社会インフラ診断へのPFMの適用検討
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カテゴリ: 第14回
1. はじめに
著者らは軽水炉の主要機器・配管等を対象として、各 種保全戦略(検査頻度、検査精度、抜取検査率、修理/ 取替の選択、維持規格の適用等)が、1安全性、2信頼 性、3経済合理性、4環境性、5社会的受容性に及ぼす 影響を定量評価し、それらの多角的な視点から保全戦略 を総合的に最適化するための PFM(確率論的破壊力学)に 基づく軽水炉保全最適化のための統合型シミュレータ Dr. Mainte を開発してきた[1]。 一方で、軽水炉保全作業のさらなる信頼性向上のため には、ヒューマンエラー低減の重要性が指摘されており、 ヒューマンエラーの影響とその低減効果を評価してきた [2]。ここではDr. Mainte のさらなる活用を目指して社会 インフラ診断に適用する例としてケミカルアンカのPFM 解析モデルについて検討した。
2. アプローチの概要 2.1 ケミカルアンカのPFM解析フローチャート Dr. Mainte に実装されたケミカルアンカの破損を評価 するPFM解析フローチャートをFig. 1 に示し、考慮され る確率変数の例をTable 1 に示す。確率変数については、 今後文献調査、現場検査結果に基づき確率密度関数を評 価する計画である。 2.2 ケミカルアンカのPFM解析結果例 以下ではM16ケミカルアンカを対象に5年に1度検査 した場合の各種破壊確率(1付着強度低下、2コンクリ ートコーン破壊、3腐食によるアンカ筋径減少に伴う降 伏、480%剥離)、並びに、5剥離許容限度を超えた場合 の検出確率をTable 1 に示す仮定に基づきPFM解析で求 めた。 Fig. 1 Flow chart of PFM analysis of chemical anchors among social infrastructures by Dr. Mainte. 連絡先: 礒部 仁博 〒590-0451 大阪府泉南郡熊取町 朝代西1-950 原子燃料工業株式会社 E-mail: isobe@nfi.co.jp - 1 - 解析結果をFig. 2 に示すが、剥離許容限度、コンクリ ート強度の低下、腐食によるアンカ筋径の減少の組合せ を考慮して上記の破壊確率、検出確率の年度展開を推定 することが可能になった。 具体的には、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(b) は、腐食に Table 1 PFM analysis conditions of chemical anchors. 解析条件 項目 (仮)設定内容 入力項目名 破損 破損に至る条件 80%?離で破損 よるアンカ筋径減少に伴う降伏が早期に進むため、降伏 に伴う破壊確率が10~20年付近で高い。 [1] 吉村忍, 他 _軽水炉保全最適化のための総合型シミ ュレータDr. Mainteの開発,” 日本原子力学会和文論文誌, Vol. 9, No. 2 (2010). [2] 礒部仁博,他 _軽水炉保全最適化シミュレーション ツール Dr. Mainte を用いたヒューマンエラーの影響とそ の低減効果の検討(4),” 日本原子力学会 2016 年春の 年会, p3D01, 東北大学 (2016). 初期値 ケミカルアンカ M16 (アンカ筋径 16mm) 穿孔径:18mm、穿孔深さ:130mm 降伏点:230 N/mm2 荷重:3000 N、荷重変動:なし - コンクリート(基部) 強度:21 N/mm2 - また、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(c) は、コンクリート 強度劣化が早期に進むため、コンクリートのコーン破壊 確率が40年付近で高い。 また、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(c) は、コンクリート 強度劣化が早期に進むため、コンクリートのコーン破壊 確率が40年付近で高い。 施工時 施工不良 一様分布(0.1%) 施工不良時剥離程度は1% 施工不良率 初期検査 検査見逃し (通常検査と同一) 剥離検出率 劣化発生 基部側樹脂?離発生 指数分布:1.666 基部側樹脂劣化発生 60年時点で全体の50%に?離が さらに、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(d) は、剥離許容限 度が低いため、剥離許容限度を超えた場合の検出はやや 遅れて始まる。 さらに、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(d) は、剥離許容限 度が低いため、剥離許容限度を超えた場合の検出はやや 遅れて始まる。 