断層変位に対するリスク評価と工学的な対応策 (4)機器・配管系の解析評価事例

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カテゴリ: 第14回
はじめに
断層変位に対する機器・配管系の健全性は,建屋・構 築物、土木構造物の損傷状態に起因する。 建物・構築物が健全で機器・配管系の支持機能が維持 されている場合は、主に決定論での影響分析及び裕度評 価にて安全上重要な設備のシステム全体が評価可能であ る。一方、建物・構築物が広域にわたり崩壊している場 合等においては、支持機能の有無を確認した上で安全上 重要な設備を機器毎に評価し、それを入力として事故シ ナリオを整理し、確率論的なリスク評価に繋げることに なる。また、建物・構築物への影響が局所的な範囲に限 られる場合は、その範囲の支持機能は期待せずに評価す ることもできる。 本発表では、炉心の安全停止に関連する安全上重要な 代表的な機器・配管系に着目し、地震を起因とする断層 変位(ずれ)をハザードとして、既存の原子炉建屋の直 下に数十cmの正断層型の縦ずれ変位を仮定した場合の 建屋内の重要機器及び安全系の配管に対する影響程度に ついて、既往の知見 [1][2][3] を参照し、決定論的手法に基づ き評価した日本原子力学会調査専門委員会の成果報告 [10] の内容の一部を紹介する。 2.入力条件 断層変位の入力は、当該設備の支持構造物である建 物・構築物の構造躯体を介して機器・配管系に作用する。 このため、建物・構築物の変形、傾斜等が図1に示す ように機器・配管系への入力条件となる。また、建物・ 構築物の損傷状態から設備の支持機能を有するエリアを 特定することができる。 すなわち、機器・配管系への断層変位の影響評価では、 断層変位による建物・構築物の応答と損傷状態を入力条 件として評価対象機器を選定し、構造健全性評価を実施 する。 なお、機器・配管系の支持機能が維持されている場合 の影響評価においては、図2に示す事項を考慮する。 連絡先 : 佐藤 邦彦、〒652-8585兵庫県神戸市兵庫区 和田崎町一丁目1番1号、MHI-NS エンジニアリング、 E-mail: kunihiko_sato@nseng.mhi.co.jp - 119 - Pump 1 Evaluation in consideration of slope 2 Evaluation in consideration of floor distortion 3.荷重の組合せ 機器・配管系の影響評価では、短期荷重である断層変 位による傾斜、建屋内の変形、建屋間の相対変位を運転 時荷重と組み合わせる必要がある。また、地震荷重を同 時に考慮する必要がある場合には、国内の規程、規格 [4][5] に基づいて、適切にそれらを組み合わせるものとするが、 断層変位と地震との重畳による荷重組合せは、今後の課 題とし、本検討では取扱っていない。 すなわち、本評価では1、2の荷重が同時に作用する と想定する。 1断層変位による傾斜、建屋内の変形、建屋間の相対 変位 2運転時荷重、死荷重 4.許容限界 4.1 構造損傷 損傷に寄与する応力では、外力とつりあう応力として の一次応力評価に傾斜の影響を考慮する。また、隣接部 分の拘束又は自己拘束により生じる二次応力評価に、変 形、建物・構築物間の相対変位の影響を考慮する。 一次応力、二次応力の許容限界は、前述の国内の規格・ 基準 [4][5] に基づくものとするが、二次応力は、変形に伴 - 120 - 【Response analysis】 【Evaluation of fault displacement】 Fig.1 Response analysis condition of equipment and piping systems [11] 3 Evaluation in consideration of displacement between buildings Fig.2 Consideration matter in evaluation of equipment and piping systems [11] Slope Displacement Slope Displacement Slope 傾 【Analysis condition of equipment】 ・Slope (Base mat, Floor, Wall) ・Distortion (Base mat, Floor, Wall) ・Strain (Base mat, Floor, Wall) い応力が再分配されるため、延性破断に対する許容応力 は把握できない。このため、建物・構築物の変形、相対 変位による延性破断の現実的な評価として弾塑性解析を 導入することで、ひずみに対する許容限界を把握するこ とが可能となる。 4.2 機能損傷 断層変位に伴う建屋の傾斜による影響のような長期間 継続する可能性がある荷重に対しては、例えば建屋床の 傾斜に応じた偏った荷重が機器に作用する。ポンプ等の 回転機器の場合には、ラジアル荷重、アキシャル荷重及 びその複合荷重が増加することが考えられる。 断層変位発生後、長期間に渡り機能維持が必要となる 動的機器の場合には、それらの荷重に対し、軸受部、シ ール部等の構造強度を評価し、長期許容荷重(定格荷重) との比較により動作機能を確認することが可能である。 なお、非常用ディーゼル発電設備や立形ポンプ等の長 尺回転機器の場合には、建物・構築物の変形で生じた荷 重による軸受の損傷に注意が必要である。 また、断層変位に伴い、隣接する建屋間で相対変位が 生じる場合、両建屋間を跨ぐ渡り配管では、相対変位に 対して延性破断等による損傷がないことを確認する必要 がある。 5.解析・評価手法 評価は、機器・配管系の各設備の構造面での特徴を考 慮して評価部位を抽出し、国内の規格・基準 [4][5] に基づ いた適切な評価法を適用する。