外的事象を考慮したリスクモニターの検討

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カテゴリ: 第14回
1.背景
リスク情報を活用した保全計画の合理化とプラントの 安全性向上のツールとして、設備の待機除外にともなう 炉心損傷リスクを瞬時に評価するリスクモニターツール の整備が国内の原子力発電プラントで進められている。 リスクモニターツールは、確率論的リスク評価(PRA) のモデルまたは評価結果を用い、プラント設備の運転・ 待機状態や保守活動による待機除外によるプラントの事 象緩和機能の信頼性の変化を評価し、プラントの状態に 応じた炉心損傷頻度または格納容器機能喪頻度の変化を 計算するツールである。リスクモニターを用いることに より、保守活動に伴うプラントリスクの変化を定量的に 把握し、安全で合理的な保守計画の立案が可能になる。 国内の原子力発電所ではリスクモニターの整備が進め られているが、それらはLOCA事象や外部電源喪失事象などの内的事象を起因とした事故によるリスクの変化に 着目したものである。一方で、地震や津波などの外的事 象を対象とした外的事象リスクに対応したいリスクモニ ターの整備は進んでいない。我が国では地震や津波事象 によるリスクがプラント全体のリスクと比較して無視で きないことから、それら外的事象もリスクモニターの評 価対象とし、安全な保全計画の立案に役立てることが望 ましい。そこで、PRAの評価技術が成熟している地震事 象と津波事象を対象に、既存のPRAを活用した外的事象 リスクモニターの整備方法を検討した。 2.外的事象リスクモニターの検討 2.1地震事象 地震PRAは、地震によるプラント設備の損傷により 誘発される起因事象と、事象進展を緩和する機能の失敗 をともなうシナリオを評価対象とする。起因事象の発生 頻度または緩和機能の非信頼性は、地震時の応答と設備 連絡先:田中 太、〒652-8585 神戸市兵庫区和 田崎町一丁目 1 番 1 号、三菱重工業株式会社、 E-mail: f_tanaka@mhi.co.jp が有する耐力にもとづき、設備の損傷確率を機器毎に評 価することで決める。緩和機能の非信頼性には地震以外 の偶発的要因による故障や人的過誤も考慮する。
リスクモニターに用いるフォールトツリーにおける 機器の運転状態または待機除外状態により地震時の 設備損傷確率が有意に変わることはないことから、地震 冗長機器の設定例を図2に示す。図中の(1)と(2)は、そ 事象を対象としたリスクモニターでは、機器の待機除外 れぞれディーゼル発電機の機器損傷が完全相関にある場 による冗長性やバックアップ機能の低下に伴うシステム 合と独立である場合を想定したフォールトツリー図の例 非信頼性の変化に着目する。 である。冗長機器の待機除外によるリスク増加量は、こ 地震による緩和機能の損傷確率を算出する際、冗長 のようにフォールトツリーを変更した条件でのリスク評 設備については、地震時の応答や設備の耐力が類似する 価結果の変化量から算出できる。 ことから地震時の損傷は機器間で何らかの相関関係があ ると考えられる。しかし、その相関係を詳細に定量化す DG DG ることが困難であることから、地震PRAでは冗長機器に 対しては完全相関(一方の設備が地震により損傷した際 は冗長設備も同様に損傷する)を仮定した評価を行うの A B A B が一般的である [1]。 DGab DGab DGa DGb 上記のような完全相関の扱いは、そのプラント状態 Model 1:DG complete dependent Model 2:DG complete independent におけるリスク(炉心損傷頻度や格納容器損傷頻度)を 評価するうえでは安全側の評価となる。その一方で、機 図2 冗長設備に対するフォールトツリー例 器の冗長性の変化伴うシステム非信頼性の感度が小さく なるため、設備の待機除外にともなうリスクの増加量を 2.2津波事象 過少評価することとなる [2]。リスクの増加量は図1に示 津波PRAは、津波によるプラント設備の損傷により すように待機除外の制限期間の評価で使用されることが 誘発される起因事象と、事象進展を緩和する機能の失敗 あるが、リスク増加量を過小評価すると、許容待機除外 をともなうシナリオを評価対象とする。起因事象または 期間が過大評価されてしまう。 緩和系の機能喪失の原因となる機器の損傷確率は、津波 による屋外設備の浸水、建屋開口部を介した建屋内への 浸水高さと機器の設置高さの関係から機器毎に評価する。 