始まる程度のλ:0.001 ボルト側樹脂?離発生 指数分布:1.666 ボルト側樹脂劣化発生 60年時点で全体の50%に?離が 始まる程度のλ:0.001 劣化進展 基部側側?離進行 2 - 10% / 年 ランダム 基部側樹脂劣化進展 ボルト側?離進行 2 - 10% / 年 ランダム ボルト側樹脂劣化進展 コンクリート強度減少 0.01 or 0.02 /year コンクリート強度減少率 アンカ筋径減少率 0.001 or 0.01 /year アンカ筋減少率 検査 検査間隔 5年 検査間隔 ?離検出 指数分布:0.01 剥離検出率 ?離が50%であれば80%見つかる 程度のλ:3.4 検査不良 一様分布:0.01 検査不良率 検査スキップ 一様分布:0.01 検査スキップ率 剥離許容限度 20 or 40 % 剥離許容限度 補修・取替 取替忘れ 一様分布 補修・取替忘れ率 通報 発生した破損が発覚 破損発生後、直ちに発覚(100%) 破損発見通報率 3. まとめ 原子力発電所、高速道路等で多数利用されているあと 施工アンカのケミカルアンカを対象にPFMモデルを整備 している。その結果、剥離許容限度、コンクリート強度 の低下、腐食によるアンカ筋径の減少等を考慮してケミ カルアンカの破壊確率、剥離許容限度を超えた場合の非 破壊検査による検出確率の年度展開を推定することが可 能になった。 参考文献 Fig.2 PFM analysis for chemical anchors Acceptable exfoliation level: (a) 20%, (b) 20%, (c) 20%, (d) 40% Concrete strength reduction rate: (a) 0.01/year, (b) 0.01/year, (c) 0.02/year, (d) 0.01/year Anchor diameter reduction rate: (a) 0.001/year, (b) 0.01/year, (c) 0.001/year, (d) 0.001/year 社会インフラ診断へのPFMの適用検討 礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE,藤吉 宏彰,Hiroaki FUJIYOSHI,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,松本 聡司,Satoshi MATSUMOTO,高坂 徹,Toru KOSAKA,吉村 忍,Shinobu YOSHIMURA
著者らは軽水炉の主要機器・配管等を対象として、各 種保全戦略(検査頻度、検査精度、抜取検査率、修理/ 取替の選択、維持規格の適用等)が、1安全性、2信頼 性、3経済合理性、4環境性、5社会的受容性に及ぼす 影響を定量評価し、それらの多角的な視点から保全戦略 を総合的に最適化するための PFM(確率論的破壊力学)に 基づく軽水炉保全最適化のための統合型シミュレータ Dr. Mainte を開発してきた[1]。 一方で、軽水炉保全作業のさらなる信頼性向上のため には、ヒューマンエラー低減の重要性が指摘されており、 ヒューマンエラーの影響とその低減効果を評価してきた [2]。ここではDr. Mainte のさらなる活用を目指して社会 インフラ診断に適用する例としてケミカルアンカのPFM 解析モデルについて検討した。
2. アプローチの概要 2.1 ケミカルアンカのPFM解析フローチャート Dr. Mainte に実装されたケミカルアンカの破損を評価 するPFM解析フローチャートをFig. 1 に示し、考慮され る確率変数の例をTable 1 に示す。確率変数については、 今後文献調査、現場検査結果に基づき確率密度関数を評 価する計画である。 2.2 ケミカルアンカのPFM解析結果例 以下ではM16ケミカルアンカを対象に5年に1度検査 した場合の各種破壊確率(1付着強度低下、2コンクリ ートコーン破壊、3腐食によるアンカ筋径減少に伴う降 伏、480%剥離)、並びに、5剥離許容限度を超えた場合 の検出確率をTable 1 に示す仮定に基づきPFM解析で求 めた。 Fig. 1 Flow chart of PFM analysis of chemical anchors among social infrastructures by Dr. Mainte. 連絡先: 礒部 仁博 〒590-0451 大阪府泉南郡熊取町 朝代西1-950 原子燃料工業株式会社 E-mail: isobe@nfi.co.jp - 1 - 解析結果をFig. 2 に示すが、剥離許容限度、コンクリ ート強度の低下、腐食によるアンカ筋径の減少の組合せ を考慮して上記の破壊確率、検出確率の年度展開を推定 することが可能になった。 