炉内構造物等点検評価ガイドラインの整備について

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
国内外の原子力発電所で応力腐食割れ等の損傷事例 が報告されて以降,損傷の可能性を有する炉内構造物を 健全に維持・管理していくことは,原子力安全を確保し ていく上での重要課題のひとつとなった。 JANSI(原子力安全推進協会)に基盤を置く「炉内構 造物等点検評価ガイドライン検討会」では,約 18 年に わたり炉内構造物の点検・評価の考え方や補修工法等の 各種要領を「炉内構造物等点検評価ガイドライン」(以 下,「炉内ガイドライン」と略す)として提案してきた。 また,活動の成果や制定された主な炉内ガイドラインに ついて,保全学会学術講演会等の機会に紹介してきた。 最近の改訂事例として, PWR・BWR「一般点検」ガ イドライン(第3 版) 、BWR 予防保全工法ガイドライン 「水素注入による環境改善効果の評価方法」(第 2 版)、 炉内ガイドライン整備活動の全体概要版である「炉内構 造物等点検評価ガイドラインについて」(第5版)(以下, 「炉内ガイドラインについて」と略す)がある。ここで は「炉内ガイドラインについて」で見直された炉内ガイ ドラインの活用方策や課題等を中心に報告する。 2.点検の基本的考え方 炉内ガイドラインで定義される点検は,「個別点検」 と「一般点検」に大別される。「個別点検」とは,安全機 能を有する機器について,各機器の維持すべき安全機能 を整理した上で,現在の最新知見から想定される全ての 経年変化事象の発生・進展を評価し,常に機器の安全機 能が維持されるように,機器毎に点検範囲,点検方法, 点検の開始時期及び再点検時期を規定したものである。 従って,「個別点検」の実施により,各機器の安全機 能維持を確認できると考えられるが、不確かさにも留意 する必要がある。このため、「個別点検」を補完する点 検として「一般点検」を規定している。一般点検・個別 点検の対象機器・部品の選定フローを図1に示す。 図1. 一般点検・個別点検対象機器・部品の選定フロー 3.炉内ガイドラインの役割と活用方策 約3 年ぶりに改訂した「炉内ガイドラインについて」 は,全体構成を刷新したほか,福島第一原子力発電所 連絡先: 関 弘明,〒108-0014 東京都港区芝5-36-7 一般社団法人 原子力安全推進協会 技術運営部, 事故後の情勢変化を踏まえた炉内ガイドラインのあり 方について重ねた議論をもとに,現時点での考え方を E-mail: seki.hiroaki@.genanshin.jp 取り纏めている。 - 165 - 炉内構造物は接近性の制約から点検・補修が困難な部 位があるため,疲労,SCC,照射脆化,摩耗などの経年 劣化事象を想定し,構造強度や安全上の重要度等を勘案 して,技術的合理性に基づいた点検の考え方を取り纏め, 優先順位の高いものから各種の炉内ガイドラインとし て制定してきた。 福島第一原子力発電所事故を契機として,原子力安全 の基本的考え方が見直され,既存炉へのバックフィット 制度採入れ,40 年超運転の妥当性厳格評価など,規制 要求が強化される中にあって,設備の詳細設計・製造, 運転・保守に係わる部分については,その内容を熟知す る産業界が民間レベルのルール化に主体的に取り組む ことが必要とされている。 炉内ガイドラインの役割についても,従来の維持規 格策定の間接支援に加えて,原子力安全を確保するた めの総合的かつ継続的な保全活動を支援する方策とし ての位置づけが重要となっている。 炉内ガイドライン策定に際しては,構造物の経年劣 化の発生・進展予測に加えて,安全機能に係る設備健 全性を常に確保する点検時期設定,損傷が確認された 場合の健全性評価方法,補修方法及び抑制・緩和方法 などに関する技術的根拠や合理性を明示することが求 められている。 炉内ガイドラインは,新規制基準で要求される次の ような場面での保全要求に対応した民間自主ガイドラ インとして,活用することを想定している。 1. 施設定期検査 2. 定期安全管理審査(高経年技術評価を含む) 3. 