原子力発電所の高経年化技術評価と技術情報基盤の整備
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1. はじめに
我が国の商業用原子力発電プラント数は、東北電力(株)の東通原子力発電所1号機及び北陸電力(株)の志賀原子力発電所2号機がそれぞれ平成17年12月8日及び平成18年3月15日に運転が開始され、合計55基(図1参照)となり、米国(104基)、フランス(58基)に次ぐ第3位に位置している。
一方、平成22年には運転開始後30年を超えるプラントが20基となり、同年には運転開始後40年を迎えるプラントが現出する状況下にある。
このような背景の下、平成8年4月、当時の通商産業省資源エネルギー庁は、初期に建設された原子力発電プラント3基をモデルとして、安全上重要な主要機器に対して60年間の供用を仮定した健全性評価及び現状保全についての妥当性評価を行い、高経年化に関する基本的な考え方を取りまとめ公表した。この評価結果を踏まえ、電気事業者は、安全上重要な設備及び運転継続上特に重要な設備について、高経年化技術評価(以下「AM」という。)及び現状保全の妥当性評価を行ない、高経年化対策として保全上の新たな対策を長期保全計画(以下「AMP」)として策定し同庁に提出した。平成11年2月、同庁は、これらのAM及びAMPの策定が合理的で妥当である旨評価するとともに今後の高経年化に関する具体的な取組みとして、以下の3点を重要な課題として挙げた。
① 定期安全レビュー、定期検査の一層の充実など
総合的な設備管理方策の確立
② 設備維持基準の導入など経年劣化に対応した基準
・規格の整備
③「検査・モニタリング技術」、「経年変化評価技
術」、「予防保全・補修技術」分野での技術開発の
推進
上述の高経年化に関する具体的取組みに基づき、平成13年6月に美浜2号機と福島第一2号機の高経年化技術評価が初めて定期安全レビュー(以下「PSR」という。)の中で実施された。平成15年9月、AMが実用炉規則第15条の2及び第16条に明文化され、一層の対応が求められ、平成15年10月の制度改正により、これら事業者の措置が法令上の義務規定となり、国が
その実施状況を保安検査等により確認することとなった。さらに、「効果的な技術開発」、「技術データの蓄積と基準の体系的整備」、「高経年化対応に関する情報提供」等の活動により国民・地元の理解を得ること、更に、欧米との技術交流・協調などに取り組むことが重要であるとした。その後、平成16年8月9日に発生した関西電力美浜発電所3号機二次系配管破損事故を契機に原子力発電所の高経年化対策への関心がより一層高まった。このような状況下、改めて電気事業者による高経年化対策の充実に向けて、原子力安全・保安院(以下「NISA」という。)は、平成16年12月13日、NISA原子力発電検査課内に高経年化対策室を、原子力安全基盤機構(以下「JNES」という)は、翌日、規格基準部内に高経年化評価室をそれぞれ設置し、平成16年12月16日、原子力安全・保安部会内に「高経年化対策検討委員会」(図2参照)が発足した。以降、7回の委員会審議を経て、平成17年8月31日、NISAから次の4つの新たな施策を含む「実用発電用原子炉施設における高経年化対策の充実について」 が発表された。
① ガイドライン等整備による透明性・実効性の確保
② 技術情報基盤の整備
③ 企業文化・組織風土の劣化防止及び技術力維持向上
④ 高経年化対策に関する説明責任の着実な履行
②の技術情報基盤の整備とは、プラントの高経年化対策として必要な技術情報の収集・整備と活用、高経年化対策を確実なものとするための「検査・モニタリング技術」、「予防保全、補修、取替技術」及び「経年劣化評価技術」に係る安全研究テーマ選定と実行、国際協力による情報交換、共同研究、情報の集積化・共有化、効果的な高経年化対策実施のための産学官連携・協調などが含まれている。
2. 米仏における高経年化対策
数多くのプラントを有する米国とフランスを代表にどのような高経年化対策を展開しているか以下にその概要を述べる。
米国では、原子力エネルギー法(Atomic Energy Act)によって最長40年間の運転期間が認可されているが、満期以前に運転認可更新申請書を原子力規制委員会(NRC)へ提出し、認可されると最長20年間の運転期間延長が認められる。
NRCは、原子力発電プラント経年劣化研究(NPAR )の研究成果に基づき、1991年に原子力発電プラント運転認可更新申請に係る連邦規則(10 CFR Part 54) を発行し、認可更新に係わる要求事項を明確化した。
例えば、NRCは、事業者からの運転認可更新申請書に記載の保全プログラム(既存、強化及び新設の3種類のプログラム)が、その後20年間の継続供用期間中の経年劣化管理プログラム(AMP)として妥当か、標準審査要領(SRP)に則り、GALL 報告書等を参考に審査を行っている。なお、NPAR報告は、原子力発電プラントの寿命には技術的上限はなく、検査や保守管理が適切に実施されている限り、プラント運転期間は経済的な要因によって制限されると記載されている。
2006年10月時点の運転許可更新状況は、104基の原子力発電プラントのうちの44基(約42%)が既に最長20年間の運転期間延長(合計60年の運転期間認可)が認められ、9基が申請中、21基が申請を表明している。
