伊方発電所における安全性向上の取り組み (訓練等による重大事故等対応の実効性の強化について)

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カテゴリ: 第14回
1.はじめに
四国電力では、東京電力福島第一原子力発電所での事 故を教訓として、二度と同じような事故は起こしてはな らないとの強い決意のもと、伊方発電所の安全性向上に 取組んでいる。 安全性向上の取り組みのうち、訓練等による重大事故 等対応の実効性強化に関する取組を中心に紹介する。 2.再稼働までの実績工程 伊方発電所3号機における再稼働までの許認可関係工 程としては、平成27年7月15日に原子炉設置変更許 可、平成28年3月23日に工事計画認可、同4月19 日に原子炉施設保安規定変更認可となっている。 その後、各段階の使用前検査を経ながら平成28年8 月12日に原子炉起動、8月15日に発電再開、9月7 日に通常運転を再開した。この間、停止期間は約5年4 か月にもおよぶものとなっている。 運転再開後、現在のところまでトラブルなく順調に運 転しており、本年10月に開始予定の次回定期点検まで この状態を継続することが一番重要なことと考えている。
3.訓練等による重大事故等対応の実効性強化 3.1 重大事故等発生に備えた体制整備 保安規定認可に合わせて、重大事故に対応するための 初動体制として、図1に示すように、3号機運転員10 名、緊急時対応要員22名を休日・夜間を問わず常駐す る体制を整備した。 また、これ以外にも常駐している者として、消防要員、 1,2号機の運転員がおり重大事故時等の参集要員とし て活動できるように配置している。さらに、常時4名の 待機者を確保するとともに、その他の要員に対しては連 絡体制を構築し、異常時に参集できる体制となっている。 図1重大事故等に備えた体制整備 この体制のもとで重大事故等が発生した場合、緊急時 対応要員の中の、連絡責任者および連絡当番者が原子力 規制庁、自治体等へ通報連絡を行うとともに、緊急呼び 出しシステムを利用して、参集要員の非常招集を行いま す。災害対策本部要員が参集し、原子力防災組織が構成 されれば、災害対策本部が立ち上がり、事故終息へ向け ての活動が開始されることになる。 また、伊方発電所において重大事故等が発生すると、 発電所には発電所災害対策本部が設置され、愛媛県松山 市にある原子力本部(松山)には社長をトップとする災 害対策本部(松山)、香川県高松市の本店には副社長をト ップとする災害対策本部(高松)が立ち上がり、発電所 の支援をすることとなる。災害対策本部(高松)は、事 象に応じて、原子力事業者、緊急事態支援組織への支援 要請ならびに災害対策支援拠点の設置を行うこととなっ ている。 3.2 重大事故等対応の実効性強化のための訓練 3.2.1 教育訓練の概要 重大事故等が発生した時の活動が円滑に実施できるよ う、必要な要員に力量を付与し、維持・向上する観点か ら、重大事故等に係る教育訓練プログラムを整備し、継 続的な改善を図っているところである。 重大事故等対応教育訓練の目的は次の2点である。 - 182 - ・ 原子力発電の安全確保に関する一義的な責任を果 たすため、自らの主体性により継続的に安全性の 向上を図る。 ・ 重大事故等対応のための体制に必要な力量を持っ た要員を確保し、また、力量の維持・向上を図る。 また、教育訓練にあたっては、その心構えとして以下 のことを周知徹底している。 ・ 福島第一原子力発電所事故の教訓に学び、二度と このような事故を起こさないという強い決意を持 つ。 ・ 訓練を繰り返し行い、そこから得られた反省や気 づき事項の継続的な改善活動を行うことにより習 熟度を向上させる。 教育訓練プログラムでは、重大事故等対応に必要な要 員数や力量に関する要求事項を基に、計画、訓練の実施、 評価、改善のPDCAサイクルによって訓練プログラム を管理し、力量を持った要員を確保するとともに、力量 の維持・向上を図れるようにしている。(図2) また、教育訓練の実施段階においては、マネジメント オブザベーションを実施するとともに、社外ベンチマー キング結果と合わせて評価段階でのインプット情報とし ている。 図2 教育訓練の流れ 3.2.2 教育訓練計画の作成 教育訓練計画の作成にあたって、まずは、原子力安全 推進協会(JANSI)の「JANSI-EAG-0002 原子力発電所 緊急時対策要員向け教育・訓練ガイドライン」を参考に、 体系的教育訓練手法(Systematic Approach to Training:SAT 手法)を用いて、教育訓練プログラムを設計した。 このプログラムでは、重大事故等の対応に必要な手順 を知識・技能に分解(KSA カタログ)し、教育訓練の種 別(習熟、検証)および頻度ごとに分類整理し、技能別 に操作手順書を作成するなど、表1に示すような体系的 な教育訓練の設計とした。 この教育訓練プログラムを基に、各年度の具体的な教 育訓練の計画を作成していくこととなる。 なお、この教育訓練プログラムは、実際は平成28年 4月の保安規定認可を目指して整備したものであり、伊 方発電所3号機の再稼働までの教育訓練の実態としては、 安全対策設備の追加に合わせて取り組んでおり、保安規 定の認可要件として必要なものは、認可までに訓練を実 施し、残ったものは運転開始後に計画し、実績を積んで きたところである。 表1 教育訓練の体系 3.2.3 教育訓練の実施 表2 平成28年度教育訓練実績(抜粋) - 183 - 平成28年度の訓練の実績としては表2に示すように、 個人の役割として力量の付与・維持を確認する個別訓練 では一人当たり最大で7日間、また、運転員については、 最大で9日間を要している。 