伊方発電所3号機再稼働時の水質実績
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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
伊方発電所3号機は、東日本大震災による原子力発電 所の事故を踏まえた対策をとるため、平成23年4月より 5年以上の長期停止をしていたが、平成28年8月に原子 炉を起動し、9月より通常運転を再開した。 伊方発電所は加圧水型原子炉であり、原子炉から熱を 取り出す1次系と、蒸気を発生させてタービンを回す2 次系が蒸気発生器(SG)により分離される構成となって いる。化学管理部門では、この1,2次系統内を流れる系 統水の水質管理を行うことにより、系統を構成する機器 の健全性維持を図っており、プラントの起動時は、停止 中の汚れを除去するための水質管理を行っている。 1次系は耐食性のある材料で構成されており、定期的な 水質監視のもと必要に応じて、浄化設備を利用すること により水質の維持を図った。 一方、2次系は、長期停止中に機器内部で生成する鉄さ びや、機器内部への海塩粒子由来の不純物持ち込みが従 来よりも多くなることが予想され、機器への悪影響が懸 念された。そこで停止期間中の保管方法及び起動時の化 学管理手法の最適化を図っており、ここではその成果に ついて報告する。 2.長期停止における対策 2.1 停止期間中の保管方法の最適化 発さびによる腐食減量を小さくすることを目的とし、 水張り可能な主要機器は、還元性雰囲気とするために高 濃度ヒドラジンによる保管を行い、水張りのできない箇 所は不活性ガス(窒素)による置換を行う等により各機 器の腐食低減を図った。(図1) 図1 長期停止中の2次系保管状態(主要機器) 2.2 起動時の化学管理手法の最適化 2次系起動時の化学管理は、停止中に持ち込まれた不純 物や生成した鉄さびを除去するために、復水器からSGま でを水の流れに従って順次浄化を行う2次系クリーンア ップと、発電機並列以降に実施する抽気系統の浄化が基 本的な流れである。 また浄化の方法は、系統水の系外へのブロー、復水フィルターによる懸濁性鉄等の除去及び復水脱塩装置(イ オン交換樹脂)による溶解性不純物の除去である。 再稼働時の化学管理では、まず平成27年12月の2次 系機器の健全性確認運転にあわせて、約11日間の2次系 プレクリーンアップを行い、鉄さび等の除去を行った。 平成28年7月からの再稼働時2次系クリーンアップで は、温水による洗浄期間の延長や、高濃度ヒドラジンに よる給水系統の還元性雰囲気の強化を行い(図2)、発電 機並列以降の抽気系統の浄化では、発電機の負荷上昇パ ターンを緩やかとし水質浄化の時間を長くとる(図3)こ とにより、SGに及ぼす水質の影響を抑制することとした。
図2 起動時2次系クリーンアップ工程 図3 起動時負荷上昇パターン 3.再稼働時の水質実績 今回の再稼働時における2次系水質実績について、代 表的な水質項目を図4から図6に示す。 図4 2次系クリーンアップ時水質(全鉄濃度) 図5 2次系クリーンアップ時水質(カチオン電気伝導率) NaCL 給水系統を高濃度ヒドラジン処理 0.5MS,HPドレン回収 0.4LPドレン回収 0 1 2 並列からの経過日数 3 4 5 6 7 機器点検のため、この工 程を約20日間保持した。 - 163 - 0.30.20.10図6 負荷上昇時のSG器内水不純物濃度(SG-A) 図4は2次系クリーンアップ中の全鉄濃度を示してお り、全鉄濃度は低い水準にまで浄化できていることを確 認できた。 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 図5は2次系クリーンアップ中の不純物濃度の指標と 従来 低復水CL 圧CL なるカチオン電気伝導率を示しており、初期を除き低い 水準に維持できていることを確認できた。 図6は負荷上昇時におけるSG器内水の不純物濃度を示 しており、負荷上昇パターンを緩やかとし抽気系統を十 分に浄化したことで抽気ドレン回収時のSG不純物濃度 は大きく変動すること無く低い濃度で推移していること を確認できた。 4.結論 今回の伊方発電所3号機の再稼働は、これまでに経験 のない長期停止からの水質管理となったが、腐食を抑制 する保管状態にしていたこと、プレクリーンアップを実 施したこと、さらに従来の方法に加え、長期停止を考慮 したクリーンアップ方法を採用したことにより従来と同 等の水質を確保することができた。 