原子力施設の安全性向上へのリスク情報の活用

公開日:
カテゴリ: 解説記事


1。はじめに
ここで原子力におけるリスクとは、当該施設の事故・故障により放射性物質が放散或いは放射線が漏えいし、周辺公衆が放射線被ばくによる健康影響等を受ける潜在的危険性のことを言う。原子力利用の事業活動には、エネルギー源の確保や医療、工業、農業など幅広い分野の放射線利用等に伴う便益がある一方、放射性物質の放散等を伴う事故発生の可能性があるという国民の健康や社会環境に影響を及ぼすリスクが潜在する。原子力利用に伴うリスクを十分低い水準に抑制するという安全確保の責任は、第一義的には当該原子力施設を運営する事業者にあり、事業者は、立地・設計・建設・運転等の各段階において、リスク管理活動を適切かつ確実に実施するよう求められている。国による安全規制は、事業者によるリスク管理活動が適切に実施されているかを確認するものである。そこで、近年、技術的進展が著しい確率論的安全評価(PSA: Probabilistic Safety Assessment)手法を適用し、原子力施設に対するリスクを定量的、系統的に評価し、得られた知見を原子力施設の安全確保に活用しようとする試みが広く行われるようになってきた。PSA手法を用いリスクを定量的に表す際は、ある事象の発生確率とその事象が起こす被害の大きさの積で表される。
2。リスク情報活用の意義
PSAの実施は、ただ単に、原子力施設のリスクに関する定量的情報の獲得を意味するのではなく、系統・機器等のリスクへの寄与度に関する情報、それらの不確実さに関する情報等、多くの有意義な情報をその過程で得ることを意味する。本報では、狭義のリスク評価値のみならず、その過程で得る様々な情報を総称しリスク情報と呼ぶ。リスク情報は、決定論的安全評価からは得られないリスクに関する定量的かつ系統的な知見を与えることから、安全確保に関わる検討の科学的合理性を高める上で極めて有効である。リスク情報の活用により、以下の効用が得られる。
・原子力施設が潜在的に有するリスクを評価することにより、原子力施設の安全性が十分に確保されていることを定量的に確認できる。
・リスク情報の一部である安全設備等の定量的なリスク寄与度を用いることにより、合理的できめ細かな要求の策定が可能となる。
・リスクを評価指標にして安全設備等や運用方法の代替案の比較検討が可能となる。
・原子力施設で起こり得る事故に関するリスク情報を活用することにより、発生防止対策や防災対策の合理的な策定が可能となる。
・リスクという共通の評価尺度を用い、特定の安全設備等の機能の妥当性や安全水準の統一的な評価が可能となることに加え、原子力発電所、核燃料サイクル施設と言った異なる原子力施設に対しても、リスクという共通尺度を用いることで横断的な判断が可能となる。
リスク情報活用は、上述のように、原子力事業者にも安全規制当局にも有効な手段であることから、近年、合理的で実際的な安全確保対策の充実・向上にリスク情報を利用する動きが国内外で広まって来た。特に米国等では、安全規制に関わる意思決定にリスク情報を積極的に活用する仕組み(リスク・インフォームド規制)が導入されてきた。我が国においても、原子力安全委員会は、平成15年11月に「リスク情報を活用した原子力安全規制の導入の基本方針」[1]を決定した。リスク情報を安全規制に活用する意義は、以下のように整理できる。[2],[3]
・規制判断の科学的合理性:安全規制・安全管理活動により達成されるリスク水準の把握のみならず、安全設備等の定量的なリスク重要度を参考とした安全規制の実施で、科学的合理性を増し一貫性・整合性ある規制判断が可能となる。また、リスク情報は、国民、事業者、規制当局等にとり、安全性の達成度に対する共通尺度となり得るものであり、科学的合理性を踏まえた安全性の議論の推進にも繋がる。
・説明責任と透明性ある規制判断:網羅的・系統的・定量的な安全情報を与えるリスク情報を規制判断に活用することで判断の根拠がより明確となり、それを公表することにより、国民、事業者等にとり規制判断の透明性がより高いものとなる。また、後述の安全目標との比較は、こうした規制判断の根拠をより明確にする上で有効な手段となり得る。
