解説 IAEAでの知識データベース(IGALL)について

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カテゴリ: 解説記事
1.緒言
(2014 年解説記事の続編記事)国際原子力機関(International Atomic Energy Agency ; IAEA)から発行された安全報告書、IGALL (International Generic Ageing Lessons Learned ; Safety Report Series No. 82,(2015))[1] については、リリース 1 年前の 2014 年 2 月の当学会誌に解説記事を掲載した。以来 5 年という歳 月が経過した。本稿では、その後 IAEA の場でどのよう に IGALL に関する改善活動が継続してきたのか、考察 を含めまとめてみる。
2.考察 2.1 2014 年までの経緯 2008 年 5 月から準備会合を開始し、2 年半かけて取組 方針と具体的な成果例を作成した。2010 年に技術会合 で承認され、フェーズ 1 が開始した。2013 年までの 3 年の作業期間で、以下の 3 点を作成した。対象は PWR と BWR と CANDU である。 ―AMR table;Ageing Management Review table ―AMP;Ageing Management Programmes ―TLAA;Time Limited Ageing Analyses 日本の高経年化対応との関連としては、AMR は、日 本原子力学会の「原子力発電所の高経年化対策実施基準」 にある、機器・部品に展開した経年劣化まとめ表も踏ま えたものになっている。AMP は、日本の規制要求となっ ている「高経年化技術評価書」を機器・構築物又は経年劣 化事象で分類しまとめたようなものであり、TLAA は、 その評価書の中の健全性評価のうち、寿命評価にあたる 部分であると考えると理解しやすい。 当時は、参加加盟国から収集した内容は、AMR table の様式で 7000 行に及んだが最終的には AMR テーブル は 2400 行にまとめられ、76 個の AMP、27 個の TLAA が、 データベースに格納されていた。現在では、2600 行の AMR と 92 個の AMP、28 個の TLAA と増えている。 フェーズ 1 の成果物が公開(実績 2015 年 4 月)される 前に、フェーズ 2(2014~2015 年)が開始され、WWER と CANDU 炉と電気計装関連の充実を図っている。当初 フェーズ 1 では、3 つのワーキンググループ(機械 WG・ 電気計装 WG・コンクリート WG)で始めたものの、4 つ に増やして活動を展開している。また、Steering Group と Clearing Group を統合し、Steering Committee が組織 され、当時の原子力安全基盤機構(JNES)が日本代表と して参画し、JNES が原子力規制庁(NRA)に統合された 後も、継続して NRA が日本の代表として参画している。 当初の 3 つの WG の作業には産業界からも電力とコン サルタントが参画し、その結果は日本の各機関で共有さ れている。
図 1 長期運転に関する IAEA 標準 (IGALL-HP[2] より引用 )[3] 2.2 2014 年以降の取組状況 IGALL の成り立ちからその役割まで、解説した前回 記事を執筆した当時は非公開であったが、具体的な経年 劣化管理ツールであるとして IAEA 内部で公開のための 手続きが進められ、1 年後の 2015 年 4 月に IGALL 安全 報告書 SRS-82 としてリリースされた。 その全体構成は、2009 年の技術会合議長声明にある 「定期的に(少なくとも 5 年毎)更新する」ことを実現す
るために、IGALL の基本的要求のみを記述し、個別の AMR,AMP,TLAA は IAEA-web サイトの IGALL ホーム ページ [2] に順次最新版を掲載し、自由に参照できるよ うになっている。 具体的には、SRS-82 の本文が 5 つの章、4 つの付録 から構成され、1 章では背景、目的と範囲を、 2 章では AMR テーブルの構成及び活用方法を、3 章では AMP の 基本的な考え方と 9 つの項目の詳細な説明を、4 章では TLAA の定義と役割を、5 章では用語の概要を、記載し ている。付録 I では、参加加盟国から入手した情報に基 づく AMP のリストを、付録 II では、同じく TLAA のリ ストを、付録 III では、用語の詳細な定義を表にまとめ、 付録IVでは、格納容器以外の土木構造物の分類が記載さ れている。 