今回得られた実績は、今後の原子力発電所の再稼働時 において、より効率的な化学管理を行うための知見とし て活用できる。 参考文献 [1] Ishihara, N., Shoda, Y., Terachi, T., Nakano, N., Nakano, Y., Sato, T., Yagi, S., Morisaki, T. and Takahashi, A., (2014). _Research of the Extended Layup on the Secondary Side in Japanese PWR Plants”, Nuclear Plant Chemistry Conference 2014 Sapporo, Japan. [2] Ishihara, N., Maeda, A., Shoda., Y., (2016). _Water Chemistry Management for Plant Start-Up after Long-Term Outage”, Nuclear Plant Chemistry Conference 2016 Brighton, United Kingdom. 脱気器CL 高圧CL 全系統 CL 脱気器 SG加熱再循 水質環ブロー 調整 温水 温水循環工程の延長 再稼働脱気器 加熱再 循環ブ ロー SG水質調整 時 復水CL 低圧高圧全系統 CL CL CL 脱気器CL 高圧CL 全系統CL 100 80 604020前回起動時負荷上昇パターン 再稼働時負荷上昇パターン 00 1 2 3 4 5 6 7 並列からの経過日数 1000COP 100 DeaST SG-A 1010 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 復水クリーンアップ開始からの経過日数 2.0 1.6 1.2 COP DeaST 0.8SG-A 0.4 0.0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 復水クリーンアップ開始からの経過日数 伊方発電所3号機再稼働時の水質実績 三好 靖宏,Yasuhiro MIYOSHI,三島 清太郎,Seitaro MISHIMA,眞田 潤,Jun SANADA,大鹿 浩功,Hironori OOSHIKA,松本 龍一,Ryuichi MATSUMOTO
伊方発電所3号機は、東日本大震災による原子力発電 所の事故を踏まえた対策をとるため、平成23年4月より 5年以上の長期停止をしていたが、平成28年8月に原子 炉を起動し、9月より通常運転を再開した。 伊方発電所は加圧水型原子炉であり、原子炉から熱を 取り出す1次系と、蒸気を発生させてタービンを回す2 次系が蒸気発生器(SG)により分離される構成となって いる。化学管理部門では、この1,2次系統内を流れる系 統水の水質管理を行うことにより、系統を構成する機器 の健全性維持を図っており、プラントの起動時は、停止 中の汚れを除去するための水質管理を行っている。 1次系は耐食性のある材料で構成されており、定期的な 水質監視のもと必要に応じて、浄化設備を利用すること により水質の維持を図った。 一方、2次系は、長期停止中に機器内部で生成する鉄さ びや、機器内部への海塩粒子由来の不純物持ち込みが従 来よりも多くなることが予想され、機器への悪影響が懸 念された。そこで停止期間中の保管方法及び起動時の化 学管理手法の最適化を図っており、ここではその成果に ついて報告する。 2.長期停止における対策 2.1 停止期間中の保管方法の最適化 発さびによる腐食減量を小さくすることを目的とし、 水張り可能な主要機器は、還元性雰囲気とするために高 濃度ヒドラジンによる保管を行い、水張りのできない箇 所は不活性ガス(窒素)による置換を行う等により各機 器の腐食低減を図った。(図1) 図1 長期停止中の2次系保管状態(主要機器) 2.2 起動時の化学管理手法の最適化 2次系起動時の化学管理は、停止中に持ち込まれた不純 物や生成した鉄さびを除去するために、復水器からSGま でを水の流れに従って順次浄化を行う2次系クリーンア ップと、発電機並列以降に実施する抽気系統の浄化が基 本的な流れである。 また浄化の方法は、系統水の系外へのブロー、復水フィルターによる懸濁性鉄等の除去及び復水脱塩装置(イ オン交換樹脂)による溶解性不純物の除去である。 再稼働時の化学管理では、まず平成27年12月の2次 系機器の健全性確認運転にあわせて、約11日間の2次系 プレクリーンアップを行い、鉄さび等の除去を行った。 平成28年7月からの再稼働時2次系クリーンアップで は、温水による洗浄期間の延長や、高濃度ヒドラジンに よる給水系統の還元性雰囲気の強化を行い(図2)、発電 機並列以降の抽気系統の浄化では、発電機の負荷上昇パ ターンを緩やかとし水質浄化の時間を長くとる(図3)こ とにより、SGに及ぼす水質の影響を抑制することとした。