・効果的・効率的な安全規制:リスク情報の活用により、リスク抑制の上で着目すべき異常事象や安全上重要な構築物、系統及び機器を、より一層明確に出来る。その結果、限られた規制資源の下で最大限の規制効果が挙がるよう資源を適正に配分する等、効果的・効率的な安全規制の実現が可能となる。
以上のように、リスク情報の活用は国民の利益に資するものであり、その意義は大きく、リスク情報の活用は今後の原子力安全規制が目指すべき方向と考えられている。
3。リスク情報活用基盤の整備状況
3-1) 安全評価手法・データベースの整備
PSA評価手法には、レベル 1 PSA、レベル 2 PSA、レベル 3 PSA、地震・火災など外的事象の影響を評価するPSAがある。これらのPSA評価手法自体の開発と高度化、及び関連データの収集分析の整備がこれまで進められて来ている。PSA手法やデータ分析の標準化を通じPSAの品質を確保する観点から民間規格の策定は重要であり、こうした活動における学協会の役割は大きい。図1に民間規格の位置づけを示す。また、PSAの品質確保のためには、用いられる手法やデータの妥当性の専門家によるレビューが有効であることから、そうした仕組みの早急な確立が望ましい。PSA手法及びデータの整備は、産業界及び研究機関において主体的に進めて行く必要があるが、それだけでは整備が困難な課題については、規制当局、研究機関、産業界等の関係機関が連携を図りつつ、国際的な協力も視野に入れ整備を進めて行くことが肝要であろう。
3-2) 安全目標・性能目標の整備
原子力安全委員会は、リスク情報を安全規制活動等に活用する上で、リスクの抑制水準(安全目標)を定めることが必要との判断から、安全目標専門部会を設置し、安全目標に関する調査審議を進め、平成15年12月に「公衆の個人リスクを指標とした安全目標の中間とりまとめ」[4]を発刊した。そこでは、「施設の敷地境界付近における公衆の原子力施設事故に起因する放射線被ばくによる個人の平均急性死亡リスクは、年当たり百万分の一程度を超えないように、また、施設からある距離にある公衆の原子力施設事故に起因する放射線被ばくにより生じるがんによる個人の平均死亡リスクは、年当たり百万分の一程度を超えないように抑制されるべきである」を定量的安全目標案として提示している。図2に示すように、日常生活に伴う公衆の健康リスクと比べこの安全目標案ははるかに小さいリスク値ではあるが、国外の安全目標との比較では同等の水準となっている。個人の死亡リスクは、安全目標と直接比較可能であり、環境に放散された放射性物質による健康影響を評価するレベル3 PSAの結果として得られる。但し、原子力施設の安全確保に多重防護の考え方が採用されていることを踏まえると、原子炉であれば大規模な炉心損傷事象の発生頻度を評価するレベル1 PSA及び格納容器から大量の放射性物質が放散する事象の発生頻度を評価するレベル 2 PSAの結果から安全目標への適合性が直接判断出来れば実用上のメリットは大きい。こうした観点から、安全目標専門部会の下に性能目標検討分科会を設置し、性能目標の調査審議が進められた。 発電用原子炉施設周辺の公衆のリスクは大量の放射性物質の環境への放出に起因することから、性能目標として用いる指標は、レベル1 PSAやレベル2 PSAに関連し、施設性能をよく代表し、且つ、定義が明瞭で適切に定量化でき、安全目標への充足が見通せる指標を選ぶ必要がある。検討過程で取り上げられた性能目標指標の候補を表1に示す。現時点では、炉心損傷頻度(CDF: Core Damage Frequency)を性能目標の第一の指標とし、最外層の防護機能である格納容器機能の喪失頻度(CFF: Containment Failure Frequency)を性能目標の第二の指標とするのが望ましいと結論された。平成18年3月に纏められた「発電用軽水型原子炉施設の性能目標」[5]では、広範囲なサーベイ検討を行った結果、性能目標の定量的指標値を、「炉心損傷頻度:10-4/年程度、格納容器機能喪失頻度:10-5/年程度」と提示している。