2014 年から開始したフェーズ 2 では、機械とコン ク リ ー ト の WG は 休 止 し、WGCANDU, WGWWER, WGE&IC, WG Obsolescence の 4 つのワーキングで活動 を展開させ、新たに 8 つの AMP と 1 つの TLAA、さらに、 Obsolescence(陳腐化)に関して TOP401; 技術的陳腐化 プログラムを作成している。この Obsolescence について は、IGALL の AMP に含めることを日本側から提案した ものであり、後節で詳細を述べる。 2016 年から開始されたフェーズ 3 では、再度、3 つ の WG に作業体制を戻して、最新知見の反映などを行 い、8 つの AMP、1 つの TLAA の追加・改善を図ると ともに、昨年の 2018 年 11 月に発行された IAEA 安全指 針 (No. SSG-48) Ageing Management and Development of a Programme for Long Term Operation of Nuclear Power Plants[4] の原案(公開手続き案)との整合性も検討され、 IGALL は、SSG-48 において、経年劣化管理の有力な 支援ツールとして位置づけられた(図 2 参照)。さらに、 SALTO(Safety Aspects of Long Term Operation) お よ び OSART(Operational Safety Review Teams)ミッションで この IGALL を活用し、発電所の保全活動をレビューす るといった現場で実践的に活用され、14 か国で IGALL 活用に関するワークショップや支援事業が展開されてい る。さらに、現在は、フェーズ 4(2018~2019 年)に移行 しており、新たな 2 つの分野について WG を立ち上げ ている(図 3 参照)。一つは、規制者向けのガイダンス作 成であり、もう一つが、長期停止中プラントの経年劣化 管理である。後者については、1建設が中断または長期 間要したプラントの管理、2現在の日本の多くのプラン トのような運転を中断して長期に停止しているプラント の管理、3廃止措置が決定し運転を停止したプラント の管理、これら 3 つの課題について検討が開始されて いる。引続く 2019 年以降の活動についても、2017 年の Steering Committee で承認されていることから、 フェー ズ 5 に移行することが考えられ、着実に改善が図られる ルーチンが構築されている。 図 2 経年管理プログラムの PDCA(SSG-48[4] より抜粋) フェーズ 4 の活動状況は関係者の聞き取りによれば、 従来の 3 つの WG において、web の IGALL データベー ス(AMR・AMP・TLAA)の充実が図られており、米 国 NRC から発行された「Generic Aging Lessons Learned for Subsequent License Renewal (GALL-SLR) Report」 (NUREG-2191, Volume 2)の反映や AMP の新規作成・改 訂の検討(光ケーブル、電気計装の交換部品、使用済燃 料プール、コンクリートの放射線劣化、格納容器の疲労) や AMR の新様式の検討が行われている。さらに、SRS- 82 の更新を目指して、機器スコープの設定や経年劣化 管理の有効性モニタリングなどの包括的 AMP の作成、 保全プロセスと経年劣化管理プログラムとの関係性につ いての記載を追記する検討がなされている。 また、個別タスクとして、先にも述べたように、規制 2.3
者向けのガイダンス作成と、長期停止中の経年劣化管理 に関する技術図書(TECDOC)作成が鋭意進められてい る。検討体制は以下のとおり。 炉型の異なる事象からの展開 IGALL で抽出された経年劣化事象には劣化機構が未 解明のものもあるが、それらを含めた事象の発生を想定 した保全活動が展開されており、発電所の安全運転に支 障が出ることはない。それでも、劣化機構解明は現場の 保全活動の合理化に寄与できるだけでなく、新しく建設 するプラント設計にも展開が期待できるため、積極的な 研究が待たれる。有効な活用事例を紹介する。 PWR プラン ト特有 の 1 次 冷却水 中応力 腐食割れ (PWSCC)においては、日本製の X750 合金だけが再発 しておらず、また、蒸気発生器伝熱管に使用している 800 合金および 690 合金製は PWSCC が未だ発現してい ない。しかし、近年の研究で、690 合金で強加工された 場合には、き裂進展が認められている。この機構解明 は道半ばではあるが、き裂が発生する場所が表面ではな く、表面近傍であるというデータが多数報告されている。 