泊発電所における安全対策について

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カテゴリ: 第14回
1.緒言
原子力発電所の安全確保の基本となる機能は、原子炉 を「止める」、燃料を「冷やす」、放射性物質を「閉じ込 める」ことである。 2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故で は、原子炉を「止める」ことに成功したが、津波による 浸水で燃料を「冷やす」ことができなくなり、最終的に 放射性物質を「閉じ込める」機能を喪失した。 泊発電所では、福島第一原子力発電所の事故を踏まえ、 地震や津波などの自然現象や発電所建屋内で発生を想定 する火災等の内部事象によって、原子力発電所の安全を 守る機能が失われることのないよう、多重・多様な安全 対策を進めている。 また、「それでも重大事故は起こりうる」「安全を守る のは人」との考えにたち、重大事故に備えた設備の設置 や実践的な訓練にも取り組んでいる。 今回、これらの安全対策について、「自然現象への対策」 と「その他の安全対策」に分けて、各々の対策概要を次 項以降に纏めた。 2.自然現象への対策 2.1 地震対策 泊発電所では、敷地周辺の地質等に関する詳細な調査 を実施したうえで、発電所周辺に存在する活断層におい て地震が起きた場合の発電所への揺れの大きさを評価し ている。 また、敷地周辺の地質等に関する詳細な調査を実施し ても、なお敷地近傍において発生する可能性のある内陸 の地震全てを事前に評価しうるとは言い切れないことか ら、日本各地において事前に活断層の存在が確認されて いなかった場所で発生した地震の観測記録をもとに発電 所における揺れの大きさを評価している。 上記の評価により追加した基準地震動による揺れに耐 えられるように、補強が必要な設備に対する耐震補強工 事等を実施している。
2.2 津波対策 泊発電所では、津波に対する安全性向上の観点から、 想定される最大規模の津波を適切に評価し、これに基づ いた各種安全対策を講じている。 具体的には、想定し得る最大規模の津波が発生した場 合においても敷地が浸水しないように、「防潮堤」や「? 水防止壁」を 設置している。 また、基準津波による引き波発生時においても、取水 口前面に設置した「貯留堰」による貯水により、原子炉 補機冷却海水ポンプによる海水の取水を継続できるよう にしている。 2.3 森林火災対策 泊発電所では、敷地周辺での森林火災が発電所構内に 燃え広がらないよう、幅40~66mにわたり樹木を伐採し、 全長約2,120mの「防火帯」を整備している。 泊発電所 ※1 T.P.:東京湾平均海面 ※2 非常用ディーゼル発電機の冷却などに必要な海水を 供給するポンプ 図5 防護帯の整備範囲 最大水位上昇量 原子炉補機冷却 海水ポンプ T.P.※1 0m 防潮堤 噴水 防止壁 貯留堰 最大水位下降量 原子炉補機冷却海水ポンプ※2 図2 津波対策概要 図3 防潮堤(鉄筋コンクリート壁部) 図4 噴水防止壁 図7 竜巻対策例(防護ネット) 発電所方向モルタル 飛来物防護設備 (例:防護ネット) - 201 - 鋼製材(135kg) の衝突を想定 図6 防護帯のモルタル吹き付け状況 2.4 竜巻対策 泊発電所では、日本でこれまでに観測されたことのない 最大風速100m/sの竜巻に対して重要な機器や配管が機能 を失うことのないよう、「飛来物防護設備」の設置工事を 行っている。 原子炉補機冷却 海水ポンプ コンクリート構造物 2.5 火山対策 泊発電所から半径160km以内の検討対象火山について、 泊発電所の運用期間中に大規模噴火は想定されないこと から、火山灰などの降下火災物が泊発電所に到達する可 能性は小さいと評価している。 しかし、より一層の安全性向上の観点から40cmの降下 火砕物を想定し、降下火砕物の建物・設備への荷重影響、 腐食などの化学的影響、配管閉塞などの影響に対する評 価を行い、泊発電所の安全性に影響しないことを確認し ている。 