緩和機能の非信頼性には津波以外の偶発的要因による故 障や人的過誤も考慮する。 建屋内機器への津波の影響は、建屋内への浸水の原 因となる建屋開口部高さにより異なる。設備の運転状態 または待機除外状態により津波による設備損傷確率が変 わることはないが、建屋開口部の運用、すなわち浸水可 待機除外開始 能な建屋開口部がどの高さにあるかは、津波時の機器損 傷に大きく影響する。そのため、津波事象を対象とした リスクモニターでは建屋開口部の状態による機器損傷確 率の変化に着目する。なお、機器の待機除外による緩和 機能の信頼性の変化については、津波事象特有の扱いは 不要であり、内的事象のリスクモニターと同様に、待機 除外対象機器の機能に期待できない条件でPRAモデルを 定量化することでその影響を評価できる。 建屋開口部と評価対象機器の位置関係の例を図3に 示す。この例では、津波高さが15mを超えた時点で建屋 内に海水が浸入し、開口部より低い設置高さの機器が津 波の影響を受けて損傷する。10m の高さにある開口部を 開けた場合、15m 未満の津波に対しても津波による建屋 (2)機器AとBの損傷は独立 →機器Aと機器Bに対して異なる基 事象を用いる リスク増加量待機除外期間に対するしきい値 真のリスク増加量 炉心損傷リスクに着目した リスク増加量 =ΔCDF×待機除外期間 過小評価された ΔCDF:待機除外による炉 リスク増加量 心損傷頻度の増加分 許容待機除外期間 許容待機除外期間時間 図1 リスク増加量と共用待機除外時間の関係 待機除外により機器の冗長性が失われることによる リスク増加量は、地震PRAモデルにおいて冗長設備の地 震損傷の相関関係を完全相関から相関無し(すなわち独 立)の扱いに変更した場合のリスク評価値の変化量とし てその最大値を評価することができる。そのため、冗長 設備の一つを保守等により待機除外する際のリスク増加 量については、待機除外設備の地震損傷の相関関係を変 更した場合のリスクへ変化量で表現することで、リスク 増加量を安全側に評価することが可能である。 - 198 - (1)機器AとBの損傷に相関あり →機器Aと機器Bに対して同じ基事 象を用いる 内浸水が生じ、建屋内に設置された機器の機能が喪失す る可能性が生じる。 建屋内への浸水経路となりうる建屋開口部の開閉状 態に応じた機器損傷確率を事前に整備し、開口部の状態 に応じて機器損傷確率を切り替えてリスクモニターによ るリスク評価を実施することで、開口部の状態に応じた リスクの変化を定量化することができる。このように、 津波事象を対象としたリスクモニターでは、想定される 建屋開口部の高さの変化を事前に特定し、開口部高さに 応じて津波による機器損傷確率を切り替えて評価する仕 組みを実装することで、建屋開口部の状態にも対応した リスク変化の監視が可能になる。 図3 建屋開口部と建屋内の機器設置高さの例 3.まとめ 地震事象および津波事象を対象としたリスクモニター の整備に向けた検討を行った。 地震PRAでは、冗長設備の地震損傷に対して同時損傷 を想定した評価を行うことが一般的であり、冗長設備の 待機除外によるリスクへの影響を過小評価する傾向があ る。設備の待機除外によるリスク増加量の評価が重要と なる場合、リスクへ寄与が大きい設備対し地震損傷の相 関関係の扱い方を完全相関または完全独立に切り替えた 評価を行い、その差分を計算することで、待機除外によ るリスク増加量の把握が可能である。 津波事象については建屋開口部の状態により津波リス クが変わることから、建屋開口部高さに応じたリスクの 変化の監視も重要となる。建屋開口部の高さに応じて津 波による機器損傷確率の切り替えることで、リスクモニ ターによる津波リスクの変化の評価が可能である。 参考文献 [1] Electric Power Research Institute, _Seismic Probabilistic Risk Assessment Implementation Guide”, EPRI 1002989 (2003). [2] Electric Power Research Institute, _An Approach to Risk Aggregation for Risk-Informed Decision-Making”, EPRI 3002003116 (2015) 外的事象を考慮したリスクモニターの検討 田中 太,Futoshi TANAKA,高瀬 洋人,Hiroto TAKASE
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