一方、フランスでは、初期に建設された900MWeクラスの原子力発電プラントでは、運転期間を30年 と仮定した設計が行われているが、設置許可政令に運転期間は規定されておらず、政令で実施が義務化されている10年を超えない期間毎のPSRにおいて、プラントの包括的安全性評価を行い、安全性が保証される限り運転継続が可能となっている。
また、10年毎の原子炉停止時にプラントの詳細検査・試験が義務付けられており、フランス電力公社(EdF)は、次の10年間の運転期間中に適用する保全プログラムを用いて機器・構築物の健全性、プラントの安全性確保を維持しなければならない。
運転中の軽水炉で最古のプラント(Fessenheim-1、900MWe級)が2007年に、運転開始後30年を迎えるが、安全規制局は、2001年2月、EdFに対して以下の文書提出を要請している。
① 3回目の10年目原子炉停止時(VD3 )の保全計画
② VD3以降もプラントを安全運転できることの証明
③ VD3以降に適用すべき保全プログラムの提出
電力公社から提出される評価報告書に対して、安全規制局は、フランス放射線防護原子力安全研究所や外部の技術支援を受けて評価を行い、経年劣化管理に関する総括評価報告書を作成し、電力公社が30年以降もプラントの安全運転が可能か見解書を2008年に公表する予定である。安全規制局が、運転開始後30年を迎えるに当たって、第3回目のPSRで実施要求している具体的内容は次のとおりである。
(1) VD3時点での保全計画
a) 経年劣化事象が原子炉の安全性に特に影響を及ぼす可能性があるクリティカル機器リストの見直し
b) クリティカル機器の経年劣化事象と対応策
c) 補修・取替計画
d) 運転経験及び経年劣化事象の分析・評価と保全計画の見直し
e) 実機環境・運転条件を考慮した経年劣化事象に係る研究計画
f) 調査、検査及び改造工事等の計画
(2) VD3以降の運転継続適合性証明書の作成
運転継続適合性証明書では、20年目の原子炉停止時検査(VD2)からVD3までの間の運転経験を反映したVD3の全体計画及び経年劣化事象が原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性があるクリティカル機器について運転継続が可能であるとする根拠の提示
(3) VD3 以降の保全プログラムの作成
VD3 以降の運転安全性を確保するために、機器・構築物の経年劣化又は機器等の旧式化に対する対応
a) 機器・構築物の経年劣化監視及び補修・取替計画
b) 経年劣化の抑制のための運転方法及び設備・機器の変更計画
c) 運転継続のために必要な技術力の維持
10年毎原子炉停止では約3ヶ月間プラントを停止し、大物機器の取替・補修等が行われ、安全重要度クラス1機器・構造物については10年毎原子炉停止において点検・補修が行われる。
VD3では、通常点検時には対象外のコンクリート構造物や、防震用ラバー等の点検が行われ、それ以外の機器等については、燃料交換の為に約18ヶ月毎に1ヶ月程度プラントを停止しMaintenance Ruleに基づき運転経験の反映、点検、補修が実施される。
30年以降もプラント運転を継続する上で、安全規制局はEdFに対してPSRで実施する保全プログラムの策定を要求している。EdFが2008年に30年を迎えるFessenheim-1に対して、補完的な経年劣化監視が必要として選定した機器及び構造物は以下の通りである。
・原子炉圧力容器、主冷却材ポンプ、加圧器、主冷却材配管、安全重要度クラス1配管、蒸気発生器、炉内構造物、原子炉格納容器、計装制御機器、ケーブル、土木構造物
3. 我が国の高経年化対策(高経年化技術評価)
経済産業省は、平成17年12月26日、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の一部を改正する省令」を発出し、電気事業者に対して、原子炉の運転を開始した日以降30年を経過する日までに、原子炉施設の安全上重要な機器等について、経年劣化に関する技術的な評価を行い、これに基づき原子炉施設の保全のために実施すべき措置に関する十年間の計画を策定しなければならないと義務つけた。
また、同日、NISAは「実用発電用原子炉施設における高経年化実施ガイドライン」 及び「実用発電用原子炉施設における高経年化対策標準審査要領(内規)」 を発出し、前者では、高経年化技術評価並びに長期保全計画の実施、再評価及び変更、国への報告書の提出時期とその内容、長期保全計画の実施と報告等を、後者では、高経年化技術評価対象機器、審査の方法、審査の視点及び判定基準、定期安全レビユーで確認すべき内容等を規定した。
JNESは、これらのガイドライン等の策定を支援すると共に、透明性を持って高経年化技術評価を的確に実施するための「高経年化対策技術資料集」を整備している。本資料集として、下記8種類の審査マニュアル (図3参照)の他、高経年化データベースとして、
① 原子炉圧力容器の中性子照射脆化
② 応力腐食割れ
③ 疲労
④ 配管減肉
⑤ 電気計装設備の絶縁低下
⑥ コンクリートの強度低下及び遮へい能力低下
⑦ 耐震安全性評価
⑧ 組織風土劣化防止の取組みの考え方と把握の視点
JNESが国の交付金で実施した試験研究成果、諸外国のトラブル情報を含む米国NRCの経年劣化事象毎のトラブル技術情報(Information Notice(情報通知) 、Bulletin (通達) 、Generic Letter (一般書簡) )等を整備し、高経年化技術評価時の参考データとしている。
