問題となる場合が多い. 横収縮量は溶接金属が変形抵抗を持つまでに生じる母板部の熱膨張量にほぼ等しく,溶接入熱量の影響が大きい.収縮量は入熱が大きくなるほど単調に大きくなる.初パス溶接での収縮量は,母板の板厚が比較的小さい場合,溶接入熱に比例し,板厚が大きくなると溶接入熱の平方根に比例する. 一方, ビードオンプレート溶接や多層溶接のように,板厚の表面側に偏って溶接加熱されるような場合,収縮変形が板厚の中立軸と異なる位置で偏心して生じるために結果として角4変形が残る.この角変形量は,横収縮と異なり溶接入熱のある一定の値のところで最大となり,入熱が大きくとも小さくとも角変形量は小さくなる. ここで,もっとも基本的な平板のビード溶接の場合,横収縮量Sと角変形量δは,溶接入熱Qを板厚hの2乗で除した入熱パラメータQ/h2 に依存する.図9は,軟鋼板のビード溶接による横収縮と角変形に及ぽす溶接入熱パラメータの影響を示した実験例である.(2) 回転変形 溶接変形の中で,平板の突合せ溶接における回転変形は,開先が開いたり閉じたりする溶接中の変形であり,この開先面の開閉は溶接施工,特に最近のように自動溶接が採用されることが多い場合には重要な問題となる.この回転変形は板端部が溶接熱源によって加熱されることによる過渡変形が主原因であり,溶接後の残留変形とは異なるものである. もし,開先前方に仮付けなどの開先の変形を拘束するものがなければ,図10に示すように溶接の進行とともに溶接熱源部の開先面は必ず開く.したがって,一般には仮付けやストロングバックなどを適当に配置して,その開口変形を抑えることが行われる.しかし,強い仮付けなどの存在によって溶接開始直後の熱源直下の開先面が閉じる変形を生じることもあり,また,弱い仮付けでは,溶接中に開先そのものが切れてしまうこともあり,適切な仮付けが必要である.4.溶接変形・残留応力の軽減法 鋼材溶接部における残留応力と変形の支配要因は,溶接熱と拘束といってよい.溶接熱の大小に関係する要因は溶接法,溶接入熱,開先寸法,形状などで,一般に溶接熱が小さいほど残留応力の生じる範囲も変形も小さくなる.溶接変形については拘束を大きくすれば減少させることができるが反対に残留応力は増大し,溶接割れが発生しやすくなる. 残留応力と変形は相反する関係にある場合が多く,両者を同時に軽減することはなかなか難しい.一般に厚板では拘束を小さくして残留応力の軽減を図り,薄板構造では変形の防止に重点を置く設計・施工法がとられる.4.1 残留応力低減の方法 残留応力発生の主な要因は,溶接部近傍に残存する圧縮の塑性ひずみである.残留応力を低減するには,その残留圧縮塑性ひずみを何らかの方法で取り除けばよい.しかし,溶接を行いながら溶接部近傍での塑性ひずみを取り除くことは,加熱する溶接方法を採用する限りほとんど不可能である. 溶接後に残留応力を除去するには, (1) 溶接部およびその近傍に引張りの塑性変形を与えて,残留圧縮塑性ひずみを小さくし,ひずみの不適合を緩和する (2) 溶接部から離れたところの母材部に圧縮の塑性変形を与え,ひずみの不適合を緩和するの2つの原理が挙げられる. 具体的な残留応力低減手法としては,機械的手法による過ひずみ法(溶接線方向に引張る方法)やピーニング法,熱を利用した溶接後熱処理,低温応力緩和法などがある.1900/01/04 溶接残留応力の低減にもっとも多く用いられる方法が,溶接後熱処理(Post-Weld HeatTreatment,PWHT)である.PWHTによる溶接残留応力の低減機構は,加熟による材料の降伏応力の低下と,高温でのクリープにより溶接部に引張りの(塑性)ひずみが生じることで,溶接残留ひずみの不適合性を取り除くことにある. PWHTは,通常,AC1変態点以下の所定の温度に構造物全体あるいは溶接部を含む部分を均一に加熱し,一定時間保持したあと緩やかに冷却させる熱処理法である.部分加熱の場合には温度分布に注意する必要がある.熱処理温度が高いほど,また,保持時間が長いほど残留応力の低減効果が著しい.軟鋼では600℃,低合金鋼では680℃以上で,厚さ25mm当たり1時間保持後,徐冷するのが普通である. 