ここで、X /年程度という表記を用いているのは、PSA結果の不確実さを考慮して、「(年当たりX分の一という)値を厳格に適用するのではなく...(中略)...信頼性や有効性の高い対策が計画実施されている場合には、年当たりX分の二以下であれば、原則として安全目標(性能目標)を満足すると判断することが妥当」とする趣旨である。また、ある施設が安全目標(性能目標)を満たし、他の施設は満足していないといった結果が出た場合にも、後者に該当する施設を直ちに不安全と結論付けることはせず、「何故そのような違いが生じたのか、規制の何処に不適当な所があったのか」とする見直しを行い、「個別の施設が安全か否かの判断は、こうして見直された規制体系に基づいてなされることになる」という安全規制におけるリスク情報活用の基本方針がこれらの報告書において、留意すべき事項として明示されている。
3-3) リスク情報活用のための技術基準・標準の整備
安全規制にリスク情報を利用するためには、適切な品質管理の下で実施された原子力利用活動に関するリスク評価結果に対し安全目標等の適合性を判断する根拠に関わる技術基準や標準を整備するとともに、リスク情報活用の仕組みが合意され利用可能となる必要がある。そこで、原子力安全・保安院では、リスク情報を安全規制に活用する際に必要な基本原則につき定めた「原子力発電所の安全規制における「リスク情報活用」の基本ガイドライン(試行版)」[6]及びリスク情報を活用する際に必要とされるPSAの品質を確保するための基本的な要求事項及びそれを満足するための方策につき定めた「原子力発電所における確率論的安全評価(PSA)の品質ガイドライン(試行版)」[7]を策定した。図1に原子力安全・保安院によって策定されつつある各種ガイドライン等の位置づけを示す。また、我が国では、リスク情報活用のために必要となる手法、信頼性データベース及びリスク情報活用の方法に関する具体的な実施基準や手順等が、学協会において、民間規格として順次整備されつつある。表2に示す通り、原子炉施設では、既に標準的なレベル1 PSA、レベル 2 PSAを実施する要件と手順を示したマニュアルが整備されている。しかし、レベル 3 PSAや地震リスクのPSAの実施マニュアルは整備は未だであり、早期の整備が望まれる。
4。リスク情報の活用に向けた今後の課題
4-1)安全評価手法・データベースの高度化
リスク情報の試運用経験を踏まえ、PSA解析評価手法の高度化や当該原子力施設の信頼性や安全性に関するデータベースの拡充を図り、以てPSA結果の不確実さの低減を図って行くことが肝要である。また、試運用経験を通じ得られた知見を踏まえ、学協会において順次整備されつつあるリスク評価の具体的な実施基準や手順等の改訂・高度化を推進し、より高度な安全規制活用を目指すべきである。更には、不確かさを含むリスク評価結果のピアレビューの在り方、更には、安全管理、安全規制上の意思決定を効果的かつ適切に行うための方法論につき検討の進展が望まれる。
4-2) 高度活用のためのリスク指標の整備
リスク情報活用で用いる指標には、(a) 全リスクに対し特定の機器故障等の寄与割合を表す(リスク重要度)指標、(b) 設計や運転保守に変更を加えた場合に生じるリスクの変化量または元のリスクレベルに対するリスクの変化割合を表す指標、或いは、(c) 安全目標(公衆の個人死亡リスク)、性能目標(炉心損傷頻度、格納容器機能喪失頻度)の如くリスクの絶対値で表す指標がある。活用に当たっては、利用目的に応じ適切な指標を選定する必要がある。実際の活用を念頭においた指標、分類基準・抑制水準及び活用項目の例を表3に示す。