これらのガイドライン、標準審査要領、審査マニュアルに基づき、福島第一3号機、浜岡1号機、美浜3号機の以上3プラントの高経年化技術評価を完了 し、審査結果はNISA 及びJNES それぞれのホームページで公表されている。主な審査手順は次のとおり。
① 報告書の提出
事業者は規則第15条の2第2項の規定により高経年化技術評価等報告書を経済産業省大臣に提出
② 技術的妥当性の確認
NISAは、JNESにNISA文書「高経年化技術評価結果及び長期保全計画の技術的妥当性の確認について」を発出し、技術的妥当性の確認を行いNISAへ報告するように指示
③ 立入検査(現地調査)
報告書に記載されている具体的な技術評価の裏付け又は根拠となるデータ、文書等を直接確認するため当該発電所に保安院が4日間程度の立入検査を行う。JNESは技術的妥当性確認のためNISAを後方支援(現地調査)
④ 報告書の補正等
NISAは審査時の指摘事項(JNESの指摘を含む)を事業者に指摘し、これを受けて事業者は変更報告書を大臣に提出、NISA/JNESは再審査を実施
⑤ 原子力安全委員会への報告と公表
NISAは、JNESによる技術的妥当性の確認結果を踏まえつつ、高経年化対策検討委員会高経年化技術評価ワーキンググループ(主査 東京大学 関村教授) で学識経験者の意見を聴取し、総合的な審査結果を原子力安全委員会へ報告する共に公表
審査は、前述のガイドライン、標準審査要領、技術資料集を参照しながら行う。主な技術的妥当性の確認内容は次のとおり。( )内は内容、関連図書の例示。
a) 評価対象機器・構造物の抽出
「重要度分類指針」 の重要度分類クラス1、2及び3に分類される機器・構造物が漏れなく抽出されているか審査(系統図、ロジック図及び単線結線図等による評価対象機器の確認)
b) 消耗品・定期取替品の抽出
高経年化技術評価等の対象外とすることができる消耗品・定期取替品について、その定義を明確にして抽出しているか審査(社内標準等)
c) 機器・構造物の部位への展開
原子力発電所の安全機能達成のため、機器・構造物ごとに要求される機能を明確にし、その機能の維持のために必要な部位を評価対象として抽出しているか審査(信頼性ブロック図等)
d) 動的機器(部位の抽出)
e) 使用材料及び環境の同定
発生しているか又は発生する可能性のある経年劣化事象の抽出に際し、部位単位の使用材料、環境を踏まえているか審査(機器設計仕様書、系統設計仕様書及び取扱説明書等を用いて使用材料及び環境(圧力、温度、構造、流体条件等)を同定)
f) 経年劣化事象の抽出
部位の使用材料及び環境に応じ、発生しているか、又は発生が否定できない経年劣化事象が抽出されているか審査(他産業での経験も踏まえ、工学的に想定される経年劣化事象のうち、原子力機器の置かれている環境を考慮した事象の抽出→国内外の過去数十年の運転実績、材料データ等を踏まえて、発生が想定される事象の抽出→各機器個別の条件を踏まえ、機器に要求される機能に対してその機能維持に関連する主要な全ての部に展開した上で、考慮すべき部位・経年劣化事象の抽出)
g) 経年劣化事象に対する評価点の抽出
抽出された経年劣化事象について、適切な評価点が部位ごとに抽出されているか審査(原子炉容器の中性子照射脆化では、中性子照射量の最も多い原子炉容器胴部)
h) 経年劣化事象の発生又は進展の評価
60年の供用を仮定して、適切に経年劣化事象の発生又は進展評価を実施しているか審査(原子炉容器の中性子照射脆化の場合、監視試験結果と脆化予測値(JEAC4201-2004「原子炉構造材の監視試験方法」)を比較して脆化傾向を評価した上で、遷移温度域、上部棚温度域の両方を脆化予測式に従って予測)
i) 健全性の評価
60年の供用を仮定し、高経年化対策上着目すべき経年劣化事象の発生又は進展に係る健全性評価を行っているか審査(原子炉容器の中性子照射脆化の場合、炉内に挿入されたカプセルから監視試験片を取出して試験を行い原子炉容器胴部と同一の材料でできた監視試験片の遷移温度域における関連温度上昇とシャルピー上部棚温度域における吸収エネルギー低下傾向を把握)
j) 現状保全の評価
健全性評価結果から現状の保全策の妥当性が評価されているか審査(原子炉容器の場合、監視試験片を用いた遷移温度領域における関連温度上昇とシャルピー上部棚温度域における吸収エネルギー低下傾向の把握、脆化予測の運転上の制限及び耐圧漏えい試験温度を定めた運転管理への反映、超音波探傷検査等)
k) 追加保全策の策定
現状保全の評価結果から、現状保全に追加する必要のある新たな保全策が策定されているか審査
(遷移温度上昇の予測精度向上、使用済み試験片の再生技術等長期的な予測信頼性向上に取組む観点から、国や民間の技術開発、規格基準化への参画と実機への適用検討)
l) 耐震安全性評価
事業者による耐震安全性評価の報告書について、標準審査要領に従い、1) 評価対象機器の選定、2) 機器ごとの安全重要度、耐震クラス等の整理、3) 耐震安全性に有意な影響を与える経年劣化事象の選定、4) 経年劣化事象ごとの耐震安全性評価、5) 地震時動的機能維持の評価(該当機器の場合)6) 保全策に反映すべき項目の抽出、の観点から妥当性の審査を行った。特に、上記4)項においては、対象とする機器の耐震クラス、機器に作用する地震力の算定、60年の供用を仮定した経年劣化事象のモデル化 、振動特性解析(地震応答解析)、地震荷重と内圧等他の荷重との組合せ、許容限界との比較、に着目した審査を実施している。