図2 起動時2次系クリーンアップ工程 図3 起動時負荷上昇パターン 3.再稼働時の水質実績 今回の再稼働時における2次系水質実績について、代 表的な水質項目を図4から図6に示す。 図4 2次系クリーンアップ時水質(全鉄濃度) 図5 2次系クリーンアップ時水質(カチオン電気伝導率) NaCL 給水系統を高濃度ヒドラジン処理 0.5MS,HPドレン回収 0.4LPドレン回収 0 1 2 並列からの経過日数 3 4 5 6 7 機器点検のため、この工 程を約20日間保持した。 - 163 - 0.30.20.10図6 負荷上昇時のSG器内水不純物濃度(SG-A) 図4は2次系クリーンアップ中の全鉄濃度を示してお り、全鉄濃度は低い水準にまで浄化できていることを確 認できた。 1日 2日 3日 4日 5日 6日 7日 8日 9日 図5は2次系クリーンアップ中の不純物濃度の指標と 従来 低復水CL 圧CL なるカチオン電気伝導率を示しており、初期を除き低い 水準に維持できていることを確認できた。 図6は負荷上昇時におけるSG器内水の不純物濃度を示 しており、負荷上昇パターンを緩やかとし抽気系統を十 分に浄化したことで抽気ドレン回収時のSG不純物濃度 は大きく変動すること無く低い濃度で推移していること を確認できた。 4.結論 今回の伊方発電所3号機の再稼働は、これまでに経験 のない長期停止からの水質管理となったが、腐食を抑制 する保管状態にしていたこと、プレクリーンアップを実 施したこと、さらに従来の方法に加え、長期停止を考慮 したクリーンアップ方法を採用したことにより従来と同 等の水質を確保することができた。 今回得られた実績は、今後の原子力発電所の再稼働時 において、より効率的な化学管理を行うための知見とし て活用できる。 参考文献 [1] Ishihara, N., Shoda, Y., Terachi, T., Nakano, N., Nakano, Y., Sato, T., Yagi, S., Morisaki, T. and Takahashi, A., (2014). _Research of the Extended Layup on the Secondary Side in Japanese PWR Plants”, Nuclear Plant Chemistry Conference 2014 Sapporo, Japan. [2] Ishihara, N., Maeda, A., Shoda., Y., (2016). _Water Chemistry Management for Plant Start-Up after Long-Term Outage”, Nuclear Plant Chemistry Conference 2016 Brighton, United Kingdom. 脱気器CL 高圧CL 全系統 CL 脱気器 SG加熱再循 水質環ブロー 調整 温水 温水循環工程の延長 再稼働脱気器 加熱再 循環ブ ロー SG水質調整 時 復水CL 低圧高圧全系統 CL CL CL 脱気器CL 高圧CL 全系統CL 100 80 604020前回起動時負荷上昇パターン 再稼働時負荷上昇パターン 00 1 2 3 4 5 6 7 並列からの経過日数 1000COP 100 DeaST SG-A 1010 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 復水クリーンアップ開始からの経過日数 2.0 1.6 1.2 COP DeaST 0.8SG-A 0.4 0.0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 復水クリーンアップ開始からの経過日数 伊方発電所3号機再稼働時の水質実績 三好 靖宏,Yasuhiro MIYOSHI,三島 清太郎,Seitaro MISHIMA,眞田 潤,Jun SANADA,大鹿 浩功,Hironori OOSHIKA,松本 龍一,Ryuichi MATSUMOTO