(a) リスク重要度指標の活用:代表的な指標に、リスク増加価値(Risk Achievement Worth:RAW)、ファッセル・ベズレイ(Fussell-Vesely)指標がある。リスク増加価値は、当該安全設備の機能が完全に失われたとした場合に、炉心損傷頻度、格納容器機能喪失頻度がどの程度増加するかを示す指標である。リスク増加価値を用い、安全設備機能を確保することの重要性や、安全設備を待機除外にした場合の影響を評価することが出来る。ファッセル・ベズレイ指標は、当該安全設備の故障や人的過誤等が、炉心損傷頻度や格納容器機能喪失頻度にどの程度寄与しているかを示す指標である。ファッセル・ベズレイ指標を用い、当該安全設備の故障確率や人的過誤の発生確率等を低減することにより、どの程度安全性の向上が図れるかを評価することが出来る。リスクの評価に用いる指標は単独で用いるとは限らず、複数の指標を組み合わせ用いる場合もある。例えば、構築物、系統及び機器の重要度を判断する場合には、通常、ファッセル・ベズレイ指標とリスク増加価値とを組み合わせて用いる。FBR大型プラントにおいて各種の安全機能に着目しリスク重要度を評価した一例を図3に示す。
構築物、系統及び機器の全リスクに対する寄与割合を基に、リスクの観点からの重要度(以下「リスク重要度」という。)を定量的に示すことができる。リスク重要度の分類基準を用いた例としては、米国原子力エネルギー協会(NEI)が作成したNEI 00-04(米国連邦規則10CFR50.69を満足する具体的な方法を規定するため作成された民間規格であり、安全設備等を分類するための手順や基準を定めている)がある。内的事象について、個別の系統・機器毎の検査対象・項目に着目した場合、ファッセル・ベズレイ指標が0.005より大きく、リスク増加価値が2より大きいケースをリスクの観点から重要度が高いと分類している。
(b) リスクの変化量またはリスクの変化割合の活用:安全規制基準等の変更に際して、変更案が原子力発電所の健全性にどの程度影響を及ぼすかを確認する目的で用いられる。保安規定中に定められている許容待機除外時間の妥当性を検討する場合には、発生するリスクの期間限定での変化に着目しリスク指標の一時的な変化量を用いる。安全確保に際しては、リスクの変化量または元のリスク水準に対するリスクの変化割合は有意に増加しないことが求められる。なお、保安活動の変更等により何がしかリスクが増加する場合には、その増加リスクに対する補償措置の必要性につき検討が行われる。[8]リスク情報を活用し規制制度の改定を行う場合には、元のリスク水準に対するリスクの変化割合に関して、原子力発電所間でのばらつきがあることを考慮し、こうしたばらつきが改定判断へ及ぼす影響を評価した上で結論を導くといった進め方が適切であろう。
(c) 安全目標・性能目標の活用: 3-2)で述べた安全目標、性能目標に基づく原子力施設の事故時における公衆のリスクの抑制水準を活用することにより、(i) リスク評価の高度化・統合化、検査業務の高度化・効率化といった安全規制への利用、(ii) 安全審査指針や技術基準類の体系的整備、科学的合理性向上のための活用、(iii) 事業者による自主保安活動(稼働プラントの運転保守や新型炉の設計)への活用、(iv) 国民との意見交換の円滑化(リスクコミュニケーション)に資することが期待される。
我が国において安全目標・性能目標は、先ずは規制活動の合理性、整合性といった各種規制活動の全体に亘る判断の参考として適用し、個別の施設に対する規制等のより踏み込んだ適用は、適用経験を積んだ段階で着手するのが適切とされている。こうしたアプローチは、米国等における安全目標適用のアプローチと軌を一にしており、リスク情報の活用は経験を積み重ね乍ら段階を追って適用範囲を拡げていくという基本的な考え方に基づいている。
4-3) 高度活用のための技術基準・標準の整備
上述のPSA評価手法の整備や原子力施設のリスク評価用データの蓄積と並行して、リスク評価結果の安全目標等に対する適合性の判断根拠などに関わる技術基準・標準は、試運用経験と最新の技術的知見を踏まえ、改定・整備されるべきである。[2],[3] 具体的には、3-3)に述べた「原子力発電所の安全規制における「リスク情報活用」の基本ガイドライン(試行版)」[6]及び「原子力発電所における確率論的安全評価(PSA)の品質ガイドライン(試行版)」[7]について、試運用経験を反映しつつ逐次改定すると共に、学協会の進める民間規格の整備を急ぎ、以って、リスク情報活用技術の品質を確保し、より高度なリスク情報活用の実現を目指すべきであろう。