m) 長期保全計画の審査
運転開始後30年を経過した後において、最新の運転経験及び知見を遅滞なく反映しているか審査
なお、JNESは、重要度分類クラス1及びクラス2、並びにクラス3の高温・高圧に分類される機器・構造物に対して、チェックリスト等を用いて漏れなく技術評価の妥当性を審査している。
4. 技術情報基盤の整備
一般に、運転年数の長い原子力発電プラントはトラブルの発生件数が増加すると考えられているが、現実的には、「高経年化対策の充実について」(別冊を含む)に記載のとおり、経年劣化事象の発生は、運転年数の増加に伴ってその件数が増加している傾向は認められず、プラントの高経年化が直ちに問題となることはないと考えられる。しかしながら、原子力発電プラントの安全性に対しては慎重かつ万全を期することが肝要であることから、運転開始後30年を経過するプラントについては、60年の供用 を仮定した高経年化技術評価が重要な役割を担っている。ただ、高経年化対策(高経年化技術評価)は、一般に馴染みが薄く、高経年化をもって原子力プラントの安全性が損なわれると受け止められる懸念がある。このような意識や懸念等を十分に踏まえ、必要となる技術開発の推進や技術情報の収集、蓄積に努め、それらの情報提供を通じて国民の理解と協力を得ることが重要である。
前述の「高経年化対策の充実について」に、「技術情報や安全研究の成果を規制面や実際の高経年化対策に効果的・効率的に反映していくためには、産学官が俯瞰的視点や時間軸を考慮した有機的な連携を保ちつつ、技術情報基盤の整備・運営を行う必要がある。また、産学官の有機的連携は、それぞれの技術情報基盤の整備・運営状況について情報を交換し、内容に共通性のある部分の連携や組織毎に有する技術情報の相互融通等を図る形で進めることが重要であり、これら活動を円滑に進めるため、産学官の有機的連携を行う総合調整機能を持った委員会を構築することが有効である。」(図4参照)との記載がある。
このような状況に鑑みて、JNESは、原子力発電プラントの高経年化に対する効果的な安全規制の実施に寄与すること、並びに国民の理解の醸成を図ることを目的として原子力発電所の高経年化対策のための技術情報基盤の整備を開始したところである。
平成17年12月19日、第1回技術情報調整委員会(於JNES)が開催され、委員長に東京大学 大橋弘忠教授(現在は、法政大学 宮健三教授)、安全研究WG(主査 東京大学 関村直人教授)、国際協力WG(主査 JAEA 平野雅司副センター長)、情報基盤WG(主査 JNES佐藤昇平部長)の発足が承認された。
図4 産学官による有機的連携と総合調整機能
平成18年11月現在、委員会、各WG(1年で5~6回開催予定)において基本的な役割と活動方針を検討中である。以下に現時点での活動方針(案)を述べる。
① 技術情報調整委員会
「技術情報基盤整備に係る産学官の有機的な連携に関する基本的な考え方」に則り、軽水炉の高経年化対応として産学官による自立・分散・協調をキーワードとした技術情報の共有化、産学官による情報収集と共有化のためのネットワーク構築、安全確保のための産学官間の共同研究抽出等を行う。
② 安全研究WG
産学官の有機的連携の考え方、今後の高経年化対応ロードマップ策定・改訂、検査のあり方検討会での性能指標・状態監視保全に結びつける保全プログラムも含めた議論と安全研究のあり方、福井県における高経年化調査研究との関係、「リスク情報」の高経年化対策への活用、事業者の高経年化対策に対する取り組みの積極的な情報公開と俯瞰的な安全研究推進、産学官での重複研究を避けるための情報交換等を行う。
③ 国際協力WG
材料劣化等の経年劣化に関連した国際協業、国際会議への戦略的・計画的な参加、NRC等の海外規制当局、IAEA、OECD/NEA等の国際機関との政府間及び民間ベースでの協力に関して、一貫性/継続性を持った国際協業の推進、技術情報交流を進め、我が国の諸施策実施に際して、これら機関との協調を図るための連絡・連携調整を行なう。
④ 情報基盤WG
産学官それぞれの役割を的確に果たせるよう、それぞれが有する技術情報の種類、内容等について情報交換を行い、産学官が有する技術情報の全体像を把握する。また、経年劣化に係る情報のうち、相互融通・共有化を図ることが産学官のそれぞれの役割を的確に果たすために望ましい分野を検討し、それら分野についての技術情報ネットワーク化に関する連絡・連携調整を行う。
5. おわりに
美浜3号機の配管破損事故を契機に、NISAは、一層の高経年化対策の充実に向けた委員会等の開催による高経年化対策ガイドライン等の策定を行い、福島第一3号機、浜岡1号機及び美浜3号機の以上3プラントの高経年化技術評価を行うと同時に、透明性確保の観点からこれらの規制情報、評価結果等を公表した。
JNESは、これらの業務を緊急体制で全面的にNISAを支援してきたところであり、伊方1号機の高経年化技術評価を実施中である。
現在、NISAは、平成20年度より適用開始の予定の新検査制度を検討中である。とりわけ、高経年化対策(技術評価)をどのような位置付けと方法で「保全プログラム」に反映するかが重要な検討課題となっており、JNESとしても、技術的側面からNISAを全面的に支援すると共に、JNES内に設置した技術情報調整委員会(産学官による技術情報調整の場)を通じて技術情報基盤の整備面から貢献していく所存である。