PWR プラントではなく、CANDU 炉で発生した炭素鋼 製配管の内外面でき裂が観察された事をきっかけに有岡 ら [6] が研究を進めた結果、表面から数 100μm の深さで キャビティが発生し、き裂に発達したと考えられるデー タが取得された。この劣化機構がき裂開口幅の狭い 690 合金の PWSCC と共通しているのではないかと考え、研 究を進めて同様のデータが採取された。これについては、 米国国立研究所で追試され、同様のデータが採取された との報告がある [6]。この最新知見は、材料や環境が異な るという理由だけで、他の炉型での経験が経年劣化事象 を解明するために活用されないということは必ずしも正 しくないことを示す事例である。このように、他プラン トの経験のみならず他の炉型の経験も参考に、自身のプ ラントの信頼性を向上させて安全性も同時に向上するた めに、炉型を問わずに現象そのものを理解するための国 際協業の意義は大きい。図 3. IGALL(Phase4)検討体制)[5] 2.4 日本における IGALL の活用 2.4.1 原子力学会標準への反映 日本原子力学会の原子力発電所の高経年化対策実施基 準 :2008 は、「高経年化技術評価を実施した原子力発電 所の知見を基に原子力発電所を構成する機器ごとに想定 される経年劣化事象を“経年劣化メカニズムまとめ表”」 として取りまとめたものである。IGALL の AMR はこれ を参考としたものである。また、「10 年ごと及び運転開 始 30 年以降の高経年化対策について , それぞれ経年劣 化事象に対して実施する標準的な評価の手法を規格化」 とあり、IGALL の TLAA 策定に参照されている。 さらに、2015 年度版では、「原子力規制委員会“実用 発電用原子炉施設における高経年化対策実施ガイド(原 子力規制委員会 , 平成 25 年 12 月 6 日)”及び東日本大震 災から得られた知見の反映として、評価対象機器及び 評価対象期間の考え方を整理して、長期停止中のプラ ントの技術評価 , 耐津波安全性評価及び高経年化対策検 討の有効性評価を規定した。国際原子力機関(IAEA)の IGALL(International Generic Ageing Lessons Learned)か ら得られた知見を附属書 E(参考)の経年劣化事象一覧 表に反映した。」とあり、他国の知見をタイムリーに反映 していることが分かる。このように、持てる技術・知識 を外に発信して(give)、更にレベルの高い知識を収集す る(take)、これこそが国際協業の成果である。 また、公開されている日本原子力学会の PLM 分科会 議事録(2017 年 11 月)[7] には、「IGALL 改訂の状況とし ては、2018 年末に最終版が発行される予定であり、本 格改定への反映が可能である。IGALL 以外では SSG-48 が NS-G-2.12 の代わりに発行され、廃止される SRS No 57 の後継として新しいレポートが機器のスコーピング 等、SSG-48 及び SRS No.82 でカバーできていない内容 が盛り込まれる。IAEA には IGALL 以外にも経年劣化 管理関連の指針類があるため、全体像の把握を目的に、 確認することとなった。IAEA の基準では経年劣化管理 に旧式化が含まれているが、PLM 基準で取り扱う必要 があるか検討することとなった。」とあり、常に、IGALL の情報をキャッチアップしていることが分かる。 本 PLM 分科会には IGALL 活動に参加している原子 力規制庁の担当者もオブザーバーとして参加し、IGALL 知見の反映に関する検討状況が情報共有されている。学 協会の規格基準検討に規制 ・ 被規制の担当者が参加する ことで、同じ技術情報を世界の専門家がどのように理解 しているのかも共有され、その解釈に大きな乖離がなく なる。その結果、規制に対する予見性が高まり、安定し た運用が可能になるだけでなく、ROP 型の新検査制度 がスタートするに際して、現場の検査官に混乱を与える ことなく、新たな技術知見を通知することが可能になり、 規制・被規制の両者にとって、学会の会合が有益に働く ものと考えられる。 また、前述の SSG-48 は、昨年 11 月に発行され、陳 腐化(Obsolescence)のタイプを整理している。 いま一度、IGALL が安全評価書 SRS82 として世に出 る際に背景としてまとめられた全文に目を向けると、 「IAEA は、1990 年に経年化管理の安全面に関するガ イダンスの開発を始めた。その後、関連する数多くの報 告書が作成され、一般的な方法論のガイダンスや原子炉 容器・炉内構造物・主配管・蒸気発生器・コンクリート 構造物などの機器・構築物に関する経年劣化評価とその 管理が公表されている。