川内原子力発電所の安全対策について
公開日:
カテゴリ: 第14回
1.はじめに
平成23年3 月の福島第一原子力発電所事故では、地震 や津波などにより安全機能が一斉に喪失し、更に、その 後の重大事故の進展を食い止めることができなかった。 事故の教訓や最新の技術的知見、海外の規制動向等を 踏まえ、新規制基準が平成25 年7 月に施行された。 新規制基準では、地震・津波といった共通の要因によ って安全機能が一斉に失われないよう地震や津波をはじ め自然現象等の想定と対策を強化や、重大事故の発生防 止にとどまらず、万一重大事故が発生してしまった場合 に、事故の拡大を防ぐ対策や影響緩和の対策などが要求 された。 川内原子力発電所では、新規制基準の内容を踏まえ、 安全性・信頼性向上のためにさまざまな対策を実施して いる。 2.川内原子力発電所の安全対策 2.1 自然現象等への対策 2.1.1 地震対策の強化 ○発電所周辺の活断層により想定される地震動 ・発電所周辺の活断層による地震を厳しく評価し、 基準地震動Ss-1を540ガルに設定 ○震源と活断層の関連付けが難しい過去の地震動 ・北海道留萌支庁南部地震を評価に反映し、新たに 基準地震動Ss-2(620ガル)を追加。 ○安全上重要な施設は、基準地震動による地震力に対 して、安全機能が保持できることを評価。 2.1.2 津波対策の強化 ○琉球海溝におけるプレート間地震による津波を考慮 し、想定される発電所の最大遡上高さを海抜約6m (満潮時)と評価。 ○発電所の主要設備の敷地高さは海抜約13mであり、 遡上波に対し、十分に余裕があることを確認。 ○津波対策に万全を期すため、安全上重要な設備であ る海水ポンプ(海抜約5m)の周囲に、防護壁(海 抜約15m)と防護堤(海抜約8m)を設置 など 2.1.3 火山対策の強化 ○桜島などの39火山を調査し、発電所運用期間中に 想定される噴火規模などから、火砕流などが発電所 図1 新規制基準の概要[1]
○姶良、阿蘇カルデラ等の5つのカルデラについて、 過去の記録等を調査し、発電所の運用期間中に破局 的噴火が発生する可能性は極めて低いと評価。 ○カルデラのモニタリングを実施する。 ・活動状況に変化がないことを定期的に確認。 ・モニタリング結果等について専門家の意見等を取 入れた取り組みを行う。 ○火山灰が降った(15cm堆積)場合でも、その荷 重や腐食等に対して、安全上重要な建屋や機器への 影響がないことを評価。 2.1.4 竜巻対策の強化 ○最大風速100m/秒での飛来物の衝突を防止する ため安全上重要な屋外設備には防護するネットを設 置。 ○可搬型設備や屋外資機材の固縛。 図2 可搬型設備の固縛状況 2.1.5 火災対策の強化 ○安全上重要なポンプ等の設置エリアに、検知方法の 異なる複数の火災感知器や、自動消火設備を増設。 ○同一エリア内にある安全上重要な設備を耐火壁等で 分離し、火災の影響を軽減。 ○森林火災等の延焼を防止するため、発電所の敷地境 界付近に防火帯を設置。 2.1.6 溢水対策の強化 ○タンクや配管が壊れて漏れ出た水や蒸気から、安全 上重要な設備を守るため、タンクや配管の補強、水 密扉※の設置などを実施。 ※:扉が扉枠に密着する水密性の高い扉 2.2 安全性・信頼性向上対策 2.2.1 炉心損傷防止 ○原子炉緊急停止失敗の場合の対策 ○原子炉補機冷却機能喪失時の対策 など 図5 放射性物質拡散抑制対策 2.2.2 格納容器破損防止 ○格納容器内雰囲気の冷却、減圧、放射性物質の低減 ○格納容器の過圧破損防止 など 2.2.3 放射性物質拡散抑制 ○格納容器破損時の放射性物質の拡散抑制 - 190 - 図3 炉心損傷防止対策 図4 格納容器破損防止対策 図6 放水砲の放水試験 2.2.4 使用済燃料ピットの冷却 ○使用済燃料ピット水の補給による冷却手段の多様化 ○使用済燃料ピット監視機能の強化 など 図7 使用済燃料ピットの冷却 2.2.5 電源・水・緊急時対策所 ○電源供給手段の多様化 ・非常用ディーゼル発電機用燃料油貯蔵タンク増設 ・大容量空冷式発電機の設置 ・発電機車の配備 など 図8 非常用ディーゼル発電機用燃料油貯蔵 タンク増設 ○冷却水源の追加 ・淡水池、海から供給できる手段追加 など 図10 冷却水供給訓練(可搬型ポンプの設置) ○ 安全確保に対して強い使命感が持てるように、「何 よりも安全を最優先とする」意識の高揚を図る原 子力安全教育、安全についての部門間のコミュニ ケーションを図る安全文化懇談会の実施。 図9 代替緊急時対策所(室内) 2.3.3 危機管理意識の高揚 ○強いリーダーシップの発揮と事象の進展を予測した 指示の重要性を認識・向上させるための発電所上層 部への教育。 - 191 - 2.3 運用管理面の充実 2.3.1 体制の整備 ○勤務時間外や休日(夜間)でも重大事故等に迅速か つ確実に対応できる体制を整備 2.3.2 訓練の実施 ○運転シミュレータを使用した緊急時の運転操作訓練、 冷却水供給訓練、電源供給訓練などさまざまな訓練 を繰り返し実施。 ○緊急時対策所の整備 ・代替緊急時対策所の設置 ・耐震構造の緊急時対策棟の設置(実施中) 3.おわりに 川内原子力発電所は、新規制基準への適合性審査を経 て再稼働し、順調に運転を継続している。 今後も、安全・安定運転に万全を期すとともに、原子 力発電所の更なる安全性・信頼性向上への取組みを継続 的に進めていく。 参考文献 [1]原子力規制委員会、_実用発電用原子炉に係る新規制基 準について -概要-”、2016年2月17日更新 川内原子力発電所の安全対策について 笠毛 誉士,Takashi KASAMO
平成23年3 月の福島第一原子力発電所事故では、地震 や津波などにより安全機能が一斉に喪失し、更に、その 後の重大事故の進展を食い止めることができなかった。 事故の教訓や最新の技術的知見、海外の規制動向等を 踏まえ、新規制基準が平成25 年7 月に施行された。 新規制基準では、地震・津波といった共通の要因によ って安全機能が一斉に失われないよう地震や津波をはじ め自然現象等の想定と対策を強化や、重大事故の発生防 止にとどまらず、万一重大事故が発生してしまった場合 に、事故の拡大を防ぐ対策や影響緩和の対策などが要求 された。 川内原子力発電所では、新規制基準の内容を踏まえ、 安全性・信頼性向上のためにさまざまな対策を実施して いる。 2.川内原子力発電所の安全対策 2.1 自然現象等への対策 2.1.1 地震対策の強化 ○発電所周辺の活断層により想定される地震動 ・発電所周辺の活断層による地震を厳しく評価し、 基準地震動Ss-1を540ガルに設定 ○震源と活断層の関連付けが難しい過去の地震動 ・北海道留萌支庁南部地震を評価に反映し、新たに 基準地震動Ss-2(620ガル)を追加。 ○安全上重要な施設は、基準地震動による地震力に対 して、安全機能が保持できることを評価。 2.1.2 津波対策の強化 ○琉球海溝におけるプレート間地震による津波を考慮 し、想定される発電所の最大遡上高さを海抜約6m (満潮時)と評価。 ○発電所の主要設備の敷地高さは海抜約13mであり、 遡上波に対し、十分に余裕があることを確認。 ○津波対策に万全を期すため、安全上重要な設備であ る海水ポンプ(海抜約5m)の周囲に、防護壁(海 抜約15m)と防護堤(海抜約8m)を設置 など 2.1.3 火山対策の強化 ○桜島などの39火山を調査し、発電所運用期間中に 想定される噴火規模などから、火砕流などが発電所 図1 新規制基準の概要[1]