原子力発電所の高経年化技術評価と技術情報基盤の整備 菅野 眞紀,Masanori KANNO
我が国の商業用原子力発電プラント数は、東北電力(株)の東通原子力発電所1号機及び北陸電力(株)の志賀原子力発電所2号機がそれぞれ平成17年12月8日及び平成18年3月15日に運転が開始され、合計55基(図1参照)となり、米国(104基)、フランス(58基)に次ぐ第3位に位置している。
一方、平成22年には運転開始後30年を超えるプラントが20基となり、同年には運転開始後40年を迎えるプラントが現出する状況下にある。
このような背景の下、平成8年4月、当時の通商産業省資源エネルギー庁は、初期に建設された原子力発電プラント3基をモデルとして、安全上重要な主要機器に対して60年間の供用を仮定した健全性評価及び現状保全についての妥当性評価を行い、高経年化に関する基本的な考え方を取りまとめ公表した。この評価結果を踏まえ、電気事業者は、安全上重要な設備及び運転継続上特に重要な設備について、高経年化技術評価(以下「AM」という。)及び現状保全の妥当性評価を行ない、高経年化対策として保全上の新たな対策を長期保全計画(以下「AMP」)として策定し同庁に提出した。平成11年2月、同庁は、これらのAM及びAMPの策定が合理的で妥当である旨評価するとともに今後の高経年化に関する具体的な取組みとして、以下の3点を重要な課題として挙げた。
① 定期安全レビュー、定期検査の一層の充実など
総合的な設備管理方策の確立
② 設備維持基準の導入など経年劣化に対応した基準
・規格の整備
③「検査・モニタリング技術」、「経年変化評価技
術」、「予防保全・補修技術」分野での技術開発の
推進
上述の高経年化に関する具体的取組みに基づき、平成13年6月に美浜2号機と福島第一2号機の高経年化技術評価が初めて定期安全レビュー(以下「PSR」という。)の中で実施された。平成15年9月、AMが実用炉規則第15条の2及び第16条に明文化され、一層の対応が求められ、平成15年10月の制度改正により、これら事業者の措置が法令上の義務規定となり、国が
その実施状況を保安検査等により確認することとなった。さらに、「効果的な技術開発」、「技術データの蓄積と基準の体系的整備」、「高経年化対応に関する情報提供」等の活動により国民・地元の理解を得ること、更に、欧米との技術交流・協調などに取り組むことが重要であるとした。その後、平成16年8月9日に発生した関西電力美浜発電所3号機二次系配管破損事故を契機に原子力発電所の高経年化対策への関心がより一層高まった。このような状況下、改めて電気事業者による高経年化対策の充実に向けて、原子力安全・保安院(以下「NISA」という。)は、平成16年12月13日、NISA原子力発電検査課内に高経年化対策室を、原子力安全基盤機構(以下「JNES」という)は、翌日、規格基準部内に高経年化評価室をそれぞれ設置し、平成16年12月16日、原子力安全・保安部会内に「高経年化対策検討委員会」(図2参照)が発足した。以降、7回の委員会審議を経て、平成17年8月31日、NISAから次の4つの新たな施策を含む「実用発電用原子炉施設における高経年化対策の充実について」 が発表された。
① ガイドライン等整備による透明性・実効性の確保
② 技術情報基盤の整備
③ 企業文化・組織風土の劣化防止及び技術力維持向上
④ 高経年化対策に関する説明責任の着実な履行
②の技術情報基盤の整備とは、プラントの高経年化対策として必要な技術情報の収集・整備と活用、高経年化対策を確実なものとするための「検査・モニタリング技術」、「予防保全、補修、取替技術」及び「経年劣化評価技術」に係る安全研究テーマ選定と実行、国際協力による情報交換、共同研究、情報の集積化・共有化、効果的な高経年化対策実施のための産学官連携・協調などが含まれている。
2. 米仏における高経年化対策
数多くのプラントを有する米国とフランスを代表にどのような高経年化対策を展開しているか以下にその概要を述べる。
米国では、原子力エネルギー法(Atomic Energy Act)によって最長40年間の運転期間が認可されているが、満期以前に運転認可更新申請書を原子力規制委員会(NRC)へ提出し、認可されると最長20年間の運転期間延長が認められる。
NRCは、原子力発電プラント経年劣化研究(NPAR )の研究成果に基づき、1991年に原子力発電プラント運転認可更新申請に係る連邦規則(10 CFR Part 54) を発行し、認可更新に係わる要求事項を明確化した。
例えば、NRCは、事業者からの運転認可更新申請書に記載の保全プログラム(既存、強化及び新設の3種類のプログラム)が、その後20年間の継続供用期間中の経年劣化管理プログラム(AMP)として妥当か、標準審査要領(SRP)に則り、GALL 報告書等を参考に審査を行っている。なお、NPAR報告は、原子力発電プラントの寿命には技術的上限はなく、検査や保守管理が適切に実施されている限り、プラント運転期間は経済的な要因によって制限されると記載されている。
2006年10月時点の運転許可更新状況は、104基の原子力発電プラントのうちの44基(約42%)が既に最長20年間の運転期間延長(合計60年の運転期間認可)が認められ、9基が申請中、21基が申請を表明している。