例えば、配管系のような 静的構造物については、建屋の傾斜のような入力条件に 対しては影響は軽微であるものの、変位によっては流路 閉塞や破断等が発生し、安全機能が喪失するおそれがあ る。また、ポンプのような動的機器では、傾斜の程度に よっては動作機能が失われるおそれがあり、機器定着部 を含めた評価を行い、運転性能を確認する必要がある。 このように、設備の配置と損傷状態を考慮して影響評 価を行うことを基本的な考え方とする。 6.解析評価事例 断層変位に対する評価事例として、既設プラントの原 子炉建屋等の直下に鉛直方向に50 cm の断層変位が生じ る事象を想定した。図3 に建屋の3次元FEM 解析結果を 示すが、本結果に基づき、床の傾斜、変形及び建屋間相 対変位を算定し、機器評価のための入力条件として表1 にまとめた。機器・配管系の評価事例として、図4 の機 器評価点に示す、1安全系ポンプ、2渡り配管及び3制 御棒挿入性に関して、これを入力として評価した [6][7]。 Fault displacement Fig.5 Evaluation of pump [11] Table 1 Analysis condition for evaluation of equipment [11] 1Pump 2Piping 3Control Rod Slope Displacement Slope 50cm 12/1000 (0.67°) X:-136.6 mm Y:6.8 mm Z:-212.9 mm - 121 - Radial load Anchor bolt Thrust load Table 2 Bearing load by slope(N)[11] 8/1000 (0.44°) Fig.4 Equipment layout (Section A ? A) [11] Fig.3 FEM analysis result of reactor building[11] 6.1 安全系ポンプの強度評価 断層変位により原子炉建屋が傾斜した場合の安全系ポ ンプの健全性を評価するため、図5 に示す構造上クリテ ィカルと想定される基礎ボルトと軸受に着目して影響評 価を行った結果、基礎ボルトには有意な応力は発生せず、 軸受に生じる荷重も表2に示すように小さく、構造損傷、 機能損傷には至らないことを確認した。 なお、ポンプの台板を傾斜させた動作実験例では、約4° (10 / 145)程度の傾斜では機能に影響がないことが確認 Fault Reactor Building されている [3]。 Auxiliary Building Fault displacement (cm) Slope Thrust load Allowable load Radial load Allowable load Evaluation ? 0° 12,000 355,000 4,452 16,200 OK 50 0.67° 12,058 355,000 4,452 16,200 OK CV R/B RV AA Fault A/B R/B CV 80m A/B 1 Pump 3 Control rod GL 2 Crossover piping Pump RV GL Base mat T/B 6.2 配管の強度評価 断層変位に対して、構造強度上厳しいと想定される原 子炉建屋と補助建屋とを跨ぐ、図6の建屋配置図に示す 安全系の渡り配管を評価対象として、以下の通り、弾塑 性解析を実施した。 (1) 解析条件 1建屋床のひずみは2000 μ 以下であり、サポート定着 部は固定とする。 2建屋間相対変位は、原子炉建屋側の配管サポート点 に強制変位として入力する。 (2) 解析モデル 配管応答の厳しい範囲をシェルモデル、その他を梁モ デルで構成した図7に示すハイブリッドモデルを採用し た。配管仕様を表3に示す。 Crossover Piping Fig.8 Material property [11] Table 3 Specification of piping system (SS) [11] Sch. Thickness (mm) Temp. (°C) Pressure (MPa) 14B 11.1 150 2.7 使用コード : ANSYS 主な使用要素 : SHELL181(シェル要素部) PIPE288(はり要素直管部) ELBOW290(はり要素エルボ部) 弾塑性モデル : 2 直線近似による移動硬化則モデル (図8参照) (3) 判定基準 弾塑性解析結果により算定される最大ひずみにより、 配管材料が延性破断を起こさないことを確認する。延性 限界としては、JISに記載されている材料の伸び(22%) を基準とする。 (4) 解析結果 図9 及び図10にそれぞれ、変形図及びひずみ分布図を 示す。最大ひずみは建屋境界部近傍のエルボ部で2%程度 であり、既往のガイドライン [8] の許容ひずみ8%以下を Loading points for displacement 満足し、またJIS 規格の破断伸びは22%以上であること から、延性破断に対して余裕があることを確認できた。 R/B Boundary A/B Displacement (at 50cm fault) X : -136.6 mm Y : 6.8 mm Z : -212.9 mm Fig.7 Elasto-plastic analysis model of piping [11] s sertsR/B Boundary A/BFig.6 Plant layout and crossover piping [11] Shell model Elbow part - 122 - Deformation Fig.9 Result of elasto-plastic analysis : Deformation [11] strain Fig.10 Result of elasto-plastic analysis : Strain [11] 6.3 PWRの制御棒挿入性評価 制御棒クラスタ及び駆動軸は自重によって円滑に挿入 できる構造となっており、軽微な傾斜では制御棒の挿入 を阻害することはないが、断層変位によって制御棒の挿 入経路が傾斜した場合は、挿入経路との摩擦によって生 じる抗力を評価することで挿入性についての評価が可能 である。