実際の施工においては,通常,大型の加熱炉に入れて均一に加熱する.しかし,構造物が大きいときや現地での施工の場合は溶接部付近のみを加熱して局部的に処理することもある.焼入れ・焼戻し鋼(調質鋼)では熱処理温度は鋼材の焼戻し温度より低くしなければならない. PWHTは残留応力の除去ばかりでなく,溶接部の水素の放出,熱影響部硬化層の軟化と延性の回復などに効果がある.ただし,性能上好ましいことばかりが生じるのでなく,焼戻し脆化や再熱割れなど,場合によっては著しい性能低下をもたらすこともあり,その実施の判断には十分な注意が必要である.4.2 溶接変形の防止法と矯正法 溶接構造物の製作でもっとも問題となるのが溶接変形で,構造物の美観を損ねるのみならず性能低下につながることもある.一般に,溶接変形の低減のために溶接事前防止あるいは事後矯正対策がとられている. 溶接変形の軽減のための一般的原則を,以下に列記する.(溶接設計的には) (1) 溶接箇所をできるだけ少なくし,必要以上の接近を避ける. (2) 変形を抑制するような継手位置・形状,構造・形材の採用などを図る.(溶接施工条件的には) (3) できるだけ溶接入熱を小さくする. (4) エネルギー密度の高い溶接法を採用する. (5) 溶着量の小さい対称な開先形状を選択する. (6) 適切な溶着法と溶接順序を選ぶ. (7) あらかじめ逆方向の変形を与えておく逆ひずみ法を採用する.このほか面内の収縮に対してはできるだけ自由にし,収縮量をあらかじめ見込んだ部材寸法をとり,矯正困難な面外変形については適当な治具を用いて拘束するなどの手段をとることも多い.変形の抑制を重視するならストロングバックなどの拘束治具で拘束したり,補強材などを配して拘束を大きくするような構造設計を行うことも必要であるが,この場合残留応力(拘束応力ともいう)が大きくなり,割れが発生したりすることに注意する必要がある. 一度生じた変形を矯正するにはプレスやローラなどによる機械的方法,局部加熱急冷法(お灸,線状加熱)があるが,完全な矯正は難しく,材質的な問題も生じるので,本来はできるだけ変形を小さくするように防止に重点をおいた設計,施工をすべきである.65.おわりに 溶接にともない発生する残留応力と溶接変形について把握することは,溶接継手・構造の製作時においても供用後の保全においても重要なファクターであり,また,溶接中の力学的挙動を理解することからより優れた製造技術,保全技術を見出すこともできるようになると考えられる.単に「もの」が完成すればよし,と言うわけではなく,ものづくりの最中にどのような現象が起きているか,長期使用時にどのような現象が起こりうるかをきっちりと捉えることによって,要求未達でも過剰でもない適正な品質を得やすくなる.本稿が保全を考慮した高度なものづくりを目指すための一助となれば幸いである.参考文献として溶接変形と残留応力に関する教科書的な内容のものをリストアップしておくので,適宜参照されたい. 次回以降,残留応力と保全に関する各論について解説を加えていく.参考文献1) 渡辺正紀, 佐藤邦彦 共著:溶接力学とその応用, 浅倉書店 (1965).2) 寺崎俊夫:構造用材料の溶接残留応力・溶接変形に及ぼす溶接諸条件の影響に関する研究, 大阪大学学位論文 (1976).3) 佐藤邦彦, 向井喜彦, 豊田政男 共著:溶接工学, 理工学社 (1979).4) 佐藤邦彦, 上田幸雄, 藤本二男 共著:溶接変形・残留応力, 溶接全書, Vol. 3, 産報出版(1979).5) K. Masubuchi:Analysis of Welded Structures - Residual Stress, Distortion, andTheir Consequences, Pergamon Press, Ltd., Oxford (1980).6) 佐藤邦彦 編:溶接構造要覧, 黒木出版社 (1988).7) Y. Ueda:Computational Welding Mechanics, Japan Welding Research Institute ofOsaka University (1996).8) 村川英一:溶接残留応力・変形 - 理論的予測とその応用, 溶接学会誌, 67-3 (1998),204-220.9) D. Radaj:Welding Residual Stress and Distortion - Calculation and Measurement,DVS-Verlag GmbH, Duseldorf (2003).10) 望月正人:溶接変形と残留応力の基礎, 平成17年度溶接工学夏季大学教材, 溶接学会(2005), 43-61.11) 野本敏治, 寺崎俊夫, 長谷川壽男 共著:残留応力・変形の予測・制御・測定, 溶接・接合全書, 15, 産報出版, 刊行予定.12) 軽金属溶接構造協会 薄板加工法委員会ひずみ防止研究小委員会 編:アルミニウム合金の溶接ひずみ防止マニュアル, 軽金属溶接構造協会 (1982).13) 溶接学会編集委員会 編:溶接変形の発生とその防止, 溶接学会誌 連載講義, 1) 川井忠彦:溶接による変形の発生と防止の基本的考え方, 52-4 (1983), 368-383, 2) 野本敏治:溶接変形と強度, 52-4 (1983), 384-396, 3) 松井繁朋:薄板の変形対策, 52-5(1983), 458-466, 4) 宮田隆文:造船工作における変形防止, 52-7 (1983), 606-614, 5)夏目光尋:橋梁・鉄骨における変形防止, 52-8 (1983), 648-658, 6) 渡辺武征:鉄道車両における変形防止, 52-9 (1983), 667-673, 7) 河野光雄:機械部品の精密溶接による7変形防止, 52-9 (1983), 674-681, 8) 堀川浩甫:溶接構造物の変形に対する品質要求について, 53-1(1984), 35-41.14) 溶接学会編集委員会 編:溶接変形の予測と対策, 溶接学会誌 実用講座, 1) 阪口章, 田中孝宏:薄板構造物, 60-6 (1991), 466-471, 2) 芝田之克, 厚板構造物 (橋梁), 60-6(1991), 472-477.15) 寺崎俊夫:溶接変形の発生要因, 溶接学会誌, 67-2 (1998), 116-120.16) 村川英一:構造物の溶接変形とFEMを用いた予測, 軽金属溶接, 38-11 (2000), 516-527.17) 溶接接合工学振興会 編:溶接変形防止と組立精度向上に関する新しい取組み, 溶接接合工学振興会第14回セミナーテキスト (2003).18) 野本敏治:私のエンジニアリング・ノートブック - 溶接から造船, そしてシステムへ -,東京大学大学院 工学系研究科 環境海洋工学専攻, 最終講義資料 (2004).19) 望月正人:溶接変形の発生機構と最近の評価手法, 第33回溶接学会東部支部実用溶接講座「鉄道車両製造工場見学と薄板溶接技術の最新トレンド」テキスト, 溶接学会 (2005),46-64.20) 望月正人:溶接変形はこうして抑えろ! - 信長・秀吉・家康のホトトギス分類で考える, 溶接技術, 54-1 (2006), 76-87.8図1 三本棒モデルを用いた溶接変形と残留応力の発生機構の説明240 第3章 溶接構造の力学と設計② 継手の拘束状態に関係する因子(溶接継手形状・寸法,溶接線の位置,溶接順序,など)③ 材料に関係する因子(強度などの機械的性質,線膨張係数,力学的溶融温度,変態温度と変態膨張量,など)などが挙げられる。また,金属とセラミックス,あるいは異種金属同士が接合されるような場合には,接合体が例え一様に加熱・冷却されても,それぞれの材料の線膨張係数の差に起因する熱応力が発生する。図3,270は異材接合体の熱応力発生機構を模式的に示したものである。二つの異なる材料が接合されているとき,材料間の自由膨張・収縮の差をうめるために界面にせん断応力が生じ,さらに非対称に配置されている場合,図のように出がり変形も生じる。II Iαl < a 2の 場合 tii哲 を3ミックス1 Et r r , a tE'2,v '2,a 2!材が切り離された場合i L一せん断応力こ材が接合されている場合図3.27 異材接合体の熱応力発生機構の模式的説明図■ 3.4口2 溶接残留応力分布の特徴(1)突合せ溶接継手の残留応力分布図3.28に比較的厚くない板のアーク溶接などによる突合せ継手における残留応力分布の定性的傾向を示す。