5。リスク情報活用の展望と期待
本報で解説した安全目標、性能目標、ガイドライン等は、今後の発電用原子炉施設への試運用を通じての知見の蓄積を踏まえ改定して行くと共に、発電炉以外の原子炉施設に対しても検討を進め、適切な性能目標・ガイドライン等として、必要性に応じ、順次、整備して行くべきであろう。また、核燃料サイクル施設等に対しても、関連する技術的知見の蓄積等を踏まえつつ、施設の特性に応じた性能目標・ガイドライン等の策定に関する検討がなされるべきであろう。[8]
将来建設される発電用原子炉については、最新の科学技術的進展を活用しつつ、安全設計の段階からリスク情報の活用によって合理的なシステム構成でより高度な安全水準を達成できるよう努めるべきであろう。こうした観点から、産業界には、最新技術を採り入れ、より一層高い安全性を有する発電用原子炉の開発に努めることを期待したい。
また、安全規制へのリスク情報の活用形態は、「基本的考え方」に示されているように、規制制度・基準等の設定への活用や、個別の原子力発電所の適合性確認への活用が考えられるが、当面はリスク情報を規制制度・基準等の設定へ活用するのが適切であろう。将来、安全目標等の適用経験が積まれ、かつ、リスク評価結果に対する信頼性が一層高まれば、個別施設の安全性を安全目標等に照らし判断するような利用や、更には、合理的な原子力施設の安全設計の実施において安全目標等が参照されるようになるであろう。
近い将来に期待を寄せているリスク情報活用例としては、運転・保守段階でリスク指標値を動的に監視することによるプラントの常時監視、検査工程のリスクに基づく見直し、サーベイランス計画の立案、リスク重要度を考慮した点検計画・手順書・訓練内容の充実、リスク影響に基づく許容待機除外設定の適正化等が挙げられる。
以上述べてきたように、原子力事業者にとっても、安全規制当局にとっても、リスク情報活用を積極的に進める環境が整ってきたと言える。事業者は、特に、運転保守等の保安活動への活用に主体的に取り組むと共に、規制要件に関する検討の分野でも国と協調しつつ積極的に適用を試みるなど、リスク情報の試運用に積極的に関わることが期待されている。
6。結び
これまで主に使用されて来た決定論的な技術情報に加えて、リスク情報を活用することにより、原子力施設の安全確保に関わる意思決定の科学的合理性を高めることが可能となる。また、リスクに対して網羅的・系統的・定量的な情報を提供することを通じて意思決定の透明性を増し、関係者間のコミュニケーションが一層緊密となるよう努めることも可能となる。
なお、安全目標・性能目標は、社会のリスク水準に関連させつつ定められるものであり、また、規制行政庁が策定するガイドラインや現在整備されつつあるリスク評価のための学協会による標準等は、一度策定された後も、試運用経験や関連技術の進展、国内外の動向を踏まえ、適宜、見直しを図って行くことが肝要である。
参考文献
[1]原子力安全委員会:リスク情報を活用した原子力安全規制の導入の基本方針について;原子力安全委員会決定、平成15年11月10日
[2]原子力安全・保安院:原子力安全規制への「リスク情報」活用の基本的考え方、平成17年5月31日
[3]U.S.NRC, "White Paper on Risk-informed and Performance-based Regulation", SECY-98-144, June 1998
[4]原子力安全委員会 安全目標専門部会:安全目標に関する調査審議状況の中間とりまとめ、平成15年12月24日
[5]原子力安全委員会 安全目標専門部会:発電用軽水型原子炉施設の性能目標について - 安全目標案に対応する性能目標について - 、平成18年3月28日
[6]原子力安全・保安院:原子力発電所の安全規制における「リスク情報」活用の基本ガイドライン(試行版)、平成18年4月
[7]原子力安全・保安院:原子力発電所における確率論的安全評価(PSA)の品質ガイドライン(試行版)、平成18年4月
[8]原子力安全・保安院:原子力安全規制への「リスク情報」活用の当面の実施計画、平成17年5月31日