一方、フランスでは、初期に建設された900MWeクラスの原子力発電プラントでは、運転期間を30年 と仮定した設計が行われているが、設置許可政令に運転期間は規定されておらず、政令で実施が義務化されている10年を超えない期間毎のPSRにおいて、プラントの包括的安全性評価を行い、安全性が保証される限り運転継続が可能となっている。
また、10年毎の原子炉停止時にプラントの詳細検査・試験が義務付けられており、フランス電力公社(EdF)は、次の10年間の運転期間中に適用する保全プログラムを用いて機器・構築物の健全性、プラントの安全性確保を維持しなければならない。
運転中の軽水炉で最古のプラント(Fessenheim-1、900MWe級)が2007年に、運転開始後30年を迎えるが、安全規制局は、2001年2月、EdFに対して以下の文書提出を要請している。
① 3回目の10年目原子炉停止時(VD3 )の保全計画
② VD3以降もプラントを安全運転できることの証明
③ VD3以降に適用すべき保全プログラムの提出
電力公社から提出される評価報告書に対して、安全規制局は、フランス放射線防護原子力安全研究所や外部の技術支援を受けて評価を行い、経年劣化管理に関する総括評価報告書を作成し、電力公社が30年以降もプラントの安全運転が可能か見解書を2008年に公表する予定である。安全規制局が、運転開始後30年を迎えるに当たって、第3回目のPSRで実施要求している具体的内容は次のとおりである。
(1) VD3時点での保全計画
a) 経年劣化事象が原子炉の安全性に特に影響を及ぼす可能性があるクリティカル機器リストの見直し
b) クリティカル機器の経年劣化事象と対応策
c) 補修・取替計画
d) 運転経験及び経年劣化事象の分析・評価と保全計画の見直し
e) 実機環境・運転条件を考慮した経年劣化事象に係る研究計画
f) 調査、検査及び改造工事等の計画
(2) VD3以降の運転継続適合性証明書の作成
運転継続適合性証明書では、20年目の原子炉停止時検査(VD2)からVD3までの間の運転経験を反映したVD3の全体計画及び経年劣化事象が原子炉の安全性に影響を及ぼす可能性があるクリティカル機器について運転継続が可能であるとする根拠の提示
(3) VD3 以降の保全プログラムの作成
VD3 以降の運転安全性を確保するために、機器・構築物の経年劣化又は機器等の旧式化に対する対応
a) 機器・構築物の経年劣化監視及び補修・取替計画
b) 経年劣化の抑制のための運転方法及び設備・機器の変更計画
c) 運転継続のために必要な技術力の維持
10年毎原子炉停止では約3ヶ月間プラントを停止し、大物機器の取替・補修等が行われ、安全重要度クラス1機器・構造物については10年毎原子炉停止において点検・補修が行われる。
VD3では、通常点検時には対象外のコンクリート構造物や、防震用ラバー等の点検が行われ、それ以外の機器等については、燃料交換の為に約18ヶ月毎に1ヶ月程度プラントを停止しMaintenance Ruleに基づき運転経験の反映、点検、補修が実施される。
30年以降もプラント運転を継続する上で、安全規制局はEdFに対してPSRで実施する保全プログラムの策定を要求している。EdFが2008年に30年を迎えるFessenheim-1に対して、補完的な経年劣化監視が必要として選定した機器及び構造物は以下の通りである。
・原子炉圧力容器、主冷却材ポンプ、加圧器、主冷却材配管、安全重要度クラス1配管、蒸気発生器、炉内構造物、原子炉格納容器、計装制御機器、ケーブル、土木構造物
3. 我が国の高経年化対策(高経年化技術評価)
経済産業省は、平成17年12月26日、「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の一部を改正する省令」を発出し、電気事業者に対して、原子炉の運転を開始した日以降30年を経過する日までに、原子炉施設の安全上重要な機器等について、経年劣化に関する技術的な評価を行い、これに基づき原子炉施設の保全のために実施すべき措置に関する十年間の計画を策定しなければならないと義務つけた。
また、同日、NISAは「実用発電用原子炉施設における高経年化実施ガイドライン」 及び「実用発電用原子炉施設における高経年化対策標準審査要領(内規)」 を発出し、前者では、高経年化技術評価並びに長期保全計画の実施、再評価及び変更、国への報告書の提出時期とその内容、長期保全計画の実施と報告等を、後者では、高経年化技術評価対象機器、審査の方法、審査の視点及び判定基準、定期安全レビユーで確認すべき内容等を規定した。
JNESは、これらのガイドライン等の策定を支援すると共に、透明性を持って高経年化技術評価を的確に実施するための「高経年化対策技術資料集」を整備している。本資料集として、下記8種類の審査マニュアル (図3参照)の他、高経年化データベースとして、
① 原子炉圧力容器の中性子照射脆化
② 応力腐食割れ
③ 疲労
④ 配管減肉
⑤ 電気計装設備の絶縁低下
⑥ コンクリートの強度低下及び遮へい能力低下
⑦ 耐震安全性評価
⑧ 組織風土劣化防止の取組みの考え方と把握の視点
JNESが国の交付金で実施した試験研究成果、諸外国のトラブル情報を含む米国NRCの経年劣化事象毎のトラブル技術情報(Information Notice(情報通知) 、Bulletin (通達) 、Generic Letter (一般書簡) )等を整備し、高経年化技術評価時の参考データとしている。