制御棒の挿入経路を図11 に示す。 Strain Maximum (2.0%) strain Fig.12 Insertion route of control rod Fig.12 Bending of fuel assembly by slope of RV [11] Fig.11 Insertion route of control rod [11] - 123 - 原子炉建屋に8 / 1000 程度の傾斜を想定した場合、図 12に示すように、傾斜による自重の分力により燃料集合 体(制御棒の挿入経路)は0.3 mm 程度たわむと考えられ るが、たわみに対する制御棒の挿入遅れには、旧原子力 安全基盤機構が多度津の振動台で実施した耐震実証試験 結果 [9] から、図13に示すとおりS2 (1) 地震時の最大変 位である約15 mm と比較すれば、十分小さいことがわか る。 F = μ × M・g × sin θ ... (1) ここで、 F:上向きの抗力 μ:摩擦係数 M・g:自重 θ:傾斜(=0.44°) Fig.13 図9 Delay 制御棒挿入遅れ比と試験対応答の関係ratio for insertion vs. deformation 7) of RCC [9] このことから、建屋床の傾斜が8 / 1000程度であれば、 制御棒挿入時間への影響は無視できるほど小さいことが 参考文献 推測できる。 以上は、PWRの評価事例であるが、炉内構造の異なる [1] 神谷昌伸ほか, 断層変位に対する工学的なリスク評 BWRにおいても同様、制御棒の挿入経路の傾斜に対して 価 (2)裕度評価手法の適用性について, 日本機械学 挿入性は阻害されることはなく、挿入時間についても有 会第21回動力・エネルギー技術シンポジウム講演論 意な影響がないことを確認している。 文集(2016), B222. [2] 神谷昌伸, 断層変位に対する原子力安全の基本的考 6.4 炉心冷却機能についての考察 え方, 日本保全学会第13回学術講演会要旨集(2016), 原子炉施設における炉心冷却システムの概略図を図14 I-1-3-2 に示す。 [3] 奈良林直, 岡本孝司, 百々隆, 神谷昌伸:原子力安全 前述の解析評価事例に示すとおり、仮に50 cm程度の 規制関連検討会報告(5) 断層変位に対する工学的 断層変位によって原子炉建屋の一部が損傷しても、炉心 な対策とリスク評価, 保全学, Vol.15, No.4, pp.2-7, 冷却システムの構成機器である安全系ポンプ、建屋間の 2017年. 渡り配管及び原子炉を安全停止するための制御棒挿入性 は機能が確保されており、システムとしての機能は維持 できていると考えられる。 なお、ここでは水源の評価事例は示していないが、代 替設備として屋外に重大事故対処施設もあり、これら水 源の配置が分散されている効果により、いずれかの水源 [4] 日本電気協会:原子力発電所耐震設計技術規程 (JEAC4601-2008), 2008年 [5] 日本機械学会:発電用原子力設備規格 設計・建設規 格第I編 軽水炉規格(JSME S NC1-2012), 2012年 [6] 佐藤邦彦, 原口龍将, 神谷昌伸, 小川勤, 上屋浩一: が機能を維持しているとの評価ができることになる。 断層変位に対する機器・配管系の解析評価事例 (1) 機器の解析評価事例, 日本原子力学会2017年春の大 会, 講演番号3M-02, 2017年3月. R/V [7] 新間聡, 梅本貴広, 神谷昌伸, 小川勤, 上屋浩一:断 層変位に対する機器・配管系の解析評価事例 (2) Pit 配管の解析評価事例, 日本原子力学会2017年春の大 会, 講演番号3M-03, 2017年3 月. Supply line Pump Control rod [8] 原子力技術協会:BWR配管における混合ガス(水 素・酸素)燃焼による配管破損防止に関するガイド ライン(第3 版),2010 年3月. There is no damage to fault displacement PWR [9] 原子力安全基盤機構規格基準部:原子力発電施設耐 震信頼性実証試験の概要(JNES-SS-0617),2006年 11月. [10] 佐藤邦彦,他:日本原子力学会誌10月号解説シリー Fig.14 Outline of reactor cooling system [11] ズ,2017年10月(出版予定). [11] 佐藤邦彦, 神谷昌伸, 上屋浩一, 新間聡, 原口龍将: 断層変位に対するリスク評価と工学的な対応策(3) 機器・配管系の解析評価事例, 日本機械学会第22 回 動力・エネルギー技術シンポジウム, 講演番号A-124, 2017年6月. 断層変位に対するリスク評価と工学的な対応策 (4)機器・配管系の解析評価事例 佐藤 邦彦,Kunihiko SATO,鈴木 優,Yutaka SUZUKI,新間 聡,Satoshi SHINMA,原口 龍将,Ryusuke HARAGUCHI,神谷 昌伸,Masanobu KAMIYA,小川 勤,Tsutomu OGAWA,上屋 浩一,Koichi KAMIYA
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