○姶良、阿蘇カルデラ等の5つのカルデラについて、 過去の記録等を調査し、発電所の運用期間中に破局 的噴火が発生する可能性は極めて低いと評価。 ○カルデラのモニタリングを実施する。 ・活動状況に変化がないことを定期的に確認。 ・モニタリング結果等について専門家の意見等を取 入れた取り組みを行う。 ○火山灰が降った(15cm堆積)場合でも、その荷 重や腐食等に対して、安全上重要な建屋や機器への 影響がないことを評価。 2.1.4 竜巻対策の強化 ○最大風速100m/秒での飛来物の衝突を防止する ため安全上重要な屋外設備には防護するネットを設 置。 ○可搬型設備や屋外資機材の固縛。 図2 可搬型設備の固縛状況 2.1.5 火災対策の強化 ○安全上重要なポンプ等の設置エリアに、検知方法の 異なる複数の火災感知器や、自動消火設備を増設。 ○同一エリア内にある安全上重要な設備を耐火壁等で 分離し、火災の影響を軽減。 ○森林火災等の延焼を防止するため、発電所の敷地境 界付近に防火帯を設置。 2.1.6 溢水対策の強化 ○タンクや配管が壊れて漏れ出た水や蒸気から、安全 上重要な設備を守るため、タンクや配管の補強、水 密扉※の設置などを実施。 ※:扉が扉枠に密着する水密性の高い扉 2.2 安全性・信頼性向上対策 2.2.1 炉心損傷防止 ○原子炉緊急停止失敗の場合の対策 ○原子炉補機冷却機能喪失時の対策 など 図5 放射性物質拡散抑制対策 2.2.2 格納容器破損防止 ○格納容器内雰囲気の冷却、減圧、放射性物質の低減 ○格納容器の過圧破損防止 など 2.2.3 放射性物質拡散抑制 ○格納容器破損時の放射性物質の拡散抑制 - 190 - 図3 炉心損傷防止対策 図4 格納容器破損防止対策 図6 放水砲の放水試験 2.2.4 使用済燃料ピットの冷却 ○使用済燃料ピット水の補給による冷却手段の多様化 ○使用済燃料ピット監視機能の強化 など 図7 使用済燃料ピットの冷却 2.2.5 電源・水・緊急時対策所 ○電源供給手段の多様化 ・非常用ディーゼル発電機用燃料油貯蔵タンク増設 ・大容量空冷式発電機の設置 ・発電機車の配備 など 図8 非常用ディーゼル発電機用燃料油貯蔵 タンク増設 ○冷却水源の追加 ・淡水池、海から供給できる手段追加 など 図10 冷却水供給訓練(可搬型ポンプの設置) ○ 安全確保に対して強い使命感が持てるように、「何 よりも安全を最優先とする」意識の高揚を図る原 子力安全教育、安全についての部門間のコミュニ ケーションを図る安全文化懇談会の実施。 図9 代替緊急時対策所(室内) 2.3.3 危機管理意識の高揚 ○強いリーダーシップの発揮と事象の進展を予測した 指示の重要性を認識・向上させるための発電所上層 部への教育。 - 191 - 2.3 運用管理面の充実 2.3.1 体制の整備 ○勤務時間外や休日(夜間)でも重大事故等に迅速か つ確実に対応できる体制を整備 2.3.2 訓練の実施 ○運転シミュレータを使用した緊急時の運転操作訓練、 冷却水供給訓練、電源供給訓練などさまざまな訓練 を繰り返し実施。 ○緊急時対策所の整備 ・代替緊急時対策所の設置 ・耐震構造の緊急時対策棟の設置(実施中) 3.おわりに 川内原子力発電所は、新規制基準への適合性審査を経 て再稼働し、順調に運転を継続している。 今後も、安全・安定運転に万全を期すとともに、原子 力発電所の更なる安全性・信頼性向上への取組みを継続 的に進めていく。 参考文献 [1]原子力規制委員会、_実用発電用原子炉に係る新規制基 準について -概要-”、2016年2月17日更新 川内原子力発電所の安全対策について 笠毛 誉士,Takashi KASAMO