保安検査 4. 運転期間延長審査 3.1 保全要求、安全機能面からの留意事項 炉内ガイドラインは炉内構造物等を対象に,保全活 動を行う事業者が自主的かつ継続的に安全確保を進め るために,基本事項及び具体的方策を示すものであり, 炉内ガイドラインの適用は,日本電気協会の「原子力 安全のためのマネジメント規程(JEAC4111)」及び「原 子力発電所の保守管理規程(JEAC4209)」に基づき実施 されることを前提としている。 炉内ガイドラインでは,引用する学協会規格の改訂 年度を記載していない。学協会規格は新知見反映等の 理由で随時改訂されるため,利用者は最新版の適用可 否を確認するとともに,原子力規制委員会による技術 図2. 炉内構造物の安全機能と関連機器・部品(BWRの例) 対象設備がこれらの機能を喪失する要因は,直接的 な内部事象のみでなく,プラントシステムを通じて影 響を受ける間接的な内部事象及び地震に代表される外 部事象がある。設備の機能喪失に至るような対象部位 の破壊や損傷リスクが,原子力安全に与える影響につ いては,深層防護の観点から説明性を高めていく必要 がある。 炉内ガイドラインでは,深層防護の第1層(異常発 生の防止)で対象部位の安全機能を確保していくこと を基本とし,これによって第2層(設計基準事故の防 止),第 3 層(設計基準事故の発生から収束)までの 対処が実施されることを前提としている。 - 166 - 評価等の状況を総合的に勘案して,適切に判断する必 要がある。 炉内ガイドラインが対象とする設備は原子炉及び炉 心(燃料を除く)を構成する炉内構造物と原子炉圧力 容器であり,原子力安全に影響を及ぼす機能を有して いる。炉内構造物の安全機能と関連する機器・部品 (BWRの例)を図2 に示す。 3.2 活用に向けた炉内ガイドライン整備 これまでに制定・改訂し公表している炉内ガイドライ ンの一覧を表1に示す。 なお,全ての炉内ガイドライン の概要(一件一葉)と原技協/JANSI で制定・改訂された 炉内ガイドラインは,本稿の出展となる 「炉内ガイドラインについて」JANSI-VIP-21 と併せて、 JANSI-HPに掲載しているので参照願いたい。 http://www.genanshin.jp/archive/coreinternals/ 今後も継続的な炉内ガイドライン改訂により,技術知 見の反映や,わかりやすい記載内容への見直しなど,事 業者と一般への説明性向上に努めることとする。 表1.炉内ガイドライン一覧表 ガイドライン CODE/ID番号 発行年月 炉心スプレイ配管・スパージャ JANTI-VIP-15 第2版 H24年3月 ジェットポンプ JANTI-VIP-14 第2版 H24年3月 差圧検出・ほう酸水注入ライン JANSI-VIP-13 第2版 H27年3月 CRD(制御棒駆動機構)ハウジング JANSI-VIP-07 第3版 H26年12月 ICM(炉内核計装)ハウジング JANSI-VIP-08 第2版 H26年12月 炉心シュラウド JANSI-VIP-06 第5版 H27年03月 シュラウドサポート JANSI-VIP-17 第4版 H27年12月 上部格子板 JANSI-VIP-11 第2版 H27年3月 炉心支持板 JANSI-VIP-12 第2版 H27年3月 一般点検 JANSI-VIP-20 第3版 H29年3月 炉心そう JANSI-VIP-10 第2版 H27年3月 バッフルフォーマボルト JANSI-VIP-05 第2版 H27年3月 バレルフォーマボルト JANSI-VIP-09 第2版 H27年3月 制御棒クラスタ案内管 JANSI-VIP-02 第3版 H25年6月 原子炉容器炉内計装筒 JANSI-VIP-01 第2版 H25年6月 クラス1容器 管台セーフエンド異材継手部 JANTI-VIP-08 第1版 H21年8月 一般点検 JANSI-VIP-19 第3版 H29年3月 ウェルドオーバーレイ工法(BWR) JANSI-VIP-14 第2版 H27年3月 容器管台スプールピース取替(PWR) JANSI-VIP-04 