当初予想されていた期間(通常 30 ? 40 年)を超えて原子力発電所の運転を継続したい IAEA 加盟国が着実に増加し、長期運転(LTO)の課題に 対する支援の必要性を認識し始めたことから、IAEA は 2003 年から 2006 年に軽水炉の長期運転に対する安全面 に関し検討を行った。その結果を、2008 年に原子力発 電所の長期安全運転に関する安全報告書(SRS-57)とし てまとめ公表した。しかし、IAEA 安全指針 NS-G-2.12 図 4. 長期運転における陳腐化の分類 例)[3] の一般要件には、安全上重要な機器 ・ 構築物の効果的な 経年劣化管理プログラム(AMP)に関する方法論、重要 この陳腐化については、IGALL の AMP に含めるこ な要素およびその実施が含まれているものの、機器 ・ 構 とを日本側から提案したものである。1F 事故の遠因 築物の劣化メカニズムやそれを緩和する AMP に関する として、海外トラブル事象反映などの最新知見の反映 包括的な情報は含まれていなかった。そのため、既存の 不備があげられ、定期安全レビュー(PSR)の重要性が ガイダンスおよび技術情報を補完するために、研究結果 見直される環境下にあったことから、その提案を行っ およびプラントの運転経験をまとめて体系的に文書化し た。しかし、国際的には、既に PSR が改善の仕組みと 分析するためのプロセスを確立する必要性が認識され し て定 着 し て おり、SSG-25;;Periodic Safety Review for た。このプロセスが確立すれば、検討に参加する加盟国 NPPs(2013) [8] を参照しつつ SALTO ピアレビューが の間で、経年化管理に関する技術情報の共有が図られ、 行 わ れ て いる。SSG-48 で は こ の Obsolescence を 3 タ その結果、既存の保全プログラムを評価ツールとしてだ イプに分け解説し、このうち、規格基準の陳腐化と知 けでなく、安全上重要な機器・構築物に対して、考慮す 識の陳腐化は SSG-25 に委ねるとし、製造中止品など べき劣化の影響や劣化メカニズに沿った有効な AMP を のサプライヤー問題を TOP (Technological Obsolescence 提供することになる。このプロセスそのものが IGALL programme)として取扱うとしている。米国 NRC-RIC なのである。」 (Regulatory Information Conference)でも数年前からこの 問題に対する取組みが紹介されており、プラントメーカ と記述されており、時代のニーズに沿って積み重ねて が持っていたノウハウの散逸を問題視している。米国で きた歴史が理解できよう。また、スコープの節では、次 は完成図書を電気事業者は買い取ったとされるが、完成 の点が大切であると考える。 図書に含まれるノウハウを文書化したもの(設計マニュ 1 原子力発電所の運転開始から経年劣化管理を実施 アル)までも買い取ったかは不明である。もし買い取れ し、発電所の設計、建設、試運転、運転および廃止 ていたとしても、そのマニュアルの中にある各種パラ 措置の期間、効果的な経年劣化管理を促進するため メータの根拠は先行プラント(パイロットプラント)の各 の適切な規定を作ることが重要である。(廃止措置 種試験で得られたデータであることが多くそのデータの を含んでいる点) 整備も大切である。例えば、炉内構造物の流体励起振動 2 機器・構築物の性能特性の低下をもたらす物理的な による実機振動データなどがその一つである。スケール 劣化、および技術的な陳腐化(現在の知見による再 モデルによる試験等では得られない実機のデータは経験 評価で性能低下が認められること)の両方に対処す 知として大変重要なものである。 ることが求められる。IGALL では物理的な劣化の 管理に焦点を当てているが、安全上重要な機器の陳 腐化はその耐用年数を通して積極的に管理されなけ ればならない。個々の劣化メカニズムに対する技術 的な陳腐化は、AMP において既に考慮されており、 最新技術を反映している。 3 「However, new insights have to be addressed in future updates of the AMPs.」とあり、改善の精神が本フレー ズに現れている。 4 陳腐化の概念的側面(現在の知識や規格との整合性 等)は、定期安全レビューの枠組みとされ、IGALL には含めていないが、IGALL の HP には「技術的陳 腐化プログラム」を掲載している。 さらに、注意する点として、IGALL は、経年劣化管 理のための十分条件ではないため、個々のプラントに 対するチェックリストとして利用することは薦めてい ない。