福島第一原発 1 号機における非常用復水器の冷却性能評価 に関する研究

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
福島第一原子力発電所では、2011年3月11日に発生し た東日本大震災の際に1号機から4号機において外部電 源及び非常用電源が全て失われ全交流電源喪失の事態に 陥った。非常用復水器(IC)は電源を必要としない静的 炉心冷却系であり、1号機では運転員がICを手動停止さ せるまでは炉心冷却機能が維持できていたと考えられる [1]。その後、18 時18 分にIC の再起動が試みられたが、 炉心が露出しジルコニウム・水反応によって発生した水 素が熱伝達を阻害して炉心が冷却できない状態に陥って いた可能性がある。福島第一発電所1 号機における事故 の進展を正しく理解し適切な対策を講じるためには、炉 心冷却機能を担っていたICの事故時の冷却性能と作動条 件を明らかにする必要がある。 ICを使用する際には7MPa程度までの圧力が想定され るため、事故時のICの冷却性能を正しく評価するために は圧力の影響を適切に考慮する必要がある。しかし、 BWRの実機相当の高圧条件下における蒸気凝縮熱伝達 の定量的な公表データはほとんど存在しない。そこで、 本研究ではTRAC-BF1コード[2]を用いた解析によって福 島第一原子力発電所1号機を模擬した体系でのICの除熱 能力の評価を行うと共に、実機相当の高圧条件下におけ るICの模擬実験による検証を行った。 2.実機解析 福島第一原子力発電所1号機を模擬した体系を作成し、 原子炉システム過渡解析コードTRAC-BF1[2]を用いた解 析を実施した。解析に使用した非常用復水器系と再循環 系のノード図を図1に示す。図2に圧力の解析結果と運 転記録[3]との比較を示す。ここで、地震発生後の全制御 棒挿入時刻を0s として表示しており、政府報告書[4]に記 載されているイベントを抽出してICの起動と停止を設定 した。解析については、18時18分から18時25分までA 連絡先:山本泰功、〒060-8628 13条西8 丁目 北海道札幌市北区北 系のICを起動させたCase1 しなかったCase2の比較を行った。運転記録[3]より、地 と何らかの理由でICが起動 北海道大学大学院工学研究院 震発生300秒後にICの2基が起動し、原子炉圧力が E-mail: yasu-yamamoto@eng.hokudai.ac.jp 7.2MPaから4.6MPaに減少した後、ICの手動停止によっ 図3 原子炉容器水位の時間変化 のため、18時18分以降のICの作動状況と冷却性能を正 図1 実機BWRを模擬した解析体系 しく評価するためには、非凝縮性ガスである水素の影響 を適切に考慮した評価が必要である。BWR で想定される 高圧条件下における蒸気凝縮熱伝達や非凝縮性ガスの影 響については公開された定量的データがほとんどないた め、実験体系で解析モデルの適用性を確認しておくこと が望ましい。
BWRで想定される高圧条件下におけるICの除熱能力 ??? Measured Value [3] を検証するために非常用復水器を模擬した高圧可視化実 験を実施した[6]。実験装置は圧力容器と IC 模型部を組 み合わせた図4のような構成となっている。IC 模型部は 7LPH>V@冷却水タンクと A 系と B 系の 2 本の U 字型伝熱管 図2 原子炉容器圧力の時間変化 から構成されており、伝熱管には長さ1m、内径 10.9mm のステンレス鋼の管が使用されている。実機BWRでは て圧力が7.2MPaまで上昇している。解析結果でもICの IC が圧力容器の上方に配置されており、圧力容器内とIC 起動停止による圧力の変化については同様の傾向が再現 装置内の水面の高さの差による水頭差圧によって配管内 できている。解析結果のCase1とCase2 を比較するとIC の自然循環流が生じる構造となっている。高圧可視化実 の起動に成功した場合は18時18 分から18時25分の間 験装置においてはこのIC配管内の自然循環を模擬するた に圧力は約4.7MPa程度まで低下しており、ICが正常に めに、IC模型部を圧力容器の上方約4mに配置している。 起動できた場合は崩壊熱除去に必要な除熱能力を十分有 この実験装置に圧力容器から飽和蒸気を供給して冷却実 している結果となった。 験を行い、圧力、流量、圧力容器水位、伝熱管内の6箇 図3に有効燃料頂部(TAF)を基準とした原子炉容器 所の温度等を測定した。 水位の時間変化の解析結果を示す。17時30 分に水位が 図5に、実験中に撮影したIC模型部の写真を示す。こ 0m 以下となり炉心が露出する結果となった。ICの再起動 のように冷却水タンク内の様子が観察できる構造となっ が試みられた18時18分以前に炉心が露出していたとい ている。伝熱管内に蒸気が存在する領域では、蒸気凝縮 う解析結果は先行研究[5,6]と一致している。炉心が露出 に伴う熱伝達量が大きく伝熱管の外表面で激しく沸騰が するとジルコニウム・水反応の結果として発生する水素 起こっている様子が確認できる。図6に測定した圧力の によって伝熱管内での熱伝達率の低下やICの作動に必要 時間変化を示す。圧力容器に溜められた水は崩壊熱を模 な自然循環流が阻害される等の影響が考えられる。そ 擬した4.5kW のヒーターで実験中も加熱されており、発