また、個人の力量管理とは別に、成立性確認訓練、技 術的能力確認訓練、事業者と愛媛県主催の各総合訓練を 合わせると、業務に占める重大事故等に対する教育訓練 の割合が大きくなっている。 図3 総合訓練(緊急時対策所),現場シーケンス訓練 3.2.4 教育訓練の評価と改善 これまでに説明した訓練の評価について実施フローの 一つとして図4に成立性確認訓練(現場シーケンス訓練) の例を示す。これは、初動対応要員の緊急時対応体制で 事故終息に必要な手順が実施できるかどうかを確認する 訓練であり、人数、時間を制限条件として出来栄えを確 認している。ここで、条件に適合しない場合は、是正処 置を検討し、対策をとることとなる。 図4 力量の評価・改善フロー(概要) 3.2.5 教育訓練での気付き事項の改善事例 平成28年7月に実施した現場シーケンス訓練におけ る熱中症対策等を例に、訓練における気付き事項の改善 事例を示す。これは、現場シーケンス訓練中に、水源確 保を担当する要員2名が熱中症を発症し訓練から離脱し たという事象に対する改善例である。 ◆ 夏場の訓練で全面マスク+汚染防護服(タイベ ックスーツ)着用状態において、中型ポンプ車等の 固縛解除に手間取った。 ? 固縛解除はベルトを切断する方式に変更し、解除 時間および労力を大幅に短縮(図5) ? 全面マスクおよび汚染防護服の着用および除外 の考え方を明確化 ? 内部被ばくの防止を最大限図りつつ、重大事 故等対応の手順を優先実行できるよう、身体 負荷の低減、行動の制約緩和(視野の確保、 動きやすさ等)および熱中症対策を考慮する。 ◆ 要員の識別のため、汚染防護服の上からビブスを着 用していたが、通気性のない材質であったため、体 から熱が逃げなかった。 ? 汚染防護服着用時は、ビブスの着用を取りやめ、 汚染防護服に名前を記入し、識別する。 ? クールベスト、クールネック等により体を冷却す 3.3 実効性強化に向けた取り組み実績について 重大事故等を想定した教育訓練の増加に対応して、伊 方発電所では効率的、効果的な教育訓練の実施という観 点で、重大事故等に関する教育訓練の管理の強化として、 これまでに以下の3点に取り組んできた。 ◆ 訓練計画課の新設による訓練体制の基盤強化 ? 新規制基準対応により変更を行った保安活動にお いて、重大事故等対応の体制整備と教育訓練を担 う安全技術課長の業務量が増大したため、教育訓 練に係る業務を新設の訓練計画課長に移管し、安 全技術課長の業務量を適正化。 ? 重大事故等に係る教育訓練の管理を強化し、災害 対策要員のさらなる力量の維持・向上を図る。 - 184 - 図5 車両の固縛状況(ラチェットバックル式ベルト荷締機) る。 これらの熱中症対策は、操作手順書や訓練マニュアル に反映し、平成28年8月に実施した検証訓練およびそ の後の個別の訓練によって実効性があることを確認した。 また、その他の気付き事項として、訓練の心構えや、 現場確認のやり方を変えるなどの改善にも取り組んでお り、この現場シーケンス訓練では、206件の気付き事 項が抽出され、現在までに行ってきた各種の教育訓練で の気付き事項と合わせて、計画的に対応を続けていると ころである。 ◆ 3号機運転当直の6直化 ? 従来の教育訓練日数と新規制基準によって追加と なった重大事故等対応教育訓練を合わせると最大 で49日の教育訓練日数が必要であるが、従来の 5直2交代制では日勤直(教育訓練および繁忙期 の運転当直の補助等を実施する直)日数が49日 であったものを、6直2交代制に変更することに よって81日まで増加させ、重大事故対応教育訓 練のみでなく、従来の教育訓練も充実させる。 ◆ 習熟度の向上に向けた取り組み強化 ? 訓練にあたっては、「訓練にあたっての心構え」を 周知するとともに、「訓練のあるべき姿」を講師お よび訓練対象者が確認することにより、緊張感を 持った訓練を行うことを徹底。 ? 訓練に対しマネジメントオブザベーション(MO) を実施し、コーチングを行うとともに、「訓練のあ るべき姿」とのギャップを分析し、改善する。 3.4 更なる実効性強化に向けて これまでの取り組みででてきた今後の課題として、更 なる実効性の強化として以下の3点について取り組んで いる。 ◆ 改善事項の積極的な対応 個別訓練や総合訓練でだされた改善事項として提 案されたものは、実効性や習熟度を向上させる効果 的な手段と考えて、積極的に対応を行う。 ◆ 習熟度に応じた効果的な訓練の実施 個別訓練は繰り返しの訓練および気付き事項の改 善により、習熟度は初期に比べると数段向上してい るものの、原子炉施設保安規定等では、習熟度に応 じたものとなっていないため、毎年同じことの繰り 返しを実施していること等を踏まえて、習熟度に応 じた内容となるよう見直しが必要。 ◆ 組織的な事故対応能力の向上 組織的な事故対応能力を向上させるためにこれま で実施してきた災害対策本部ならびに現場活動を伴 う大規模な総合訓練では計画、準備、実施、評価に 多大な時間を要するとともに対象人数も限られてい た。 このため、組織的な事故対応能力の向上には、机 上訓練(図上演習)が効果的と考え、今後の訓練を 充実していく。(図6) 図6 机上訓練(図上演習)の例 4.おわりに 当社は、今後とも、重大事故等対応訓練の更なる実効 性強化を図り、伊方3号機の安全・安定運転の継続に、 全力を尽くしてまいります 伊方発電所における安全性向上の取り組み (訓練等による重大事故等対応の実効性の強化について) 山本 義次,Yoshitsugu YAMAMOTO
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