これらのガイドライン、標準審査要領、審査マニュアルに基づき、福島第一3号機、浜岡1号機、美浜3号機の以上3プラントの高経年化技術評価を完了 し、審査結果はNISA 及びJNES それぞれのホームページで公表されている。主な審査手順は次のとおり。
① 報告書の提出
事業者は規則第15条の2第2項の規定により高経年化技術評価等報告書を経済産業省大臣に提出
② 技術的妥当性の確認
NISAは、JNESにNISA文書「高経年化技術評価結果及び長期保全計画の技術的妥当性の確認について」を発出し、技術的妥当性の確認を行いNISAへ報告するように指示
③ 立入検査(現地調査)
報告書に記載されている具体的な技術評価の裏付け又は根拠となるデータ、文書等を直接確認するため当該発電所に保安院が4日間程度の立入検査を行う。JNESは技術的妥当性確認のためNISAを後方支援(現地調査)
④ 報告書の補正等
NISAは審査時の指摘事項(JNESの指摘を含む)を事業者に指摘し、これを受けて事業者は変更報告書を大臣に提出、NISA/JNESは再審査を実施
⑤ 原子力安全委員会への報告と公表
NISAは、JNESによる技術的妥当性の確認結果を踏まえつつ、高経年化対策検討委員会高経年化技術評価ワーキンググループ(主査 東京大学 関村教授) で学識経験者の意見を聴取し、総合的な審査結果を原子力安全委員会へ報告する共に公表
審査は、前述のガイドライン、標準審査要領、技術資料集を参照しながら行う。主な技術的妥当性の確認内容は次のとおり。( )内は内容、関連図書の例示。
a) 評価対象機器・構造物の抽出
「重要度分類指針」 の重要度分類クラス1、2及び3に分類される機器・構造物が漏れなく抽出されているか審査(系統図、ロジック図及び単線結線図等による評価対象機器の確認)
b) 消耗品・定期取替品の抽出
高経年化技術評価等の対象外とすることができる消耗品・定期取替品について、その定義を明確にして抽出しているか審査(社内標準等)
c) 機器・構造物の部位への展開
原子力発電所の安全機能達成のため、機器・構造物ごとに要求される機能を明確にし、その機能の維持のために必要な部位を評価対象として抽出しているか審査(信頼性ブロック図等)
d) 動的機器(部位の抽出)
e) 使用材料及び環境の同定
発生しているか又は発生する可能性のある経年劣化事象の抽出に際し、部位単位の使用材料、環境を踏まえているか審査(機器設計仕様書、系統設計仕様書及び取扱説明書等を用いて使用材料及び環境(圧力、温度、構造、流体条件等)を同定)
f) 経年劣化事象の抽出
部位の使用材料及び環境に応じ、発生しているか、又は発生が否定できない経年劣化事象が抽出されているか審査(他産業での経験も踏まえ、工学的に想定される経年劣化事象のうち、原子力機器の置かれている環境を考慮した事象の抽出→国内外の過去数十年の運転実績、材料データ等を踏まえて、発生が想定される事象の抽出→各機器個別の条件を踏まえ、機器に要求される機能に対してその機能維持に関連する主要な全ての部に展開した上で、考慮すべき部位・経年劣化事象の抽出)
g) 経年劣化事象に対する評価点の抽出
抽出された経年劣化事象について、適切な評価点が部位ごとに抽出されているか審査(原子炉容器の中性子照射脆化では、中性子照射量の最も多い原子炉容器胴部)
h) 経年劣化事象の発生又は進展の評価
60年の供用を仮定して、適切に経年劣化事象の発生又は進展評価を実施しているか審査(原子炉容器の中性子照射脆化の場合、監視試験結果と脆化予測値(JEAC4201-2004「原子炉構造材の監視試験方法」)を比較して脆化傾向を評価した上で、遷移温度域、上部棚温度域の両方を脆化予測式に従って予測)
i) 健全性の評価
60年の供用を仮定し、高経年化対策上着目すべき経年劣化事象の発生又は進展に係る健全性評価を行っているか審査(原子炉容器の中性子照射脆化の場合、炉内に挿入されたカプセルから監視試験片を取出して試験を行い原子炉容器胴部と同一の材料でできた監視試験片の遷移温度域における関連温度上昇とシャルピー上部棚温度域における吸収エネルギー低下傾向を把握)
j) 現状保全の評価
健全性評価結果から現状の保全策の妥当性が評価されているか審査(原子炉容器の場合、監視試験片を用いた遷移温度領域における関連温度上昇とシャルピー上部棚温度域における吸収エネルギー低下傾向の把握、脆化予測の運転上の制限及び耐圧漏えい試験温度を定めた運転管理への反映、超音波探傷検査等)
k) 追加保全策の策定
現状保全の評価結果から、現状保全に追加する必要のある新たな保全策が策定されているか審査
(遷移温度上昇の予測精度向上、使用済み試験片の再生技術等長期的な予測信頼性向上に取組む観点から、国や民間の技術開発、規格基準化への参画と実機への適用検討)
l) 耐震安全性評価
事業者による耐震安全性評価の報告書について、標準審査要領に従い、1) 評価対象機器の選定、2) 機器ごとの安全重要度、耐震クラス等の整理、3) 耐震安全性に有意な影響を与える経年劣化事象の選定、4) 経年劣化事象ごとの耐震安全性評価、5) 地震時動的機能維持の評価(該当機器の場合)6) 保全策に反映すべき項目の抽出、の観点から妥当性の審査を行った。特に、上記4)項においては、対象とする機器の耐震クラス、機器に作用する地震力の算定、60年の供用を仮定した経年劣化事象のモデル化 、振動特性解析(地震応答解析)、地震荷重と内圧等他の荷重との組合せ、許容限界との比較、に着目した審査を実施している。
m) 長期保全計画の審査