具体的には、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(b) は、腐食に Table 1 PFM analysis conditions of chemical anchors. 解析条件 項目 (仮)設定内容 入力項目名 破損 破損に至る条件 80%?離で破損 よるアンカ筋径減少に伴う降伏が早期に進むため、降伏 に伴う破壊確率が10~20年付近で高い。 [1] 吉村忍, 他 _軽水炉保全最適化のための総合型シミ ュレータDr. Mainteの開発,” 日本原子力学会和文論文誌, Vol. 9, No. 2 (2010). [2] 礒部仁博,他 _軽水炉保全最適化シミュレーション ツール Dr. Mainte を用いたヒューマンエラーの影響とそ の低減効果の検討(4),” 日本原子力学会 2016 年春の 年会, p3D01, 東北大学 (2016). 初期値 ケミカルアンカ M16 (アンカ筋径 16mm) 穿孔径:18mm、穿孔深さ:130mm 降伏点:230 N/mm2 荷重:3000 N、荷重変動:なし - コンクリート(基部) 強度:21 N/mm2 - また、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(c) は、コンクリート 強度劣化が早期に進むため、コンクリートのコーン破壊 確率が40年付近で高い。 また、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(c) は、コンクリート 強度劣化が早期に進むため、コンクリートのコーン破壊 確率が40年付近で高い。 施工時 施工不良 一様分布(0.1%) 施工不良時剥離程度は1% 施工不良率 初期検査 検査見逃し (通常検査と同一) 剥離検出率 劣化発生 基部側樹脂?離発生 指数分布:1.666 基部側樹脂劣化発生 60年時点で全体の50%に?離が さらに、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(d) は、剥離許容限 度が低いため、剥離許容限度を超えた場合の検出はやや 遅れて始まる。 さらに、Fig. 2(a) と比較してFig. 2(d) は、剥離許容限 度が低いため、剥離許容限度を超えた場合の検出はやや 遅れて始まる。 始まる程度のλ:0.001 ボルト側樹脂?離発生 指数分布:1.666 ボルト側樹脂劣化発生 60年時点で全体の50%に?離が 始まる程度のλ:0.001 劣化進展 基部側側?離進行 2 - 10% / 年 ランダム 基部側樹脂劣化進展 ボルト側?離進行 2 - 10% / 年 ランダム ボルト側樹脂劣化進展 コンクリート強度減少 0.01 or 0.02 /year コンクリート強度減少率 アンカ筋径減少率 0.001 or 0.01 /year アンカ筋減少率 検査 検査間隔 5年 検査間隔 ?離検出 指数分布:0.01 剥離検出率 ?離が50%であれば80%見つかる 程度のλ:3.4 検査不良 一様分布:0.01 検査不良率 検査スキップ 一様分布:0.01 検査スキップ率 剥離許容限度 20 or 40 % 剥離許容限度 補修・取替 取替忘れ 一様分布 補修・取替忘れ率 通報 発生した破損が発覚 破損発生後、直ちに発覚(100%) 破損発見通報率 3. まとめ 原子力発電所、高速道路等で多数利用されているあと 施工アンカのケミカルアンカを対象にPFMモデルを整備 している。その結果、剥離許容限度、コンクリート強度 の低下、腐食によるアンカ筋径の減少等を考慮してケミ カルアンカの破壊確率、剥離許容限度を超えた場合の非 破壊検査による検出確率の年度展開を推定することが可 能になった。 参考文献 Fig.2 PFM analysis for chemical anchors Acceptable exfoliation level: (a) 20%, (b) 20%, (c) 20%, (d) 40% Concrete strength reduction rate: (a) 0.01/year, (b) 0.01/year, (c) 0.02/year, (d) 0.01/year Anchor diameter reduction rate: (a) 0.001/year, (b) 0.01/year, (c) 0.001/year, (d) 0.001/year 社会インフラ診断へのPFMの適用検討 礒部 仁博,Yoshihiro ISOBE,藤吉 宏彰,Hiroaki FUJIYOSHI,松永 嵩,Takashi MATSUNAGA,小川 良太,Ryota OGAWA,匂坂 充行,Mitsuyuki SAGISAKA,松本 聡司,Satoshi MATSUMOTO,高坂 徹,Toru KOSAKA,吉村 忍,Shinobu YOSHIMURA