図1 各種の指針・ガイドライン・民間規格等の関係[6]

※)出典:「人口動態統計」(厚生労働省)2001年データより
図2 安全目標案の位置のイメージ[4]
表1 性能目標指標の候補[5]
性能の分類 性能目標指標 略号 指標の意義
炉心健全性 炉心損傷頻度 CDF 原子炉施設のシビアアクシデントの発生頻度のめやすとなる。
放射性物質の閉じ込め機能健全性 格納容器機能喪失頻度
CFF 放射性物質閉じ込め機能の健全性のめやすとなる。
炉心損傷を伴う蒸気発生器伝熱管破損事故及びインターフェイスシステムLOCA等の格納容器バイパス事象を含める。
早期格納容器機能喪失頻度 ECFF 格納容器機能喪失のうち、事故後早期に機能喪失に至る場合であり、エナジェティック現象に対する格納容器健全性のめやすとなる。
ソースタームの抑制 大規模放出頻度 LRF 原子炉施設周辺の公衆の急性死亡リスク及び晩発性リスクを含めためやす。
早期大規模放出頻度 LERF 大規模放出のうち、事故後早期に放出に至る場合であり、原子炉施設周辺の公衆の急性死亡リスクのめやすとなる。
早期という条件は、避難時間の余裕との兼ね合いで、サイトに依存する。

表2 リスク情報の活用に関する民間規格の整備状況[5]
標準等 制定状況

原子力発電所の停止状態を対象としてPSA手順 (AESJ-SC-P00.1:2002) 2002年2月制定 日本原子力学会
② 原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル1 PSA編) 2006年完成予定 日本原子力学会
③ 原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル2 PSA編) 2006年完成予定 日本原子力学会
④ 原子力発電所の出力運転状態を対象とした確率論的安全評価実施基準(レベル3 PSA編) 2006年完成予定 日本原子力学会
⑤ 原子力発電所の地震を起因とした確率論的安全評価実施基準 2006年完成予定 日本原子力学会
⑥ PSA用信頼性データベースに関する標準(仮称) 2006年以降作成開始予定 日本原子力学会
⑦ リスク情報の活用に関するガイドライン(仮称) 2006年以降作成開始予定 日本原子力学会

リスクベース検査(配管の供用期間中検査)に関する規格(仮称) 2006年度上期末に素案策定予定 日本機械学会

表3 「リスク情報」を安全規制に活用するに当たって用いる指標、
分類基準・抑制水準及び活用項目の例[6]
活用の形態 指標(例) 分類基準・抑制水準(例) 活用項目(例)
全リスクへの
寄与割合 リスク増加価値
ファッセル・ベズレイ指標 2
0.001
0.005 個別の系統、機器の検査対象・項目等の妥当性評価
リスクの
変化量
リスクの
変化割合 ΔCDF(CDFの変化量)(注1)
ΔCDF/CDF(注1) -(注2)
-(注2)
保安規定の記載事項(許容待機除外時間や試験頻度)の妥当性評価
リスクの
絶対値 炉心損傷頻度
(CDF)
格納容器機能喪失頻度
(CFF)
公衆の個人死亡リスク 10-4(/炉年)程度
10-5(/炉年)程度
10-6(/年)程度 原子力発電所の安全性の確認
(注1) 格納容器機能喪失頻度に対しても同様に(ΔCFF、ΔCFF/CFF)が考えられる。
(注2)リスクの変化量及び元のリスクレベルに対するリスクの変化割合はリスクが有意に増加しないことを原則とする。

図3 FBR大型代表プラントの安全機能へのリスク重要度指標の適用例
原子力施設の安全性向上へのリスク情報の活用 相澤 清人,Kiyoto AIZAWA

著者検索
ボリューム検索
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (1)
解説記事 (0)
論文 (2)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (5)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)
論文 (0)
解説記事 (0)