運転開始後30年を経過した後において、最新の運転経験及び知見を遅滞なく反映しているか審査
なお、JNESは、重要度分類クラス1及びクラス2、並びにクラス3の高温・高圧に分類される機器・構造物に対して、チェックリスト等を用いて漏れなく技術評価の妥当性を審査している。
4. 技術情報基盤の整備
一般に、運転年数の長い原子力発電プラントはトラブルの発生件数が増加すると考えられているが、現実的には、「高経年化対策の充実について」(別冊を含む)に記載のとおり、経年劣化事象の発生は、運転年数の増加に伴ってその件数が増加している傾向は認められず、プラントの高経年化が直ちに問題となることはないと考えられる。しかしながら、原子力発電プラントの安全性に対しては慎重かつ万全を期することが肝要であることから、運転開始後30年を経過するプラントについては、60年の供用 を仮定した高経年化技術評価が重要な役割を担っている。ただ、高経年化対策(高経年化技術評価)は、一般に馴染みが薄く、高経年化をもって原子力プラントの安全性が損なわれると受け止められる懸念がある。このような意識や懸念等を十分に踏まえ、必要となる技術開発の推進や技術情報の収集、蓄積に努め、それらの情報提供を通じて国民の理解と協力を得ることが重要である。
前述の「高経年化対策の充実について」に、「技術情報や安全研究の成果を規制面や実際の高経年化対策に効果的・効率的に反映していくためには、産学官が俯瞰的視点や時間軸を考慮した有機的な連携を保ちつつ、技術情報基盤の整備・運営を行う必要がある。また、産学官の有機的連携は、それぞれの技術情報基盤の整備・運営状況について情報を交換し、内容に共通性のある部分の連携や組織毎に有する技術情報の相互融通等を図る形で進めることが重要であり、これら活動を円滑に進めるため、産学官の有機的連携を行う総合調整機能を持った委員会を構築することが有効である。」(図4参照)との記載がある。
このような状況に鑑みて、JNESは、原子力発電プラントの高経年化に対する効果的な安全規制の実施に寄与すること、並びに国民の理解の醸成を図ることを目的として原子力発電所の高経年化対策のための技術情報基盤の整備を開始したところである。
平成17年12月19日、第1回技術情報調整委員会(於JNES)が開催され、委員長に東京大学 大橋弘忠教授(現在は、法政大学 宮健三教授)、安全研究WG(主査 東京大学 関村直人教授)、国際協力WG(主査 JAEA 平野雅司副センター長)、情報基盤WG(主査 JNES佐藤昇平部長)の発足が承認された。
図4 産学官による有機的連携と総合調整機能
平成18年11月現在、委員会、各WG(1年で5~6回開催予定)において基本的な役割と活動方針を検討中である。以下に現時点での活動方針(案)を述べる。
① 技術情報調整委員会
「技術情報基盤整備に係る産学官の有機的な連携に関する基本的な考え方」に則り、軽水炉の高経年化対応として産学官による自立・分散・協調をキーワードとした技術情報の共有化、産学官による情報収集と共有化のためのネットワーク構築、安全確保のための産学官間の共同研究抽出等を行う。
② 安全研究WG
産学官の有機的連携の考え方、今後の高経年化対応ロードマップ策定・改訂、検査のあり方検討会での性能指標・状態監視保全に結びつける保全プログラムも含めた議論と安全研究のあり方、福井県における高経年化調査研究との関係、「リスク情報」の高経年化対策への活用、事業者の高経年化対策に対する取り組みの積極的な情報公開と俯瞰的な安全研究推進、産学官での重複研究を避けるための情報交換等を行う。
③ 国際協力WG
材料劣化等の経年劣化に関連した国際協業、国際会議への戦略的・計画的な参加、NRC等の海外規制当局、IAEA、OECD/NEA等の国際機関との政府間及び民間ベースでの協力に関して、一貫性/継続性を持った国際協業の推進、技術情報交流を進め、我が国の諸施策実施に際して、これら機関との協調を図るための連絡・連携調整を行なう。
④ 情報基盤WG
産学官それぞれの役割を的確に果たせるよう、それぞれが有する技術情報の種類、内容等について情報交換を行い、産学官が有する技術情報の全体像を把握する。また、経年劣化に係る情報のうち、相互融通・共有化を図ることが産学官のそれぞれの役割を的確に果たすために望ましい分野を検討し、それら分野についての技術情報ネットワーク化に関する連絡・連携調整を行う。
5. おわりに
美浜3号機の配管破損事故を契機に、NISAは、一層の高経年化対策の充実に向けた委員会等の開催による高経年化対策ガイドライン等の策定を行い、福島第一3号機、浜岡1号機及び美浜3号機の以上3プラントの高経年化技術評価を行うと同時に、透明性確保の観点からこれらの規制情報、評価結果等を公表した。
JNESは、これらの業務を緊急体制で全面的にNISAを支援してきたところであり、伊方1号機の高経年化技術評価を実施中である。
現在、NISAは、平成20年度より適用開始の予定の新検査制度を検討中である。とりわけ、高経年化対策(技術評価)をどのような位置付けと方法で「保全プログラム」に反映するかが重要な検討課題となっており、JNESとしても、技術的側面からNISAを全面的に支援すると共に、JNES内に設置した技術情報調整委員会(産学官による技術情報調整の場)を通じて技術情報基盤の整備面から貢献していく所存である。
原子力発電所の高経年化技術評価と技術情報基盤の整備 菅野 眞紀,Masanori KANNO