溶接線方向の残留応力は,0図に示すように,溶接部近傍では,その材料の室温の降伏応力程度の大きな引張応力が残留し,それにつり合うようにその両側に圧縮残留応力が生じる。溶接線に直角な方向の残留応力は,ω 図に示すように,溶接部近傍では多少の引張応力となるが,その値は通常それ( 0 →T )′/2 -せん断応力図2 異材接合体の熱応力発生機構の模式的説明9打軸上分布び】(溶接線方向応力)3,4 溶接変形と残留応力241ノ軸上分布(a)溶接線方向の応力σ.の分布 (b)港接線直角方向応力らの分布図3 . 2 8 周辺自由な平板の突合せ継手の残留応力分布特性卜2吟|材 料版幅 (cill) 残留応カ位置(cm)申欠働岡 (SS 400) w≧ 102Q/ん ar=(1.0-1.1)a vooz=-0.25 o yuダ1=0.6×103Q/んメ2=20×1039/んy3=11×1039/んA 合金(A150830) W≧ 27× 102Q/んa,=(1.0-1.1)a voo 2=-0.24 o y11ゴ1‐0.8×1039/んメ2=23×ll13Q/んメ3=18×103Q/んオーステナイト・ステンレス銅( S U S 3 1 0 )W≧ 1.5×10-2Q/んo,=(1.0-1.1o) v ooz=-0.3o yoyl‐1.0×103Q/んノ2=2.2×1039/んy3=15×103Q/ん注1)(σl,o2),01,y2,y3)については左図参照。注2)多層浴接の場合には溶接入熱Q(ca1/Cm)の値として各パスの平均溶接入熱を採用する。注3)位置ノ,(れ=1,2,3)は一般的に次式で与えられる。y 7 P これ, 競7/21=0,752,2″=0.22,7711.33‐ ci比 熟,Pi密 度,ん :版厚駒=CY/α 'CY!降伏ひずみ, α‐線膨張係数注4)。Yllは,材料の室温での降伏応力。図3.29 代表的材料の十分大きな平板の溶接継手の残留応力分布の略算式このような特性から,突合せ継手の残留応力では,溶接線方向の応力が問題となる場合が多い。溶接による入熟に比べて十分に大きな板幅の突合せ溶接の場合(例えば,溶接による平均温度上昇が50℃以下のような場合),残留応力分布は図3,29のような略算式で求めることができ10,142,その特徴は次のようになる。① 残留応力の値は,その材料の室温での降伏強さにのみ依存し,溶接入熱にはR壇脚想車猷騒盤醸醸懸騒打軸上分布y軸、上分布図3 周辺自由な平板を突合せ溶接した場合の残留応力分布特性打軸上分布び】(溶接線方向応力)3,4 溶接変形と残留応力241ノ軸上分布(a)溶接線方向の応力σ.の分布 (b)港接線直角方向応力らの分布図3 . 2 8 周辺自由な平板の突合せ継手の残留応力分布特性卜2吟|材 料版幅 (cill) 残留応カ位置(cm)申欠働岡 (SS 400) w≧ 102Q/んar=(1.0-1.1)a vooz=-0.25 o yuダ1=0.6×103Q/んメ2=20×1039/んy3=11×1039/んA 合金(A150830) W≧ 27× 102Q/んa,=(1.0-1.1)a voo 2=-0.24 o y11ゴ1‐0.8×1039/んメ2=23×ll13Q/んメ3=18×103Q/んオーステナイト・ステンレス銅( S U S 3 1 0 )W≧ 1.5×10-2Q/んo,=(1.0-1.1o) v ooz=-0.3o yoyl‐1.0×103Q/んノ2=2.2×1039/んy3=15×103Q/ん注1)(σl,o2),01,y2,y3)については左図参照。注2)多層浴接の場合には溶接入熱Q(ca1/Cm)の値として各パスの平均溶接入熱を採用する。注3)位置ノ,(れ=1,2,3)は一般的に次式で与えられる。y 7 P これ, 競7/21=0,752,2″=0.22,7711.33‐ ci比 熟,Pi密 度,ん :版厚駒=CY/α 'CY!降伏ひずみ, α‐線膨張係数注4)。Yllは,材料の室温での降伏応力。