あくまで参考とすることを薦めている。特に、 AMR テーブルは、原子力学会の経年劣化まとめ表の取 扱いと同様と考える。また、用語の定義もすべての加盟 国が使用できるものではないと注釈がついている。 日本原子力学会の PLM 実施基準 2015 年版に、これ らの考えを的確に反映してきたことが理解できる。 2.4.2 原子力規制庁の審査への反映 本格的に IGALL 活用のための活動が開始されるに当 たり、旧原子力安全・保安院(NISA)から電事連に協力 依頼があった。その中で、審査の参考にしていくこと が示されていたものの、現 NRA は旧 NISA が策定した 高経年化技術評価書の劣化事象毎の審査ガイド等 [9,10] を 継承しておらず、本 IGALL を参照するとは明記されて いなかった。ただ、日本原子力学会標準「原子力発電所 の高経年化対策実施基準 :2008」(PLM 基準 2008 版)が、 原規規発第 1709202 号「実用発電用原子炉施設における 高経年化対策実施ガイド」に引用されており、PLM 基 準 2008 版の追補版は IGALL を反映していることから、 間接的には一部の IGALL を参照し審査されている。し かし、CANDU 炉や WWER の知見が入った IGALL を フル活用しているとは言えない状況にある。それゆえ、 IGALL のすべての内容を反映した PLM 基準 2015 年版 を引用するよう NRA の高経年化対策実施ガイドを改定 することが望まれる。 3. 結言 3.1 経年劣化管理の情報基盤として IGALL は、世界のトラブル事象や最新の研究動向を 踏まえた経年劣化に関する国際標準としての地位を確立 し、IAEA の SALTO ピアレビューに活用されるだけで なく、世界の原子力事業者の保全活動にも活用されてい る。一つの原子力発電所を 40 年以上も使用し続けるた めには、自身の経験・知見のみならず他所の経験・知見 を如何に吸収し、保全活動に反映させるかが、安全で安 定した運転を継続する鍵となる。世界で 40 年を超すプ ラントが増加する中、今年中には、IGALL の活用に関 する規制者向けガイダンスが作成され、次期フェーズ 5 に向かって更なる飛躍が期待される。 3.2 継続の秘訣 2015年のSRS-82制定までは紆余曲折があったものの、 参加加盟国 24 ヶ国の規制当局と電気事業関係者(原子力 発電所最大保有国の米国から NRC,PWR 最大保有国の仏 国から ASN と EDF,CANDU 炉保有のカナダから CNSC、 そして、日本から NRA と電力)両者が積極的に検討に 加わり、貢献したことが大きい。それは、現場で起きて いることを反映しつつ、現場に活用することを目的とし たことである。また、現在では、IGALL の 5 つの WG の開催は、場所をウィーン本部だけでなく、ブラジル、 の現場の方(規制当局の方や発電所の方)も議論に加わる など、現場の生の声を直接、聴く場にもなっている。こ れはスタート直後には予想し得なかった大きな発展であ る。また、米国 NRC の GALL や日本原子力学会の経年劣 化まとめ表など、LTO 先進国が知見を惜しみなく提供 したことで、その技術図書の知識の幅も広がっている。 これは、1F 事故後の経験から、大事故を他国でも起こ させないということから、IGALL の活用で安定した自 国のプラントの運転ひいては円滑な規制業務を行うこと ができるという意識がそれぞれに芽生えたからではない かと考える。 さらに、IAEA 内では、Nuclear Safety and Security 部 門と Nuclear Energy 部門が協調して、互いに作成した技 術図書の関連性を意識して、文書体系を構築したことか ら、LTO の後続プラントを持つ国々が参考しやすくなっ たことも見逃せない。 また、IAEA 事務局の R.Krivanek 氏の存在も大きかっ た。彼は、チェコの電力会社に勤務していたころに IGALL 準備会合に加わり、フェーズ 1 の活動期間中に IAEA に転籍し、LTO のプロジェクトマネジャーとなり、 SALTO ピアレビューも手掛け、NE 部門の PLiM/LTO 技 解説記事「IAEA での知識データベース (IGALL) について 2014 年解説記事の続編」 ドイツ、スペイン、韓国、米国、仏国と広がり、その国 保全学 Vol.18-1 (2019) 術統括をされている Ki- Sig KANG 氏との連携を図りつ つ、SALTO に関する文書体系を構築する際に、IGALL の継続的改善について明文化することを牽引した。 この IAEA の二人に継続的改善の重要性を説いたの が、IGALL に唯一、大学関係者で参加した東京大学の 関村教授である。