熱量をIC模型部での除熱量が上回って圧力が低下してい ることが確認された。時間の経過と共に圧力の低下は緩 やかになっており、これは伝熱管内の蒸気温度と冷却水 温度の温度差が減少することと蒸気の供給量が低下する ことに起因していると考えられる。実験中に圧力容器内 の圧力は約0.6MPaまで低下した。 次に、TRAC-BF1コード[2]を用いた実験解析を実施 した。IC模型部における伝熱管内の入口温度と出口温度 を図7と図8 にそれぞれ示す。伝熱管入口温度は、飽和 温度とほぼ一致しており、IC模型部まで飽和状態の蒸気 が供給されていることがわかる。出口温度は飽和温度を 下回っており、伝熱管内で大部分の蒸気が凝縮している と考えられる。また、解析結果では入口温度は実験に近 い値が得られているものの、出口温度を過小評価してお り、IC模型部での除熱量が実験データよりも過大評価と なっている。今後、解析に使用する熱伝達モデルの影響 等について詳細に分析し、実験データを再現できる解析 条件や適用する解析モデルを検討すると共に、実機解析 にも実験で得られた知見を反映していく必要がある。
図4 高圧可視化実験装置 図5 実験中のIC模型部 0 6 5 4 3 2 1 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 Time 時間[s] [s] 図6 圧力の測定結果 700 600500400300200解析入口温度 実験入口温度 00 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 Time 時間[s] [s] Simulation 100 図7 伝熱管入口温度 0Experiment 700600 ] K[e rutarepmett eltuO500 400 300200実験出口温度 解析出口温度 Simulation 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 時間[s] Time [s] Experiment 図8 伝熱管出口温度
4.結言 福島第一原子力発電所1号機のICの冷却性能を評価す るために、二相流解析コードを用いた実機体系での解析 とICを模擬した高圧可視化実験及び実験解析を実施した。 TRAC-BF1コードを用いて実機体系での解析を行った結 Beyond 果、ICの再起動が試みられた18時18 分に通常通りICが 2030”, Springer, 2016, pp. 57-105. 作動していれば冷却能力が発熱量を上回り、炉心冷却が [2] J. A. Borkowski,and N. L. Wade, _TRAC-BF1/MOD1 : 維持できるという結果となった。しかし、解析結果では An Advanced Best-Estimate Computer Program for 炉心露出時刻が17時30分となっており、これ以降のIC BWR Accident Analysis”, NUREG/CR-4356 の動作状況を正しく評価するためには、ジルコニウム・ (EGG-2626), 1992. 水反応の結果として発生する水素の影響を適切に考慮す [3] 独立行政法人原子力安全基盤機構原子力システム安 るための検討が必要であると考えられる。 全部,_福島第一原子力発電所1号機非常用復水器 高圧可視化実験によってBWRの実機相当の高圧条件 (IC)作動時の原子炉挙動解析”,2011. 下でIC を模擬した体系における除熱データを取得した。 [4] 原子力災害対策本部,_原子力安全に関するIAEA閣 また、ICによって崩壊熱相当の発熱量の熱除去が十分に 僚会議に対する日本国政府の報告書”,2011. 行えることを確認した。今後は、高圧実験によって得ら [5] 玉井秀定、秋本肇、高瀬和之、_TRAC-BF1を用いた れたデータを二相流解析コードでより精確に再現できる 福島第一原発1 号機の事故における非常用復水器の ように適用する伝熱モデル等の影響について検討を行い、 影響に関する研究”、日本原子力学会和文論文誌、Vol. 得られた知見を実機解析に反映していく必要がある。 11、No. 1、2012、pp. 8-12. [6] 小林正英、奈良林直、辻雅司、千葉豪、川本洋右、 謝辞下江知弘、_福島第一原子力発電所1号機の事故分 本研究は、研究室の卒業生である中部電力の下江知 析”、日本原子力学会和文論文誌、Vol. 14、No. 1、 2015、 弘氏とJAEA の秋本肇氏の協力の下に実施された。 pp. 12-24. ここに感謝の意を表する。 [7] 下江知弘、奈良林直、千葉豪、辻雅司、_非常用復水 参考文献 器を用いた過酷事故防止策に関する研究”、日本保全 [1] T. Narabayashi, _Energy Technology Roadmaps of Japan: 学会第10回学術講演会予稿集、E-3-3、2013. Future Energy Systems Based on Feasible Technologies 福島第一原発 1 号機における非常用復水器の冷却性能評価 に関する研究 山本 泰功,Yasunori YAMAMOTO,奈良林 直,Tadashi NARABAYASHI,倉 佑希,Yuki KURA,千葉 豪,Go CHIBA
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