図3.29 代表的材料の十分大きな平板の溶接継手の残留応力分布の略算式このような特性から,突合せ継手の残留応力では,溶接線方向の応力が問題となる場合が多い。溶接による入熟に比べて十分に大きな板幅の突合せ溶接の場合(例えば,溶接による平均温度上昇が50℃以下のような場合),残留応力分布は図3,29のような略算式で求めることができ10,142,その特徴は次のようになる。① 残留応力の値は,その材料の室温での降伏強さにのみ依存し,溶接入熱にはR壇脚想車猷騒盤醸醸懸騒打軸上分布y軸、上分布図4 代表的材料の十分に大きな平板の突合せ溶接による残留応力の略算式10図5 すみ肉継手に発生する残留応力分布(a) 溶接線方向応力            (b) 溶接線垂直方向応力図6 厚板突合せ継手に発生する残留応力分布の一例11図7 円筒殻・球殻に発生する残留応力分布の一例12244 第3章 溶接構造の力学と設計(a)横収縮(b)縦収縮(c)縦曲り変形( e ) ( 面内の) 回転変形( d ) 角変形( 横曲り変形) ( 1 ) 座屈形式の変形図3 . 3 0 溶接変形の分類最も基本的な平板のビード溶接の場合,横収縮量Sと角変形量δは,溶接入熱Qを板厚力の2乗で除した入熱パラメータQ/力2に依存する。図3.31は,軟鋼板のビード溶接による横収縮と角変形に及ぽす溶接入熱パラメータの影響を示した実験例である1り,1り。(3)回転変形溶接変形のうち,平板の突合せ溶接における回転変形は,開先が開いたり閉じたりする溶接中の変形であり,この開先面の開閉は浴接施!11,特に最近のように自動溶接が採用されるようになると重要な問題となる。この回転変形は板端部が溶接熱源によって加熱されることによる過渡変形が主原因であり,残留変形とは異なる。もし,開先前方に仮付けなどの開先の変形を拘束するものがなければ,溶接の進行とともに溶接熱源部の開先面は必ず開くり。したがって,一般には仮付けやストロングバックなどを適当に配置して,その開口変形を押さえることが行われる。しかし,強い仮付けなどの存在によって溶接開始直後の熱源直下の開先面が閉じる変形を生じることもありり,また,弱い仮付けでは,溶接中に開先そのものが切れてしまうこともあり,適切な仮付けが必要である。溶接進行方向(1)座図8 溶接変形の分類(a) 横収縮                   (b) 角変形図9 溶接変形に及ぼす入熱パラメータの影響板厚:んmm)O:6△ : 1 0□ :15◇ :203.4 溶接変形と残留応力2455 10 15 20 25入熟パラメータ Q/ん2(109J/1113)(a)横収縮入熱パラメータ Q / れ2 ( 1 0 9 J / m 3 )( b ) 角変形図3 . 3 1 軟鋼板のビード溶接( G M A W ) による横収縮と角変形に及ぼす入熱パラメータの影響■ 3日4.5 溶接残留応力・変形の軽減法鋼材溶接部における残留応力と変形の支配要因は,溶接熱と拘束といってよい。溶接熱の大小に関係する要因は溶接法,溶接入熱,開先寸法,形状などで,溶接熱が小さいほどす般に残留応力の生じる範囲も変形も小さい。変形については拘束を大きくすれば5(べ‐〇高)〈) 洲― rホ飾製難昨掛‐0(寵∞L‐ 骨×)勾濃憩眠k- zoo ->l版厚i ん( m l n )O i 6△ ! 1 0□ :15◇ :20板厚:んmm)O:6△ : 1 0□ :15◇ :203.4 溶接変形と残留応力2455 10 15 20 25入熟パラメータ Q/ん2(109J/1113)(a)横収縮入パラメータ 2 ( 1 0 9 J / m 3 )5(べ‐〇高)〈) 洲― rホ飾製難昨掛‐0(寵∞L‐ 骨×)勾濃憩眠k- zoo ->l版厚i ん( m l n )O i 6△ ! 1 0□ :15◇ :2013     - 25 -Fig. 4.5 Deformation diagram during welding.(a) Normal welding (b) With cooling (Qc=-3.1kJ/cm,Xc=70mm)Sj$7A;
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