フェーズ 1では、米国NRCの Hiser.A.氏 とともに共同議長として IGALL をリードした。関村教 授が牽引された、「高経年化対応戦略マップ」[11] では、 ローリング基本方針として、“知識の構造化から、知識 の動態化へ、さらに知識の実現化”へとあり、具体的に は、利用しやすい知識基盤を作って、付加的な価値を獲 得し発展的に知識を獲得するための情報基盤を構築し、 保全の現場で生かしていくことであるとしている。これ を IGALL 関連の活動に照らしてみると、なぜ、ローリ ング/継続できているかが分かる。 知識の構造化として、IGALL データベースを構築し、 知識の動態化として、SALTO ピアレビュー等で活用し、 知識の現実化として、レビューでの指摘や IGALL での 検討段階で得た良好事例を自国で展開する、現場に生か すことに繋がっている。 データベースの構築といっても先に述べたように、 24 ヶ国多国籍の専門家での議論の末、できたものであ り、それを活用しながら改善し続けているのである。こ れは現場に良好事例を展開できると理解できた関係者 が自身の経験や知識をデータベースに入力(give)するこ とで他者の改善を促す。そして、別の他者が入力するこ とで新たな知見が得られる(take)。国際協業で成功する キーワードは、“give and take”、それに尽きる。 おわりに、原子力発電所の安全性・信頼性は、40 年 運転を境に大きく変化するものではなく、世界のトラブ ル情報や各種研究成果に基づく最新知見に照らして、現 状の保安活動で妥当かどうかを見極めることが大切であ る。それゆえ、我が国ばかりでなく、各国の保全を含む 保安活動に関わる良好事例を学び、その妥当性を検証す ることを、これからを担う技術者は忘れないでほしい。 参考文献 [1] IAEA, Ageing Management for Nuclear Power Plants: International Generic Ageing Lessons Learned (IGALL), Safety Reports;Series No. 82, (2015). [2] IAEA IGALL ホームページ . https://gnssn.iaea.org/NSNI/PoS/IGALL/SitePages/ Home.aspx [3] IAEA IGALL-HP ;Archive ファイル , Sizewell ファイ ル (Day1;06_IAEA Safety Standards_26092018). [4] IAEA, Ageing Management and Development of a Programme for Long Term Operation of Nuclear Power Plants, Specific Safety Guide;No. SSG-48 (2018). [5] IAEA IGALL-HP ;Archive ファイル , Sizewell ファイ ル (Day3 ; 01_IGALL Programme_27092018). [6] NUREG/CR-7153,Vol.2 “Expanded Materials Degradation Assessment(EMDA)Volume 2:Aging of Core Internals and Piping Systems”. [7] 日本原子力学会 標準委員会 システム安全専門部会 PLM 分科会(P14SC)第 46 回議事録 . http://www.aesj.net/sc_committee/standard/stc/p14sc [8] IAEA, Periodic Safety Review for Nuclear Power Plants, IAEA Safety Standards Series No. SSG-25 (2013). [9] 旧 NISA「実用発電用原子炉施設における高経年化 対策標準審査要領」(H20・10・17 原院第 7 号). [10] (独)原子力安全基盤機構 ,「高経年化技術評価審査 マニュアル」 JNES-RE-2013-9012. [11] 原子力学会 原子力安全部会・標準委員会合同セッ ション「原子力分野の技術マップ間の連携につい て」2009 年 . (平成 31 年 2 月 5 日) 著 者 紹 介 著者:田中 秀夫 所属:(株)原子力安全システム研究所 専門分野:プラント保全“ “解説 IAEAでの知識データベース(IGALL)について “ “田中 秀夫,Hideo TANAKA
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