第2版 H25年12月 封止溶接工法(補修工法) JANTI-VIP-01 第1版 H20年1月 対策ー高周波誘導加熱応力改善工法(補修工法) JANTI-VIP-12 第1版 H24年3月 水中レーザー肉盛溶接工法(補修工法) JANTI-VIP-16 第1版 H24年11月 外面からの入熱による応力改善方法(予防保全工法) JANTI-VIP-02 第1版 H20年1月 ピーニング工法(予防保全工法) JANTI-VIP-03 第2版 H20年1月 水中レーザクラッド溶接工法(予防保全工法) JANTI-VIP-07 第1版 H21年1月 研磨による応力改善方法(予防保全工法) JANTI-VIP-10 第1版 H21年10月 保全技術の適用プロセス JANTI-VIP-11 第1版 H22年5月 水素注入による環境改善効果の評価方法(BWR予防保全) JANSI-VIP-18 第2版 H29年3月 価するとともに,国内外の基準動向や研究成果などの 新知見を反映していくことが重要であり,特に以下に 示すような適用技術及び概念を精緻化し,保守管理の 高度化に供していくことが必要である。 1 非破壊検査手法などの点検技術 2 劣化メカニズムの理解などによる劣化予測技術 3 破壊メカニズムの理解などによる損傷評価技術 4 補修・劣化緩和技術 5 リスク情報活用,状態/事後保全などの保全概念 ガイドラインの論理性,整合性,説明性向上に努め, リスク情報を活用した包括的安全性向上に改善的に取 り組むうえで,国内外での点検実績や高経年技術評価 の進展により蓄積されつつある知見を自主的安全性向 B上の観点から有効活用して,点検・評価手法の提案に WR点繋げていくこととする。 原子力発電所は人間,技術,組織の要素の相互作用 検評をもつ複雑システムであり,その安全性を確保するた 価めには,広い範囲で国内外の点検実績,知見を分析し, 継続的な安全性向上の活動を指向しなければならない。 P機器の保守管理に関してもこの考え方を踏まえて保全 WR活動を継続的に改善してくことが必要である。 点検炉内ガイドラインは,直接的に上位概念の保全活動 評価 のマネジメントに関する指針を提供するものではない が,より実効性のある点検評価に繋がるよう,システ 補修ム安全との関連を意識しつつ継続的な充実をはかるこ ととする。 ・予これまで本検討会は,安全確保を第一に技術的根拠 防保が明確で合理的な点検ルール等を炉内ガイドライン 全工法として制定,改訂することにより,点検評価,補修等 の在り方を提言するための活動を約 18 年にわたり継 続してきた。今後も原子力安全へフォーカスした保全 4.ガイドライン高度化に向けた課題 高度化,新検査制度導入やリスク情報活用等の知見反 映に継続的に取り組み,説明性の一層の向上に努める 福島第一原子力発電所事故の教訓のひとつは,発生 こととする。 頻度が低い事象であっても原子力安全への潜在的影響 炉内ガイドラインが原子力産業界で一層活用され, を熟慮し,リスク情報を意思決定に活用していくこと 原子力発電所の安全・安定運転の一助になることを期 にある。炉内構造物の機能についても,重大事故の防 待するものである。 止・抑制には炉外の安全設備や事故対応の充実により 参考文献 守られるものとの認識に立ち,安全に対する見方・考 [1] 炉内構造物等点検評価ガイドラインの整備について え方について,広い視野からプロアクティブに見てい 保全学会第11回学術講演会(H26年7 月)要旨集. く必要がある。 [2] 炉内構造物等点検評価ガイドラインについて(第 5 実施された点検,評価,予防保全処置の有効性を評 版) JANSI-VIP-21 H29年3月 原子力安全推進協会 炉内構造物等点検評価ガイドラインの整備について 関 弘明,Hiroaki SEKI,小林 広幸,Hiroyuki KOBAYASHI,中野 守人,Morihito NAKANO,村井 荘太郎,Soutarou MURAI
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