また、泊発電所に近い火山郡については、公的機関か ら地殻変動のデータなどを収集・分析し、火山活動状況 に変化がないことを定期的に確認している。 2.6 豪雨対策 泊発電所では、敷地面に降った雨を海へ排水する機能 の強化を目的に、耐震性を有する構内排水設備を新設し ています。 また、更なる排水能力の強化を目的に、地震時でも排 水機能を期待できる柔軟性のあるポリエチレン管を用い た設備対策を計画している。 泊発電所 図8 構内排水設備のイメージ図 図9 東日本大震災時のポリエチレン管 (泊発電所では今後敷設予定) 図12 可搬型代替電源車(図10の2) - 202 - 3.その他の安全対策 3.1 電源確保対策 泊発電所では、福島第一原子力発電所事故以前におい ても、外部電源(送電線)ルートの多重化、非常用ディ ーゼル発電機の複数台設置などの電源確保対策を実施し ていた。 しかし、一層の信頼性向上の観点から、バックアップ 電源の追設、蓄電池の増設、外部電源ルートのさらなる 多重化を実施している。 275kV 泊幹線 安全対策後 3号機 1代替非常用発電機 の設置 非常用ディーゼル 発電機 2可搬型代替電源車 非常用ディーゼル の配備 発電機 蓄電池 4外部電源(送電線) ルートのさらなる 蓄電池 多重化 3蓄電池増設 2号機 1号機 ※1・2号機に関しても同様の対策(123)を実施 図10 電源確保対策の概要 図11 代替非常用発電機(図10の1) 275kV 後志幹線 66kV 泊支線 3.2 炉心等冷却対策(格納容器スプレイ) 泊発電所では、従来から事故時に格納容器上部か ら水をスプレイして格納容器内の冷却・減圧を行う 格納容器スプレイポンプなどを設置している。 しかし、一層の信頼性向上の観点から、既設の格 納容器スプレイポンプが機能を失った場合に備え、 代替格納容器スプレイポンプを新たに設置している。 このポンプは、原子炉に水を直接送り込むこともで きる。 さらに、各種ポンプが使用不能となった場合に備 え、移動可能な可搬型大型送水ポンプ車を配備する とともに、代替屋外給水タンク等を新たに設置し、 多様な水源の確保にも努めている。 海水 余熱除去ポンプ 原子炉格納容器 3代替屋外給水タンク 2箇所/号機 の接続口 燃料取替用水 ピット・タンク 4噴水防止壁貫通部 1代替格納容器スプレイポンプ 既設の配管・水の流れ 新たに整備した配管・水の流れ 図14 代替格納容器スプレイポンプ(図13の1) 図15 可搬型大型送水ポンプ車(図13の2) 図13 格納容器スプレイに用いる設備概要 2可搬型大型送水ポンプ車 格納容器スプレイポンプ タンク 加圧器 蒸気発生器 原子炉容器 1次冷却材ポンプ 格納容器スプレイ ハロンガス噴射ノズル 図17 内部火災対策の概要 - 203 - 3.3 炉心等冷却対策(蒸気発生器への給水) 加圧水型である泊発電所では、従来から、蒸気発 生器を介した冷却対策として、「電動補助給水ポン プ」のほか、万一外部からの電力供給が途絶え、非 常用ディーゼル発電機や海水ポンプが機能を失った 場合でも、蒸気発生器で発生する蒸気の力で駆動し、 炉心の熱を冷却することができる「タービン動補助 給水ポンプ」を備えている。 さらに、電動補助給水ポンプやタービン動補助給 水ポンプが使用不能となった場合に備え、新たに「S G直接給水用高圧ポンプ」を設置している。 原子炉格納容器 SG直接給水用 高圧ポンプ 既設の配管・水の流れ 新たに整備した配管・水の流れ 3代替屋外 給水タンク 4噴水防止壁 貫通部 海水 図16 蒸気発生器への給水に用いる設備概要 3.4 内部火災対策 泊発電所では、安全上重要なポンプ等の設置エリ アに、感知方法の異なる複数の火災感知器や、自動 消火設備を増設している。 また、同一区画内にある安全上重要な設備を耐火 壁等で分離し、火災の影響を軽減する対策を施して いる。 中央制御室火災感知 設備(受信機) ハロンガスボンベ 自動消火装置制御盤 消火装置起動 加圧器 蒸気発生器 原子炉容器 1次冷却材ポンプ 煙感知器 熱感知器 タービンへ 復水器から 駆動蒸気 タービン動補助給水ポンプ 電動補助給水ポンプ 補助給水 ピット・タンク 火災感知 2可搬型大型 送水ポンプ車 耐火壁等(壁、扉)で分離 3.5 ?水対策 泊発電所では、基準地震動による地震力によって 損傷する可能性がある機器や配管からの漏えい、消 火活動による消火栓からの放水、単一の配管破損に 伴う漏えい等を?水として想定している。 機器や配管の破損箇所は防護すべき重要な設備へ の?水影響が最も大きくなる位置とし、 隔離範囲内 の内部流体(液体/蒸気)が全量流出することを想 定している。 上記の?水によって、防護すべき重要な機器が必 要な機能を失うことがないよう対策を実施している。 監視盤 漏えい検知用 温度検出器 M ? 制御盤 ? ? ??????RTD?????????e?????????? ?????????????????????? 図19 蒸気からの防護対策例(隔離システム) 3.6 原子炉格納容器水素対策 福島第一原子力発電所では、炉心(燃料)損傷によ って発生した水素が原子炉建屋内に漏れ出し、水素 爆発が発生したため、泊発電所では水素爆発を防ぐ ための設備を原子炉格納容器内に設置している。 図20 静的触媒式水素再結合装置(左) とイグナイタ(右) 図18 浸水防護対策例(水密扉) ......... 表示灯 (扉開で点灯) - 204 - 3.7 放射性物質の拡散抑制対策 ここまで記載したように、泊発電所では重大事故 の発生・進展を防止し、原子炉格納容器の健全性を 確保する対策を講じているが、それでもなお、格納 容器が破損した場合の放射性物質の拡散抑制のため、 以下の対策を講じている。 1放水砲 原子炉格納容器が破損した場合に、格納容器の破 損箇所に高圧の水を直接噴射し、放射性物質の大気 中への拡散を抑制するための「放水砲」を配備して いる。 図21 放水砲による放水(訓練時) 2吸着剤 放水砲を使用して落下させた放射性物質は、放射 性物質を除去する吸着剤(プルシアンブルー)を設 置した排水設備から排水される。 ??? ??? 図22 吸着剤(構内排水設備内に設置) 3シルトフェンス 前面海域への放射性物質の拡散を抑制するために 「シルトフェンス」(海中カーテン)を配備している。 原子炉建屋 原子炉 格納容器 1放水砲 可搬型大容量 海水送水ポンプ車 3シルト フェンス 2吸着剤 図23 放射性物質の拡散抑制対策概要 3.8 緊急時対策所 泊発電所では、重大事故が起こっても円滑に対処 できるよう、 全号機共用の「緊急時対策所」を高台 に設置し、訓練等での使用を開始している。 図25 緊急時対策所(内観) 3.9 シビアアクシデント対応チーム 泊発電所では、重大事故等発生時の対応を専門的 に行う「シビアアクシデント対応チーム(SAT)」 を創設した。 SATは1チーム7名で構成されており、そのう ち2名は危機管理能力が高く、強靭な体力が見込め る自衛隊出身者を雇用している。 また、24時間365日体制で重大事故等の発生 に備える必要があるため、4チームによる当直体制 とすることを計画している。 平常時、SATでは重大事故等発生時に必要な対 応を確実に行えるよう、安全対策設備の点検や操作 訓練を実施している。 空調建屋 (放射性物質を含む外気を室内へ侵入させないための設備を設置) 待機所 指揮所 (事故対応を行う際の対策本部) 図24 緊急時対策所(外観) 図27 ケーブルコネクタ接続訓練 泊発電所ではこれまでさまざまな安全対策を進め ているが、安全性向上の追求に終わりはない。 当社は、福島第一原子力発電所のような事故を二 度と起こさないという決意のもと、新規制基準への 適合に満足することなく、これからもリスク低減対 策を継続的に検討・実施し、泊発電所の安全性をよ り一層高めていく取り組みを積み重ねていく。 (SAT) (可搬型代替電源車) 4.終わりに - 205 - 図26 シビアアクシデント対応チーム 泊発電所における安全対策について 笹田 直伸,Tadanobu SASADA,伊藤 健太郎,Kentaro ITO
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